【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0050】
実施例1
撹拌機、温度計、及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコに、下記式[18]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン100g(0.192mol)と、トルエン114gを仕込んだ後、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)1.00gを撹拌しながら添加した。次に、80℃まで昇温し、ビニルトリメトキシシラン56.7g(0.383mol)を滴下添加した後、2時間の熟成を行った。
【化32】
【0051】
ここで、上記反応に使用したビニルトリメトキシシランの反応率について、次のようにして測定を行った。まず、次の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量をそれぞれ測定した。反応前後のサンプル1gへ、それぞれ、ブタノール10gを加え、更に、撹拌を加えながら、20質量%NaOH水溶液を20g加えた。この時に発生する水素ガス(≡SiH+H
2O→≡SiOH+H
2↑)の量から、≡SiHの含有量をそれぞれ算出した。
【0052】
次に、下式により、サンプル1g中において、実際に反応したビニルトリメトキシシランの量を算出した。表1に、その結果を示す。
反応量(mol)=
[反応前の≡SiH含有量(mol)]−[反応後の≡SiH含有量(mol)]
【0053】
【表1】
【0054】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだビニルトリメトキシシランが1.41×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量から、下記のようにして、ビニルトリメトキシシランの反応率を計算すると99.3%となる。
反応率=[1.40×10
-3(mol)/1.41×10
-3(mol)]×100
=99.3(%)
以上のことから、ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだビニルトリメトキシシランの99%以上が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応したことを確認した。
【0055】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に含有する残りの≡SiH基へ、アリル無水コハク酸を反応させるための操作を行った。上記で得られた反応液へ、撹拌下、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)3.00gを添加し、温度を100℃まで昇温した。次に、アリル無水コハク酸120g(0.857mol)を滴下添加した後、更に110℃で10時間の熟成を行った。
【0056】
ここで、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表2に、その結果を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiHは、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が2.17×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリル無水コハク酸の反応率を計算すると、87.6%となる。
反応率=[1.90×10
-3(mol)/2.17×10
-3(mol)]×100
=87.6(%)
原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約88%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約12%が余剰分として残留した。
【0059】
最後に、僅かに残留したアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、125℃で7時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、温度を室温まで冷却し、圧力を常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、246gの生成物−1を得た。
【0060】
ここで、生成物−1に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0061】
次に、生成物−1に関し、赤外分光法(FTIR)によって、酸無水物基の帰属を行った。その結果、1,863cm
-1、1,785cm
-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm
-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−1は、完全非水系で製造を行うため、製造段階において、活性水素含有化合物(例:水やアルコール等)が混入することがなく、無水コハク酸基の開環が十分に抑制されている。
【0062】
次に、生成物−1の構造解析を行うため、
29Si−NMR測定を実施した。その結果、まず、7.2ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化33】
また、−22ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化34】
(式中、Aは、下記のいずれかの基を示す。)
【化35】
また、−42ppm付近に、下記に示す基の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化36】
上記の結果より、生成物−1は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定される。
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メチルハイドロジェンシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、無水コハク酸基の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0063】
実施例2
実施例1と同様にして、上記式[18]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン100g(0.192mol)と、トルエン114gを仕込んだ後、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)1.00gを撹拌しながら添加した。次に、80℃まで昇温し、ビニルトリメトキシシラン56.7g(0.383mol)を滴下添加した後、2時間の熟成を行った。
【0064】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留する≡SiH基の一部へ、アリルポリエーテルを反応させるための操作を行った。反応液を80℃に維持した状態で、撹拌下、次式で示されるアリルポリエーテル23.0g(0.0962mol)を滴下添加し、更に3時間の熟成を行った。
CH
2=CH−CH
2−O(CH
2CH
2O)
3.8CH
3
【0065】
ここで、アリルポリエーテルの反応率を測定した。実施例1と同様にして、反応前後における反応液1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリルポリエーテルの量を算出した。表3に、その結果を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリルポリエーテルが0.326×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリルポリエーテルの反応率を計算すると、98.2%となる。
反応率=[0.320×10
-3(mol)/0.326×10
-3(mol)]×100
≒98.2(%)
ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだCH
2=CH−CH
2−O(CH
2CH
2O)
3.8CH
3の約98%がメチルハイドロジェンシロキサンへ導入され、約2%が未反応物として残留することを確認した。
【0068】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に含有する残りの≡SiH基へ、アリル無水コハク酸を反応させるための操作を行った。反応液の温度を100℃まで昇温し、撹拌下、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)3.00gを添加し、更にアリル無水コハク酸120g(0.857mol)を滴下添加した後、110℃で10時間の熟成を行った。
ここで、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表4に、その結果を示す。
【0069】
【表4】
【0070】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、アリルポリエーテルと反応した後、メトキシ基含有メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiH基は、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前の反応液1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が2.05×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにして、アリル無水コハク酸の反応率を計算すると77.1%となる。
反応率=[1.58×10
-3(mol)/2.05×10
-3(mol)]×100
≒77.1(%)
以上のことから、原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約77%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約23%が余剰分として残留したことを確認した。
【0071】
最後に、余剰のアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、110℃で10時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、室温まで冷却し、常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、240gの生成物−2を得た。
ここで、生成物−2に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に出現する原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0072】
次に、生成物−2に関し、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、1,863cm
-1、1,785cm
-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm
-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−2は、製造段階において、酸無水物基の開環が十分に抑制されている。
【0073】
次に、生成物−2の構造解析を行うため、
29Si−NMR測定を実施した。その結果、まず、7.2ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化37】
また、−22ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化38】
(式中、Bは、下記のいずれかの構造を示す。)
【化39】
また、−42ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化40】
【0074】
上記の結果より、生成物−2は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、ポリエーテル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定される。
【0075】
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メトキシシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、ポリエーテル基、及び酸無水物基(無水コハク酸基)の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0076】
実施例3
実施例2において、CH
2=CH−CH
2−O(CH
2CH
2O)
3.8CH
3で示される化合物の添加量を23.0g(0.0962mol)から46.0g(0.192mol)へ変更し、またアリル無水コハク酸の添加量を120g(0.857mol)から90.5g(0.646mol)へ変更したこと以外は、同様の操作を行った。
まず、アリルポリエーテルの反応率を測定した。実施例1,2と同様にして、反応前後における反応液1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリルポリエーテルの量を算出した。表5に、その結果を示す。
【0077】
【表5】
【0078】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリルポリエーテルが0.605×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリルポリエーテルの反応率を計算すると、95.9%となる。
反応率=[0.580×10
-3(mol)/0.605×10
-3(mol)]×100
≒95.9(%)
以上のことから、ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだCH
2=CH−CH
2−O(CH
2CH
2O)
3.8CH
3の約96%がメチルハイドロジェンシロキサンへ導入され、約4%が未反応物として残留することを確認した。
【0079】
次に、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表6に、その結果を示す。
【0080】
【表6】
【0081】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiHは、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が1.57×10
-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリル無水コハク酸の反応率を計算すると、88.5%となる。
反応率=[1.39×10
-3(mol)/1.57×10
-3(mol)]×100
=88.5(%)
原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約89%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約11%が余剰分として残留した。
【0082】
最後に、余剰のアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、110℃で10時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、室温まで冷却し、常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、197gの生成物−3を得た。
ここで、生成物−3に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に出現する原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0083】
次に、生成物−3に関し、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、1,863cm
-1、1,785cm
-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm
-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−3は、製造段階において、無水コハク酸基の開環が十分に抑制されている。
【0084】
次に、生成物−3の構造解析を行うため、
29Si−NMR測定を実施した。その結果、実施例2と同様のピークが確認されたことから、生成物−3は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、ポリエーテル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定された。
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メトキシシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、ポリエーテル基、及び酸無水物基(無水コハク酸基)の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0085】
【表7】
【0086】
比較例1〜3(無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の製造)
表8に示す配合で、X−12−967とX−12−641の混合物を製造した。
【表8】
【0087】
次に、上記で得られたサンプルについて、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、いずれのサンプルに関しても、1,863cm
-1、1,785cm
-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測され、1,735cm
-1付近に無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。
【0088】
比較例4〜6(無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の加水分解縮合物の製造)
上記比較例1〜3で得られた各サンプルへ、0.1N−塩酸水を添加した。1N−塩酸水の添加量は、各サンプル中のX−12−967とX−12−641の総量に対して、1.3倍molの水が加わる量に調整した。次に、この混合物をジメトキシエタンで10質量%に希釈し、75℃で1時間撹拌し、透明な液体を得た。
次に、上記で得られた各サンプルについて、THF溶媒下でのGPC測定を行い、反応前後における重量平均分子量を算出した。表9に、各サンプルの重量平均分子量に関し、反応前に対する増加率を示す。
【0089】
【表9】
【0090】
次に、各サンプルについて、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、いずれのサンプルに関しても、1,863cm
-1、1,785cm
-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測され、かつ、1,735cm
-1付近に無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。1分子中に含有するメトキシ基及び無水コハク酸基の数を増加させることを目的とし、無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の加水分解縮合を試みたが、製造工程に水を使用するため、いずれのサンプルに関しても、無水コハク酸基の開環反応が併発した。
【0091】
<塗液サンプルの調合、及び硬化皮膜の作製>
上記で得られた実施例1のオルガノシロキサンを、ジメトキシエタン中へ、10質量%溶解した塗液サンプルを作製した。この塗液サンプルを、寸法50mm×100mm×3mmのガラス基板上へフローコートし、室温で20分間自然乾燥後、105℃で60分間加熱処理を行って、ガラス基板上へ硬化皮膜を形成した。実施例2,3、及び比較例1〜3に関しても、上記と同様の操作を行った。なお、比較例4〜6に関しては、すでにジメトキシエタンで10質量%に希釈されているため、そのまま塗液として使用し、ガラス基板上へ硬化皮膜を形成した。
【0092】
<硬化皮膜の評価>
(1)外観、密着性
上記のようにして作製した硬化皮膜付きガラス基板を水、ジメトキシエタンの各液中へ、それぞれ1時間浸漬した後、エアーをあてて乾燥を行い、更に105℃で5分間加熱乾燥した。
まず、ガラス基板上へ形成した硬化皮膜の外観を観察し、下記の基準で評価を行った。
○:無色透明で、均一な硬化皮膜が形成されている。
×:着色(白濁等)や、硬化皮膜表面にムラがある。
次に、硬化皮膜のガラス基板への密着性評価を実施した。密着性評価は、碁盤目密着試験を行った。硬化皮膜上へ25×25マスの切れ目を入れ、セロハンテープを貼付した後に剥がして、基板上に残ったマス目の数を計測した。表10に、外観、密着性の評価結果を示す。
【0093】
【表10】
【0094】
実施例1〜3に関しては、硬化皮膜の外観がよく、またガラス基板への密着性も良好であった。
一方、比較例に関しては、無水コハク酸変性トリメトキシシランとポリエーテル変性トリメトキシシランを混合した比較例2,3において、外観、密着性が共に悪化した。
【0095】
(2)水接触角
上記のようにして作製した硬化皮膜付きガラス基板をジメトキシエタン中へ1時間浸漬した後、エアーをあてて乾燥を行い、更に105℃で5分間加熱乾燥した。次に、得られた硬化皮膜の水接触角を測定した。
図1に、その結果を示す。
実施例1〜3のオルガノシロキサンから形成した硬化皮膜は、比較例1〜6の硬化皮膜と比較して、水接触角が高い。このことから、硬化皮膜の表面において、親水性の低い無水コハク酸基が、高密度に存在すると考えられる。
なお、実施例2,3に関しては、実施例1と比較して、水接触角増加の傾向がみられた。このことから、オルガノシロキサンへ、無水コハク酸基と少量のポリエーテル基を共変性することで、ガラスとの親和性が向上し、密着性が改善された可能性が考えられる。
また、無水コハク酸変性トリメトキシシランとポリエーテル変性トリメトキシシランとの加水分解縮合物である比較例4〜6は、それらを単純混合して得た比較例1〜3と比較して、水接触角増加の傾向がみられた。しかし、比較例4〜6では、加水分解縮合の際、水を使用するため、無水コハク酸基の一部に開環反応が併発している。
【0096】
(3)保存安定性
実施例1で得られたオルガノシロキサンと、これに活性水素含有化合物の捕捉剤として、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルを5質量%添加した組成物について、室温で1ヶ月間保管した。また、実施例3、比較例1,4に関しては、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルを添加せず、室温で1ヶ月間保管した。
保管前後のサンプルについて、IR測定を行い、下記の基準により、保存安定性を評価した。表11に、その結果を示す。
○:1,735cm
-1での吸収(無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基の
カルボニル伸縮振動による吸収)がみられない。
×:1,735cm
-1での吸収がみられる。
【0097】
【表11】
【0098】
実施例1,3に関しては、完全非水系で製造ができるため、製造時における無水コハク酸基の安定性は良好である。なお、実施例1に関しては、経時で、無水コハク酸基の安定性が低下する傾向がみられるが、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルの添加により、安定性の改善がみられる。また、実施例3では、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルの添加なしで、安定性が保たれている。
比較例1に関しては、製造時における無水コハク酸基の安定性は良好である。一方、経時で、無水コハク酸基の安定性が低下する傾向がみられる。また、比較例4では、1分子内に複数の無水コハク酸基をもたせるために、無水コハク酸変性トリメトキシシランの加水分解縮合を行ったが、その際に使用する水の影響で、製造の段階で、無水コハク酸基の一部が開環してしまう。