特許第5789672号(P5789672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5789672FT図作成支援装置及びFT図作成支援方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5789672
(24)【登録日】2015年8月7日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】FT図作成支援装置及びFT図作成支援方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20150917BHJP
【FI】
   G05B23/02 302Y
   G05B23/02 T
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-539571(P2013-539571)
(86)(22)【出願日】2012年9月7日
(86)【国際出願番号】JP2012072917
(87)【国際公開番号】WO2013058028
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2014年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2011-229597(P2011-229597)
(32)【優先日】2011年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】平岡 洋二
(72)【発明者】
【氏名】村上 存
【審査官】 川東 孝至
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−123110(JP,A)
【文献】 特開平11−184875(JP,A)
【文献】 特開平05−143570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FT図作成支援装置であって、
事象をハードの故障とシステム又は制御系の故障とのいずれかに分類する事象分類部と、
前記事象がハードの故障に分類された場合に、作業者からの入力に基づき前記事象を下位事象に展開し、前記事象及び前記下位事象の物理量を取得し、前記事象の物理量と前記下位事象の物理量との関係に基づき前記事象の展開が正しく行われたか検証する展開結果検証部と、
前記事象がシステム又は制御系の故障に分類された場合に、作業者からの入力に基づき前記システム又は制御系のブロック図を作成し、前記システム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記事象を下位事象に展開する事象展開部と、
を備えたFT図作成支援装置。
【請求項2】
FT図作成支援装置であって、
作業者からの入力に基づき故障事象に関連するシステムのブロック図を作成し、当該ブロック図の入出力関係に基づき前記故障事象を下位事象に展開する第1事象展開部と、
前記下位事象のうちさらに下位の事象に展開可能な事象を展開可能事象とし、当該展開可能事象をハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれかに分類する事象分類部と、
前記展開可能事象がハードの故障に分類された場合に、作業者からの入力に基づき前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開し、前記展開可能事象及び前記さらに下位の事象の物理量を取得し、前記展開可能事象の物理量と前記さらに下位の事象の物理量との関係に基づき前記展開可能事象の展開が正しく行われたか検証する展開結果検証部と、
前記展開可能事象がサブシステム又は制御系の故障に分類された場合に、作業者からの入力に基づき前記サブシステム又は制御系のブロック図を作成し、前記サブシステム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開する第2事象展開部と、
を備えたFT図作成支援装置。
【請求項3】
コンピュータを用いてFT図の作成を支援するFT図作成支援方法であって、
前記コンピュータを用いて、事象をハードの故障とシステム又は制御系の故障とのいずれかに分類することと、
前記事象がハードの故障に分類された場合に、前記コンピュータを用いて、作業者からの入力に基づき前記事象を下位事象に展開し、前記事象及び前記下位事象の物理量を取得し、前記事象の物理量と前記下位事象の物理量との関係に基づき前記事象の展開が正しく行われたか検証することと、
前記事象がシステム又は制御系の故障に分類された場合に、前記コンピュータを用いて、作業者からの入力に基づき前記システム又は制御系のブロック図を作成し、前記システム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記事象を下位事象に展開することと、
を含むFT図作成支援方法。
【請求項4】
コンピュータを用いてFT図の作成を支援するFT図作成支援方法であって、
前記コンピュータを用いて、故障事象に関連するシステムのブロック図を作成し、当該ブロック図の入出力関係に基づき前記故障事象を下位事象に展開することと、
前記下位事象のうちさらに下位の事象に展開可能な事象を展開可能事象とし、前記コンピュータを用いて、当該展開可能事象をハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれかに分類することと、
前記展開可能事象がハードの故障に分類された場合に、前記コンピュータを用いて、作業者からの入力に基づき前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開し、前記展開可能事象及び前記さらに下位の事象の物理量を取得し、前記展開可能事象の物理量と前記さらに下位の事象の物理量との関係に基づき前記展開可能事象の展開が正しく行われたか検証することと、
前記展開可能事象がサブシステム又は制御系の故障に分類された場合に、前記コンピュータを用いて、作業者からの入力に基づき前記サブシステム又は制御系のブロック図を作成し、前記サブシステム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開することと、
含むFT図作成支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置、システム等の不具合の発生原因を解析し、その信頼性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
故障木解析(Fault Tree Analysis、FTA)は、故障事象をその原因となる下位事象の論理和(OR)又は論理積(AND)に展開してツリー構造(以下、「FT図」という。)とし、下位事象の中から重大な原因を抽出し、故障発生を防ぐために設計の見直しを図るという手法である。FT図の作成には、その分野の幅広い知識、高い専門性が要求されるため、FT図の作成を支援する技術が求められている(JP2009−289020A)。
【0003】
図15は、FT図の例である。この例は、「ベルト車による伝動の損失が大きい」という故障事象を解析したものである。この故障事象は、「すべり量が大きい」場合又は「摩擦力が大きい」場合に発生するので、「すべり量が大きい」及び「摩擦力が大きい」が故障事象の下位事象となり、それらの関係は論理和となる。
【0004】
そして、「摩擦力が大きい」という事象は、「抗力が大きい」場合又は「摩擦係数が大きい」場合に発生するので、「抗力が大きい」及び「摩擦係数が大きい」が「摩擦力が大きい」の下位事象となり、それらの関係は論理和となる。そして、「抗力が大きい」という事象は「ベルト張力が大きい」場合に発生するので、「ベルト張力が大きい」が「抗力が大きい」の下位事象となる。
【0005】
これら事象のうち、さらに下位の事象に展開することができない「すべり量が大きい」、「ベルト張力が大きい」及び「摩擦係数が大きい」という事象は、基本事象と呼ばれ、故障事象の発生を防ぐためには、これら基本事象についての対策を検討すればよい。
【0006】
なお、この例では、上位事象と下位事象とは線で接続されるだけで、同列の下位事象が論理和及び論理積のいずれであるかは記述されていない。これは、同列の下位事象は多くの場合が論理和であるので、論理和の場合は上位事象と下位事象との間及び同列の下位事象の間を線で接続するのみとし、論理積である場合は上位事象と下位事象とを接続する線の脇に論理積であることを示す「AND」を記述するようにしているからである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、少ない作業負担で精度の高いFT図を作成できるようにすることである。
【0008】
ある態様では、事象をハードの故障とシステム(サブシステム含む)又は制御系の故障とのいずれかに分類し、前記事象がハードの故障に分類された場合に、前記事象を下位事象に展開し、前記事象及び前記下位事象の物理量を取得し、前記事象の物理量と前記下位事象の物理量との関係に基づき前記事象の展開が正しく行われたか検証し、前記事象がシステム又は制御系の故障に分類された場合に、前記システム又は制御系のブロック図を作成し、前記システム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記事象を下位事象に展開することによってFT図の作成を支援する。
【0009】
別の態様では、故障事象に関連するシステムのブロック図を作成し、当該ブロック図の入出力関係に基づき前記故障事象を下位事象に展開し、前記下位事象のうちさらに下位の事象に展開可能な事象を展開可能事象とし、当該展開可能事象をハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれかに分類し、前記展開可能事象がハードの故障に分類された場合に、前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開し、前記展開可能事象及び前記さらに下位の事象の物理量を取得し、前記展開可能事象の物理量と前記さらに下位の事象の物理量との関係に基づき前記展開可能事象の展開が正しく行われたか検証し、前記展開可能事象がサブシステム又は制御系の故障に分類された場合に、前記サブシステム又は制御系のブロック図を作成し、前記サブシステム又は制御系のブロック図の入出力関係に基づき前記展開可能事象をさらに下位の事象に展開することによってFT図の作成を支援する。
【0010】
これらの態様によれば、少ない作業負担で精度の高いFT図を作成することができる。
【0011】
本発明の実施形態及び本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、FT図作成支援装置の全体構成図である。
図2図2は、FT図の作成手順を示したフローチャートである。
図3図3は、ブロック図の入出力関係に基づきある事象を下位事象に展開する手順を示したフローチャートである。
図4図4は、「変速ショック大」に関連するシステムのブロック図である。
図5図5は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図6図6は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図7図7は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図8図8は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図9図9は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図10図10は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図11図11は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図12図12は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図13図13は、FT図の作成手順を説明するための図である。
図14図14は、完成したFT図である。
図15図15は、FT図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係るFT図作成支援装置100の全体構成を示している。FT図作成支援装置100は、表示部1と、処理部2と、操作部3とを備える。
【0014】
処理部2は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM等で構成される。マイクロプロセッサは、ROM又は後述する記憶部4に記憶されているプログラムをRAMに読み込んで実行することによって、事象展開機能21、事象分類機能22、編集機能23、展開結果検証機能24及びブロック図作成機能25を実現する。
【0015】
なお、FT図は、処理部2の内部では、事象間の関係(ツリー構造)、各事象の内容及び物理量等を記述したXMLデータで表現され、表示部1にはFT図とともに、当該FT図に対応するXMLデータも併せて表示される。
【0016】
事象展開機能21は、ある事象(システム、サブシステム又は制御系の故障)に関連する部位のブロック図の入出力関係に基づき、当該事象を下位事象に自動的に展開する機能である。この機能を実現するための処理の詳細については後述する。
【0017】
事象分類機能22は、ある事象が、ハードの故障なのかシステム(サブシステム含む)又は制御系の故障なのか分類する機能である。分類は、作業者が、当該事象がいずれの故障であるかを操作部3を介して入力し、その入力結果に基づき行われる。
【0018】
編集機能23は、操作部3からの入力に基づき、表示部1上でFT図の編集を行う機能である。具体的な機能としては、事象の追加、事象の移動、事象のコピー&ペースト、事象の削除、事象の内容の追加・修正、各事象の物理量の追加・修正等である。表示部1上での編集内容は、FT図を表現するXMLデータに直ちに反映される。
【0019】
ブロック図作成機能25は、操作部3からの入力に基づき、表示部1上でブロック図を作成する機能である。具体的な機能としては、ブロックの追加、ブロックの移動、ブロックのコピー&ペースト、ブロックの削除、ブロックの内容の追加・修正、ブロックの入出力関係の追加・修正等である。
【0020】
操作部3は、キーボード、マウス等の入力装置である。操作部3は、作業者からの各種操作を受け付ける。
【0021】
<FT図の作成手順>
図2は、FT図の作成手順を示したフローチャートである。これを参照しながらFT図の具体的な作成手順について説明する。なお、本実施形態では、手順の内容を理解しやすくするために、自動変速機(以下、「AT」という。)の「変速ショック大」という故障事象を解析する場合を具体例として挙げながら説明する。
【0022】
S1では、故障事象が特定される。故障事象の特定は、作業者が操作部3を操作し、処理部2の編集機能23を利用して表示部1上に故障事象を新規に作成することで行われる。具体例では、作業者が「変速ショック大」という事象を表示部1上に作成すると、これが故障事象として特定される。
【0023】
S2では、故障事象に対応するシステムのブロック図が作成される。ブロック図は、処理部2のブロック図作成機能25を利用し、作業者が操作部3を操作することによって表示部1上で作成する。
【0024】
図4は、具体例で作成されるブロック図である。変速ショックに関連する部位は「車両」、「AT」、「エンジン」であり、エンジンの出力トルクがATに入力され、ATの出力トルクが車両に入力され、その結果、車両から変速ショックが出力されるというブロック図が作成される。
【0025】
図2に戻り、S3では、故障事象が下位事象に展開される。下位事象への展開はS2で作成されたブロック図の入出力関係に基づき、図3に示す手順に従い、処理部2の事象展開機能21を利用して自動的に行われる。
【0026】
図3を参照しながら故障事象が下位事象に展開される手順について説明する。
【0027】
まず、S21で、処理部2は、ブロック図の最下流側からスタートし、上流側にブロックがあるか判断する。上流側にブロックがある場合は、処理がS22に進み、そうでない場合は処理が終了する。
【0028】
S22では、処理部2は、最下流側のブロックを解析対象ブロックとして設定する。図4に示した具体例では、「車両」というブロックが最下流にあるので、当該ブロックが解析対象ブロックとして設定される。
【0029】
S23では、処理部2は、「解析対象ブロックの異常」を下位事象として追加する。具体例では、「車両異常」が、「変速ショック大」の下位事象として追加される(図5の51)。
【0030】
S24では、処理部2は、解析対象ブロックへの入力があるか判断する。解析対象ブロックへの入力がある場合は処理がS25に進み、そうでない場合は処理が終了する。
【0031】
S25では、処理部2は、「解析対象ブロックへの入力異常」をS23で追加した事象と同列になるように追加する。
【0032】
図4に示した具体例では「車両」に「AT」からトルクが入力されるので、S23で追加した「車両異常」と同列になるように「車両への入力トルク大」が「変速ショック大」の下位事象として追加される(図5の52)。
【0033】
S26では、処理部2は、解析対象ブロックへの入力が他のブロックの出力と同じか判断する。解析対象ブロックへの入力が他のブロックの出力と同じである場合は、処理がS27に進み、そうでない場合は処理が終了する。
【0034】
図4に示した具体例では、解析対象ブロックである「車両」への入力が「AT」の出力と同じであるので、処理がS27に進む。
【0035】
S27では、処理部2は、「他のブロックの出力異常」をS25で追加した事象の下位に追加する。
【0036】
図4に示した具体例では、S25で追加された「車両への入力トルク大」の下位に「ATの出力トルク大」が追加される(図5の53)。
【0037】
その後、処理はS21に戻り、解析対象ブロックのさらに上流側にブロックがあるか判断され(S21)、さらに上流側のブロックが存在する場合はS22以降の処理が繰り返される。
【0038】
以上の処理によって故障事象が下位事象に展開され、図4に示した具体例であれば、各ブロックの入出力関係に基づき、故障事象である「変速ショック大」が図5に示す状態まで自動的に展開される。
【0039】
図2に戻り、FT図の作成手順について説明を続ける。
【0040】
S4では、S3での展開結果の内容の修正が行われる。ここでは、S3の展開結果が完全でない場合に、作業者が操作部3を操作して修正したい下位事象を選択し、編集機能23を用いてその内容を適宜修正する。
【0041】
図6は、修正後の展開結果を示している。破線で囲んだ部分が修正箇所であり、図5の「車両異常」、「ATの異常」が、それぞれ「車両の減衰率小(伝達率大)」、「ATのトルク伝達容量大」に修正されている。
【0042】
S5では、さらに下位の事象に展開することのできる事象(基本事象ではない下位事象のこと。以下、「展開可能事象」という。)を特定する。特定は、作業者が操作部3を操作することによって、過去の知見や類似事象の展開例に基づき展開可能と判断した事象を下位事象の中から選択することによって行われる。
【0043】
なお、ここでは展開可能事象の特定を作業者が操作部3を操作することによって行っているが、展開可能事象のリストを記憶部4に記憶しておき、これとの照合結果に基づき展開可能事象を自動的に特定するようにしてもよい。
【0044】
図6に示した具体例では、「ATのトルク伝達容量大」が展開可能事象として特定される。
【0045】
次に、S6では、展開可能事象があるかが判断される。この判断は、ある事象がS5で展開可能事象として特定されたかに基づき行われる。展開可能事象がない場合は、S3での展開、S4での展開結果の修正、又は、後述するS7以降の処理によって、FT図が完成しているので、処理が終了する。そうでない場合は、処理がS7に進む。
【0046】
S7では、処理部2が、展開可能事象が、ハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれであるかを判断する。この判断は、例えば、表示部1上に選択画面が表示され、作業者が操作部3を介してハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれかを選択し、その選択結果に基づき行われる。
【0047】
このような判断を行うのは、展開可能事象がハードの故障である場合とサブシステム又は制御系の故障である場合とで展開可能事象の展開手順が異なるからである。展開可能事象がハードの故障であると判断された場合は処理がS8に進み、展開可能事象がサブシステム又は制御系の故障であると判断された場合は処理がS10に進む。
【0048】
なお、ここでは展開可能事象の分類を操作部3からの入力に基づき行っているが、様々な事象についてそれがハードの故障とサブシステム又は制御系の故障とのいずれであるかを記述したテーブルを記憶部4に記憶しておき、これを参照することで、処理部2が展開可能事象の分類を自動的に行うようにしてもよい。
【0049】
図6に示した具体例では、「ATのトルク伝達容量大」はハードの故障であるので、処理がS8に進む。
【0050】
S8、S9では、ハードの故障に適した展開方法で展開可能事象をさらに下位の事象に展開する。
【0051】
まず、S8では、作業者が操作部3を操作することによって表示部1上で展開可能事象を展開する。この展開は、作業者が操作部3を操作し、処理部2の編集機能23を利用して展開可能事象の下位の事象(事象の内容及びその物理量)を追加することで行われる。
【0052】
図7は、図6の「ATのトルク伝達容量大」をさらに下位の事象に展開した状態を示している。破線で囲んだ部分が展開された部分である。
【0053】
S9では、処理部2が、S8での展開可能事象の展開が正しく行われたか判断する。この判断は、展開可能事象の物理量とその下位の事象の物理量との関係に基づき、処理部2の展開結果検証機能24を用いて行われる。具体的には、処理部2は、以下のいずれかが成立しているか判断し、いずれかが成立している場合に展開可能事象の展開が正しく行われたと判断する(物理量次元インデキシング法)。
・展開可能事象の物理量の単位がその下位の事象の物理量の単位の加減算で表現できる。すなわち、展開可能事象の物理量とその下位の事象の物理量とが同じ単位である。
・展開可能事象の物理量の単位がその下位の事象の物理量の単位の乗除又はべき乗算で表現できる。すなわち、展開可能事象の物理量の単位がその下位の事象の物理量の単位を用いて表現できる。
【0054】
図8は、S8で展開された部分の各事象の物理量を示している。展開可能事象である「ATのトルク伝達容量大」の物理量はNm/sであり、その下位事象の「クラッチ容量大」、「クラッチ作動時間小」、「クラッチ圧作動時間小」の物理量はそれぞれNm、s、sである。この例では、展開可能事象の物理量がその下位の事象の物理量の除算で表現することができるので(Nm/s=Nm÷s)、この場合は展開が正しく行われたと判断される。
【0055】
展開可能事象の展開が正しく行われている場合は処理がS5に戻り、別の展開可能事象を特定し、S6以降の処理を再び実行する。そうでない場合は処理がS8に戻り、展開可能事象から展開された事象の修正が行われる。
【0056】
図8の具体例では、展開の結果追加された「クラッチ圧作動時間小」が展開可能事象として特定され、S6以降の処理が再び実施される。
【0057】
S10〜S12では、処理部2は、サブシステム又は制御系の故障に適した展開方法で展開可能事象をさらに下位の事象に展開する。
【0058】
S10では、サブシステム又は制御系のブロック図が作成される。ブロック図は、処理部2のブロック図作成機能25を利用して、作業者が操作部3を操作することによって表示部1上で作成される。
【0059】
具体例では、図8の「クラッチ圧作動時間小」が展開可能事象かつサブシステムの故障であるので、処理がS10に進み、当該サブシステムのブロック図が作成される。
【0060】
図9は、作成されたブロック図である。サブシステムは「ソレノイド付きコントロールバルブ」と「ATCU」とで構成され、「ATCU」から「ソレノイド付きコントロールバルブ」には指令電流が入力される。
【0061】
S11では、処理部2は、展開可能事象をさらに下位の事象に展開する。展開可能事象の展開の手順は図3に示した手順と同じであり、S10で作成されたブロック図の入出力関係に基づき処理部2の事象展開機能21を利用して自動的に行われる。
【0062】
図10は、展開可能事象である「クラッチ圧作動時間小」が展開され、その下位に「SOL指令電流大」が追加された状態を示している。
【0063】
S12では、S11での展開結果の修正が行われる。具体的には、作業者が操作部3を操作して下位事象の中から内容を修正したい下位事象を選択し、処理部2の編集機能23を利用してその内容を書き換えることで行われる。
【0064】
図10に示した具体例では、「クラッチ圧作動時間小」の展開が正しくなされているので、S12では特に修正は行われない。
【0065】
その後、処理がS5に戻り、別の展開可能事象の特定が行われ、S6以降の処理が再び行われる。
【0066】
図10に示した例では、「SOL指令電流大」が展開可能事象、かつ、制御系の故障であるので、S10で再びこれに対応するブロック図が作成され(図11)、このブロック図の入出力関係に基づき「SOL指令電流大」がさらに下位の事象に展開され(図12)、展開結果の修正が行われる(図13、破線で囲んだ部分)。なお、図12図13は「クラッチ圧作動時間小」よりも下位の事象のみを示している。
【0067】
本実施形態によれば、上記手順によって故障事象のFT図が作成される。
【0068】
図14は、上記手順によって作成された「変速ショック大」という故障事象のFT図である。図中枠A、B、Cで囲んだ部分はシステム、サブシステム又は制御系の故障であるので、作業者が作成したブロック図の入出力関係から事象を下位事象に自動的に展開し、それを作業者が適宜修正するという手順(S2〜S4、S10〜S12)で作成される。
【0069】
図中Dで囲んだ部分はハードの故障であるので、作業者が展開した結果を展開可能事象の物理量とその下位の事象の物理量との関係を用いて展開が正しく行われたか検証するという手順(S8、S9)で作成される。
【0070】
このように、本実施形態では、事象の種類に応じて下位事象への展開手順を異ならせており、これによって、少ない作業負担でかつ高い精度でFT図を作成することができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0072】
本願は日本国特許庁に2011年10月19日に出願された特願2011−229597号に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15