特許第5790645号(P5790645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5790645ビスアミノフェニルアルキルウレアの新規な製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790645
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ビスアミノフェニルアルキルウレアの新規な製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 273/18 20060101AFI20150917BHJP
   C07C 275/24 20060101ALI20150917BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   C07C273/18
   C07C275/24
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-512863(P2012-512863)
(86)(22)【出願日】2011年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2011060182
(87)【国際公開番号】WO2011136231
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年4月24日
(31)【優先権主張番号】特願2010-105935(P2010-105935)
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 顕司
(72)【発明者】
【氏名】徳永 健一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕一
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/053128(WO,A1)
【文献】 特開平06−239804(JP,A)
【文献】 Journal of Organic Chemistry,2000年,65(17),p.5216-5222
【文献】 Journal of Organic Chemistry,1996年,61(12),p.4175-4179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 273/00
C07C 275/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表わされる(ニトロフェニル)アルキルアミンハロゲン酸塩と、下式(2)で表わされるカルボニル化合物と、をアミド系溶媒中にて塩基の存在下に縮合反応せしめて下式(3)で表わされるニトロ化合物を製造し、
次いで、得られる前記ニトロ化合物を低級アルコール溶媒中にて還元反応せしめることを特徴とする、下式(4)で表わされるビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基であり、Xはハロゲン原子であり、Yは、任意の炭素原子上にニトロ基が置換されていてもよいフェノキシ基又は1−イミダゾリル基である。)
【請求項2】
前記縮合反応せしめて得られるニトロ化合物を含む反応混合物に対し低級アルコールを添加して晶析せしめて該ニトロ化合物を単離する請求項1に記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項3】
前記縮合反応せしめて得られるニトロ化合物を含む反応混合物に対し低級アルコールを添加して該ニトロ化合物を単離せしめることなく、還元反応せしめる請求項1に記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項4】
前記還元反応せしめて得られるビスアミノフェニルアルキルウレアをヒドラジン処理する請求項1〜3のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項5】
前記(ニトロフェニル)アルキルアミンのハロゲン酸塩が、2−(4−ニトロフェニル)エチルアミンの塩酸塩若しくは(4−ニトロフェニル)メチルアミンの塩酸塩である請求項1〜4のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項6】
前記カルボニル化合物が、ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)カーボネート、又はカルボニルジイミダゾールである請求項1〜5のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項7】
前記ビスアミノフェニルアルキルウレアが、ビス(4−アミノフェニルメチル)ウレアである請求項1〜6のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項8】
前記ビスアミノフェニルアルキルウレアが、ビス(4−アミノフェニルエチル)ウレアである請求項1〜6のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【請求項9】
下式(1)で表わされる(ニトロフェニル)アルキルアミンハロゲン酸塩と、下式(2)で表わされるカルボニル化合物と、をアミド系溶媒中にて塩基の存在下に縮合反応せしめ、得られる下式(3)で表わされるニトロ化合物を含む反応混合物に対して低級アルコールを添加して晶析することを特徴とする下式(3)で表わされるニトロ化合物の製造方法。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基であり、Xはハロゲン原子であり、Yは、任意の炭素原子上にニトロ基が置換されていてもよいフェノキシ基又は1−イミダゾリル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向膜を作製するための重合体の原料などとして有用であるジアミン化合物であるビスアミノフェニルアルキルウレアの新規な製造方法に関する。本発明で製造されるビスアミノフェニルアルキルウレアの一部のものは新規化合物であり、従って、本発明は、かかる新規なジアミン化合物の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶表示素子に用いられる液晶配向膜には、多くの場合、ポリイミド膜が使用されており、このポリイミド膜の液晶配向膜は、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸の溶液又は溶媒可溶性ポリイミドの溶液を基板に塗布し、焼成して、得られる膜をラビング処理などの配向処理する方法により作製されている。(特許文献1、2を参照)、このポリアミック酸や溶媒可溶性ポリイミドは、一般的に、テトラカルボン酸二水物などのテトラカルボン酸誘導体と、ジアミン化合物との縮重合反応によって製造されている。
【0003】
かかるポリアミック酸やポリイミドなどの原料であるジアミン化合物は、これから得られる液晶配向膜の特性、ひいては、液晶表示素子の特性に影響するので重要であり、従来から種々のアミン化合物が使用されており、提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−120769号公報
【特許文献2】特開平9−146100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出願人は、先に、かかるジアミン化合物として、ラビング処理時の膜表面への傷や削れが少ない機械的強度が大きく、液晶配向性が良好な液晶配向膜を得られるポリアミック酸やポリイミドの原料として、下記の式(1)で表わされるビスアミノフェニルアルキルウレアを国際公開WO2010/053128号として提案した。
【0006】
【化1】

(式中、R11及びR21は、相互に独立して、炭素数1〜3のアルキレン基である。)
かかるビスアミノフェニルアルキルウレアの一部のものは、本願出願前の文献未載の新規化合物である。
一方、かかるビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法としては、ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩と、ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)カーボネートなどのカルボニル化合物とを反応溶媒中にて縮合反応させてニトロ化合物を製造し、該ニトロ化合物を反応溶媒中で還元して目的物を製造することが考えられる。
【0007】
しかし、この場合、テトラヒドロフラン、ケトン、アルコールなどの通常使用される溶媒中にてビスアミノフェニルアルキルウレアを製造しようとする場合、反応速度が小さく、容積効率が低いため大きな装置が必要とされ、また、ある場合には、溶媒との反応による副生物が生じたり、生成物が着色するなど高純度のものが得られない。
本発明は、上記の反応により上記ビスアミノフェニルアルキルウレアを製造する場合において、反応速度が高く、容積効率が高く、副生物が少なく、高純度で、かつ高収率にて目的物が得られる方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、ビスアミノフェニルアルキルウレアのうちでもこれまで知られていない新規物質を、高純度で、かつ高収率で得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成するべく鋭意研究を進めたところ、出発原料である、ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩と、特定のカルボニル化合物とを縮合反応させてニトロ化合物を製造する場合の反応溶媒、及び得られたニトロ化合物を還元して目的とするビスアミノフェニルウレアを製造する場合の反応溶媒として、それぞれ、特定の有機溶媒を使用し、また、上記のニトロ化合物を晶析して反応を進める場合には、晶析に使用する溶媒として、特定の溶媒を使用することにより、上記の目的を達成し得ることを見出した。
【0009】
本発明は以下の要旨を有する。
〔1〕下式(1)で表わされる(ニトロフェニル)アルキルアミンハロゲン酸塩と、下式(2)で表わされるカルボニル化合物と、をアミド系溶媒中にて塩基の存在下に縮合反応せしめて下式(3)で表わされるニトロ化合物を製造し、
次いで、得られる前記ニトロ化合物を低級アルコール溶媒中にて還元反応せしめることを特徴とする、下式(4)で表わされるビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
【0010】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜3のアルキレン基であり、Xはハロゲン原子であり、Yは、任意の炭素原子上にニトロ基が置換されていてもよいフェノキシ基又は1−イミダゾリル基である。)

【0011】
〔2〕前記縮合反応せしめて得られるニトロ化合物を含む反応混合物に対し低級アルコールを添加して晶析せしめて該ニトロ化合物を単離する上記〔1〕記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔3〕前記縮合反応せしめて得られるニトロ化合物を含む反応混合物に対し低級アルコールを添加して該ニトロ化合物を単離せしめることなく、還元反応せしめる上記〔1〕記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔4〕前記還元反応せしめて得られるビスアミノフェニルアルキルウレアをヒドラジン処理する上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔5〕前記(ニトロフェニル)アルキルアミンハロゲン酸塩が、2−(4−ニトロフェニル)エチルアミン塩酸塩若しくは(4−ニトロフェニル)メチルアミン塩酸塩である上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔6〕前記カルボニル化合物が、ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)カーボネート、又はカルボニルジイミダゾールである上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔7〕前記ビスアミノフェニルアルキルウレアが、ビス(4−アミノフェニルメチル)ウレアである上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔8〕前記ビスアミノフェニルアルキルウレアが、ビス(4−アミノフェニルエチル)ウレアである上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のビスアミノフェニルアルキルウレアの製造方法。
〔9〕上記〔1〕の式(1)で表わされる(ニトロフェニル)アルキルアミンハロゲン酸塩と、上記〔1〕の式(2)で表わされるカルボニル化合物と、をアミド系溶媒中にて塩基の存在下に縮合反応せしめ、得られる上記〔1〕の式(3)で表わされるニトロ化合物を含む反応混合物に対して低級アルコールを添加して晶析することを特徴とする上記〔1〕の式(3)で表わされるニトロ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、後記する比較例と対比して示される実施例から明らかにされるように、反応速度が高く、容積効率が高く、副生物が少なく、高純度で、高収率にて目的物であるビスアミノフェニルアルキルウレアが製造される。
本発明の製造方法によれば、ビスアミノフェニルアルキルウレアのうちでも、新規化合物であるビス(4−アミノフェニルエチル)ウレアが高純度で、高収率で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
A:ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩と、カルボニル化合物とを縮合反応させてニトロ化合物を製造する工程
かかる工程は、下記の反応式によって表わされる。
【化3】
【0014】
出発物質であるニトロフェニルアルキルアミンアミンハロゲン酸塩は、上記の式(1)で表わされる化合物である。式(1)中、Rは、炭素数1〜3のアルキレン基であり、好ましくはメチレン基又はエチレン基である。Xは、ハロゲン原子であり、好ましくは、塩素原子又は臭素原子である。
ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩の好ましい具体例としては、2−(4−ニトロフェニル)エチルアミン(4−ニトロフェネチルアミンともいう。)の塩酸塩若しくは臭素酸塩、(4−ニトロフェニル)メチルアミンの塩酸塩の塩酸塩若しくは臭素酸塩が挙げられる。
【0015】
上記式(2)で表わされるカルボニル化合物としては、ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)カーボネート(炭酸ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)ともいう)、カルボニルジイミダゾールなどが挙げられる。ビス(4−ニトロ置換又は無置換フェニル)カーボネートとしては、好ましくはビス(4−ニトロフェニル)カーボネート、又はビス(4−フェニル)カーボネートが挙げられる。
上記の縮合反応は、有機溶媒中で行われるが、本発明者の知見によると、かかる反応溶媒は、縮合反応の速度に大きく影響し、その結果、反応の容積効率に大きく影響することが見出された。すなわち、反応溶媒として、アミド系溶媒を使用した場合には、テトラヒドロフラン、ケトン、アルコールなどの溶媒に比べて、縮合反応速度が大きく、従って、容積効率が極めて大きいことが判明した。この結果、例えば、反応溶媒としてテトラヒドロフランを使用する比較例1の容積効率と比べて、実施例1の容積効率は3.5〜4倍にも達する。
【0016】
本発明において、上記アミド系溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、へキサメチルリン酸トリアミドなどが挙げられるが、特にジメチルホルムアミドが好ましい。
ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩とカルボニル化合物とは、前者の1モルに対して、後者は、好ましくは0.4〜0.6モル、特に好ましくは0.45〜0.5モルが使用される。
上記アミド系溶媒は、ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩に対して、好ましくは0.5〜10質量倍、より好ましくは5.5〜6.5質量倍使用される。
上記縮合反応においては、好ましくは 触媒として、各種の塩基が使用される。かかる塩基の好ましい例としてしては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミンなどのトリアルキルアミン; 4−NN−ジメチルアミノピリジンなどが使用される。これらの塩基は、ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩の1モルに対して、後者は、好ましくは1.5〜6モル、特に好ましくは1.8〜2.2モルが使用される。
【0017】
上記の縮合反応における反応温度は、好ましくは30〜100℃の範囲、より好ましくは55〜65℃である。
具体的な縮合反応は、好ましくは下記のようにして実施される。すなわち、窒素などの不活性雰囲気中にて、ニトロフェニルアルキルアミンハロゲン酸塩、及び上記カルボニル化合物を反応溶媒であるジメチルホルムアミド中に溶解して溶液とし、該溶液に対して、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは55〜65℃にて、触媒であるトリエチルアミンが好ましくは撹拌しながら好ましくは5分〜10時間かけて徐々に添加される。必要に応じて、さらに上記の温度を維持しながら撹拌を続ける。かくして、縮合反応は進行し、上記式(3)で表わされる目的物であるニトロ化合物が製造される。
【0018】
得られたニトロ化合物を含む反応混合物に対して、該ニトロ化合物に対する貧溶媒である低級アルコールが添加される。低級アルコールとしては、炭素数が好ましくは1〜3のアルコール、より好ましくはメタノール、エタノールが使用される。低級アルコールは、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは55〜65℃にて、好ましくは5分〜10時間かけて徐々に添加される。
次いで、得られるニトロ化合物の低級アルコール溶液は、好ましくは0〜10℃に冷却することにより晶析される。晶析により得られたニトロ化合物は、必要に応じて、好ましくは低級アルコールにより洗浄し、乾燥せしめられる。
【0019】
なお、得られたニトロ化合物からビスアミノアルキルフェニルウレアを製造する場合は、本発明では、反応溶媒として、低級アルコールが使用されるので、上記で得られたニトロ化合物の低級アルコール溶液から、ニトロ化合物を晶析して単離することなく、そのまま、次工程において使用することが可能である。
【0020】
B:ニトロ化合物を還元してビスアミノフェニルウレアを製造する工程
かかる工程は、下記の反応式によって表わされる。
【化4】
【0021】
上記のように、式(3)で表わされるニトロ化合物は、還元されて目的物である式(4)で表わされるビスアミノアルキルフェニルウレアが製造される。かかる還元反応も、溶媒中で行われるが、その場合の反応溶媒も、還元反応の速度に大きく影響し、反応の容積効率に大きく影響する。同時に、使用する溶媒によっては溶媒との反応副生物が生じる場合がある。
本発明では、反応溶媒として、低級アルコールが使用され、その結果、大きい容積効率が得られるとともに、溶媒との反応副生物が生じることはない。例えば、反応溶媒として一般的な有機溶媒である、テトラヒドロフランなどを使用した場合には、容積効率が小さいとともに、付加物である副生物が生じてしまう。
【0022】
上記の還元反応では好ましくは触媒が使用される。かかる触媒としては、一般に接触還元に用いられている金属触媒、例えばニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、コバルト、銅などを使用することができる。工業的にはパラジウム触媒を使用するのが好ましい。これらの触媒は、金属の状態でも使用することができるが、通常は、カーボン、硫酸バリウム、シリカゲル、アルミナ、セライトなどの担体表面に担持させて用いたり、また、ニッケル、コバルト、銅などはラネー触媒としても用いられる。
触媒の使用量は特に制限はないが、式(3)で表されるニトロ化合物に対して好ましくは0.01〜10質量%であり、通常、金属の状態で使用する場合は好ましくは2〜8質量%であり、担体に担持させた場合では好ましくは0.1〜5質量%である。
【0023】
還元剤としては、特に水素が好ましい。還元剤は、式(3)で表されるニトロ化合物の1モルに対して好ましくは1〜15モル、より好ましくは2〜10モル使用される。
反応溶媒の使用量は、ニトロ化合物に対して好ましくは4〜30質量倍、好ましくは7.5〜8.5質量倍である。反応温度は、好ましくは40〜60℃、特に45〜55℃が好ましい。また反応圧力は、好ましくは0〜1MPa‐G(ゲージ圧)、より好ましくは0.1〜0.4MPa‐Gである。具体的な還元反応は、好ましくは下記のようにして実施される。すなわち、オートクレーブなどの反応器中に、出発原料であるニトロ化合物、還元触媒、及び反応溶媒である低級アルコールを仕込み、好ましくは40〜60℃にて、撹拌下に、還元剤である水素が導入され、好ましくは1〜20時間、撹拌される。反応の終点は水素吸収量によっても、あるいは薄層クロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーなどによっても決定できる。
【0024】
かくして式(3)で表されるニトロ化合物は還元され、ビスアミノフェニルアルキルウレアが製造される。生成したビスアミノフェニルアルキルウレアはそのまま回収してもよいが、より純度を高めるために、好ましくは、ヒドラジンで処理することができる。ヒドラジンは、ビスアミノフェニルアルキルウレアを含む低級アルコール溶液を好ましくは4.5〜5.5℃に保持し、ビスアミノフェニルアルキルウレアの1モルに対して好ましくは0〜0.3モル、より好ましくは、0.15〜0.25モル添加し、好ましくは1分〜1時間撹拌することにより行われる。
【0025】
このようにして得られた式(4)で表わされるビスアミノフェニルアルキルウレアを含む低級アルコール溶液から、目的であるビスアミノフェニルアルキルウレアが回収されるが、この回収は、既存の方法にておこなうことができる。すなわち、ビスアミノフェニルアルキルウレアを含む低級アルコール溶液を濾過し洗浄し、使用した触媒などを除去する。濾液から目的物を晶析するために貧溶媒を添加し、晶析によりビスアミノフェニルアルキルウレアが回収される。この場合の貧溶媒としては、イソプロパノール、ブタノールなどが使用される。
【0026】
本発明によれば上記のようにして種々のビスアミノフェニルアルキルウレアが製造されるが、その例としては下記の式(1−4)〜式(1−10)で表わされるものが挙げられる。かかるビスアミノフェニルアルキルウレアのうち、式(1−6)、式(1−7)及び式(1−8)で表わされるものは、新規な化合物であり、本発明により初めて提供されるものである。
【0027】
【化5】
【0028】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
DMF:ジメチルホルムアミド
DMAP: 4−N,N−ジメチルアミノピリジン
THF:テトラヒドロフラン
BNPU: 1,3−ビス(4−ニトロフェニルエチル)ウレア
BAPU:1,3−ビス(4−アミノフェニルエチル)ウレア
【0029】
実施例1:BNPUの合成
500mLの四つ口フラスコに、4-ニトロフェネチルアミン塩酸塩 13.98g (69.0mmol)、ビスニトロフェニルカーボネート10.00g (32.9mmol)及びDMF 60gを仕込み、羽根攪拌下に、60℃に昇温し、トリエチルアミン 13.34g (131.5mmol)を59〜63℃で3〜5分かけて適下し、58〜62℃で2時間撹拌した。反応収率は94%であった。
次いで、メタノール 100gを10〜15分かけて滴下し、反応液を全溶させた。続いて、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、メタノール80gで洗浄し、減圧乾燥すると白色結晶 10.01g (純度99.7%) (収率86.0%)が得られた。
【0030】
この結晶は、1H NMR分析結果より、BNPUであることを確認した。
1H NMR (DMSO-d6, δppm) : 8.2 (d, J=8.6Hz, 4H), 7.5 (d, J=8.8Hz, 4H), 5.9 (t, J=5.6Hz, 2H), 3.3 (dt, J=6.8, 6.1Hz 4H), 2.8 (t, J=6.8Hz, 4H)
【0031】
上記実施例1における反応は、以下のとおりである。
【化6】
【0032】
比較例1
2000mLのジャケット付セパラブルフラスコに、4-ニトロフェネチルアミン塩酸塩 31.50g (155.4mmol)、DMAP 1.81g (14.8mmol)、トリエチルアミン 89.88g (888.3mmol) 及びTHF 338gを仕込み、羽根攪拌下に、60℃に昇温し、ビスニトロフェニルカーボネート22.51g (74.02mmol)をTHF225gに溶解した溶液を、57〜63℃で42分かけて滴下した。続いて、58〜62℃で4時間攪拌した。
【0033】
次いで、メチルイソブチルケトン 113g、水酸化ナトリウム 47.37g (1184mmol) を溶解した純水 450gを添加し、60℃にて攪拌後、水層を除去した。続いて、有機層を純水 450gを用いて洗浄し水層を除去する工程を、2回繰り返した。続いて、ヘプタン 225gを10〜15分かけて滴下した。20℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、メタノール113gで洗浄し、減圧乾燥するとBNPUの淡黄色結晶 22.70g (純度99.8%) (収率85.6%)が得られた。
【0034】
参考例
4−ニトロフェネチルアミン塩酸塩60g (396mmol)及びODB(オルトジクロロベンゼン)720gを仕込み、120℃でホスゲンガス(1.5〜2.2mol)を5〜6時間吹き込んだ。また、4−ニトロフェネチルアミン塩酸塩30g(148mmol)を水に溶解し、48%水酸化ナトリウム溶液を添加することによりフリー化し、ODB300mLで抽出したものを、先の溶液に添加した。
析出した結晶を濾化後、固体をジメチルホルムアミド800mlで再溶解し、水500gを添加した。再度析出した結晶を濾化後、減圧乾燥するとBNPUのクリム色結晶 48.7g (純度99.3%) (収率92%)が得られた。
【0035】
実施例2:
120mLのオートクレーブに、BNPU 6.01g (16.8mmol)、10%Pd/C(50%wet) 0.076g、活性炭 0.60g 及びメタノール 48gを仕込み、マグネチックスターラー攪拌下に、50℃に昇温し、0.3MPa−Gの水素ガス雰囲気下、50〜55℃で11時間攪拌した。
次いで、反応液にヒドラジン一水和物 0.17gを加え、50℃でろ過後、メタノール 12gで洗浄し、触媒と活性炭を除去した。反応液の3/4を、100mL四つ口フラスコに移し、強酸性H型イオン交換樹脂1.4gを添加し、50℃で1時間攪拌し、ろ過後、メタノール 9gで洗浄した。この反応液の2/3を、イソプロパノール 12gを添加した後に、120〜150Torr,40℃で15gまで濃縮し、イソプロパノール 15gを滴下した。続いて、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、イソプロパノール6gで洗浄し、減圧乾燥するとBAPUの白色結晶 2.18g (純度99.2%) (収率86.5%)が得られた。なお、上記活性炭は、生成物の着色を防ぐため、また、イオン交換樹脂は、含有金属を除去するために使用した。
【0036】
この結晶は、1H NMR分析結果より、BAPUであることを確認した。
1H NMR (DMSO-d6, δppm) : 6.8 (d, J=7.8Hz, 4H), 6.5 (d, J=7.6Hz, 4H), 5.8 (t, J=5.4Hz, 2H), 3.8 (dt, J=6.6, 6.4Hz 4H), 2.5 (t, J=6.9Hz, 4H)
尚、結晶の金属分析では、Na、K、Al、Ca、Cr、Cu、Mg、Mn、Ni、Fe、Pd、Znはいずれも1ppm未満であることを確認した。
【0037】
上記実施例における反応は、以下のとおりである。
【化7】
【0038】
比較例2
2000mLのオートクレーブに、BNPU 18.06g (50.3mmol)、5%Pd/c(50%wet) 0.90g、活性炭 1.80g 及びTHF 540gを仕込み、羽根攪拌下に、40℃に昇温し、0.3MPa−Gの水素ガス雰囲気下、40〜46℃で2時間攪拌した。
次いで、反応液を40℃でろ過後、THF 54gで洗浄し、触媒と活性炭を除去した。反応液を、1000mLの四つ口フラスコに移し、羽根攪拌下に、ヘプタン 180gを10〜15分かけて滴下した。続いて、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、THF 25.2g とヘプタン10.8gの混合溶媒で洗浄し、減圧乾燥するとBAPUの白色結晶 19.38g (純度99.3%) (収率85.2%)が得られた。
なお、結晶の金属分析では、Na,K,Al,Ca,Cr,Cu,Mg,Mn,Ni,Fe,Pd,Znいずれも1ppm未満であることを確認した。
【0039】
実施例3
500mLの四つ口フラスコに、4-ニトロフェネチルアミン塩酸塩 21.07g (104mmol)、カルボニルジイミダゾール8.02g (49.3 mmol)及びDMF 90gを仕込み、羽根攪拌下に、60℃に昇温し、トリエチルアミン 19.97g (197.2mmol)を57〜63℃で3〜5分かけて滴下した。続いて、DMAP 1.21g (6.6mmol)を添加し、58〜62℃で5時間攪拌した。
次いで、メタノール 150gを10〜15分かけて滴下し、反応液を全溶させた。続いて、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、メタノール120gで洗浄し、減圧乾燥するとBNPU白色結晶 14.8g (純度100%) (収率84.2%)が得られた。
【0040】
実施例4
500mLの四つ口フラスコに、4-ニトロフェネチルアミン塩酸塩 14.08g (69.5mmol)、ジフェニルカーボネート7.07g (33.0mmol)及びDMF 60gを仕込み、羽根攪拌下に、60℃に昇温し、トリエチルアミン 40.03g (395.6mmol)を59〜68℃で3〜5分かけて滴下した。続いて、DMAP 0.80g (6.6mmol)を添加し、58〜62℃で5時間攪拌した。
次いで、メタノール 100gを10〜15分かけて滴下し、反応液を全溶させた。続いて、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過後、メタノール80gで洗浄し、減圧乾燥するとBNPUの極薄い淡黄色結晶 9.80g (純度100%) (収率82.9%)が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により製造されたビスアミノフェニルアルキルウレアは、種々の用途に使用できるが、なかでも、テトラカルボン酸二水物などのテトラカルボン酸誘導体と縮重合反応させて得られるポリアミック酸や該ポリアミック酸をイミド化したポリイミドなどは、液晶表示素子に用いられる液晶配向膜を作製するための重合体の原料として有用である。
なお、2010年4月30日に出願された日本特許出願2010−105935号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。