特許第5783890号(P5783890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5783890
(24)【登録日】2015年7月31日
(45)【発行日】2015年9月24日
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20150907BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20150907BHJP
【FI】
   H01L21/302 101H
   H01L43/12
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-267454(P2011-267454)
(22)【出願日】2011年12月7日
(65)【公開番号】特開2013-120810(P2013-120810A)
(43)【公開日】2013年6月17日
【審査請求日】2014年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高廣
(72)【発明者】
【氏名】島田 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤
(72)【発明者】
【氏名】山田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 大介
【審査官】 溝本 安展
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−243362(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/084909(WO,A1)
【文献】 特開2013−051227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性膜をプラズマエッチングするプラズマ処理方法において、
塩素を含有するガス以外のガスである第一のガスを用いて前記磁性膜をプラズマ処理室でプラズマエッチングし、
前記プラズマエッチングされた磁性膜が配置された被処理基板を前記プラズマ処理室から搬出した後、前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングし、
前記プラズマクリーニングは、塩素を含有する第二のガスを用いてプラズマクリーニングする第一のプラズマクリーニングと、前記第一のプラズマクリーニング後、水素を含有するガスを用いてプラズマクリーニングする第二のプラズマクリーニングとを有することを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ処理方法において、
前記プラズマクリーニングは、前記第一のプラズマクリーニング前、酸素ガスを用いてプラズマクリーニングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理方法において、
前記第二のガスは、塩素ガス、三塩素ホウ素ガスまたは塩素ガスと三塩化ホウ素ガスの混合ガスであることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法において、
前記水素を含有するガスは、メタノールガスであることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法において、
前記磁性膜は、少なくとも、鉄元素、コバルト元素、ニッケル元素の一つを含有する膜であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法において、
前記プラズマ処理室は、ファラデーシールドを具備する誘導結合型プラズマ処理装置に備えられ、
前記第二のプラズマクリーニングは、前記第一のプラズマクリーニングにおける前記ファラデーシールドに印加された電圧より低い電圧を前記ファラデーシールドに印加しながらプラズマクリーニングすることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項7】
塩素を含有するガス以外のガスである第一のガスを用いて磁性膜をプラズマ処理室でプラズマエッチングする第一の工程と、
前記プラズマエッチングされた磁性膜が配置された被処理基板を前記プラズマ処理室から搬出する第二の工程と、
塩素を含有する第二のガスを用いて前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングする第三の工程と、
水素を含有するガスを用いて前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングする第四の工程とを有し、
前記第一の工程から前記第四の工程までの各工程を順次行ことを特徴とするプラズマ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置を用いたプラズマ処理方法に係り、特に磁性膜をプラズマエッチングするプラズマ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の情報量の増加に伴い、電子機器は低消費電力であり、メモリは高速動作であるとともに不揮発であることが望まれている。現在使われているメモリとしては電荷の蓄積を利用したDRAM(Dynamic Random Access Memory)とフラッシュメモリ等が挙げられる。DRAMはコンピューターのメインメモリとして使用されているが、電源を切ると記憶を失う揮発性メモリである。また、動作中もデータを保持するため一定時間置きに再書き込みが必要であり消費電力が大きい。一方、フラッシュメモリは不揮発性メモリであるが、情報の書き込み時間がμ秒オーダと遅い。これらの欠点なく、低消費電力かつ高速に動作する不揮発性メモリとしてMRAM(Magnetic Random Access Memory)の適応が期待されている。
【0003】
MRAMは磁化の向きによる抵抗値の変化を利用したメモリであり、その製造においてはリソグラフィーにより生成したマスクを用い、基板上に形成されたFe、Co、Ni等の元素を含む磁性膜をドライエッチングにより微細加工する技術が必要である。
【0004】
磁性膜のドライエッチングの方法としては、イオンビームエッチングを用いる方法とプラズマエッチングを用いる方法があるが、特にプラズマエッチングは半導体素子の製造で広く用いられており、大口径基板を均一にプラズマエッチングできることから量産性に優れている。
【0005】
プラズマエッチングを用いた磁性膜のエッチング法としては、Cl2ガスをプラズマ化したCl2プラズマによる磁性膜の塩化物の生成を利用する方法と、COガスとNH3ガスの混合ガスやCH3OHガスといったCOを含有するガスをプラズマ化したCO含有プラズマによる磁性膜の金属カルボニルの生成を利用する方法がある。
【0006】
一方、プラズマクリーニング方法は、特許文献1には、アルミニウム(Al)と窒化チタン(TiN)の積層膜をエッチング処理した後に、三塩化ホウ素(BCl3)ガスと塩素(Cl2)ガスとの混合ガスまたは三塩化ホウ素(BCl3)ガスと塩化水素(HCl)ガスの混合ガスをクリーニングガスとして用いることにより、チャンバー内の堆積物を減少させ、異物の発生を防止するクリーニング方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、フッ化ジケントンガスを用いて、プラズマ処理室内面に付着した鉄(Fe)、銅(Cu)等の金属をプラズマクリーニングにより除去し、その後、酸素(O2)系プラズマクリーニングによりプラズマ処理室内面に付着した有機物を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−12515号公報
【特許文献2】特開2002−359234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されたプラズマクリーニング方法では、クリーニング処理後にエッチング処理室内に塩素が残留するため、引き続き磁性膜をエッチングすると、エッチング処理室内に残留した塩素成分が被エッチング材料である磁性膜に打ち込まれ、磁気特性を劣化させてしまう問題が生じる。また、エッチング処理室内に残留していた塩素が磁性膜を有するウエハに滞留した状態で、エッチング処理後に大気に晒すと、磁性膜を有するウエハ表面では磁性膜を有するウエハに滞留した塩素と大気中の水分が反応して塩酸が生成され、磁性膜を有するウエハ表面が腐食してしまう問題が生じる。
【0010】
また、特許文献2に開示されたプラズマクリーニング方法では、クリーニングガスにフッ素(F)を含んでいるため、エッチング処理室内壁の母材であるアルミニウム(Al)または、エッチング処理室内壁の保護膜であるアルミアルマイトとフッ素(F)が反応して揮発性が低いフッ化アルミニウムが生成され、これらがエッチング処理室内に堆積し、このフッ化アルミニウムの堆積による異物が発生する問題が生じる。
【0011】
このため、本発明は、磁性膜をプラズマエッチングし、磁性膜を有するウエハの腐食を抑制するとともに磁性膜がプラズマエッチングされたエッチング処理室内の堆積物を効率的に除去できるプラズマクリーニングを行うプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、磁性膜プラズマエッチングするプラズマ処理方法において、塩素を含有するガス以外のガスである第一のガスを用いて前記磁性膜をプラズマ処理室でプラズマエッチングし、前記プラズマエッチングされた磁性膜が配置された被処理基板を前記プラズマ処理室から搬出した後、前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングし、前記プラズマクリーニングは、塩素を含有する第二のガスを用いてプラズマクリーニングする第一のプラズマクリーニングと、前記第一のプラズマクリーニング後、水素を含有するガスを用いてプラズマクリーニングする第二のプラズマクリーニングとをすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、ファラデーシールドを具備する誘導結合型プラズマエッチング装置を用いて磁性膜を有する被処理基板をエッチング処理室でプラズマエッチングするプラズマ処理方法において、塩素を含有する第一のガス以外のガスを用いて前記磁性膜をプラズマエッチングし、前記磁性膜がプラズマエッチングされた被処理基板を前記エッチング処理室から搬出した後、前記エッチング処理室をプラズマクリーニングし、前記プラズマクリーニングは、塩素を含有する第二のガスを用いてプラズマクリーニングする第一のプラズマクリーニングと、前記第一のプラズマクリーニング後に水素を含有するガスを用いてプラズマクリーニングする第二のプラズマクリーニングとを具備し、前記第二のプラズマクリーニングは、前記第一のプラズマクリーニング時に前記ファラデーシールドに印加した電圧より低い電圧を前記ファラデーシールドに印加しながらプラズマクリーニングすることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、塩素を含有するガス以外のガスである第一のガスを用いて磁性膜をプラズマ処理室でプラズマエッチングする第一の工程と、前記プラズマエッチングされた磁性膜が配置された被処理基板を前記プラズマ処理室から搬出する第二の工程と、塩素を含有する第二のガスを用いて前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングする第三の工程と、水素を含有するガスを用いて前記プラズマ処理室をプラズマクリーニングする第四の工程とを有し、前記第一の工程から前記第四の工程までの各工程を順次行ことを特徴とするプラズマ処理方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記の構成により、磁性膜をプラズマエッチングすることができ、磁性膜を有するウエハの腐食を抑制するとともに磁性膜がプラズマエッチングされたエッチング処理室内の堆積物を効率的に除去できるプラズマクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るプラズマエッチング装置を示す断面図である。
図2】本発明に使用したウエハ12の膜の構造を示す図である。
図3】本発明に係るプラズマ処理フロー図である。
図4】磁性膜のプラズマエッチング中のエッチング処理室内の状態を示す図である。
図5】第一のプラズマクリーニング中のエッチング処理室内の状態を示す図である。
図6】第二のプラズマクリーニング中のエッチング処理室内の状態を示す図である。
図7】本発明に係るプラズマ処理フロー図である。
図8】第三のプラズマクリーニング中のエッチング処理室内の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、プラズマエッチング装置を用いて磁性膜を塩素を含有するガス以外を用いてプラズマエッチングし、磁性膜のプラズマエッチングが完了したウエハをエッチング処理室から搬出した後、上記エッチング処理室内をプラズマクリーニングするプラズマ処理方法であり、本発明を構成するプラズマクリーニングは、塩素ガスを用いたプラズマにより磁性膜を含んだ堆積物を除去する工程と、水素を含有するガスを用いたプラズマにより上記エッチング処理室に残留している塩素を除去する工程とを有する。
【0018】
以下に、本発明の各実施形態について説明する。
【0019】
[実施例1]
最初に、本発明を適用するプラズマエッチング装置について図1を用いて説明する。
エッチング処理室は、プラズマ生成部を形成する石英(SiO2)もしくはセラミック(Al23)の非導電性材料からなる放電部2と、被処理基板であるウエハ12が載置され、高周波バイアス電力が供給される電極6が配置されたプラズマ処理部3とから構成される。また、プラズマ処理部3は、接地されており、電極6は、絶縁材を介してプラズマ処理部3に配置されている。放電部2の外側には、第一の誘導アンテナ1aと第二の誘導アンテナ1bとからなる誘導アンテナ1と、誘導アンテナ1と放電部2との間に配置され、容量結合アンテナであるファラデーシールド9と、整合器4を介してプラズマを生成するための高周波電力を誘導アンテナ1に供給する第一の高周波電源10とが設けられている。
【0020】
本プラズマエッチング装置は、ファラデーシールド9に整合器4を介して第一の高周波電源10より高周波電圧を印加することによって、放電部2への反応生成物の付着抑制ならびに除去が可能である。
【0021】
エッチング処理室内部には、ガス供給装置5から処理ガスが供給される一方で、排気装置8によって所定の圧力に減圧排気される。
【0022】
ガス供給装置5によりエッチング処理室内部に処理ガスを供給し、該処理ガスを誘導アンテナ1により発生した誘導磁場の作用によりエッチング処理室内にプラズマ7を生成する。また、プラズマ7中のイオンをウエハ12に引き込むため、電極6に第二の高周波電源11により高周波バイアス電圧を印加する。
【0023】
次に、本発明に使用したウエハ12の膜の構造を図2に示す。シリコン基板13上にニッケル鉄(NiFe)である磁性膜14が成膜されている。また、磁性膜14の上にマスクとしてタンタル(Ta)膜15がパターン形成されている。
【0024】
なお、磁性膜として本実施例では、ニッケル鉄(NiFe)を用いたが、これに限定されるものではなく、鉄(Fe)、コバルト鉄(CoFe)、ニッケル鉄コバルト(NiFeCo)等でも良い。すなわち、少なくとも、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)の1つを含有する材料であれば良い。
【0025】
また、本実施例では、マスクとして、タンタル(Ta)を用いたが、本発明はタンタル(Ta)に限定されず、タンタル(Ta)以外のハードマスク、レジストマスクまたは、レジストマスクとハードマスクが積層されたマスクでも良い。
【0026】
次に、本発明のプラズマ処理方法を図3に示すプラズマ処理フローを用いて説明する。
最初に、図2に示すようなウエハ12を搬送装置(図示せず)によりエッチング処理室内の電極6に載置する(S1)。
【0027】
次に、ウエハ12の磁性膜14をタンタル(Ta)膜15をマスクとして、表1のようにCOガスのガス流量を60ml/min、処理圧力を0.3Pa、プラズマ生成用高周波電力を1200W、電極6に供給する高周波バイアス電力を500W、ファラデーシールド9に印加する高周波電圧(以下FSVと称する)を100Vとするプラズマエッチング条件にてプラズマエッチングを行う(S2)。ここで、本実施例では、磁性膜14のエッチング用のガスをCOガスとしたが、COガスとNH3ガスとの混合ガス、CO2ガス、CH3OHガス、C25OHガス、C37OHガス、CH3COCH3ガスでも良い。つまり、本発明としては、塩素を含有するガス以外のガスであれば良い。
【0028】
【表1】
【0029】
次に、磁性膜14のプラズマエッチングが完了したウエハ12を搬送装置(図示せず)によりエッチング処理室から搬出し、ダミーウエハをエッチング処理室内の電極6に載置する(S3)。但し、本発明では、磁性膜14のプラズマエッチングが完了したウエハ12をエッチング処理室から搬出することは必須であるが、ダミーウエハをエッチング処理室内に搬入することは、必ずしも必須というわけではない。
【0030】
次に、表2のようにCl2ガスのガス流量を100ml/min、処理圧力を1.0Pa、プラズマ生成用高周波電力を1800W、電極6に供給する高周波バイアス電力を100W、FSVを600Vとする第一のプラズマクリーニング条件にてエッチング処理室内に堆積したニッケル、鉄を含む堆積物をプラズマクリーニングする(S4)。
【0031】
【表2】
【0032】
第一のプラズマクリーニングにより、エッチング処理室内に堆積したニッケル、鉄、タンタルを含む堆積物を除去できる理由は以下の通りである。
【0033】
磁性膜14のプラズマエッチング中は、被エッチング材料である磁性膜14のニッケル(Ni)、鉄(Fe)がCOガスの励起活性種と反応することにより、蒸気圧の高い金属カルボニルのNi(CO)xやFe(CO)xが生成される。また、高いイオン入射エネルギーによってニッケル(Ni)、鉄(Fe)とマスク材料のタンタル(Ta)も単体で弾き飛ばされる。このため、図4に示すようにセラミック(Al23)製の放電部2の内壁及び、その周辺には、ニッケル、鉄、タンタルを含む堆積物が付着する。
【0034】
この付着した堆積物が多くなると、エッチング処理室の内壁から剥がれ落ちて異物となる。また、放電部2の内壁に堆積物が多く付着するとプラズマ状態に変化をもたらし、エッチング速度や均一性、エッチング形状等のエッチング性能に経時的な変化を引き起こしてしまう。そのため、安定したエッチング性能を得るためには、この堆積物を除去する必要がある。
【0035】
この堆積物を除去するために、塩素ガスを用いたプラズマにより、エッチング処理室内をプラズマクリーニングすると、図5に示すようにエッチング処理室の内壁に付着したニッケル(Ni)、鉄(Fe)、タンタル(Ta)を含む堆積物は、塩素(Cl2)ラジカルと反応して塩化物となり、除去される。
【0036】
また、上記の堆積物は、被エッチング材料である磁性膜14から構成されているため、第一のプラズマクリーニングとしては、磁性膜14のプラズマエッチングに使用した一酸化炭素(CO)ガスによるプラズマを用いてもエッチング処理室内の堆積物除去は可能である。
【0037】
しかし、塩素含有ガス以外のガスによる磁性材料のプラズマエッチングの速度は非常に遅いため、短時間での効率的な反応生成物の除去は困難である。例えば、塩素ガスと一酸化炭素ガスでの磁性膜のプラズマエッチング速度を比較すると、表3に示すように一酸化炭素ガスは塩素ガスに比べて磁性膜のプラズマエッチング速度がかなり遅い。この特性は、以下の理由による。鉄またはニッケルの塩化物(FeClx、NiClx)の蒸気圧は非常に高く揮発し易い。一方、金属カルボニルの蒸気圧は高く揮発し易いが、炭素系のエッチング阻害物が同時に生成されるため、磁性膜のエッチング速度が遅くなる。
【0038】
このような理由から、本発明の第一のプラズマクリーニングとして、塩素ガスを用いたプラズマを用いることとした。
【0039】
また、本実施例での第一のプラズマクリーニング用のガスとして、塩素(Cl2)ガスを用いたが、三塩化ホウ素(BCl3)ガス、塩素(Cl2)ガスと三塩化ホウ素(BCl3)ガスとの混合ガスでも本実施例と同様な効果を得ることができる。つまり、第一のプラズマクリーニング用のガスとしては、塩素を含有するガスを用いれば良い。
【0040】
【表3】
【0041】
次に、第一のプラズマクリーニングが完了した後、次のウエハ12の磁性膜14を第一のプラズマクリーング後のエッチング処理室でプラズマエッチングすると、例えば放電部2の材料に含まれるアルミニウム(Al)と第一のプラズマクリーニング後にエッチング処理室内に残留した塩素が反応して生成されたアルミニウムの塩化物(AlxClx)または、エッチング処理室内に残留した微量の塩素がエッチング処理室の内壁に付着しているため、塩素成分が被エッチング材料である磁性膜に打ち込まれ、ウエハ12から製造される半導体素子の磁気特性を劣化させてしまう。また、磁性膜14のプラズマエッチングが完了したウエハ12上に上記の塩素成分が残留した状態で大気に晒すと、上記ウエハ12表面に大気中の水分と残留塩素成分が反応して塩酸が生成されて上記ウエハ12が腐食してしまう。
【0042】
このため、本発明では、第一のプラズマクリーニング完了後に、第一のプラズマクリーニングによるエッチング処理室内に残留した塩素を除去するために、表4のようにCH3OHガスのガス流量を100ml/min、処理圧力を1.0Pa、プラズマ生成用高周波電力を1800W、電極6に供給する高周波バイアス電力を100W、FSVを100Vとする第二のプラズマクリーニング条件にてエッチング処理室内をプラズマクリーニングする(S5)。
【0043】
【表4】
【0044】
第二のプラズマクリーニングを第一のプラズマクリーニングが実施されたエッチング処理室に実施すると、図6に示すようにメタノール(CH3OH)ガスプラズマから発生した水素成分と第一のプラズマクリーニングが実施されたエッチング処理室の内部に残留する塩素とを反応させて揮発し易い塩化水素(HCl)を生成させることにより第一のプラズマクリーニングが実施されたエッチング処理室の内部に残留した塩素成分を除去することができる。
【0045】
また、第二のプラズマクリーニングでのFSVは、第一のプラズマクリーニング時のFSVより低いため、放電部2の内壁だけでなく、より広範囲にプラズマを形成することができる。このため、エッチング処理室内全域に残留した塩素成分の除去が可能となる。
【0046】
また、本実施例では、第二のプラズマクリーニング用のガスとして、メタノール(CH3OH)を使用したが、水素(H2)、メタン(CH4)、エタン(C26)、プロパン(C38)、ブタン(C410)、エタノール(C25OH)、プロパノール(C37OH)、アセトン(CH3COCH3)、アンモニア(NH3)、水(H2O)でも同様な効果を得ることができる。言い換えると、第二のプラズマクリーニング用ガスとしては、水素を含有するガスを用いれば良い。
【0047】
次に、第二のプラズマクリーニング後は、電極6に載置されたダミーウエハを搬送装置(図示せず)によりエッチング処理室から搬出し、次のウエハ12を搬送装置(図示せず)によりエッチング処理室内の電極6に載置する(S6)。
【0048】
次に、電極6に載置されたウエハ12の磁性膜を表1に示す条件にてプラズマエッチングする(S2)。
【0049】
以後、所定枚数のウエハ12の磁性膜14のプラズマエッチングが完了するまで、上述したフローを繰り返す。
【0050】
以上、上述した本実施例により、塩素を含有するガス以外のガスを用いた磁性膜のプラズマエッチングにおいて、磁性膜のプラズマエッチングが行われたウエハから製造される半導体素子の磁気特性を劣化させることなく、磁性膜のプラズマエッチングにより発生した反応生成物に起因したエッチング処理室内壁の堆積物を効率的に除去できるとともに磁性膜のプラズマエッチングが完了したウエハの腐食を防止できる。また、異物の発生を抑制し、プラズマエッチング性能の経時変化を抑制できる。
【0051】
[実施例2]
実施例1で説明した本発明のプラズマ処理方法では、磁性膜のプラズマエッチング中に炭素系の堆積物が多く発生すると、S4ステップの第一のプラズマクリーニングの負担が大きくなり、第一のプラズマクリーニングの処理時間が増加してしまう。これは、第一のプラズマクリーニング用のガスとして、塩素を含有するガスを用いているため、炭素系の堆積物の除去速度はあまり速くない。
【0052】
このため、本実施例では、実施例1と同様の効果を得ることができ、さらに磁性膜のプラズマエッチング後のエッチング処理室内に堆積した炭素系の堆積物が多い場合でも、第一のプラズマクリーニングの処理時間を増加させることなく、炭素系の堆積物を効率的に
除去できるプラズマ処理方法について説明する。
【0053】
本実施例の本発明は、図7に示す通り、S3のステップ後に行われる第三のプラズマクリーニングをエッチング処理室に行う(S7)だけ実施例1とは異なる。また、図7に示すS1からS6の各ステップは、実施例1でのS1からS6の各ステップと同様の処理を行うため、本実施例ではS1からS6の各ステップの説明を省略する。また、本実施例のプラズマ処理において用いるプラズマエッチング装置とウエハ12は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
【0054】
本発明のプラズマ処理方法は、S1からS3までの各ステップを実施した後、磁性膜14のプラズマエッチングの際にエッチング処理室に堆積した炭素系の堆積物を除去するために、表5のようにO2ガスのガス流量を100ml/min、処理圧力を1.0Pa、プラズマ生成用高周波電力を1800W、電極6に供給する高周波バイアス電力を100W、FSVを600Vとする第三のプラズマクリーニング条件にてエッチング処理室内をプラズマクリーニングする(S7)。
【0055】
【表5】
【0056】
エッチング処理室に第三のプラズマクリーニングを実施すると、図8に示すように、酸素(O2)ガスプラズマから発生した酸素ラジカルが炭素系の堆積物と反応し、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)などの揮発しやすい化合物を生成させることによって、炭素系の堆積物を除去することができる。
【0057】
次に、第三のプラズマクリーニングを実施した後は、S4からS6の各ステップを行う。そして、所定枚数のウエハ12の磁性膜14のプラズマエッチングが完了するまで、S2、S3、S7、S4、S5、S6の順番で各ステップを繰り返す。
【0058】
以上、上述した本実施例により、実施例1と同様の効果を得ることができるだけでなく、さらに磁性膜のプラズマエッチング後のエッチング処理室内に堆積した炭素系の堆積物が多い場合でも、第一のプラズマクリーニングの処理時間を増加させることなく、炭素系の堆積物を効率的に除去できる。
【0059】
実施例1及び実施例2では、プラズマエッチング装置としては、誘導結合型プラズマエッチング装置の例で説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、マイクロ波プラズマエッチング装置、容量結合型プラズマエッチング装置、ヘリコン型プラズマエッチング装置等でも適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 誘導アンテナ
1a 第一の誘導アンテナ
1b 第二の誘導アンテナ
2 放電部
3 プラズマ処理部
4 整合器
5 ガス供給装置
6 電極
7 プラズマ
8 排気装置
9 ファラデーシールド
10 第一の高周波電源
11 第二の高周波電源
12 ウエハ
13 シリコン基板
14 磁性膜
15 タンタル(Ta)膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8