(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
底板と複数の側板からなる分割可能に組み立てられた箱状の容器本体と、この容器本体の内面に形成された離型材を備え、シリコン融液を凝固させてシリコン多結晶を成長させる際に用いられるシリコンインゴット製造用容器であって、
前記容器本体が窒化ケイ素又は炭化ケイ素又はアルミナのいずれか1種類からなる多孔質体または2種類以上組み合わせた多孔質体で構成され、前記離型材が窒化ケイ素で構成されていることを特徴とするシリコンインゴット製造用容器。
前記固定用溝の前記残余空間に、漏れ出したシリコン融液と融着し、かつSi体積膨張応力の緩和機能を有する融液トラップ材が敷き詰められていることを特徴とする請求項3に記載のシリコンインゴット製造用容器。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明を適用したシリコンインゴット製造用容器の上面図で、
図2は
図1のA−A線における断面図である。
図1、2に示すように、実施形態に係るシリコンインゴット製造用容器(以下、容器)10は、耐熱性を有する容器本体11、育成されたシリコンインゴットの離型性を向上させるために容器本体11の内面に形成された離型材12、容器本体11を保持する保持具(サセプタ)13等を備えて構成されている。
【0014】
容器本体11は、矩形状の底板11aと4枚の側板11bとが相互に接合されることにより、分割可能に組み立てられた箱状の部材である。4枚の側板11bは、底板11aの外周を囲繞するように起立状態で周設される。例えば、
図1、2に示すように、4枚の側板11bは同一形状を有しており、1の側板11bの幅方向一端側の側面と、他の側板11bの幅方向一端側の主面側縁部とが当接するように相互に継合されることにより、容器本体11の側部となる枠体が形成される。
【0015】
容器本体11を構成する底板11a及び側板11bは、Si
3N
4またはSiC又はAl
2O
3のいずれか1種類または2種類以上を組み合わせた多孔質体(ポーラス材)で構成される。容器本体11(底板11a及び側板11b)の厚さは少なくとも反りが生じない程度の丈夫さが確保出来る厚さ以上であることが望ましく、例えば、5mm以上である。
底板11a及び側板11bは、例えば、Si
3N
4粉末を焼結成形することにより作製され、開気孔率が10%以上40%以下となっている。容器本体11を構成する多孔質体の開気孔率が10%未満の場合、離型材12の内部に気泡が残留することにより離型材12が脆弱化して破損しやすくなる。また、開気孔率が40%超の場合、融液漏れが発生する可能性が高まる。したがって、容器本体11を構成する多孔質体の開気孔率は10%以上40%以下とするのが望ましく、他にインゴットの離型性の容易さの観点も考慮した場合により好ましいのは、20%以上30%以下である。
【0016】
上記の多孔質体からなる容器本体11は、石英製の容器に比較して耐熱性に優れ、シリコンインゴット製造時の高温化において劣化、変形しない。したがって、シリコンインゴットの製造時に、容器本体11の劣化、変形により離型材12が損壊するのを効果的に防止することができる。
【0017】
離型材12は、Si
3N
4の焼結体で構成され、容器本体11を組み立てる前に、側板11bの一主面(容器本体11の内面となる面)、底板11aの一主面およびこれら一主面と隣接する面に予め形成される。離型材12は、例えば、Si
3N
4粉末にポリビニルアルコールなどのバインダーを混合して調製した水系スラリーを、刷毛やスプレー等により底板11a及び側板11bの一主面に塗布し、酸素雰囲気下又はアルゴン雰囲気下、700〜1550℃で焼成することにより形成される。離型材12の厚さは、結晶成長中にSi融液が容器側に到達しない程度の厚さ、例えば200〜1000μm、好ましくは300〜600μmである。
【0018】
底板11a及び側板11bに塗布されたスラリーは、底板11a及び側板11bが多孔質体で構成されているために、底板11a及び側板11bの気孔に浸透していく。また、多孔質体で構成された底板11a及び側板11bによってスラリー内の気泡が脱泡される。この状態で焼成されるため、離型材12は、底板11a及び側板11bの一主面に強固に形成される。したがって、シリコンインゴットの製造時に離型材12が損壊するのを効果的に防止することができる。
【0019】
離型材12中に気泡が残留していると、残留気泡の数や大きさに応じてシリコンインゴットの製造時に離型材12が破損しやすくなる傾向があるため、従来は、容器本体に離型材を形成する際に減圧などによる脱泡処理を施していた。これに対して、本実施形態の容器10の場合、離型材12の形成時に脱泡処理を施す必要がなく、離型材12を簡単に形成することができる。
【0020】
また、離型材12は、容器本体11の内面に強固に形成されるので、多層構造とする必要はない。したがって、容器10の作製にかかる手間とコストが増大することはなく、離型材12の膜厚を増大させることも容易である。さらに、離型材12を形成する際、シリカ、金属酸化物などの焼結助剤を用いる必要がないので、シリコンインゴット中の不純物濃度が増大して結晶性が低下するのを防止できる。
【0021】
保持具13は、例えば黒鉛製の板状部材であり、4枚の側板11bを固定する固定用溝13aが矩形環状に形成されている。保持具13において、固定用溝13aで囲繞された領域(凸部)13bには、離型材12付きの底板11aが載置される。また、固定用溝13aには、離型材12付きの側板11bが立設され、さらに、側板11bの外側には黒鉛製の保持板14が配置される。そして、固定用溝13aの四隅において、それぞれ2箇所(計8箇所)にクサビ15を嵌入して側板11bを内側に押圧することにより、容器本体11が保持具13に固定される。このとき、4枚の側板11bと底板11aは、シリコン融液が漏れ出さない程度に隙間なく接合される。
【0022】
また、固定用溝13aの残余空間には、シリコン融液と融着する融液トラップ材16が敷き詰められる。これにより、側板11bは、さらに安定した状態で固定用溝13aに固定され、横方向への位置ズレが規制される。融液トラップ材16は、シリコン融液と反応して融着する材料であればよく、例えばカーボンフェルト,石英ガラスウール,ケイ砂や石英ガラス片が好適である。Si凝固時の体積膨張応力の緩和のために、融液トラップ材16は、炭素繊維系やセラミック繊維系の材料で形成するのが望ましい。
【0023】
なお、保持具13に形成される固定用溝13aの深さ及び幅は、側板11bと保持板14を配置した状態で残余空間が形成され、この残余空間にクサビ15を嵌入したときに容器本体11が保持具13に安定して固定される程度とされる。
【0024】
このように、実施形態の容器10は、底板11aと複数(例えば4枚)の側板11bからなる分割可能に組み立てられた箱状の容器本体11と、この容器本体11の内面に形成された離型材12を備えている。そして、容器本体11(底板11a及び側板11b)が窒化ケイ素、炭化ケイ素、又はアルミナのいずれか1種類からなる多孔質体または2種類以上組み合わせた多孔質体で構成され、離型材12が窒化ケイ素で構成されている。また、多孔質体の開気孔率が10%以上40%以下となっている。
【0025】
この容器10においては、良好な離型性を有する離型材12が容器本体11の内面に強固に形成されているので、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力により離型材12が損壊するのを効果的に防止できる。したがって、シリコン融液が容器の外部に漏れ出すのを防止できる。
また、凝固時の体積膨張に伴い離型材12付きの側板11bが上方に持ち上がることにより、融液面から結晶成長させたことによる融液の圧縮を防止できるため、融液漏れが生じない。
そのため、良好な品質を有するシリコンインゴットを歩留まり良く製造できる。また、容器10をシリコンインゴットの製造に繰り返し使用することもできる。
【0026】
また、容器10は、側板11bを固定する固定用溝13aを有する保持具13を備えている。そして、固定用溝13aで囲繞された領域(凸部)13bに底板11aが載置され、固定用溝13aに側板11bが立設された状態で、固定用溝13aの残余空間にクサビを嵌入することで、底板11aと側板11bが接合して固定されている。
【0027】
すなわち、容器10においては、側板11bが底板11aに対して押圧されることにより両者が接合され、固着されてはいないので、側板11bは横方向又は縦方向に微動可能となる。もちろん、シリコン融液が漏れ出す程度に大きく移動可能となっているわけではない。これにより、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力が効果的に緩和される。したがって、離型材12が損壊するのを効果的に防止できる。
また、側板11bは、底板11aよりも下方に突出して設けられているので、結晶成長時に側板11bが上方にわずかに持ち上がっても、底板11aとの接合状態は確保される。万一、何らかの理由により、側板11bと底板11aの隙間からシリコン融液の一部が漏れ出したとしても、シリコン融液は保持具13の固定用溝13aに貯留されて凝固し、封止されることとなる。したがって、容器10の外部にシリコン融液が漏れ出すのを効果的に防止することができる。
【0028】
また、固定用溝13aの残余空間には、漏れ出したシリコン融液と融着する融液トラップ材(ケイ砂、石英ガラス片、カーボンフェルト,石英ガラスウールなど)が敷き詰められている。融液トラップ材はその変形性により、横方向の体積膨張応力を効果的に緩和することが可能である。これにより、側板と底板の間に生じる間隙の増大を抑制可能である。
また、仮に、側板11bと底板11aとの隙間からシリコン融液の一部が漏れ出したとしても、漏れ出したシリコン融液は融液トラップ材16と反応して融着するので、容器10の外部にシリコン融液が漏れ出すまでには至らない。
【0029】
図3は、実施形態の容器10を用いた結晶成長装置の一例を示す図である。
図3に示す結晶成長装置1は、カイロポーラス法によりシリコンインゴットを製造する際に用いられるものである。結晶成長装置1では、容器10の外周にヒータ17が配置されている。また、容器10の中央には結晶引き上げ軸18が配置されており、その先端にはシリコン単結晶(又はシリコン多結晶)からなる種結晶19が取り付けられている。
【0030】
結晶成長装置1を用いてカイロポーラス法によりシリコンインゴットを製造する場合、シリコン原料(例えばシリコン融液)を容器10に投入し、シリコン融液20の表面に種結晶19を接触させて、シリコン融液20を表面から凝固させてシリコン多結晶20aを成長させる。
このとき、種結晶19を極低速で引き上げながらシリコン多結晶を成長させることにより、シリコン凝固時の体積膨張に伴う縦方向の応力を緩和することができる。具体的には、種結晶19の引き上げ速度を、シリコン融液20が凝固する際の縦方向の体積膨張に応じて設定すればよい。
【0031】
カイロポーラス法によりシリコンインゴットを製造する場合、シリコン融液20の表面付近が凝固して育成されたトップ部が、シリコン凝固時の体積膨張により、容器10(離型材12)に食い込むことがある。この状態で種結晶19を引き上げると、側板11bが上方に持ち上げられることとなる。しかし、上述したように、本実施形態の容器10によれば、このような事態が生じた場合でもシリコン融液20が容器10の外部に漏れ出すことはなく、シリコン凝固時の体積膨張に伴う応力も緩和される。
【0032】
また、カイロポーラス法によりシリコンインゴットを製造する場合、側板11bの上部において、シリコン融液20の表面が位置する部分を3°以上90°未満で外側に向けて傾斜させてもよい。これにより、結晶引上げの際に成長中の結晶が容器側面に引っかかるリスクを減らし、シリコン凝固時の体積膨張に伴う、結晶下部融液の圧縮を防止して安全に結晶成長させることができる。
【0033】
[実施例]
実施例では、結晶成長装置1を用いてカイロポーラス法によりシリコンインゴットを製造した。まず、ボロン(濃度:1.0×10
16atom/cm
3)を添加したシリコン融液20をSi
3N
4製の容器本体11から構成される容器10に流し込み、深さ方向の温度勾配が10℃/cmとなるようにシリコン融液20を保持した。
そして、結晶方位が<100>で3.5mm角のSi単結晶からなる種結晶19をシリコン融液20の表面に接触させ、この種結晶19を1mm/hで引き上げながらシリコン多結晶を成長させた。このとき、容器10および種結晶19を5rpmで回転させ、種結晶19を中心としてシリコン多結晶20aを同心円状に成長させた。3時間の成長によりシリコン融液20を完全に固化させ、実施例に係るシリコンインゴットを得た。なお、容器10(容器本体11)の底部の温度が、シリコンの凝固点である1410℃になった時点を結晶成長の終点とみなした。
【0034】
実施例によるシリコンインゴットの製造では、体積膨張分だけ種結晶を引上げた際に側板11がサセプタ内部で垂直に持ち上がり、側板は保持されたままであったため、融液漏れが生じることはなかった。また、製造されたシリコンインゴットは、容器10を解体することにより、容易に取り出すことができた。さらに、得られたシリコンインゴットにおいては結晶粒界が縦方向に揃っており、良好な結晶品質を有していた。
また、容器10は、離型材12が損壊していないため、シリコンインゴットの製造に繰り返し使用することができた。
【0035】
[比較例]
図4Aに示す構造のシリコンインゴット製造用容器を用いた以外は、実施例と同様の条件でシリコン融液を固化させたところ、
図4Bの点線で囲まれた部分を拡大した
図4Cに示すように、底板11aと側板11bとの間隙から融液が漏れ出た。
融液面上から成長させた結晶を体積膨張分だけ引上げる操作を行う際に、結晶が容器側板にひっかかって持ち上がり、間隙が増大したことが原因である。
容器を解体したところ、種結晶につながっているインゴットの上部のみが得られ、下部の凝固体とは切り離されており、歩留まりよくインゴットを製造することは困難であった。また、漏れ出た融液は離型材を形成していない側板および底板の面に強固に付着したため、再利用は不可能になった。
【0036】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
実施形態の容器10は、カイロポーラス法だけでなく、あらゆるシリコンインゴットの製造法において使用することができる。例えば、容器10の底部からシリコン融液を凝固させてシリコン多結晶を成長させるキャスト法においても使用できる。
また、容器本体11(底板11a及び側板11b)を、Si
3N
4よりも不純物の少ないアルミナや、SiCの多孔質体で構成するようにしてもよい。離型材12との親和性を何よりも重視するのであれば、離型材と同じ材質のSi
3N
4を選択すれば良い。
【0037】
また、保持具13は、その側壁部分がネジ止めされていてもよい。具体的には、
図2に一点鎖線B−Bで示すような部位で保持具13を分割し、矢印Cで示すような方向からネジ(ボルト)を挿通して締め付けることで、保持具13を一体化するようにしたものである。容器10が大型化した場合、このような分割式の保持具(サセプタ)13の方が、取り扱いが容易であり、コスト的に有利である。
【0038】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。