(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5787918
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】圧着端子および圧着端子を用いたワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20150910BHJP
H01R 13/52 20060101ALI20150910BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R13/52 Z
H01R4/62 A
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-32423(P2013-32423)
(22)【出願日】2013年2月21日
(65)【公開番号】特開2014-164826(P2014-164826A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2014年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】折戸 博
(72)【発明者】
【氏名】木原 泰
(72)【発明者】
【氏名】川村 幸大
(72)【発明者】
【氏名】外池 翔
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−331931(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0206631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
H01R 4/62
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が長手方向に挿入可能な圧着部を含む圧着端子であって、
周方向において水密な断面中空形状を有するとともに、前記長手方向の前端部と、前記電線が挿入可能な開口端を形成する前記長手方向の後端部と、前記後端部に位置するとともに前記電線の芯線が絶縁体で被覆された被覆部に圧着される被覆圧着部と、前記被覆部の前記長手方向先端から前記芯線が露出した露出部に圧着される芯線圧着部と、前記芯線圧着部の前記前端部側に位置し、前記中空形状の内面が互いに水密にされた封止部と、前記被覆圧着部に設けられ径方向内側に突出するとともに前記長手方向に離間した複数の凸条部とを備え、
前記後端部側に位置する前記凸条部は、前記前端部側に位置する前記凸条部に比べて、前記径方向内側へ突出する寸法が大きいことを特徴とする圧着端子。
【請求項2】
前記凸条部の少なくともいずれかひとつは、前記被覆圧着部の周方向に環状に設けられることを特徴とする請求項1記載の圧着端子。
【請求項3】
前記凸条部の少なくともいずれかひとつは、前記後端部側において前記径方向内側へ突出する寸法が、前記前端部側において前記径方向内側へ突出する寸法よりも小さいことを特徴とする請求項1または2記載の圧着端子。
【請求項4】
導電性の芯線が絶縁体で被覆された被覆部および前記被覆部の先端から露出する露出部を有する電線と、
前記電線が長手方向に挿入可能な圧着部を有する圧着端子と
を含むワイヤハーネスであって、
前記圧着端子は、周方向において水密な断面中空形状を有するとともに、前記長手方向の前端部と、前記電線が挿入可能な開口端を形成する前記長手方向の後端部と、前記後端部に位置するとともに前記被覆部に圧着される被覆圧着部と、前記露出部に圧着される芯線圧着部と、前記芯線圧着部の前記前端部側に位置し、前記中空形状の内面が互いに水密にされた封止部と、前記被覆圧着部に設けられ径方向内側に突出するとともに前記長手方向に離間した複数の凸条部とを備え、
前記後端部側に位置する前記凸条部は、前記前端部側に位置する前記凸条部に比べて、前記径方向内側へ突出する寸法が大きく、
前記後端部側に位置する前記径方向における前記凸条部間の離間寸法と、前記前端部側に位置する前記径方向における前記凸条部間の離間寸法とが略等しいことを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項5】
前記芯線はアルミニウム系材料で構成され、前記芯線圧着部が銅系材料で構成されることを特徴とする請求項4記載のワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等のワイヤハーネスおよびこれに用いる圧着端子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、OA機器、家電製品等の分野では、電力線や信号線として、電気導電性に優れた導電線が使用されるワイヤハーネスが知られる。ワイヤハーネスは、電線に取り付けられ他の機器等との接続に用いられる圧着端子を含む。電線は、絶縁体で被覆された被覆部と、被覆部先端から芯線が露出する導体部分の露出部とを有し、圧着端子が被覆部および露出部のそれぞれに圧着されることによって、導電性のワイヤハーネスが構成される。軽量化の観点から、芯線材料としてアルミニウムを用いた電線が注目される。圧着端子としては、電気特性に優れる銅が使用されることが多い。
【0003】
例えばアルミニウムと銅のような異種金属の接触部分に水分が付着すると、標準電極電位の違いから、いわゆる電食が発生する恐れがある。特に、アルミニウムと銅との標準電極電位差は大きいから、電気的に卑であるアルミニウム側の腐食が進行する。このため、芯線と圧着端子との接続状態が不安定となり、接触抵抗の増加や線径の減少による電気抵抗の増大、さらには断線が生じて電装部品の誤動作、機能停止に至る恐れがある。
【0004】
このような異種金属が接触するワイヤハーネスにおいて、電線と圧着端子との接続部を覆うように樹脂材を充填したものがある(特許文献1)。樹脂材を充填することによって、電線と圧着端子との接触部分に水分が付着するのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−111058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、樹脂材を別途充填しなければならないので、製造工程が複雑になり、その分、製造工程における管理も複雑化するという問題が生じる。また、工程が複雑になった分、ワイヤハーネス全体のコストも上がってしまう。従って、樹脂材を用いない止水方法が望まれている。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、樹脂材を用いずに電線との接触部分への水分の付着を予防可能であり、かつ、製造工程の簡略化を図ることが可能な圧着端子およびこの圧着端子を用いたワイヤハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達するために第1の発明は、電線が長手方向に挿入可能な圧着部を含む圧着端子であって、周方向において水密な断面中空形状を有するとともに、前記電線が挿入可能な開口端を形成する前記長手方向の後端部と、前記後端部に対向する前端部と、前記後端部に位置するとともに前記電線の芯線が絶縁体で被覆された被覆部に圧着される被覆圧着部と、前記被覆部の前記長手方向先端から前記芯線が露出した露出部に圧着される芯線圧着部と、前記芯線圧着部の前記前端部側に位置し、前記中空形状の内面が互いに水密にされた封止部と、前記被覆圧着部に設けられ径方向内側に突出するとともに前記長手方向に離間した複数の凸条部とを備え、前記後端部側に位置する前記凸条部は、前記前端部側に位置する前記凸条部に比べて、前記径方向における寸法が大きいことを特徴とする圧着端子である。
【0009】
前記凸条部の少なくともいずれかひとつは、前記被覆圧着部の周方向に環状に設けられてもよい。
【0010】
前記凸条部の少なくともいずれかひとつは、前記後端部側における前記径方向の寸法が、前記前端部側における前記径方向の寸法よりも
小さくてもよい。
【0011】
前述した目的を達するために第2の発明は、導電性の芯線が絶縁体で被覆された被覆部および前記被覆部の先端から露出する露出部を有する電線と、前記電線が長手方向に挿入可能な圧着部を有する圧着端子とを含むワイヤハーネスであって、前記圧着端子は、周方向において水密な断面中空形状を有するとともに、前記長手方向の前端部と、前記電線が挿入可能な開口端を形成する前記長手方向の後端部と、前記後端部に位置するとともに前記被覆部に圧着される被覆圧着部と、前記露出部に圧着される芯線圧着部と、前記芯線圧着部の前記前端部側に位置し、前記中空形状の内面が互いに水密にされた封止部と、前記被覆圧着部に設けられ径方向内側に突出するとともに前記長手方向に離間した複数の凸条部とを備え、
前記後端部側に位置する前記凸条部は、前記前端部側に位置する前記凸条部に比べて、前記径方向内側へ突出する寸法が大きく、前記後端部側に位置する前記径方向における前記凸条部間の離間寸法と、前記前端部側に位置する前記径方向における前記凸条部間の離間寸法とが略等しいことを特徴とする
ワイヤハーネスである。
【0012】
前記芯線はアルミニウム系材料で構成され、前記芯線圧着部が銅系材料で構成されてもよい。
【0013】
本発明によれば、圧着端子は、芯線圧着部が電線の露出部に圧着され、被覆圧着部が被覆部に圧着され、さらに、被覆圧着部に複数の凸条部を設けるとともに、後端部側に位置する凸条部は、前端部側に位置する凸条部に比べて、径方向内側へ突出する寸法が大きい。また、ワイヤハーネスは、後端部側に位置する径方向における凸条部間の離間寸法と、前端部側に位置する径方向における凸条部間の離間寸法とが略等しい。従って、樹脂材を用いずに、後端部側からの水分の侵入を防止することができ、電線と圧着端子との接触部分に水分が付着するのを予防することができる。また、その分製造工程の簡略化を図ることができ、さらにその分のコスト上昇を抑えられる。
【0014】
凸条部は、被覆部の周方向に環状に設けられるので、その周方向全域において、水密に維持することができる。
【0015】
凸条部は、前端部側の径方向における寸法が、後端部側の径方向における寸法よりも大きいので、電線が挿入しやすく、かつ、抜けにくくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂材を用いずに電線との接触部分への水分の付着を予防可能であり、かつ、製造工程の簡略化を図ることが可能な圧着端子およびこの圧着端子を用いたワイヤハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1の実施形態におけるワイヤハーネスの分解斜視図。
【
図9】第2の実施形態におけるワイヤハーネスの
図6と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1の実施形態>
図1はワイヤハーネス1の分解斜視図であって、圧着部22の加締め前の状態を示す。
図2は、
図1のII-II線断面図である。ワイヤハーネス1は、長手方向Xおよびこれに直交する幅方向Yを有し、電線10と圧着端子20とを含む。電線10は、導電性を有する芯線16が絶縁体15で被覆された被覆部12と、被覆部12の長手方向X先端から芯線16の一部が露出した露出部11を有する。芯線16は、アルミニウムやアルミニウム合金等のアルミニウム系材料で構成され、より詳細には、複数のアルミニウム合金線等を撚って形成する。
【0019】
圧着端子20は、長手方向Xに延びるとともに、長手方向Xの前端部20Aに位置する図示しない雄型コネクタを挿入可能なボックス部21と、後端部20Bに位置する電線10を挿入可能な圧着部22とを有する。ボックス部21には、雄型コネクタの挿入タブに接触する弾性接触片21Aを備える。
【0020】
圧着部22は、芯線圧着部23と、被覆圧着部24とを含む。芯線圧着部23は、被覆圧着部24とボックス部21との間に位置する。被覆圧着部24は、後端部20Bに開口するとともに、電線10が後端部20Bから挿入可能なように、長手方向Xへ延びる断面中空形状を有する。圧着端子20は、表面が錫メッキされた黄銅等の銅合金条を平面展開した端子形状に打ち抜いた後(図示せず)、中空四角柱体のボックス部21と中空円柱体の圧着部22とから構成される立体的な端子形状に曲げ加工されて形成される。さらに、ボックス部21と圧着部22との間には、中空形状の内面を互いに水密に接触させた封止部26が設けられる。封止部26は、幅方向Yへ延びるとともに、圧着部22の内面を互いに接触させ、水密に接合されることによって形成される。このような接合の方法として、例えば圧着やレーザ溶接を用いることができる。
【0021】
圧着部22は、長手方向Xへ延びる接合部29によって水密に接合される。詳細には、端子形状に打ち抜いた銅合金条の端部を中空形状になるように互いに突合せ、突合せた部分をレーザ溶接等の溶接によって接合部29を形成することができる。
【0022】
被覆圧着部24には、前端部20A側に位置する第1凸条部25Aおよび後端部20B側に位置する第2凸条部25Bが設けられる。第1および第2凸条部25A,25Bは、被覆圧着部24の径方向Zの内側に突出するとともに、圧着部22の周方向において連続した環状を有する。第1凸条部25Aと第2凸条部25Bとは、長手方向Xに離間して設けられる。ここで、径方向Zとは、説明のために便宜的に図面上下方向のみを示しているが、被覆圧着部24の中心線を示す仮想軸線2に直交するすべての方向を有する。
【0023】
図3は、
図2の被覆圧着部24近傍の部分拡大図である。この実施形態において、第1凸条部25Aの長手方向Xの前端部20A側において径方向Z内側へ突出する寸法L1と、後端部20B側において径方向Z内側へ突出する寸法L2とは略等しい。同様に、第2凸条部25Bにおける前端部20A側の径方向Z内側へ突出する寸法L3と、後端部20B側の径方向Z内側へ突出する寸法L4とは略等しい。また、第2凸条部25Bの寸法L3,L4は、第1凸条部25Aの寸法L1,L2よりも大きい。言い換えれば、第2凸条部25Bのほうが、第1凸条部25Aに比べてより大きく径方向Z内側に突出する。
【0024】
図4は、圧着端子20に電線10を挿入後、芯線圧着部23および被覆圧着部24を加締めたものであり、
図5は、
図4のV−V線断面図である。芯線圧着部23には電線10の露出部11が位置し、被覆圧着部24には被覆部12が位置するように、電線10が挿入される。圧着部22の長手方向Xにおける寸法は、露出部11の長手方向Xにおける寸法よりも大きい。したがって、電線10を圧着部22に挿入すると、露出部11と被覆部12とが圧着部22の内周に対向して位置する。
【0025】
圧着部22に露出部11および被覆部12を挿入した状態で圧着部22を加締めることによって、芯線圧着部23と露出部11の芯線16とが圧着され、被覆圧着部24と被覆部12の絶縁体15とが圧着される。
被覆圧着部24には、第1および第2凸条部25A,25Bが設けられるから、圧着部22を加締めると、これら第1および第2凸条部25A,25Bによって被覆部12の一部が他の部分よりも強い力で圧着される。
【0026】
図6は、第1および第2凸条部25A,25B近傍を拡大した図である。第1および第2凸条部25A,25Bは、その一部が被覆部12の絶縁体15に食い込むように径方向Zの内側へ突出する。
【0027】
図7は、電線10が挿入された圧着端子20を圧着工具40で加締めるときの方法を示す。圧着工具40は、上刃型41と下刃型42とを含む。上刃型41は、長手方向Xに延びる半円柱状の空洞を有し、被覆圧着部24に対応する大径部44と、芯線圧着部23に対応するとともに大径部44よりも小さい半径を有する小径部43とを備える。小径部43および大径部44のいずれも、加締め前の圧着部22の直径よりも、その径が小さい。下刃型42は、長手方向Xに延びる半円柱状の空洞を有し、芯線圧着部23および被覆圧着部24に対応するいずれの部分もその半径は同じである。このような上刃型41と下刃型42とが噛み合うことによって長手方向Xへ延びる圧着部22を形成することができる。なお、上刃型41は、小径部43および傾斜部45を有する部分と、大径部44を有する部分とが長手方向Xにおいて分離可能にされたものであるが、これが分離不能なものでもよい。同様に、下刃型42も、長手方向Xにおいて分離可能となっているが、これが分離不能なものでもよい。
【0028】
上記のような圧着工具40に電線10を挿入すると、小径部43に露出部11が位置し、傾斜部45に被覆部12の先端部分が位置し、大径部44に被覆部12の先端部分以外の部分が位置する。挿入された電線10と、圧着端子20とが加締められることによって、小径部43および傾斜部45によって芯線圧着部23が形成され、大径部44によって被覆圧着部24が形成される。傾斜部45を設けることによって、露出部11と被覆部12との境界を確実に圧着し、かつ、被覆部12の絶縁体15が損傷しないようにする。
【0029】
被覆部12において、芯線16を覆う絶縁体15として、弾性を有するポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン等、この技術の分野において通常用いられるものを選択することができる。
【0030】
上記のような圧着工具40を用いることによって、芯線圧着部23が、被覆圧着部24と比べて強圧着となるため、圧着端子20は、後端部20Bに向かって僅かにその径が大きく広がる傾向にある。再び
図6を参照すれば、後端部20Bから延出した電線10の絶縁体15は、圧着端子20によって押圧されることがないから、押圧された部分よりもその径が大きくなる。絶縁体15は弾性を有するから、被覆部12は、後端部20Bに向かって絶縁体15の径が大きくなるように傾斜する。すなわち、図面右方向に向かって仮想軸線2からの離間寸法が大きくなるように傾斜する。このように傾斜した電線10にその内側から押圧され、圧着端子20も、後端部20Bに向かって径が大きく広がるように傾斜する。特に、この実施形態では、圧着工具40に傾斜部45を設けることによって、被覆部12の絶縁体15が後端部20Bに向かって押し付けられるから、後端部20Bに向かって圧着端子20の径が広がりやすい。
【0031】
しかし、この実施形態において、第2凸条部25Bの寸法L3,L4は、第1凸条部25Aの寸法L1,L2よりも大きくすることによって、後端部20Bに向かって圧着端子20の径が広がった場合でも、圧着後のワイヤハーネス1は、第1凸条部25A間の径方向Zにおける離間寸法D1と、第2凸条部25B間の径方向Zの離間寸法D2とが略等しくなる。すなわち、被覆部12に対する圧縮量を第1凸条部25Aと第2凸条部25Bとで略等しくすることができる。したがって、長手方向Xにおける圧着力のばらつきを防止することができる。なお、この実施形態では離間寸法D1と離間寸法D2とを略等しくしているが、第2凸条部25Bにおける離間寸法D2が、第1凸条部25Aにおける離間寸法D1以下となるようにすれば、少なくとも後端部20B側において圧着力の低下を防ぐことができる。
【0032】
この実施形態によれば、圧着部22の後端部20B側を被覆圧着部24によって水密に封鎖し、前端部側を封止部26によって水密に封鎖したので、圧着部22への水分の侵入を抑制することができる。この実施形態において、ワイヤハーネス1は、電線10の芯線16がアルミニウム系材料で構成され、圧着端子20の芯線圧着部23が銅系材料で構成されている。したがって、芯線圧着部23では、異種金属が接触し、これら異種金属が接触した部分に水分が付着することによって電食の可能性があるが、圧着部22への水分の侵入を防止することができるので、電食を予防することができる。また、水密に閉鎖するために樹脂材を別途必要としない。したがって、樹脂材を用いる場合に比べて製造工程を簡略化することができるとともに、その分のコストダウンを図ることができる。また、この実施形態によれば、絶縁体15の材料として通常用いられる材料を用いても、確実に圧着部22への水分の侵入を防止することができる。
【0033】
図8は、他の圧着加工の方法を示したものである。この方法では、第1凸条部25Aおよび第2凸条部25Bを予め圧着端子20に形成しておくのではなく、圧着工具にこれに対応する突起を形成することによって、圧着加工と同時に、被覆圧着部24に第1凸条部25Aおよび第2凸条部25Bを形成する。
【0034】
圧着工具40の上刃型41の内周面には、大径部44において突起46と、突起46の長手方向Xに離間した突起47とが設けられる。突起46,47は、周方向に線条に延びる。下刃型42の内周面には、突起46に対向する突起48と、突起47に対向する突起49とが設けられる。これら突起48,49も周方向に線条に延びる。
【0035】
上刃型41および下刃型42を噛み合わせることによって、芯線圧着部23および被覆圧着部24と、露出部11および被覆部12とが圧着されるとともに、被覆圧着部24には、突起46,48によって第1凸条部25Aが形成され、突起47,49によって第2凸条部25Bが形成される。突起47および突起49で形成される内径寸法を、突起46および突起48で形成されるそれよりも小さくすることによって、第1凸条部25Aよりも径方向Zに突出する寸法が大きい第2凸条部25Bを形成することができる。すなわち、後端部20Bに向かって圧着端子20の径が広がった場合でも、被覆部12に対する圧縮量を第1凸条部25Aと第2凸条部25Bとで略等しくすることができ、長手方向Xにおける圧着力のばらつきを防止することができる。
【0036】
この実施形態では、第1および第2凸条部25A,25Bが、加締め前の被覆圧着部24に予め形成する方法、圧着工具40に第1および第2凸条部25A,25Bを形成するための突起を形成し、圧着加工と同時に第1および第2凸条部を形成する方法について説明したが、さらに、圧着加工後、別途加締めによって形成してもよい。第1および第2凸条部25A,25Bの断面形状は略矩形にしているが、この形状に限られるものではない。例えば、その断面形状が円形、三角形などの多角形であってもよい。
【0037】
<第2の実施形態>
図9は、第2の実施形態を示したものであって、第1凸条部25Aおよび第2凸条部25Bの近傍を拡大した断面図である。第1の実施形態と同様の構成要素については、第1の実施形態と同じ符号を用い、その詳細な説明を省略する。
この第2の実施形態では、第1凸条部25Aおよび第2凸条部25Bのそれぞれにおいて、長手方向Xにおける後端部20B側の径方向Z内側へ突出する寸法L2、L4が、前端部20A側の径方向Z内側へ突出する寸法L1、L3よりも小さいことを特徴とする。
【0038】
後端部20B側の寸法L2,L4を小さくしたので、後端部20Bから電線10を挿入するときに抵抗が少なく容易に挿入することができる。また、前端部20A側の寸法L1,L3を大きくしたので、電線10が後端部20Bからの抜け方向に移動したとき、絶縁体15に第1凸条部25Aおよび第2凸条部25Bの前端部20A側が引っ掛かり、抜けにくくすることができる。
【0039】
第2凸条部25Bの長手方向Xにおける前端部20A側の寸法L3は、第1凸条部25Aの前端部20A側の寸法L1よりも大きい。同様に、第2凸条部25Bの後端部20B側の寸法L4は、第1凸条部25Aの後端部20B側の寸法L2よりも大きい。したがって、第1凸条部25Aに比べて第2凸条部25Bのほうが大きく径方向Z内側に突出し、第2凸条部25Bにおいてより強く被覆部12と被覆圧着部24とが圧着される。
【0040】
この実施形態においても、第2凸条部25Bの寸法L3,L4は、第1凸条部25Aの寸法L1,L2よりもそれぞれ大きくすることによって、後端部20Bに向かって圧着端子20の径が広がった場合でも、圧着後のワイヤハーネス1は、第1凸条部25A間の径方向Zにおける離間寸法D1と、第2凸条部25B間の径方向Zの離間寸法D2とが略等しくなる。すなわち、被覆部12に対する圧縮量を第1凸条部25Aと第2凸条部25Bとで略等しくすることができる。したがって、長手方向Xにおける圧着力のばらつきを防止することができる。なお、この実施形態では離間寸法D1と離間寸法D2とを略等しくしているが、第2凸条部25Bにおける離間寸法D2が、第1凸条部25Aにおける離間寸法D1以下となるようにすれば、少なくとも後端部20B側において圧着力の低下を防ぐことができる。
【0041】
第1の実施形態および第2の実施形態において、凸条部を2つ設けているが、これに限られるものではなく、3以上であってもよい。また、第1の実施形態における凸条部の形状と、第2の実施形態における凸条部の形状とが混在するようなものであってもよく、適宜設計変更可能なものである。
【0042】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1…ワイヤハーネス
10…電線
11…露出部
12…被覆部
15…絶縁体
16…芯線
20…圧着端子
20A…前端部
20B…後端部
22…圧着部
23…芯線圧着部
24…被覆圧着部
25A…第1凸条部
25B…第2凸条部
26…封止部
X…長手方向