【実施例】
【0057】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施例について説明する。
【0058】
以下の実施例1〜5では、珪砂の法面に対して卵白濃度別の卵白水溶液を適用し、傾斜角別の土砂流出試験を行った。
<傾斜角別の土砂流出試験(
図2参照)>
[実施例1]
以下のものを用意した。
(A1)卵白水溶液
乾燥した粉状の卵白を水で希釈させた卵白水溶液(卵白濃度5,000mg/L)
(B1)珪砂5号(水分0.1%) 400g
(C1)プラスチックトレー(12cm×12cm×2cm)
まず、珪砂5号(B1)400gをプラスチックトレー(C1)に載置して平らに整地した。その後、卵白水溶液(A1)50mlを、整地された珪砂の土壌表面(法面)に散布(3.5L/m
2)した。この散布から3日間、前記土壌を室温(25℃)の室内に静置し、風乾(土壌の固化処理)した。
【0059】
静置した後に水平面に対して法面が所定の角度(30〜90°)となるようにプラスチックトレー(C1)を傾けていき、プラスチックトレー(C1)の土壌が土砂崩れを起こす時の角度(内部摩擦角度)を決定した。また、このときの流出土割合(%)=プラスチックトレー(C1)外に流出した土壌(g)/土壌全体量(g)×100を算出した。この結果を
図2に示す。
【0060】
なお、珪砂の場合、ほとんど水分を含まないので、土壌に散布された後の卵白水溶液中の濃度はほとんど変化しない。そのため、散布する卵白水溶液中の卵白濃度と土壌中の卵白濃度が一致する。これは他の珪砂を用いた実施例についても同様である.
[比較例1、実施例2〜5]
卵白水溶液(A1)中の卵白濃度を、比較例1では0mg/Lとし、実施例2〜5では、順に、10,000mg/L、50,000mg/L、100,000mg/L、250,000mg/Lとした以外は、実施例1と同様に試験した。この結果を
図2に示す。
(結果)
珪砂の場合、
図2に示すように、卵白濃度に比例して土壌固化し、流出土割合(%)や内部摩擦角度は上昇した。
(卵白濃度と流出土割合(%))
図2(B)に示すように、卵白濃度が高くなると、いわゆる土壌の塊として存在する部分が多くなるため、土砂崩れ時の流出土割合(%)が高くなる。この流出土割合(%)は、一般でいう降雨による流水(川など)で徐々に土壌が削れて失われていく指標である土壌流出量とは異なる指標で、上記土壌中のどの程度の割合がいわゆる土壌の塊として存在するかという指標である。
【0061】
珪砂の場合、卵白濃度と侵食時の流出土割合(%)との相関は、卵白濃度10,000mg/L以上では卵白濃度10,000mg/L未満よりも低くなる。これは、卵白濃度が約10,000mg/Lを超えると、土壌固化層として存在する土壌の割合が特に増加し、土壌固化層としての強度の高低等に土壌侵食抑止の効果原因が切り替わっていくことによる。
【0062】
つまり、卵白濃度5,000mg/L付近の卵白水溶液を散布して土壌固化させた土壌では、極めて薄い土壌固化層と土壌粒子が混在した状態であり、ここから卵白濃度の高めていくにつれて、土壌固化層として存在する土壌の割合が増加してくかわりに、土壌粒子として存在する土壌の割合が減少していくのである。
【0063】
このため、卵白水溶液が散布された土壌部分のうちの大部分が土壌固化層として存在する卵白濃度10,000mg/L以上の土壌では、土壌固化層がブロックのように塊となって一度に流出することとなる。
【0064】
その一方で、卵白水溶液が散布された土壌部分のうちのほんの一部が薄膜のように土壌固化層として存在する卵白濃度5,000mg/L付近の土壌では、大部分が土壌粒子として流出することとなる。
【0065】
そして、卵白濃度10,000mg/L以上では、前記土壌の塊の量は卵白濃度によってはそれ程変化せず、かわりに土壌固化層の強度が比例して高くなる。このことにより、卵白の高濃度化によって土壌粒子状態から土壌固化層状態へと土壌の状態が特に切り替わる卵白濃度10,000mg/Lを境目にして流出土割合に対する卵白の添加効果は小さくなる。
【0066】
この流出土割合(%)は、
図2(B)に示すように、卵白濃度50,000mg/L〜100,000mg/Lがピークで、それより高い卵白濃度範囲の場合では、逆に低下していく。これは、卵白濃度が100,000mg/Lを超えたあたりから、卵白の高濃度化により、卵白水溶液が法面へ浸透しにくくなり土壌固化層の厚さが薄くなる一方で、逆に、より硬いものとなって土壌固化層の強度が高まることによる。
【0067】
このため、100,000mg/Lより高濃度の卵白濃度範囲では、土壌固化する土壌の割合は低下して流出量が減る一方で、この卵白濃度範囲でも土壌侵食抑止の効果は、強度が高まることで依然として得られる(
図2(C)参照)。
【0068】
このように、卵白濃度10,000mg/L以上のときに、土壌固化層として存在する土壌の割合が特に増えて十分な法面の侵食抑止効果が得られ、このうち、卵白濃度が250,000mg/Lでは、卵白水溶液の高い粘性のため、法面にほとんど浸透せず法面表面に薄い土壌固化層が形成され、これにより法面の侵食抑止効果が得られた。
(卵白濃度と内部摩擦角度)
図2(C)に示すように、卵白水溶液(A1)の卵白濃度が高くなると内部摩擦角度が比例して大きくなり、より急峻な法面でも法面の土砂崩れ等の侵食を抑止できる。
【0069】
珪砂の場合、卵白濃度と内部摩擦角度との相関は、土壌固化層が殆ど形成されない卵白濃度範囲(0〜5,000mg/L)でも存在し、卵白濃度に比例して内部摩擦角度が高まる。これは、卵白濃度10,000mg/L未満の土壌では、土壌が土壌固化層として存在しないか、または存在してもその割合が低く、大部分の土壌が土壌粒子として存在していることによる。
【0070】
さらに、卵白濃度10,000mg/Lを境に上記相関が変化するが、これは卵白濃度10,000mg/L以上では土壌固化層としての強度の高低等に侵食抑止の効果原因が切り替わることによる。また、この卵白濃度10,000mg/L以上の範囲で、ほぼ確実に土壌が崩れる直角まで、ほとんど変わらず上記相関が維持されている点が優れている。つまり、土壌固化層は卵白の高濃度化によりさらに強度が増すことが示されている。
【0071】
上記した結果から、珪砂5号の場合では、土壌固化して土壌固化層が得られる内部摩擦角度60°〜90°を得られる卵白濃度範囲10,000〜250,000mg/Lが好ましい。
<珪砂の土壌固化層の厚さの計測(
図3参照)>
以下の実施例6〜11では、卵白水溶液により形成した珪砂の土壌固化層について卵白濃度別の固化深度を計測する試験を行った。
[実施例6]
以下のものを用意した。
(A2)卵白水溶液20ml(1,000mg/L)
卵白水溶液(A2)の調製は、100mlの蒸留水に0.1gの乾燥卵白を溶解させ、溶液をピペットにて所定量を採取して行った。
(B2)珪砂5号(水分0.1%)300g
(C2)両端が開口した樹脂製で透明の円筒管(内径5cm、筒部の高さ10cm、体積196cm
3)。なお、円筒管の下端開口はビニルのラップで閉塞されている。
【0072】
まず、円筒管(C2)を水平のテーブル面に載置して、その上端開口から珪砂5号(B2)300gを目一杯に詰め込み、上端開口の土壌表面を整地した。次に、この土壌表面に対して卵白水溶液(A2)20mlを一様に散布(10L/m
2)し、この土壌を6日間、前記土壌を室温(25℃)の室内に静置して風乾した。
【0073】
静置後に、円筒管(C2)下部のビニルのラップを除去し、土壌固化層となっていない下層の珪砂を下端開口から排出した。排出されずに土壌固化層として円筒管(C2)内に残存した珪砂の塊の厚さ(mm)を計測し、これを固化深度(mm)とした。また、排出された珪砂が占めていた下層の厚さ(mm)も計測、又は、円筒管(C2)の筒部の高さと計測した固化深度(mm)から算出した。この結果を
図3に示す。
[比較例2、実施例7〜11]
卵白水溶液(A2)の卵白濃度を、比較例2では0mg/Lとし、実施例7〜11では、順に、5,000mg/L、10,000mg/L、50,000mg/L、100,000mg/L、250,000mg/Lとした以外は、実施例6と同様とした。この結果を
図3、
図6に示す。
(結果)
図3に示すように、卵白濃度5,000〜250,000mg/Lで約1〜27mmの厚さ(固化深度)の土壌固化層が形成された(実施例7〜11)。
【0074】
これに対し、卵白濃度5,000mg/L未満(実施例6)では土壌固化層が得られなかった。
【0075】
一方、卵白濃度250,000mg/Lでは卵白水溶液の粘度が高いため、土壌に浸透しにくく一部が円筒管の上部にあふれ出て、土壌固化層の厚さ(固化深度)は8mmと低下した(実施例11)。
【0076】
したがって、卵白水溶液を用いて珪砂を土壌固化させる場合には、卵白水溶液の卵白濃度が5,000〜100,000mg/Lの場合に好適なものとなった。
【0077】
図2,
図3を参照すると、固化深度が1mmを超える場合に土壌固化層として存在する土壌の割合が特に高まる(
図2(A)の実施例1,2参照、
図3の実施例7,8参照)。この結果から、卵白濃度10,000〜100,000mg/Lの場合に、特に土壌侵食抑止効果が高まり、好ましい卵白濃度範囲といえる。
<珪砂の土壌固化層の厚さ(固化深度)の計測(
図4参照)>
以下の実施例12〜17では、珪砂と粉状の卵白を混合した土壌へ散水・乾燥することにより形成した珪砂の土壌固化層について卵白濃度別の固化深度を計測する試験を行った。
[実施例12]
以下のものを用意した。
(A3-1)粉状の卵白(キユーピータマゴ社製、乾燥卵白Mタイプ、粒径平均20〜50μm、かさ比重平均0.4〜0.5)0.1g
(A3-2)蒸留水20ml
(B2)珪砂5号(水分0.1%) 300g
(C2)両端が開口した樹脂製で透明の円筒管(内径5cm、筒部の高さ10cm、体積196cm
3)。なお、この円筒管の下端開口はビニルのラップで閉塞されている。
【0078】
まず、珪砂(B2)300gと粉状の卵白(A3-1)0.1gを均一に混合した。その後、これを水平のテーブル面に載置した円筒管(C2)の上端開口から目一杯に詰め込み、上端開口の土壌表面を整地した。次に、この土壌表面に対して蒸留水 (A3-2) 20mlを一様に散水し、この土壌を6日間、室温(約25℃)で静置した。
【0079】
なお、粉状の卵白(A3-1)0.1gに対して蒸留水(A3-2)を20ml使用して、卵白濃度を5,000mg/Lとした。
【0080】
静置後に、円筒管(C2)下部のビニルのラップを除去し、土壌固化層となっていない下層の土壌を下端開口から排出した。排出されずに土壌固化層として円筒管(C2)内に残存した土壌の塊の厚さ(mm)を計測し、これを固化深度(mm)とした。
【0081】
また、排出された土壌が占めていた下層の厚さ(mm)も計測、又は、円筒管(C2)の筒部の高さと計測した固化深度(mm)から算出した。この結果を
図4に示す。
[比較例3、実施例13〜17]
卵白濃度を、比較例3では0mg/Lとし、実施例13〜17では、順に、10,000mg/L、50,000mg/L、100,000mg/L、250,000mg/L、500,000mg/Lとした以外は、実施例12と同様とした。この結果を
図4に示す。
【0082】
なお、卵白の濃度は、蒸留水(A3-2)を20mlとしたまま粉状の卵白(A3-1)の添加量を変えて所定の濃度とした。
(結果)
粉状の卵白を土壌に混ぜて散水することで、卵白水溶液が土壌深くまで浸透し、卵白水溶液を用いた実施例6〜11の場合(
図3参照)と比較して、より厚い土壌固化層が得られた。
【0083】
そのため、卵白濃度と土壌固化層の厚さ(固化深度)とに高い相関が示された(
図4(B)、
図8及び
図9(A)参照)。
【0084】
なお,比較例3と実施例12では、卵白が含まれていないか,あるいは卵白量が少ないため土壌固化層が得られなかった。
(卵白水溶液と粉状の卵白)
卵白濃度が高くなる程、卵白水溶液は高粘度となるので、土壌に染み込みにくいものとなる。しかし、実施例14〜17のように、同じ卵白濃度で比較した場合、卵白水溶液を散布するよりも、粉状の卵白と土壌と混合してこれに散水することで、より厚い土壌固化層が得られ、好ましいものとなる(
図9(A)参照)。
【0085】
土壌固化させるための期間(特に土壌乾燥させる期間)は、実際の工期との関係から極力短期間の方が好ましい。そのため、施工対象の土壌について、土壌固化及び土壌乾燥の期間に影響する土壌:土壌中の水分:土壌中の卵白の重量比の好適な範囲を決定したり、状況に応じて施工対象の土壌中の水分量等を調整することは非常に重要なこととなる。
【0086】
土壌を乾燥に影響を与える要因としては、この卵白と水分の重量比が重要であり、これによって、強制乾燥が必要となったり自然乾燥が必要となったりする。
【0087】
図10(A)を参照すると、自然乾燥を行った実施例1〜17を考慮すると珪砂土壌を土壌固化する場合として、珪砂土壌:土壌中の水分:土壌中の卵白の重量比が、1:0.067〜0.133:0.0003〜0.0333の範囲となるのが好ましい。
[実施例18,19]
実施例18では、実施例14において蒸留水(A3-2)を40mlに変更し、卵白の濃度を25,000mg/Lとしたこと以外は、実施例14と同様とした。
【0088】
実施例19は、実施例15において蒸留水(A3-2)を40mlに変更し、卵白の濃度を50,000mg/Lとしたこと以外は、実施例15と同様とした。
【0089】
実施例18,19で、実施例12と同様に自然乾燥により土壌固化処理を行ったところ、自然乾燥では2週間以内に土壌固化層が得られなかったが、
図10(B)に示すように、強制乾燥では2週間以内に土壌固化層が得られた。
【0090】
ここでの「自然乾燥」は、土壌を円筒容器内に入れたまま25℃で保持する乾燥を意味し、「強制乾燥」は、乾燥前の土壌を円筒容器に充填した後、25℃(室温)で1日間保持し、全体から乾燥が進行するように静かに脱型してインキュベータ(温度30℃)に静置させる乾燥を意味する。
【0091】
後述するように、固化強度試験を行った実施例25,26についても強制乾燥により土壌固化層を得ることができた。
【0092】
つまり、実施例18,19,25,26では、
図10に示すように、重量比のうち,卵白と土の重量比が上記の範囲内であっても、水分と土の重量比が所定の比率の範囲内にないために、土壌固化には強制乾燥が必要であることによる。
【0093】
図11は、卵白と水分の重量比によって決定される乾燥条件の範囲を図示したものである。
【0094】
具体的には、
図11の直線Aは、土壌を室温25℃で6日間放置した時点で自然乾燥するか否かの境界線を示している。この境界線より水/土の重量比が高くなる領域(
図11において直線Aより右側)に当てはまる条件では基本的に強制乾燥が必要となり、逆に、水/土の重量比が低くなる領域(
図11において直線Aより左側)に当てはまる条件では強制乾燥が不要(自然乾燥のみでもよい)となる。勿論、自然乾燥となる条件の場合に強制乾燥させてもよい。
【0095】
図11中の記号「○」は、自然乾燥により1週間以内に乾燥し、実用上都合よいレベルで土壌固化したことを示す(実施例1〜5,7〜11,13〜17参照)。
【0096】
図11中の「●」は、2週間の自然乾燥により土壌固化しない(実施例18,19)か、固化するか否かが不明であるもの(実施例25,26)で、強制乾燥により土壌固化したことを示す。
【0097】
図11中の「▲」は、1週間の自然乾燥により土壌固化層が得られないものである(実施例6,12参照)。
<黒土の土壌固化層の厚さ(固化深度)の計測(
図5参照)>
以下の実施例20〜23では、卵白水溶液により形成した黒土の土壌固化層について卵白濃度別の固化深度を計測する試験を行った。
【0098】
[実施例20]
以下のものを用意した。
(A4)卵白水溶液 20ml(卵白濃度1,000mg/L)
(B3)黒土(締固め有り、市販の園芸用の黒土、含水比101%) 300g
黒土の締固め方法:
「締固め無し」は、容器ごと軽く上下に振とうし、底面を平らな机に20回軽く叩打した。
「締固め有り」は、モールドとしての円筒管(内径5cm、高さ10cm)に入れた所定量(締固めた状態で円筒筒の1/3容量となる黒土)の黒土表面全体をランマーとしての150gの重りを10回自由落下させて突き固める締固めを行い、これにより円筒管内の押し下がった黒土の表面に、再び上記と同様に黒土を入れてこれを同様に突き固める操作をさらに2回行い、合計3層に分けて行った。
(C3)両端が開口した樹脂製で透明の円筒管(内径5.0cm、筒部の高さ10.0cm、体積196cm
3)。なお、円筒管の下端開口はビニルのラップで閉塞されている。
【0099】
まず、円筒管(C2)を水平のテーブル面に載置して、その上端開口から黒土(B3)300gを目一杯に詰め込んで、上端開口の土壌表面を整地した。次に、この土壌表面に対して卵白水溶液(A4)を一様に散布(10L/m
2)し、この土壌を6日間、室温で静置して風乾させた。
【0100】
この静置後に、円筒管(C2)下部のビニルのラップを除去し、土壌固化層となっていない下層の黒土を下端開口から排出した。排出されずに土壌固化層として円筒管(C2)内に残存した黒土の塊の厚さ(mm)を計測し、これを固化深度(mm)とした。また、排出された黒土が占めていた下層の厚さ(mm)も計測、又は、円筒管(C2)の筒部の高さと計測した固化深度(mm)から算出した。この結果を
図5に示す。
【0101】
なお、黒土の場合、含水比が高いので、土壌に散布した卵白水溶液の濃度と散布した後の土壌中における卵白濃度は異なった濃度となる。
【0102】
[比較例4、実施例21〜23]
卵白水溶液(A4)中の卵白濃度を、比較例4では0mg/Lとし、実施例21〜23では、順に、5,000mg/L、10,000mg/L、50,000mg/Lとした以外は、実施例20と同様とした。この結果を
図5に示す。
(結果)
黒土(締固め有り)でも、珪砂の場合(実施例6〜11)と同様に、50,000mg/L以下の卵白濃度の卵白水溶液が土壌に浸透して土壌が固化する効果が見られた(実施例20〜23、
図3と
図5を対比して参照)。
【0103】
黒土(締固め有り)の場合、少なくとも卵白濃度1,000〜50,000mg/Lで20〜60mmの土壌固化層が得られ、この卵白濃度範囲で卵白濃度が高くなると、より厚い土壌固化層を形成することができることが確認された。比較例4では、卵白が含まれていないため土壌固化しなかった。
【0104】
実施例20〜23から黒土(締め固め有り)の土壌では、実施例20〜23で用いた卵白水溶液の卵白含有量、黒土の含水比等から、黒土:土壌の水分:土壌中の卵白の重量比が、1:0.57:0.00007〜0.003の重量比の範囲となるのが好ましい。
【0105】
[実施例24]
黒土(締固め無し)を用いて実施例20と同様に試験を行ったところ、土壌固化して土壌固化層が得られた。しかし、十分な強度の土壌固化層とならず、土壌固化層より下層の土壌固化層となっていない土壌を円筒管の下端開口から排出する際に、土壌固化層が崩壊して一緒に排出された(不図示)。したがって、黒土の法面等の土壌に十分な強度の土壌固化層を形成するには、法面の黒土を締固めする必要がある。
<固化強度試験>
以下の実施例25,26、比較例5では、珪砂に対する粉状の卵白の添加や、粉状の卵白と粉状の卵殻の添加により、どのように土壌固化層の圧縮強度が上昇するか調べた。
[実施例25]
以下のものを用意した。
(A4-1)粉状の卵白 0.3g
(A4-2)蒸留水 7ml
(B4) 珪砂5号(水分0.1%)30g
(C2) 両端開口の円筒(内径2.5cm、筒部の高さ5.0cm、24.5cm
3)。なお、下端開口はビニルのラップにより閉塞されている。
【0106】
粉状の卵白(A4-1)0.3gと珪砂(B4)30gを混合し、水平のテーブル面に載置した円筒管(内径2.5cm、高さ5cm)に前記混合物を目一杯に詰め込んで、上端開口の土壌表面を整地した。
【0107】
次に、この土壌表面に対して蒸留水(A4-2)を一様に散水し、上部にビニルのラップをして、温度30℃で24時間、乾燥器中に静置して強制的に全体を乾燥させた。この静置後に、円筒管(C2) 下部のビニルのラップを除去し脱型し、土壌塊のみを乾燥機で30℃、24時間乾燥固化させた。
【0108】
この乾燥固化した土壌の圧縮強度を、コンクリート用貫入抵抗値試験装置(JIS A 1147)を用いて、以下の方法により計測した。
【0109】
計測方法は、簡易の一軸圧縮強度として行い、乾燥固化した土壌の上部から土壌断面より大きい上記装置の針で徐々に力を加えていき、土壌が破壊される際の最大応力値を簡易の一軸圧縮の値として比較の指標とした。この結果を
図7に示す。
【0110】
[実施例26]
実施例25の混合物にさらに粉状の卵殻4.5gを混合した以外は、実施例25と同様にして試験を行った。これにより、珪砂に粉状の卵殻と粉状の卵白の双方を添加した際の土壌固化層の圧縮強度への影響について調べた。この結果を
図7に示す。
【0111】
なお、粉状の卵殻には、粒径8〜10μm、かさ比重0.6〜0.7、市販品「カルホープ」(キユーピータマゴ製)を使用した。
[比較例5]
粉状の卵白(A4−1)を使用しないこと以外は、実施例25と同様に圧縮強度を計測した。この結果を
図7に示す。
(結果)
粉状の卵白のみの場合(実施例25)では25kPaであったが、これに粉状の卵殻を加えると35kPa(実施例26)となり、土壌の圧縮強度に差が見られた。しかし、珪砂のみ場合(比較例5)では、土壌が固化せず崩れて圧縮強度を示さなかった。
<卵白を用いた植物生育試験>
[実施例27,28]
実施例27,28では、乾燥卵白を水に溶解して50,000mg/Lの卵白水溶液とし,これを黒土(実施例20で用いた黒土と同一物)に散布し、卵白水溶液の散布直後と翌日の各時点で黒土にコマツナを播種し、その発芽,生育試験を行った(
図12参照)。
【0112】
コマツナは植物の生育に関する土壌の影響評価に一般的に用いられるものである。
図12〜14に生育試験の結果を示す。実施例27,28の散水については土壌固化後に行い、播種の密度は20粒/78.5cm
2とした。
【0113】
[比較例6]
比較例6では、卵白水溶液の代わりに水のみを散布し、実施例27と同様にコマツナの発芽試験、生育試験を行った(
図12〜14参照)。なお、実施例27,28と同様に散水を行い、播種の密度は20粒/78.5cm
2とした。
(発芽率)
黒土中の卵白が乾燥して土壌の表面が固化する前にコマツナを播種し、50,000mg/Lの卵白水溶液を散布した場合(実施例27)と、散水のみした場合(比較例6)とでは、ともに発芽率(b/a)が95%以上と良好で相違がなかった。ここで、通常、発芽率が80〜90%を超えると発芽が良好と判断される。
【0114】
しかし、卵白が乾燥して土壌の表面が固化した後にコマツナを播種した場合(実施例28)では、上記2例に比べて発芽率が70%とやや低下した。
(生育率)
図12に示すように、発芽後の生育状況を生育率(播種3週間後に生育している本数/発芽した種子(c/b))で評価すると、実施例27,28と比較例6との間に顕著な差異が認められず,発芽後の生育は順調であったことが確認できる。発芽後に枯れてしまった芽は,実施例27,28より比較例6の方が多かった。
(上部質量,本葉数)
種子が発芽した後、子葉の後に出る本葉は、さらに分岐してその数を増すが、この本葉数(枚)により植物の成育を判断することができる。また、生育が旺盛であれば植物の上部質量が増すため、植物体の上部質量によっても植物の生育を判断することができる。
【0115】
上部質量について、卵白水溶液を散布した実施例27,28では、散水のみした比較例6を上回る結果となった(
図12参照)。
【0116】
図13中(A)は比較例6、(B)は実施例27、(C)は実施例28の本葉数を示す。
【0117】
本葉数の分布については、実施例27,28で同様となった(
図13(B),(C)参照)。また、実施例27,28では本葉数7〜8枚の個体が出現したことから、比較例6より生育したことになる。
【0118】
また、本葉数(枚)の平均値、中央値についてみると、実施例27,28では比較例6を上回る結果となった(
図12参照)。発芽後の生育状況は、比較例6より実施例27,28の方が良好であった。
【0119】
実施例27,28、比較例6の結果より、土壌中の卵白が乾燥,固化する前に土壌に播種すれば,卵白を施さない場合と比較して,コマツナの発芽,生育を妨げることはない。むしろ、上部質量または本葉数で評価すると生育促成効果を有する。
【0120】
土壌中の卵白が乾燥・固化し、土壌表面が固化した後に播種すると、卵白を施さない場合と比較して,発芽数は減少するが,その後の発育を妨げることはない。むしろ、生育したコマツナの上部質量または本葉数で評価すると促成効果を有する。
【0121】
以上、本発明について実施の形態および実施例を説明してきたが、本発明は上記実施の形態や実施例に限定されるものではない。
【0122】
例えば、粉状の卵白を使用して所定の卵白濃度で黒土(締固め有り/無し)を土壌固化してよい。これにより、黒土を所望の固さで土壌固化させることができる。
【0123】
実施例では、卵白水溶液の調製や、そのまま粉状の卵白を土壌に適用する場合も含めて、すべて乾燥した粉状の卵白を使用しているが、液卵白、粉状の卵白等の卵白や卵白成分を主として含むものも使用できる。この場合、土壌の含水比等を考慮し、乾燥卵白の卵白量に換算することで同様に土壌固化剤や土壌粘着固化剤として活用することができる。
【0124】
上記実施例で示した土壌(珪砂又は黒土):土壌中の水分:土壌中の卵白の重量比について、土壌固化に直接影響しない土壌深層部分を除いた重量比の範囲を算出し、この重量比の範囲に入るように土壌固化を行なってもよい。