(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
白金族元素と、アンチモンを含む不純物元素を含有する塩化物溶液をポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させて白金族元素を選択的に吸着させる吸着工程と、吸着処理後の樹脂を洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理後の樹脂から白金族元素を溶離させる溶離工程とを有する白金族元素の分離回収方法において、
上記吸着工程に際して、上記塩化物溶液の酸濃度を3.0規定以上4.0規定以下に調整した後、該塩化物溶液を、金属元素を含んだアニオンに対してキレート効果を有する上記ポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させることを特徴とする白金族元素の分離回収方法。
上記塩化物溶液に対して、塩素含有溶液及び/又は水酸化ナトリウムを添加することによって、該塩化物溶液の酸濃度を調整することを特徴とする請求項1記載の白金族元素の分離回収方法。
【背景技術】
【0002】
日本で工業的に生産される白金族元素の原料は、銅、ニッケル、コバルト等の非鉄金属製錬からの副産物、自動車排ガス処理触媒等の各種使用済み廃触媒等が大部分を占めている。
【0003】
このうち、非鉄金属製錬の副産物では、製錬原料の中にごく微量含有されている白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びオスミウム等の白金族元素が、その化学的性質から主金属である銅、ニッケル等の硫化濃縮物及び粗金属の中に濃縮されており、電解精製等の主金属回収精製処理によって、残滓として白金族元素を含む貴金属濃縮物が分離される。
【0004】
通常、この濃縮物には、主金属である銅、ニッケル等とともに、他の構成元素である金、銀等の貴金属、セレン、テルル等のVI族元素、砒素、アンチモン等のV族元素が、白金族元素に比べて高含有量で含有されている。この濃縮物から白金族元素を回収する際には、通常は、一旦液中に浸出させてから、溶媒抽出、イオン交換法等の手法を用いて白金族元素を選択的に分離回収する。
【0005】
液中への浸出方法としては、塩化物イオン共存下で強酸化することによって白金族元素をクロロ錯体として塩化物溶液中に浸出する方法が一般的であり、このとき同時に銅、ニッケル、VI族元素、V族元素も浸出される。
【0006】
このような塩化物溶液中から、イオン交換法を用いて白金族元素を共存元素と分離して回収する方法としては、アニオン交換樹脂を用いる方法が広く採用されている。具体的には、水酸基を持たない第四アンモニウム塩型アニオン交換樹脂を用いる方法や、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いる方法等がある(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。
【0007】
これらアニオン交換樹脂を用いる回収方法は、アニオン交換樹脂が、白金のヘキサクロロ錯体やパラジウムのテトラクロロ錯体等の塩化物溶液中で安定なクロロ錯体をよく吸着する性質を利用している。
【0008】
特にポリアミン型アニオン交換樹脂は、完全にはクロロ錯体化していない白金族元素の弱酸性化合物の錯体も吸着し易い特長を有するとともに、塩化物溶液中でアニオンが不安定な銅等の金属イオンや、強酸型イオンを形成する砒素、6価セレン、6価テルル等とは吸着し難いという特長も併せ持っている。この化学的特長を利用すると、白金族元素に比べて高い含有量で含有されている銅やニッケル、砒素、セレン、テルルが存在する塩化物溶液中から、白金族元素を選択的に吸着回収することが可能となる。
【0009】
ここで、白金族元素のクロロ錯体は、溶液中の塩化物イオン濃度が高いほど、酸化還元電位が高いほど安定して形成される一方、溶液中の酸濃度が高いほどアニオン交換樹脂との吸着溶離平衡が溶離側へ傾き易くなって吸着し難くなる性質を持つ。
【0010】
そのため、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いる白金族元素の回収方法においては、白金族元素を樹脂に吸着させる処理への供給液について、塩化物イオン濃度と酸化還元電位を保ちつつ、食塩添加、希釈、酸化剤添加等を組み合わせてフリー酸濃度を極力低減させる調整を行うことを前提としている。特に、酸化還元電位については、銀/塩化銀電極基準で700〜1100mVの範囲を維持することが、特許文献2において推奨されている。
【0011】
ところで、上述のように、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いる白金族元素の回収方法は利点の多い方法であるが、アンチモンを含む不純物が白金族元素と比較して高濃度に含有されている塩化物溶液を対象に当該方法を適用した場合、特に実操業においては、わずか1ヶ月〜3ヶ月の短時間のうちに白金族元素の吸着性が低下するという問題があった。
【0012】
その吸着性が低下した樹脂を分解して分析してみると、下記表1に示すように、かなりの割合でアンチモンが樹脂に吸着していることが分かる。
【0013】
【表1】
【0014】
樹脂内へのアンチモン蓄積が進むと、白金族元素の吸着効率が著しく低下する。また、一旦吸着したアンチモンを樹脂から溶離させるには、工業的に非常に困難を伴う。そのため、アンチモンが吸着蓄積すると、樹脂の繰り返し使用が制限されることにより、樹脂寿命が極めて短くなる。
【0015】
したがって、アンチモンを含む不純物元素を高濃度に含有する塩化物溶液から、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いて白金族元素を分離回収する場合、工業的に、白金族元素の回収効率を向上させることが難しいという問題を抱えていた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る白金族元素の分離回収方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
本実施の形態に係る白金族元素の分離回収方法は、白金族元素と、アンチモンを含む不純物元素を含有する塩化物溶液からポリアミン型アニオン交換樹脂を用いて白金族元素を分離回収する方法である。具体的に、この分離回収方法は、白金族元素と、アンチモンを含む不純物元素を含有する塩化物溶液をポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させて白金族元素を選択的に吸着させる吸着工程と、吸着処理後の樹脂を洗浄処理する洗浄工程と、洗浄処理後の樹脂から白金族元素を溶離させる溶離工程とを有する。そして、回収工程において溶離して得られた白金族元素を含有する溶離液中から白金族元素を濃縮体として回収する。
【0024】
そして、本実施の形態に係る白金族元素の分離回収方法では、塩化物溶液を樹脂に吸着させる吸着工程において、塩化物溶液の酸濃度を3.0〜4.0規定に調整した後に、ポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させることを特徴とする。
【0025】
このような白金族元素の分離回収方法によれば、塩化物溶液中に白金族元素とともに含まれているアンチモンが樹脂内に蓄積することを抑制することができ、樹脂を繰り返して長期間使用することを可能にし、白金族元素の回収効率を向上させることができる。
【0026】
以下、より詳細に、各工程について順に説明する。
【0027】
(吸着工程)
吸着工程では、白金族元素と、アンチモンを含む不純物元素を含有する塩化物溶液をポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させて白金族元素を選択的に吸着させる。この吸着工程では、既知のカラム式又はバッチ式を用いた固液接触方法により、塩化物溶液をポリアミン型アニオン交換樹脂に接触させることによって白金族元素を吸着させる。
【0028】
ポリアミン型アニオン交換樹脂(以下、単に「イオン交換樹脂」とも言う。)としては、隣接する炭素原子上に複数の1〜3級アミノ基を官能基として持つものであり、錯形成効果(キレート効果)が期待できる構造の弱塩基性アニオン交換樹脂であればいかなるものでもよく、特に限定されるものではない。
【0029】
このポリアミン型アニオン交換樹脂は、隣接する炭素原子に連なって付いている複数のアミノ基で包み込み錯体を形成することによって
金属の錯イオンを吸着回収する。一般に、脂肪族アミンは、アミノ基を持つ炭素が多く連続しているほど、いわゆる錯生成効果により金属との錯形成能力が増加することが知られており、複数のアミノ基を官能基とするポリアミン型アニオン交換樹脂は、通常のアニオン交換樹脂より強い錯形成能力を有している。また、ポリアミン型アニオン交換樹脂には、四級アンモニウム塩がなく、弱塩基性樹脂に相当するため、弱酸型イオンを吸着し易い。さらに、白金族元素は、塩化物溶液中ではクロロ錯体を形成しているが、白金のヘキサクロロ錯体のような安定な錯体以外に、完全にはクロロ錯体化していない白金族元素の弱酸性の化合物が多く含まれている。ポリアミン型アニオン交換樹脂は、塩化物溶液中で、これらの完全にはクロロ錯体化していない白金族元素の弱酸性の化合物の錯体も吸着し易い。
【0030】
一方その反面、このポリアミン型アニオン交換樹脂は、塩化物溶液中における、アニオンが不安定な銅等の多くの金属イオン、あるいは強酸型イオンを形成するヒ素、6価セレン、6価テルル等を吸着し難いという性質を有している。したがって、このような化学的性質を有することから、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いることによって、塩化物溶液中の白金族元素を高い選択性でもって吸着させ、分離回収することができる。
【0031】
塩化物溶液は、白金族元素とともに、アンチモンを含む不純物元素を含有するものである。この塩化物溶液としては、例えば、銅鉱石や白金族元素を含有する原料等に対して電解処理等を施すことによって産出した白金族元素を含有する中間原料を塩酸酸性のスラリーとし、このスラリーに塩素ガスを吹き込むことで塩素浸出して生成された浸出液を用いることができる。この塩化物溶液中に含有される白金族元素としては、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びオスミウム等から選択される1種以上が挙げられる。
【0032】
従来、ポリアミン型アニオン交換樹脂を用いて白金族元素を分離回収する際には、白金族元素が安定的に錯形成して吸着し得るように、塩化物溶液の酸濃度を可能な範囲で極力低くなるように調整していた。一方、近年では、例えば白金族元素回収の原料となる銅原料鉱石中において、不純物元素の品位が高くなり、アンチモン等の加水分解し易い元素が増加している。そのため、この原料鉱石を塩酸で浸出して得られた塩化物溶液には、アンチモンを含む不純物元素が高濃度に含有されるようになっている。
【0033】
しかしながら、このようなアンチモンを含む不純物元素が高濃度に含有された塩化物溶液からポリアミン型アニオン交換樹脂を用いて白金族元素を分離回収した場合、ポリアミン型アニオン交換樹脂を構成する樹脂粒子の表面にアンチモンが厚く蓄積してしまう。すると、それにより、樹脂表面にアンチモンがコーティングされ、樹脂と塩化物溶液との接触を極度に悪化させ、樹脂として機能を奏し得なくさせていた。
【0034】
配管等のスケールとは異なり、樹脂粒子にアンチモンがコーティングされた場合には、たとえ酸で洗浄等を施したとしても全く除去することはできない。樹脂粒子に一度アンチモンがコーティングされてしまうと、その機能を果たし得る形態に戻すことは不可能となる。このように、これまでの方法では、イオン交換樹脂の寿命を著しく短くし効率的な操業の妨げになっていたとともに白金族元素の分離回収効率も悪化させていた。そのため、樹脂粒子にアンチモンがコーティングされることを防止しながら、効果的に白金族元素を分離回収する方法が望まれていた。
【0035】
ここで、本件発明者らは、アンチモンの付着形態の点において、ポリアミン型アニオン交換樹脂中に蓄積したアンチモンは、樹脂の官能基に吸着しているのではなく、樹脂粒子の内部や外周部に沈析していることを解明した。
【0036】
そこで、本実施の形態に係る白金族元素の分離回収方法では、吸着工程に供される塩化物溶液の酸濃度を3.0規定以上4.0規定以下に調整し、酸濃度を調整した塩化物溶液を樹脂に接触させることを特徴としている。このようにして、イオン交換樹脂に接触させる塩化物溶液の酸濃度を3.0規定以上4.0規定以下に調整することにより、樹脂の内部や外周部におけるアンチモンの沈析を妨げて、樹脂粒子にアンチモンがコーティングされることを抑制することができる。
【0037】
塩化物溶液の酸濃度として、3.0規定未満では、樹脂粒子の内部や外周部へのアンチモンの沈析を効果的に抑制することができない。一方で、酸濃度が4.0規定を超えると、樹脂への白金族元素の吸着率の低下が大きくなりすぎ、白金族元素の回収効率が低下する可能性がある。
【0038】
より具体的には、塩化物溶液中のアンチモンが吸着工程にて樹脂と接触する際に、加水分解して樹脂粒子の内部や外周部に沈析する
現象を抑制するには、イオン交換樹脂中へのアンチモンの蓄積率を25〜30%程度以下に抑制すれば良いと考えられる。この点において、酸濃度が3.0規定以上4.0規定以下とすることにより、アンチモンの蓄積率を25〜30%程度以下にし、アンチモンの沈析を効果的に抑制することができ、白金族元素の吸着率の低下を抑えて、効果的に白金族元素を選択的に分離回収することができる。
【0039】
また、例えば、銅鉱石や白金族元素を含有する原料等を電解処理等して得られたスラリーを塩素で浸出して生成された浸出液を塩化物溶液として用いて白金族元素の分離回収を行う場合には、その塩素浸出の段階で酸濃度を3.0規定以上3.5規定以下となるように浸出させることによって、得られる塩化物溶液(浸出液)の酸濃度を3.0規定以上3.5規定以下とすることが好ましい。これにより、その塩化物溶液を用いた白金族元素の分離回収処理において、樹脂に対するアンチモンの沈析を抑制できるとともに、浸出工程における固液分離処理のろ過性低下を抑制することができ、効率的な操業が可能となる。
【0040】
塩化物溶液の酸濃度を上述した範囲に調整する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化物溶液に対して塩素含有溶液や水酸化ナトリウムを添加することによって調整することができる。また、銅鉱石や白金族元素を含有する原料等を電解処理等して得られたスラリーを塩素浸出することによって生成した浸出液を塩化物溶液として用いる場合には、上述のように、その塩素浸出工程での水添加量や水酸化ナトリウム添加量を調整することによって行うことができ、また金を溶媒抽出する工程での塩酸添加量を調整することによって行うこともできる。
【0041】
塩化物溶液の酸化還元電位としては、銀/塩化銀電極基準で700〜1100mVを維持することが好ましい。
【0042】
また、吸着工程における吸着処理温度、すなわち塩化物溶液の液温としては、特に限定されないが、工業的に実現される室温から、樹脂の劣化を防止するため90℃以下の範囲で行うことが望ましい。
【0043】
(洗浄工程)
洗浄工程では、吸着工程での吸着処理後のポリアミン型イオン交換樹脂を洗浄液を用いて洗浄する。吸着処理後のイオン交換樹脂には、銅イオン等のカチオン、及び、セレン、テルル等の強酸型イオンはほとんど吸着しないが、溶液が樹脂の空孔内に物理的に含浸され、不純物成分を吸着させている。したがって、不純物含有量が少なく純度の高い白金族元素を回収するために、次工程での溶離前にイオン交換樹脂を洗浄して物理的に含まれている含浸液を除去する必要がある。
【0044】
洗浄剤としては、水が用いられるが、共存する不純物元素の中に加水分解し易い元素が含有されている場合には、塩酸を含む洗浄液を用いることが好ましい。これにより加水分解による沈澱生成を防止することができる。特に本実施の形態においては、塩化物溶液中に、加水分解し易いアンチモンが含有されている。したがって、塩酸を含む洗浄液で洗浄することにより、アンチモンをはじめとする加水分解しやすい共存不純物元素が樹脂に沈着することをより効果的に防止することができる。
【0045】
ただし、塩酸濃度が上昇するほどイオン交換樹脂に吸着された白金族元素の溶離率が上昇するので、洗浄時における溶離を抑えるため、希塩酸とすることが好ましい。具体的に、希塩酸の濃度としては、洗浄時の白金族元素の溶離を抑制する観点から、4.0mol/l未満とすることが好ましく、3.5mol/l以下とすることがより好ましい。
【0046】
洗浄工程における洗浄処理としては、後段の溶離工程にて塩酸以外の溶離剤を用いる場合には、まず希塩酸で洗浄し、これに引き続いて水洗浄を行う。これにより、上述のように、アンチモンをはじめとする加水分解し易い共存不純物元素が樹脂に沈着することを防止できるとともに、引き続き行われる溶離工程への酸の持込を防止できる。
【0047】
また、洗浄工程における処理温度、すなわち洗浄液の液温としては、特に限定されないが、工業的に実現される室温から、イオン交換樹脂の劣化を防止する観点から90℃以下の範囲で行うことが望ましい。
【0048】
(溶離工程)
溶離工程では、洗浄工程にて洗浄処理されたイオン交換樹脂から白金族元素を溶離剤を用いて脱離させる。溶離工程において用いる溶離剤としては、白金族元素の多くと安定に錯形成する錯化剤であるチオ尿素の水溶液、又は塩酸水溶液を使用することができる。
【0049】
例えば、溶離剤としてチオ尿素水溶液を用いる場合は、チオ尿素が白金族元素との錯形成能力が高いため、水溶液濃度は広い範囲で溶離が可能となる。したがって、溶離剤としてのチオ尿素水溶液の濃度は、特に限定されないが、水への溶解度、経済性等を考慮すると、2.5〜10wt%の範囲とすることが好ましい。
【0050】
また、溶離剤として塩酸水溶液を用いる場合は、その塩酸濃度が高いほど液中のクロロ錯体が安定化するため、迅速に白金族元素を溶離させることができる。そのため、溶離剤としての塩酸水溶液の濃度としては、4mol/l以上とすることが望ましく、6mol/l以上とすることがより好ましい。ただし、塩化水素の溶解度により、実用上の上限は12mol/lとなる。
【0051】
溶離工程における処理温度、すなわち溶離液の液温としては、常温でも溶離は可能であるが、温度が高いほど迅速に溶離させることができるため、60℃以上で溶離させることが好ましい。ただし、樹脂の劣化を防止する観点から、90℃以下で行うことが好ましい。
【0052】
なお、溶離工程においては、溶離剤をカラムに通液した際、流出開始初期に白金族元素を含有する濃厚な液が得られ、その後急激に白金族元素の濃度が低下してmg/lオーダーの液がしばらく流出する。この後半の液を次回の溶離液として使用することにより溶離を効果的に行うことができる。
【0053】
(回収工程)
回収工程では、溶離工程で得られた白金族元素を含有する溶離液中から白金族元素を濃縮体として回収する。例えば、溶離剤としてチオ尿素水溶液を用いた場合は、白金族元素のチオ尿素錯体を王水等で酸化分解して白金族元素化合物の水溶液とし、ヒドラジン等の還元剤で還元することによって金属として回収することができる。
【0054】
また、チオ尿素水溶液中の白金族元素は、アルカリ環境下で加水分解することによって、硫化物の沈澱として回収することができる。この沈澱の生成は、中性のpH条件であっても徐々に進行するが、pHが高いほど定量的かつ迅速に進行することから、pH11以上することが好ましい。また、温度条件として、室温であっても進行するが、温度が高いほど定量的かつ迅速に進行することから、温度60〜90℃とすることが好ましく、80〜90℃とすることが特に好ましい。このようにして硫化物の沈殿として回収した場合、沈殿の濾過で得られた濾液に、アルミニウム、亜鉛等の両性金属や、ケイ素等の非金属、硫化物イオンと錯体を形成するアンチモン、錫、ヒ素、ゲルマニウム、モリブデン、セレン、テルル等の金属イオンを分離することができ、回収沈殿の白金族元素の純度を向上させることができる。
【0055】
一方、溶離剤として塩酸水溶液を用いた場合は、還元することによって液中から金属粉として白金族元素を容易に回収することができる。また、塩酸水溶液に塩化アンモニウム等を添加することによってクロロ錯体として回収できる。
【0056】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る白金族元素の分離回収方法では、塩化物溶液を樹脂に吸着させる吸着工程において、塩化物溶液の酸濃度を3.0規定以上4.0規定以下に調整した後に、ポリアミン型アニオン交換樹脂と接触させる。このようにして所定の酸濃度に調整した塩化物溶液をイオン交換樹脂に接触させることにより、塩化物溶液中にアンチモンが高濃度に共存する場合でも、アンチモンが樹脂粒子に沈析して樹脂表面にコーティングされることを抑制することができる。
【0057】
そして、このように樹脂粒子に対するアンチモンの沈析を抑制できることにより、白金族元素の吸着効率を向上させることができ、また、樹脂を繰り返して長期間使用することを可能にし、樹脂の寿命を延ばして効率的な分離回収処理を行うことが可能となる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を適用した具体的な実施例と比較例について説明するが、本発明は、これらの実施例や比較例に限定されるものではない。なお、実施例で示した液体と固体の化学分析値は、分析用試料に適切な前処理を施した後、塩素以外の元素はICP発光分析法及びICP質量分析法を用いて分析し、塩素は塩化銀比濁法を用いて分析した。
【0059】
<基礎バッチ試験>
(1)吸着工程
[実施例1]
実施例1では、まず、下記表2に示す濃度の白金族元素及び不純物元素を含有し、塩化物イオン濃度が140g/lであり、酸濃度が3.2規定である塩化物溶液(原液A)を用意した。そして、この原液Aの1Lを、常温のままホウ珪酸ガラス製2Lビーカーに入れ、テフロン(登録商標)製攪拌羽根を用いて攪拌しながら、亜塩素酸ナトリウムを添加することにより、酸化還元電位を銀/塩化銀電極基準で980mVに調整した。
【0060】
次に、ここへポリアミン型アニオン交換樹脂(商品名:Purolite A−830、住友化学工業製)を170g投入し、引き続き常温下で1時間攪拌を継続して、原液A中の白金族元素を樹脂に吸着させた。
【0061】
[比較例1]
比較例1では、下記表2に示す濃度の白金族元素及び不純物元素を含有し、塩化物イオン濃度が100g/lであり、酸濃度が2.3規定である塩化物溶液(原液B)を用意した。そして、実施例1と同様にして、この原液Bの1Lを、常温のままホウ珪酸ガラス製2Lビーカーに入れ、テフロン製攪拌羽根を用いて攪拌しながら、亜塩素酸ナトリウムを添加することにより、酸化還元電位を銀/塩化銀電極基準で990mVに調整した。
【0062】
次に、実施例1と同様にして、ポリアミン型アニオン交換樹脂(商品名:Purolite A−830、住友化学工業製)170gを投入し、原液B中の白金族元素を樹脂に吸着させた。
【0063】
[比較例2]
比較例2では、下記表2に示す濃度の白金族元素および不純物元素を含有し、塩化物イオン濃度が130g/lであり、酸濃度が2.6規定である塩化物溶液(原液C)を用意した。そして、実施例1と同様にして、この原液Cの1Lを、常温のままホウ珪酸ガラス製2Lビーカーに入れ、テフロン製攪拌羽根を用いて攪拌しながら、亜塩素酸ナトリウムを添加することにより、酸化還元電位を銀/塩化銀電極基準で990mVに調整した。
【0064】
次に、実施例1と同様にして、ポリアミン型アニオン交換樹脂(商品名:Purolite A−830、住友化学工業製)170gを投入し、原液B中の白金族元素を樹脂に吸着させた。
【0065】
【表2】
【0066】
表3に、上記実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれの吸着工程における吸着処理後に固液分離して回収した吸着後液中の白金族元素濃度を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
(2)洗浄工程
実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれにおいて、次に、吸着処理後に固液分離して回収した樹脂と1規定塩酸1Lを2Lビーカーに入れて10分間レパルプ洗浄した。そして引き続き、固液分離して回収した樹脂を、再度水1Lとともに2Lビーカーに入れて10分間レパルプ洗浄した。その後、樹脂を固液分離により回収した。
【0069】
(3)溶離工程
実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれにおいて、次に、5.0wt%のチオ尿素水溶液1Lを2Lビーカーに入れ、テフロン製攪拌羽根を用いて攪拌しながら湯煎により70℃に加温した。そして、ここに、洗浄処理後に回収した樹脂を投入し、液温を70℃に保持しながら1時間攪拌を継続し、白金族元素を溶離液中に溶離させた。
【0070】
(4)溶離後に樹脂中に残留する不純物元素量の確認
そして、実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれにおいて、溶離後に樹脂中に残留する不純物元素量を確認するため、溶離処理後に固液分離して回収した樹脂を2Lビーカーに入れ、1Lの水を加えて10分間攪拌した後、固液分離するレパルプ洗浄を2回行うことによって付着液の除去を行った。
【0071】
付着液除去後の回収樹脂を風乾した後、分解して樹脂中に残留する不純物元素を定量分析した。表4に、実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれにおける分析結果を示す。
【0072】
【表4】
【0073】
表4に示されるように、上記実施例1、比較例1及び比較例2について、樹脂中に残留する不純物元素量を比較すると、塩化物溶液の酸濃度が高くなるほど、樹脂中の不純物残留量が低減することが分かる。特に、アンチモン(Sb)に関しては、実施例1のように塩化物溶液の酸濃度を約3.0規定以上とすることにより、酸濃度がそれぞれ2.3規定、2.6規定の比較例1及び比較例2に比べて、樹脂残留量をおおよそ半減できることが分かる。
【0074】
また、実施例1及び比較例1において用いた樹脂について、その断面をEPMA分析した。
図1に、EPMA分析の結果を示す。なお、
図1(A)が実施例1において用いた樹脂断面のEPMA分析結果であり、
図1(B)が比較例1において用いた樹脂断面のEPMA分析結果である。
【0075】
図1に示される分析結果から分かるように、実施例1において用いた樹脂の表面には、塩化物溶液中に含まれていたアンチモン(Sb)はほとんど沈着していないことが分かる(
図1(A))。一方で、比較例1において用いた樹脂では、その表面の色合いが変わっていることから分かるように、たった1回の分離回収操作により、樹脂表面にアンチモンが濃縮沈析し、コーティングされてしまっていることが明確に分かる(
図1(B))。このようにして樹脂表面にアンチモンがコーティングされると、樹脂の内部にまで塩化物溶液が浸透し難くなり、樹脂として機能しなくなり、繰り返しの分離回収処理に用いることができない。
【0076】
なお、この
図1(B)のようにアンチモンが表面にコーティングされた比較例1において用いた樹脂を酸洗浄したが、沈析したアンチモンを除去することはできなかった。
【0077】
<実液カラム試験>
次に、
図2に示す工程図に従って実液カラム試験を行った。
【0078】
まず、銅電解で産出した金を含有する澱物や白金族を含有する中間原料を混合して塩酸酸性溶液のスラリーとし、このスラリー中に公知の方法を用いて塩素ガスを吹き込み、金や白金族を溶液中に浸出させる処理を14バッチ実施した。次いで、ここで得られた浸出液14試料をそれぞれ公知の方法で溶媒抽出に付し、金を抽出して分離し、白金族を含有するイオン交換始液14試料をそれぞれ2Lずつ得た。得られたイオン交換始液は、酸濃度が2.4〜3.4規定の範囲であり、アンチモン濃度が1.0〜1.7g/lの範囲であった。
【0079】
(吸着工程)
次に、ポリアミン型アニオン交換樹脂(商品名:Purolite A−830、住友化学工業製)170gずつ充填させた容量0.2Lの塩ビ製のカラムを2つ用意し、これを直列に接続して、白金族元素含有イオン交換始液2Lを連続給液する試験を、各イオン交換始液毎に計14回実施した。給液は毎分33ml(SV≒10)とし、2段目のカラムから排出された液が1段目のカラムに供給するように配管設計し、2時間かけて循環させた。循環後、カラムからイオン交換終液を回収した。
【0080】
(洗浄工程)
続いて、カラムからイオン交換樹脂を取り出し、これに濃度1規定の塩酸2Lとともに5Lビーカーに入れ、10分間レパルプ洗浄した。そして引き続き、固液分離して回収したイオン交換樹脂を、再度水2Lとともに5Lビーカーに入れて10分間レパルプ洗浄した。その後、イオン交換樹脂を固液分離により回収した。
【0081】
(溶離工程)
次に、5.0wt%のチオ尿素水溶液1Lを5Lビーカーに入れ、テフロン製攪拌羽根を用いて攪拌しながら湯煎し液温を70℃に維持した。ここに、洗浄工程にて洗浄したイオン交換樹脂を投入し、液温を70℃に保持しながら1時間攪拌を継続し、イオン交換樹脂に吸着していた白金族元素を溶離液中に溶離させた。
【0082】
その後、溶離後のイオン交換樹脂を5Lビーカーに入れ、2Lの純水を加えて10分間攪拌し、固液分離するレパルプ洗浄を2回繰り返した。
【0083】
上述した方法において用いられたイオン交換樹脂について、アンチモンの蓄積率を測定し、イオン交換始液の酸濃度との関係を調査した。なお、アンチモン蓄積率は、「イオン交換始液のアンチモン濃度−イオン交換終液中のアンチモン濃度」/「イオン交換始液のアンチモン濃度」で算出した。
図3に、測定結果を示す。
【0084】
図3に示されるように、酸濃度が上昇するほどアンチモンの蓄積率が低減しており、好ましい結果が得られた。例えば、酸濃度2.6規定と3.0規定とを比較すると、アンチモンの蓄積率は約8%も低減できることが分かる。一方で、酸濃度が3.0規定未満では、アンチモン蓄積率が徐々に高くなっていき、蓄積率が25〜30%程度よりも高くなっていることが分かる。