特許第5788102号(P5788102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5788102-非架橋性粘着組成物および粘着シート 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788102
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】非架橋性粘着組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/06 20060101AFI20150910BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20150910BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
   C09J133/06
   C09J7/02 Z
   C09J11/06
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-536020(P2014-536020)
(86)(22)【出願日】2014年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2014055605
(87)【国際公開番号】WO2014136831
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2014年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-43785(P2013-43785)
(32)【優先日】2013年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】河田 暁
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−214142(JP,A)
【文献】 特開2003−041222(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/064551(WO,A1)
【文献】 特開平11−209737(JP,A)
【文献】 特開平08−067854(JP,A)
【文献】 特開2013−127012(JP,A)
【文献】 特開平07−216336(JP,A)
【文献】 特表2011−510114(JP,A)
【文献】 特開2001−031927(JP,A)
【文献】 特開平09−145925(JP,A)
【文献】 特開平11−255812(JP,A)
【文献】 特開2012−077207(JP,A)
【文献】 特開2010−215923(JP,A)
【文献】 特開2007−031672(JP,A)
【文献】 特開平07−331209(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/081145(WO,A1)
【文献】 特開2003−342546(JP,A)
【文献】 特開2011−225835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/06
C09J 7/02
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量70万〜200万かつ分散度2.5〜4であり、イソシアネート系硬化剤と反応する官能基であるカルボキシル基又はヒドロキシル基を有さない(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、イソシアネート硬化剤とを少なくとも含有する、非架橋性粘着組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の非架橋性粘着組成物を、基材フィルムの少なくとも片方の面に積層した粘着シートであり、表面粗さRzが5μmとなるように研磨したSUS304鋼板(厚さ1.5mm〜2.0mm)に対する粘着力(A1)と、表面粗さRzが0.5μmとなるように研磨したSUS304鋼板(厚さ1.5mm〜2.0mm)に対する粘着力(A2)が以下の関係を満たす粘着シート。
A1/A2=0.8〜1.2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板や液晶パネル、ディスプレイ用ガラス基板等の光学部材や、半導体ウェハや半導体パッケージ等の電子部品を運搬、加工する際に、これら部材に貼り付け、傷や破損、汚染から保護する用途等に用いられる粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学部材や電子部品は、運搬時や加工時に傷や破損、汚染から保護する為に、粘着シートを貼り付けることが一般的に行われている。被着体となる光学部材や電子部品は、表面が平滑なものから粗面なものまで様々なものが存在し、粘着シートはこれらの表面に対して良好に貼り合わせられていなければならず、運搬、加工が終わった際に、被着体に粘着剤が残ることなく剥離する必要がある。
【0003】
各種部材に対する表面保護シートとして、経時の粘着力変化に優れた表面保護シートが報告されている(特許文献1)。しかし、特許文献1に記載の表面保護シートは、粘着剤が硬く、表面が粗い被着体に対しては良好に貼り合わせられないという問題があった。
【0004】
また、シリコンウェハの加工に用いられる粘着シートとして、優れたピックアップ性を有する粘着シートが報告されている(特許文献2)。しかし、特許文献2に記載の粘着シートは低分子成分が含有されている為、シリコンウェハのダイシング中にチップが粘着シートから剥離し、飛散してしまう場合や、シリコンウェハに粘着剤由来の汚染物が残る場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−42580号公報
【特許文献2】特開2008−60434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、光学部材や電子部品等、平滑な表面に対しても粗い表面に対しても密着性が変化することなく、良好に張り合わされ、剥離する際には粘着剤が被着体に残らない粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために、以下の発明を提供する。
(1)重量平均分子量70万〜200万かつ分散度5以下であり、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ系硬化剤と反応する官能基を有さない(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とする非架橋性粘着組成物。
(2)イソシアネート系硬化剤またはエポキシ系硬化剤と反応する前記官能基が、カルボキシル基又はヒドロキシル基であることを特徴とする(1)に記載の非架橋性粘着組成物。
(3)(1)または(2)に記載の非架橋性粘着組成物を、基材フィルムの少なくとも片方の面に積層した粘着シートであり、表面粗さRzが5μmである被着体に対する粘着力(A1)と、表面粗さRzが0.5μmである被着体に対する粘着力(A2)が以下の関係を満たす粘着シート。
A1/A2=0.8〜1.2
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘着シートを用いることで、被着体の表面粗さによって密着性が変化せず、粘着剤が被着体に残ることなく剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る粘着シート1を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る粘着シート1を示す断面図である。粘着シート1は、基材フィルム3と、基材フィルム3上に設けられた非架橋性粘着組成物層5とを有する。以下に、各層の構成について説明する。
【0011】
<基材フィルム>
前記基材フィルムは特に限定されることなく、従来公知の樹脂フィルムから適宜選択して用いることが出来る。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、およびポリブテンのようなポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体のようなエチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のエンジニアリングプラスチック、軟質ポリ塩化ビニル、半硬質ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド天然ゴムならびに合成ゴムなどの高分子材料が挙げられる。また、これらの群から選ばれる2種以上が混合されたものもしくは複層化されたものでもよく、粘着組成物との接着性によって任意に選択することができる。
【0012】
前記基材フィルムの厚さは特に限定されず、使用目的によって適宜決定することが出来る。一般的には30〜500μmであり、好ましくは、50〜200μmである。
【0013】
<非架橋性粘着組成物>
基材フィルム表面に積層された非架橋性粘着組成物は、重量平均分子量が70万〜200万かつ分散度5以下であり、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ系硬化剤と反応する官能基を有さない(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とするものである。なお、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。また、「主成分」とは、非架橋性粘着組成物中の(メタ)アクリル酸エステル共重合体の割合が、50〜100質量%であることを意味し、その割合は好ましくは80〜100質量%である。
【0014】
本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマ成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルや、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、また、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系モノマなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ系硬化剤と反応する官能基を有さない為、(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有モノマや、(メタ)アクリル酸―2―ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸―2―ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸―4―ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸―6―ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸―8―ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸―10―ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸―12―ヒドロキシラウリル等のヒドロキシル基含有モノマを使用せずに重合される。すなわち、本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体の酸価(JIS K0070中和滴定法)が0.1mgKOH/g以下であり、水酸基価(JIS K0070中和滴定法)が0.1mgKOH/g以下であることをいう。
【0016】
イソシアネート硬化剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添されたジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマー及びこれらイソシアネートモノマーをトリメチロールプロパンなどと付加したアダクト系イソシアネート化合物;イソシアヌレート化物、ビュレット型化合物、さらには公知のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどを付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートなどが挙げられる。
【0017】
エポキシ系硬化剤としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジルアミノフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、m−N,N−ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルトルイジン、及びN,N−ジグリシジルアニリンなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量(Mw)は70万〜200万であり、より好ましくは100〜150万である。重量平均分子量が70万未満の場合、剥離の際に被着体に粘着剤が残る場合があり、200万を超える場合、表面が粗い被着体に対する密着性が著しく低下し、被着体の表面粗さによって密着性が変化してしまう。
【0019】
また、本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体の分散度は5以下であり、より好ましくは2.5〜4である。ここで、分散度とは、重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値である。分散度が5を超える場合、密着性に対する低分子成分の寄与が大きくなり、剥離の際に被着体に粘着剤が残る場合や、被着体の表面粗さによって密着性が変化してしまう。また、分散度は重合方法、条件や重合体の精製により下げることができるが、生産コストが上昇してしまう為、好ましくは2.5以上である。なお、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算分子量である。
【0020】
本実施形態に係る(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は、従来公知の手法により製造できる。例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のラジカル重合法を適宜選択できる。その中でも乳化重合法は、分子量が高く、分散度が狭い重合体が製造される為、より好ましい。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系の各種公知のものを使用できる。
【0021】
非架橋性粘着組成物は主成分である(メタ)アクリル酸エステル共重合体の他に、本発明の目的を逸脱しない範囲で、任意の適切な添加剤を含有しても良い。例えば、紫外線硬化樹脂、光重合開始剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、硬化剤、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、重合禁止剤、シランカップリング剤、有機または無機フィラー等が挙げられる。
【0022】
前記の紫外線硬化樹脂は本発明の非架橋性粘着組成物を紫外線照射によって硬化させ、剥離を容易にされる場合に用いる。紫外線硬化樹脂は特に限定されるものではないが、例えばウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
本発明の非架橋性粘着組成物を紫外線照射によって硬化させる際においては、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤は特に限定されるものではないが、例えば、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフエノン、ミヒラーケトン、クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタノール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフエニルケトン、2−ヒドロキシメチルフエニルプロパン等が挙げられる。
【0024】
また、本発明の非架橋性粘着組成物は、基材フィルムの少なくとも片方の面に積層して粘着シートとして用いることが出来、粘着シートの被着体の表面粗さRzが5.0μmである被着体に対する粘着力(A1)と、表面粗さRzが0.5μmである被着体に対する粘着力(A2)が以下の関係を満たすことが好ましい。
A1/A2=0.8〜1.2
上記の式を満たすことで、粘着シートは被着体の表面粗さに関わらず、良好な密着性を得ることができる。
【0025】
非架橋性粘着組成物の厚みは、使用目的や粘着力によって適宜決定できる。一般的には1〜300μmであり、好ましくは3〜50μmである。
【0026】
<粘着シートの製造方法>
粘着シートの製造方法は特に制限されず、従来公知の塗工方法から選択することができる。例えば、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法などが挙げられる。非架橋性粘着組成物の溶液を塗布後、乾燥工程で溶剤や水を揮発することで所定の厚みの非架橋性粘着組成物層を得る。また、基材フィルム上に直接塗工してもよいし、離型シート上に非架橋性粘着組成物を塗布した後、基材フィルムに転写してもよい。
【0027】
(本実施形態に係る効果)
本実施形態に係る粘着シートを用いることで、光学部材や電子部品等、平滑な表面に対しても粗い表面に対しても密着性が変化することなく、良好に張り合わせることができる。
【0028】
また、本実施形態に係る粘着シートを用いることで、粘着剤を被着体に残さないで剥離することができる。
【実施例】
【0029】
次に、本実施形態に係る効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
<実施例1>
[非架橋性粘着組成物の製造]
(1)アクリル酸エステル共重合体の調製
温度計、撹拌装置を備えた重合反応器に、水、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリロニトリル、及び乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウムを仕込み、減圧脱気および窒素置換を2度行って酸素を充分除去した。その後、クメンハイドロパーオキシドとホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムを加え、常圧下、温度30℃で乳化重合を開始し、重合転化率が95%に達するまで反応させた。得られた乳化重合液を塩化カルシウム溶液で凝固し、水洗、乾燥した後、重量平均分子量70万、分散度(Mw/Mn)2.5のアクリル酸エステル共重合体を得た。実施例1のアクリル酸エステル共重合体のモノマ成分はアクリル酸エチルとアクリル酸ブチルとアクリロニトリルであるため、表1においては、EA/BA/ANと記載する。
【0031】
(2)重量平均分子量および分散度の測定
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法の下記条件にて測定した。
分析装置:東ソー製、HLC‐8120GPC
カラム:東ソー製、G7000HXL+GMHXL+GMHXL
カラムサイズ:各7.8mmφ×30cm 計90cm
カラム温度:40℃
流速:0.8ml/min.
注入量:100μl
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:示唆屈折計
標準試料:ポリスチレン
【0032】
[粘着シートの作成]
得られたアクリル酸エステル共重合体を酢酸エチルにて溶解し、アクリル酸エステル共重合体100重量部に対して、硬化剤(日本ポリウレタン社製コロネートL)を1重量部配合した非架橋性粘着組成物を、厚さ100μmの基材フィルム(東レ社製ルミラーU34)上に、厚さ10μmになるように塗布し、粘着シートを作成した。
【0033】
<実施例2〜5、比較例1〜4>
実施例1に対して、アクリル酸エステル共重合体の製造に用いたモノマ成分を表1に示すように変更した。また、得られたアクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量(Mw)と分散度(Mw/Mn)が表1になるように重合条件を変更した。これら以外は硬化剤も含め、実施例1と同様にして粘着剤組成物、粘着シートを作成した。
【0034】
上記実施例および比較例で得られた粘着シートについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0035】
(酸価測定方法)
下記に示すような、JISK0070に準じた中和滴定法により測定した。まずは、試料を三角フラスコに量り取った。次に、アセトン100ml及び指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴加え、水浴上で試料が完全に溶けるまで十分に振り混ぜた。次に、0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点とした。そして、次式により酸価を算出した。
A=B×f×5.611/S 式(1)
(ただし、式(1)中、A:酸価(mgKOH/g)、B:滴定に用いた0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、f:0.1mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター(濃度補正係数)、S:試料の質量(g))
【0036】
(水酸基価測定方法)
下記に示すような、JISK0070に準じた中和滴定法により測定した。まず、無水酢酸25gを全量フラスコ100mlに取り、ピリジンを加えて全量を100mlにし、十分に振り混ぜてアセチル化試薬を作製した。アセチル化試薬は、湿気、二酸化炭素及び酸の蒸気に触れないようにし、褐色瓶に保存した。次に、試料を平底フラスコに量り取り、これにアセチル化試薬5mlを全量ビペットを用いて加えた。次に、フラスコの口に小さな漏斗を置き、温度95〜100℃のグリセリン浴中に底部約1cmを浸して加熱した。フラスコの首がグリセリン浴の熱をうけて温度が上がるのを防ぐために、中に丸い穴をあけた厚紙の円板をフラスコの首の付け根にかぶせた。そして、1時間後、フラスコをグリセリン浴から取り出し、放冷後漏斗から水1mlを加えて振り動かして無水酢酸を分解した。さらに、分解を完全にするため、再びフラスコをグリセリン浴中で10分間加熱し、放冷後エタノール5mlで漏斗及びフラスコの壁を洗った。フェノールフタレイン溶液数滴を指示薬として加え、0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬のうすい紅色が約30秒間続いたときを終点とした。空試験を上記同様、試料を入れないで行った。そして、次式により水酸基価を算出した。
A=((B−C)×f×28.05/S)+D 式(2)
(ただし、式(2)中、A:水酸基価(mgKOH/g)、B:空試験に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、C:滴定に用いた0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、f:0.5mol/l水酸化カリウムエタノール溶液のファクター(濃度補正係数)、S:試料の質量(g)、D:酸価(mgKOH/g))
【0037】
(粘着力の測定方法)
(1)表面粗さRz=5μmである被着体に対する粘着力(A1)
各粘着シートから幅25mm×長さ300mmの試験片を3点採取し、それらを表面粗さRz=5μmとなるように研磨したSUS304鋼板(厚さ1.5mm〜2.0mm)上に貼着した後、2kgのゴムローラーを3往復かけて圧着し、1時間放置した後、測定値がその容量の15〜85%の範囲に入るJIS B 7721に適合する引張試験機を用いて粘着力を測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/minとした。測定環境は23℃、50%RHに調製した。
【0038】
(2)表面粗さRz=0.5μmである被着体に対する粘着力(A2)
各粘着シートから幅25mm×長さ300mmの試験片を3点採取し、それらを表面粗さRz=0.5μmとなるように研磨したSUS304鋼板(厚さ1.5mm〜2.0mm)上に貼着した後、2kgのゴムローラーを3往復かけて圧着し、1時間放置した後、測定値がその容量の15〜85%の範囲に入るJIS B 7721に適合する引張試験機を用いて粘着力を測定した。剥離角度は180度、剥離速度は300mm/minとした。測定環境は23℃、50%RHに調製した。
【0039】
(被着体選択性の評価方法)
前記のように測定した粘着力A1、A2が、A1/A2=0.8〜1.2の関係を満たす場合は○、満たさない場合は×とした。
【0040】
(被着体への糊残りの評価方法)
前記A1、A2の粘着力を測定した際、テープ剥離後のSUS板への糊残り有無を目視で評価した。SUS板に糊残りが無い場合を○、糊残りがあった場合を×とした。
【0041】
【表1】
EA:アクリル酸エチル、BA:アクリル酸ブチル、AN:アクリロニトリル、MEA:アクリル酸2−メトキシエチル、2HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル
【0042】
実施例1〜5、比較例1〜3に係るアクリル酸エステル共重合体は、酸価が0.1mgKOH/g以下であり、水酸基価が0.1mgKOH/g以下であった。
比較例4に係るアクリル酸エステル重合体は、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ硬化剤と反応する官能基としてヒドロキシル基を有するものであり、水酸基価が5.0mgKOH/gであった。
【0043】
また、表1より、重量平均分子量70万〜200万かつ分散度5以下であり、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ系硬化剤と反応する官能基を有さない(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とする非架橋性粘着組成物を基材フィルムの片方の面に積層した粘着シート(実施例1〜5)は、表面粗さの異なる被着体に対しても良好に貼り付き、剥離の際にも被着体への糊残りがなかった。
【0044】
一方、アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が50万の場合(比較例1)、被着体選択性は良好であったが、被着体への糊残りが観察された。これは、分子量が低い為、低分子成分が糊残りした為と考えられる。
【0045】
また、アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が210万の場合(比較例2)、糊残りは観察されなかったが、被着体選択性が悪化した。これは、分子量が高く、粗い表面に対する密着性が悪化した為と考えられる。
【0046】
更に、アクリル酸エステル共重合体の分散度が6の場合(比較例3)、被着体選択性が悪化し、被着体への糊残りも観察された。これは非架橋性粘着組成物の低分子成分が悪影響したと考えられる。
【0047】
また、アクリル酸エステル共重合体のモノマ成分にアクリル酸2−ヒドロキシエチルを用い、イソシアネート系硬化剤またはエポキシ硬化剤と反応する官能基としてヒドロキシル基を有する場合(比較例4)、被着体への糊残りは観察されなかったが、被着体選択性が悪化した。これは、硬化剤との架橋反応が進み、粗い面に対する密着性が著しく低下した為と考えられる。
【0048】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0049】
1………粘着シート
3………基材フィルム
5………非架橋性粘着組成物層
図1