特許第5790480号(P5790480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5790480酸無水物基含有オルガノシロキサン及びその製造方法
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  • 特許5790480-酸無水物基含有オルガノシロキサン及びその製造方法 図000074
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790480
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】酸無水物基含有オルガノシロキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 77/38 20060101AFI20150917BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20150917BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20150917BHJP
   C08G 77/06 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C08G77/38
   C08K5/5419
   C08L83/06
   C08G77/06
【請求項の数】9
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-278034(P2011-278034)
(22)【出願日】2011年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-129691(P2013-129691A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 正博
(72)【発明者】
【氏名】小野 猪智郎
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−157551(JP,A)
【文献】 特開2010−116324(JP,A)
【文献】 特開2011−068777(JP,A)
【文献】 特開平05−043696(JP,A)
【文献】 特開2011−136962(JP,A)
【文献】 特開平05−339279(JP,A)
【文献】 特開平10−130391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00−77/62
C08L 83/00−83/16
C08K 3/00−13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1a]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基をそれぞれ少なくとも1個有するオルガノシロキサン。
【化1】
(式中、Xは、下記式[2]で表される酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、下記式[3]で表されるポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、下記式[5]で表される加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示す。但し、aが0の場合、M1がXで、cは1≦c≦100の整数であり、cが0の場合、M1がZで、aは1≦a≦100の整数である。)
【化2】
(式中、Aは、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。)
【化3】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。mは、1以上の整数を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化4】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【化5】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。nは、1以上の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【請求項2】
下記式[1b]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基と、ポリエーテル基をそれぞれ少なくとも1個有するオルガノシロキサン。
【化6】
(式中、Xは、酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、ポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示す。但し、aが0の場合、M1がXで、b、cは、それぞれ、1≦b≦100、1≦c≦100の整数である。また、bが0の場合、M1がYで、a、cは、それぞれ、1≦a≦100、1≦c≦100の整数である。また、cが0の場合、M1がZで、a、bは、それぞれ、1≦a≦100、1≦b≦100の整数である。)
【請求項3】
上記式[1b]において、Xが、下記式[2]で表される酸無水物基を有する一価炭化水素基であり、かつYが、下記式[3]で表されるポリエーテル基を有する一価炭化水素基であり、Zが、下記式[5]で表される加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基であることを特徴とする請求項に記載のオルガノシロキサン。
【化7】
(式中、Aは、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。)
【化8】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。mは、1以上の整数を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化9】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【化10】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。nは、1以上の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のオルガノシロキサンと、活性水素含有化合物の捕捉剤として、下記式[6]で表されるα−シリル脂肪族エステル化合物を含有してなることを特徴とするオルガノシロキサン組成物。
【化11】
(式中、R6は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数5〜20のシクロアルキル基、又は炭素原子数6〜20のアリール基を示す。R7は、水素原子又はメチル基を示す。R8は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。R9は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。hは、1〜3の整数を示す。)
【請求項5】
上記式[6]で表されるα−シリル脂肪族エステル化合物が、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチル、又はα−メチルジメトキシシリルプロピオン酸オクチルであることを特徴とする請求項4に記載のオルガノシロキサン組成物。
【請求項6】
白金触媒下、下記式[7]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンへ、下記式[8]で表される脂肪族不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物と、下記式[9]で表される脂肪族不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを特徴とする請求項に記載のオルガノシロキサンの製造方法。
【化12】
(式中、R10は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M2は、水素原子又は上記R10を示す。i、jは、それぞれ、1≦i≦300、0≦j≦100の整数を示す。)
【化13】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。pは、0〜10の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【化14】
(式中、pは、0〜10の整数を示す。
【請求項7】
不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物が、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であり、不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物が、アリル無水コハク酸である請求項6に記載のオルガノシロキサンの製造方法。
【請求項8】
白金触媒下、下記式[7]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンへ、下記式[8]で表される脂肪族不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物と、下記式[9]で表される脂肪族不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物と、下記式[10]で表される脂肪族不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを特徴とする請求項2又は3に記載のオルガノシロキサンの製造方法。
【化15】
(式中、R10は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M2は、水素原子又は上記R10を示す。i、jは、それぞれ、1≦i≦300、0≦j≦100の整数を示す。)
【化16】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。pは、0〜10の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【化17】
(式中、pは、0〜10の整数を示す。)
【化18】
(式中、pは、0〜10の整数を示す、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化19】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【請求項9】
不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物が、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であり、不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物が、アリル無水コハク酸であり、不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物が、下記式[11]で表されるアリルポリエーテルである請求項8に記載のオルガノシロキサンの製造方法。
【化20】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化21】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂硬化剤、樹脂改質剤、塗料改質剤、接着性改良剤、繊維の表面処理剤、無機質材料(塗料用無機顔料、プラスチック用無機充填剤、化粧料用無機粉体、ガラス、コンクリート等)の表面処理剤等として、好適に使用される酸無水物基含有オルガノシロキサン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記分野において、従来より、アルコキシシリル基、酸無水物基、SiH等を含む有機ケイ素化合物が知られている。例えば、特許文献1(特開2003−165867号公報)には、アミノ基を有するシランカップリング剤1当量に対しテトラカルボン酸二無水物1当量を反応させて得られたシランカップリング剤が記載されている。しかし、このシランカップリング剤は、分子内にカルボキシル基を有するため、室温で固体である場合が多く、極性溶媒により希釈して使用する必要があるため、作業性が悪く、環境面への負荷も大きい等の問題があった。
【0003】
特許文献2(特開2006−22158号公報)では、エポキシ樹脂と酸無水物基含有アルコキシシラン及び/又はその加水分解縮合物とを含有する硬化性樹脂組成物が記載されている。ここで取り扱われる酸無水物基含有ケイ素化合物は、室温で液体であるため、溶媒希釈が不要となり、作業性が改善されている。また、酸無水物基含有アルコキシシランの加水分解縮合物は、1分子中に複数の酸無水物基をもつため、エポキシ樹脂との架橋点を増加させることができる。しかし、酸無水物基含有アルコキシシランを加水分解縮合して、分子内に酸無水物基を複数もたせようとしたとき、水を使用するため、酸無水物環の開環反応等による経時変化が起こり、純度が低下するという問題がある。また、酸無水物基は、親水性が低いため、親水性の無機基材への親和性を制御することが困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−165867号公報
【特許文献2】特開2006−22158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、有機樹脂と無機基材とのハイブリット化が進む中で、酸無水物基含有有機ケイ素化合物に求められている特性も多様化してきている。本発明は、かかる要望に応えたもので、用途に応じて、1分子中に含有する加水分解性シリル基、及び酸無水物基の数を自由に調整することができ、かつ無機基材との親和性及び反応性を制御することができる新規な酸無水物基含有オルガノシロキサンを提供することを目的とする。
また、本発明は、この酸無水物基含有オルガノシロキサンを安定に保持することができるオルガノシロキサン組成物を提供することを他の目的とする。更に、本発明は、該酸無水物基含有オルガノシロキサンの製造工程において、酸無水物環の開環反応を抑制することができる製造方法を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を重ねたところ、以下の本発明により上記問題が解決されることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記式[1a]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基をそれぞれ少なくとも1個有するオルガノシロキサンを提供する。
【化1】
(式中、Xは、酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、ポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示す。但し、aが0の場合、M1がXで、cは1≦c≦100の整数であり、cが0の場合、M1がZで、aは1≦a≦100の整数である。)
【0008】
また、本発明のオルガノシロキサンは、下記式[1b]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基と、更にポリエーテル基をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であることが好ましい。
【化2】
(式中、Xは、酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、ポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示す。但し、aが0の場合、M1がXで、b、cは、それぞれ、1≦b≦100、1≦c≦100の整数である。また、bが0の場合、M1がYで、a、cは、それぞれ、1≦a≦100、1≦c≦100の整数である。また、cが0の場合、M1がZで、a、bは、それぞれ、1≦a≦100、1≦b≦100の整数である。)
【0009】
なお、上記式[1a]又は[1b]において、Xが、下記式[2]で表される酸無水物基を有する一価炭化水素基であり、かつYが、下記式[3]で表されるポリエーテル基を有する一価炭化水素基であり、Zが、下記式[5]で表される加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基であることが好ましい。
【化3】
(式中、Aは、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。)
【化4】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。mは、1以上の整数を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化5】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【化6】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。nは、1以上の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【0010】
また、本発明は、上記オルガノシロキサンと、活性水素含有化合物の捕捉剤として、下記式[6]で表されるα−シリル脂肪族エステル化合物を含有するオルガノシロキサン組成物を提供する。
【化7】
(式中、R6は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数5〜20のシクロアルキル基、又は炭素原子数6〜20のアリール基を示す。R7は、水素原子又はメチル基を示す。R8は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。R9は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。hは、1〜3の整数を示す。)
【0011】
上記式[6]で表されるα−シリル脂肪族エステル化合物は、具体的に、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチル、又はα−メチルジメトキシシリルプロピオン酸オクチルであることが好ましい。
【0012】
更に、本発明は、下記のオルガノシロキサンの製造方法を提供する。
白金触媒下、下記式[7]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンへ、下記式[8]で表される脂肪族不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物と、下記式[9]で表される脂肪族不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物と、更に必要に応じて、下記式[10]で表される脂肪族不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させることを特徴とする。
【化8】
(式中、R10は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M2は、水素原子又は上記R10を示す。i、jは、それぞれ、1≦i≦300、0≦j≦100の整数を示す。)
【化9】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。pは、0〜10の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【化10】
(式中、pは、0〜10の整数を示す。)
【化11】
(式中、pは、0〜10の整数を示す、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化12】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【0013】
不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物は、具体的に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物は、アリル無水コハク酸であり、不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物は、下記式[11]で表されるアリルポリエーテルであることが好ましい。
【化13】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示す。e、fは、0以上の整数を示す。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上の整数をとる。)
【化14】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4の一価炭化水素基を示す。)
【発明の効果】
【0014】
本発明のオルガノシロキサンは、分子内に加水分解性シリル基と、酸無水物基と、更に必要に応じてポリエーテル基を有するものであり、各官能基の数を自由に調整することができる。
該オルガノシロキサンを、樹脂硬化剤、樹脂改質剤、塗料改質剤、接着性改良剤、繊維の表面処理剤、無機質材料(塗料用無機顔料、プラスチック用無機充填剤、化粧料用無機粉体、ガラス、コンクリート等)の表面処理剤等の用途で使用した場合、分子内の酸無水物基の数を調整することで、樹脂との架橋密度を調整することが可能となり、また加水分解性シリル基とポリエーテル基の数を調整することで、無機基材との親和性及び反応性を自由に制御することが可能となる。
また、本発明の製造方法は、完全非水系で製造できるため、製造の段階において、酸無水物基の開環反応等の副反応を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例、比較例のオルガノシロキサンの硬化皮膜の水接触角を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明のオルガノシロキサンは、下記式[1a]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基をそれぞれ少なくとも1個有する化合物、又は下記式[1b]で表される、分子内に、加水分解性シリル基と、酸無水物基と、ポリエーテル基をそれぞれ少なくとも1個有する化合物である。なお、以下において、式[1a]、[1b]をまとめて式[1]と称する。
【0017】
【化15】
(式中、Xは、酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、ポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示し、好ましくは、0≦a≦50、0≦b≦50、0≦c≦50、0≦d≦50の範囲をとり、更に好ましくは、0≦a≦20、0≦b≦20、0≦c≦20、0≦d≦20の範囲をとる。但し、aが0の場合、M1はXで、cは1≦c≦100の整数をとり、cが0の場合、M1はZで、aは1≦a≦100の整数をとる。)
【0018】
【化16】
(式中、Xは、酸無水物基を有する一価炭化水素基を示す。Yは、ポリエーテル基を有する一価炭化水素基を示す。Zは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基を示す。R1は、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M1は、上記X、Y、Z、R1から選択される基を示す。a、b、c、dは、それぞれ、0≦a≦100、0≦b≦100、0≦c≦100、0≦d≦100の整数を示し、好ましくは、0≦a≦50、0≦b≦50、0≦c≦50、0≦d≦50の範囲をとり、更に好ましくは、0≦a≦20、0≦b≦20、0≦c≦20、0≦d≦20の範囲をとる。但し、aが0の場合、M1はXで、b、cは1≦b≦100、1≦c≦100の整数をとり、また、bが0の場合、M1はYで、a、cは1≦a≦100、1≦c≦100の整数をとり、また、cが0の場合、M1はZで、a、bは1≦a≦100、1≦b≦100の整数をとる。)
【0019】
本発明の該オルガノシロキサンは、互いに独立して、水素原子、又はハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20、特に1〜10の一価炭化水素基R1をもつ。このような基を導入することにより、樹脂組成物と混合して使用する際、樹脂組成物との相溶性が向上し、相分離等が発生し難くなる。置換基を有してもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、オクタデシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等が例示でき、またこれら一価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されたものとして、クロロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロプロピル基等を例示することができる。好ましくはメチル基である。
【0020】
また、本発明のオルガノシロキサンは、酸無水物基を有する一価炭化水素基Xをもつ。該オルガノシロキサンを樹脂組成物へ添加した際、酸無水物基の部分が、樹脂組成物のもつ反応性基(水酸基、イソシアネート基等)と反応し、樹脂と該オルガノシロキサンとの一体化がなされる。酸無水物基を有する一価炭化水素基として、下記式[2]で表される基を例示することができる。好ましくは無水コハク酸プロピル基である。
【化17】
(式中、Aは、直鎖状又は分岐状の炭素原子数2〜6のアルキレン基を示す。)
【0021】
また、本発明のオルガノシロキサンは、加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基をもつ。ガラス等の無機基材を該オルガノシロキサンで表面処理した場合、加水分解性シリル基が無機基材表面に存在する−OH基と反応し、該オルガノシロキサンと無機基材との間に化学結合が形成される。
【0022】
加水分解性シリル基を有する一価炭化水素基としては、下記式[5]で表されるものが好ましい。
【化18】
(式中、R4は、炭素原子数1〜10のアルキル基を示す。R5は、炭素原子数1〜10の一価炭化水素基、又はアシル基を示す。nは、1以上の整数を示す。gは、1〜3の整数を示す。)
【0023】
加水分解性シリル基の例としては、トリメトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルモノメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基、ジメチルモノエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、メチルジプロポキシシリル基、ジメチルモノプロポキシシリル基、トリイソプロペノキシシリル基、メチルジイソプロペノキシシリル基、ジメチルイソプロペノキシシリル基、トリアシロキシシリル基、メチルジアシロキシシリル基、ジメチルモノアシロキシシリル基等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。好ましくは、トリメトキシシリル基である。
【0024】
本発明のオルガノシロキサンは、加水分解性シリル基と酸無水物基の数を自由に調整できる。このため、有機樹脂に対する反応性、及び無機基材に対する反応性のバランスを自由に制御することができる。
【0025】
また、本発明のオルガノシロキサンは、加水分解性シリル基と、酸無水物基と、更にポリエーテル基を含有する化合物とすることができる。ポリエーテル基は、該オルガノシロキサンと無機基材表面との親和性を制御する効果をもつ。有機官能基として、加水分解性シリル基と酸無水物基のみを含有するオルガノシロキサンは、酸無水物基の親水性が低いため、その数の増加に伴って、分子全体の親水性が大きく低下する場合がある。このため、親水性表面を有する無機基材上へ、このオルガノシロキサンを塗布し、硬化皮膜を形成する際、ぬれ性が悪く、ハジキ等が発生し、均一な塗膜が得られないという問題が発生することがある。しかし、上記オルガノシロキサンの分子内にポリエーテル基を導入することにより、このような問題が解決し、無機基材上へオルガノシロキサンの均一な硬化膜を形成することが可能となる。なお、ポリエーテル基の種類や導入量を調整することにより、加水分解性シリル基と無機基材との反応を制御して、基材とオルガノシロキサンとの結合力を調整することが可能となる。これにより、オルガノシロキサンを有機樹脂と無機基材との接着に使用した際、微粘着から強接着まで、用途に応じて、接着力を調整することが可能となる。ポリエーテル基を含有する一価炭化水素基としては、下記式[3]で表される構造を例示することができる。
【0026】
【化19】
(式中、R2は、水素原子、炭素原子数1〜6の一価炭化水素基、又は下記式[4]で表される基を示し、好ましくは、炭素原子数1〜4のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基である。mは、1以上の整数を示し、好ましくは2〜6の整数である。e、fは、0以上の整数を示し、好ましくは、0≦e≦50、0≦f≦50の範囲をとり、更に好ましくは、0≦e≦20、0≦f≦20の範囲をとる。但し、e、fのうち少なくとも1つは、1以上、好ましくは1〜50の整数をとる。)
【化20】
(式中、R3は、炭素原子数1〜4のアルキル基等の一価炭化水素基を示す。)
【0027】
ポリエーテル基部分は、エチレンオキサイド型(以下、EO型と記す。)、プロピレンオキサイド型(以下、PO型と記す。)、エチレンオイサイド−プロピレンオキサイド型(以下、EO−PO型と記す。)のいずれでもよく、EO−PO型の場合には、ランダム、ブロック、交互のいずれでもよい。また、本発明によるオルガノシロキサンへPO型のポリエーテル基を有する一価炭化水素基を導入することにより、耐湿性を向上させることができる。
【0028】
本発明のオルガノシロキサンの具体例としては、下記式[12]、[13]で表されるものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【化21】
【0029】
本発明のオルガノシロキサンは、酸無水物基や加水分解性シリル基と反応性を有する活性水素含有化合物、例えば、水やアルコール等が混入することで、経時的に変化し、純度が低下する。加水分解性シリル基の具体例として、アルコキシシリル基を挙げ、経時変化のメカニズムについて説明する。まず、一段階目として、例えば、空気中に湿気として存在する水分により、アルコキシシリル基内のアルコキシ基が、加水分解して、アルコールが生成する。二段階目として、生成したアルコールにより、酸無水物基の開環反応が起こり、カルボン酸が生成する。三段階目として、生成したカルボン酸とアルコキシ基とのエステル交換反応により、再度アルコールが発生する。その後、二段階目と三段階目が繰り返し進行して、純度は経時的に低下する。このような該オルガノシロキサンの経時変化を抑える方法としては、活性水素含有化合物の捕捉剤を併用することが挙げられる。捕捉剤とは、活性水素含有化合物と反応して該活性水素含有化合物中の活性水素を消滅させる物質をいう。活性水素含有化合物の捕捉剤としては、例えば、下記式[6]で表されるα−シリル脂肪族エステル化合物が挙げられる。
【0030】
【化22】
(式中、R6は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数5〜20のシクロアルキル基、又は炭素原子数6〜20のアリール基を示す。R7は、水素原子又はメチル基を示す。R8は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。R9は、炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。hは、1〜3の整数を示す。)
【0031】
上記α−シリル脂肪族エステル化合物と活性水素含有化合物との反応性は、酸無水物基と活性水素含有化合物との反応性よりも優れている。また、α−シリル脂肪族エステル化合物が活性水素含有化合物と反応すると、α位の炭素原子からシリル基が分離して、活性水素を含まない有機ケイ素化合物と活性水素を含まない脂肪族カルボン酸エステルとが生成する。いずれの生成物も活性水素を含まないので、酸無水物基やアルコキシシリル基を含有するオルガノシロキサンとは反応性を有しない。従って、該オルガノシロキサンは、経時的に変化することなく、純度が高い状態に保たれる。
【0032】
α−シリル脂肪族エステル化合物の具体例としては、α−トリメトキシシリルプロピオン酸メチル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸プロピル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸ブチル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸ペンチル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸ヘキシル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸オクチル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸デシル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸シクロヘキシル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸イソプロピル、α−トリメトキシシリルプロピオン酸フェニル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸メチル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸エチル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸プロピル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸ブチル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸ペンチル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸ヘキシル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸オクチル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸デシル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸シクロヘキシル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸イソプロピル、α−トリエトキシシリルプロピオン酸フェニル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸メチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸エチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸プロピル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸ブチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸ペンチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸ヘキシル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸オクチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸デシルなどが挙げられる。これらの中でも捕捉反応性の高さ及び材料の入手のしやすさからα−トリメトキシシリルプロピオン酸エチル、α−メチルジメトキシシリルプロピオン酸オクチルがより好ましい。
【0033】
この場合、α−シリル脂肪族エステル化合物は、捕捉効果を有効に達成するため、本発明のオルガノシロキサン100質量部に対し、0.01〜10質量部、特に0.1〜5質量部の範囲で含有させることが好ましい。
【0034】
次に、本発明のオルガノシロキサンの製造方法について説明する。
該オルガノシロキサンは、白金触媒下、下記式[7]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンへ、脂肪族不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物と、脂肪族不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物と、更に必要に応じて、脂肪族不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物とを、ヒドロシリル化反応させて、製造することができる。
【化23】
(式中、R10は、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素原子数1〜20の一価炭化水素基を示す。M2は、水素原子又は上記R10を示す。i、jは、それぞれ、1≦i≦300、0≦j≦100の整数を示し、好ましくは、1≦i≦150、0≦j≦50の範囲をとり、更に好ましくは、1≦i≦60、0≦j≦20の範囲をとる。)
【0035】
この場合、脂肪族不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物としては、下記式[8]で表されるものが挙げられる。
【化24】
(式中、pは、0〜10、特に0〜5の整数を示す。R4、R5、gは、上記の通り。)
【0036】
脂肪族不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物としては、下記式[9]で表されるものが挙げられる。
【化25】
(式中、pは、上記の通り。)
【0037】
脂肪族不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物としては、下記式[10]で表されるものが挙げられる。
【化26】
(式中、p、R2、e、fは、上記の通り。)
【0038】
上記不飽和結合を有する加水分解性シリル基含有化合物は、具体的に、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランのような化合物が挙げられる。なお、配合量としては、オルガノハイドロジェンシロキサン1molに対し、好ましくは1〜100mol、更に好ましくは1〜50mol、特に好ましくは1〜20molを加え、ヒドロシリル化反応を行うことができる。
【0039】
また、不飽和結合を有する酸無水物基含有化合物としては、具体的に、下記のような化合物が挙げられる。特に好ましくは、アリル無水コハク酸である。なお、配合量としては、オルガノハイドロジェンシロキサン1molに対し、好ましくは1〜100mol、更に好ましくは1〜50mol、特に好ましくは1〜20molを加え、ヒドロシリル化反応を行うことができる。
【0040】
【化27】
【0041】
また、不飽和結合を有するポリエーテル基含有化合物としては、下記式[11]で表されるアリルポリエーテルであることが好ましい。なお、配合量としては、オルガノハイドロジェンシロキサン1molに対し、好ましくは1〜100mol、更に好ましくは1〜50mol、特に好ましくは1〜20molを加え、ヒドロシリル化反応を行うことができる。
【化28】
(式中、R2、e、fは、上記の通り。)
【0042】
例えば、上記式[12]で表される化合物の場合、白金触媒下、下記式[14]で表されるメチルハイドロジェンシロキサン1molに対し、ビニルトリメトキシシラン4molと、下記式[15]で表されるアリルポリエーテル1molと、更にアリル無水コハク酸3molとをヒドロシリル化反応させて、製造することができる。
【化29】
【0043】
また、上記式[13]で表される化合物の場合、白金触媒下、下記式[16]で表されるメチルハイドロジェンシロキサン1molに対し、ビニルトリメトキシシラン4molと、アリル無水コハク酸4molとをヒドロシリル化反応させて、製造することができる。
【化30】
【0044】
ここで、アルコキシシリル基、酸無水物基(例えば、無水コハク酸基)、及びポリエーテル基を含有するオルガノシロキサンに関し、別の製法で製造した場合について説明し、次に、本発明と比較する。
【0045】
例えば、無水コハク酸変性アルコキシシランとポリエーテル変性アルコキシシランとを加水分解縮合して目的物を製造する方法が挙げられる。しかし、この方法は、水を使用するため、製造段階において、無水コハク酸の加水分解による開環反応が併発するという問題がある。
【0046】
また、別の製法として、例えば、下記式[17]で表される環状オルガノハイドロジェンシロキサンへ、白金触媒下、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸を順次付加していく方法が挙げられる。
【化31】
(式中、kは、3以上の整数を示す。)
【0047】
しかし、上記環状オルガノハイドロジェンシロキサンの中で、現実的に、安価で容易に入手できるものは、k=3〜5の低分子シロキサンとなる。その場合、分子内に存在する反応点(SiH)の数は、最大でも5個までとなる。この環状オルガノハイドロジェンシロキサンへ、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸を順次、ヒドロシリル化反応により付加しようとした場合、各化合物の合計導入量は5個までとなり、各官能基の自由な導入量の設定ができない。
【0048】
本発明によるオルガノシロキサンは、上記の問題を解決し得るものである。即ち、原料として使用する上記式[7]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンのi値を調整することにより、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸の自由な導入量設定ができる。該オルガノシロキサンは、直鎖状シロキサン骨格の側鎖へ、アルコキシ基、酸無水物基、ポリエーテル基の各官能基を含有する基が結合した構造をとる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0050】
実施例1
撹拌機、温度計、及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコに、下記式[18]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン100g(0.192mol)と、トルエン114gを仕込んだ後、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)1.00gを撹拌しながら添加した。次に、80℃まで昇温し、ビニルトリメトキシシラン56.7g(0.383mol)を滴下添加した後、2時間の熟成を行った。
【化32】
【0051】
ここで、上記反応に使用したビニルトリメトキシシランの反応率について、次のようにして測定を行った。まず、次の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量をそれぞれ測定した。反応前後のサンプル1gへ、それぞれ、ブタノール10gを加え、更に、撹拌を加えながら、20質量%NaOH水溶液を20g加えた。この時に発生する水素ガス(≡SiH+H2O→≡SiOH+H2↑)の量から、≡SiHの含有量をそれぞれ算出した。
【0052】
次に、下式により、サンプル1g中において、実際に反応したビニルトリメトキシシランの量を算出した。表1に、その結果を示す。
反応量(mol)=
[反応前の≡SiH含有量(mol)]−[反応後の≡SiH含有量(mol)]
【0053】
【表1】
【0054】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだビニルトリメトキシシランが1.41×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量から、下記のようにして、ビニルトリメトキシシランの反応率を計算すると99.3%となる。
反応率=[1.40×10-3(mol)/1.41×10-3(mol)]×100
=99.3(%)
以上のことから、ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだビニルトリメトキシシランの99%以上が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応したことを確認した。
【0055】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に含有する残りの≡SiH基へ、アリル無水コハク酸を反応させるための操作を行った。上記で得られた反応液へ、撹拌下、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)3.00gを添加し、温度を100℃まで昇温した。次に、アリル無水コハク酸120g(0.857mol)を滴下添加した後、更に110℃で10時間の熟成を行った。
【0056】
ここで、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表2に、その結果を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiHは、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が2.17×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリル無水コハク酸の反応率を計算すると、87.6%となる。
反応率=[1.90×10-3(mol)/2.17×10-3(mol)]×100
=87.6(%)
原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約88%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約12%が余剰分として残留した。
【0059】
最後に、僅かに残留したアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、125℃で7時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、温度を室温まで冷却し、圧力を常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、246gの生成物−1を得た。
【0060】
ここで、生成物−1に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0061】
次に、生成物−1に関し、赤外分光法(FTIR)によって、酸無水物基の帰属を行った。その結果、1,863cm-1、1,785cm-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−1は、完全非水系で製造を行うため、製造段階において、活性水素含有化合物(例:水やアルコール等)が混入することがなく、無水コハク酸基の開環が十分に抑制されている。
【0062】
次に、生成物−1の構造解析を行うため、29Si−NMR測定を実施した。その結果、まず、7.2ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化33】
また、−22ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化34】
(式中、Aは、下記のいずれかの基を示す。)
【化35】
また、−42ppm付近に、下記に示す基の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化36】
上記の結果より、生成物−1は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定される。
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メチルハイドロジェンシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、無水コハク酸基の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0063】
実施例2
実施例1と同様にして、上記式[18]で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン100g(0.192mol)と、トルエン114gを仕込んだ後、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)1.00gを撹拌しながら添加した。次に、80℃まで昇温し、ビニルトリメトキシシラン56.7g(0.383mol)を滴下添加した後、2時間の熟成を行った。
【0064】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留する≡SiH基の一部へ、アリルポリエーテルを反応させるための操作を行った。反応液を80℃に維持した状態で、撹拌下、次式で示されるアリルポリエーテル23.0g(0.0962mol)を滴下添加し、更に3時間の熟成を行った。
CH2=CH−CH2−O(CH2CH2O)3.8CH3
【0065】
ここで、アリルポリエーテルの反応率を測定した。実施例1と同様にして、反応前後における反応液1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリルポリエーテルの量を算出した。表3に、その結果を示す。
【0066】
【表3】
【0067】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリルポリエーテルが0.326×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリルポリエーテルの反応率を計算すると、98.2%となる。
反応率=[0.320×10-3(mol)/0.326×10-3(mol)]×100
≒98.2(%)
ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだCH2=CH−CH2−O(CH2CH2O)3.8CH3の約98%がメチルハイドロジェンシロキサンへ導入され、約2%が未反応物として残留することを確認した。
【0068】
次に、メチルハイドロジェンシロキサン中に含有する残りの≡SiH基へ、アリル無水コハク酸を反応させるための操作を行った。反応液の温度を100℃まで昇温し、撹拌下、塩化白金酸のトルエン溶液(Pt濃度:0.5質量%)3.00gを添加し、更にアリル無水コハク酸120g(0.857mol)を滴下添加した後、110℃で10時間の熟成を行った。
ここで、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表4に、その結果を示す。
【0069】
【表4】
【0070】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、アリルポリエーテルと反応した後、メトキシ基含有メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiH基は、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前の反応液1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が2.05×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにして、アリル無水コハク酸の反応率を計算すると77.1%となる。
反応率=[1.58×10-3(mol)/2.05×10-3(mol)]×100
≒77.1(%)
以上のことから、原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約77%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約23%が余剰分として残留したことを確認した。
【0071】
最後に、余剰のアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、110℃で10時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、室温まで冷却し、常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、240gの生成物−2を得た。
ここで、生成物−2に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に出現する原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0072】
次に、生成物−2に関し、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、1,863cm-1、1,785cm-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−2は、製造段階において、酸無水物基の開環が十分に抑制されている。
【0073】
次に、生成物−2の構造解析を行うため、29Si−NMR測定を実施した。その結果、まず、7.2ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化37】
また、−22ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化38】
(式中、Bは、下記のいずれかの構造を示す。)
【化39】
また、−42ppm付近に、下記に示す構造の存在を示唆する1本のピークが確認された。
【化40】
【0074】
上記の結果より、生成物−2は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、ポリエーテル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定される。
【0075】
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メトキシシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、ポリエーテル基、及び酸無水物基(無水コハク酸基)の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0076】
実施例3
実施例2において、CH2=CH−CH2−O(CH2CH2O)3.8CH3で示される化合物の添加量を23.0g(0.0962mol)から46.0g(0.192mol)へ変更し、またアリル無水コハク酸の添加量を120g(0.857mol)から90.5g(0.646mol)へ変更したこと以外は、同様の操作を行った。
まず、アリルポリエーテルの反応率を測定した。実施例1,2と同様にして、反応前後における反応液1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリルポリエーテルの量を算出した。表5に、その結果を示す。
【0077】
【表5】
【0078】
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリルポリエーテルが0.605×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリルポリエーテルの反応率を計算すると、95.9%となる。
反応率=[0.580×10-3(mol)/0.605×10-3(mol)]×100
≒95.9(%)
以上のことから、ヒドロシリル化反応により、原料として仕込んだCH2=CH−CH2−O(CH2CH2O)3.8CH3の約96%がメチルハイドロジェンシロキサンへ導入され、約4%が未反応物として残留することを確認した。
【0079】
次に、アリル無水コハク酸の反応率を測定した。まず、前記と同様の方法により、反応前後におけるサンプル1g中の≡SiH含有量を測定し、実際に反応したアリル無水コハク酸の量を算出した。表6に、その結果を示す。
【0080】
【表6】
【0081】
反応終了後の水素ガス発生量は、ほぼ0mlに近い値であった。このことから、メチルハイドロジェンシロキサン中に残留していた≡SiHは、ヒドロシリル化反応により、ほぼ全てアリル無水コハク酸と反応したと考えられる。
反応前のサンプル1g中には、原料として仕込んだアリル無水コハク酸が1.57×10-3mol存在する。先に求めた反応量と、原料として仕込んだ量とから、下記のようにしてアリル無水コハク酸の反応率を計算すると、88.5%となる。
反応率=[1.39×10-3(mol)/1.57×10-3(mol)]×100
=88.5(%)
原料として仕込んだアリル無水コハク酸の約89%が、メチルハイドロジェンシロキサンと反応し、残り約11%が余剰分として残留した。
【0082】
最後に、余剰のアリル無水コハク酸を除去するための操作を行った。ジムロート冷却管を排ガス管につなぎかえ、系内の圧力を10mmHgまで減圧した後、窒素ガスバブリング下、110℃で10時間加熱を行った。減圧加熱を終了後、室温まで冷却し、常圧に復圧した後、得られた液体のろ過精製を行い、197gの生成物−3を得た。
ここで、生成物−3に関し、THF溶媒下でのGPC測定を行った。その結果、保持時間21〜32分の位置にブロードな生成物ピークを確認した。保持時間36〜37分の付近に出現する原料アリル無水コハク酸のピークが存在しないことから、アリル無水コハク酸の余剰分は、最後の減圧加熱でほぼ完全に除去されたと考えられる。
【0083】
次に、生成物−3に関し、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、1,863cm-1、1,785cm-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。なお、1,735cm-1に、無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。生成物−3は、製造段階において、無水コハク酸基の開環が十分に抑制されている。
【0084】
次に、生成物−3の構造解析を行うため、29Si−NMR測定を実施した。その結果、実施例2と同様のピークが確認されたことから、生成物−3は、直鎖状シロキサンの側鎖に、トリメトキシシリル基を含有する一価炭化水素基、ポリエーテル基を含有する一価炭化水素基、及び無水コハク酸基を含有する一価炭化水素基が結合した構造体であると推定された。
ここで、メチルハイドロジェンシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、アリルポリエーテル、アリル無水コハク酸の各原料仕込み量、及び上記反応率の測定結果より、メトキシシロキサン1molに対し、反応して導入されたトリメトキシシリル基、ポリエーテル基、及び酸無水物基(無水コハク酸基)の数(平均値)を算出した。表7に、その結果を示す。
【0085】
【表7】
【0086】
比較例1〜3(無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の製造)
表8に示す配合で、X−12−967とX−12−641の混合物を製造した。
【表8】
【0087】
次に、上記で得られたサンプルについて、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、いずれのサンプルに関しても、1,863cm-1、1,785cm-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測され、1,735cm-1付近に無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収は、観測されなかった。
【0088】
比較例4〜6(無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の加水分解縮合物の製造)
上記比較例1〜3で得られた各サンプルへ、0.1N−塩酸水を添加した。1N−塩酸水の添加量は、各サンプル中のX−12−967とX−12−641の総量に対して、1.3倍molの水が加わる量に調整した。次に、この混合物をジメトキシエタンで10質量%に希釈し、75℃で1時間撹拌し、透明な液体を得た。
次に、上記で得られた各サンプルについて、THF溶媒下でのGPC測定を行い、反応前後における重量平均分子量を算出した。表9に、各サンプルの重量平均分子量に関し、反応前に対する増加率を示す。
【0089】
【表9】
【0090】
次に、各サンプルについて、赤外分光法(FTIR)によって、無水コハク酸基の帰属を行った。その結果、いずれのサンプルに関しても、1,863cm-1、1,785cm-1に無水コハク酸基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測され、かつ、1,735cm-1付近に無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基のカルボニル伸縮振動による吸収が観測された。1分子中に含有するメトキシ基及び無水コハク酸基の数を増加させることを目的とし、無水コハク酸変性トリメトキシシラン/ポリエーテル変性トリメトキシシラン混合物の加水分解縮合を試みたが、製造工程に水を使用するため、いずれのサンプルに関しても、無水コハク酸基の開環反応が併発した。
【0091】
<塗液サンプルの調合、及び硬化皮膜の作製>
上記で得られた実施例1のオルガノシロキサンを、ジメトキシエタン中へ、10質量%溶解した塗液サンプルを作製した。この塗液サンプルを、寸法50mm×100mm×3mmのガラス基板上へフローコートし、室温で20分間自然乾燥後、105℃で60分間加熱処理を行って、ガラス基板上へ硬化皮膜を形成した。実施例2,3、及び比較例1〜3に関しても、上記と同様の操作を行った。なお、比較例4〜6に関しては、すでにジメトキシエタンで10質量%に希釈されているため、そのまま塗液として使用し、ガラス基板上へ硬化皮膜を形成した。
【0092】
<硬化皮膜の評価>
(1)外観、密着性
上記のようにして作製した硬化皮膜付きガラス基板を水、ジメトキシエタンの各液中へ、それぞれ1時間浸漬した後、エアーをあてて乾燥を行い、更に105℃で5分間加熱乾燥した。
まず、ガラス基板上へ形成した硬化皮膜の外観を観察し、下記の基準で評価を行った。
○:無色透明で、均一な硬化皮膜が形成されている。
×:着色(白濁等)や、硬化皮膜表面にムラがある。
次に、硬化皮膜のガラス基板への密着性評価を実施した。密着性評価は、碁盤目密着試験を行った。硬化皮膜上へ25×25マスの切れ目を入れ、セロハンテープを貼付した後に剥がして、基板上に残ったマス目の数を計測した。表10に、外観、密着性の評価結果を示す。
【0093】
【表10】
【0094】
実施例1〜3に関しては、硬化皮膜の外観がよく、またガラス基板への密着性も良好であった。
一方、比較例に関しては、無水コハク酸変性トリメトキシシランとポリエーテル変性トリメトキシシランを混合した比較例2,3において、外観、密着性が共に悪化した。
【0095】
(2)水接触角
上記のようにして作製した硬化皮膜付きガラス基板をジメトキシエタン中へ1時間浸漬した後、エアーをあてて乾燥を行い、更に105℃で5分間加熱乾燥した。次に、得られた硬化皮膜の水接触角を測定した。図1に、その結果を示す。
実施例1〜3のオルガノシロキサンから形成した硬化皮膜は、比較例1〜6の硬化皮膜と比較して、水接触角が高い。このことから、硬化皮膜の表面において、親水性の低い無水コハク酸基が、高密度に存在すると考えられる。
なお、実施例2,3に関しては、実施例1と比較して、水接触角増加の傾向がみられた。このことから、オルガノシロキサンへ、無水コハク酸基と少量のポリエーテル基を共変性することで、ガラスとの親和性が向上し、密着性が改善された可能性が考えられる。
また、無水コハク酸変性トリメトキシシランとポリエーテル変性トリメトキシシランとの加水分解縮合物である比較例4〜6は、それらを単純混合して得た比較例1〜3と比較して、水接触角増加の傾向がみられた。しかし、比較例4〜6では、加水分解縮合の際、水を使用するため、無水コハク酸基の一部に開環反応が併発している。
【0096】
(3)保存安定性
実施例1で得られたオルガノシロキサンと、これに活性水素含有化合物の捕捉剤として、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルを5質量%添加した組成物について、室温で1ヶ月間保管した。また、実施例3、比較例1,4に関しては、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルを添加せず、室温で1ヶ月間保管した。
保管前後のサンプルについて、IR測定を行い、下記の基準により、保存安定性を評価した。表11に、その結果を示す。
○:1,735cm-1での吸収(無水コハク酸基が開環して生じるカルボキシル基の
カルボニル伸縮振動による吸収)がみられない。
×:1,735cm-1での吸収がみられる。
【0097】
【表11】
【0098】
実施例1,3に関しては、完全非水系で製造ができるため、製造時における無水コハク酸基の安定性は良好である。なお、実施例1に関しては、経時で、無水コハク酸基の安定性が低下する傾向がみられるが、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルの添加により、安定性の改善がみられる。また、実施例3では、α−トリメトキシシリルプロピオン酸エチルの添加なしで、安定性が保たれている。
比較例1に関しては、製造時における無水コハク酸基の安定性は良好である。一方、経時で、無水コハク酸基の安定性が低下する傾向がみられる。また、比較例4では、1分子内に複数の無水コハク酸基をもたせるために、無水コハク酸変性トリメトキシシランの加水分解縮合を行ったが、その際に使用する水の影響で、製造の段階で、無水コハク酸基の一部が開環してしまう。
図1