特許第5787267号(P5787267)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5787267触媒を担持するセラミック担持体、および触媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787267
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】触媒を担持するセラミック担持体、および触媒体
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/24 20060101AFI20150910BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20150910BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20150910BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20150910BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20150910BHJP
   C04B 35/599 20060101ALI20150910BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20150910BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   B01J27/24 AZAB
   B01J32/00
   B01J35/04 301P
   B01J35/10 301F
   C04B38/00 303Z
   C04B35/58 302Z
   C04B41/85 D
   B01D53/94 280
   B01D53/94 245
   B01D53/94 241
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-511845(P2015-511845)
(86)(22)【出願日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2014071908
(87)【国際公開番号】WO2015025926
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173610(P2013-173610)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】岡野 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】片山 理沙
(72)【発明者】
【氏名】多々見 純一
(72)【発明者】
【氏名】明田川 頌
(72)【発明者】
【氏名】小渕 存
(72)【発明者】
【氏名】内澤 潤子
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−246177(JP,A)
【文献】 特開2005−170774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86、53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒能を有する貴金属を表面に担持するための多孔質のセラミック担持体であって、
Ceが固溶されると共に、比表面積が0.2m/cm以上のセラミック材よりなり、前記セラミック材がサイアロン組成を有することを特徴とするセラミック担持体。
【請求項2】
前記セラミック材におけるCe含有量が0.5〜10wt%であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック担持体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミック担持体を備え
該セラミック担持体の表面に、排ガス浄化用の触媒能を有する貴金属として、Pt,Pd,Rhのうちの少なくとも1つ以上が担持されてなることを特徴とする触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等の内燃機関の排ガス浄化技術に関し、より詳細には、排ガス浄化用の触媒である貴金属を担持するセラミック担持体およびそれを用いてなる排ガス浄化用触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス浄化用触媒体は、セラミック担持体の表面に、排ガス浄化用の触媒である貴金属が担持された構成である。セラミック担持体を構成するセラミック材としては、コーディライトや炭化ケイ素、チタン酸アルミニウムなどが多く用いられている。
【0003】
例えば、ディーゼルエンジン用では、貴金属を担持するセラミック担持体は排ガスの通路となる複数のセルをハニカム状に形成し、かつ、各セルを交互に目封じしたディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として形成される。DPFはディーゼルエンジンの排気側に接続され、排ガス中の粒子状物質(PM)を捕集すると共に、捕集したPMおよび排ガス中のHC、COをそれぞれ酸化分解する。
【0004】
ところで、触媒に用いられるPt,Pd,Rhなどの貴金属粒子は、排ガス浄化用触媒体を使用している間に、セラミック担持体上を移動・凝集して粒成長することが知られている。貴金属粒子に粒成長が起こると、貴金属量当たりの表面積が小さくなるため、貴金属の触媒能が十分に発揮されなくなり、浄化能力が低下する。そのため、浄化能力を長期に亘って確保するには、粒成長しても十分な浄化能力を発揮できるだけの貴金属を予め担持させなければならない。
【0005】
しかしながら、レアメタルである貴金属の使用は、元素戦略などの観点から抑える必要があり、そこで従来、貴金属粒子の粒成長を抑制するための対策が種々検討されている。
【0006】
例えば、ガソリンエンジン用の三元触媒では、酸素吸蔵能を有する、助触媒として用いられるCeO上に、Pt粒子をPt-O-Ce結合させて固定させることが既に実用化されている。これは、CeOの貴金属との化学結合力が強いといった性質を利用している。
【0007】
また、触媒を担持するセラミック担持体の表面を比表面積の大きいγ-アルミナで被覆(コート)することで、表面に担持された貴金属粒子同士の間隔を広くし、粒子の移動が生じても凝集しにくくする対策も行われている。
【0008】
ただし、γ-アルミナの被覆層は、気孔径、気孔率が小さいため、DPFにおいてこの対策をそのまま利用すると、排ガスがDPFを通過する際の抵抗が大きくなり、圧力損失が増加する。
【0009】
そこで、セラミック担持体の表面をγ-アルミナで被覆するのではなく、セラミック担持体を形成する各粒子を粒子単位にアルミナの薄膜にて被覆する技術も提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特許公報「特開2001−62302号公報(2001年3月13日公開)」
【特許文献2】日本国特許公報「特開2002−119860号公報(2002年4月23日公開)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した触媒を担持するセラミック担持体の比表面積を広げるべく、セラミック担持体を形成する各粒子を粒子単位にアルミナの薄膜にて被覆する手法は、セラミック担持体の製造工程以外に、浸漬、乾燥、焼成の各工程を複数回、アルミナの薄膜を形成するために行う必要があり、製造工程数が多いといった問題がある。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑み成されたもので、少ない工程数にて製造でき、かつ、貴金属粒子の粒成長をより一層効果的に抑制することができる排ガス浄化用触媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のセラミック担持体は、上記課題を解決するために、排ガス浄化用の触媒能を有する貴金属を表面に担持する多孔質のセラミック担持体であって、Ceが固溶されると共に、比表面積が0.2m/cm以上のセラミック材よりなることを特徴としている。ここで比表面積とは、DPFなどとして成形されたセラミック担持体の単位体積あたりの表面積のことである。
【0014】
本発明の排ガス浄化用触媒体は、上記課題を解決するために、本発明のセラミック担持体と、該セラミック担持体の表面に、触媒能を有する貴金属として、Pt,Pd,Rhのうちの少なくとも1つ以上が担持されてなることを特徴としている。
【0015】
これによれば、セラミック材に固溶されたCeが貴金属の粒子(以下、貴金属粒子)と化学結合を形成して、貴金属粒子をセラミック担持体の表面に固定させることができる。また、Ceを固溶したセラミック材の比表面積が0.2m/cm以上であることで、セラミック担持体の表面に固定された貴金属粒子の間隔が十分広くなり、貴金属粒子の粒成長を効果的に抑制することができる。
【0016】
これにより、固溶されているCeによる貴金属粒子の固定効果と、該セラミック材の大きな比表面積による貴金属粒子の間隔を広げる分散効果とが複合的に作用して、貴金属粒子の粒成長を効果的に抑制することが可能となる。
【0017】
その結果、貴金属の触媒能を十分に発揮させ続けることができ、貴金属の担持量を同じとした場合には、従来構成のセラミック担持体を用いた排ガス浄化用触媒体よりも浄化性能を長く維持することができる。また、問題のない浄化能力を維持する期間を同じとした場合には、従来構成のセラミック担持体を用いた排ガス浄化用触媒体よりも、担持させる貴金属の量を削減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、少ない工程数にて製造でき、かつ、貴金属粒子の粒成長をより一層効果的に抑制することができる排ガス浄化用触媒体、およびそれに供されるセラミック担持体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の一形態に係るDPFの概観を示す斜視図である。
図2】上記DPFの軸方向に平行な面の模式断面図である。
図3】(a)〜(c)はいずれも、ハニカム構造体10の表面にPt粒子が担持されている状態を概念的に示す図である。
図4】本発明の実施例を示すもので、実施例1のセラミック担持体における微細造観察、および元素分析の結果を示す図である。
図5】本発明の実施例を示すもので、実施例1のセラミック担持体における電子状態分析の結果を示す図である。
図6】実施例1のセラミック担持体を用いたサンプルのSEM写真を示すもので、(a)は二次電子像、(b)反射電子像(組成像)である。
図7】実施例2のセラミック担持体を用いたサンプルのSEM写真を示すもので、(a)は二次電子像、(b)反射電子像(組成像)である。
図8】実施例3のセラミック担持体を用いたサンプルのSEM写真を示すもので、(a)は二次電子像、(b)反射電子像(組成像)である。
図9】比較例1のセラミック担持体を用いたサンプルのSEM写真を示すもので、(a)は二次電子像、(b)反射電子像(組成像)である。
図10】本発明の実施例を示すもので、実施例4のセラミック担持体における微細造観察、および元素分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態では、排ガス浄化用触媒体として、ディーゼルエンジン用の、排ガスに含まれるPMを捕集浄化するDPFとして使用され、排ガス処理の酸化触媒を担持したものを例示するが、ガソリンエンジン用の排ガス触媒を担持したものであってもよい。
【0021】
本実施の形態に係る排ガス浄化用触媒体は、図1に示すように、排ガスの通路となる複数のセル11をハニカム状に形成したハニカム構造体10を有し、該ハニカム構造体10における各セル11が交互に封止部21にて目封じされたDPF1を構成している。ハニカム構造体10が多孔性のセラミック担持体であり、ハニカム構造体10の表面に、排ガス浄化用の触媒能を有する貴金属が担持されている。図1は、DPFの概観を示す斜視図であり、図2は、DPFの軸方向に平行な面の模式断面図である。
【0022】
複数のセル11は、ハニカム構造体10内部を多孔性のセル壁12で区画されることで形成されており、セル壁12がPMの捕集部材となる。貴金属は、このセル壁12の表面に担持されている。そして、本実施の形態のDPF1では、貴金属粒子個々の触媒能を長期に亘って安定して発揮させるための創意工夫がなされており、詳細については後述する。
【0023】
DPF1は、ディーゼルエンジン(図示しない)の下流側に、セル11の延伸方向が排ガスの流れと平行となるように配置され、DPF1とディーゼルエンジンとの間には、さらに、貴金属を担持したDOC(ディーゼル酸化触媒)が配される。通常運転では、DPF1に至る前に、排ガスに含まれるHC、COは、DOCに塗布された貴金属により酸化分解され、無害なCOやHOとなる。
【0024】
DOCより排出された排ガスは、DPF1に対して、図2に示すように、排ガスの流れる方向上流側の端部が目封じされていない方の各セル11より流入し、セル壁12の微細孔を通過して、それぞれに隣接する、排ガス流れ方向下流側の端部が目封じされていない方のセル11へと移動して流出する。排ガスがセル壁12の微細孔を通過する際に、排ガスに含まれるPMがセル壁12に捕集される。
【0025】
捕集されたPMは、DPF1の再生加熱処理時に、セル壁12に担持されている貴金属と接触して酸化分解されて、セル壁12より除去される。また、再生加熱処理時に、DOCを通過した排ガス中のHC、COも、セル11内を流れる間に、セル壁12に担持されている貴金属と接触して酸化分解され、無害なCOやHOとなって排出される。
【0026】
次に、本実施の形態にかかるDPF1における、貴金属粒子個々の触媒能を長期に亘って安定して発揮させることを可能とする構成について説明する。
【0027】
従来、ハニカム構造体を構成する多孔質のセラミック材としては、コーディライトや炭化ケイ素、チタン酸アルミニウムなどが実用化されているが、本実施の形態のDPF1においては、ハニカム構造体10は、セリウム(Ce)が固溶された比表面積0.2m/cm以上のCe-β-サイアロン(SiAlON)を用いている。サイアロンは、窒化ケイ素(Si)におけるケイ素(Si)と窒素(N)の一部をそれぞれアルミニウム(Al)と酸素(O)で置換固溶したものである。Ce-β-サイアロンは、このようなサイアロンに、さらにCeが固溶されたものである。比表面積は、流通型BET比表面積測定装置を用いて測定した。
【0028】
ハニカム構造体10を構成するセラミック材は、Ce-β-サイアロンの単相からなる構成のほか、Ce-β-サイアロンと共に、2次相として生成されたCe-α-サイアロンを含んでいてもよい。また、柱状結晶でないがα-サイアロンが含まれていてもよい。サイアロンへのCeの固溶は、窒化ケイ素におけるSiとNの一部がAlとOに置換固溶する工程と同じ工程で行われる。
【0029】
そして、本願発明者らは、Ceをサイアロンとなる原料に含めて焼成することで、サイアロンの柱状結晶化が促進されることを確認している。つまり、サイアロンにCeを固溶させることで、サイアロンの柱状結晶化が促進され、Ceを固溶させない状態よりもセラミック担持体の比表面積を大きくすることができる。
【0030】
ここで、Ceをサイアロンに固溶させているのは、貴金属粒子と化学結合を形成させて、貴金属粒子をハニカム構造体10の表面に固定させるためである。本実施の形態におけるDPF1では、貴金属としてプラチナ(Pt)を用いており、Ceとの間で、Pt-O-Ce結合を形成させている。Pt-O-Ce結合のOは、空気中より取り込んでいる。
【0031】
セラミック材におけるCe含有量は0.5〜10wt%であることが好ましい。0.5wt%を下回ると、固溶されるCeが不足して、必要量の貴金属粒子をハニカム構造体10の表面に固定させることができなくなる恐れがある。固定されない貴金属粒子は、凝集を起こしやすくなる。一方、10wt%を超えると、Ceがサイアロンに固溶されずに、ハニカム構造体10の表面に、Ceを含む別の相が析出する恐れがある。Ceの析出を考慮した場合、Ce含有量の上限は5wt%とすることがより好ましい。
【0032】
また、ここで、Ceを固溶したセラミック材の比表面積を0.2m/cm以上としているのは、ハニカム構造体10の表面に固定された貴金属粒子の間隔を、より一層広いものとして、貴金属粒子の粒成長を効果的に抑制するためである。ここで、より好ましくは、Ceを固溶したセラミック材の比表面積を0.5m/cm以上とすることである。該範囲とすることで、貴金属粒子の粒成長をより一層効果的に抑制することができる。
【0033】
セラミック担持体を構成するセラミック材は、Ceを固溶した状態で比表面積0.2m/cm以上を満足するものであればよく、サイアロン以外としては、例えば、ムライトを挙げることができる。
【0034】
ハニカム構造体10の表面に担持される貴金属粒子は、プラチナ(Pt)粒子の他、パラジウム(Pd)粒子や、ロジウム(Rh)粒子がある。これら粒子は、単独で用いても、複数種類混合させて用いてもよい。
【0035】
図3の(a)〜(c)に、ハニカム構造体10の表面にPt粒子が担持されている状態を概念的に示す。(c)に示すように、Pt粒子は、ハニカム構造体10の構成材であるセラミック材に固溶されているCeと、空気中の酸素(O)とによるCe-O-Pt結合にて、ハニカム構造体10の表面に固定されている。ハニカム構造体10は、比表面積が0.2m/cm以上であるため、(a)に示すように、その表面は凹凸をなしている。このようなハニカム構造体10の表面に担持されたPt粒子は、(b)に示すように、隣り合うPt粒子との間に、広い間隔を保持することとなる。この間隔は、表面が平坦なセラミック担持体(比表面積が小さい)に同量のPt粒子を担持させた場合よりも十分広いものとなる。
【0036】
これにより、ハニカム構造体10を構成するセラミック材に固溶されているCeによるPt粒子の固定効果と、該セラミック材の大きな比表面積によるPt粒子の間隔を広げる分散効果とが複合的に作用して、Pt粒子の粒成長を効果的に抑制することが可能となる。したがって、個々のPt粒子のもつ触媒能を十分に発揮させ続けることができ、Pt粒子の担持量を同じとした場合には、従来構成のハニカム構造体を用いたDPFよりも浄化性能を長く維持することができる。また、問題のない浄化能力を維持する期間を同じとした場合には、従来構成のハニカム構造体を用いたDPFよりも、担持させるPt粒子の量を削減することができる。
【0037】
このようなDPF1は、以下の手順で得ることができる。まずは、サイアロンの原料粉体である、Si、AlN、Al、およびCeOを、セラミック材の組成比を考慮した配合量にしたがって配合し、エタノールなどを加えて混合する。混合したものを、ハニカム構造体10の形状に整形した後、焼成することで、Ce-β-サイアロン組成のハニカム構造体10を得る。次に、このように生成したハニカム構造体10に、ジニトロジアンミンPt硝酸水溶液などを出発物質としてPtを担持させる。
【0038】
ところで、本実施の形態では、ハニカム構造体(セラミック担持体)10としてβ-サイアロンを用いる構成を例示したが、サイアロンにはα型とβ型とがあることが知られている。ここで用いたβ-サイアロンは、六角柱状結晶粒子として成長することが確認されており、セラミックス材に要求されている比表面積の条件を容易に満足し得る。また、Ceを固溶しやすく、添加したCeを有効に活用することが可能である。これに対し、α-サイアロンは、通常、Ceを添加しても固溶しにくい。しかしながら、α-サイアロンであっても、イットリウム(Y)を追加添加することによりCeを固溶することが可能となる。したがって、ハニカム構造体(セラミック担持体)10としてα-サイアロンを用いることもできる。
【0039】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0040】
本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0041】
(実施例1〜4、比較例1)
ハニカム構造体10の原料粉体であるSi((株)宇部興産 E10)、AlN((株)トクヤマ H グレード)、Al((株)住友化学 AKP-30)およびCeO((株)信越化学工業)を、表1に示す組成となるように秤量し、エタノール中で湿式混合した。表1に示すように、比較例1はCeを配合せず、実施例1はCeを2w%とし、実施例2,3はCeを同じ4w%としながら、SiにおけるSi、Nの、Al,Oへの置換量を異ならせている。また、実施例4はCeを9.7w%配合した。
【0042】
【表1】
【0043】
これらの混合粉体を、0.9MPa、N 雰囲気下にて、1850℃、2hの後、1500℃、1hの条件で焼成して、実施例1〜4および比較例1のセラミック担持体を得た。
【0044】
(実際例5)
金属ケイ素(Si)(山石金属製)60.2wt%に、AlN((株)トクヤマ H グレード)4.2wt%、Al((株)住友化学 AKP-30)1.0wt%、CeO((株)信越化学工業)4.6wt%を添加し、乾粉混合した。次に、この混合材料に、分散剤(日本油脂(株)セラミゾール)0.4wt%、水19.6wt%、有機バインダーとしてのメチルセルロース(信越化学工業(株)「メトローズ」)10wt%を混合し、成形した。その後、成形体を窒素中、および窒素+酸素条件で脱脂し、脱脂後の成形体を窒素雰囲気下、1350℃、3hの後、1850℃、3hの条件で焼成して、実施例5のセラミック担持体を得た。
【0045】
次に、こうして得られた6つのセラミック担持体に対して、XRDによる構成相の同定、SEMによる微構造観察、EDSによる元素分析、及びXPSによるCeの電子状態分析を行った。微細造観察、および元素分析の結果を図4に示す。電子状態分析の結果を図5に示す。
【0046】
XRDプロファイルより、実施例1,2,4および比較例1のセラミック担持体においては、β-SiAlON のみが生成し、実施例3のセラミック担持体については、β-SiAlON の他、2次相として、α-SiAlONが生成していることを確認した。
【0047】
また、図4図10に示すように、SEM観察の結果、β-SiAlONは、六角柱状粒子として成長している様子が確認された(図4の二次電子像は実施例1のものであり、図10の二次電子像は実施例4のものである)。また、実施例1〜3においては、EDS分析より生成物中にCeが均一に存在していることもわかった(図4のCe分布は実施例1のものであり、図10のCe分布は実施例4のものである)。
【0048】
さらに、図5に示すように、Ceの電子状態より、Ce-O-Pt結合を作る、Ce4+の存在が確認できた。
【0049】
次に、実施例1〜5および比較例1の各セラミック担持体に、ジニトロジアンミンPt硝酸水溶液を出発物質としてPtを担持させた後、500〜700℃、2hの条件にて空気中で焼成して、Ptの粒成長過程の観察を行った。また、Pt粒子の粒径を測定した。粒径計測は、以下に示す2つの方法で行い、結果は上記表1に併せて示す。
【0050】
(粒径測定の方法)
方法1:画像解析によるPt粒径測定
SEM観察によりPt粒子を含む組織を撮影した。次に、Pt粒子を二値化し、画像処理により平均粒径を測定した。但し、SEM観察によるPt粒子の粒径測定は、SEM観察できない数nmの粒子の測定はできない。
【0051】
方法2:XRDによる積分強度比較
熱処理した資料を、40keV,200mA、幅0.020℃、スキャンスピード0.5℃/s、スキャン回数5の条件でXRDにより積分測定した。Ptを塗布しない基材の積分強度をあらかじめ測定しておき、Pt塗布熱処理後の積分強度をPt塗布なしの積分強度で除した値を比較した。小さいほどPt粒径が細かいことを示している。
【0052】
図6に、実施例1のセラミック担持体を用いたサンプル(500℃2h)のSEM写真を示す。図6において、(a)は二次電子像であり、(b)は反射電子像(組成像)である。同様にして、実施例2、実施例3、比較例1の各セラミック担持体を用いたサンプル(500℃2h)のSEM写真を、図7図8図9に示す。図6図9において、白抜きで示すスケールは1μmであり、撮影は、倍率20,000,5.0kVで行った。
【0053】
図6図9の二次電子像より、六角柱状粒子が成長していることが観測される。また、図6図9の反射電子像より、実施例1〜3のサンプルでは、100nm以上の径を有するPt粒子は観測されず、比較例1のサンプルでは、100nm以上の径を有するPt粒子が観測された。反射電子像は示していないが、実施例4,5のサンプルでも、100nm以上の径を有するPt粒子は観測されなかった。
【0054】
また、図6図8の二次電子像と図9の二次電子像とを比較することで、Ceが固溶されたサイアロンの方が、六角柱状粒子の成長が促されていることが確認できた。
【0055】
Ceによる粒成長の抑制効果を確認すべく、Pt粒子の平均粒径を測定したところ、比較例1のサンプルでは、500℃で2h焼成した場合は139nmで、700℃で2h焼成した場合は155nmであった。
【0056】
一方、実施例1のサンプルでは、500℃で2h焼成した場合は100nmを超えるものは観測されず、700℃で2h焼成した場合は128nmであった。実施例2のサンプルでも、実施例1のサンプルと同様の結果であった。実施例3のサンプルでは、500℃で2h焼成した場合は100nmを超えるものは観測されず、700℃で2h焼成した場合は146nmであった。実施例4のサンプルでは、500℃で2h焼成した場合は100nmを超えるものは観測されず、700℃で2h焼成した場合は140nmであった。実施例5のサンプルでは、500℃で2h焼成した場合は100nmを超えるものは観測されず、700℃で2h焼成した場合は130nmであった。
【0057】
700℃で2h焼成したものについて、積分強度比較による粒径測定も行った。比較例1のサンプルの0.31に対して、実施例1〜5の値はこれよりも小さく、Pt粒径が細かいことが確認できた。
【0058】
これらの結果より、Ceによる固定効果にて、Pt粒子の粒成長が抑制されることが確認できた。
【0059】
(まとめ)
本発明のセラミック担持体は、上記課題を解決するために、排ガス浄化用の触媒能を有する貴金属を表面に担持する多孔質のセラミック担持体であって、Ceが固溶されると共に、比表面積が0.2m/cm以上のセラミック材よりなることを特徴としている。ここで比表面積とは、DPFなどとして成形されたセラミック担持体の単位体積あたりの表面積のことである。
【0060】
本発明の排ガス浄化用触媒体は、上記課題を解決するために、本発明のセラミック担持体と、該セラミック担持体の表面に、触媒能を有する貴金属として、Pt,Pd,Rhのうちの少なくとも1つ以上が担持されてなることを特徴としている。
【0061】
これによれば、セラミック材に固溶されたCeが貴金属の粒子(以下、貴金属粒子)と化学結合を形成して、貴金属粒子をセラミック担持体の表面に固定させることができる。また、Ceを固溶したセラミック材の比表面積が0.2m/cm以上であることで、セラミック担持体の表面に固定された貴金属粒子の間隔が十分広くなり、貴金属粒子の粒成長を効果的に抑制することができる。
【0062】
これにより、固溶されているCeによる貴金属粒子の固定効果と、該セラミック材の大きな比表面積による貴金属粒子の間隔を広げる分散効果とが複合的に作用して、貴金属粒子の粒成長を効果的に抑制することが可能となる。
【0063】
その結果、貴金属の触媒能を十分に発揮させ続けることができ、貴金属の担持量を同じとした場合には、従来構成のセラミック担持体を用いた排ガス浄化用触媒体よりも浄化性能を長く維持することができる。また、問題のない浄化能力を維持する期間を同じとした場合には、従来構成のセラミック担持体を用いた排ガス浄化用触媒体よりも、担持させる貴金属の量を削減することができる。
【0064】
本発明のセラミック担持体は、さらに、前記セラミック材がサイアロン組成を有する構成とすることができる。
【0065】
サイアロンには、α型とβ型とがあることが知られている。このうち、β-サイアロンは、六角柱状結晶粒子として成長することが確認されており、セラミックス材に要求されている比表面積の条件を容易に満足し得る。また、β-サイアロンは、Ceを固溶しやすく、添加したCeを有効に活用することが可能である。一方、α-サイアロンは、通常、Ceを添加しても固溶しにくいが、イットリウム(Y)を追加添加することによりCeを固溶することが可能となる。したがって、セラミック担持体としては、β-サイアロンに限らずα-サイアロンであってもよい。
【0066】
本発明のセラミック担持体は、さらに、前記セラミック材におけるCe含有量が0.5〜10wt%である構成とすることができる。
【0067】
含有量が0.5wt%を下回ると、固溶されるCeが不足して、必要量の貴金属粒子をセラミック担持体の表面に固定させることができなくなる恐れがある。固定されない貴金属粒子は、凝集を起こしやすくなる。一方、含有量が10wt%を超えると、Ceがサイアロンに固溶されずに、セラミック担持体の表面に、Ceを含む別の相が析出する恐れがある。Ceの析出を考慮した場合、Ce含有量の上限は5wt%とすることがより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質を捕集するためのDPFなどに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 DPF(排ガス浄化用触媒体)
10 ハニカム構造体(セラミック担持体)
11 セル
12 セル壁
21 封止部
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