(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記窒化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ1000ppm以下であることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載のシリコンインゴット製造用容器。
前記窒化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする、請求項4に記載のシリコンインゴット製造用容器。
前記炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ100ppm以下であることを特徴とする、請求項1から3の何れかに記載のシリコンインゴット製造用容器。
前記炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする、請求項6に記載のシリコンインゴット製造用容器。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池等に用いられるシリコンインゴットの製造方法として、グラファイト製又は石英製の容器(ルツボや鋳型等)中にシリコン融液を収容し、このシリコン融液を下方から凝固させてシリコン多結晶を成長させるキャスト法(鋳造法)が知られている。
このキャスト法によれば、シリコン融液が凝固するときに結晶成長の方向が一定に揃うので、粒界による比抵抗の増大を抑制した良質のウェハを製造することができる。また、キャスト法によれば、シリコンインゴットの大量生産が可能となる。
【0003】
一般に、キャスト法に用いられる容器の内面には離型材が形成されている。キャスト法によりシリコンインゴットを製造する場合、シリコン融液を容器内で凝固させるときにシリコンが容器材料と反応すると、シリコン結晶が容器に固着してしまいインゴットを取り出しにくくなる。そのため、容器の内面に離型材を形成することにより、シリコン結晶が容器と直接接触しないようにしている。このような離型材としては、窒化ケイ素(Si
3N
4)、二酸化ケイ素(SiO
2)、又はこれらを混合したものが一般に用いられる。
【0004】
ところで、容器内面にSi
3N
4等からなる離型材を形成する場合、Si
3N
4粉末にポリビニルアルコールなどのバインダーを混合して作製した水系スラリーを、容器内面に塗布し、酸素雰囲気下で焼成するという手法が用いられる。
このSi
3N
4は、焼結性(固体粉末の集合体を融点よりも低い温度で加熱したときに固まって焼結体と呼ばれる緻密な物体になる性質)が低く、金属不純物などの焼結助剤を添加しない場合には、強度が低く脆弱であることが知られている。そのため、容器内面に形成したSi
3N
4焼結体からなる離型材は、シリコンインゴットの製造工程(シリコン融液の保持時、結晶成長時、容器からの取り出し時)において、損壊する可能性が高い。
例えば、シリコン融液の密度は2.5g/cm
3であるが、固体密度は2.33g/cm
3であるため、シリコン融液を容器内で凝固させるときに約7%体積が膨張する。このシリコン凝固時の体積膨張に伴い容器に過度の応力が生じると、離型材が損壊してしまう。
【0005】
そして、一連のシリコンインゴットの製造工程において離型材が損壊すると、育成されたシリコンインゴットに体積膨張応力が残留するため、転移の増加など結晶品質が低下する。仮に、シリコンインゴットが破損しなかったとしても、結晶品質の低下は免れない。
また、結晶成長中に離型材が損壊すると、シリコン結晶が容器に接触して固着するため、シリコンインゴットの取出性がさらに悪化する上、剥離した離型材がシリコンインゴットに混入して結晶性の低下を招いてしまう。さらには、容器をそのまま再利用することができないので、製造コストが嵩む要因となる。
【0006】
そこで、良好な離型性を有するとともに、シリコンインゴットの製造工程において離型材が損壊するのを防止できるシリコンインゴット製造用容器が望まれている。
例えば、特許文献1〜3には、Si
3N
4、SiO
2、又はこれらの混合物を積層して離型材を多層構造とする技術が開示されている。また、特許文献4,5には、Si
3N
4等の離型材に樹脂を混入する技術が開示されている。また、特許文献6,7には、窒化アルミニウム(AlN)又は二酸化セリウム(CeO
2),酸化イットリウム(Y
2O
3)を焼結助剤とする離型材を形成する技術が開示されている。このように、離型材形成工程において金属酸化物や炭素を添加することは、離型材を強固化する方法として一般的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、金属酸化物や炭素を含む離型材を形成する場合、離型材スラリー焼成工程において、炭化ケイ素(SiC)が生成される。そして、生成されたSiCは、シリコンインゴットに混入して結晶粒界に析出し、インゴットとしての品質を低下させるのみならず、シリコンインゴットをウェハに加工する際の障害になる。
また、離型材スラリーに含まれる金属酸化物や炭素は、容器を劣化させる原因となる。たとえば、グラファイト製の容器内面に形成された離型材は、炭化(SiC化)により膜状に剥離しやすくなるため、離型性も十分でないうえ、グラファイト容器を消耗させてしまう。
なお、離型材の強度を向上させるために、スラリー中に焼結助剤としてシリカを入れることが一般的であるが(例えば非特許文献1)、グラファイト製容器の場合、容器材料であるグラファイトとシリカが反応するため、上記の不具合が加速されてしまう。
【0010】
一方、石英製の容器内面に離型材を形成する場合、スラリー焼成工程において離型材および容器材料が劣化するという不具合はないものの、結晶成長時の高温下で容器が劣化、変形してしまうため、結局、離型材および容器の損壊を効果的に防止することはできない。
【0011】
また、特許文献1〜3に記載の技術では、離型材を多層構造とするため、離型材の形成に手間とコストがかかる。特許文献4〜7に記載の技術では、離型材の強度が高く損壊しにくくなるが、離型材に含まれる樹脂や金属が不純物としてシリコンインゴットに混入し、結晶品質を低下させる虞がある。たとえば、離型材および容器に含まれる金属酸化物は、離型材形成工程においてSiCを生成する触媒として働く。生成されたSiCは融液面浮遊物となり、チョクラルスキー法やカイロポーラス法などの結晶引上げによる単結晶化を妨害する。
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたもので、シリコンインゴットの製造に繰り返し使用できるとともに、良好な品質を有するシリコンインゴットを歩留まり良く製造できるシリコンインゴット製造用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、シリコン融液を凝固させてシリコン多結晶を成長させるためのシリコンインゴット製造用容器であって、
窒化ケイ素又は炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の内面に、窒化ケイ素からなる離型材が形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のシリコンインゴット製造用容器において、
前記多孔質体の開気孔率が10%以上40%以下であることを特徴とする。
ここで、開気孔率とは、多孔質体の見かけ上の容積に対する、外部に連通している空孔の容積の総和の割合である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記多孔質体の開気孔率が20%以上30%以下であることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れかに記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記窒化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ1000ppm以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1から3の何れかに記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ100ppm以下,望ましくは10ppm以下であることを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記炭化ケイ素の多孔質体からなる容器本体の金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10ppm以下であることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7の何れかに記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記離型材の厚さが300〜1000μmであることを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のシリコンインゴット製造容器において、
前記離型剤の厚さが350〜600μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、良好な離型性を有する離型材が容器本体の内面に強固に形成されているので、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力により離型材が損壊するのを効果的に防止できる。したがって、シリコンインゴットの製造に繰り返し使用できるとともに、良好な品質を有するシリコンインゴットを歩留まり良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明を適用したシリコンインゴット製造用容器の断面図である。
図1に示すように、実施形態に係るシリコンインゴット製造用容器(以下、容器)10は、耐熱性を有する容器本体11と、育成されたシリコンインゴットの離型性を向上させるために容器本体11の内面に形成された離型材12と、を備えている。
【0025】
容器本体11は、Si
3N
4又はSiCの多孔質体(ポーラス材)で構成される。容器本体11の厚さは、成型の際に反りが発生しない程度、例えば5mm以上である。
容器本体11は、例えば、Si
3N
4又はSiC粉末を焼結成形することにより作製され、開気孔率が10%以上40%以下となっている。容器本体11を構成する多孔質体の開気孔率が10%未満の場合、離型材12の内部に気泡が残留することにより離型材12が脆弱化して破損しやすくなる。また、開気孔率が40%超の場合、融液漏れが発生する可能性が高まる。したがって、容器本体11を構成する多孔質体の開気孔率は10%以上40%以下とするのが望ましい。
【0026】
Si
3N
4又はSiCの多孔質成形体からなる容器本体11は、石英製の容器に比較して耐熱性に優れ、シリコンインゴット製造時の高温化において劣化、変形しない。したがって、シリコンインゴットの製造時に、容器本体11の劣化、変形により離型材12が損壊するのを効果的に防止することができる。尚、容器本体11がSi
3N
4の多孔質成形体からなる場合、含有する金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)はそれぞれ1000ppm以下であり、望ましくは10ppm以下である。容器本体11がSiCの多孔質整形体からなる場合、金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)はそれぞれ100ppm以下であり、望ましくは10ppm以下である。
離型材および容器に含まれる金属酸化物を減らすことにより、Si結晶成長中にSiOガスの発生量を低減し、離型材および容器に含まれる炭素と上記SiOガスとの反応によるSiC異物の生成を抑制することが可能になる。これにより、SiC異物が融液面に浮遊しなくなるので、チョクラルスキー法やカイロポーラス法などの結晶引き上げ操作による単結晶化が容易になる。また、キャスト法等によりSi多結晶を製造する際にも、SiC融液面浮遊物が結晶に混入することを予防できるので、結果的にSi結晶品質が向上する。
【0027】
離型材12は、Si
3N
4の焼結体で構成される。離型材12は、例えば、Si
3N
4粉末にポリビニルアルコールなどのバインダーを混合して調製した水系スラリーを、刷毛やスプレー等により容器本体11の内面に塗布し、酸素雰囲気下又はアルゴン等不活性ガス雰囲気下、700〜1550℃で焼成することにより形成される。離型材12の厚さは、300〜1000μmである。300μmより薄い場合、Siの体積膨張応力緩和が不十分であり、結晶にひびが発生する。逆に1000μmより厚い場合、結晶成長中に離型材が割れて融液面浮遊物となり、融液面からの単結晶化が妨げられやすくなる。離型材形成の手間を考慮すると、離型材の望ましい厚みは300〜600μmである。
容器本体11に塗布されたスラリーは、容器本体11が多孔質体で構成されているために、容器本体11の気孔に浸透していく。また、多孔質体で構成された容器本体11によってスラリー内の気泡が脱泡される。この状態で焼成されるため、離型材12は、容器本体11の内面に強固に形成される。したがって、シリコンインゴットの製造時に離型材12が損壊するのを効果的に防止することができる。
【0028】
離型材12中に気泡が残留していると、残留気泡の数や大きさに応じてシリコンインゴットの製造時に離型材12が破損しやすくなる傾向があるため、従来は、容器本体に離型材を形成する際に減圧などによる脱泡処理を施していた。これに対して、本実施形態の容器10の場合、離型材12の形成時に脱泡処理を施す必要がなく、離型材12を簡単に形成することができる。
【0029】
また、離型材12は、容器本体11の内面に強固に形成されるので、従来のように多層構造とする必要はない。したがって、容器10の作製にかかる手間とコストが増大することはなく、離型材12の膜厚を増大させることも容易である。さらに、離型材12を形成する際、シリカや金属酸化物などの焼結助剤を用いる必要がないので、シリコンインゴット中の不純物濃度が増大して結晶性が低下するのを防止できる。すなわち、Si結晶成長中において、金属酸化物を含むSiO
2の熱分解によるSiOガスの発生量が低下し、結晶品質を低下させるSiC異物の生成を予防することが可能である。同様の原理により、従来の石英製の容器を使用しないことにより、SiO
2の熱分解性生成物であるSiOガスの発生を抑制することが可能である。
【0030】
図2は、実施形態の容器を用いた結晶成長装置の一例を示す図である。
図2に示す結晶成長装置1は、シリコンインゴットを製造する際に用いられるものである。結晶成長装置1では、容器10がグラファイト製のサセプタ13に支持されており、サセプタ13の外周にはヒーター14が配置されている。
【0031】
結晶成長装置1を用いてキャスト法によりシリコンインゴットを製造する場合、まず、所定量のシリコン原料(例えばシリコン融液)15を容器10に投入する。そして、徐々に降温することにより、容器10の融液面からシリコン融液を凝固させてシリコン多結晶15aを成長させ、シリコンインゴットを製造する。
容器材料の開口気孔率が小さい場合に、離型材は剥がれやすくなり、結晶成長中に融液面浮遊物となり、Si融液面からの単結晶化が妨げられる。一方、容器材料の開口気孔率が大きすぎる場合には、離型材の厚みが300μm以下となり、離型材による体積膨張応力緩和が不十分になり、インゴットにヒビが認められるようになった。下記に、Si
3N
4ルツボを用いた試験の結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
[実施例1]
開口気孔率が10%の場合、スラリーを刷毛塗りした際の気泡が残留して表面に大きな凹みが生じ、焼成後、凹みを起点としたクラックが多く発生した。容器からのインゴットの取り出しは可能であったが、容器底部のR部分(底壁と側壁との境界の湾曲部)においてクラックが大きい傾向があり、融液面から凝固させたSiインゴットの底部にはヒビが認められた。
【0034】
[実施例2,3]
開口気孔率が20%と30%の場合には、スラリー刷毛塗り後に気泡が残留せず、膜厚を600μmまで厚くしてもクラックは認められなかった。このような離型材を形成した容器内でSi溶融面から凝固させて作製したインゴットは表面凹凸やヒビのない平滑な形態であり、容器から容易に取り出すことができた。
【0035】
[実施例4]
開口気孔率40%の場合、離型材スラリーの浸透が大きく、離型材を厚くすることが困難になった。離型材の厚みが300μmより小さい場合、インゴットの底部表面に凹凸が生じる傾向が見られた。容器からのインゴットの取り出しは可能であったが、容器底部のR部分において、インゴットにヒビが認められた。
【0036】
[比較例1]
開口気孔率が40%を超える場合、離型材にクラックは認められないものの、膜厚を増加させることが困難となった。容器内でSi融液面から凝固させたところ、底部から融液漏れが発生した。結晶下部の融液が圧縮されて、融液が細孔部分に浸透してしまったと考えられる。
【0037】
[比較例2]
開口気孔率が10%未満の場合には、離型材スラリーが容器材料上で濡れにくく、スラリー刷毛塗り後の溝が残留しやすく、スラリーからの発泡により全体的に凹凸が激しくなり、焼成後にクラックが発生した。気泡が激しく離型材が脆くなるため、膜厚を400μm以上にすることは困難であった。このような容器でSiを融液面から凝固させたとき、容器とSiが一部張り付いてインゴットが割れてしまった。
以上のように、容器材料の開口気孔率は離型材の厚みおよびクラックの有無と関連している。Siインゴットの離型可能範囲は、開口気孔率10〜40%,好ましくは20〜30%である。
【0038】
[実施例5]
図1の結晶成長装置1において、トップ内径:68.2mm,ボトム内径:36mm,深さ:48mm,厚さ:2mmのサイズで、全金属不純物(Na,Ca,Al,Cr,Cu,Fe,Ni,Ti,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10ppm以下であるSiC容器本体(開気孔率:20%)11の内面に、厚さ350〜600μmの離型材12を形成した容器10を用い、Siを溶融後、融液面から固化させた。
具体的には、容器10内にシリコン原料を100g収容し、アルゴン雰囲気1atm下で1550℃まで昇温してシリコンを融解した。その後、ヒーターを10℃/minで降温した。
【0039】
[実施例6,7]
実施例6では、実施例5と同じ仕様のSiC容器内面に離型材形成後、アルゴン1atm下にて1550℃×12時間ベーキングを行った後、実施例5と同様の方法でシリコンの溶融凝固を行った。
実施例7では、トップ内径:84.4mm,ボトム内径:48mm,深さ:48mm,厚さ:10mmのサイズで、金属不純物(Fe,Al,Mn,Mg,Ca,Cu,Ti,Cr,Ni,W,V,Zn,Zr)がそれぞれ10〜1000ppmであるSi
3N
4容器内面に離型材形成後、実施例5と同様の方法でシリコンの溶融凝固を行った。これらの結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
開口気孔率20%の容器材料を用いた実施例5,6,7において、離型材の剥がれは認められなかった。得られたシリコンインゴットは、容器10と固着しておらず、容器10を裏返しただけで容易に取り出すことができた。
シリコンインゴットの表面及び製造後の容器10の内面を観察したところ、シリコンインゴットの表面は極めて滑らかであり、容器10の内面においては離型材12が損壊した形跡もなかった。離型材スラリーを多孔質容器表面に塗布した際に気泡がまったく発生しなかったため、均一かつ高い密度の極めて強固な離型材が形成されたと考えられる。これより、シリコンインゴットは、離型材12に沿って滑るように体積膨張し、離型材12とシリコンインゴットとの界面で摩擦がほとんど生じなかったために、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力が効果的に緩和されたと考えられる。
また、容器10は、離型材12および容器本体11が損壊していないため再利用することができ、シリコンインゴットの製造に10回以上繰り返して使用することができた。
【0042】
[比較例3]
比較例3では、石英製の容器本体の内面に、実施例と同様の離型材を形成した容器を用い、実施例と同様の製造条件でシリコンインゴットを製造した。
得られたシリコンインゴットは、実施例で得られたシリコンインゴットに比較して凹凸が激しく、特にインゴット上端側面と底部において変形が激しく、インゴットにひび割れが生じていた。取り出したシリコンインゴットの凹凸を有する表面に剥離した離型材が食い込んでいたことから、シリコン凝固時の体積膨張および高温による容器の熱変形に伴う応力により離型材が損壊し、シリコンインゴットの一部が容器と固着したために、インゴットにひび割れが生じたと考えられる。また、結晶成長中に融液面浮遊物であるSiCが発生しており、成長中に剥がれてきた離型材とともにシリコンインゴット中に混入して、シリコンインゴットの結晶品質は悪化したと考えられる。
【0043】
[比較例4]
比較例4では、トップ内径:84.4mm,ボトム内径:48mm,深さ:48mm,厚さ:10mmのSi
3N
4容器内面に離型材形成後、アルゴン1atm下にて1550℃×12時間ベーキングを行った後、実施例5と同様の方法で溶融凝固を行った。
炉を開放して容器を取り出してみたところ、Si融液が容器底から漏れ出していることが分かった。Siは離型材を濡れ広がって分布しているが、側面からの漏れはなかった。融液面からSiを固化させたので、容器底にて圧縮された融液が多孔質材料を透過したと考えられる。
【0044】
実施例5,6のSiC容器の場合、融液面浮遊物は結晶成長中に発生することはなかったが、実施例7のSi
3N
4の場合においては多量のSiC浮遊物が発生した。SiC浮遊物が大量発生するとき、炉壁にも大量のSiOが付着した。SiOは離型材に残留した炭素と反応してSiCを生成したと考えられる。
Si結晶中の金属不純物濃度を比較した結果を、以下の表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
実施例5,6のように、焼結法ではなくコンバージョン法を用いて製造された低金属不純物SiC(POCO製)容器内でSiインゴットを作製すると、実施例7のような焼結法で作製されたSi
3N
4容器でSiインゴットを作製したときと比べて、Si中に残留する金属不純物を減らすことができた。離型材形成済みの容器を結晶成長工程前にベーキングすることにより、Fe,Al,Ca,Cu,Crなどの金属不純物を低減することが可能であった。また、金属不純物濃度がより小さいSiC容器の場合、融液面浮遊物であるSiCが発生しないことを確認した。
【0047】
比較例4において、ベーキング前後の離型材を含む容器重量の差とベーキング時間から、容器重量減少レートは0.2wt%/hであることが分かった。ベーキング後には、SiOが炉内に大量に付着していた。同条件でベーキングを行った後の低金属不純物のSiC容器の場合(実施例6)、重量減少および、結晶成長中のSiOの大量発生は認められなかった。ゆえに、SiO
2および金属酸化物を多量に含むSi
3N
4容器本体および隣接するSi
3N
4離型材がSiOとして熱分解された可能性がある。つまり、SiO
2で覆われている離型材のSi
3N
4粒子の焼結性がベーキング中に低下したため、比較例4において、融液漏れが発生したと考えられる。
【0048】
上記のように、実施形態の容器10は、Si
3N
4またはSiCの多孔質体からなる容器本体11の内面に、Si
3N
4からなる離型材12が形成されている。また、容器本体11を構成する多孔質体の開気孔率が10%以上40%以下,望ましくは20%以上40%未満とされている。
この容器10においては、良好な離型性を有する離型材12が容器本体11の内面に強固に形成されているので、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力により離型材12が損壊するのを効果的に防止できる。
また、コンバージョン法で製造された低金属不純物の多孔質SiCを容器材料として用いることで、従来の焼結法で作製されたSi
3N
4容器を使用した場合よりも、はるかに少ない金属不純物を含むSiインゴットを製造することができた。さらには、前記SiC容器を用いた場合、前記Si
3N
4容器よりも高温な条件でベーキングを行い、Siインゴット中の金属不純物を減らすことが可能であった。低金属不純物容器をSiインゴット製造用容器として用いることで、融液内へのSiC異物の混入を抑制することができた。
したがって、シリコンインゴットの製造に繰り返し使用できるとともに、良好な品質を有するシリコンインゴットを製造できる。
【0049】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
実施形態の容器10は、キャスト法だけでなく、容器内でSi融液を保持して凝固させるあらゆるシリコンインゴットの製造法において使用することができる。例えば、シリコン融液の表面に種結晶を接触させて、この種結晶を引き上げながら、シリコン融液を表面から凝固させてシリコン単結晶を成長させるカイロポーラス法において使用できる。種結晶からの単結晶化を妨害する融液面浮遊物の発生を抑制し、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力により離型材が損壊するという問題を、低金属不純物の多孔質容器材料上に離型材を強固に形成することにより解決できるからである。
また、容器本体11には、Si
3N
4又はSiCをルツボ形状に成形したものだけでなく、Si
3N
4又はSiCを板状に成形した複数の板状部材を組み合わせて鋳型とした組み立て型のものを適用することができる。
【0050】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。