特許第5786711号(P5786711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許5786711アクリル樹脂組成物及びアクリル樹脂成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786711
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】アクリル樹脂組成物及びアクリル樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 265/06 20060101AFI20150910BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C08F265/06
   C08L51/06
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-501837(P2011-501837)
(86)(22)【出願日】2010年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2010073595
(87)【国際公開番号】WO2011078380
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2009-295515(P2009-295515)
(32)【優先日】2009年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】山口 優子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 純一
(72)【発明者】
【氏名】末村 賢二
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−101748(JP,A)
【文献】 特開2004−002665(JP,A)
【文献】 特開2006−249198(JP,A)
【文献】 特開2003−128735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 265/06
C08L 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートから選ばれるいずれか1種又は2種以上と、グラフト交叉剤とを重合して得られた弾性重合体の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有する単量体を重合して得られたアクリル樹脂組成物であって、次の条件(1)(2)、(3)及び(4)を満足するアクリル樹脂組成物。
(1)ASTM D−1238に従い温度230℃及び荷重5kgの条件で測定したメルトフローインデックスが5g/10min.以上である。
(2)JIS Z 8722(色の測定方法−反射及び透過物体色)の幾何条件aに従いC/2°光源を用いて試験片について測定したW値が、試験片の引張試験前後において、その差が4以下である。試験片は、アクリル樹脂組成物を厚さ75μm幅20mmに成形したフィルムであり、引張試験は初期チャック間距離25mmとし、温度23℃において、引張速度500mm/min.で、終点のチャック間距離45mmまで行う。
(3)アクリル樹脂組成物中のアセトン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した重量平均分子量の値が30000以上50000以下である。
(4)下記式により算出したゲル含有率の値が53%以上63%以下である。
G=(m/M)×100
(式中、G(%)はゲル含有率を示し、Mは所定量のアクリル樹脂組成物の質量を示し、mは該所定量のアクリル樹脂組成物中のアセトン不溶分の質量を示す。)
【請求項2】
請求項記載のアクリル樹脂組成物を用いて得られるアクリル樹脂成形体。
【請求項3】
形状がフィルム状である請求項2記載のアクリル樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形性に優れ、白化が抑制され、機械的強度が高い成形体を成形し得るアクリル樹脂組成物や、その成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂は、例えば、乳化重合法などによりポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル含有アクリルゴム等の重合体を含有するラテックスを製造し、得られたラテックスに、塩析、酸析凝固、噴霧乾燥、又は凍結乾燥等の処理を行い、粉体状の重合体を分離又は回収することにより製造される。粉体状の熱可塑性樹脂は、配合剤を添加され、単軸押出機や二軸押出機などで溶融され、ストランド状に押出され、このストランドをコールドカット法やホットカット法などでカットされペレットに形成される。その後、ペレットを所望の形状に成形して成形体を製造する。成形体は、例えば自動車分野、電気・電子機器分野、プリンタ等のOA機器をはじめとする種々の分野において広く用いられている。特にアクリル樹脂の成形体は透明性に優れ、美しい外観と耐候性を有することから、電器部品、車輌部品、光学用部品、装飾品、看板などの用途に幅広く用いられている。中でもフィルム状のアクリル樹脂成形体(以下「アクリル樹脂フィルム」と記す)は、透明性、耐候性、柔軟性、加工性に優れているという特性を有することから、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品の表面に積層され、外観の向上に寄与している。
【0003】
この種のアクリル樹脂フィルム用原料として、これまでに様々の樹脂組成物が提案され、実用化されている。このうち、特に耐候性、透明性に優れ、かつ耐折り曲げ白化性等の耐ストレス白化性に優れたアクリル樹脂フィルムを与える原料として、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を多段重合して得られる特定構造を有する重合体が知られている(特許文献1、2)。この多段重合体を原料として成形したアクリル樹脂フィルムは、特に性能が優れることから、車輌内装や、家具や、ドア材、窓枠、巾木、浴室内装等の建材の、表皮材、マーキングフィルム、高輝度反射材被覆用フィルム等に好適に使用されている。
【0004】
また、フィッシュアイ由来の印刷抜けが少なく、各種印刷柄に対応可能な高いレベルの印刷適合性を有する光学用フィルムに使用可能な多段重合体およびその製造方法が提案されている(特許文献3)。更に、溶融押出が容易で生産性に優れ、外観が良好な樹脂成形体を成形可能な乳化重合ラテックスの製造方法、粉体の製造方法および樹脂成形体が提案されている(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1〜4で提案されている樹脂組成物やその製造方法を用いてアクリル樹脂フィルムを製造する場合、流動性が低く、溶融粘度が高いため、溶融押出の圧力が高くなり、樹脂の吐出量が小さくなる。このため、生産速度が低く、樹脂が成形機内に滞留して劣化したり、長時間にわたってフィルム成形などの溶融押出をすることができないという問題がある。
【0006】
そこで、樹脂組成物の流動性を高く、溶融粘度を低くするために、分岐状の重合体の分子量を低下させる方法や、分岐状の重合体と直鎖状重合体を混合する方法も報告されている(特許文献5)。
【0007】
しかしながら、分岐状の重合体の分子量を単に低下させたものを含有する樹脂組成物は機械的強度が低く、特にフィルムに成形する際、成形時に破断が生じる場合がある。また、立体形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に、直接、樹脂成形体のフィルムを積層したり、あるいは、この樹脂成形体のフィルムを平面状の樹脂シートに積層した後、これを三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層する際に、破断や割れが生じるだけでなく、白化が生じて意匠性が損なわれる場合がある。
【0008】
また、分岐状重合体と直鎖状重合体を混合して製造されるアクリル樹脂成形体の曲げ強度は、分岐状重合体のみから製造されるアクリル樹脂成形体の曲げ強度と同等以上であっても、アクリル樹脂成形体がフィルムの場合にはこの限りでなく、機械強度が低下し、フィルムの成形時に破断が生じる場合がある。また、アクリル樹脂フィルムを直接、あるいは、平面状の各種樹脂シートに積層後、これを三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層形成する際に、破断や割れが生じるだけでなく、白化が生じて意匠性が損なわれる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭62−19309号公報
【特許文献2】特公昭63−8983号公報
【特許文献3】特開2003−128735号公報
【特許文献4】特開2006−249198号公報
【特許文献5】特開平9−157477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、流動性が高く、溶融粘度が低く、成形機内で滞留することなく、高速で長時間にわたって、連続成形を行うことができ、また、外観、機械的強度等の本来の性質を損なうことがなく、白化の発生を抑制した成形体が得られるアクリル樹脂組成物、及びその成形体を提供することにある。特に、直接、あるいは、平面状の各種樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層する際に、破断や割れが生じることがなく加工性も良好で、また白化が生じることがなく、意匠性も良好な、フィルム状成形体に好適なアクリル樹脂組成物、及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートから選ばれるいずれか1種又は2種以上と、グラフト交叉剤とを重合して得られた弾性重合体の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有する単量体を重合して得られたアクリル樹脂組成物であって、次の条件(1)及び(2)を満足するアクリル樹脂組成物。
(1)ASTM D−1238に従い温度230℃及び荷重5kgの条件で測定したメルトフローインデックスが5g/10min.以上である。
(2)JIS Z 8722(色の測定方法−反射及び透過物体色)の幾何条件aに従いC/2°光源を用いて試験片について測定したW値が、試験片の引張試験前後において、その差が4以下である。試験片は、アクリル樹脂組成物を厚さ75μm幅20mmに成形したフィルムであり、引張試験は初期チャック間距離25mmとし、温度23℃において、引張速度500mm/min.で、終点のチャック間距離45mmまで行う。
【0012】
また、本発明は、更に、次の条件(3)及び(4)を満足するアクリル樹脂組成物に関する。
(3)アクリル樹脂組成物中のアセトン可溶分のゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した重量平均分子量の値が30000以上50000以下である。
(4)下記式により算出したゲル含有率の値が53%以上、63%以下である。
【0013】
G=(m/M)×100
(式中、G(%)はゲル含有率を示し、Mは所定量のアクリル樹脂組成物の質量を示し、mは該所定量のアクリル樹脂組成物をアセトンに溶解したアセトン溶液を還流により抽出し、この抽出液を遠心分離して得られるアセトン不溶分の質量を示す。)
また、本発明は、上記アクリル樹脂組成物を用いて得られるアクリル樹脂成形体に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアクリル樹脂組成物は、流動性が高く、溶融粘度が低く、成形機内での滞留が少なく、高速で長時間にわたって、連続成形を行うことができ、加工性に優れる。また、本発明のアクリル樹脂組成物を用いると、外観、機械的強度等の本来の性質を損なわず、白化の発生を抑制した成形体を得ることができる。特に、フィルム状に成形した本発明のアクリル樹脂成形体は、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品や、金属成形品の表面に直接積層したり、平面状の各種樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層する際に、破断や割れが生じることがなくで、また白化が生じることがなく、意匠性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のアクリル樹脂組成物は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートから選ばれるいずれか1種以上と、グラフト交叉剤とを重合して得られた弾性重合体の存在下で、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを含有する単量体を重合して得られたアクリル樹脂組成物である。
【0016】
本発明に用いる弾性重合体(以下、弾性重合体(A)ともいう。)を構成する単量体としての炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(以下、アルキルアクリレート(A1)ともいう。)は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ガラス転移温度(以下「Tg」と記す)が低いものが好ましく、n−ブチルアクリレートが好ましい。ガラス転移温度が低ければ、アクリル樹脂組成物は好ましい耐衝撃性を有し、また容易に成形することができる。
【0017】
弾性重合体(A)を構成する単量体としての炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(以下、アルキルメタクリレート(A2)ともいう。)は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等を挙げることができる。これらは一種を用いてもよく、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記アルキルアクリレート(A1)と、アルキルメタクリレート(A2)とは、弾性重合体を得る単量体として、いずれか一方のみを用いてもよく、双方を組み合わせて用いてもよいが、アルキルアクリレート(A1)が50質量%以上であることが好ましい。
【0019】
上記弾性重合体(A)を構成する単量体として、アルキルアクリレート(A1)及び/又はアルキルメタクリレート(A2)の他、二重結合を有する単量体(A3)や、多官能性単量体(A4)を用いることができる。
【0020】
(A1)及び(A2)以外の二重結合を有する単量体(A3)としては、例えば、炭素数9以上のアルキル基を有する高級アルキルアクリレート、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート等のアクリレート単量体、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができる。
【0021】
また、多官能性単量体(A4)は、得られる成形体にゴム弾性を付与するものに限定されず、耐熱性等が厳しく要求される場合など、成形体の使用目的に応じて、適宜用いることができる。多官能性単量体(A4)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等も使用できる。
【0022】
弾性重合体を構成するこれらの単量体の使用割合は、アルキルアクリレート(A1)とアルキルメタクリレート(A2)との合計の単量体が、(A1)〜(A4)の合計の単量体100質量%に対し、80〜100質量%、単量体(A3)が0〜20質量%、多官能性単量体(A4)が0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0023】
上記単量体(A1)〜(A4)で形成される重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であることが好ましく、−30℃以下が更に好ましい。上記単量体(A1)〜(A4)で形成される重合体のTgが0℃以下であれば、得られる成形体において耐衝撃性を有する。Tgは、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出することができる。以下、TgはFOXの式から算出された値を意味する。
【0024】
上記弾性重合体(A)を構成するグラフト交叉剤は、アルキルアクリレート(A1)及び/又はアルキルメタクリレート(A2)と架橋を形成し重合体にゴム弾性を付与すると共に、後述する硬質重合体間に架橋を形成する。グラフト交叉剤としては、共重合性のα、β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等を挙げることができる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、又はフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらの中では、特にアリルメタクリレートが優れた効果を奏する。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。グラフト交叉剤は、主としてそのエステルの共役不飽和結合部分がアリル基、メタリル基またはクロチル基のエステル結合部分よりはるかに高い反応性を有し、化学的結合を形成する。グラフト交叉剤の使用量は、弾性重合体(A)を構成する単量体(A1)〜(A4)の合計量100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましく、0.3〜2質量部がより好ましい。
【0025】
弾性重合体(A)は2段以上に分けて重合してもよい。その場合、組成の異なる単量体混合物を重合してもよい。2段以上に分けて重合することで最終的に得られるアクリル樹脂組成物の粒子系の制御が容易になる。
【0026】
上記単量体を構成成分とする弾性重合体(A)は、乳化重合、懸濁重合等によって得ることができる。乳化重合による場合、乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を用いることが好ましい。乳化剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤が使用でき、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン酸石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ヂオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等を用いることができる。また乳化液を調製する方法としては、水中に単量体混合物を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体混合物を投入する方法、単量体混合物中に界面活性剤を仕込んだ後水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体混合物を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法や、水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体混合物を投入する方法が特に好ましい。
【0027】
ラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いることができる。この中でレドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。またその添加方法は水相、単量体相いずれか片方、または双方に添加する方法を用いることができる。
【0028】
連鎖移動剤としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等を用いることができる。
【0029】
重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは、60〜95℃である。
【0030】
上記弾性重合体(A)の存在下で、重合を行う単量体(以下、単量体(b)ともいう)に含有される炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(アルキルメタクリレート(B1)ともいう。)は、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。アルキルメタクリレート(B1)としては、具体的には、弾性重合体(A)の構成単量体のアルキルメタクリレート(A2)と同様のものを例示することができ、一種又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
更に、単量体(b)として、アルキルメタクリレート(B1)の他、(B1)以外の二重結合を有する単量体(B2)を用いることができる。これらの二重結合を有する単量体は、具体的には、弾性重合体における単量体(A1)又は(A3)と同様のものを例示することができる。
【0032】
単量体(b)のみを重合して得られる硬質重合体(B)のTgは60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。かかる重合体が上記Tgを有することにより、成形性に優れるアクリル樹脂組成物及び機械的強度を有する成形体を得ることができる。硬質重合体(B)は2段以上に分けて重合してもよい。その場合、組成の異なる単量体混合物を重合してもよい。
【0033】
上記アクリル樹脂組成物中、弾性重合体(A)の使用量は、20〜60質量%であることが好ましい。弾性重合体(A)の使用量が20質量%以上であれば、得られる成形体において機械強度の向上を図ることができ、割れを抑制することができる。特にフィルム状の成形体の場合、成形時の破断を抑制することができ、直接あるいは、各種樹脂シートに積層し、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に積層する場合にも、破断や割れ、白化が抑制され、意匠性の高い成形体を成形することができる。また、弾性重合体(A)の使用量が60質量%以下であれば、流動性が低くなるのを抑制し、溶融粘度が高くなるのを抑制して、樹脂が成形機内で滞留することを抑制することができる。また、高速で長時間に亘って連続成形を行うことができる。弾性重合体(A)の存在下で重合するアルキルメタクリレート(B1)及び(B1)以外の単量体(B2)の使用量は、アクリル樹脂組成物100質量%中に、40〜80質量%であることが好ましい。
【0034】
弾性重合体(A)の存在下で行う単量体(b)の重合反応は、弾性重合体(A)の重合反応終了後、得られた重合液をそのまま用いて、単量体(b)を添加して、引き続き重合を行うことが好ましい。また乳化剤、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤としては、弾性重合体(A)を重合する際に使用するものと同様のものを例示することができる。また連鎖移動剤の使用量は、単量体(b)100質量部に対して、0.5〜0.8質量部が好ましく、より好ましくは0.7〜0.8質量部である。弾性重合体(A)の重合液を用いる場合は、これらは新たに添加しなくてもよい場合もある。
【0035】
弾性重合体(A)の重合反応終了後重合を行う単量体(b)の重合を行なう前に、弾性重合体(A)を構成する単量体の組成から、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートの含有量を徐々に減じ、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートの含有量を徐々に増加させた組成の単量体を順次重合して重合体(中間重合体(C)ともいう。)を得る工程を含むことが好ましい。中間重合体(C)を含有することによって、アクリル樹脂組成物の透明度を向上させ、またアクリル樹脂組成物をフィルム状に成形した場合において、フィルムのストレス白化を抑制し、意匠性をより向上させることができる。炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(C1)と、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C2)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C3)と、必要に応じて用いる多官能性単量体(C4)と、グラフト交叉剤とを中間重合体(C)の構成成分とすることが好ましい。成分(C1)〜(C4)及びグラフト交叉剤の具体例は、それぞれ弾性重合体(A)の成分(A1)〜(A4)及びグラフト交叉剤と同様である。成分(C1)〜(C4)の合計を100質量%とした各成分の好ましい使用量は、成分(C1)が10〜90質量%、成分(C2)は10〜90質量%、成分(C3)は0〜20質量%、成分(C4)は0〜10質量%が好ましい。グラフト交叉剤の使用量は成分(C1)〜(C4)の合計を100質量部とした場合0.1〜2質量部が好ましい。
【0036】
アクリル樹脂組成物中の中間重合体(C)の比率は0〜35質量%であることが好ましく、5〜20%がより好ましい。アクリル樹脂組成物に中間重合体(C)が含有される場合、弾性重合体(A)/中間重合体(C)/硬質重合体(B)の比率は25〜40質量%/5〜20質量%/40〜70質量%が好ましい。
【0037】
乳化重合方法を用いた場合、重合反応終了後のラテックスからアクリル樹脂組成物を粉体として回収する。粉体としてアクリル樹脂組成物を回収する方法としては、具体的には、ラテックスを金属塩水溶液と接触させて凝固、あるいは塩析し、固液分離後、重合体の1〜100質量倍程度の水でこれを洗浄し、ろ別などの脱水処理により湿潤状の粉体とし、さらに、この湿潤状の粉体を圧搾脱水機や、流動乾燥機などの熱風乾燥機で乾燥させる方法を用いることができる。その他、スプレードライ法によりラテックスを直接乾燥させてもよい。重合体の乾燥温度、乾燥時間は重合体の種類によって適宜決定できる。
【0038】
アクリル樹脂組成物の凝固に使用する凝固剤としては、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、ギ酸カリウム、ギ酸カルシウム等の有機塩や、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム等の無機塩等を挙げることができる。これらのうち酢酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム塩が好ましい。特に粉体を成形した樹脂成形体の耐温水白化性の点、また、回収される粉体の含水率を低くする点で酢酸カルシウムが好ましい。凝固剤は一種を用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。凝固剤は、通常、水溶液として用いられるが、凝固剤、好ましくは酢酸カルシウムの水溶液の濃度は、安定してアクリル樹脂組成物を凝固、回収できることから、0.1質量%以上、特に1質量%以上であることが好ましい。また、凝固剤、好ましくは酢酸カルシウムの水溶液の濃度は、回収したアクリル樹脂組成物に残存する凝固剤の量が少なく、特に耐温水白化性、着色性などの樹脂成形体の性能をほとんど低下させないことから、20質量%以下、特に15質量%以下であることが好ましい。また、酢酸カルシウムの濃度が20質量%を越えると10℃以下では飽和により酢酸カルシウムが析出することがある。
【0039】
ラテックスを凝固剤に接触させる方法は、例えば、凝固剤の水溶液を攪拌しながら、そこにラテックスを連続的に添加して一定時間攪拌を継続する方法や、凝固剤の水溶液とラテックスとを一定の比率で攪拌機付きの容器に連続的に注入しながら接触させ、凝固したアクリル樹脂組成物と水とを含む混合物を容器から連続的に抜き出す方法等が挙げられる。凝固剤の水溶液の量は、アクリル樹脂組成物ラテックス100質量部に対して10質量部以上であることが好ましく、500質量部以下であることが好ましい。凝固工程の温度は30℃以上であることが好ましく、また、100℃以下であることが好ましい。
【0040】
アクリル樹脂組成物のアセトン可溶分の重量平均分子量は、30000〜50000が好ましく、35000〜45000がより好ましい。重量平均分子量が30000以上であれば、取り扱いが容易で、機械的強度が高く、割れの発生が抑制された成形体を得ることができる。特に成形体がフィルム状の場合は、直接又は樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に積層する際、破断や割れ、白化が抑制され、外観不良が生じるのを抑制することができる。また重量平均分子量が50000以下であれば、アクリル樹脂組成物の流動性が高く、溶融粘度を低く抑えることができ、成形機内での滞留が少ない。また、溶融押出時の圧力が低く、高速で、長時間に亘って連続成形することができる。
【0041】
ここで重量平均分子量は、アクリル樹脂組成物中のアセトン可溶分についてゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定した測定値である。具体的には、以下の方法による測定値を採用することができる。
(1)アクリル樹脂組成物1gをアセトン50gに溶解させ、70℃で6時間還流させてアセトン可溶分を抽出する。
(2)得られた抽出液を、CRG SERIES((株)日立製作所製)を用いて、4℃において、14000rpm、30分間遠心分離を行う。
(3)アセトン不溶分をデカンテーションで取り除き、真空乾燥機にて50℃で、24時間乾燥させて得られたアセトン可溶分について、以下の条件でGPC測定を行い、標準ポリスチレンによる検量線から質量平均分子量を求める。
【0042】
装置:東ソー(株)製「HLC8220」
カラム:東ソー(製)「TSKgel SuperMultiporeHZ−H」 (内径4.6mm×長さ15cm×2本、排除限界4×107(推定))
溶離液:テトラヒドロフラン
溶離液流量:0.35ml/分
測定温度:40℃
試料注入量 10μl(試料濃度0.1%)
アセトン可溶分のアクリル樹脂組成物の重量平均分子量は、重合時に連鎖移動剤の量を適宜調整することによって調整することができる。連鎖移動剤は硬質重合体(B)の重合時に混在させることが好ましい。
【0043】
上記アクリル樹脂組成物のゲル含有率は53質量%以上63質量%以下であることが好ましい。55質量%以上61質量%以下であることがより好ましい。ゲル含有率が53質量%以上であれば、得られる成形体の機械的強度が高く、取扱いが容易である。またゲル含有率が53質量%以上であれば、成形体がフィルムの場合にも、各種樹脂成形体等の表面への積層も容易であり、白化が抑制され、意匠性にも優れる。また、ゲル含有率が63質量%以下であれば、成形時の流動性が高く、連続成形を可能とする。
【0044】
ここでアクリル樹脂組成物のゲル含有率は、下記式により算出して求めることができる。
【0045】
G=(m/M)×100
式中、G(%)はゲル含有率を示し、Mは所定量(抽出前質量ともいう。)のアクリル樹脂組成物を示し、mは該所定量のアクリル樹脂組成物のアセトン不溶分の質量(抽出後質量ともいう。)を示す。
【0046】
具体的には、抽出前質量Mとして1gのアクリル樹脂組成物をアセトン50gに溶解したアセトン溶液を、70℃で6時間還流させる。得られた抽出液に対し、CRG SERIES((株)日立製作所製)を用いて、4℃において、14000rpm、30分間遠心分離を行う。溶液をデカンテーションで取り除き、残存した固体を得る。この固体に対し、還流、遠心分離、デカンテーションを再度繰り返し、得られた個体を50℃で24時間乾燥して得られたアセトン不溶分の質量を、抽出後質量mとして測定する。抽出前質量M及び抽出後質量mから上記式によりゲル含有率G(%)を算出する。
【0047】
上記アクリル樹脂組成物は、アセトン可溶分の重量平均分子量が30000以上50000以下であり、ゲル含有率が53%以上63%以下であることが好ましい。アセトン可溶分の重量平均分子量が50000以上であっても、ゲル含有率が40質量%以下であれば流動性が高く、溶融粘度を低く抑えることができ、成形機内での滞留が少ない。また、溶融押出時の圧力が低く、高速で、長時間に亘って連続成形することができる。しかしながら、得られる成形体の機械的強度が低く、特に成形体がフィルム状の場合は取り扱いが困難で、直接又は樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に積層する際、破断や割れが頻繁に発生する。
【0048】
上記アクリル樹脂組成物は、ASTM D−1238に従い温度230℃及び荷重5kgの条件で測定したメルトフローインデックス(MFI)が5g/10min.以上である。メルトフローインデックスが5g/10min.であれば、成形時の流動性が高く、溶融粘度が低いため、高速で長時間に亘って連続成形することができる。MFIは6g/10min.以上であることがより好ましく、7g/10mni.以上であることが更に好ましい。
【0049】
また、上記アクリル樹脂組成物は、JIS Z 8722(色の測定方法−反射及び透過物体色)の幾何条件aに従いC/2°光源を用いて試験片について測定したW値が、試験片の引張試験前後において、その差が4以下である。試験片は、アクリル樹脂組成物を厚さ75μm幅20mmに成形したフィルムであり、引張試験は初期チャック間距離25mmとし、温度23℃において、引張速度500mm/min.で、終点のチャック間距離45mmまで行う。引張試験前後におけるW値の差が4以下であれば、このアクリル樹脂組成物を用いて成形したフィルムは、直接、あるいは平面状の各種樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形体、木工製品や金属成形品の表面に積層する際、白化が抑制され、意匠性に優れる。引張試験前後におけるW値の差は3以下が好ましく、1以下がより好ましい。
【0050】
上記アクリル樹脂組成物は、厚さ50μm、幅15mmに成形した試験片について、引張試験での破断伸度がMD方向、TD方向いずれも100%以上であることが、加工性の点から好ましい。引張試験は、初期のチャック間距離50mm、引張速度50mm/min.、温度23℃で行う。破断伸度は120%以上であることがより好ましく、更に好ましくは、140%以上である。破断伸度が100%以上であれば、三次元形状の各種樹脂成形体等への積層時に、破断や割れの発生を抑制することができる。
【0051】
アクリル樹脂組成物は配合剤を含有していてもよい。配合剤としては、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、熱可塑性重合体等を挙げることができる。これらの配合剤は、乳化重合により得られる重合液のラテックスに添加し、配合剤と重合体の混合物を粉体化することもでき、また、ラテックスの粉体化後に混合してもよい。更に、成形体を製造する成形機に付随する混練機に、ラテックスを粉体化したものと共に供給し、混練混合しアクリル樹脂組成物とすると共に、成形体を成形してもよい。成形機に付随する混練機としては、単軸押出機、二軸押出機等を用いることができる。
【0052】
本発明のアクリル樹脂成形体は、上記アクリル樹脂組成物を用いて得られるものであれば、フィルム、シート、三次元構造体等いずれであってもよい。特に好ましくはフィルム状である。具体的には、農業用ビニルハウス、マーキングフィルム、ポスター、壁紙、発泡シート、屋外用塩ビレザー、塩ビ鋼板の屋根材およびサイディング材等の外壁建材、自動車内外装、家具等の塗装代替、エレベーター内装、雨樋、床材、波板、化粧柱、照明、浴室や台所等の水周り部材の被膜材が挙げられる。その他には、断熱フィルム、液晶ディスプレイなどの偏光板に使用される偏光膜保護フィルム、視野角補償、位相差補償のための位相差板に使用される位相差フィルム等が挙げられる。ここで、フィルムは、一般に、フィルムより厚さが厚いシートを含む。
【0053】
アクリル樹脂組成物の成形方法としては、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、金型成形、圧縮成形等を挙げることができる。溶融温度としては、200〜280℃であることが好ましい。
【0054】
アクリル樹脂組成物をフィルムに成形する方法としては、溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられ、これらの中でも、Tダイ法が経済性の点で最も好ましい。フィルムの厚さは、例えば、10〜500μmが好ましく、15〜200μmがより好ましく、40〜200μmが更に好ましい。フィルムの厚さが10〜500μmであると、適度な剛性を有し、また、ラミネート性、二次加工性等が良好になる。
【0055】
アクリル樹脂フィルムはそのままで各種用途に使用しても、適宜基材に積層して使用してもよい。透明なアクリル樹脂フィルムを基材に積層すれば、クリア塗装の代替として用いることができ、基材の色調を生かすことができる。このように基材の色調を生かす用途においては、アクリル樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフィルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。アクリル樹脂フィルムを積層する基材としては、各種樹脂や金属からなる成形品、木工製品等を挙げることができる。基材が樹脂である場合、アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能な熱可塑性樹脂が好ましく、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂を挙げることができる。これらのなかでは、接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂あるいはこれらの樹脂を主成分とする樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂等の溶融接着し難い樹脂からなる基材の場合には、適宜接着層を設けてからアクリル樹脂フィルムを積層してもよい。
【0056】
基材が二次元形状であって、その基材が熱融着可能な材質である場合には、熱ラミネーション等の方法により基材とアクリル樹脂フィルムとを積層することができる。熱融着が困難な材質の基材に対しては、接着剤を用いたり、アクリル樹脂フィルムの片面を粘着加工して積層すればよい。基材が三次元形状である場合には、予め所定の形状に加工したアクリル樹脂フィルムを射出成形用金型に挿入するインサート成形法、金型内で真空成形後、射出成形を行うインモールド成形法等の成形方法により基材とアクリル樹脂フィルムとを積層できる。これらの中でもインモールド成形法は、アクリル樹脂フィルムを真空成形により、三次元形状に成形した後、その成形体の中に、射出成形により基材の原料となる樹脂を流し込み一体化させるので、表層にアクリル樹脂フィルムを有する積層体を容易に得ることができ好ましい。また、アクリル樹脂フィルムの成形と射出成形とを一工程で行うことができ、作業性、経済性に優れている点からも好ましい。インモールド成形法における加熱温度は、アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上で、例えば、70〜170℃であることが好ましい。70℃以上であれば、良好な成形を行うことができ、170℃以下であれば、得られた成形体の表面外観や離型性が優れる。
【0057】
アクリル樹脂フィルムが、基材の保護を少なくとも目的の1つとして、基材に積層される場合には、アクリル樹脂フィルムには耐候性付与のために、紫外線吸収剤が添加されることが好ましい。好ましい紫外線吸収剤の分子量は300以上であり、より好ましくは400以上である。分子量が300以上の紫外線吸収剤を使用すると、例えば、フィルムを製造する際に転写ロール等に樹脂が付着して、ロール汚れ等の不具合の発生を抑制することができる。紫外線吸収剤の種類としては、分子量400以上のベンゾトリアゾール系、トリアジン系のものが特に好ましく、前者の具体例としては、BASFジャパン(株)のチヌビン234、旭電化工業(株)のアデカスタブLA−31RG、後者の具体例としては、BASFジャパン(株)のチヌビン1577等を挙げることができる。
【0058】
アクリル樹脂フィルムの表面には、必要に応じて、各種機能付与のためのコーティング等の表面処理を施すことができる。機能付与のための表面処理としては、シルク印刷、インクジェットプリント等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着、スパッタリング、湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止、あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、反射防止層形成、防眩処理、艶消し処理等を挙げることができる。印刷処理としては、アクリル樹脂フィルムの片面に印刷をする片側印刷処理が好ましい。アクリル樹脂フィルムを基材の表面に積層させる場合には、印刷面を基材との接着面に配した裏面印刷が、印刷面の保護や高級感の付与の点から好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。以下、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。略号は以下のものを示す。
MMA メチルメタクリレート
MA メチルアクリレート
n−BA n−ブチルアクリレート
1,3−BD 1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
AMA アリルメタクレート
CHP クメンハイドロパーオキサイド
RS−610NA モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム(フォスファノールRS−610NA:東邦化学(株)製)
n−OM n−オクチルメルカプタン
t−BH t−ブチルハイドロパーオキサイド
EDTA エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム。
【0060】
[実施例1]
攪拌機を備えた容器に、脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部及びCHP0.025部の単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながらRS−610NA1.1部を上記の容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
【0061】
次に、冷却器付き重合容器内内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。更に、この重合容器内に、脱イオン水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間に亘って重合容器内に滴下した後、15分間反応を継続させ、第一弾性重合体(A1)の重合を完結した。続いて、MMA1.8部、n−BA27.0部、1,3−BD1.2部及びAMA0.30部の単量体成分を、CHP0.019部と共に、90分間に亘って重合容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、第二弾性重合体(A2)の重合を完結した。続いて、MMA6部、n−BA4部及びAMA0.075部の単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間に亘って重合容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間重合体(C)を形成させた。第一弾性重合体(A1)単独のTgは−48℃、第二弾性重合体(A2)単独のTgは−48℃、中間重合体(C)単独のTgは20℃であった。
【0062】
続いてMMA50.6部、n−BA4.4部、n−OM0.40部及びt−BH0.07部の単量体成分((B)成分)を140分間に亘って重合容器内に滴下した後、60分間反応を継続させ、ラテックス状アクリル樹脂組成物を得た。B成分の重合体のTgは84℃であった。また、重合後に測定したラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0063】
得られたラテックス状樹脂組成物を、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状アクリル樹脂組成物を得た。この粉体状アクリル樹脂組成物のゲル含有率と重量平均分子量を以下の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0064】
次に粉体状アクリル樹脂組成物100部と、配合剤としてアデカスタブLA−31RG(旭電化(株)製)1.9部、アデカスタブLA−57(旭電化(株)製)0.3部、イルガノックス1076(BASFジャパン(株)製)0.1部、メタブレンP551A(三菱レイヨン(株)製)2部とをヘンシェルミキサーを用いて混合し、この粉体状混合物を脱気式押出機(TEM−35:東芝機械(株)製)を用いてシリンダー温度200〜240℃、ダイ温度240℃で溶融混練して、ペレットを得た。得られたペレットについてメルトフローインデックス(MFI)を、以下の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0065】
上記ペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mm口径のノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度80℃で厚み50μm及び75μmのフィルムを成形した。押出機での樹脂圧、厚み75μmのフィルムの引張試験前後でのW値の差、厚み50μmのフィルムの引張特性を以下の方法により測定した。結果を表2に示す。
【0066】
[ゲル含有率]
上記方法により算出した。
【0067】
[重量平均分子量]
上記方法により算出した。
【0068】
[流動性]
ペレットを230℃に加熱し4分経過後、メルトインデクサー(L243)((株)テクノ・セブン製)を用いて、荷重49NでMFIを測定した。
【0069】
[耐引張白化性]
厚み75μmのフィルムを幅20mmに切断し試験片を作製した。ストログラフT(東洋精機製作所(株)製)を用いて、初期のチャック間距離25mm、引張速度500mm/min.温度23℃及び終点のチャック間距離45mmで縦方向(Machine Direction:MD方向)に引張試験をした。引張試験前後において、JIS Z 8722(色の測定方法−反射及び透過物体色)幾何条件aに従い、色差計(SE−2000)(日本電色工業(株)製)でC/2°光源を用いてW値を測定し、その差を求めた。
【0070】
[引張特性]
厚み50μmのフィルムを幅15mmに切断し試験片を作製した。この試験片について、JIS K7161−1994に従い、ストログラフT(東洋精機製作所(株)製)を用いて、初期のチャック間距離50mm、引張速度50mm/min.、温度23℃で、試験片が破断するまでMD方向、横方向(Traverse Direction:TD方向)にそれぞれ引っ張り、破断伸度を測定した。
【0071】
[平均粒子径]
ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径について、光散乱光度計(DLS−700)(大塚電子(株)製)を用い、動的光散乱法で測定して求めた。
【0072】
[ガラス転位温度]
アクリル樹脂組成物中に含まれる第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)等のガラス転移温度(Tg)はポリマーハンドブック[Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)]に記載されているホモポリマーの値を用いてFOXの式から算出した。
【0073】
[実施例2]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA2.1部、n−BA31.5部、1,3−BD1.4部及びAMA0.35部、CHP0.022部とし、(B)成分をMMA46.0部、n−BA4.0部、n−OM0.40部及びt−BH0.06部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、(B)成分から算出されるそれぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0075】
[実施例3]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部、CHP0.016部とし、(B)成分をMMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.30部及びt−BH0.08部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、(B)成分から算出されるそれぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0077】
[実施例4]
硬質重合体(B)成分をMMA50.6部、n−BA4.4部、n−OM0.30部及びt−BH0.07部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
[比較例1]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部、CHP0.016部とし、(B)成分をMMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.20部及びt−BH0.08部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0079】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、(B)成分から算出されるそれぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0080】
[比較例2]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部、AMA0.25部及びCHP0.016部とし、中間重合体(C)の成分をMMA6.0部、n−BA4.0部、AMA0.025部及びCHP0.0125部、(B)成分をMMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.30部及びt−BH0.08部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0081】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、硬質重合体(B)それぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0082】
[比較例3]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA2.1部、n−BA31.5部、1,3−BD1.4部、AMA0.35部及びCHP0.022部とし、(B)成分をMMA46.0部、n−BA4.0部、n−OM0.30部及びt−BH0.06部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0083】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、(B)成分から算出されるそれぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0084】
[比較例4]
中間重合体(C)の成分をMMA6.0部、n−BA4.0部、AMA0.025部及びCHP0.0125部、(B)成分をMMA50.6部、n−BA4.4部、n−OM0.80部及びt−BH0.07部とした以外は実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0085】
第一弾性重合体(A1)、第二弾性重合体(A2)、中間重合体(C)、硬質重合体(B)それぞれ単独のTgは実施例1と同一であった。ラテックス状アクリル樹脂組成物の平均粒子径は0.12μmであった。
【0086】
[比較例5]
第二弾性重合体(A2)の成分をMMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部、AMA0.25部及びCHP0.016部とし、(B)成分をMMA55.2部、n−BA4.8部、n−OM0.20部及びt−BH0.08部とした以外は実施例1と同様にして、粉体状アクリル樹脂組成物を得た。
【0087】
次に得られた粉体状アクリル樹脂組成物67部、直鎖状高分子としてアクリペットMF001(三菱レイヨン(株)製)33部、配合剤としてアデカスタブLA−31RG(旭電化(株)製)1.9部、アデカスタブLA−57(旭電化(株)製)0.3部、イルガノックス1076(BASFジャパン(株)製)0.1部、メタブレンP551A(三菱レイヨン(株)製)2部を添加した後、ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この粉体状樹脂組成物を脱気式押出機(TEM−35:東芝機械(株)製)を用いてシリンダー温度200〜240℃、ダイ温度240℃で溶融混練して、ペレットを得た。以下実施例1と同様にして、フィルムを作製し、その特性を測定した。結果を表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
結果から明らかなように、本発明のアクリル樹脂組成物は、流動性が高く、溶融粘度が低いため、溶融押出時の圧力が低く、長時間にわたってフィルム成形などの溶融押出をすることができることが分かる。また、フィルムに成形した場合、得られたフィルムは、引張試験前後のW値の差が小さく、耐引張白化性に優れる。このため、フィルムを直接、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層する際、あるいは、各種樹脂シートに積層したものを、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品又は金属成形品の表面に積層する際、加工性に優れ、破断や割れを抑制することができ、得られる成形体は、透明性、意匠性に優れ、また機械的強度が高い。
【0090】
一方、重量平均分子量が大きいアクリル樹脂組成物(比較例1)は流動性が低く、溶融粘度が高いことから、溶融押出時の圧力が高く、長時間に亘って溶融押出成形をすることが困難となる。比較例2のアクリル樹脂組成物は流動性には優れるものの、得られるフィルムは、引張後の白化が著しく、意匠性に劣ることが明らかである。比較例3のアクリル樹脂組成物のフィルムは引張後の白化は抑制されるものの、流動性、成形性に劣る。比較例4のアクリル樹脂組成物は流動性には優れるものの、得られるフィルムは、機械的強度が低く、取り扱いが困難で、直接又は樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に積層する際、破断や割れが頻繁に発生する。比較例5のアクリル樹脂組成物は流動性には優れるものの、引張後の白化が著しく、意匠性に劣ることが明らかである。また機械的強度が低く、取り扱いが困難で、直接又は樹脂シートに積層後、三次元形状の各種樹脂成形品、木工製品、又は金属成形品の表面に積層する際、破断や割れが頻繁に発生する。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のアクリル樹脂組成物は、流動性が高く、溶融粘度が低いため、溶融押出時の圧力が低く、長時間に亘ってフィルム成形などの溶融押出をすることができ、加工時の破断や割れが抑制され、意匠性に優れる成形体が得られ、各種樹脂成形体等の表面膜に好適である。