(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5788108
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年9月30日
(54)【発明の名称】豚屠体腕部位の左右判別システム
(51)【国際特許分類】
A22C 17/00 20060101AFI20150910BHJP
G01N 23/04 20060101ALI20150910BHJP
【FI】
A22C17/00
G01N23/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-543052(P2014-543052)
(86)(22)【出願日】2012年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2012077376
(87)【国際公開番号】WO2014064773
(87)【国際公開日】20140501
【審査請求日】2014年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148357
【氏名又は名称】株式会社前川製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】服部 一裕
(72)【発明者】
【氏名】徳本 大
(72)【発明者】
【氏名】村並 広章
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−324006(JP,A)
【文献】
特開2002−281891(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/096754(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22C 17/00
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に向かって開口し、前記豚屠体の手首部が挿抜可能に挿入されるスリットを有し、豚屠体の腕部位を吊下した状態で軌道に沿って移動可能に設けられたクランプ具と、
前記クランプ具に吊下された腕部位に白色可視光を照射する光源と、
前記スリットが開口する水平方向に対し斜め水平方向から、前記白色可視光が照射されている前記腕部位を撮影するカラー撮像装置と、
前記カラー撮像装置によって撮影された前記腕部位の画像データに基づいて、前記腕部位の左右判別を行う左右判別装置とを備え、
前記左右判別装置は、
前記画像データから赤色の波長域に対応する赤色系画像信号を抽出する出力抽出部と、
前記出力抽出部によって抽出された赤色系画像信号を二値化処理する第1二値化部と、
前記第1二値化部によって二値化処理された赤色系画像信号に基づいて、前記腕部位の左右判別を行う左右判別部とを有することを特徴とする豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項2】
前記カラー撮像装置による撮像時、前記クランプ具のスリットの開口は、前記軌道と直交する方向に向けられ、
前記カラー撮像装置が撮影を行う前記斜めの水平方向は、前記軌道に対し15°以上55°以下の角度をなしていることを特徴とする請求項1に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項3】
前記出力抽出部は、前記画像データから赤色の波長域以外の波長域に対応する赤色外系画像信号を抽出可能なものであり、
前記左右判別装置は、
前記出力抽出部によって抽出された前記赤色外系画像信号を二値化処理する第2二値化部と、
前記第2二値化部によって二値化処理された赤色外系画像信号の分布に基づいて、前記カラー撮像装置に対し前記腕部位の表側が対向しているか又は裏側が対向しているかを判別する表裏判別部とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項4】
前記カラー撮像装置による撮影が行われる位置よりも上流にて、前記腕部位を前記クランプ具に吊下する吊下装置と、
前記クランプ具に前記腕部位が吊下されたことを検出する検出器と、
前記検出器から送られる吊下信号を受けて、前記カラー撮像装置による前記腕部位の撮像を開始させる第1制御装置とをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項5】
前記カラー撮像装置による撮影が行われる位置よりも下流にて、前記腕部位にX線を照射してX線画像を得るX線撮影装置と、
前記カラー撮像装置による撮影が行われる位置と前記X線撮影装置による撮影が行われる位置との間にて、前記クランプ具を垂直軸線を中心に回転させるクランプ具回転装置と、
前記左右判別装置による前記腕部位の左右判別結果に基づいて、回転角の目標値を設定し、前記設定した目標値だけ前記クランプ具が回転するように前記クランプ具回転装置を駆動させる第2制御装置とを備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項6】
前記第2制御装置は、
前記左右判別装置による左右判別結果及び表裏判別結果に基づいて、回転角の目標値を設定し、前記設定した目標値だけ前記クランプ具が回転するように前記クランプ具回転装置を駆動させるものであることを特徴とする請求項5に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【請求項7】
前記X線撮影装置で得たX線画像に映った前記クランプ具及び前記腕部位の向きから、前記左右判別装置による左右判別結果及び表裏判別結果の正誤を判別する正誤判別装置とをさらに備えていることを特徴とする請求項6に記載の豚屠体腕部位の左右判別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚屠体腕部位の脱骨装置等に適用されて好適な豚屠体腕部位の左右判別システムに関する。
【背景技術】
【0002】
豚、牛及び羊などの家畜屠体を食肉として供する場合、家畜屠体の解体と、肉部と骨部の分離作業、即ち脱骨処理とが必要となる。人手による脱骨処理は重労働であったため、機械による自動化が進められ、最近では前処理を除き、骨付き肉の種類によっては、ほぼ大部分自動化された脱骨処理もある。自動化された脱骨装置においては、例えば、処理対象となる骨付き肉は、クランパで吊下された状態で、搬送されながら脱骨処理される。家畜屠体の腕部位又は腿部位の脱骨処理においては、左右で形状が異なるので、左右の判別を行った上で脱骨処理をしないと、歩留まりの良い脱骨処理ができない。場合によっては、左右の判別を間違った場合、脱骨装置の運転を停止せざるを得ない事態も発生する。
【0003】
本出願人は、かかる腕部位又は腿部位の脱骨処理を含む家畜屠体の自動脱骨処理技術を開発してきた。例えば、特許文献1には、家畜屠体の腿部位の脱骨処理技術が開示されている。特許文献1には、脱骨処理の前段階で行う腿部位の左右判別方法が開示されている。この左右判別方法は、前処理で寛骨を除去した後の腿部位に対し、寛骨を除去した後に形成される底部の窪みの位置が左右の腿部位で異なるのに着目し、該窪みの位置をセンシングプレートで検知することで、左右判別を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2008/096754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された左右判別方法は、腿部位の形状を利用した判別方法であるので、腕部位の左右判別に適用するには不向きである。また、脱骨処理の効率化の観点から、腕部位をクランパで吊下したまま左右判別可能になることが望ましい。
【0006】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、広く食肉として供されている豚屠体腕部位を脱骨処理する際に、脱骨処理の前工程でクランパに吊下したまま左右判別を可能にし、脱骨処理効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の豚屠体腕部位の左右判別システムは、水平方向に向かって開口し、豚屠体の手首部が挿抜可能に挿入されるスリットを有し、豚屠体の腕部位を吊下した状態で軌道に沿って移動可能に設けられたクランプ具と、クランプ具に吊下された腕部位に白色可視光を照射する光源と、スリットが開口する水平方向に対し斜め水平方向から、白色可視光が照射されている腕部位を撮影するカラー撮像装置と、カラー撮像装置によって撮影された腕部位の画像データに基づいて、腕部位の左右判別を行う左右判別装置とを備えている。本明細書で、白色可視光とは、波長及び色が異なる可視光線に分離されていない可視光を意味する。クランプ具には豚屠体の腕部位が左右の区別なくランダムに吊下される。
【0008】
本発明者等は、クランプ具に手首部を介して吊り下げられた腕部位が、左右腕部位で異なる方向に自然回転する現象を見い出した。本発明は、この現象を利用し、左右腕部位が異なる方向へ自然回転することで、左右の腕部位で異なる撮像面積を得られる位置にカラー撮像装置を配置し、撮像面積の違いから左右判別を可能にしている。
【0009】
前記左右判別装置は、撮影された豚屠体の腕部位の画像データから赤色の波長域に対応する赤色系画像信号を抽出する出力抽出部と、出力抽出部によって抽出された赤色系画像信号を二値化処理する第1二値化部と、第1二値化部によって二値化処理された赤色系画像信号に基づいて、腕部位の左右判別を行う左右判別部とを有している。赤色系画像信号とは、例えば、RGB表色系では、R(赤)画像信号であり、CMY表色系では、M(マゼンダ)画像信号又はY(イエロー)画像信号である。
【0010】
出力抽出部は、カラー撮像装置で撮影した画像をR(赤)、G(緑)及びB(青)の三原色の画像信号に分割するか、あるいはC(シアン)、M(マゼンダ)及びY(イエロー)に分割する等の方法で、赤色系画像信号を抽出できる。G画像信号、B画像信号、C画像信号等の赤色外系画像信号では、肉部(赤身部分や脂肪部分)が暗くなり、二値化処理に適さないので、赤色系画像信号を含む画像データを用いる。赤色系画像信号を含んでいれば、その他の表色系の画像データを含んでいても、左右判別が可能になる。この左右判別装置によって腕部位の左右判別を正確に行うことができる。本発明によれば、豚屠体の腕部位をクランプ具に吊下したまま、正確に左右判別を可能とするため、脱骨装置の処理効率を向上できる。
【0011】
本発明において、カラー撮像装置による撮像時、クランプ具のスリットの開口は、軌道と直交する方向に向けられ、カラー撮像装置が撮影を行う斜めの水平方向は、軌道に対し15°以上55°以下の角度をなしているとよい。豚屠体の腕部位は、クランプ具に手首部を介して吊下された時、左右の腕部位で手首部の断面形状の向きが異なる。本発明者等は、平面視で直線状の軌道と直交する方向にスリット開口を有するクランプ具に手首部を介して腕部位を吊下したとき、平面視で軌道に対して夫々逆の方向へ[35±20]°の範囲内で自然に回転することを見い出した。そのため、前記角度範囲に配置したカラー撮像装置で豚屠体の腕部位を撮像することで、左右の腕部位で明瞭に撮像面積が異なる画像を得ることができる。
【0012】
本発明において、出力抽出部は、撮影された画像データから赤色の波長域以外の波長域に対応する赤色外系画像信号を抽出可能なものであり、左右判別装置は、出力抽出部によって抽出された赤色外系画像信号を二値化処理する第2二値化部と、第2二値化部によって二値化処理された赤色外系画像信号の分布に基づいて、カラー撮像装置に対し腕部位の表側が対向しているか又は裏側が対向しているかを判別する表裏判別部とをさらに有しているとよい。赤色外系画像信号とは、例えば、RGB表色系では、G画像信号又はB画像信号であり、CMY表色系では、C画像信号である。
【0013】
本明細書で、豚屠体の腕部位は、肩部との付け根側が肉部が露出した裏側部位であり、裏側部位と反対側部位が肉部が露出していない表側部位とする。赤い肉部が露出した裏側部位では、表側部位と比べて、出力分割部から出力される赤色外系画像信号が明らかに少なくなる。そして、第2二値化部から出力される画像は、赤色系画像信号が多い領域が拡大している。表裏判別部では、この現象を利用してカラー撮像装置で撮像された画像が表側部位か裏側部位かを正確に判別できる。
【0014】
表側部位には、脱骨処理の前処理の仕方によって皮が付着したままの場合と、皮が除去されている場合とがある。皮が除去されている場合、皮の下にある脂肪が露出しており、脂肪は白色系をしているので、皮の有無にかかわらず、表側部位の赤色外系画像信号はほぼ同等の画像信号となる。従って、皮の有無にかかわらず、表側部位と裏側部位との識別は可能であり、正確な表裏判別が可能になる。前記左右判別部とこの表裏判別部とを組み合わせることにより、腕部位の左右判別と表裏判別とを同時に行うことができる。そのため、脱骨装置に適用されたとき、腕部位の左右判別と腕部位の向きを正確に把握できるので、後工程で正確な筋入れが可能となる。従って、肉部の歩留まりの良い脱骨処理が可能になる。
【0015】
本発明において、カラー撮像装置による撮影が行われる位置よりも上流にて、腕部位をクランプ具に吊下する吊下装置と、クランプ具に腕部位が吊下されたことを検出する検出器と、検出器から送られる吊下信号を受けて、カラー撮像装置による腕部位の撮像を開始させる第1制御装置とをさらに備えるようにするとよい。これによって、腕部位がクランプ具に吊下された時期に合わせて、カラー撮像装置による腕部位の撮像を開始でき、左右判別工程をタイミング良くかつ迅速に開始できる。
【0016】
本発明において、カラー撮像装置による撮影が行われる位置よりも下流にて、腕部位にX線を照射してX線画像を得るX線撮影装置と、カラー撮像装置による撮影が行われる位置とX線撮影装置による撮影が行われる位置との間にて、クランプ具を垂直軸線を中心に回転させるクランプ具回転装置と、左右判別装置による腕部位の左右判別結果に基づいて、回転角の目標値を設定し、設定した目標値だけクランプ具が回転するようにクランプ具回転装置を駆動させる第2制御装置とをさらに備えるようにするとよい。
【0017】
かかる構成で、腕部位の自然回転角を予め把握しておき、この自然回転角を目標値とすることで、自然回転で軌道に対して傾いた腕部位をX線照射方向に対して正対させることができる。ここで、「腕部位をX線撮影装置のX線照射方向に正対させる」とは、腕部位の長辺を実質的にX線照射方向と直交する方向に向けると共に、後工程の脱骨処理が可能となる表側部位又は裏側部位のどちらかをX線照射側に向けることを意味する。腕部位の向きをX線照射方向と直交する方向に向けないと、X線は腕部位を透過しなくなり、鮮明な透過画像が得られない。また、表側部位又は内側部位のうち、予め定められた側の部位をX線照射側に向けないと、脱骨処理ができない。
【0018】
第2制御装置は、左右判別装置による左右判別結果及び表裏判別結果に基づいて、回転角の目標値を設定し、設定した目標値だけクランプ具が回転するようにクランプ具回転装置を駆動させるものであるとよい。このように、表裏判別結果も加味してクランプ具を回転させることで、正確に腕部位をX線撮影装置のX線照射方向に正対させることができる。
【0019】
さらに、X線撮影装置で得たX線画像に映った前記クランプ具及び腕部位の向きから、左右判別装置による判定結果の正誤を判別する正誤判別装置とをさらに備えるようにするとよい。前述のように、クランプ具に吊下後の左右の腕部位は、クランプ具の軌道に対して自然回転する方向が異なる。そのため、X線撮影装置の直上流側で、腕部位をX線照射方向に正対させるために回転させる方向も、左右の腕部位で逆になる。従って、左右判別装置で左右の判定を誤った場合、X線撮影装置で腕部位はX線照射方向に正対しない。また、表裏判別結果を誤った場合も同様である。
【0020】
こうして、X線撮影装置で得られるX線画像に映ったクランプ具及び腕部位の向きから、左右判別結果及び表裏判別結果の正誤を確認できる。そのため、前記正誤判別装置でX線画像を画像処理してクランプ具及び腕部位の向きを求めることで、左右判別結果及び表裏判別結果の正誤を自動的に判定できる。これらの判別を誤った腕部位は、脱骨処理に必要なX線画像を得ることはできないので、脱骨処理工程に供しない。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、豚屠体の腕部位をクランプ具に吊下したまま、正確な左右判別を可能にするので、脱骨装置に適用された場合、脱骨処理効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係り、本発明を適用した脱骨装置の構成図である。
【
図4A】前記脱骨装置の左腕部位の撮像要領を示す説明図である。
【
図4B】前記脱骨装置の右腕部位の撮像要領を示す説明図である。
【
図5】前記脱骨装置のX線撮影装置を示す概略図である。
【
図6】前記脱骨装置の制御系及び画像処理装置を示すブロック線図である。
【
図7】前記脱骨装置の動作手順を示すフロー図である。
【
図8A】前記脱骨装置で得た左腕部位の左右判別用画像を示す説明図である。
【
図8B】前記脱骨装置で得た右腕部位の左右判別用画像を示す説明図である。
【
図9A】前記脱骨装置で得た右腕部位の表裏判別用の画像を示す説明図である。
【
図9B】前記脱骨装置で得た右腕部位の表裏判別用の画像を示す説明図である。
【
図10】前記脱骨装置で得られた判別結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0024】
本発明を豚屠体腕部位の脱骨装置に適用した一実施形態を
図1〜
図10に基づいて説明する。
図1は、脱骨装置10の一部を概略的に示す構成図である。脱骨装置10で脱骨処理される豚屠体腕部位(以下「ワーク」とも言い、符号Wを付す。)は、
図2に示すように、豚の胴体Aから切り離された腕部位からなる骨付き肉である。
図3に示すように、ワークWの骨部は、手首部Wfを形成する前腕骨b1、上腕骨b2及び肩甲骨b3からなる。
【0025】
図1において、前処理ステーションST1にはワークWを搬送するコンベアが設けられ、ワークWは、該コンベア上で、手首部Wfを残し手首部Wfより先端側の部位が切り落とされる。脱骨装置10は、2個のスプロケット12(一方のスプロケットの図示は省略されている。)間に掛け渡されたチェーンによって構成される無限軌道14を有している。該チェーンには等間隔に複数のクランパ16が取り付けられ、スプロケット12が矢印方向へ回転することで、各クランパは無限軌道14を周回する。前処理ステーションST1に隣接して吊下ステーションST2が設けられている。吊下ステーションST2には、例えば6軸の多関節アームが設けられている。該多関節アームの先端に把持ユニットが設けられ、該把持ユニットでワークWの手首部Wfを把持し、クランパ16に吊下する。ワークWは表側部位が無限軌道14の外側を向くように吊下される。
【0026】
クランパ16は、ワークWを挿入するスリット16aを有し、スリット16aはワークWが挿入された後、クランパ16に設けられたチャック(図示省略)によって自動的に閉鎖される。スリット16aは、ワークWが吊下されていない時は、無限軌道14の外側方向であって、かつ平面視で無限軌道14と直交する方向に向けられている。前処理ステーションST1に設けられたコンベアの下流端に、光電センサ18が設けられており、光電センサ18でワークWの有無を検出する。
【0027】
制御装置20は、例えば、中央演算処理装置、メモリ、外部記憶装置、入力装置及び出力装置からなるコンピュータによって構成される。また、無限軌道14に接してエンコーダ19が設けられ、エンコーダ19で無限軌道14の移動量を検出している。エンコーダ19で検出した移動量は制御装置20に送られる。光電センサ18の検出信号は制御装置20に送られ、制御装置20は、光電センサ18の検出信号と、エンコーダ19で検出したクランパ16の移動量に基づいて、多関節アームを駆動し、タイミングを合わせてワークWをクランパ16に吊下する。クランパ16には、左腕部位又は右腕部位がランダムに吊下される。
【0028】
吊下ステーションST2に対し、無限軌道14の移動方向下流側に隣接して左右判定ステーションST3が設けられている。
図4A及び
図4Bは左右判定ステーションST3を平面視で模式的に示した図である。
図4Aは、豚屠体の左腕部位である左ワークW(L)の吊り下げ状態を示し、
図4Bは、豚屠体の右腕部位を示す右ワークW(R)の吊り下げ状態を示す。ワークWは、肩部との付け根部位の肉部が露出した裏側部位Bと、前述のように、表面に皮が付着し、あるいは前処理の仕方によっては皮が除去された表側部位Fとがある。
図4A及び
図4B中、矢印aは無限軌道14の移動方向を示す。
【0029】
左右判別ステーションST3には、無限軌道14に対して直交する直交線のうち一方の直交線Haに対して、145°の角度(他方の直交線Hbに対して35°の角度)をなす位置にカラー撮影可能なCCDカメラ22が設けられている。また、CCDカメラ22の周囲に白色可視光をワークWに照射する複数の撮影用ライト24が設けられている。
図4Aにおいて、左ワークW(L)は、吊下ステーションST2でクランパ16に吊下された後、手首部Wfの形状に起因して無限軌道14から+θだけ自然回転する。
【0030】
一方、
図4Bに示すように、右ワークW(R)では、手首部Wfの形状に起因して無限軌道14に対して−θだけ、即ち、左ワークW(L)の場合と逆方向へ同じ角度だけ自然回転する。本発明者等の実験で、θの範囲は無限軌道14に対して[35±20]°の範囲に収まることがわかっている。左右判定ステーションST3では、後述する左右判別装置40を使って、ワークWの左右判別と表裏判別とを行う。
【0031】
左右判別ステーションST3に対して無限軌道14の移動方向下流に、クランパ回転装置26が設けられ、クランパ回転装置26の下流側にX線撮影ステーションST4が設けられている。以下、X線撮影ステーションST4の構成を
図5で説明する。X線撮影ステーションST4は、X線照射装置28を有し、X線照射装置28は、X線源30及びX線フィルタ32を有している。また、X線撮影ステーションST4は、X線画像の撮影対象であるワークWを収容する遮蔽箱34を有し、遮蔽箱34の中に、X線検出器としてのラインセンサ36が設置されている。X線撮影ステーションST4で、ワークWのX線画像を撮影する。
【0032】
X線源30とラインセンサ34とは、無限軌道14を挟んで無限軌道14と直交する水平方向にて相互に離隔している。X線フィルタ32は、ワークWの厚い部分に強いX線xが照射され、ワークWの薄い部分に弱いX線が照射されるように、X線xの強度分布を付与する。X線撮影ステーションST4で撮影されたワークWのX線画像は、制御装置20で画像解析され、後工程の筋入れに必要な骨部表面の目標座標を決定する。X線xの照射方向は無限軌道14と直交している。
【0033】
ワークWを吊下するクランパ16は、X線撮影ステーションST4に到達する前に、クランパ回転装置26によって、垂直軸線を中心に回転される。即ち、
図5に示すように、左右判定ステーションST3での判別結果に基づいて、ワークWの表側部位FがX線xを照射する側に向けられ、かつワークWの長辺が無限軌道14と一致するように回転される。本明細書では、この姿勢をX線xに対して正対した姿勢という。
【0034】
X線撮影ステーションST4に対して無限軌道14の移動方向下流には、手首部Wfの周囲を筋入れする丸刃カッタ38が設けられている。丸刃カッタ38の下流には、ワークWに対し長手方向に筋入れを行う第1筋入れステーションST5が設けられている。第1筋入れステーションST5の下流には、他の筋入れステーションや脱骨ステーションが設けられている。制御装置20はこれらの動作を制御する。ワークWは、X線撮影により決定された目標座標に基づいて、これらのステーションで筋入れや脱骨処理がなされ、骨部と肉部に分離される。分離された骨部と肉部は、クランパ16から別々に排出される。空となったクランパ16は、吊下ステーションST2に戻り、そこで次のワークWが吊下される(この脱骨装置の詳細は、日本出願;特願2012−56287号の明細書及び図面(本発明の出願時未公開)を参照)。
【0035】
次に、脱骨装置10の制御系、及びCCDカメラ20で撮像した画像を処理して左右判定及び表裏判定を行う画像処理装置40の構成を
図6で説明し、これら判定の判定手順を
図7で説明する。制御装置20は、エンコーダ19が検出する無限軌道14の移動量が設定量となったら、撮像を開始するトリガ信号をCCDカメラ20に送り、撮影が開始される(S10)。ワークWには撮影用ライト24から白色可視光が照射され、撮影開始指令に基づいて、CCDカメラ20はワークWを撮影する(S12)。
【0036】
撮像した画像は左右判別装置40に送られる。左右判別装置40に送られた画像は、出力抽出部42に送られる。出力抽出部42では、この画像を、RGB表色系のR(赤)、G(緑)及びB(青)の三原色の画像信号に分割する(S14)。第1二値化部44では、出力抽出部42から出力されたR画像信号を二値化処理する。左右判別部46では、二値化処理後のR画像信号で示されるR画像領域の大小から左右判別を行う(S16)。G画像信号やB画像信号では、肉部(赤身部分や脂肪部分)が暗くなり、二値化処理に適さないので、R画像信号を用いる。
図8Aが二値化処理後の左ワークW(L)のR画像であり、
図8Bが二値化処理後の右ワークW(R)のR画像である。
【0037】
図4に示すように、左ワークW(L)は、吊下ステーションST2で吊下された後、無限軌道14に対して+θ(例えば+35°)だけ自然回転し、右ワークW(R)は無限軌道14に対して−θ(例えば−35°)だけ自然回転する。そのため、左ワークW(L)と右ワークW(R)とで
図8に示すようなR画像領域の明瞭な大小差が生じる。
【0038】
次に、出力抽出部42からG画像信号が第2二値化部48に送られ、第2二値化部48でこのG画像信号を二値化処理する。表裏判別部50では二値化処理された画像から、該画像がワークWの表側部位Fであるのか、あるいは裏側部位Bであるのかを判別する(S18)。
図9A及び
図9Bに、右ワークW(R)を第2二値化部48で二値化処理された画像を一例として示す。
図9Aは右ワークW(R)の裏側部位Bの画像であり、
図9Bは右ワークW(R)の表側部位Fの画像である。赤い色をした肉部はR画像信号が多く、G画像信号が少なくなる。
図9A及び
図9B中、斜線部はR画像信号が多い領域を示し、赤い肉部は斜線部で示している。肉部の領域が大きい場合は裏側部位Bと判定し、肉部の領域が小さい場合は表側部位Fと判定する。
【0039】
S16及びS18で判定した結果は、制御装置20に送られる(S20)。なお、S16での判定時、ワークWがクランパ16に吊下されていないという判定が出る場合もある。S20ではこの判定結果も含めて制御装置20に送られる。
図10は制御装置20に送られる判定結果の一例を示す。この判定結果は画像メモリ52に記憶される(S22)。
【0040】
ワークWの左右判別結果及び表裏判別結果から、制御装置20は、ワークWをX線照射側に正対した姿勢となるようにクランパ回転装置26を回転させる。即ち、
図4に示すように、ワークWの表側部位FがX線照射側に向いているとき、左ワークW(L)の場合は左ワークW(L)を−θだけ回転し、右ワークW(R)の場合は右ワークW(R)を+θだけ回転させればよい。また、表裏判別結果から裏側部位BがX線照射側に向いていることが判明したとき、制御装置20はワークWをさらに180°回転させる。即ち、左右判別結果及び表裏判別結果に基づいて、クランパ16の目標となる回転角を設定し、クランパ16を目標回転角だけ回転させる。この状態でワークWをX線撮影ステーションST4に送る。
【0041】
X線撮影ステーションST4では、
図4中の直交線Haの方向(0°の方向)からX線照射を行う。ワークWはX線照射側に正対した姿勢の状態でX線を照射される。ラインセンサ34で検出されたX線画像は、制御装置20に送られ、制御装置20で画像解析され、後工程の筋入れ工程や脱骨工程で必要な骨部表面の目標座標を決定する。
【0042】
また、ラインセンサ34で検出されたX線画像は正誤判別部54に送られる。正誤判別部54では、ラインセンサ34で検出されたX線画像に対し、二値化処理等を含む通常の画像処理を行い、クランパ16及びワークWの向きを求める。そして、求めたクランパ16及びワークWの向きから、左右判別装置40における左右判別及び表裏判別の正誤を確認する。即ち、左右判別装置40における左右判別結果が間違っていれば、ワークWはX線照射側に正対しない。そのため、後工程の筋入れ工程や脱骨工程で必要な骨部表面を表す画像を取得できない。また、表裏判別結果が間違っていれば、脱骨工程で正確な筋入れや脱骨処理ができない。こうして正誤判別部54で左右判別結果又は表裏判別結果が間違っていたと判定したとき、かかる判定をされたワークWは、制御装置20によって、X線撮影ステーションST4の出口で脱骨処理ラインからオミットされる。
【0043】
本実施形態によれば、ワークWをクランパ16に吊下したままワークWの左右判別及び表裏判別を同時に一工程で迅速かつ正確に行うことができるので、脱骨装置10の脱骨処理の脱骨処理効率を向上できる。また、左右判別と表裏判別とを行うことで、クランパ16に吊下されたワークWの姿勢を正確に把握できるので、後工程で正確な筋入れや脱骨処理が可能になり、歩留まりの良い脱骨処理が可能になる。
【0044】
また、ワークWがクランパ16に吊下されることを光電センサ18で検出することで、ワークWがクランパ16に吊下されたタイミングに合わせてワークWの撮像を開始できる。そのため、左右判別及び表裏判別をタイミング良くかつ迅速に開始できる。
また、X線撮影ステーションST4で、正誤判別部54により左右判定ステーションST3における左右判別結果及び表裏判別結果の正誤を確認できる。そして、後工程の筋入れ工程や脱骨工程で必要なX線画像を得られないとき、X線撮影ステーションST4の出口でワークWを脱骨処理ラインからオミットできるので、脱骨装置10の運転停止等の事態を招かない。
【0045】
さらに、左右判別装置40の表裏判別部50でワークWの裏側部位BがX線照射方向に対面していると判定したとき、制御装置20によってクランパ回転装置26を駆動させ、ワークWをさらに180°だけ反転させることで、ワークWをX線照射方向に正対させることができる。これによって、後工程の筋入れ工程や脱骨工程で必要なX線画像を得られ、脱骨処理率を向上できる。
【0046】
なお、CCDカメラ22の配置は、直交線Haから145°の方向のみに限定されず、[145±20]°の範囲であればよい。さらに、
図4中、22a〜cで示すように、直交線Haに対して[215±20]°の範囲、[325±20]°の範囲又は[35±20]°の範囲であってもよい。また、光電センサ18を前処理ステーションST1の下流端に設ける代わりに、吊下ステーションST2の下流端に光電センサ18’として設け、ワークWがクランパ16に吊下された後でそれを検出するようにしてもよい。あるいは、光電センサ18の代わりに、クランパ16のスリット16aの内側部位にリミットスィッチ19を設け、リミットスィッチ19で、ワークWがクランパ16に吊下されたことを検出するようにしてもよい。
【0047】
また、正誤判別部54を設ける代わりに、X線撮影ステーションST4で、ラインセンサ34で検出されたX線画像をオペレータが目視することで、ワークWの左右判別結果及び表裏判別結果の正誤を確認してもよい。そして、左右判別結果又は表裏判別結果が間違っていた場合、オペレータが制御装置20を操作して、判別結果が間違ったワークWを脱骨処理ラインからオミットするようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、豚屠体腕部位の左右判別をクランプ具に吊下したまま正確に行うことができるので、脱骨処理ライン等に適用されれば、脱骨処理を効率化できる。