(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
免疫測定用セルを有する免疫測定部と、免疫測定用試薬を収容した試薬容器と、血球計数測定用セルを有する血球計数測定部とが、それぞれ所定位置に配置され、単一のサンプリングノズルが前記所定位置に移動しかつ上下移動して検体および試薬の吸引と吐出を行ない、免疫測定用セルでの免疫測定と、血球計数測定用セルでの血球計数測定が行なわれるように構成された全血血球免疫測定装置であって、
免疫測定用セルへの検体と免疫測定用試薬の分注を全て完了したサンプリングノズルを最終的に洗浄するための、専用の免疫測定用洗浄チャンバがさらに設けられ、該免疫測定用洗浄チャンバでは、血球計数測定用セルへの検体の分注を行った直後のサンプリングノズルの洗浄は行われない制御構成となっており、
免疫測定用セルでの免疫測定が行われている間に、免疫測定用洗浄チャンバ内においてサンプリングノズルの外面および内面の洗浄が行われる制御構成となっていることを特徴とする、全血血球免疫測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の全血血球免疫測定装置では、CRP測定のための必要不可欠な処理ステップを実行するように、サンプリングノズル(細長い管であることから「ニードル」とも呼ばれる)36が設けられている(
図4および
図5)。
図4(a)、(b)に示すように、検体を収容する検体容器4、CRPセル19、CRP測定用試薬を収容した試薬容器(20、21、22)、血球計数測定用セル(白血球用のWBCセル27、赤血球用のRBCセル28)とが、水平方向に一線上に配置されている。そして、単一のサンプリングノズル36が、水平方向の移動(各容器上やセル上への位置合わせの移動)と上下方向の移動(各容器やセルへの出入りの移動)とを所定の順番に従って行なうよう制御されている。これらの構成によって、検体および試薬の吸引と吐出、CRPセル内でのCRP測定、WBCセル・RBCセル内での血球計数測定が全自動で行なわれる。
【0006】
前記のような装置では、〔CRP用試薬と検体の吸引・吐出ステップ、CRPセル内でのCRP測定処理ステップ、WBCセル・RBCセル内での各血球計数測定ステップ、各セルの洗浄処理ステップ、各処理ステップ後の必要に応じたノズル外部の洗浄処理ステップ、最終ステップの後のノズル内外の最終洗浄処理〕といった種々の処理ステップが、シーケンシャルに全自動で行なわれ、全処理ステップを完了するためには1検体あたり約4分を要する。
【0007】
上記のような1検体あたり約4分という処理時間は、一般的な検査では何ら問題が無く好ましいものであるものの、1日に多量の検体を測定する必要のある機関では、たとえ数十秒でも時間短縮を行えば、1日の処理量は大きく増加する。
しかしながら、従来の全血血球免疫測定装置のサンプリングノズルの移動速度や吸引・吐出速度は適切であり、また、各処理ステップはいずれも必須であって、試薬による反応時間、測定時間、洗浄回数などには、削減できるような余地は無かった。
【0008】
本発明の課題は、1検体あたりに要する測定処理時間をより短縮することが可能な全血血球免疫測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、次の特徴を有するものである。
(1)免疫測定用セルを有する免疫測定部と、免疫測定用試薬を収容した試薬容器と、血球計数測定用セルを有する血球計数測定部とが、それぞれ所定位置に配置され、単一のサンプリングノズルが前記所定位置に移動しかつ上下移動して検体および試薬の吸引と吐出を行ない、免疫測定用セルでの免疫測定と、血球計数測定用セルでの血球計数測定が行なわれるように構成された全血血球免疫測定装置であって、
免疫測定用セルへの検体と免疫測定用試薬の分注を全て完了したサンプリングノズルを最終的に洗浄するための、専用の免疫測定用洗浄チャンバがさらに設けられ、
免疫測定用セルでの免疫測定が行われている間に、免疫測定用洗浄チャンバ内においてサンプリングノズルの外面および内面の洗浄が行われる制御構成となっていることを特徴とする、全血血球免疫測定装置。
(2)サンプリングノズルには、該ノズルの外面を希釈液で洗浄するよう構成されたサンプリングノズル洗浄器が付帯しており、
免疫測定用セルに対して免疫測定用試薬を分注するステップにおいて、上記免疫測定用洗浄チャンバを利用して、サンプリングノズル洗浄器によるサンプリングノズルの外面の洗浄が行われる制御構成となっている、上記(1)記載の全血血球免疫測定装置。
(3)検体洗浄用チャンバがさらに設けられ、
血球計数測定のための分注を行い血液が付着している可能性のある状態となっているサンプリングノズルが、該検体洗浄用チャンバにて洗浄される制御構成となっている、上記(1)または(2)記載の全血血球免疫測定装置。
【発明の効果】
【0010】
上記特許文献1に記載された全血血球免疫測定装置では、
図4および
図5に示すように、サンプリングノズルに、該ノズルの外面を希釈液で洗浄するよう構成されたサンプリングノズル洗浄器が付帯している。そして、該サンプリングノズル36の外面に関しては、各ステップ毎に必要に応じて洗浄が行なわれている。その洗浄には、血球計数測定部のセル(とりわけ白血球計測用のWBCセル27)が用いられている。即ち、該WBCセル27は、廃液やノズル洗浄器からの希釈液を受け入れるための廃液用チャンバ(漏斗のような受け口)を兼用している。前記廃液等は、そのWBCセルの下部の排出口から配管を通じて最終的な廃液容器(
図4(a)の符号18)に送られる構成となっている。
しかし、上記特許文献1には明記されていないが、従来では、CRP測定が全て終わった後の、ラテックス免疫試薬が固着したサンプリングノズルの最終的な洗浄(ノズルの内面の洗浄をも含んだ十分な洗浄:以下、「ノズルの最終洗浄」ともいう)は、WBCセル27ではなく、CRPセル19を用いて行っている。
【0011】
従来、ノズルの最終洗浄にCRPセルが用いられていた理由は、検体同士のコンタミネーションを避けるためである。
3つのセル(CRPセル19、WBCセル27、RBCセル28)のなかで、CRPセルは、血球残存の可能性が最も少ないセルである。CRPセルには、溶血試薬R1によって全ての血球を溶解させた検体液が投入されるだけであるから、血球が存在する可能性はほとんど無い。しかし、RBCセルには赤血球が残存する可能性があり、また、廃液用チャンバを兼用するWBCセルには、白血球が残存するだけでなく赤血球も残存する可能性がある。
よって、上記特許文献1の装置では、CRP測定の終了後、CRPセル内を希釈液で洗い流した後で、ノズルの最終洗浄を行っている。このステップは、
図6のフローチャートに、ステップa6〜a8として示されたとおりであり、CRP測定とノズルの最終洗浄とが直列的に行われている。
上記特許文献1の全血血球免疫測定装置に対して、さらに、白血球5分類を行なうことが可能なように専用の測定セルが加えられた装置が開発されてきたが、そのような免疫測定装置であっても、ノズルの最終洗浄では、清浄な希釈液をCRPセルに吐出し吸引し吐出するというように希釈液の往復を行い、必要に応じて該希釈液を廃棄し再度希釈液の往復を繰り返すことが必要であり、その洗浄には約60秒を要している。
【0012】
上記のような従来のステップに対して、本発明では、CRPの測定自体に要する時間と、ノズルの最終洗浄に要する時間が、いずれも長時間を要する点に着目した。そして、該ノズルの最終洗浄のための専用チャンバ(免疫測定用洗浄チャンバ)を新たに設け、CRPセル内でCRP測定が行なわれている間に、該免疫測定用洗浄チャンバにおいてノズルの最終洗浄を同時進行させる構成とした。
この同時進行の構成によって、ノズルの最終洗浄に要していた約60秒もの時間が短縮され、1検体あたりの処理時間は、従来の約4分から約3分となっている。
【0013】
また、免疫測定用洗浄チャンバを設けたことにより、ノズルの最終洗浄のみならず、免疫測定に関する種々の試薬の吸引の後にも、該免疫測定用洗浄チャンバを利用して、サンプリングノズルの外面の洗浄を適宜行うことが可能となる。これによって、従来のようにWBCセルを用いた洗浄に比べて、CRP測定用試薬によるWBCセルおよび測定部の汚染(CRP測定用試薬とWBC測定サンプルとのコンタミネーション)のリスクを回避することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例を挙げて、本発明の全血血球免疫測定装置の構成をより詳細に説明する。
図1は、本発明の全血血球免疫測定装置の好ましい態様における、特徴的な構成部分を示した部分拡大図である。同図に示すように、当該全血血球免疫測定装置では、免疫測定用セル19を有する免疫測定部と、免疫測定用試薬(R1、R2、R3)をそれぞれ収容した試薬容器(20、21、22)と、血球計数やヘモグロビン濃度測定などを行なうための血球計数測定用セル(BASOセル27a、LMNEセル27b、RBCセル27c、WBCセル27d)を有する血球計数測定部とが、所定位置に配置されている。これらの測定用セルは、白血球5分類を含んだ詳細な分析を行なうための好ましい一例である。これらの測定用セルについては、後述する。
図1の例では、検体を収容した検体容器4が当該装置の所定位置にセットされており、該検体容器4、試薬容器(20、22、21)、免疫測定用セル19、血球計数測定用セル(BASOセル27a、LMNEセル27b、RBCセル27c、WBCセル27d)の各所定位置は、水平方向に伸びる直線に沿って並んでいる。そして、プローブユニット13によって水平方向・垂直方向に移動し得る単一のサンプリングノズル36が、前記直線に沿って移動しかつ上下に移動して、各容器やセル内に対する進入と脱出を行い、検体および試薬の吸引と吐出を行なうように、コンピュータ制御される構成となっている。そして、免疫測定用セル19と制御部(図示せず)とによって免疫測定が自動的に行われ、前記血球計数測定用セルと該制御部とによって、血球計数測定が自動的に行なわれるよう構成されている。
本願発明の重要な特徴は、
図1に示すように、免疫測定用洗浄チャンバAがさらに追加されている点にある。該免疫測定用洗浄チャンバAは、免疫測定用セル19に対する検体と免疫測定用試薬の分注を完了したサンプリングノズル36を洗浄するための専用のチャンバである。免疫測定用セル19において免疫測定が行われている間に、該免疫測定用洗浄チャンバ内において、該サンプリングノズル36の外面および内面の洗浄が行われるようにコンピュータ制御される。
尚、
図1では、各セルやチャンバーなどの容器の底部は角部を有するものとして描かれているが、実際には、液体のスムーズな流出、流入を考慮して適宜丸みを帯びたものであることが好ましい。
【0016】
免疫測定用洗浄チャンバAの追加およびその使用(免疫測定との同時進行的なノズルの最終洗浄)によって、測定処理時間が大幅に短縮される。また、それだけでなく、血液(とりわけ血球)が付着したサンプリングノズルの洗浄と、免疫測定のために溶血試薬と混合されて血液(とりわけ血球)が残存していない液体が付着したサンプリングノズルの洗浄とを、完全に分離することができ、最終洗浄を免疫測定用洗浄チャンバAで行うことによって、他の検体とのコンタミネーションをより厳密に排除することが可能になる。
【0017】
当該全血血球免疫測定装置の全体的な外観は、特に限定はされないが、例えば、
図3に示すものが挙げられる。
図3の例では、検体を収容した検体容器(採血管とも呼ばれる)をセットするための検体容器セット部(採血管ホルダー)Cが前面に開閉可能に設けられている。また、側面には、免疫測定用の試薬容器の収容部が露出するよう扉Dが設けられており、試薬の補充や、免疫測定部のメンテナンスが可能になっている。
【0018】
免疫測定部と血球計数測定部とを所定位置に配置し、サンプリングノズルを制御して移動させ、検体や試薬の吸引と吐出を行なわせ、さらに、各セル内で免疫測定と血球計数測定を自動的に行うための基本的な構成、機構、制御、計測の手法自体は、上記特許文献1など、従来公知の全血血球免疫測定装置、血球計数測定装置、免疫測定装置の技術を参照してよい。各部の機構を制御し、得られるデータを処理する制御部としては、コンピュータが適切である。
【0019】
当該装置で行うべき免疫測定は、血しょう中成分の分析などの免疫学的な測定であればよく、特に限定はされないが、なかでもCRP値の測定は、代表的な炎症マーカーとして臨床検査(細菌感染症等)に繁用されており、全血血球免疫測定装置にとっては重要な測定項目である。
以下の説明では、免疫測定の実例としてCRP測定を挙げて本発明を説明する。
【0020】
〔免疫測定部(CRP測定部)〕
図1に示す例では、免疫測定用セル19は、CRPを測定し得るように構成されたセルであり、CRP測定用の光照射部19aおよび光検出部19bをセルの下部壁面に備えるとともに、内部に収容される液を適宜攪拌できるように構成されている。以下、免疫測定用セルをCRPセルとも呼ぶ。
CRPセルにおいて、ラテックス凝集法に従ってCRPを光学的に測定する技術や、光照射部、光検出部の素子の配置構造、セルの材料、CRPの測定に適したセルの形状・寸法などの構成自体は、従来技術を参照してよい。
図1では、光照射部19aと光検出部19bとが対向して設けられた構成を示唆している。
CRPセル19の下端部には、破線で示す排出管が接続され、廃液が、経路切換え用の電磁弁19c、電磁弁装置12を通じてポンプPによって廃液容器18に送られる構成となっている。
【0021】
CRP測定のための試薬容器20には、溶血試薬(以下、R1試薬という)が収容されている。R1試薬は、公知のものを用いてよく、例えば、界面活性剤(合成物またはサポニンのような天然物のいずれの場合も含む)を主成分とする溶液などが挙げられる。
試薬容器21には、緩衝液(以下、R2試薬という)が収容されている。R2試薬は、公知のものを用いてよく、例えば、Tris−HCl(トリス塩酸)緩衝液、グリシン緩衝液などが挙げられる。
試薬容器22には、抗ヒトCRP感作ラテックス免疫試薬(以下、R3試薬という)が収容されている。R3試薬は、ラテックス凝集法に従ってCRP測定が可能な試薬であればよい。
【0022】
これら試薬容器は、ソレノイドやステッピングモータなどのアクチュエータによって上下方向に揺動する蓋によって一括して開閉されるように構成されることが好ましい態様である。
また、ペルチェ素子からなる電子冷却器を備えたクーラーボックスに試薬容器21、22を収容することが好ましい態様である。
【0023】
〔血球計数測定部〕
血球計数測定部で行うべき血球の測定項目は、特に限定はされないが、例えば、特許文献1のように、赤血球の計数(体積と度数分布)、ヘモグロビン量の測定、白血球の3分類(単球、リンパ球、顆粒球の分画計数)であってもよいし、さらに、本発明の
図1に示す実施例のように、白血球の5分類(リンパ球、単球、好中球、好酸球、好塩基球の分類と計数)を行ってもよい。これらの測定項目は、装置の目的、ユーザーの要求、製品の価格などに応じて適宜決定すればよい。
【0024】
血球計数測定を行うための装置は、その測定項目に応じて、電気抵抗法(インピーダンス法とも呼ばれる)、光学的測定法を実施し得るように、各血球計数測定用セル内に必要な装置構成を設け、制御部によって作動する構成とすればよい。
例えば、特許文献1の装置のように、電気抵抗法によって、WBC(白血球数)、RBC(赤血球数)、PLT(血小板数)、MCV(赤血球容積)、Hct(ヘマトクリット値)を行い、シアンメトヘモグロビン法における吸光光度法によりHgb(ヘモグロビン濃度)などをそれぞれ測定するように構成してもよい。
特許文献1の装置では、WBC/Hgb血球計数測定セルには、WBCを電気抵抗法に基いて測定するための測定電極対が設けられ、Hgbを測定するための光照射部と受光部とが設けられている。また、RBC/PLT血球計数測定セルには、RBCおよびPLTを電気抵抗法に基いて測定するための測定電極対が設けられている。
【0025】
本願の
図1の例では、血球計数測定部として設けられた血球計数測定用セルは、BASOセル27a、LMNEセル27b、RBCセル27c、WBCセル27dである。
BASOセル27aは、好塩基球を計数するためのセルであって、溶血剤により、好塩基球以外の成分を溶血、収縮させることによって、該好塩基球だけを計数可能とし、アパーチャと電極とを用いた電気抵抗法に基いて、該好塩基球を計数し得るように構成されたセルである。
LMNEセル27bは、後述の集光型フローインピーダンス法によって、リンパ球(L)、単球(M)、好中球(N)、好酸球(E)を計数するよう構成されたセルである。
RBCセル27cは、赤血球および血小板を計数するためのセルであって、特許文献1の装置におけるRBC/PLT血球計数測定セルと同様、セルの下部には電気抵抗法を実施し得るようアパーチャと電極とを持った装置が設けられている。
WBCセル27dは、特許文献1の装置におけるWBC/Hgb血球計数測定セルと同様のものであって、白血球の計数をより正確に行うために設けられたセルである。このセルでは、白血球の計数に加えて、ヘモグロビン濃度の測定をも行なわれる。
【0026】
電気抵抗法は、検体血液を希釈液中に分散させた試料液を流路に導入し、その流路の途中に、オリフィスのごとく流路の断面積が小さくなったアパーチャ(小孔)を設け、該アパーチャを間に置いて一対の電極を設けることによって、該アパーチャを通過する粒子の容積を、電極間の電気的な特性の変化に基いて測定する手法である。
一方、光学的な手法で血球を識別する好ましい手法として、フローサイトメトリーが挙げられる。この手法は、流路を進む試料液中の血液細胞に所定の照射光をビーム光として焦点を合わせて照射し、その結果得られる光散乱や光吸収度などの光学的特性から該血液細胞の識別を行なう手法である。
フローサイトメトリーを行いながら電気抵抗法をも行う方法(集光型フローインピーダンス法)は、白血球の4分類(LMNEマトリックスの取得)を行なうためには好ましい方法である。本発明の実施例では、LMNEセル27b内に、集光型フローインピーダンス法を行うための流路やそれに対する光照射装置、受光装置、電極対が設けられ、白血球の4分類を行なうためのデータ(各血球毎の(容積、吸光度)のデータ対)の取得が可能となっている。
血球の計数結果は、制御部において適宜処理が施され、LMNEマトリックスなどのスキャッターグラムやヒストグラムなどとして表示される。
電気抵抗法、フローサイトメトリー、集光型フローインピーダンス法を行うための装置構成については、従来公知の技術を参照してよい。
【0027】
〔サンプリングノズルとその駆動機構〕
図1の例では、検体容器4、試薬容器20、22、21、CRPセル19、免疫測定用洗浄チャンバA、血球計数測定用セル(27a、27b、27c、27d)は、所定の位置に配置されており、サンプリングノズル(以下、「ノズル」とも呼ぶ)が各所定位置に移動しかつ上下移動して検体および試薬の吸引と吐出を行なえるようになっている。よって、ノズルの移動経路やプローブユニットの機構を複雑にせず、素早く処理し得る点からは、各所定位置は、
図4(b)のように、一線上に整列していることが好ましい。
【0028】
ノズルは、ニードルとも呼ばれ、その先端を各容器やセルに差し込んで検体・試薬の吸引と吐出を行なうための細長い管である。ノズルの後端部は、配管によって、電磁弁部を通じて吸引・吐出ポンプに接続されている。
ノズルを所定の経路に沿って水平移動させかつ上下移動させるためのプローブユニット部13の機構は、特許文献1など従来公知の技術を参照すればよい。例えば、無端ベルト(ループ状のベルト)とされたタイミングベルトやVベルトなどによる直進機構、ボールネジによる直進機構、シリンダーによる直進機構、その他のアクチュエータによる直進機構、これらを組み合わせた駆動アームによる移動機構などが挙げられる。
図1の例では、
図4と同様に、水平方向のタイミングベルト31と、上下方向のタイミングベルト37によって、ノズルが水平方向・垂直方向に移動できるようになっている。
ノズルは、一直線上に配設された試薬容器および各セルのほぼ真上を往復移動しながら、所定位置で上下して、検体および試薬の吸引と吐出、洗浄を行なう。このような動作は、コンピュータによって制御され、プログラムされたとおりに行われる。
【0029】
ノズル36には、ノズル洗浄器39が付帯している。
ノズル洗浄器は、環状の本体部分を有し、その中央孔内をノズルが通過している(該ノズルの先端部はノズル洗浄器の下方にある)。
ノズル洗浄器39は、水平方向にはノズル36に帯同して移動するが、上下方向については特定の高さに固定されている。よって、ノズル36が上下移動すると、ノズル洗浄器39の環状の本体部分は、相対的にノズルの外面を移動することになる。
好ましい態様例では、ノズルが最も下まで移動した状態で、ノズル洗浄器の環状の本体部分から希釈液が放出され、それによって、ノズルの外周面全体が洗い流されるようになっている。
【0030】
〔免疫測定用洗浄チャンバ〕
免疫測定用洗浄チャンバは、ノズルの全長のうち、試薬などに浸漬される部分を十分に受け入れる深さを有するものであればよい。そのような深さは、ノズルによっても異なるが、例えば、20mm〜80mm程度が好ましい深さである。
免疫測定用洗浄チャンバの胴体の形状は、特に限定はされないが、該チャンバ内に注入された液体が残存せず好ましく全て排出される点(廃液効率の点)からは円筒形が好ましい形状である。免疫測定用洗浄チャンバの胴体が円筒形である場合、その内径は、特に限定はされないが、10mm〜20mm程度が好ましい値である。免疫測定用洗浄チャンバの内径が過度に大きいと、洗浄液の消費量が多くなり、チャンバ内に洗浄のための希釈液などを所定のレベルまで満たす時間が長くなり、また、装置の小型化に不利となるなど好ましくない。
一方、該内径が過度に小さいと、ノズルを水平方向に移動させるためのキャリッジ(ベルトなどの移動機構)に求められる停止位置の精度が厳しくなり、チャンバのにノズルが降下しないことによる、ノズルおよび当該洗浄用チャンバの破損や、希釈液が飛散するリスクが高くなり好ましくない。
【0031】
免疫測定用洗浄チャンバの材料は、耐薬品性や加工性を有するような材料であればよく、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられ、コスト、加工性の点からは、PVCが好ましい材料として挙げられる。
【0032】
免疫測定用洗浄チャンバの位置は、
図1に示すように、免疫測定用セル(CRPセル)の隣であって、かつ、血球計数測定セルと免疫測定用セルとの間であることが、ノズルの移動を最小にする点で、好ましい。
【0033】
免疫測定用洗浄チャンバの下端部には、
図1に破線で示すように、CRPセルと同様の排出管が接続され、廃液が電磁弁装置12およびポンプPを通じて廃液容器18に送られる構成となっている。
【0034】
免疫測定用洗浄チャンバでのノズルの最終洗浄の工程は、従来、CRPセルにおいて行っていた洗浄と同様である。即ち、清浄な希釈液を該チャンバに所定量吐出し、それを吸引し、再び吐出するというように希釈液の往復(好ましくは2〜3回程度の往復)を行うことによってノズルの内面の洗浄を行う。必要に応じて汚れた希釈液を廃棄し、新たな希釈液を供給して該往復を繰り返してもよい。好ましい態様では、希釈液の廃棄は、1〜2回程度である。このとき、ノズル洗浄器を作動させてもよい。
また、免疫測定用洗浄チャンバ内で、R1〜R3試薬を吸引した段階でノズルを洗浄することもできる。
【0035】
本発明でいう洗浄とは、希釈液のみによって、対象物の表面に付着した物質を希釈し流し去る操作であってもよいし、必要に応じて、希釈液と洗浄剤とによって、対象物の表面に付着した物質を除去する操作であってもよい。
希釈液は、生理食塩水やリン酸緩衝希釈液など、測定のための検体の希釈に使用可能な液体であればよい。本発明では、希釈液を洗浄にも用いている。
ノズル洗浄器によるノズル外面の洗浄や、免疫測定用洗浄チャンバでのノズルの最終洗浄は、希釈液のみによるものであってよい。
【0036】
免疫測定用洗浄チャンバは、ノズルの最終洗浄のみならず、CRPセルに対する各試薬の分注のステップにおいても、ノズル洗浄器によるノズル外面の洗浄の受け口として用いてよい。換言すると、免疫測定用の各試薬の分注のステップにおいて、ノズルを免疫測定用洗浄チャンバの直上に移動させ、そこでノズル洗浄器が作動するようにしてもよい。
免疫測定用洗浄チャンバを用いた前記のような構成によって、チャンバ廃液動作の並行動作化や、キャリッジ移動距離短縮による、動作時間の短縮の利点がある。
【0037】
〔検体洗浄用チャンバ〕
本発明の好ましい態様では、
図1に示すように、検体洗浄用チャンバBがさらに設けられる。該検体洗浄用チャンバは、血球計数測定のための分注を行い血液が付着している可能性のある状態となっているノズルを洗浄するための専用のチャンバである。
検体洗浄用チャンバの形状寸法、材料は、上記した免疫測定用洗浄チャンバと同様であってよい。検体洗浄用チャンバの下端部にも、
図1に破線で示すように、排出管が接続され、廃液が電磁弁装置12およびポンプPを通じて廃液容器18に送られる構成となっている。
【0038】
図1に示すように、免疫測定用洗浄チャンバと検体洗浄用チャンバとを使い分け、血液が付着している可能性のない状態のノズルは免疫測定用洗浄チャンバで洗浄し、血液が付着している可能性のある状態のノズルは検体洗浄用チャンバで洗浄することで、検体間のコンタミナーションがより高度に防止され、また、並行動作化による1検体当たりの処理時間の短縮といった利点も得られる。
【0039】
図2は、
図1に示した免疫測定用洗浄チャンバAおよび検体洗浄用チャンバBを用いたノズルの洗浄の順序動作の一例を示したフローチャートである。
当該装置の各部の動作は、制御部(コンピュータ)の予め定められた命令に応じて、プローブユニットがノズルを水平・垂直に移動させ、電磁弁部が吸引と吐出を行う動作である。以下の説明では、ノズルの挙動については、重要な動きの場合を除いて、〔ある位置から上方に移動し、水平に移動し、下方に移動して次の位置に到達する〕などといった細かい動きの描写は省略し、単に〔ある位置から次の位置へと移動する〕と表現する。
【0040】
先ず、ユーザーによるスタートスイッチの入力操作によって、処理ステップが開始されると、ノズルはステップs1の動作を開始する。スタートスイッチの入力操作は、押しボタンの押し込みや他のコンピュータとの通信による遠隔操作など、どのような態様であってもよく、例えば、
図3における検体容器セット部Cのフタを閉じる操作がスタートスイッチONを兼ねていてもよい。
【0041】
(ステップs1)
先ず、ホームポジションにあったノズル36が、CRP測定のために動作し、R1試薬容器20に移動し、R1試薬を吸引する。
該吸引の後、該ノズルは免疫測定用洗浄チャンバA上へと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される(ノズルは洗浄のために上下する)。
次に、ノズルは検体容器4に移動し、CRP測定のために、検体容器4内の検体(全血)を吸引する。
次に、ノズルは、検体洗浄用チャンバBへと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される(ノズルは洗浄のために上下する)。
次に、ノズルは、CRPセルへと移動し、吸引した検体とR1試薬とをCRPセルに吐出する。その後、
図1に好ましい態様として例示した定注器(CRPシリンジ)19dにて、CRPセル内の液を、引き込み、押し出し、引き込むというように往復させて、攪拌する。
次に、ノズルは、検体洗浄用チャンバBへと移動し、その内面および外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
【0042】
(ステップs2)
ノズルは、検体容器4に移動し、血球計数測定のために、検体容器4内の検体(全血)を吸引する。
次に、ノズルは、検体洗浄用チャンバBへと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
次に、ノズルは、WBCセル27dへと移動し、吸引した検体を該セル内に分注する。同時に該セルの側面部に接続された配管(図示せず)から希釈液を該セル内に注入し、該セルの下部に接続された配管(図示せず)から、ポンプ(図示せず)にて空気を吐出して該セル内を攪拌する。
次に、ノズルは、BASOセル27aへと移動し、吸引した検体を該セル内に分注する。同時に該セルの側面部に接続された配管(図示せず)から好塩基球溶血剤を該セル内に注入し、該セルの下部に接続された配管(図示せず)から、ポンプ(図示せず)にて空気を吐出して該セル内を攪拌する。
次に、ノズルは、LMNEセル27bへと移動し、吸引した検体を該セル内に分注する。同時に該セルの側面部に接続された配管(図示せず)から好酸球測定試薬を該セル内に注入し、該セルの下部に接続された配管(図示せず)から、ポンプ(図示せず)にて空気を吐出して該セル内を攪拌する。
次に、ノズルは、検体洗浄用チャンバBへと移動し、その内面および外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
【0043】
上記ステップs2においてWBCセル27d内で希釈された検体液の一部をRBCセル27cへ移送し、該RBCセルに接続された配管(図示せず)から希釈液を該セルに注入し、上記と同様、空気を吐出して該セル内を攪拌して希釈を完了する。その後、WBCセルにヘモグロビン溶血試薬を注入し、上記と同様、空気を吐出して該セル内を攪拌し、検体を溶血する。また、LMNEセルに接続された配管(図示せず)から希釈液を該セルに注入し、上記と同様、空気を吐出して該セル内を攪拌し、希釈を完了する。
【0044】
(ステップs21)
BASOセル27aでは、下部に設けられた電気抵抗法を行う装置を検体液が通過し、好塩基球の計数が行なわれる。
LMNEセル27bでは、下部に設けられた集光型フローインピーダンス法を行う装置を検体液が通過し、リンパ球(L)、単球(M)、好中球(N)、好酸球(E)の各容積と吸光度が測定される。測定されたデータは、制御部に送られ、LMNEマトリックスなどによる4分類のための計数処理が行われる。
RBCセル27cでは、下部に設けられた電気抵抗法を行う装置を検体液が通過し、各赤血球や血小板数の数および容積が測定される。
WBCセル27dでは、比色法(ノンシアン法)による吸光度の測定を行うための光学装置により、ヘモグロビン濃度が測定される。また、下部に設けられた電気抵抗法を行なう装置を検体が通過し、白血球の数が測定される。測定されたデータは、制御部に送られ、度数分布の処理が行われる。
【0045】
(ステップs22)
BASOセル27aにおける測定の後処理のために、ノズルは該BASOセルに移動し、ノズル洗浄器から希釈液が該セル内に注入される。
【0046】
(ステップs3)
ステップs21での処理と並行して、ノズルは、CRP測定のためにR2試薬容器に移動し、R2試薬を吸引する。
次に、ノズルは、免疫測定用洗浄チャンバA上へと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
次に、ノズルは、CRPセルへと移動し、吸引したR2試薬をCRPセルに吐出する。
次に、ノズルは、免疫測定用洗浄チャンバA上へと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
【0047】
(ステップs4)
次に、ノズルは、CRP測定のためにR3試薬容器に移動し、R3試薬を吸引する。
次に、ノズルは、免疫測定用洗浄チャンバA上へと移動し、その外面がノズル洗浄器によって洗浄される。
次に、ノズルは、CRPセルへと移動し、吸引したR3試薬をCRPセルに吐出する。
次に、ノズルは、下記ステップs31における自体の洗浄のために、免疫測定用洗浄チャンバA上へと移動する。
【0048】
(ステップs5)
CRPセルでのCRP測定が開始される。測定終了までの処理時間は、約60秒である。
【0049】
(ステップs31)
CRPセルでのCRP測定が開始されると、ノズルは免疫測定用洗浄チャンバAの内部へと移動し、希釈液で該ノズルの内面および外面が十分に洗浄される。ここでは、希釈液を免疫測定用洗浄チャンバAに吐出し吸引し吐出するというように希釈液の往復を行い、必要に応じて該希釈液を廃棄し再度希釈液の往復が繰り返される。
【0050】
(ステップs6)〜(ステップs7)〜処理ステップの終了
ノズルの最終洗浄が終了し、かつ、ステップs6におけるCRP測定が終了すると、ノズルはCRPセルに移動し、ステップs7として、CRPセル内に洗浄液が注入され1〜2秒程度、洗浄液をCRPセル内面に接触させた後、希釈液ですすぎ洗いし、処理ステップが完了する。
尚、CRPセル内面に洗浄液を接触させる目的は、CRPセルの内面に堆積するラテックス粒子を除去するために測定を停止して行なわれる定期洗浄(1回の洗浄に6分間程度を要する)の間隔をより長くするための効果的な処理である。
【0051】
以上、
図2のフローチャートに沿って説明を行ったとおり、本発明では、免疫測定用洗浄チャンバが新たに設けられ、さらには検体洗浄用チャンバが設けられ、これらが血液の付着の有無に応じて完全に使い分けられるように制御されている。よって、免疫測定用洗浄チャンバには血液の混入の可能性が十分に小さくなっている。また、免疫測定用洗浄チャンバ内での十分な時間をかけたノズルの最終洗浄が、全処理ステップに影響しないようになっている。