【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「健康安心イノベーションプログラム/糖鎖機能活用技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Xu H et al.,Elevation of serum KL-6 mucin levels in patients with cholangiocarcinoma,Hepatogastroenterology,2008年,55(88),2000-2004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
レクチンWFA結合性糖タンパク質を肝内胆管がんのがんマーカーとし、被検試料における該がんマーカーをインビトロで検出することによって肝内胆管がんを検出する肝内胆管がんの検出方法において、被検試料における該がんマーカーの存在の検出を、標識化したレクチンWFAを用いた被検細胞のWFA染色によりインビトロで行うことを特徴とする肝内胆管がんの検出方法。
被検試料における標識化したレクチンWFAを用いた被検細胞のWFA染色による肝内胆管がんマーカーの存在のインビトロでの検出を、標識化したレクチンWFAと、レクチンWFA結合性糖タンパク質との結合を検出することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の肝内胆管がんの検出方法。
がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク質が、レクチンWFAに結合したCA125、N−CAM-L1、Maspin、及びMUC1の1又は2以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の肝内胆管がんの検出方法。
請求項1〜4の何れか1項に記載の肝内胆管がんの検出方法を用いて、被検試料における肝内胆管がんをインビトロで検出し、肝臓に原発する悪性腫瘍における肝内胆管がんを判別することを特徴とする肝内胆管がんの判別方法。
【背景技術】
【0002】
がんは、日本における死亡原因疾患の1位の座にあり、心疾患や、脳疾患等の他の疾患による死亡者数を大きく引き離している。一方、がんは多くの、あらゆる臓器において発症し、進行することで各種臓器への浸潤転移をする。したがって、がんに対する効果的な治療を行うためには、早期発見によって治療可能な時期に処置することが何よりも重要なことである。現在、各種診断方法の開発及び診断による早期発見が可能となったことから、早期治療に繋がり延命がなされるようになってきている。しかしながら、依然として、各種の診断及び治療方法の開発にも関わらず、原発巣からの浸潤転移により治療に困難を来たし、死に至る経過をとる。
【0003】
肝がんは、肝臓に存在する悪性腫瘍のことである。肝がんには肝臓に原発する原発性肝がんと、肝外臓器で発生したがん種が肝内に転移してきた転移性肝がんに分類することができる。肝臓に発生するおもな悪性腫瘍(原発性肝がん)には、肝細胞に由来する肝細胞がんと、胆管上皮細胞に由来する肝内胆管がん(または胆管細胞がん)が存在する。両者の混合型とみるべきものも存在する。肝細胞がん(Hepatocellular carcinoma:HCC)は、肝細胞に由来する悪性腫瘍であり、原発性肝がんの90%以上を占める。肝細胞がんのほとんどはウイルス性肝炎から発生する。肝内胆管がん(Intrahepatic cholangiocarinoma:ICC)は、原発性肝がんの3%を占めるがんで、早期発見が困難で、外科的切除後の生存率は低く、化学療法に反応性が乏しく、予後不良とされている。
【0004】
肝がんの早期検出のために、従来より、腫瘍マーカーを用いた検出手段の開発が進められている。肝細胞がんについては、現在までに、多くのがん検出用のマーカーが開発されている。例えば、α1フェトプロティン(AFP)は、肝細胞がんの腫瘍マーカーとして臨床的に用いられており、また、PIVKA−II(New Eng.J.Med.310,1427−1431,1984)も肝細胞がんの腫瘍マーカーとして利用されている。その他にも、肝がんの腫瘍マーカーとしては、例えば、CEA、CA19−9、KMO−1、DuPAN−2、SPan−1、CA50、SLX、塩基性フェトプロテイン(BFP)、NCC−ST−439、アルカリフォスファターゼアイソザイム、γ−GTPアイソザイム、IAP、TPA、β2−ミクログロブリン、フェリチン、POA及びトリプシンインヒビター等が知られている(特開2002−323499号公報)。
【0005】
また、近年、肝細胞がんで発現する遺伝子や、ポリペプチドからなる肝細胞がんの腫瘍マーカーとして多くのものが開示されている。例えば、Gla不全血液凝固第VII因子(特開平8−184594号公報)、アルドラーゼβ遺伝子、カルバミルフォスフェート合成酵素I遺伝子、プラスミノーゲン遺伝子、EST51549、アルブミン遺伝子、チトクロームP450サブファミリー2E1遺伝子、レチノール結合タンパク遺伝子、又はオーガニックアニオントランスポーターC遺伝子(特開2004−105013号公報)、ジンクフィンガードメイン並びにSETドメインを有するヒト遺伝子ZNFN3A1(特表2005−511023号公報)、ヘバラン硫酸プロテオグリカンであるグリピカン−3(GPC3)(特表2005−526979号公報)、染色体バンド1p36.13の領域に位置し、アクチン細胞骨格の再編成を調節する発生・分化促進因子1(DDEFL1)(特表2005−503176号公報)、等の遺伝子或いはポリペプチドからなる肝細胞がんの腫瘍マーカーが開示されている。
【0006】
更に、染色体領域の8p12、16p13.2−p13.3、16q23.1−q24.3、又は19p13.2−p13.3の領域における欠損の有無(特開2006−94726号公報)、分泌システィンリッチタンパク質のファミリーをコードするWnt−1(特開2007−139742号公報)、カルバモイル−ホスフェートシンセターゼL鎖MGC47816、及びヘリックスループ−ヘリックスメイン及びオレンジドメインを含むタンパク質HES6の遺伝子(特表2007−506425号公報)、SEMA5A(セマフォリン5A)、SLC2A2(溶質キャリアーファミリーメンバー)、ABCC2(ATP結合カセットサブファミリーCメンバー2)、又は、HAL(ヒスチジンアンモニアリアーゼ)からなる細胞関連性の肝細胞がん(HCC)タンパク質(特表2007−534722号公報)、又は、ヒトα2,6シアル酸転移酵素(特開2007−322373号公報)、等の遺伝子或いはポリペプチドからなる肝細胞がんの腫瘍マーカーが開示されている。
【0007】
最近、肝細胞がんに対する特異性の高いマーカーとして、血清中糖タンパク質の構成糖鎖群に注目した肝細胞がんマーカーが開示されている(特開2007−278803号公報)。該肝細胞がんマーカーは、肝細胞がんの発症に伴って消失若しくは減少するトリシアリル糖鎖からなる肝細胞がんマーカーからなり、該腫瘍マーカーを使用した肝細胞がんの検出は、標識化した糖鎖を用い、検体中のから調製した肝細胞がんマーカーの量を、陰イオン交換カラムによる分取、ODSシリカカラムを使用した高速液体クロマトグラフィーによる溶出パターンによる分析によって算出することにより行うことが示されている。
【0008】
一方で、肝内胆管がんを含む胆管がんを検出するための腫瘍マーカーもいくつかのものが開示されている。例えば、特表2003−527583号公報には、トリプシノーゲン活性化ペプチド(TAP)を胆管−膵臓系がん腫の検出用のマーカーとして使用することが、特開2005−304497号公報には、ZNF131、DOC2、DAB2、PC4、SKP2、CDH10、CDH12、TERT、CDK5、BA11、PSCA、MLZE、RECQL4、BCL1、FGF4、ITGB4、Survivin、SRC、PTPN1、PCTK1、CTAGから選ばれる1種以上のゲノム遺伝子を胆管がんの遺伝子マーカーとして用いるものが、WO2005/023301には、抗グリピカン3抗体を胆管がん診断薬として用いるものが、及び、特開2008−72952公報には、(1)insulin-like growth factor-binding protein 5(IGFBP5)、(2)Claudin 4(CLDN4)、(3)PDZ and LIM domain 7(PDLIM7)、及び(4)Biglycan(BGN)からなる群から選択されるClaudin 4を除く1つの遺伝子、又は、少なくとも2つの遺伝子の塩基配列からなるヌクレオチドを胆管がんを検出するためのマーカーと使用するものが、開示されている。なお、胆管がんとClaudin 4の関係自体については、“Modern Pathology 19,460-469(2006)”に報告されている。
【0009】
肝内胆管がんを含む胆道系腫瘍の克服戦略などの観点から、原発性肝がんにおける肝細胞がん、肝内胆管がん、そして両者の成分を確認できる混合型肝細胞がんの鑑別診断が重要である。組織マーカーとして従来よりCytokeratinが用いられており、最近ではEpCAMなどの新しいマーカーも注目されている。しかしながらこれら既存のマーカーは、胆管がんだけでなく、正常胆管や周辺の間質領域もまた陽性となるため、より胆管がん特異的なマーカーの開発が望まれている(Cytokeratin1:Oncology Rep.17,737-741,2007;Cytokeratin2:Med.Pathology 9,901-909,1996;EpCAM1:Gastoroenterology 136,1012-1024,2009;EpCAM2:Cancer Res.68,1451-1461,2008)。
【0010】
以上のように、肝細胞がんや肝内胆管がんのような肝がんの早期検出のために、多くのがん検出用のマーカーが開示されているが、該腫瘍マーカーは、その殆どが肝がんで発現する遺伝子や、ポリペプチドからなる肝がんの腫瘍マーカーであるため、遺伝子の発現の検出のための複雑な操作や、がん種を特異的に検出するための検出精度の問題等、臨床上の適用性の点や、がん種の鑑別診断或いはがん検出の感度、精度の点で、医療現場で、正確にかつ簡便に用いる肝がんの早期検出・診断のための検出手段としては多くの制約があり、必ずしも満足のできるものではなかった。また、肝がんで発現する遺伝子を腫瘍マーカーとして、肝がんの発生を検出する方法では、例えば、胆汁のようなものを被検試料とする場合には適用することができないものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
がんに対する効果的な治療を行うためには、肝がんにおいても早期発見による早期治療が何よりも重要な対処となる。原発性肝がんにおいては、肝細胞に由来する肝細胞がんと、胆管上皮細胞に発生する肝内胆管がんとがあるが、いずれにおいても早期に検出し、正確な鑑別診断によって、適切な治療を施すことが治癒につながると期待される。特に、肝細胞がんに比べて肝内胆管がんは、外科的切除後の生存率が低いので、早期発見と正確な診断が必要となる。しかし、肝内胆管がんは早期発見が難しい。更に、CTスキャン等の画像診断において検出できたとしても、肝細胞がんとの鑑別が困難であることがしばしば経験される。
【0014】
そこで、本発明の課題は、肝臓に原発する悪性腫瘍である肝内胆管がんを、早期において簡便な方法で、感度良く、かつ、確実に検出、判別する方法を提供すること、更に、具体的には、肝内胆管がんを、肝細胞がんと明確に鑑別し得るがんマーカーにより、適用性、感度、精度の点で、臨床上許容される性能で早期に検出及び判別する方法、しかも、簡便な手法により、医療現場で適用可能な方法で、肝内胆管がんを検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく、臨床現場で適用可能な肝内胆管がんの検出方法のためのがんマーカーについて、鋭意検討する中で、本発明者の知見により、細胞から分泌される糖タンパク質の糖鎖が、正常細胞由来、或いは、がん細胞の種類により特異的に変化することに着目し、レクチンマイクロアレイ解析を用いて、肝内胆管がんを特異的に認識する糖鎖バイオマーカーを探索する中で、肝内胆管がんを特異的に認識する糖鎖バイオマーカーを見い出し、すなわち、レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)結合性糖タンパク質からなる糖鎖バイオマーカーが、肝内胆管がんを特異的に認識するがんマーカーとなることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、肝内胆管がんに由来するレクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)結合性糖タンパク質からなる糖鎖バイオマーカーをがんマーカーとし、被検試料における該がんマーカーを検出することによって肝内胆管がんを検出することを特徴とする肝内胆管がんの検出方法からなる。本発明の肝内胆管がんの検出方法は、肝内胆管がんを、肝細胞がんと明確に鑑別することができ、しかも、適用性、感度、精度の点で、臨床上許容される性能で早期に検出及び判別することを可能とする。しかも、簡便な手法により、医療現場で適用可能な方法で、肝内胆管がんを検出することを可能とする。
【0017】
本発明において、糖鎖バイオマーカーとして、肝内胆管がんを特異的に検出するがんマーカーである「レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)結合性糖タンパク質」における「レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)」とは、Wisteria fioribunda(ふじ)に由来するAgglutinin(凝集素)であるレクチンを指すものである。ここで、「レクチン」とは、「糖鎖を特異的に認識して結合、架橋形成するタンパク質」と定義されるものである。
【0018】
本発明において、被検試料における該がんマーカーの存在の検出は、標識化したレクチンWFAを用いたWFA染色により、或いは、標識化したレクチンWFA、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク、及び、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体とのサンドイッチ法により行うことができる。該サンドイッチ法において用いられる、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体としては、CA125、N−CAM−L1、Maspin、及び、MUC1を抗原とする抗体を挙げることができる。
【0019】
MUC1、CA125、N−CAM−L1、及び、Maspinは、組織染色の結果、胆管がん特異的にその発現が認められたことから、胆汁、血清マーカーだけでなく、組織においても有力なマーカー候補分子となりえる。原発性肝がんのうち、数パーセントの割合で発生する肝がん、肝内胆管がん両者の併発型である混合型肝がんは、肝がんと胆管がんの治療戦略は両者で異なることから、その識別診断が重要とされている。現状用いられているCytokeratinや、EpCAMなどは胆管がん特異的ではないため、上記候補分子を識別マーカーとして活用することで、診断の正確性の向上に寄与できる可能性が期待される。その他の上記候補分子においては、胆管がん以外にもその発現が認められることから、組織マーカーとしての有用性は低いが、胆汁、血清においては、WFAとのコンビネーションによって胆管がんとそれ以外の疾患患者及び健常者とを見分けられる可能性がある。
【0020】
本発明において、肝内胆管がんの検出を、サンドイッチ法で行なう場合に用いられる「標識化したレクチンWFA」としては、蛍光標識したWFAを用いることができる。本発明の肝内胆管がんの検出方法をサンドイッチ法で行なう場合において、「レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体」は、該抗体を支持体上に固相化し、標識化したレクチンWFAにより、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパクをサンドイッチした形態で準備し、該サンドイッチ法を用い、検出することが好ましい。上記サンドイッチ法において、抗体を支持体上に固相化する代わりに、レクチンWFAを含む複数のレクチンを支持体上に固相化した反応場上でレクチンWFA結合性糖タンパクを提示し、標識した該抗体を用いて検出することができる。
【0021】
レクチンWFAを含む複数のレクチンを支持体上に固相化し、レクチンWFA結合性糖タンパクを提示し、標識した該抗体を用いて検出する方法においては、レクチンWFAを直接支持体上に固相化して行うことができるが(直説法)、該方法の改良法として、レクチンWFAをビオチン化WFAとし、該レクチンWFAをストレプトアビジンコートした支持体上に固相化した形態で調製することにより(間接法)、検出感度の向上と、バックグラウンドの減少を大幅に増進することができる。
【0022】
WFA結合性糖タンパク質の測定にサンドイッチ法を使用する場合、その測定には、ELISA、イムノクロマトグラフィー、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA法)、化学発光イムノアッセイ、エバネッセント波分析法などを利用することができる。これらの方法は当業者に公知であり、いずれの方法を選択してもよい。また、これらの方法は通常の手順に従って実施すればよく、実際の反応条件の設定等は、当業者が通常行い得る技術範囲内のものである。これらのうち、タンパク質結合物質及び糖鎖結合物質として、それぞれ抗体及びレクチンを用いたレクチン・抗体サンドイッチELISAを使用することが特に好ましい。
【0023】
サンドイッチ法では、タンパク質結合物質又は糖鎖結合物質のいずれかを固相に結合させる。以下、固相化した結合物質を「捕捉剤」と呼び、他方を「検出剤」と呼ぶ。捕捉剤を固相化する支持体(固相)としては、プレート(例、マイクロウェルプレート)、マイクロアレイ基板(例、マイクロアレイ用スライドガラス)、チューブ、ビーズ(例、プラスチックビーズ、磁気ビーズ)、クロマトグラフィー用担体(例、Sepharose(商標))、メンブレン(例、ニトロセルロースメンブレン、PVDF膜)、ゲル(例、ポリアクリルアミドゲル)などが例示される。その中でもプレート、ビーズおよびメンブレンが好ましく用いられ、取り扱いの簡便性からプレートが最も好ましく用いられる。捕捉剤は、十分な結合強度が得られる限りいずれの方法で固相化してもよく、例えば、共有結合、イオン結合、物理的吸着などによって固相化する。或いは、予め捕捉剤を固相化した支持体を用いてもよい。
【0024】
検出剤は、間接的または直接的に標識物質により標識されていてもよい。標識物質の例としては、蛍光物質(例、FITC、ローダミン、Cy3、Cy5)、放射性物質(例、
13C、
3H)、酵素(例、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ(西洋ワサビペルオキシダーゼなど)、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ)、などが挙げられる。また、検出剤をビオチン標識し、(ストレプト)アビジンを上記標識物質で標識して、ビオチンと(ストレプト)アビジンとの結合を利用してもよい。
【0025】
標識物質として酵素を用いる場合、使用する酵素に応じた適切な基質を用いて検出を行なう。例えば、酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合、基質としてはo−フェニレンジアミン(OPD)、テトラメチルベンジジン(TMB)などが使用され、アルカリホスファターゼを使用する場合には、p−ニトロフェニルホスフェート(PNPP)などが使用される。酵素反応停止液、基質溶解液についても、選択した酵素に応じて、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0026】
捕捉剤は、体液サンプル中のWFA結合性マーカー糖タンパク質と複合体を形成する。この複合体に検出剤を適用して生じたシグナルを測定することにより、体液中のWFA結合性マーカー糖タンパク質を検出・定量する。シグナルの測定は、使用した標識物質に応じて適切な測定装置を用いて行なえばよい。
【0027】
糖鎖とレクチンとの結合は抗体との結合と比較して弱いため、一般には、抗原抗体反応の結合定数は10
6〜10
9M
−1とされているが、レクチンと糖鎖間の結合常数は10
4〜10
7M
−1とされている。糖鎖結合物質としてレクチンを用いる場合、エバネッセント波励起型蛍光検出法を用いてシグナルの検出を行なうことが好ましい。エバネッセント波励起型蛍光検出法とは、スライドガラスの端面(側面)に全反射が起こるような条件で光を入射させると、ガラス(固相)と水(液相)などの屈折率の異なる2相間の場合、界面から数百nm程度の近接場にだけエバネッセント波と呼ばれるきわめて射程距離の短い光(近接場光と呼ばれる)が滲み出ることを利用する方法である。この方法により、蛍光物質の励起光を端面から入射して近接場に存在する蛍光物質のみを励起し、蛍光観察を行なう。エバネッセント波励起型蛍光検出法は、Kuno et al.,Nature Methods,2,851-856(2005)などに記載されている。この検出には、GlycoStation
TMReader 1200(モリテックス)等を使用することができる。
【0028】
糖鎖結合物質としては、レクチンを用いる。「レクチン」とは、特定の糖鎖構造を認識して結合するタンパク質の総称である。糖鎖は一般に、複数種の糖で構成されており、各糖の結合様式も様々であるため、多様で複雑な構造を有している。レクチンとしては多数の動植物に由来するものが知られており、例えば、ガラクトースに対する親和性を持つ動物レクチンファミリーであるガレクチン;カルシウムイオン依存性の動物レクチンファミリーであるC型レクチン;グリコサミノグリカンに対し一定の親和性を示すアネキシン;豆科レクチン;リシン等が挙げられる。本発明においては、ふじ由来レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)が用いられる。
【0029】
レクチンは、検出すべき糖タンパク質が持つ糖鎖構造に応じて適宜選択することができる。糖タンパク質の糖鎖構造を解析するための技術としては、フロンタルアフィニティークロマトグラフィー(FAC)、レクチンマイクロアレイ、MS又はMS
n(質量分析やタンデム質量分析法)などによる糖鎖プロファイリングが挙げられる。糖タンパク質の糖鎖構造が決定されれば、その情報に基づいて適切なレクチンを選択することができる。レクチンについての情報は、レクチンフロンティアデータベース(LfDB)、或いは産業技術総合研究所・糖鎖医工学研究センターのホームページ等から入手可能である。
【0030】
WFA結合性マーカー糖タンパク質のタンパク質部分に特異的に結合する物質としては、抗体を用いることが好ましい。このような抗体として市販の抗体を用いてもよいが、WFA結合性マーカー糖タンパク質の配列情報に基づいて、自体公知の方法によりWFA結合性マーカー糖タンパク質のタンパク質部分に特異的な抗体を作製してもよい。
【0031】
上記WFA結合性マーカー糖タンパク質の配列情報に基づき、その部分ペプチドを調製し、以下に記載するような自体公知の方法に従って、抗WFA結合性マーカー糖タンパク質抗体を作製することができる。これらのペプチドとしては、調製された抗WFA結合性マーカー糖タンパク質抗体がサンプル中に含まれ得る無関係の抗原に対して交差反応しない限り、いずれのペプチドを用いてもよく、1〜数個のアミノ酸の置換、付加、欠失等を含んでいてもよい。例えば、このペプチドは、WFA結合性マーカー糖タンパク質の糖鎖結合アミノ酸残基に近いペプチドであっても遠いペプチドであってもよい。
【0032】
本発明で用いる抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。抗体の製造には、WFA結合性マーカー糖タンパク質のタンパク質部分を抗原として用いる。
【0033】
本発明の肝内胆管がんの検出方法を用いて、肝内胆管がんの早期検出を行なうに際しては、肝内胆管がんを検出するための被検試料として、胆汁を含んだ臨床検体或いは臨床切片を用いることができる。該被検試料を用い、精度の高い肝内胆管がんの検出が可能となったことにより、従来の遺伝子マーカーを用いた場合には困難であった、医療現場での簡便かつ精度の高い、肝内胆管がんの発生の早期の検出が可能となった。本発明の肝内胆管がんの検出方を用いることにより、被検試料における肝内胆管がんを検出し、肝臓に原発する肝内胆管がんを早期に検出し、判別することができる。
【0034】
本発明は、本発明の肝内胆管がんの検出方法を実施するために用いられる、標識化したレクチンWFA及びレクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体を装備した肝内胆管がん検出及び/又は判別用キットを包含する。該レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体としては、CA125、N−CAM-L1、 Maspin、及びMUC1を抗原とする抗体の1又は2以上の抗体を挙げることができる。
【0035】
胆管がんマーカーとして組織マーカー(細胞診マーカー)、胆汁マーカー、血清マーカーが挙げられる。上記レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体が活用可能なフェーズとして、組織染色よって胆管がんに特異的発現が確認されたMUC1、CA125、N−CAM−L1、及びMaspinの4分子については、血清、胆汁マーカーはもちろん、組織マーカーとしての有用性もある。一方で、胆管がん特異的な染色ではなかった他の抗体については、WFAとの組み合わせによって、胆汁、血清でのマーカーとしての有用性が考えられる。組織染色の結果において、各診断フェーズに合わせて抗体を絞り込む必要があり、胆汁、血清に至ってはWFAとのコンビネーションが重要である。
【0036】
該レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体は、該抗体を固相化した形態とし、レクチンオーバーレイ検出用の肝内胆管がんの検出及び/又は判別用キットとして調製されたものであることが好ましい。上記サンドイッチ法において、抗体を支持体上に固相化する代わりに、レクチンWFAを支持体上に固相化し、該抗体をオーバーレイして検出することもできる。レクチンWFAを支持体上に固相化する場合に、レクチンWFAを直接支持体上に固相化して行うことができるが(直説法)、該方法の改良法として、レクチンWFAをビオチン化WFAとし、該レクチンWFAをストレプトアビジンコートした支持体上に固相化した形態で調製することにより(間接法)、検出感度の向上と、バックグラウンドの減少を大幅に増進することができる。
【0037】
すなわち具体的には本発明は、(1)レクチンWFA結合性糖タンパク質をがんマーカーとし、被検試料における該がんマーカーをインビトロで検出することによって肝内胆管がんを検出することを特徴とする肝内胆管がんの検出方法や、(2)レクチンWFA結合性糖タンパク質をがんマーカーとする肝内胆管がんの検出が、レクチンWFA結合性糖タンパクを糖鎖バイオマーカーとし、該糖鎖バイオマーカーの肝内胆管がん特異的糖鎖構造を検出するものであることを特徴とする上記(1)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(3)被検試料におけるがんマーカーの存在のインビトロでの検出を、標識化したレクチンWFAを用いた被検細胞のWFA染色により行うことを特徴とする上記(1)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(4)被検試料における該がんマーカーの存在の検出を、レクチンWFA、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク質、及び、レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体とのサンドイッチ法により行うことを特徴とする上記(1)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(5)レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体が、CA125、N−CAM-L1、Maspin、及びMUC1を抗原とする抗体の1又は2以上の抗体であることを特徴とする上記(4)記載の肝内胆管がんの検出方法に関する。
【0038】
また本発明は、(6)レクチンWFA、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク質、及び、レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体とのサンドイッチ法を、標識化したレクチンWFA又は標識化したレクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体を用いて行うことを特徴とする上記(4)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(7)レクチンWFA、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク質、及び、レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体とのサンドイッチ法による肝内胆管がんの検出を、レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体を支持体上に固相化し、標識化したレクチンWFAにより、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパクをサンドイッチしたレクチンオーバーレイにより行なうか、或いは、レクチンWFAを支持体上に固相化し、標識化した抗体によりがんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパクをサンドイッチした抗体オーバーレイにより行なうことを特徴とする上記(4)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(8)抗体オーバーレイ或いはレクチンWFAオーバーレイによる肝内胆管がんの検出を、マイクロアレイを用い、レクチンマイクロアレイ検出手段或いは抗体マイクロアレイ検出手段により検出することを特徴とする上記(7)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(9)肝内胆管がんのインビトロで検出するための被検試料が、胆汁又は血液からなる臨床検体或いは臨床切片であることを特徴とする上記(1)記載の肝内胆管がんの検出方法や、(10)上記(1)記載の肝内胆管がんの検出方法を用いて、被検試料における肝内胆管がんをインビトロで検出し、肝臓に原発する悪性腫瘍における肝内胆管がんを判別することを特徴とする肝内胆管がんの判別方法に関する。
【0039】
さらに本発明は、(11)レクチンWFA結合性糖タンパク質をがんマーカーとし、被検試料における該がんマーカーをインビトロで検出することによって肝内胆管がんを検出する肝内胆管がんの検出方法に用いるためのレクチンWFA結合性糖タンパク質がんマーカーの使用(12)標識化したレクチンWFA及びレクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体、或いは、標識化したレクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体及びレクチンWFAを装備した肝内胆管がん検出及び/又は判別用キットや、(13)レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体が、CA125、N−CAM-L1、Maspin、及びMUC1を抗原とする抗体の1又は2以上の抗体であることを特徴とする上記(12)記載の肝内胆管がんの検出及び/又は判別用キットや、(14)レクチンWFA結合性糖タンパク質を認識し、そして結合する抗体が、支持体上に固相化した形態で調製されているか、或いは、レクチンWFAが、支持体上に固相化した形態で調製されていることを特徴とする上記(12)記載の肝内胆管がんの検出及び/又は判別用キットや、(15)レクチンWFAをビオチン化WFAとし、該レクチンWFAをストレプトアビジンコートした支持体上に固相化した形態で調製したことを特徴とする上記(14)記載の肝内胆管がんの検出及び/又は判別用キットに関する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の肝内胆管がんの検出方法は、肝細胞がんとの鑑別が難しく、早期の正確な発見が難しい肝内胆管がんを、適用性、感度、精度の点で、臨床上許容される性能で早期に検出及び判別する方法、しかも、簡便な手法により、医療現場で適用可能な方法で、肝内胆管がんを検出する方法を提供する。特に、本発明の肝内胆管がんの検出方法は、肝内胆管がんを検出するための被検試料として、胆汁を含む臨床検体或いは臨床切片を用い、精度の高い肝内胆管がんの検出を可能としたことから、従来の遺伝子マーカー等を用いた場合には困難であった、医療現場での簡便かつ精度の高い、肝内胆管がんの発生の早期の検出を可能とした。
【0041】
肝内胆管がんを特異的に検出するマーカー候補分子のうち、特に胆管がん特異的に染色が認められたMY.1E12結合性MUC1、CA125、N−CAM−L1、及びMaspinは、組織染色によって混合型肝がんにおける肝内胆管がんを識別診断するための有用な組織マーカーを提供する。従来の診療で行われている胆汁細胞診は胆汁の採取法や標本作製手技に結果が左右されるほか、細胞の形状を見分ける診断者の間で結果のばらつきが大きく、感度も低い。そのような問題に対して、組織染色に加え、WFAを含むこれらの分子で細胞染色を行うことで、従来の細胞診に比べ、より精度よく見分けることができる細胞診マーカーとしての活用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、肝内胆管がんに由来するレクチンWFA結合性糖タンパクからなる糖鎖バイオマーカーをがんマーカーとし、該糖鎖バイオマーカーの肝内胆管がん特異的糖鎖構造を検出することによって肝内胆管がんを検出することを特徴とする肝内胆管がんの検出方法からなる。本発明において、糖鎖バイオマーカーとして、肝内胆管がんを特異的に検出するがんマーカーである「レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)結合性糖タンパク質」に結合する「レクチンWFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)」とは、Wisteria fioribunda(ふじ)に由来するAgglutinin(凝集素)であるレクチンを指すものである。該「レクチンWFA」自体は、周知のレクチンであり、容易に入手することができるものである。本発明において、「レクチンWFA」は、蛍光標識等により、標識化して用いられる。若しくは基板やアガロースなどの支持体に固定し、胆汁からWFA結合性タンパク質群だけを提示したり、捕獲、エンリッチするのに用いられる。
【0044】
本発明において、予め「レクチンWFA結合性糖タンパク質」を同定する(候補分子を絞り込む)には、糖タンパク質の糖鎖結合性レクチンとして、WFA(Wisteria fioribunda Agglutinin)をアガロースなどに固定した支持体を用い、胆汁などの生体試料からWFA結合性タンパク質を捕獲、エンリッチすることが望ましい。エンリッチしたタンパク質は質量分析等を用いたプロテオミクスにより同定することができる。
【0045】
本発明の肝内胆管がんの検出方法は、被検試料における該がんマーカーの存在を、標識化したレクチンWFAを用いたWFA染色により、或いは、標識化したレクチンWFA、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパク、及び、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し・結合する抗体とのサンドイッチ法により行うことができる。本発明のサンドイッチ法を用いた肝内胆管がんの検出のイメージを、
図1に示す。該図において、抗体固定ウェルプレートを使用し、直接的、間接的に蛍光標識したレクチンをオーバーレイして、抗体でトラップされた候補分子のうちWFAに結合する分子を選択的に検出する場合の肝内胆管がんの検出のイメージを
図1の「a」に、WFA固定ウェルプレートを使用し、直接的、間接的に蛍光標識した抗体をオーバーレイして、WFAでトラップされる候補分子を選択的に検出する場合の肝内胆管がんの検出のイメージを
図1の「b」に示す。
【0046】
本発明において、サンドイッチ法を用いた肝内胆管がんの検出を行なうに際しては、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し・結合する抗体を調製する。該抗体は、市販の或いは公知の抗体の中から、スクリーニングすることができる。該レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体としては、CA125(Hytest Ltd)、N−CAM-L1(R&D systems,Inc.)、Maspin(Santa Cyuz Biotechnology,Inc.)、及びMUC1を抗原とする抗体を挙げることができる。そして肝内胆管がんを特異的に検出するマーカー候補分子のうち、特に胆管がん特異的に染色が認められたMY.1E12結合性MUC1、CA125、N−CAM−L1、及びMaspinは組織染色によって混合型肝がんにおける肝内胆管がんを識別診断するための有用な組織マーカーを提供する。
【0047】
本発明のサンドイッチ法を用いた肝内胆管がんの検出に際しては、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体をアレイ上に固相化し、標識化したレクチンWFAにより、がんマーカーであるレクチンWFA結合性糖タンパクをサンドイッチしたレクチンオーバーレイ・抗体マイクロアレイを、マイクロアレイ検出手段により検出することができ、かかるマイクロアレイ検出手段による検出として、エバネッセント波励起蛍光法を用いた検出を用いることができる(「実験医学」Vol.25,No.17(増刊)P164-171,2007)。また、本発明の肝内胆管がんの検出法において、WFA固定ウェルプレートを使用し、直接的、間接的に蛍光標識した抗体をオーバーレイして、WFAでトラップされる候補分子を選択的に検出するサンドイッチELISA法を特に好ましい肝内胆管がんの検出法として用いることができる。
【0048】
本発明の肝内胆管がんの検出及び/又は判別方法を実施するには、上記のとおり標識化したレクチンWFA及びレクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体を装備した肝内胆管がん検出及び/又は判別用キットを用いることができるが、該キットは、レクチンWFA結合性糖タンパクを認識し、そして結合する抗体をアレイ上に固相化したキット、或いは、レクチンWFAをアレイ上に固相化したキットを検出用に調製されたものを用いることができる。該抗体としては、CA125、N−CAM−L1、 Maspin、及びMUC1を抗原とする抗体を挙げることができる。
【0049】
本発明の肝内胆管がんの検出方法により、肝内胆管がんの存在を検出する際には、肝内胆管がんの検出に供される患者由来の被検試料を調製して用いる。本発明において、被検試料としては、患者から採取された胆汁を含む臨床検体或いは臨床切片が用いられる。臨床切片を用いる方法は、末梢型の肝内胆管がんの検出に適合し、胆汁を用いる方法は、肝門部型の肝内胆管がんの検出に適合する。該被検試料を用いて、上記の検出手段により、がんの存在を検出する。
【0050】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0051】
[レクチンアレイを用いた肝内胆管がん特異糖鎖認識レクチンの選定]
(試験方法)
レクチンマイクロアレイは特異性の異なる40種以上の植物レクチンが同一基板上に固定化されており、分析対象となる糖タンパク質上の糖鎖との相互作用(結合性)を一斉に解析するシステムである(Kuno et al.,Nature Methods 2,851-856,2005)。これを用い肝内胆管がん特異的に染色するのに最適なレクチンを絞り込むことを試みた。本実験には、結石症合併型患者14例(同一切片内がん部・非がん部領域)、結石症非合併型患者10例(同一切片内がん部・非がん部領域)、結石症非合併型患者がん部21例、及び結石症非合併型患者非がん部14例を用いた。つまり、総解析数はがん部45例および非がん部38例となる。なお、組織切片からタンパク質を回収し、蛍光標識後レクチンアレイ解析するまでのプロトコルは松田ら(Biochem.Biophys.Res.Commun.370,259-263,2008)に従った。
【0052】
<1.組織切片からタンパク質の回収>
まず顕微鏡により確認した各サンプルのがん部及び非がん部領域(およそ1×1mm相当)をかきとり、その組織フラグメントをあらかじめ10mMクエン酸(pH6.0)200μLを入れた1.5mL容マイクロチューブに回収した。得られた組織フラグメント入り溶液はホルマリンによる分子内および分子間架橋を解離するため95℃で90分処理した。熱処理後、20,000×g、5分、4℃で遠心分離し、上清を除いた。残りの組織フラグメント含有ペレットにPBS(−)200μLを加えた(バッファー交換工程)。更に、20,000×g、5分、4℃で遠心後、上澄みを除き、ペレットに0.5%NP40−PBS20μLを加えた。ペレットを超音波破砕により細粒化した後に、氷上で60分反応し、膜タンパク質を可溶化した。反応後、20,000×g、5分、4℃で遠心し、上清を組織抽出タンパク質として回収した。
【0053】
<2.タンパク質の蛍光標識>
回収したすべての組織抽出タンパク質溶液は、予め10μgずつPCRチューブに小分けしたCy3−SE(GEヘルスケア社製) に添加した。室温、暗所で1時間化学反応を行った後、反応を完全に止めるためグリシン含有バッファー180μL添加し、室温、暗所で2時間反応した。得られた溶液を蛍光標識組織切片由来タンパク質溶液とした。
【0054】
<3.レクチンアレイ解析>
蛍光標識組織切片由来タンパク質溶液はレクチンアレイ用バッファーにより2倍、8倍へ希釈され、それぞれ60μLをレクチンアレイの各反応槽へ添加した。なお8つの反応槽からなるレクチンマイクロアレイ基盤の作製は内山ら(Proteomics 8,3042-3050(2008))の手法に従った。1晩20℃にて相互作用反応させた後、各反応槽をレクチンアレイ用バッファーで3回洗浄し、定法に従いスキャニングした。得られたスキャンデータは定法に従いシグナルをNet Intensityとして数値化し、次の統計解析のために久野ら(Journal of Proteomics and Bioinformatics 1,68-72(2008))の手法に従い規格化された。
【0055】
<4.統計解析>
規格化されたすべてのデータは、がん部及び非がん部の2群比較検定に用いた。各データはレクチンごとにWhelch's t-testやROC曲線解析を用いて有意差検定し、肝内胆管がんで有意なシグナル上昇を示すレクチンを選定するのに用いた。
【0056】
(結果)
表1(肝内胆管がん組織がん部(T)及び非がん部(N)領域中糖タンパク質にの比較糖鎖プロファイリング結果)に示すようにレクチンマイクロアレイ後の統計解析から、5種のレクチンで非がん部と比較してがん部において2倍以上の結合シグナルを示し、WFAが最も特異度が高かった(4.6倍)。そこで、結石症合併型14症例、結石症非合併型10症例についてがん部及び非がん部のWFAシグナルについてWhelch's t-testにより、統計的に有意差の有無を確認したところ、それぞれ危険度はP<0.0001,P=0.0015であった。またROC曲線解析により、その感度は84%、特異度は92%、AUC0.93であった。
【0057】
結果を、
図2に示す(肝内結石症合併及び非合併型肝内胆管がん組織切片中がん部及び非がん部のレクチンマイクロアレイによる比較糖鎖プロファイリング解析のうちWFAシグナルを統計解析した結果)。以上のことから、WFAによる組織染色は切片中肝内胆管がんの検出を可能にすることが示唆された。また、WFA結合糖鎖(WFA結合性糖タンパク質)は、肝内胆管がんの特異的マーカーとなる可能性が見出された。
【0058】
【表1】
【実施例2】
【0059】
[肝内胆管組織を用いた肝内胆管がんの検出]
実施例1から、WFAによる組織染色で、組織切片中肝内胆管がんを検出できる可能性が見出されたため、肝内胆管がん患者組織切片結石非合併型症例について以下の通り検討した。
【0060】
(実験方法)
WFAによる組織染色は、染色キット:Histo-fine (ニチレイ)を用い、以下のとおり実施した。まず、ホルマリン固定肝内胆管がん患者組織切片(5μm厚)を定法に従い組織切片上に被覆しているパラフィンを脱パラフィン化した。脱パラフィン化した組織切片はPBS にて洗浄し、風乾後、10mMクエン酸バッファー(pH6.0)中に浸し、121℃、15分間オートクレーブすることで、ホルマリンによる分子間(分子内)架橋を解離した。処理後の切片は室温でしばらく放置した後、PBSに5分間3回繰り返し浸し、組織表面を洗浄した。次いで0.3% H
2O
2−MeOHにて10分間、室温で処理することで、内在性ペルオキシダーゼのブロッキング反応を行った。
【0061】
PBSにて洗浄 (5分、3回)後、1%BSA−PBSにて10分間、室温反応し、ビオチン化レクチンの非特異的吸着を抑えるブロッキング反応を行った。更に、PBSにて洗浄 5分、3回)後、ビオチン化WFA溶液 (Vector社製、5μg/mLになるようHEPESで懸濁) を組織切片上へ添加し、保湿箱中にて20℃で2時間結合反応した。PBSにて洗浄 (5分、3回)した後、次いでストレプトアビジン溶液を加え、保湿箱中にて室温で10分間反応した。更にPBSにて洗浄 (5分、3回)後、基質溶液を加え、約5分間、室温にて発色反応した。反応を停止するため、ミリQ水に5分間3回浸した。最後にヘマトキシリンで、室温、1分間処理し、核酸を染色後、流水にて洗浄した。
【0062】
(結果)
肝内胆管がんの診断マーカーの有力候補であるWFAについて、正常肝(転移性肝がん)25例、肝内胆管がん90例、混合型肝がん10例、肝細胞がん25例の標本における発現を免疫組織化学にて検討した。表2(組織染色の結果)に示すように、正常胆管上皮では8例(32%)で、肝内胆管がんでは83例(88%)で、混合型肝がんの胆管細胞がん部分では8例(80%)で、そのがん腺管上皮にWFAリガンドの発現を認めた。混合型肝がんの肝細胞がん部分や肝細胞がんではWFAリガンドの発現を認めなかった。このことより、WFAは肝内胆管がん並びに混合型肝がんの診断マーカーとして有用であると考えられた。また、WFA発現の有無を肝内胆管がんの臨床病型分類の立場より比較検討したところ、部位(肝門部型,末梢型)や肉眼型(腫瘤形成型、胆管浸潤型、混合型、胆管内発育型)によるWFAリガンドの発現頻度の変動は認められなかった。
【0063】
また、興味深いことにWFA陽性部位は、公知の肝内胆管がんマーカー抗体であるMY.1E12(J. Cancer Res.,87:488-496,1999;Hepatology,30:1347-1355,1999)による染色領域とほぼ一致した(
図3:肝内胆管がん患者組織切片の免疫組織化学:WFA、MY.1E12共に胆管がんで染色される。)。したがってMY.1E12抗原であるMUC1はWFA結合性タンパク質の1つであることが示された。
【0064】
【表2】
【実施例3】
【0065】
[胆汁中に混入する細胞を用いた肝内胆管がんの検出]
閉塞性黄疸を解除する目的にて胆道ドレナージが施行され、その際に採取された胆汁を検体として解析した。実施例2と同じ手順でWFA染色を実施したところ、病理組織診断及び細胞診においてがんの存在が確定された検体ではWFA陽性の細胞が確認され、細胞学的にがんと同定された。しかしながら、病理組織および細胞診において陰性であった検体ではWFAに染色される細胞は確認されなかった(
図4:細胞診標本におけるWFA染色による組織化学解析の結果)。
【実施例4】
【0066】
[レクチンWFA結合性糖タンパク質の同定]
(実験方法)
組織切片からのWFA 結合性糖タンパク質の捕獲及び当該タンパク質の同定は以下の手順に従い実施した。なお、同定されるタンパク質の種類に症例間差が生じる可能性があるため、本実験には4患者症例分の実験を行い、それらをまとめてWFA結合性タンパク質群とした。
【0067】
<1.WFA陽性組織領域由来タンパク質の抽出>
ホルマリン固定肝内胆管がん患者組織連続切片(10μm厚)6枚を定法に従い組織切片上に被覆しているパラフィンを脱パラフィン化した。脱パラフィン化した組織切片はPBSにて洗浄後、風乾した。うち1枚を実施例2と同様の方法でWFA染色した。WFA染色組織切片スライドガラスを顕微鏡で確認し、WFA陽性領域(5×5mm 四方程度)を確定後、未染色組織切片スライドガラス5枚から、WFA陽性領域をかきとり、その組織フラグメントを予め10mMクエン酸 (pH6.0) 200μLを入れた1.5mL容マイクロチューブに回収した。
【0068】
得られた組織フラグメント入り溶液はホルマリンによる分子内および分子間架橋を解離するため95℃で90分処理した。熱処理後、20,000×g、5分、4℃で遠心分離し、上清を除いた。残りの組織フラグメント含有ペレットにPBS(−)200μLを加えた(バッファー交換工程)。更に、20,000×g、5分、4℃で遠心後、上澄みを除き、ペレットに0.5%NP40−PBS20μLを加えた。ペレットを超音波破砕により細粒化した後に、氷上で60分反応し、膜タンパク質を可溶化した。反応後、20,000×g、5分、4℃で遠心し、上清を組織抽出タンパク質溶液として回収した。
【0069】
<2.WFA結合性タンパク質の捕獲>
まず、25μgのビオチン化WFAを、ストレプトアビジン固定化磁気ビーズ(Dynabeads MyOne Streptavidin T-1, Dynabeads社製、100μL)に固定化し、これをWFA固定化磁気ビーズとした。予めビーズへ非特異的に結合するタンパク質を吸収するためにストレプトアビジン固定化磁気ビーズと1時間反応した組織抽出タンパク質溶液を、WFA固定化磁気ビーズへ添加し、4℃で一晩振盪反応した。結合反応後、磁石によりビーズを回収し、次いで1%Triton X-100含有PBS1mLにてビーズを2回洗浄した。洗浄後のビーズへ溶出バッファー(0.1%SDS含有PBS)100μLを加え、5分間加熱処理することで、WFA結合性タンパク質を溶出した。これをWFA結合性タンパク質溶液とした。
【0070】
<3.WFA結合性タンパク質の同定>
工程2で得られたWFA結合性タンパク質は、TCA処理により濃縮された。濃縮タンパク質溶液は、全量を5〜20% ポリアクリルアミドゲルの1ウェルへアプライし、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動した。分離後、定法により銀染色したゲルから、タンパク質染色性バンドを切り出した。定法によりゲル中のタンパク質はトリプシン処理によりペプチド断片化され、ゲルから抽出、脱塩後、質量分析装置によりそれぞれのタンパク質を同定した。
【0071】
(結果)
今回肝内胆管がん4症例分を用いた上述の実験により、WFA結合性タンパク質候補分子として171分子が同定された。これら候補分子のうち、本実施例では抗体が市販されている糖タンパク質47分子に限定し、以降の絞り込みを行った。候補分子の絞り込みは、各分子に関する詳細な情報をもとにしたスコアリングにより、高得点の分子を最有力分子として絞り込みを行った。
【0072】
<スコアリング方法(16点満点)>
(1)トランスクリプトームレベルで、各組織での候補分子の発現情報より、肝内胆管がんで発現している場合、3点を加算する(info)。
(2)基本的に分泌タンパク質を標的とするため、シグナル配列を有する場合、3点加算する(S)。
(3)タンパク質レベルの発現情報が掲載されているProtein Human Atras (HUPO) により、肝内胆管がんでの発現、肝細胞がん組織での発現が確認された場合3点を加算し、更に正常組織で発現していない場合は2点を追加する(Hu)。
(4)既報の糖鎖付加情報より、糖鎖修飾が確認されている場合、1点加算する(Up)。
(5)既報の文献情報により、がん関連分子と報告されていたり、がんによる発現の増減の変動があると確認されていたりする場合、2点加算し、その報告がCCC関連の場合は1点加算、かつ胆汁での発現が報告されている場合はさらに1点追加する(J)。
【0073】
(結果)
結果を、表3に示す。表に示されるように、CA125、N−CAM−L1、 Maspin, Lactoferrin、 CollagenIV,、CathepsinWの6分子が総獲得点数8点以上(16点満点中)であったため、MUC1に加えこれらを肝内胆管がん特異的に発現するWFA結合性タンパク質の最有力候補分子とした。
【0074】
【表3】
【実施例5】
【0075】
[WFA結合性タンパク質候補分子の絞り込み]
この時点では、がん部と非がん部を見分けるものにすぎず、周辺領域である間質、肝実質への染色性を加味したものとなっていない。そこで、次に組織染色によるマーカーの局在を確認し、更なる絞り込みを試みた。
【0076】
(組織染色)
ホルマリン固定肝内胆管がん患者組織連続切片(5μm厚)を定法に従い組織切片上に被覆しているパラフィンを脱パラフィン化した。脱パラフィン化した組織切片はPBSにて洗浄後、10mMクエン酸(pH6.0)緩衝液中で、121℃、15分間オートクレーブによって抗原の賦活化処理を行った。PBSにて洗浄後、0.3%過酸化水素加メタノールに20分浸し、内在性ペルオキシダーゼの活性阻止を行った。PBS洗浄後、正常ウサギ血清にてブロッキングしたのち、各抗体(MY.1E12 ;0.5mg/mL,anti-CA125 ;1mg/mL, anti-Maspin ;2mg/mL, anti-N-CAM-L1 ;1mg/mL, anti-Cathepsin W ;5mg/mL, anti-CollagenIV ;5mg/mL, anti-Lactoferrin ;1mg/mL, 全てマウスIgG抗体)を加えた後、室温にて1時間反応させた。PBSにて洗浄後、ヒストファインシンプルステインキット(ニチレイ社)にて発色を行った。滅菌水にて洗浄後、ヘマトキシリンにより対比染色を行った後、封入した。
【0077】
(結果)
各候補分子の組織染色の典型例を
図5に示す。また、その発現パターンを表4に示す。染色が見られるもの(+)、わずかながらではあるが染色が確認できたもの(−/+)、染色が見られなかったもの(−)をそれぞれ示す。胆管がん特異的に染色が見られ、組織マーカーとしてあるいは胆汁、血清マーカーとしての有用性が考えられる最有力候補群 (MUC1, CA125, N-CAM-L1, Maspin) と胆管がん特異的ではないがWFAとの組み合わせによって胆汁、血清におけるマーカーとしての可能性が考えられる候補群 (Lactoferrin,CollagenIV,CathepthinW) とに区別できる。前者を組織マーカーを含めた胆汁、血清マーカー、後者を胆汁、血清マーカーとして最終的な有力候補分子とした。
【0078】
【表4】
【実施例6】
【0079】
[胆汁を用いた肝内胆管がんの検出1]
肝内胆管がんに由来するWFA結合性糖タンパク質からなる糖鎖バイオマーカーをがんマーカーとし、該糖鎖バイオマーカーの肝内胆管がん特異的糖鎖構造を検出する最良の形態としては、組織ライセートや胆汁中に含まれる糖鎖バイオマーカーを臨床上許容される性能で、かつ、臨床上適用可能な簡便な手段により検出及び判別する方法が考えられる。以下にはその例として、選抜された7つの肝内胆管がん特異的マーカー候補分子のうち、実施例2で候補分子として挙げられたMY.1E12抗体結合性MUC1分子について、肝内胆管がん患者胆汁を対象とした抗体オーバーレイ−WFAウェルプレート(
図1bを参照)を用いたサンドイッチ検出分析の結果を示す。
【0080】
(実験方法)
<1.WFA固相化ウェルプレートの作製>
マイクロタイタープレート(グライナー社製 96ウェル平底高結合性プレート)へPBS緩衝液に溶解したWFA(Vector社製、2.5μg/mL)を各ウェルに100μLずつ加え、2時間室温で保温し、支持体へWFAを固相化した。未結合WFAを洗浄液である0.1%Tween20含有PBS(200μL)で2回ずつ洗浄し、ブロッキング剤である1%BSA含有洗浄液を200μLずつ加えた。2時間室温で反応後、0.1%Tween20含有PBS(200μL)で2回ずつ洗浄し、WFA固相化ウェルプレートを完成させた。
【0081】
<2.結合および検出反応>
まず、胆汁のタンパク質定量をマイクロBCAタンパク質定量キット(PIERCE社製)により行った。各サンプルは上記洗浄液で200μg/mLになるように希釈し、うち100μLを1で作製したWFA固相化ウェルプレートへ添加した後、2時間室温で結合反応した。反応後、各ウェルは上記洗浄液200μLで5回洗浄し、未結合タンパク質を除去した。そこにあらかじめ0.5μg/mLへ洗浄液で調整した検出剤(MY.1E12抗体溶液)を1ウェルあたり100μLずつ加え、室温で2時間抗原抗体反応した。
【0082】
未結合抗体を除去するために洗浄液200μLで洗浄後、洗浄液で4,000倍希釈した抗マウスIgG抗体−HRP溶液(Jackson immuno Research社製)を、1ウェルあたり100μLずつ加え、室温で1時間保温した。各ウェルを200μLの洗浄液で5回洗浄後、発色試薬であるULTRA-TMB溶液 (Thermo社製)を各ウェルに100μLずつ加え、10分間発色反応した。1MのH
2SO
4溶液を1ウェルあたり100μL加え反応を停止し、プレートリーダーにより450nmで吸光度測定した。得られたシグナルはMY.1E12結合性MUC1を含まない健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比として数値化し、以降の解析に用いた。
【0083】
(結果)
肝内胆管がん患者由来胆汁30症例に加え、肝内結石症患者由来胆汁22症例分について分析を行った。その結果を
図6aに示す。肝内結石症患者に比べ、肝内胆管がん患者においてS/N値が明らかに上昇しているのが分かる。その有意差はT−検定により危険度P=0.0016であった。そこで肝内胆管がん患者を陽性、肝内結石症患者を陰性としてROC曲線を作成した。その結果を
図6bに示す。がんと結石症を判別する感度は90%、特異度は60%であった。この成績はこれまで報告されているいずれのマーカーによる判別結果よりも優れていることが表5(WFA−MY.1E12・サンドイッチ・ELISA法と、既報との比較:斜体が本発明実施例;既存マーカーによる検査はいずれも文献値を示す。)に示される。特に感度すなわちがんを検出する能力は90%であり既存の手法の最高値71%に比べ群を抜いて優れている。肝内胆管がんはその特性上、早期に発見でき、かつ偽陰性が少ないことが求められている。つまり感度が高いマーカーが重要である。そういう意味でも今回開発した手法は最も優れた肝内胆管がんマーカーであることが示される。
【0084】
【表5】
【実施例7】
【0085】
[胆汁を用いた肝内胆管がんの検出2]
検出感度向上やバックグラウンドノイズの減少を目指し、
図7(サンドイッチELISAの改良)に示すように、レクチンの固定化方法を直接法から間接法に変更した。候補分子のうちMY.1E12抗体結合性MUC1分子及びCA125について検討した。
【0086】
(実験方法)
<1.WFA固相化ウェルプレートの作製>
ストレプトアビジンコートマイクロタイタープレート(NUNC社製 96ウェル平底プレート)へPBS緩衝液に溶解したビオチン化 WFA(Vector社製、20μg/mL)を各ウェルに50μLずつ加え、1時間室温で保温し、支持体へWFAを固相化した。未結合ビオチン化 WFAを洗浄液である0.1%Tween20含有PBS(300μL)で2回ずつ洗浄し、WFA固相化ウェルプレートを完成させた。
【0087】
<2.結合および検出反応>
まず、胆汁のタンパク質定量をマイクロBCAタンパク質定量キット(PIERCE社製)により行った。各サンプルは上記洗浄液で400μg/mLになるように希釈し、うち50μLを1で作製したWFA固相化ウェルプレートへ添加した後、2時間室温で結合反応した。反応後、各ウェルは上記洗浄液300μLで5回洗浄し、未結合タンパク質を除去した。そこにあらかじめ0.5μg/mLへ洗浄液で調整した検出剤(MY.1E12抗体溶液)もしくは1.0μg/mL洗浄液で調整した検出剤(Anti-CA125抗体)を1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で2時間抗原抗体反応した。
【0088】
未結合抗体を除去するために洗浄液300μLで洗浄後、洗浄液で4,000倍希釈した抗マウスIgG抗体−HRP溶液(Jackson immuno Research社製)を、1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で1時間保温した。各ウェルを300μLの洗浄液で5回洗浄後、発色試薬であるULTRA-TMB溶液(Thermo社製)を各ウェルに100μLずつ加え、10分間発色反応した。1MのH
2SO
4溶液を1ウェルあたり100μL加え反応を停止し、プレートリーダーにより450nmで吸光度測定した。得られたシグナルはMY.1E12結合性MUC1おしくはCA125を含まない健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比として数値化し、以降の解析に用いた。
【0089】
(結果)
肝内胆管がん患者由来胆汁30症例に加え、肝内結石症患者由来胆汁22症例分について分析を行った。その結果を
図8aに示す。肝内結石症患者に比べ、肝内胆管がん患者においてS/N値が明らかに上昇しているのが分かる。その有意差はT−検定により危険度P=0.0015であった。そこで肝内胆管がん患者を陽性、肝内結石症患者を陰性としてROC曲線を作成した。その結果を
図8bに示す。がんと結石症を判別する感度は90%、特異度は76%で、直接レクチンを固定する場合に比べ特異度が大幅に向上した。なお、
図8c、dに示す通り、WFA−CA125・サンドイッチ・ELISAでは結石症患者、胆管がん患者との間の有意差は、感度57%、特異度64%程度であった。
【0090】
(考察:Cytologyとの比較)
本発明による肝内胆管がん検出、判別法の成績は従来胆汁を用いて行われている胆汁細胞診による判別結果よりも優れていることが表6(WFA−MY.1E12・サンドイッチ・ELISA法と、胆汁細胞診との比較:斜体が本発明実施例)に示される。感度すなわちがんを検出する能力は胆汁細胞診の22%(4/18)に比べ83%(15/18)であり胆汁細胞診に比べ優れている。肝内胆管がんはその特性上、早期に発見でき、かつ偽陰性が少ないことが求められている。つまり感度が高いマーカーが重要である。今回開発した手法は優れた肝内胆管がんマーカーであることが示される。
【0091】
一方でWFA−CA125・サンドイッチ・ELISAでは、感度の点ではWFA−MY.1E12・サンドイッチ・ELISAに比べて劣るものの、細胞診クラスに依存して陽性率が向上することが示された。したがって、WFA−CA125・サンドイッチ・ELISAは、WFA−MY.1E12 サンドイッチ・ELISAに比べ、よりがんの進行が後期のものを見分けるのに適する可能性が示された。
【0092】
【表6】
【実施例8】
【0093】
[血液を用いた肝内胆管がんの検出]
上述のとおり、高感度な検出系を確立できたため、引き続き血清を用いた検出を試みた。
(実験方法)
<1.WFA固相化ウェルプレートの作製>
ストレプトアビジンコートマイクロタイタープレート(NUNC社製 96ウェル平底プレート)へPBS緩衝液に溶解したビオチン化 WFA(Vector社製、20μg/mL)を各ウェルに50μLずつ加え、1時間室温で保温し、支持体へWFAを固相化した。未結合ビオチン化 WFAを洗浄液である0.1%Tween20含有PBS(300μL)で2回ずつ洗浄し、WFA固相化ウェルプレートを完成させた。
【0094】
<2.結合および検出反応>
各血清サンプルは上記洗浄液で4μL/100μLになるように希釈し、うち50μLを1で作製したWFA固相化ウェルプレートへ添加した後、2時間室温で結合反応した。反応後、各ウェルは上記洗浄液300μLで5回洗浄し、未結合タンパク質を除去した。そこにあらかじめ0.5μg/mLへ洗浄液で調整した検出剤(MY.1E12抗体溶液)を1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で2時間抗原抗体反応した。
【0095】
未結合抗体を除去するために洗浄液300μLで洗浄後、洗浄液で4,000倍希釈した抗マウスIgG抗体−HRP溶液(Jackson immuno Research社製)を、1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で1時間保温した。各ウェルを300μLの洗浄液で5回洗浄後、発色試薬であるULTRA-TMB溶液(Thermo社製)を各ウェルに100μLずつ加え、10分間発色反応した。1MのH
2SO
4溶液を1ウェルあたり100μL加え反応を停止し、プレートリーダーにより450nmで吸光度測定した。
【0096】
(結果)
胆管がん患者由来血清5症例に加え、原発性胆汁性肝硬変(PBC)患者由来血清3例、肝内結石症患者由来血清5症例、健常者血清6例分について分析を行った。その結果を
図9に示す。PBC患者(b)、肝内結石症患者(c)、健常者(d)に比べ、胆管がん患者(a)において5例中3例が値で明らかに上昇しているのが分かる。