特許第5786712号(P5786712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5786712-メタクリル系重合体の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5786712
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】メタクリル系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/01 20060101AFI20150910BHJP
【FI】
   C08F2/01
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-521392(P2011-521392)
(86)(22)【出願日】2011年5月11日
(86)【国際出願番号】JP2011060842
(87)【国際公開番号】WO2011142384
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-111178(P2010-111178)
(32)【優先日】2010年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】林田 昌大
(72)【発明者】
【氏名】好村 壽晃
(72)【発明者】
【氏名】野中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】森田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光弘
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−002912(JP,A)
【文献】 特開2000−026507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2、10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チルメタクリレート80〜99.5質量%、メチルアクリレート0.5〜20質量%とからなるモノマーを完全混合型反応器(A)に供給して、第一のラジカル重合開始剤により重合を行い、第一のシラップを得る工程(a)、
完全混合型反応器(A)の下流に配置された反応器(B)に第一のシラップ及び第二のラジカル重合開始剤を供給して重合を行い、第二のシラップを得る工程(b)、及び
第二のシラップを脱揮する工程(c)
を順次行いメタクリル系重合体を製造する方法であって、
反応器(B)は、スタティックミキサーを内装した管型反応器であり、
前記モノマー中のメチルアクリレートの含有量をx[質量%]、前記反応器(B)における単位時間あたりの第一のシラップ供給量に対する単位時間あたりの第二のラジカル重合開始剤供給量の質量比をy[ppm]としたとき、xとyが以下の式を満たすことを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法。
8.5x+123≧y≧−2.6x+45
35≦y≦200
【請求項2】
更に、以下の式を満たすことを特徴とする請求項1記載のメタクリル系重合体の製造方法。
2.0≦x≦15.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いモノマー転化率及び生産性を実現可能なメタクリル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル系樹脂の工業的生産方法には、懸濁重合による方法と塊状重合による方法がある。塊状重合法では、懸濁重合法で用いられる分散剤等の添加剤の使用が無く、透明性に優れた樹脂の製造が可能であることが知られている。特許文献1及び特許文献2は、アクリル樹脂の製造において、完全混合型反応器内で重合を行い、引き続いてプラグフロー型反応器等の管型反応器内で重合することで、生産性と物性のバランスの取れたアクリル樹脂の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−26507号公報
【特許文献2】特開2003−2912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、アクリル樹脂の製造において、槽型反応器に引き続き、管型反応器を用いることで、生産性と物性のバランスの取れたアクリル樹脂の製造方法を開示している。この文献には、到達重合率72%を最高値とした実施例の記載があるが、さらに重合率を上げる方法についての記載は無い。
【0005】
特許文献2には、平衡重合率を利用して重合停止を行うことについての記載があり、重合体の最終温度によって到達重合率が決まる。この文献には、到達重合率68%を最高値とした実施例の記載があるが、これを超える到達重合率を達成することはできないと考えられる。また、平衡重合率を決定する因子については、全く述べられていない。
【0006】
本発明の目的は、メタクリル系モノマーの塊状重合等において、高いモノマー転化率(到達重合率)及び生産性を実現可能なメタクリル系重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
平衡重合率に基く考え方に従えば、管型反応器に添加する開始剤量を増量しても重合体の到達重合率は向上できないと考えられていた。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、管型反応器での重合において開始剤を所定の量を添加することで、モノマー転化率を向上できることが分かった。また、メタクリル系重合体の共重合成分として用いられるアクリル酸メチルの添加量を増加させることで、従来と同量の開始剤使用量にも関わらず、モノマー転化率を向上できることが分かった。これらの知見に基き本発明者らは、完全混合型反応器の重合後、その下流での第二の重合におけるラジカル重合開始剤濃度及びアルキル(メタ)アクリレートの濃度を所定の範囲に調整することによりモノマー転化率を向上出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、チルメタクリレート80〜99.5質量%、メチルアクリレート0.5〜20質量%とからなるモノマーを完全混合型反応器(A)に供給して、第一のラジカル重合開始剤により重合を行い、第一のシラップを得る工程(a)、
完全混合型反応器(A)の下流に配置された反応器(B)に第一のシラップ及び第二のラジカル重合開始剤を供給して重合を行い、第二のシラップを得る工程(b)、及び
第二のシラップを脱揮する工程(c)
を順次行いメタクリル系重合体を製造する方法であって、
反応器(B)は、スタティックミキサーを内装した管型反応器であり、
前記モノマー中のメチルアクリレートの含有量をx[質量%]、前記反応器(B)における単位時間あたりの第一のシラップ供給量に対する単位時間あたりの第二のラジカル重合開始剤供給量の質量比をy[ppm]としたとき、xとyが以下の式を満たすことを特徴とするメタクリル系重合体の製造方法である。
【0009】
8.5x+123≧y≧−2.6x+45
35≦y≦200
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタクリル系モノマーの塊状重合等であっても、高いモノマー転化率及び生産性を実現可能なメタクリル系重合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例で使用した装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、メタクリル系モノマーを重合して、メタクリル系重合体を製造する。「メタクリル系重合体」とは、メチルメタクリレートの単独重合体又はメチルメタクリレートとメチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート等の共重合成分(モノマー)の共重合体を意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタリレートを意味する。
【0013】
重合方法としては、例えば、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法が挙げられる。特にモノマー転化率及び生産性の点から、塊状重合法が好ましい。その重合方法は、連続式でもよく、バッチ式でもよい。
【0014】
共重合成分であるメチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチルアクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートが好ましい。共重合成分であるアルキル(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
さらに共重合成分として、アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマーを併用することもできる。そのようなモノマーの具体例としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、ビニル安息香酸、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等の一塩基酸又は二塩基酸ビニルモノマー;無水マレイン酸等の二塩基酸無水物ビニルモノマー;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートへのβ−ブチロラクトン開環付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートへのε−カプロラクトン開環付加物、(メタ)アクリル酸へのエチレンオキシドの開環付加物、(メタ)アクリル酸へのプロピレンオキシドの開環付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートの2量体や3量体等の末端に水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、p−ヒドロキシスチレン等の他の水酸基含有ビニルモノマー;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、スチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等のスチレン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有ビニルモノマー、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−メトキシメチルメタクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、N−プロポキシメチルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート;が挙げられる。
【0016】
重合に使用するモノマー中、メチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレートの量は、0.5〜20質量%が好ましい。また、アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマーを共重合成分として併用する場合、その量は20質量%以下が好ましい。さらに、重合に使用するモノマーは、メチルメタクリレート80〜99.5質量%と、メチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレート0.5〜20質量%とからなることが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートの含有量が0.5質量%以上であると得られるメタクリル系重合体の熱安定性が良くなり、成形時に樹脂の熱分解が進みにくく、成形品中の気泡の発生等、外観不良が無くなる。また、アルキル(メタ)アクリレートの含有量が20質量%以下であると、得られるメタクリル系重合体の耐熱性が良くなり、この成形品は熱による変形が無く、一般的な用途で良好に使用できる。
【0017】
[工程(a)]
本発明における工程(a)は、上述したモノマーを完全混合型反応器(A)に供給して、第一のラジカル重合開始剤により重合を行い、第一のシラップを得る工程である。
【0018】
第一のラジカル重合開始剤は、工程(a)における反応系の温度で分解してラジカルを発生するものであればよい。
【0019】
その具体例としては、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシラウレート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシアセテート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサネート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、tert−ヘキシル−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサネート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン等の有機過酸化物;2−(カルバモイルアゾ)−イソブチロニトリル、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビスイソブチレート、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;レドックス系重合開始剤;が挙げられる。第一のラジカル重合開始剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
ラジカル重合開始剤は、使用する温度に対する半減期が10秒以上30分以下のものが好ましい。半減期が適度に長ければ、ラジカル重合開始剤が重合系内に均一に拡散した後に分解し、熱分解し易いオリゴマーの発生が抑制される。また、半減期が適度に短ければ、非常時に運転が停止した場合、反応液が高粘度となって再スタート困難という問題が生じ難くなる。
【0021】
第一のラジカル重合開始剤の使用量は、工程(a)における反応系の重合温度、反応物の平均滞在時間、目標とするモノマー転化率等の諸条件に応じて適宜決めればよい。特に第一のラジカル重合開始剤の使用量は、末端二重結合量の少ない耐熱分解性に優れたメタクリル系重合体を得る点から、モノマー1モルに対して5.0×10-5モル以下が好ましく、また工業的生産性の点から5.0×10-6モル以上が好ましい。
【0022】
工程(a)の重合には、連鎖移動剤も使用できる。特に、メルカプタン化合物を使用することが好ましい。メルカプタン化合物の具体例としては、n−ブチルメルカプタン、イソブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、sec−ブチルメルカプタン、sec−ドデシルメルカプタン、tert−ブチルメルカプタン等のアルキル基又は置換アルキル基を有する第1級、第2級又は第3級メルカプタン;フェニルメルカプタン、チオクレゾール、4−tert−ブチル−O−チオクレゾール等の芳香族メルカプタン;チオグリコール酸とそのエステル;エチレンチオグリコール等の炭素数3〜18のメルカプタンが挙げられる。中でも、tert−ブチルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましい。連鎖移動剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
連鎖移動剤の使用量は、製品強度を保ちつつ成形加工が可能な適度な重合度(一般的に成形材料として工業的に使用される範囲は、最終的に揮発分を除去した後の重合体の重量平均分子量が7万〜15万である)を得ると共に、耐熱分解性に優れたメタクリル系重合体を製造する点から、モノマー100モル%に対してに0.01〜1モル%が好ましく、0.05〜0.5モル%がより好ましい。
【0024】
工程(a)を溶液重合で行う場合は、不活性溶媒を使用する。その具体例としては、メタノール、エタノール、トルエン、キシレン、アセトン、メチルイソブチルケトン、エチルベンゼン、メチルエチルケトン、酢酸ブチルが挙げられる。中でも、メタノール、トルエン、エチルベンゼン、酢酸ブチルが好ましい。不活性溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
不活性溶媒の使用量は、反応液組成物中5質量%未満であることが好ましい。不活性溶媒を使用しない塊状重合を行うことがより好ましいが、不活性溶媒の使用量が反応液組成物中5質量%未満であれば、耐熱分解性をほとんど損なうことなく、また塊状重合と同様にゲル効果を利用することにより少量のラジカル重合開始剤の使用によって効果的にモノマー転化率を高めることができる。
【0026】
完全混合型反応器(A)とは、供給した原料を攪拌装置等により均一に混合した状態で反応させる装置である。完全混合型反応器(A)は、バッチ式の槽型反応器でもよく、連続式の管型反応器でもよい。槽型反応器としては、供給口、取り出し口及び攪拌装置を備えた槽型反応装置を用いることができる。攪拌装置は反応域全体にわたる混合性能を持つことが好ましい。管型反応器としては、プラグフロー型反応器が好ましく、スタティックミキサーを内装したジャケット付き管型反応器であることがより好ましい。スタティックミキサーが内装されていると、攪拌効果により反応の均一化と反応液の流れを安定化させることができる。スタティックミキサーとしては、ノリタケカンパニー(株)社製のスタティックミキサーや、住友重機械(株)社製のスルーザミキサーが好適である。完全混合型反応器(A)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、1種の反応器を直列に接続してもよい。
【0027】
工程(a)では、完全混合型反応器(A)内でモノマーと第一のラジカル重合開始剤とを含む原料組成物を適度な条件で加熱して、メタクリル系モノマーの一部を重合し、第一のシラップを得る。重合温度は、所望のモノマー転化率を有する第一のシラップが得られる範囲で適宜設定すればよい。完全混合型反応器(A)として槽型反応器を用いて工程(a)を実施する場合は、例えば110〜180℃(好ましくは120〜160℃)の範囲から選択できる。槽型反応器に引き続きさらに管型反応器で工程(a)を実施する場合は、例えば、入口温度110〜170℃(好ましくは120〜140℃)、出口温度120〜180℃(好ましくは140〜160℃)、平均温度115〜175℃(好ましくは135〜155℃)の範囲から選択できる。
【0028】
工程(a)で得られる第一のシラップにおけるモノマー転化率は、35〜70質量%が好ましく、45〜60質量%がより好ましい。これら範囲の上限値は、槽型反応器において槽内の均一性を保ち、槽内の混合、伝熱を充分に達成し、安定運転を行う点で意義が有る。また下限値は、十分なモノマー転化率にして生産性を向上する点で意義が有る。
【0029】
工程(a)で得られる第一のシラップの温度は、110〜180℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。これら範囲の下限値は、二量体の生成を抑制し揮発分除去後の重合体の透明性、機械的強度を維持する点で意義が有る。また上限値は、ゲル効果による重合速度の加速現象を抑制し、高いモノマー転化率で安定運転する点で意義が有る。
【0030】
槽型反応器内では、例えば、次のように重合することができる。原料モノマーに窒素等不活性ガスを導入する又は原料モノマーを減圧下一定の時間保持することにより、溶存酸素濃度を2質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下とする。溶存酸素濃度をこのように低くすると、重合反応が安定に進み、また重合工程で長時間、高温に保持されても着色成分をほとんど生じず、高品質な重合体が得られる。
【0031】
次いで、完全混合型反応器(A)から第一のシラップを抜き出し、それに引き続き配置された反応器(B)に供給する。第一のシラップは反応器(B)に送る前に冷却してもよい。
【0032】
[工程(b)]
本発明における工程(b)は、上述の工程(a)で得た第一のシラップ及び第二のラジカル重合開始剤を完全混合型反応器(A)の下流に配置された反応器(B)に供給して重合を行い、第二のシラップを得る工程である。
【0033】
この工程(b)においては、モノマー中のメチルメタクリレート以外のアルキル(メタ)アクリレートの含有量をx[質量%]、反応器(B)における単位時間あたりの第一のシラップ供給量に対する第二のラジカル重合開始剤供給量の質量比をy[ppm]としたとき、xとyが、以下の式を満たす。
【0034】
8.5x+123≧y≧−2.6x+45
【0035】
上記の式のうち、y≧−2.6x+45 の関係を満たすことにより、モノマー転化率を短時間で上げることが出来る。また、8.5x+123≧y の関係を満たすことにより、熱安定性に優れるメタクリル系重合体の製造か可能となる。熱安定性が優れると、成形時に樹脂の熱分解が進みにくく、成形品中の気泡の発生等、外観不良が無くなる。
【0036】
第二のラジカル重合開始剤としては、例えば、第一のラジカル重合開始剤と同様のものを用いることができる。第二のラジカル重合開始剤の使用量については、上記式を満たす限り、第一のラジカル重合開始剤と同様で構わない。
【0037】
工程(b)においては、短時間でモノマー転化率を上げるために工程(a)よりも高温で重合を行うことが好ましい。そのため第二のラジカル重合開始剤は、第一のラジカル重合開始剤より高温分解型のラジカル重合開始剤を用いることも好ましい。具体的には、第二のラジカル重合開始剤として、工程(b)における平均温度における第一のラジカル重合開始剤の半減期より長い半減期を有するラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。さらに、第二のラジカル重合開始剤として、工程(b)における平均温度における第一のラジカル重合開始剤の半減期より長い半減期を有するラジカル重合開始剤と、第一のラジカル重合開始剤と同じラジカル重合開始剤とを併用することもできる。2種のラジカル重合開始剤を併用することで、同じモノマー転化率を得るために必要な重合開始剤の量を減らすことができる。
【0038】
第二のラジカル重合開始剤は、複数回に分けて添加することも可能である。この場合、各回における単位時間あたりに供給されるシラップに対する第二のラジカル重合開始剤の質量比[ppm]の合計をy[ppm]とする。
【0039】
反応器(B)の具体例としては、先に説明した完全混合型反応器(A)の具体例と同様のものが挙げられるが、特に管型反応器が好ましい。反応器(B)は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、1種の反応器を直列に接続してもよい。
【0040】
工程(b)では、反応器(B)内で第一のシラップと第二のラジカル重合開始剤とを含む組成物を適度な条件で加熱して、第一のシラップ中に存在するモノマーの一部を重合して、第二のシラップを得る。重合温度は、第二のシラップが所望のモノマー転化率となるように適宜設定すればよい。
【0041】
工程(b)で得られる第二のシラップにおけるモノマー転化率は、50〜90質量%が好ましく、70〜80質量%がより好ましい。これら範囲の上限値は、シラップの粘度を適度に抑制し、プロセス内を流動させる際の圧力損失を低減する点で意義が有る。また、下限値は、残存モノマーを少なくしてその後の脱揮工程の負担を低減する点で意義が有る。
【0042】
反応器(B)の内壁の温度は、125〜210℃が好ましく、150〜195℃がより好ましい。これら範囲の下限値は、モノマーの転化率を70%以上とする点で意義が有る。また上限値は、プロセス内での重合体が流動性を維持して安定運転を行う点で意義が有る。
【0043】
[工程(c)]
本発明における工程(c)は、上述の工程(b)で得た第二のシラップを脱揮して、メタクリル系重合体を取り出す工程である。この工程(c)により、メタクリル系重合体中の残存モノマー量が減少し、耐熱性が向上する。
【0044】
工程(c)は、例えば、第二のシラップを脱揮押出機に投入することで実施できる。第二のシラップは、工程(b)で得られた状態の温度のままでもよく、さらに加熱してもよい。第二のシラップをさらに加熱する場合には、250℃を超えない温度とすることが好ましい。脱揮押出機では、第二のシラップを0.0001〜0.1MPaの減圧下に放出して、メタクリル系モノマーを主体とする揮発物の大部分を連続的に分離除去することが好ましい。
【0045】
揮発物を分離除去して得たメタクリル系重合体中のモノマーの含有量は0.3質量%以下が好ましく、重合反応の副生成物であるモノマーの二量体の含有量は0.1質量%以下が好ましく、前記メルカプタン化合物の含有量は50質量ppm以下が好ましい。
【0046】
未反応のメタクリル系モノマー等の揮発物は、コンデンサで凝縮させて回収した上で、工程(a)の原料として再利用することが、経済性の点から好ましい。このとき、揮発物中に含まれるメタクリル系モノマーの二量体等の高沸点成分を蒸留により分離除去した後に、工程(a)の原料として再利用することがより好ましい。
【0047】
このようにして製造されたメタクリル系重合体は、例えば成形材料として用いることができる。その際には、必要に応じて、高級アルコール類、高級脂肪酸エステル類等の滑剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、着色剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、これらは本発明を限定するものではない。なお、重合体の分子量の測定は以下の方法により行った。
【0049】
<GPCによる分子量の測定>
GPC装置として東ソー社製HLC−8020を用い、カラムとして東ソー社製GMHXLを2本用いた。溶媒はテトラヒドロフラン(THF)を使用し、東ソー社製TSK標準ポリスチレンを用いて検量線を作り、試料としては静置溶解した濃度0.1g/dlの溶液を用いた。重量平均分子量Mwは、GPCデータ処理装置(東ソー社製データ装置SC−80・10)によって求めた。
【0050】
<成形性の評価>
成形機としてPS−60E(日精樹脂工業社製)を用い、成形温度は300℃とし、渦状の成型体を作製し、その外観を観察した。
【0051】
<実施例1>
図1に示す装置を用いて、以下の通り本発明を実施した。
【0052】
[工程(a)]
精製されたメチルメタクリレート98質量%とメチルアクリレート2質量%とからなるモノマー混合物に窒素を導入して、溶存酸素を0.5ppmとした。このモノマー混合物に対して、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン0.157モル%(0.23質量%)、及び、第一のラジカル開始剤として1,1―ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2.67×10-5モル/モノマー1モル(80ppm)とを混合した原料組成物を、重合温度135℃に制御された第一リアクター11である完全混合型反応器に攪拌混合しながら連続的に供給し、原料組成物の反応域での平均滞在時間を2.5時間として重合を実施し、第一のシラップを得た。なお、この重合温度(135℃)における1,1―ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン)の半減期は230秒である。
【0053】
[工程(b)]
続いて、ギアポンプ31により第一リアクター11から第一のシラップを連続的に抜き出し、開始剤投入器21(住友重機械工業(株)製SMXスルーザミキサを内装した配管)で、第二のラジカル開始剤として1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシロキサンを、単位時間あたりのシラップ供給量に対する質量比が40ppmとなるように添加し、これを第二リアクター12であるノリタケカンパニ−(株)製スタティックミキサーを内装した管型反応器(プラグフロー型反応器))に供給し、内壁温度を150℃、シラップの平均滞留時間を20分として重合を実施した。なお、この温度(150℃)における1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシロキサンの半減期は54秒である。
【0054】
引き続き、第二リアクター12で重合したシラップを前記と同タイプの開始剤投入器22に導き、さらなる第二のラジカル開始剤としてジt−ブチルパーオキシドを、単位時間あたりのシラップ供給量に対する質量比が40ppmとなるようにを添加し、これを第二リアクター12と同一の第三リアクター13であるノリタケカンパニ−(株)製スタティックミキサーを内装した管型反応器(プラグフロー型反応器)]に供給し、内壁温度を170℃、内圧を25kg/cm2G、平均滞留時間を20分として重合を実施し、第二のシラップを得た。なお、この温度(170℃)におけるジt−ブチルパーオキシドの半減期は250秒である。
【0055】
[工程(c)]
次に、第二のシラップを195℃で、第二リアクター12の出口から連続的に脱揮押出機14(ベントエクストルーダ型押し出し機)に供給して、270℃で未反応モノマーを主成分とする揮発物を分離除去し、メタクリル系重合体を得た。
【0056】
脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は78質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。また、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在は認められず、成形品の外観は良好であった。結果を表1に示す。
【0057】
<実施例2>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を60ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を60ppmに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は80質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。また、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在は認められず、成形品の外観は良好であった。結果を表1に示す。
【0058】
<実施例3>
モノマー混合物におけるメチルメタクリレートの量を85質量%、メチルアクリレートの量を15質量%に変更し、第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を20ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を15ppmに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は73質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。また、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在は認められず、成形品の外観は良好であった。結果を表1に示す。結果を表1に示す。
【0059】
<実施例4>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を60ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を60ppmに変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は77質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。また、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在は認められず、成形品の外観は良好であった。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例5>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を100ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を100ppmに変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は83質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。また、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在は認められず、成形品の外観は良好であった。結果を表1に示す。
【0061】
<比較例1>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を20ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を15ppmに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は68質量%と低く、単位時間当たりに得られる樹脂量が少なくなった。結果を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]及び第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を無添加に変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は50質量%と低く、単位時間当たりに得られる樹脂量が少なくなった。結果を表1に示す。
【0063】
<比較例3>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を80ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を80ppmに変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は83質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。ただし、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在が認められ、成形品の外観はシルバーと呼ばれる白い帯が入り、成形不良であった。結果を表1に示す。
【0064】
<比較例4>
第二リアクター12[一つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を150ppm、第三リアクター13[二つ目の反応器(B)]に追加する開始剤量を150ppmに変更したこと以外は実施例3と同様の操作を行った。脱揮押出機14から取り出したメタクリル系重合体の量と投入した原料モノマーの積算量を測定したところ、投入した原料に対するモノマー転化率は90質量%であった。また360時間の連続運転においても、重合の制御には問題はなく、運転終了後の反応器内の観察においても装置への付着物や異物の生成等は認められなかった。ただし、得られたメタクリル系重合体について上記の成形性の評価を行ったところ、気泡の存在が認められ、成形品の外観はシルバーと呼ばれる白い帯が入り、成形不良であった。結果を表1に示す。
【0065】
各実施例及び各比較例の条件及び得られた重合体の特性を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表中の略号は以下の通りである。
・「MMA」:メチルメタクリレート、
・「MA」:メチルアクリレート、
・「イ」:1,1―ビス(tert−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
・「ハ」:ジt−ブチルパーオキシド、
・「F」:n−オクチルメルカプタン
【0068】
表から明らかなように、各実施例ではモノマー転化率は十分であったが。各比較例では不十分であった。
【符号の説明】
【0069】
11 第一リアクター
12 第二リアクター
13 第三リアクター
14 脱揮押出機
21 開始剤投入器
22 開始剤投入器
31 ギアポンプ
図1