(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、ワークピースを鏡面研磨するためのCMP(化学機械研磨)装置を示す平面図である。
図1に示すように、CMP装置は、研磨すべきワークピースWを保持するキャリア1と、キャリア1を回転させる回転機構2と、ワークピースWを研磨する研磨パッド3と、研磨パッド3を支持する回転可能な研磨テーブル4と、研磨パッド3に研磨液(スラリー)を供給する研磨液供給機構5とを備えている。
【0019】
研磨パッド3は円板形状を有しており、研磨テーブル4の平坦な上面に接着剤または両面テープにより貼り付けられている。研磨テーブル4の下方にはモータ(
図1には図示せず)が配置されており、このモータにより研磨テーブル4と研磨パッド3が一体に回転されるようになっている。研磨パッド3の上面は、ワークピースWを研磨する研磨面を構成する。
【0020】
回転機構2は、キャリア1の外周面に転がり接触する2つのローラー20,20と、これらローラー20,20を回転させる共通のモータ21とを備えている。2つのローラー20,20とモータ21は、ベルトおよびプーリなどから構成される動力伝達機構22,22によって互いに接続されており、モータ21によって2つのローラー20,20が同じ速度で同じ方向に回転するようになっている。モータ21およびローラー20,20は研磨パッド3の上方に(すなわち、研磨パッド3とは非接触に)配置されている。
【0021】
キャリア1は、単に研磨パッド3の上に置かれているだけであり、研磨テーブル4の回転方向においてキャリア1の下流側に配置されるローラー20,20によって支持されている。すなわち、研磨テーブル4の回転中、キャリア1はローラー20,20によってその研磨パッド3上の位置が固定され、回転するローラー20,20によってキャリア1はその軸心まわりに回転する。
図2に示すように、複数組のキャリア1および回転機構2を設置することも可能である。さらに、直径のより大きな研磨テーブルを使用することにより、より多くのキャリア1を研磨パッド3上に配置することができる。
【0022】
図3(a)はキャリア1の斜視図であり、
図3(b)はキャリア1の縦断面図であり、
図3(c)はキャリア1の下面図である。キャリア1は、複数の(図では3つの)ワークピースWを囲むリング11と、ワークピースWを保持するワークピース保持部9とを備えている。ワークピース保持部9は、取り付け台12および取り付け具13とを備えている。取り付け台12はリング11の上面に固定されており、各ワークピースWは、取り付け具13により取り付け台12に着脱可能に取り付けられている。回転機構2のローラー20,20(
図1参照)は、リング11の外周面に接触する。
【0023】
図3(b)に示すように、ワークピースWは、その研磨すべき部位がキャリア1の底面から下方に突出するようにワークピース保持部9に保持される。キャリア1は、複数のワークピースWを保持できるように構成されている。
図3(a)乃至
図3(c)に示す例では、3つのワークピースWがキャリア1により保持されているが、2つ以下または4つ以上のワークピースWを保持するキャリアを用いることも可能である。
【0024】
図4は、CMP装置の側面図である。なお、
図4では、キャリア1の構造を説明するために、回転機構2は描かれていない。
図4に示すように、研磨テーブル4および研磨パッド3は、研磨テーブル4に連結されたモータ6によって回転される。キャリア1と研磨テーブル4は同じ方向に回転する。キャリア1から下方に突出したワークピースWの部位は、キャリア1およびワークピースWの自重により研磨パッド3の研磨面に押し付けられる。
【0025】
ワークピースWの研磨中は、研磨テーブル4およびキャリア1がそれぞれ回転し、研磨液供給機構5から研磨パッド3上に研磨液が供給される。ワークピースWは、研磨液の存在下で研磨パッド3によって研磨される。研磨液は、ワークピースWを研磨する砥粒と、ワークピースWの表面を酸化させる酸化剤とを含んでいる。ワークピースWは研磨液の存在下で研磨パッド3に摺接され、酸化剤の化学的作用と砥粒の機械的作用とによりワークピースWの表面が鏡面に研磨される。
【0026】
図5(a)はワークピースWを示す図であり、
図5(b)は
図5(a)に示すワークピースWを矢印A方向から見た図であり、
図5(c)は
図5(a)に示すワークピースWを矢印B方向から見た図である。
図5(a)乃至
図5(c)から分かるように、研磨対象物であるワークピースWは、平面と曲面とからなる立体的な表面形状を有している。具体的には、ワークピースWの表面は、平坦な底面F、底面Fの長辺および短辺にそれぞれ接続される第1の曲面R1および第2の曲面R2、第1の曲面R1と第2の曲面R2との間にある角部曲面R3、第1の曲面R1に接続される第1の斜面S1、第2の曲面R2に接続される第2の斜面S2、および第1の斜面S1と第2の斜面S2との間にある角部斜面S3とから構成されている。このようにワークピースWは立体的な表面形状を有しているので、立体的なワークピースWを研磨するために、研磨パッド3はワークピースWが研磨パッド3内に大きく沈み込むことを許容する構造を有している。
【0027】
図6は、研磨パッド3の断面図である。研磨パッド3は、研磨面を有する弾性パッド31と、弾性パッド31を支持する変形自在なベース層32と、ベース層32と弾性パッド31とを互いに接合する粘着層33とを有する多層研磨パッドである。粘着層33は弾性パッド31よりも薄く、ベース層32は弾性パッド31よりも厚く形成されている。例えば、弾性パッド31の厚さは0.4mm〜0.6mmであり、粘着層33の厚さは0.1mm〜0.2mmであり、ベース層32の厚さは約10mmである。ベース層32の厚さは、好ましくは弾性パッド31の厚さの3倍以上であり、より好ましくは10倍以上である。
【0028】
弾性パッド31は研磨液を保持するためのパッドであり、研磨液を透過させないような材料から構成されている。具体的には、弾性パッド31は、発泡ポリエステルから形成されている。弾性パッド31の上面は平坦な研磨面を構成し、この研磨面によりワークピースWの表面が研磨される。ワークピースWが研磨パッド3に押し付けられたときにワークピースWが研磨パッド3内に十分に沈み込むように、弾性パッド31は高い伸縮性を有している。具体的には、ワークピースWを研磨パッド3に押し付けたときに、弾性パッド31はその元のサイズに比べて10%以上伸びるように構成されている。
【0029】
弾性パッド31がワークピースWの表面形状に沿って自由に変形できるように、ベース層32はポリウレタンスポンジなどの軟質の材料から構成されている。ベース層32は、弾性パッド31よりも柔らかく形成されている。ベース層32は伸縮性を有しているが、弾性パッド31よりも高い伸縮性を持たなくてもよい。粘着層33は、弾性パッド31およびベース層32の変形を妨げないように、柔らかい状態を維持でき、かつ高い伸縮性を有するものが使用されている。特に、粘着層33は、弾性パッド31よりも高い伸縮性を有するがことが好ましい。例えば、粘着層33はアクリル系の粘着剤から形成される。
【0030】
弾性パッド31、粘着層33、およびベース層32は、いずれも弾性変形が可能な材料から形成されており、したがって、研磨パッド3も全体として弾性変形する性質を有し、高い復元力を有している。すなわち、ワークピースWを研磨パッド3に対して押し付けると、研磨パッド3の研磨面(上面)がワークピースWの表面形状に沿って変形し、ワークピースWが研磨パッド3から離れると、研磨パッド3の研磨面の形状は元の状態に、すなわち平坦に戻る。これにより、回転している研磨パッド3にワークピースWを押し当てながら研磨すると、研磨パッド3がワークピースWの被研磨部の形状に沿って変形しながら回転し、ワークピースWの研磨が行われるので、ワークピースWのパッド接触部を移動させながら、且つ、研磨パッド3をワークピースWの被研磨部の曲面形状に沿わせながら研磨をすることが可能となる。また、ワークピースWによって変形したパッド部分に研磨液が残留することも防止でき、常に新鮮な研磨液を研磨パッド3(すなわち、ワークピースWと研磨パッド3との接触部)に供給することができる。
【0031】
キャリア1は、研磨される面に対応して複数のタイプが用意される。
図3(a)乃至
図3(c)に示すキャリア1は、主としてワークピースWの第2の曲面R2を研磨するためのものである。すなわち、キャリア1の取り付け台12は、ワークピースWの第2の曲面R2が研磨パッド3に接触するように斜めに配置されている。このような斜めの取り付け台12に取り付けられたワークピースWは研磨面に対して斜めに傾き、第2の曲面R2が研磨面に接触する。
【0032】
図7は、ワークピースWの底面Fを研磨している様子を説明する図である。
図7に示すように、ワークピースWの底面Fは研磨パッド3内に沈み込み、研磨パッド3の研磨面はワークピースWの底面F、第1および第2の曲面R1,R2、および角部曲面R3に沿って変形する。その結果、研磨面は、ワークピースWの底面Fの全体と、曲面R1,R2および角部曲面R3の大部分に接触し、これら接触部分を鏡面に研磨する。
【0033】
図8は、ワークピースWの第2の曲面R2を研磨している様子を説明する図である。
図8に示すように、ワークピースWの第2の曲面R2は研磨パッド3内に沈み込み、研磨パッド3の研磨面はワークピースWの第2の曲面R2および角部曲面R3に沿って変形する。その結果、研磨面は、ワークピースWの第2の曲面R2の全体と、角部曲面R3の大部分と、底面Fの一部に接触し、これら接触部分を鏡面に研磨する。
【0034】
図8に示すように、第2の曲面R2は横方向から見たときに凸形状を有している。このような凸形状を有する第2の曲面R2の全体が研磨パッド3の研磨面に接触している。研磨パッド3は、ワークピースWが研磨パッド3に押し付けられたときに、研磨すべき曲面の全体が研磨パッド3の研磨面に接触する程度の硬度を有している。具体的には、研磨時のワークピースWの研磨パッド3内への沈み込み量は、凸形状の曲面の高さの3倍以上であることが好ましい。例えば、高さが1.3mmの曲面を380gf/cm
2の研磨圧力で研磨パッド3に押し付けたとき、ワークピースWが5mm以上研磨パッド3に沈み込むことが好ましい。このような柔らかくて変形自在な研磨パッド3を使用することにより、立体的な表面形状を有するワークピースWを鏡面仕上げすることができる。
【0035】
図示しないが、ワークピースWの第1の曲面R1も
図8と同様に研磨される。
図7および
図8から分かるように、軟質の研磨パッド3は、底面F、第1の曲面R1、および第2の曲面R2を研磨しているときに角部曲面R3にも接触する。したがって、角部曲面R3は、底面F、第1の曲面R1、および第2の曲面R2と同時に研磨され、角部曲面R3のみを研磨パッド3に押し付けて研磨する必要はない。
【0036】
ワークピースWは、研磨パッド3との摺接により熱を発する。研磨パッド3上を流れる研磨液は、ワークピースWから熱を奪い、ワークピースWの熱膨張を防止する。したがって、CMP装置は、ワークピースWの底面Fを平坦かつ鏡面に仕上げることができる。
【0037】
研磨パッド3に作用する研磨圧力は、ワークピースWおよびキャリア1の自重によって決定される。この研磨圧力を調整するために、キャリア1のリング11の上に
図9に示すようなウエイト40を取り付けてもよい。異なる研磨圧力に対応して大きさの異なる複数のウエイトを用意してもよい。
【0038】
図10(a)乃至
図10(c)は、ワークピースWの第1の斜面S1を研磨するためのキャリア1を示す図である。このキャリア1では、ワークピースWの第1の斜面S1がキャリア1の底面から突き出るようにワークピース保持部9の取り付け台12が配置されている。その他の構成は、
図3(a)乃至
図3(b)に示すキャリア1の構成と同様である。
【0039】
図11(a)乃至
図11(c)は、ワークピースWの角部斜面S3を研磨するためのキャリア1を示す図である。このタイプのキャリア1は、被研磨面である角部斜面S3を中心としてワークピースWを揺動させる揺動機構14を備えている。この揺動機構14は、斜めに配置された取り付け台12を有するワークピース保持部9と、ワークピース保持部9を時計回りおよび反時計回りに所定の角度だけ交互に回転させる(すなわち揺動させる)ロータリアクチュエータ15とを備えている。
図11(a)乃至
図11(c)に示す例では、3つの揺動機構14が設けられており、これら揺動機構14はリング11の上面に固定されている。ただし、揺動機構14の数はこの例に限定されない。例えば、キャリア1は、1つの揺動機構14、または3つよりも多い揺動機構14を備えてもよい。
【0040】
ワークピースWは取り付け具13により取り付け台12に着脱可能に取り付けられる。
図11(b)に示すように、ロータリアクチュエータ15の旋回軸線(符号Eで示す)は被研磨面である角部斜面S3の近傍を通る。したがって、ワークピースWは角部斜面S3の近傍を延びる旋回軸線Eを中心として回転(揺動)する。旋回軸線Eは角部斜面S3を通って延びてもよい。ロータリアクチュエータ15は、気体(例えば空気)により動作するエアシリンダである。ロータリアクチュエータ15は、ロータリジョイント16を経由して気体供給機構(図示せず)に接続されている。ロータリジョイント16の回転側は、支柱17に支持された設置プレート18の上に固定されており、ロータリジョイント16の固定側は、研磨パッド3の上方に配置された固定アーム19に固定されている。
【0041】
角部斜面S3の研磨中、ワークピースWは、ローラー20,20(
図1参照)によってキャリア1と一体に回転させられながら、角部斜面S3の近傍を延びる旋回軸線Eを中心として揺動する。
図11(a)乃至
図11(c)に示すタイプのキャリア1は、
図6に示す研磨パッド3以外にも、ウェハを化学機械研磨する一般的な研磨パッドと組み合わせて使用することもできる。
【0042】
ワークピースWの表面全体を研磨するために、図示しないが、上述したタイプのキャリア以外にも、ワークピースWの底面F、第2の斜面S2、第1の曲面R1を研磨するための複数のキャリアが用意される。このように、研磨される面の形状に従って、複数タイプのキャリアが用意され、使用される。
【0043】
ワークピースWの研磨は、粗研磨と仕上げ研磨に大きく分けることができる。粗研磨と仕上げ研磨では、使用されるキャリア1は同じであるが、研磨パッドが異なる。具体的には、粗研磨では、硬めで表面粗さの大きい弾性パッドを有する研磨パッドが使用され、仕上げ研磨では、柔らかめで表面粗さの小さい弾性パッドを有する研磨パッドが使用される。
【0044】
図12はワークピースWの他の例を示す斜視図であり、
図13(a)は
図12に示すワークピースWの底面図であり、
図13(b)は
図13(a)に示すワークピースWを矢印Cで示す方向から見た図であり、
図13(c)は
図13(a)に示すワークピースWを矢印Dで示す方向から見た図である。
【0045】
図12および
図13(a)乃至
図13(c)に示すワークピースWは、底面F、第1の側面VS1、第2の側面VS2、第3の側面VS3、第4の側面VS4、第1の側面VS1と第2の側面VS2とを接続する第1の湾曲角面US1、第3の側面VS3と第4の側面VS4とを接続する第2の湾曲角面US2、第1の側面VS1と第4の側面VS4とを接続する第3の湾曲角面US3、第2の側面VS2と第3の側面VS3とを接続する第4の湾曲角面US4、第1の斜面SS1、第2の斜面SS2、第3の斜面SS3、第4の斜面SS4、第1の斜面SS1と第2の斜面SS2とを接続する第1の湾曲斜面CS1、第3の斜面SS3と第4の斜面SS4とを接続する第2の湾曲斜面CS2、第1の斜面SS1と第4の斜面SS4とを接続する第3の湾曲斜面CS3、および第2の斜面SS2と第3の斜面SS3とを接続する第4の湾曲斜面CS4を有する。
【0046】
第1の斜面SS1は第1の側面VS1と底面Fの長辺とを接続する斜面であり、第2の斜面SS2は第2の側面VS2と底面Fの短辺とを接続する斜面であり、第3の斜面SS3は第3の側面VS3と底面Fの長辺とを接続する斜面であり、第4の斜面SS4は第4の側面VS4と底面Fの短辺とを接続する斜面である。それぞれの斜面の傾き角度は45°となっている。第1乃至第4の斜面SS1〜SS4および第1乃至第4の湾曲斜面CS1〜CS4は、ワークピースWの周方向に延びる面取り面(chamfer)である。
【0047】
ワークピースの種類によっては、そのデザイン上の観点から、いわゆる縁だれが起きないように研磨することが要求されることがある。縁だれとは、研磨された面の縁部が丸みを帯びてしまうことである。この縁だれについて
図14(a)および
図14(b)を参照して説明する。ワークピースWは研磨パッド3に押し付けながら、ワークピースWと研磨パッド3とを相対移動させることで研磨される。しかしながら、研磨パッド3は柔らかいため、
図14(a)に示すように、ワークピースWの被研磨面が研磨パッド3に沈み込み、その結果として
図14(b)に示すように縁だれが起こる。
【0048】
図7および
図8に示すように、丸みを有する面を研磨する場合は、
図6に示す柔らかい研磨パッド3を用いることがむしろ好ましい。しかしながら、
図12に示すようなワークピースWの研磨では縁だれの発生は好ましくない。そこで、
図12に示すワークピースWの研磨では、
図14(c)に示す硬い研磨パッド41が使用される。
【0049】
図15は、
図12および
図13(a)乃至
図13(c)に示すワークピースWを研磨するのに適したキャリア1を示す斜視図であり、
図16は、
図15に示すキャリア1の平面図である。特に説明しないキャリア1の構成は、上述したキャリアと同じであり、同一の構成要素には同一の符号を付してその重複する説明を省略する。研磨パッドおよびキャリア以外のCMP装置の構成は、
図1または
図2に示す構成と同じである。
【0050】
リング11には三角形の底面プレート45が接続されている。この底面プレート45はリング11の半径方向内側に配置され、リング11と一体に形成されている。リング11の底面と底面プレート45の底面とは同一水平面内に位置している。底面プレート45の上面には複数の(本例では3本の)支柱17が固定されており、これら支柱17によって設置プレート18が水平に支持されている。キャリア1は、ワークピースWを時計回りおよび反時計回りに交互に回転させる(すなわち揺動させる)複数の揺動機構50を備えている。図示の例では3つの揺動機構50がキャリア1に設けられているが、揺動機構50は1つであってもよく、または4つ以上の揺動機構50を設けてもよい。
【0051】
図17は、揺動機構50の側面図である。
図17に示すように、揺動機構50は、ワークピースWを保持するワークピース保持部9と、ワークピースWを研磨パッド41に接触させた状態でワークピース保持部9を所定の旋回軸線まわりに所定の角度だけ揺動させるロータリアクチュエータ51と、ワークピース保持部9とロータリアクチュエータ51とを連結する第1の回転連結機構61および第2の回転連結機構71とを備えている。揺動機構50は、設置プレート18の下面に固定されたアタッチメント47に着脱可能に固定されている。
【0052】
揺動機構50は、横から見たときにその全体が鉛直方向(研磨パッド41の研磨面に垂直な方向)に対して所定の角度で傾いている。この傾き角度は、ワークピースWの被研磨面の傾き角度に合わせて設定される。例えば、ワークピースWの被研磨面が斜面SS1〜SS4および湾曲斜面CS1〜CS4である場合は、揺動機構50の傾き角度は45°に設定される。研磨される斜面SS1〜SS4および湾曲斜面CS1〜CS4の傾き角度が30°である場合は、揺動機構50の傾き角度は30°に設定される。さらに、側面VS1〜VS4および湾曲角面US1〜US4を研磨するときは、揺動機構50の傾き角度は90°に設定される。揺動機構50の傾き角度は、アタッチメント47の設置面47aの角度に依存して決定される。したがって、異なる角度で傾斜した設置面を有する別のアタッチメントに交換することによって、揺動機構50の全体の傾き角度を変えることが可能である。
【0053】
ロータリアクチュエータ51、第2の回転連結機構71、第1の回転連結機構61、およびワークピース保持部9は、この順に直列に連結されている。ワークピース保持部9は、ワークピースWに固定された複数のねじ48(
図16参照)を保持するクランプ10を有している。このクランプ10はねじ48を介してワークピースWを保持し、かつワークピースWをリリースすることができるように構成されている。
【0054】
ロータリアクチュエータ51は、設置プレート18の下面に固定されたアタッチメント47にねじなどの締結具(図示せず)によって着脱可能に固定されている。ロータリアクチュエータ51は、気体(例えば空気)により動作するエアシリンダである。ロータリアクチュエータ51は、ロータリジョイント16を経由して気体供給機構(図示せず)に接続されている。ロータリアクチュエータ51は、第2の回転連結機構71、第1の回転連結機構61、ワークピース保持部9、およびワークピースWを一体に旋回軸線Eを中心として時計回りおよび反時計回りに交互に所定の角度だけ旋回(すなわち揺動)させる。旋回軸線Eは、ワークピースWの第1の湾曲斜面CS1の曲率中心を通る仮想的な回転軸である。旋回軸線Eは、必ずしも第1の湾曲斜面CS1の曲率中心を通る必要はなく、曲率中心の近傍を通って延びてもよい。
【0055】
第1の湾曲斜面CS1を研磨するときは、この第1の湾曲斜面CS1を研磨パッド41に接触させた状態で、ロータリアクチュエータ51によりワークピースWを所定の角度だけ揺動させる。この揺動動作により第1の湾曲斜面CS1の全体を研磨パッド41の表面(研磨面)に摺接させることができる。ワークピースWの揺動角度(回転角度)は、ワークピースの第1の斜面SS1と第2の斜面SS2とのなす角度である90°である。この揺動角度はワークピースWの形状に従って定められる。
【0056】
図18は、第1の湾曲斜面CS1を研磨しているときのワークピースWをロータリアクチュエータ51の旋回軸線から見た図である。
図18に示すように、ワークピースWは、旋回軸線Eを中心として90°だけ揺動する。ワークピースWが揺動している間、
図1に示すように、キャリア1および研磨パッド41(
図1に示す軟質の研磨パッド3は硬質の研磨パッド41に置き換えられる)が回転し、これにより第1の湾曲斜面CS1が研磨液の存在下で研磨パッド41との摺接により研磨される。
【0057】
次に、第1の回転連結機構61について説明する。この第1の回転連結機構61は、ロータリアクチュエータ51に対するワークピース保持部9の相対的な角度を変える(切り替える)ための装置であり、その目的はワークピースWの研磨しようとする面を別の面に切り替えることである。第1の回転連結機構61は、ワークピース保持部9をワークピースWの中心まわりに180°回転させるように構成されている。より具体的には、第1の回転連結機構61は、ワークピース保持部9をワークピースWとともにワークピースWの中心まわりに180°回転させ、その回転させたワークピース保持部9の第1の回転連結機構61に対する相対的な角度を保持することができるように構成されている。したがって、第1の回転連結機構61は、ロータリアクチュエータ51および第2の回転連結機構71に対するワークピース保持部9の相対角度を切り替えることができる。
【0058】
第1の回転連結機構61は、気体(例えば空気)により動作するエアシリンダからなるロータリアクチュエータから構成される。第1の回転連結機構61は、ロータリジョイント16を経由して気体供給機構(図示せず)に接続されている。第1の回転連結機構61の回転軸線P1(以下、第1の回転軸線P1という)は、旋回軸線Eと平行であり、かつワークピース保持部9に保持されたワークピースWの中心を通る。ワークピースWの第1の湾曲斜面CS1を研磨した後、第1の回転連結機構61によりワークピースWをその中心まわりに180°回転させることにより、第1の湾曲斜面CS1と対称位置にある第2の湾曲斜面CS2を研磨パッド41で研磨することができる。
【0059】
第2の回転連結機構71も、ロータリアクチュエータ51に対するワークピース保持部9の相対的な角度を変える(切り替える)ための装置であり、その目的はワークピースWの研磨しようとする面を別の面に切り替えることである。
図18から分かるように、ロータリアクチュエータ51の旋回軸線Eは、ワークピースWの第1の湾曲斜面CS1に近接した位置を延びているため、第1の湾曲斜面CS1の隣の第4の湾曲斜面CS4を研磨することができない。そこで、第2の回転連結機構71により、ロータリアクチュエータ51に対するワークピース保持部9の相対的な角度が変えられ、これにより第4の湾曲斜面CS4は研磨パッド41に接触することができる。
【0060】
図19は、
図17のG−G線から見た第2の回転連結機構71を示す模式図である。第2の回転連結機構71は、ロータリアクチュエータ51に固定された静止台72と、第1の回転連結機構61が固定された回転部材73と、静止台72に固定され、回転部材73を回転可能に支持する支持軸74とを備えている。回転部材73と第1の回転連結機構61は、支持軸74のまわりを一体に回転可能となっている。
【0061】
静止台72には2つのストッパ76A,76Bが固定されている。2つのストッパ76A,76Bのうちの一方と支持軸74の中心と結ぶ線と、ストッパ76A,76Bのうちの他方と支持軸74の中心とを結ぶ線のなす角度は90°である。回転部材73にはストッパ76A,76Bに係合する係合部材としてのレバー77が取り付けられている。このレバー77は、2つのストッパ76A,76Bのうちのいずれか一方と係合することで回転部材73の静止台72に対する相対角度(または相対位置)が固定される。
【0062】
図20は、
図19に示す回転部材73および第1の回転連結機構61を90°回転させた状態の第2の回転連結機構71を示す図である。レバー77をストッパ76Aから外すと、回転部材73は支持軸74を中心として自由に回転可能な状態となる。この状態で回転部材73を回転させ、
図20に示すように、レバー77を他方のストッパ76Bに係合させることで、回転部材73の静止台72に対する相対角度が固定される。第1の回転連結機構61は回転部材73に固定されており、さらにワークピース保持部9は第1の回転連結機構61に連結されているので、回転部材73とともにこれら第1の回転連結機構61およびワークピース保持部9が回転する。このように、第2の回転連結機構71は、ロータリアクチュエータ51に対する第1の回転連結機構61およびワークピース保持部9の相対角度を切り替えることができる。この第2の回転連結機構71の操作は手動で行われるが、第2の回転連結機構71として、第1の回転連結機構61と同じようなエアシリンダを用いて自動で相対角度の変更を行うようにしてもよい。
【0063】
第2の回転連結機構71は、第1の回転連結機構61およびワークピース保持部9が支持軸74を中心として90°だけ回転することを許容し、かつ回転された第1の回転連結機構61およびワークピース保持部9のロータリアクチュエータ51に対する相対角度を保持することができる。支持軸74の中心を延びる軸線(以下、第2の回転軸線P2という)は、旋回軸線Eおよび第1の回転軸線P1と平行であり、かつワークピースWの内部を通る。ワークピースW内の第2の回転軸線P2の位置は、ワークピースWの第1の側面VS1、第2の側面VS2、および第3の側面VS3から等しい距離にある。したがって、第2の回転軸線P2を中心としてワークピースWを90°だけ回転させることにより、
図20に示すように、第4の湾曲斜面CS4が研磨パッド41に対向し、この第4の湾曲斜面CS4を研磨パッド41で研磨することができる。
【0064】
次に、
図12および
図13(a)乃至
図13(c)に示すワークピースWを研磨する工程について
図21(a)乃至
図24(d)を参照して説明する。
図21(a)乃至
図24(d)はロータリアクチュエータ51の旋回軸線Eから見たワークピースWを模式的に示している。ステップ1では、
図21(a)に示すように、第1の湾曲斜面CS1を研磨パッド41に接触させた状態で、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により揺動させることで、第1の湾曲斜面CS1の全体が研磨パッド41に接触する。このワークピースWの揺動は、ワークピースWを旋回軸線Eまわりに時計方向および反時計方向に交互に90°だけ旋回させる動作である。このようなワークピースWの揺動動作により第1の湾曲斜面CS1の全体を鏡面研磨することができる。ステップ2では、
図21(b)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第1の斜面SS1を研磨パッド41に接触させ、この状態で第1の斜面SS1を研磨パッド41で研磨する。ステップ3では、
図21(c)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第2の斜面SS2を研磨パッド41に接触させ、この状態で第2の斜面SS2を研磨パッド41で研磨する。
【0065】
ステップ4では、
図22(a)に示すように、第1の回転連結機構61によりワークピースWを第1の回転軸線P1まわりに180°回転させて、第2の湾曲斜面CS2を研磨パッド41に接触させる。ステップ5では、
図22(b)に示すように、第2の湾曲斜面CS2を研磨パッド41に接触させた状態で、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により揺動させることで、第2の湾曲斜面CS2を研磨する。ステップ6では、
図22(c)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第4の斜面SS4を研磨パッド41に接触させ、この状態で第4の斜面SS4を研磨パッド41で研磨する。ステップ7では、
図22(d)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第3の斜面SS3を研磨パッド41に接触させ、この状態で第3の斜面SS3を研磨パッド41で研磨する。
【0066】
ステップ8では、
図23(a)に示すように、第2の回転連結機構71によりワークピースWを第2の回転軸線P2まわりに90°回転させ、第3の湾曲斜面CS3を研磨パッド41に接触させる。ステップ9では、
図23(b)に示すように、第3の湾曲斜面CS3を研磨パッド41に接触させた状態で、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により揺動させることで、第3の湾曲斜面CS3を研磨する。ステップ10では、
図23(c)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第1の斜面SS1を研磨パッド41に接触させ、この状態で第1の斜面SS1を研磨パッド41で研磨する。ステップ11では、
図23(d)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第4の斜面SS4を研磨パッド41に接触させ、この状態で第4の斜面SS4を研磨パッド41で研磨する。
【0067】
ステップ12では、
図24(a)に示すように、第1の回転連結機構61によりワークピースWを第1の回転軸線P1まわりに180°回転させて、第4の湾曲斜面CS4を研磨パッド41に接触させる。ステップ13では、
図24(b)に示すように、第4の湾曲斜面CS4を研磨パッド41に接触させた状態で、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により揺動させることで、第4の湾曲斜面CS4を研磨する。ステップ14では、
図24(c)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第3の斜面SS3を研磨パッド41に接触させ、この状態で第3の斜面SS3を研磨パッド41で研磨する。ステップ15では、
図24(d)に示すように、ワークピースWをロータリアクチュエータ51により回転させて第2の斜面SS2を研磨パッド41に接触させ、この状態で第2の斜面SS2を研磨パッド41で研磨する。このようにして、第1の斜面SS1乃至第4の斜面SS4および第1の湾曲斜面CS1乃至第4の湾曲斜面CS4のすべてが連続的に鏡面研磨される。
【0068】
図15に示すキャリア1は、3つの揺動機構50を備えているので、同時に3つのワークピースWを研磨することができる。3つの揺動機構50は、
図21(a)から
図24(d)までを参照して説明した動作シーケンスを同期して実行することが好ましい。これは、3つのワークピースWを均等に研磨するためである。
【0069】
図12および
図13(a)乃至
図13(c)に示すワークピースWは長方形を有しているため、4つの湾曲斜面をすべて研磨するためには2つの回転連結機構61,71が必要となる。研磨されるワークピースが正方形であれば、2つの回転連結機構61,71のうちのいずれか一方を省略することができる。例えば、第1の回転連結機構61が90°間隔でワークピース保持部9を回転させ、かつ回転後のワークピース保持部9の第1の回転連結機構61に対する相対角度を保持できるように構成されていれば、第2の回転連結機構71を省略してもよい。
【0070】
ワークピースWの被研磨面の縁だれを回避するために、被研磨面の縁部に沿ってカバー部材でワークピースWを覆うことが好ましい。カバー部材はワークピースWの被研磨面に隣接して配置され、ワークピースWの被研磨面とともに研磨パッド41に摺接される。
【0071】
図25は、カバー部材の一例を示す分解斜視図である。この例のカバー部材は、ワークピースWをその両側から挟み込む第1のカバー部材81および第2のカバー部材82とから構成されている。
図25に示すワークピースWの基本的な形状は
図12に示すワークピースと同じであるが、第2の斜面SS2および第4の斜面SS4(
図13(a)乃至
図13(c)参照)に沿って延びる貫通孔86が形成されている点で異なっている。第1のカバー部材81は、これらの貫通孔86に挿入されるフック83を備えており、第2のカバー部材82には、フック83が係止される係止口84が形成されている。
【0072】
フック83をワークピースWの貫通孔86に挿入し、さらに第2のカバー部材82の係止口84に係止させることにより、第1のカバー部材81、ワークピースW、および第2のカバー部材82が一体に組み立てられる。
図26は、組み付けられた第1のカバー部材81、ワークピースW、および第2のカバー部材82を示す斜視図であり、
図27は
図26に示す第1のカバー部材81、ワークピースW、および第2のカバー部材82の断面図である。
図26および
図27から分かるように、ワークピースWはそのほぼ全面が第1のカバー部材81および第2のカバー部材82によって覆われ、被研磨面のみが第1のカバー部材81と第2のカバー部材82との間の隙間から露出する。
【0073】
図27に示すように、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82の外周面81a,82aは、ワークピースWの露出面(被研磨面)と平行であり、かつほぼ同一平面上にある。ワークピースWの露出面は、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82の外周面81a,82aからわずかに(数μm程度)飛び出していることが好ましい。ワークピースWを囲むカバー部材81,82は、上述したワークピース保持部9に着脱可能に保持される。ワークピースWの露出面は、先に説明したように研磨パッド41との摺接により鏡面研磨される。
【0074】
図28は、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82とともにワークピースWが研磨パッド41に押し付けられている状態を示す図である。
図28から分かるように、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82は、ワークピースWの被研磨面に隣接する研磨パッド41の領域を押し付けることによって、研磨パッド41の研磨面を平坦にすることができる。したがって、ワークピースWの被研磨面の縁だれを防止することができる。
【0075】
図29は、カバー部材の他の例を示す図である。より具体的には、
図29は、ワークピースWの側面VS1〜VS4および湾曲角面US1〜US4(
図13(a)乃至
図13(c)参照)を研磨するときに使用されるカバー部材を示す分解斜視図である。この例におけるカバー部材も、ワークピースWを挟み込む第1のカバー部材81および第2のカバー部材82から構成されるが、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82との間からワークピースWの側面VS1〜VS4および湾曲角面US1〜US4が露出する点で、
図25に示す例と異なっている。
【0076】
図30は、組み付けられた第1のカバー部材81、ワークピースW、および第2のカバー部材82を示す斜視図であり、
図31は
図30に示す第1のカバー部材81、ワークピースW、および第2のカバー部材82の断面図である。
図30および
図31から分かるように、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82との間からワークピースWの側面VS1〜VS4および湾曲角面US1〜US4が露出している。この場合も、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82の外周面81a,82aは、ワークピースWの露出面(側面および湾曲角面)と平行であり、かつほぼ同一平面上にある。ワークピースWの露出面は、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82の外周面81a,82aからわずかに(数μm程度)飛び出していることが好ましい。
【0077】
図32は
図31に示す第1のカバー部材81と第2のカバー部材82とともにワークピースWが研磨パッド41に押し付けられている状態を示す図である。
図32に示すように、ワークピースWの側面(および湾曲角面)は、第1のカバー部材81と第2のカバー部材82の外周面81a,82aとともに研磨パッド41に押し付けられる。このように、ワークピースWの被研磨面の両側にある研磨パッド41の領域がカバー部材81,82によって押されるので、研磨パッド41の上面(研磨面)が平らになる。したがって、被研磨面の縁だれが防止される。
【0078】
図示の例では、ワークピースWの両側を挟むように構成されたカバー部材81,82が用いられているが、ワークピースWの形状によっては異なる構成のカバー部材が用いられてもよい。例えば、ワークピースWの被研磨面を囲む形状の開口部を有するカバー部材を用いてもよい。
【0079】
図33および
図34は、キャリア1のさらに他の実施形態を示す図である。この実施形態に係るキャリア1は、研磨パッド41をドレッシング(コンディショニング)するための複数のドレッサ90を備えている。ドレッサ90は、リング11に取り付けられており、リング11の周方向に沿って等間隔に配列されている。
図35(a)および
図35(b)は、ドレッサ90の構造を示す断面図である。より具体的には、
図35(a)はワークピースの研磨時のドレッサ90を示す図であり、
図35(b)は研磨パッド41をドレッシングしているときのドレッサ90を示す図である。
【0080】
図35(a)および
図35(b)に示すように、ドレッサ90は、円形のドレッシングディスク91と、ドレッシングディスク91を研磨パッド41に押し付けるアクチュエータとしてのエアシリンダ92とを備えている。エアシリンダ92は、リング11の上面に固定されたブリッジ93に固定されている。ドレッシングディスク91の下面にはダイヤモンド粒子などの砥粒が固定されており、このドレッシングディスク91の下面が研磨パッド41をドレッシングするドレッシング面を構成する。
【0081】
図35(a)に示すように、ワークピースWの研磨圧力に影響を与えないように、ワークピースWの研磨時にはドレッシングディスク91は研磨パッド41から離間していることが好ましい。したがって、好ましくは、研磨パッド41のドレッシングは、ワークピースWの研磨の前および/または後に行われる。キャリア1の全体をローラー20,20(
図1参照)で回転させながら、
図35(b)に示すように、ドレッシングディスク91の下面(ドレッシング面)を研磨パッド41に押し付けることにより、研磨パッド41の表面(研磨面)がドレッシングされる。ドレッサ90の位置は、
図33および
図34に示す例に限られず、キャリア1の半径方向においてワークピースWと研磨パッド41との接触位置よりも外側であればよい。例えば、リング11と底面プレート45との連結部にドレッサ90を配置してもよい。
【0082】
上述した実施形態では、ロータリアクチュエータ51および第1の回転連結機構61としてエアシリンダが使用されている。さらに、ドレッサ90のアクチェータとしてもエアシリンダが使用されている。エアシリンダの動作には気体(通常は空気)が必要であるため、ロータリジョイント16には多数のチューブ(図示せず)が接続されている。さらに、図示しないが、それぞれの揺動機構50には、ロータリアクチュエータ51の揺動動作のストローク端を検出するセンサ、レバー77の回転端位置を検出するセンサ、第1の回転連結機構61の回転端位置を検出するセンサなどのさまざまなセンサが配置されている。これらのセンサの配線はロータリコネクタ(図示せず)を介して外部に延びている。
【0083】
揺動機構50およびドレッサ90の数が増えるに従ってチューブの数も増え、これに伴いより大きなロータリジョイントを使用する必要がある。同様に、センサの数が増えるに従って、より大きなロータリコネクタが必要となる。また、多くのキャリア1を動作させて大量のワークピースを同時に研磨する場合、これらのキャリア1の動作の管理を同時に作業員が行うことは難しい。
【0084】
そこで、次に説明する実施形態では、そのような多重経路のロータリジョイントおよび多重経路のロータリコネクタを不要とすることができ、さらに別の場所に設けられた集中管理装置により動作制御することができるキャリアが提供される。
図36は、キャリア1のさらに他の実施形態を示す図である。この実施形態に係るキャリア1は、揺動機構50の動作を制御するコントロールボックス100を備えている。このコントロールボックス100は設置プレート18上に固定されている。
【0085】
図37は、
図36に示すコントロールボックス100を示す図である。コントロールボックス100は、気体供給源(図示せず)に連結された単経路のロータリジョイント101と、電源(図示せず)に連結された単経路のロータリコネクタ102と、ロータリコネクタ102に接続されたプログラマブル・コントローラ(PLC)103と、ロータリジョイント101に接続された複数の電磁弁106と、複数のセンサ107と、通信装置110とを備えている。
図37では、複数の電磁弁106および複数のセンサ107は模式的に描かれている。
【0086】
プログラマブル・コントローラ103はロータリコネクタ102を経由して上記電源から電力が供給されることで動作するようになっている。さらに、プログラマブル・コントローラ103は、電磁弁106に接続されている。揺動機構50は電磁弁106を経由してロータリジョイント101に連結されている。上記気体供給源からの気体は、ロータリジョイント101および電磁弁106を介してそれぞれの揺動機構50のエアシリンダ(ロータリアクチュエータ51および第1の回転連結機構61)、およびドレッサ90のエアシリンダ92に供給されるようになっている。上記センサ107は、ワークピースWを感知するワークピースセンサ、ロータリアクチュエータ51の揺動動作を検出するための検出センサなどを含んでいる。それぞれのセンサ107は、プログラマブル・コントローラ103に接続されており、このプログラマブル・コントローラ103から電力の供給を受けて動作する。
【0087】
電磁弁106は、キャリア1に搭載されているエアシリンダの数だけ設けられる。本実施形態によれば、電磁弁106によって気体の流通の制御をキャリア1内で行うことができる。したがって、多重経路のロータリジョイントが不要となる。同様に、電力はプログラマブル・コントローラ103によってそれぞれのセンサ107に分配されるので、多重経路のロータリコネクタが不要となる。
【0088】
プログラマブル・コントローラ103は、電磁弁106の動作を制御することにより、揺動機構50の動作(例えば、ロータリアクチュエータ51の動作開始および動作停止)およびドレッサ90の動作(例えば、研磨パッド41のドレッシング開始および停止)を制御するように構成されている。プログラマブル・コントローラ103は通信装置110に接続されており、この通信装置110は外部の集中管理装置と無線通信を行うことができるようになっている。
【0089】
図38は、複数のキャリア1が集中管理装置により遠隔操作されている様子を示す模式図である。集中管理装置120と各キャリア1のプログラマブル・コントローラ103とは、通信装置110を通じて相互に情報の伝達を行う。集中管理装置120は、複数のキャリア1の運転状況を監視し、キャリア1の動作異常を検出し、それぞれのキャリア1でのワークピースの研磨開始および研磨停止を制御するようになっている。さらに集中管理装置120は、通信により複数のキャリア1のプログラマブル・コントローラ103に更新プログラムを送信し、プログラマブル・コントローラ103のプログラムを書き換えることによって、複数のキャリア1での研磨条件(ワークピースの研磨レシピ)を一斉に修正または変更することが可能となっている。例えば、集中管理装置120は、
図21(a)から
図24(d)までを参照して説明したキャリア1の動作シーケンスを変更することが可能である。集中管理装置120は、さらに、各キャリア1での研磨条件などの情報からワークピースの生産量を予測することも可能である。
【0090】
図39は、キャリア1のさらに他の実施形態を示す模式図である。この実施形態に係るキャリア1は、ワークピースWを保持するワークピース保持部9と、このワークピース保持部9に連結されたロータリアクチュエータ(回転駆動装置)としてのサーボモータ130と、ワークピース保持部9およびサーボモータ130を上下動させる上下動機構としてのシャフトモータ135とを備えている。ワークピース保持部9はワークピースWを着脱可能に保持する機能を有しており、その構成は上述した実施形態で説明した構成と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0091】
サーボモータ130は、支持部材140に固定されている。ワークピース保持部9は連結軸132を介してサーボモータ130に連結されており、サーボモータ130によってワークピース保持部9およびこれに保持されたワークピースWが回転する。サーボモータ130は、予め設定された速度でワークピースWを時計回りまたは反時計回りに回転させるようになっている。サーボモータ130の回転軸線CPはワークピース保持部9に保持されたワークピースWの中心を通る。したがって、ワークピースWはその中心軸線まわりにサーボモータ130によって回転される。ワークピースWの中心軸線はサーボモータ130の回転軸線CPに一致する。
【0092】
ワークピースWが回転している間、
図1に示すように、キャリア1および研磨パッド41(
図1に示す軟質の研磨パッド3は硬質の研磨パッド41に置き換えられる)が回転し、これによりワークピースWが研磨液の存在下で研磨パッド41との摺接により研磨される。ワークピースWの研磨中、ワークピースWを連続的に回転させてもよいし、または間欠的に回転させてもよい。例えば、ワークピースWを回転させながら湾曲斜面CS1〜CS4(
図13(a)乃至
図13(c)参照)を研磨し、ワークピースWの回転を一旦止めて斜面SS1〜SS4を研磨してもよい。
【0093】
サーボモータ130の回転軸線CPは、鉛直方向に対して所定の角度で傾いている。したがって、ワークピースWの底面F(
図13(a)参照)は研磨パッド41には接触せず、ワークピースWの外周面が研磨パッド41に接触する。
図39に示す例では、ワークピースWの回転軸線CPは45°で傾いている。したがって、
図13(a)乃至
図13(c)に示す斜面SS1〜SS4および湾曲斜面CS1〜CS4が研磨パッド41に接触する。
【0094】
図13(a)に示すようにワークピースWは矩形状を有しているため、ワークピースWがその中心軸線まわりに1回転する間に、ワークピースWの中心から被研磨面までの距離が変化する。このため、回転軸線CPの上下方向の位置が固定されていると、ある回転角度ではワークピースWの被研磨面がリング11の下面から突出せず、ワークピースWが研磨パッド41から離間してしまう。そこで、ワークピースWの回転角度にかかわらず、常にワークピースWの被研磨面(外周面)がリング11の下面から突出するように(すなわち、ワークピースWの回転中にワークピースWの外周面が常に研磨パッド41に接触した状態に保たれるように)、シャフトモータ135は、ワークピースWの回転に同期して、サーボモータ130、ワークピース保持部9、およびワークピースWを一体に上下動させる。ワークピースWの回転に同期したワークピースWの上下移動の量および速度は、ワークピースWの形状に基づいて予め決定される。
【0095】
シャフトモータ135は設置プレート18に固定されている。支持部材140はシャフトモータ135の上下動軸136に連結されており、シャフトモータ135によって鉛直方向(研磨パッド41の研磨面に垂直な方向)に上昇及び下降する。したがって、支持部材140上のサーボモータ130はシャフトモータ135によって上下方向に移動する。本実施形態では、3組またはそれ以上のサーボモータ130およびワークピース保持部9が設けられているが、
図39では説明簡略化のために2組みのサーボモータ130およびワークピース保持部9のみが描かれている。
【0096】
上述した
図39はワークピースWの底面Fの短辺に接続された第2の斜面SS2(
図13(a)参照)を研磨しているときの図であり、
図40はワークピースWの底面Fの長辺に接続された第1の斜面SS1を研磨しているときの図である。ワークピースWがその中心軸線まわりに回転している間、ワークピースWおよびサーボモータ130はシャフトモータ135により上下方向に移動される。ワークピースWの中心から第1の斜面SS1までの距離と、ワークピースWの中心から第2の斜面SS2までの距離は異なるが、
図39および
図40から分かるように、ワークピースWの輪郭形状に従ってワークピースWの回転に同期してシャフトモータ135がワークピースWを上下動させることにより、ワークピースWの被研磨面は常にリング11の下面から下方に突出する。したがって、ワークピースWの被研磨面は研磨パッド41に接触した状態に維持される。
【0097】
ワークピースWが上下動しているときのワークピースWの研磨パッド41に対する研磨圧力を一定に保つために、ワークピースWとワークピース保持部9との間に弾性体(例えば、エアバックまたはスプリング)を配置することが好ましい。さらに、ワークピースWの上下動にともなってワークピースWの研磨圧力が変動することがありうるので、このような研磨圧力の変動を除去するためにも、上記弾性体を設けることが好ましい。弾性体は、ワークピースWの全体を支持してもよく、またはワークピースWの四隅のみを支持してもよい。
【0098】
ワークピースWの回転角度によって研磨パッド41との接触面積が変化するので、サーボモータ130はワークピースWと研磨パッド41との接触面積(すなわちワークピースWの回転角度)に従ってワークピースWの回転速度を変化させることが好ましい。例えば、ワークピースWの斜面SS1,SS3を研磨しているときはワークピースWの回転速度を遅くし、ワークピースWの湾曲斜面CS1〜CS4を研磨しているときはワークピースWの回転速度を早くすることが好ましい。さらに、一時的にワークピースWの回転を止めてもよい。
【0099】
図39および
図40から分かるように、ワークピースWが上下動するに従って、研磨パッド41上のワークピースWとの接触箇所は、研磨パッド41の半径方向に沿って変化する。従って、研磨パッド41のより広い領域がワークピースWの研磨に使用される。このことから、研磨パッド41の寿命が延びることが期待される。
【0100】
研磨パッド41の同じ箇所のみでワークピースWを研磨すると、研磨パッド41上に削り屑が蓄積し、これがワークピースWの傷の原因となることがある。本実施形態では、ワークピースWの上下動にともなってワークピースWと研磨パッド41との接触箇所は研磨パッド41の半径方向に移動するので、削り屑の局所的な蓄積量を減らすことができる。したがって、ワークピースWの傷を減らすことができる。また、研磨パッド41上の広い領域をワークピースWの研磨に使用することができるので、研磨パッド41上に保持されている研磨液(スラリ)を有効に使用することができる。
【0101】
図39に示すサーボモータ130およびシャフトモータ135は、
図17に示す揺動機構50に相当する。揺動機構50が主として3つの要素、すなわちロータリアクチュエータ51、第1の回転連結機構61、および第2の回転連結機構71から構成されているのに対して、
図39のキャリア1は、サーボモータ130およびシャフトモータ135の2つの要素のみから構成される。したがって、シャフトモータ135からワークピースWまでの距離が、
図17のキャリア1に比べて短くなる。その結果として、より安定したワークピースWの研磨が可能になる。
【0102】
さらに、シャフトモータ135によりワークピースWをリング11よりも上方の位置まで上昇させることにより、ワークピースWの全体を研磨パッド41から離間させることが可能である。したがって、ワークピースWの研磨開始点および研磨終点をシャフトモータ135により制御することができる。ワークピースWを研磨パッド41から離間させたときに、ワークピースWに洗浄液(リンス液)を供給することにより、研磨されたワークピースWを洗浄することも可能である。さらには、研磨中のワークピースWとリング11との上下方向の相対位置を調整することにより、ワークピースWの研磨圧力を調整することができる。被研磨面の面積に基づいて、研磨圧力を変更することが好ましい。
【0103】
ワークピースWの研磨中、サーボモータ130は、ワークピースWを時計回りおよび反時計回りに交互に揺動させてもよいが、この場合はワークピースWの回転方向が切り替わるときに、被研磨面上に研磨縞が残ることがある。これを避けるために、本実施形態のサーボモータ130は予め定められた方向にのみ、すなわち時計回りまたは反時計回りのいずれか一方にワークピースWを回転させることが好ましい。このように一定の方向に回転させながらワークピースWを研磨することにより、滑らかな鏡面を形成することができる。
【0104】
ワークピースWの研磨中、ワークピースWを一方向に連続的に回転させてもよく、または一方向に間欠的に回転させてもよい。研磨縞を残さずに滑らかな鏡面を形成するためには、ワークピースWを一方向に連続的に回転させることが好ましい。さらに、ワークピースWの被研磨面を左右均等に研磨するために、ワークピースWを一方向に所定の回数だけ回転させた後、ワークピースWを反対方向に所定の回数だけさらに回転させてもよい。
【0105】
サーボモータ130の回転軸線CPの傾き角度は、サーボモータ130の支持部材140への取り付け角度を変えることによって変えることができる。
図41に示す例では、サーボモータ130の回転軸線CPは鉛直方向に対して90°で傾いている。したがって、
図41に示すキャリア1は、ワークピースWの側面VS1〜VS4および湾曲角面US1〜US4を研磨することができる。
【0106】
図42は、キャリア1のさらに他の実施形態を示す図である。特に説明しない構成および動作は、
図39に示す構成および動作と同じであるので、その重複する説明を省略する。
図42に示すキャリア1は、中空サーボモータ141と、この中空サーボモータ141に連結されたシャフトモータ135と、シャフトモータ135に支持された連結軸132とを備えている。連結軸132には、ワークピース保持部9が固定されている。中空サーボモータ141はアタッチメント47に固定されており、このアタッチメント47は設置プレート18に固定されている。中空サーボモータ141、シャフトモータ135、連結軸132、ワークピース保持部9、およびワークピース保持部9に保持されたワークピースWは、この順に同一軸線上に配列されている。
【0107】
図43は、
図42に示す中空サーボモータ141およびシャフトモータ135を示す断面図である。
図43に示すように、中空サーボモータ141のステータ141Bは、アタッチメント47に固定されている。シャフトモータ135は、中空サーボモータ141のロータ141Aに固定されており、中空サーボモータ141によって回転させられるようになっている。シャフトモータ135は連結軸132をその長手方向に移動させるように構成されているが、連結軸132がシャフトモータ135に対して相対的に回転することを許容しない構成を有している。連結軸132の端部は中空サーボモータ141の中央部に形成された中空部内に位置しており、連結軸132の他端はワークピース保持部9に接続されている。連結軸132は、中空サーボモータ141を貫通して延びていてもよい。中空サーボモータ141により、シャフトモータ135、連結軸132、ワークピース保持部9、およびワークピースWが一体に回転する。
【0108】
中空サーボモータ141の回転軸線CPは、ワークピース保持部9に保持されたワークピースWの中心を通る。したがって、ワークピースWは、その中心軸線まわりに回転する。シャフトモータ135は、連結軸132をその軸方向に(すなわち回転軸線CPに沿って)移動させるように構成されている。したがって、ワークピースWは、その中心軸線まわりに中空サーボモータ141によって回転させられ、さらにシャフトモータ135によってワークピースWの中心軸線に沿って移動させられる。回転軸線CP(ワークピースWの中心軸線)は水平方向に対して傾いているので、ワークピースWを回転軸線CPに沿って移動させると、ワークピースWの全体が上下動する。したがって、シャフトモータ135は、ワークピースWを上下動させる上下動機構を構成する。
【0109】
図42に示すワークピースWの研磨中の動きは、
図39に示すワークピースWと同様である。すなわち、ワークピースWの外周面が研磨パッド41に接触した状態で、中空サーボモータ141によってワークピースWが回転させられ、このワークピースWの回転に同期してシャフトモータ135によりワークピースWが上下動させられる。上述した
図42はワークピースWの底面Fの短辺に接続された第2の斜面SS2(
図13(a)参照)を研磨しているときの図であり、
図44はワークピースWの底面Fの長辺に接続された第1の斜面SS1を研磨しているときの図である。
図42および
図44に示すように、シャフトモータ135はワークピースWの回転に同期してワークピースWを上下動させることにより、ワークピースWの外周面が常にリング11から下方に突出する。これにより、ワークピースWの回転角度にかかわらず、ワークピースWは常に研磨パッド41に接触することができる。
【0110】
本実施形態のキャリア1は、複数のワークピースWを独立に回転かつ上下動させることもできる。
図45に示すように、研磨中に、複数のワークピースWのうちの一つをある速度で回転させながら、他のワークピースWを異なる速度で回転させてもよい。このような動作によれば、ワークピースWの部位ごとの研磨量を調整することができる。この場合も、ワークピースWの外周面が常にリング11から下方に突出するようにワークピースWが上下動される。
【0111】
図46は、
図42に示すキャリアの変形例を示す図である。特に説明しない構成および動作は、
図42に示す構成および動作と同様であるので、その重複する説明を省略する。
図46に示す例では、アタッチメント47にシャフトモータ135が固定されている。中空サーボモータ141のステータ141Bはワークピース保持部9に固定されており、中空サーボモータ141のロータ141Aは連結軸132に固定されている。連結軸132は、シャフトモータ135に支持されている。この例では、シャフトモータ135、連結軸132、中空サーボモータ141、ワークピース保持部9、およびワークピース保持部9に保持されたワークピースWは、この順に同一軸線上に配列されている。
【0112】
ワークピース保持部9およびこれに保持されたワークピースWは、中空サーボモータ141によって回転させられる。さらに、ワークピースW、ワークピース保持部9、および中空サーボモータ141は、シャフトモータ135によって中心軸線CP(ワークピースの中心軸線)に沿って移動させられる。研磨中のワークピースWの動きは、
図42に示す実施形態と同じであり、同様にしてワークピースWの外周面を鏡面研磨することができる。
図46に示す例では、中空サーボモータ141に代えて、通常のタイプのサーボモータを用いてもよい。
【0113】
図47は、本発明のさらに他の実施形態を示す図である。特に説明しない構成および動作は、
図42に示す構成および動作と同様であるので、その重複する説明を省略する。キャリア1は、ワークピース保持部9に連結された第1サーボモータ(第1回転駆動機構)151と、第1サーボモータ151が固定されるスイングアーム153と、スイングアーム153を介して第1サーボモータ151に連結された第2サーボモータ(第2回転駆動機構)152とを備えている。第1サーボモータ151の回転軸線CP1はワークピース保持部9に保持されたワークピースWの中心を通る。したがって、ワークピースWはその中心軸線まわりに第1サーボモータ151によって所定の速度で回転される。
【0114】
第2サーボモータ152はアタッチメント47に固定されており、このアタッチメント47は設置プレート18に固定されている。第1サーボモータ151はスイングアーム153の一方の端部に固定され、第2サーボモータ152はスイングアーム153の他方の端部に連結されている。第2サーボモータ152がスイングアーム153を回転させると、第1サーボモータ151およびワークピース保持部9が第2サーボモータ152の回転軸線CP2まわりに回転する。この回転軸線CP2は研磨パッド41に垂直な方向に対して傾いているので(
図47では45度)、第2サーボモータ152によってワークピース保持部9およびワークピースWが上下に移動する。したがって、第2サーボモータ152およびスイングアーム153は、ワークピースWを上下動させる上下動機構を構成する。
【0115】
ワークピースWの回転角度にかかわらず、常にワークピースWの被研磨面(外周面)がリング11の下面から突出するように(すなわち、ワークピースWの回転中にワークピースWの外周面が常に研磨パッド41に接触した状態に保たれるように)、第2サーボモータ152は、ワークピースWのその軸心まわりの回転に同期して、ワークピース保持部9およびワークピースWを一体に上下動させる。ワークピースWの回転に同期したワークピースWの上下移動の量および速度は、ワークピースWの形状に基づいて予め決定される。
【0116】
本実施形態では、3組またはそれ以上のサーボモータ151,152およびワークピース保持部9が設けられているが、
図47では、先に説明した実施形態と同様に、説明簡略化のために2組のサーボモータ151,152およびワークピース保持部9のみが描かれている。
【0117】
この実施形態では、キャリア1に上向きの力を与えるリフト機構155がキャリア1に連結されている。より詳しくは、キャリア1の上部にはロータリジョイント157が固定されており、このロータリジョイント157はリフト機構155に連結されている。リフト機構155は、研磨パッド41の上方に配置された固定アーム19に固定されている。ロータリジョイント157は、キャリア1の回転を許容しつつ、リフト機構155からの上向きの力をキャリア1に伝えるように構成されている。
【0118】
リフト機構155は、ロータリジョイント157を介して上向きの力をキャリア1の中心部に与え、これにより研磨パッド41に作用するワークピースWの圧力(すなわち研磨圧力)を調整する。研磨圧力は、キャリア1およびワークピースWの自重とリフト機構155が発生する上向きの力によって決定される。
【0119】
リフト機構155は、ワークピースWの研磨中に上向きの力を変化させてもよい。より具体的には、リフト機構155は、ワークピースWの回転に同期して上向きの力を変化させることが好ましい。例えば、面積の大きい面を研磨するときには、上向きの力を小さくすることにより研磨圧力を上げ、面積の小さい面を研磨するときには、上向きの力を大きくすることにより研磨圧力を小さくする。このように動作するリフト機構155を備えることにより、ワークピースWの回転に同期して研磨圧力を最適な値に調整することができる。したがって、ワークピースWのすべての被研磨面を最適な研磨圧力で研磨することが可能となる。
【0120】
リフト機構155の例としては、エアシリンダ、またはサーボモータとボールねじとの組み合わせなどが挙げられる。エアリリンダを用いる場合は、エアシリンダに供給される気体の圧力をレギュレータで制御することによって研磨圧力を制御することができる。なお、
図47の例では、ロータリジョイント157は設置プレート18上に固定されているが、ロータリジョイント157の設置箇所はこの例に限定されない。
【0122】
図37に示すコントロールボックス100を、
図42、
図46、および
図47に示すキャリア1に設けてもよい。
図48は、
図42、
図46、および
図47に示すキャリア1に設けられたコントロールボックス100を示す模式図である。この例に係るコントロールボックス100は、
図37に示すコントロールボックスと基本的には同じであるが、ロータリジョイントおよび電磁弁を備えていない点で相違する。すなわち、コントロールボックス100は、電源(図示せず)に連結された単経路のロータリコネクタ102と、ロータリコネクタ102に接続されたプログラマブル・コントローラ(PLC)103と、複数のセンサ107と、通信装置110とを備えている。サーボモータ130,141,151,152およびシャフトモータ135は、プログラマブル・コントローラ103から電力の供給を受けて動作し、さらにプログラマブル・コントローラ103によってサーボモータ130,141,151,152およびシャフトモータ135の動作が制御される。
【0123】
図49は、キャリア1のさらに他の実施形態を示す図である。この実施形態に係るキャリア1は、
図50(a)および
図50(b)に示すワークピースWの4つの傾斜面TS1,TS2,TS3,TS4を研磨するのに好適に使用される。
図50(a)はワークピースWの上面図であり、
図50(b)はワークピースWの断面図である。この矩形状のワークピースWは、下面の両端に傾斜面TS1,TS2を有し、上面の両端に傾斜面TS3,TS4を有している。これらの傾斜面TS1,TS2,TS3,TS4が研磨すべき面である。ワークピースWの上面には、矩形状の凹部(または空間)160が形成されている。特に説明しないキャリア1の構成は、上述したキャリア1と同じであり、同一の構成要素には同一の符号を付してその重複する説明を省略する。研磨パッド3およびキャリア1以外のCMP装置の構成は、
図1または
図2に示す構成と同じである。
【0124】
図49に示すように、リング11には円形の底面プレート45が接続されている。この底面プレート45はリング11の半径方向内側に配置され、リング11と一体に形成されている。リング11の底面と底面プレート45の底面とは同一水平面内に位置している。
キャリア1は、複数の(図示の例では3つの)ワークピースWを保持する3つのワークピース保持部9と、ワークピース保持部9の位置を固定するためのトグル機構163とを備えている。
【0125】
図51は、ワークピース保持部9を示す上面図である。
図51に示すように、ワークピース保持部9は、ワークピースWを保持するクランプ165と、クランプ165が固定される保持軸167とを備えている。クランプ165は、ねじ169によって保持軸167に着脱可能に固定されている。クランプ165はワークピースWの凹部160内に収容されており、この凹部160を形成する内面を外方向に押圧することによって、ワークピースWを保持している。
【0126】
図52は、
図51に示すワークピース保持部9の保持軸167を示す側面図であり、
図53は保持軸167をその軸方向から見た図である。保持軸167は、大径の主軸部167aと、この主軸部167aの両端から軸方向外側に延びる小径の支持軸部167bとを有している。主軸部167aには、クランプ165が固定される平坦面167cが形成されている。クランプ165は、上述したねじ169によって主軸部167aの平坦面167cに着脱可能に取り付けられている。
【0127】
図52および
図53に示すように、主軸部167aの両端には、保持軸167の周方向に沿って6つのテーパー形成面170a,170b,170c,170d,170e,170f(以下、単に170ともいう)が形成されている。各テーパー形成面170は、主軸部167aの外周面から保持軸167の軸心に向かって傾斜している。隣接するテーパー形成面170同士は所定の角度で交わっている。これらのテーパー形成面170は、後述するように、研磨パッド3(
図1参照)の研磨面に対するワークピースWの角度を固定するために使用される。
【0128】
図54は、
図51に示すクランプ165を示す上面図である。このクランプ165は、空間または凹部を内部に有する、
図50(a)および
図50(b)に示すようなワークピースWの保持に好適に使用される。
図54に示すように、クランプ165は、直列に配置された2つの保持ブロック174,175と、これら保持ブロック174,175を互いに連結する2つの連結ピン177を備えている。各連結ピン177は、略C字型の形状を有したリングピンである。各保持ブロック174,175の上面には、これら連結ピン177が収容される溝174a,175aが形成されており、連結ピン177がこれら溝174a,175aに配置されることによって2つの保持ブロック174,175が連結される。保持ブロック174,175の外周面には、ワークピースWの凹部160を形成する内面に接触する突起部174b,175bが形成されている。
【0129】
図55は、クランプ165がワークピースWの凹部160内に配置されている状態を示す上面図であり、
図56は、
図51のH−H線断面図である。
図55に示すように、クランプ165は、ワークピースWの凹部160内に収容された状態で、ワークピースWを保持するように構成されている。クランプ165の中央部には、円形の通孔180が形成されている。この通孔180の下部は、径が徐々に広がる円錐台面180aから形成されている。通孔180には、円錐台形の外周面181aを有する留め具181が挿入されており、留め具181の外周面181aが通孔180の円錐台面180aに接触している。
【0130】
保持軸167の主軸部167aは、ねじ169が挿入される通孔183を有している。ねじ169は、この通孔183を通って延び、留め具181に形成されたねじ穴に螺合されている。ねじ169を締め付けると、留め具181の外周面181aが円錐台面180aに押し付けられ、これにより2つの保持ブロック174,175が互い離間する方向(
図56に矢印で示す)に移動して、突起部174b,175bを凹部160の内面に押し付ける。このようにして、ワークピースWは、クランプ165の複数の突起部174b,175bによって保持される。
【0131】
図57は、
図49に示すキャリア1の一部を示す上面図である。
図58は、
図57のI−I線断面図であり、
図59は、
図57のJ−J線断面図であり、
図60は、
図57のK−K線断面図である。底面プレート45には、断面V字型の支持面を有する2つの軸支持台184が固定されている。これらの軸支持台184は、それぞれ保持軸167の2つの支持軸部167bを回転可能に支持している。2つの軸支持台184のうちの一方の上方には、下を向いた2つの受け面186a,186bを有した位置決め部材186が配置されている。これらの受け面186a,186bは、支持軸167の6つのテーパー形成面170a〜170fのうちの隣接する2つに平行に形成されている。軸支持台184は底面プレート45の下面に固定され、位置決め部材186は底面プレート45の上面に固定されている。
【0132】
トグル機構163は、そのレバーを回転させることにより、保持軸167の6つのテーパー形成面170a〜170fのうちの隣接する2つを位置決め部材186の受け面186a,186bに押し付け、レバーを反対方向に回転させることにより、テーパー形成面170を受け面186a,186bから解放するように構成される。
図57,
図59,および
図60は、保持軸167のテーパー形成面170a,170bが位置決め部材186の受け面186a,186bにそれぞれ押し付けられている状態を示している。この状態では、受け面186a,186bが保持軸167の位置および角度を拘束し、これにより研磨パッド3の研磨面に対するワークピースWの被研磨面の位置およびワークピースWの角度が固定される。レバーを
図57に示す矢印の方向に回転させると、保持軸167のテーパー形成面170a,170bは位置決め部材186の受け面186a,186bから離れることが許容される。したがって、ワークピースWを回転させることができ、さらにはワークピースWを含むワークピース保持部9の全体をキャリア1から取り出すことができる。
【0133】
図59に示すように、2つの受け面186a,186bは、所定の角度で互いに傾斜している。この受け面186a,186b同士のなす角度は、保持軸167の隣接する2つのテーパー形成面170同士のなす角度に等しい。そして、
図59に示すように、保持軸167の6つのテーパー形成面170のうちの2つが2つの受け面186a,186bにそれぞれ押し付けられることにより、ワークピースWの研磨パッド3に対する角度が固定される。
図59は、ワークピースWの傾斜面TS1が研磨パッド3に接触している状態を示している。
図61に示すように、保持軸167の6つのテーパー形成面170a〜170fのうちの他の2つが2つの受け面186a,186bに押し付けられると、研磨パッド3に対するワークピースWの角度を変えることができる。
図61は2つのテーパー形成面170b,170cが位置決め部材186の受け面186a,186bにそれぞれ押し付けられている状態を示している。このようにして、ワークピースWの上下面の端部に形成された4つの傾斜面TS1〜TS4のすべてを研磨することができる。
【0134】
図62は、トグル機構163の操作によって保持軸167が位置決め部材186から開放された状態を示す断面図である。この状態では、保持軸167の2つの支持軸部167bは、単に2つの軸支持台184により回転自由に支持されているだけである。したがって、保持軸167を中心としてワークピースW全体を回転させることができ、ワークピースWの他の傾斜面を研磨することができる。
図63は、ワークピースWとともにワークピース保持部9をキャリア1から取り外している状態を示す図である。このようにワークピース保持部9のみがキャリア1から取り外せるので、キャリア1全体を研磨パッド3から取り出すことなく、ワークピースWを交換することができる。
【0135】
図64は、ワークピースWの他の例を示す上面図である。このワークピースWは、矩形状を有し、その内部に凹部160を有している点で、
図50(a)および
図50(b)に示すワークピースWと同じであるが、その凹部160に2つの第1位置決め部材191および3つの第2位置決め部材192を有している点で相違している。
【0136】
図65は、
図64のL−L線断面図である。第1位置決め部材191は、ワークピースWの底面195に平行な方向(以下、XY方向という)におけるワークピースWの位置決めに使用される。各第1位置決め部材191は、ワークピースWの底面195と垂直に延びる縦穴191aを有している。これら第1位置決め部材191は、矩形状のワークピースWの対角線上に位置している。
図66は、
図64のM−M線断面図である。第2位置決め部材192は、ワークピースWの底面195と垂直な方向(以下、Z方向という)におけるワークピースWの位置決めに使用される。各第2位置決め部材192は、ワークピースWの内側に向かって上方に延びる係合傾斜面192aを有している。第1位置決め部材191および第2位置決め部材192は、ワークピースWの凹部160を形成する内面に沿って配置されている。
【0137】
図67は、
図64に示すワークピースWを保持するのに適合したワークピース保持部9を示す斜視図である。このワークピース保持部9は、ワークピースWを保持する一対のクランプ201と、これらクランプ201を互いに近接および離間させる方向に移動させるねじ棒203と、ワークピースWの移動を案内するガイド部材204と、ねじ棒203およびガイド部材204を支持するクランプ台205と、クランプ台205に固定された2つの位置決めピン208とを備えている。ねじ棒203は、それぞれのクランプ201を貫通して延びており、クランプ台205に回転可能に保持されている。ねじ棒203とガイド部材204は、互いに平行に延びている。
【0138】
図68はねじ棒203を示す斜視図である。このねじ棒203は、その外周面に形成された右ねじ部203Aと左ねじ部203Bを有している。これらの右ねじ部203Aおよび左ねじ部203Bは、各クランプ201に形成されたねじ孔(図示せず)にそれぞれ螺合されている。ねじ棒203を一方向に回転させると、一対のクランプ201が互いに離間する方向に移動し、ねじ棒203を反対方向に回転させると、一対のクランプ201が互いに近接する方向に移動する。これらクランプ201の移動は、ねじ棒203と平行に延びるガイド部材204によってガイドされる。位置決めピン208は、ワークピースWの第1位置決め部材191の縦穴191aの位置に対応した位置に配置されている。2つの位置決めピン208が2つの縦穴191aにそれぞれ挿入された状態で、ワークピースWがワークピース保持部9に装着される。
【0139】
図69は、
図64に示すワークピース保持部9の断面図である。ワークピースWがワークピース保持部9に装着されると、クランプ201は、第2位置決め部材192の内側に位置する。各クランプ201は、第2位置決め部材192の係合傾斜面192aに沿って傾斜する上面202aを有した爪202を備えている。ねじ棒203を一方向に回すと、クランプ201が互いに離れる方向に移動し、爪202の上面202aが係合傾斜面192aに押し付けられる。爪202がワークピースWの外側に向かって移動するに従って、爪202の上面202aと係合傾斜面192aとの係合によりワークピースWが上方に(すなわちクランプ台205に向かって)移動され、やがて第1位置決め部材191の上面がクランプ台205の下面に接触する。ワークピースWは、位置決めピン208が第1位置決め部材191の縦穴191aに挿入された状態で、爪202とクランプ台205との間に挟まれる。ワークピースWのXY方向の位置は、第1位置決め部材191と位置決めピン208によって固定され、ワークピースWのZ方向の位置は、第2位置決め部材192とクランプ201の爪202によって固定される。
【0140】
上述した各実施形態において、ワークピースWの研磨終了は、研磨時間から決定することができる。より具体的には、研磨時間が所定の目標時間に達したときに、ワークピースWの研磨を終了させることができる。
【0141】
ワークピースWの例としては、アルミニウムやステンレス鋼などから形成される金属筐体、または樹脂筐体が挙げられる。筐体は、例えば、携帯電話、スマートフォン、多機能携帯端末、携帯ゲーム機、カメラ、時計、音楽メディアプレーヤー、パソコン、自動車部品、装飾品、医療機器などに用いられるものである。本発明によれば、このようなワークピースに鏡面仕上げを施すことができる。
【0142】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。