(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5790766
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20150917BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20150917BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
C30B29/06 502G
C30B29/06 502B
C30B15/00 Z
C30B15/10
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-531018(P2013-531018)
(86)(22)【出願日】2012年8月2日
(86)【国際出願番号】JP2012004903
(87)【国際公開番号】WO2013031091
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-190680(P2011-190680)
(32)【優先日】2011年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 明浩
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】徳江 潤也
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−297994(JP,A)
【文献】
特開2009−091233(JP,A)
【文献】
特開2004−189557(JP,A)
【文献】
特開2010−208908(JP,A)
【文献】
特開2007−001819(JP,A)
【文献】
特開2010−030816(JP,A)
【文献】
特開2008−280212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする原料溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記原料溶融工程後、前記引き上げ工程前に、磁場を印加しながら、所定のルツボの回転数、ガス流量、炉内圧で放置して前記ルツボ表面にクリストバライトを発生させるクリストバライト化工程、及び
前記クリストバライト化工程よりルツボの回転数の高速化、ガス流量の増加、及び炉内圧の低下のいずれか一つ以上を行うことにより前記クリストバライトを一部溶解する溶解工程を1時間以上9時間以下で行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記溶解工程において、前記クリストバライト化工程と同じ磁場を印加することを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記クリストバライト化工程において、ルツボの回転数を3rpm以下に調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記クリストバライト化工程において、ガス流量を250L/min以下に調整することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記クリストバライト化工程において、炉内圧を80hPa以上に調整することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記クリストバライト化工程を1時間以上行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記溶解工程において、ルツボの回転数を5rpm以上に高速化することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記溶解工程において、ガス流量を300L/min以上に増加することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記溶解工程において、炉内圧を70hPa以下に低下することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記クリストバライト化工程か、前記溶解工程か、前記クリストバライト化工程かつ前記溶解工程かにおいて印加する磁場を水平磁場とし、中心磁場強度を3000ガウス以上5000ガウス以下とすることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶の育成にはチョクラルスキー法が広く採用されている。その中でも、石英ルツボ内のシリコン融液の対流を抑制するためシリコン融液に対して磁場を印加するMCZ法(磁場印加チョクラルスキー法)が知られている。MCZ法では、石英ルツボ内に多結晶シリコンを収容し、石英ルツボ内で多結晶シリコンをヒーターにより溶融する溶融工程と、シリコン融液の融液表面に種結晶を上から接触させ、コイルによりシリコン融液に磁場を印加しながら種結晶と石英ルツボを回転、上下移動させて種結晶を引き上げる引き上げ工程とを行うことによりシリコン単結晶を育成する。
【0003】
シリコン融液を収容するための石英ルツボは、アモルファス構造をとる非晶質SiO
2(石英ガラス)より構成されている。石英ルツボはシリコン融液と反応し、SiO
2/Si界面、すなわちシリコン融液と接する石英ルツボの内表面に結晶質SiO
2であるクリストバライト結晶層が形成される。シリコン単結晶引き上げ中にクリストバライト結晶層は剥離し、石英ルツボからシリコン融液中に遊離あるいは落下して引き上げ中のシリコン単結晶成長界面に到達することがある。その結果、引き上げ中のシリコン単結晶に入り込んでシリコン単結晶の有転位化の原因となる。
【0004】
そこで、シリコン単結晶引き上げ過程における石英ルツボの内表面のクリストバライトの剥離を防止して、シリコン単結晶の有転位化を回避するため、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1においては、内表面側にアルミニウム低濃度層を有する石英ルツボを用いて、シリコン融液に磁場を印加しながらシリコン単結晶の育成をする方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、石英ルツボにアルミニウム低濃度層(不純物層)を形成するためシリコン単結晶中にこの不純物が含有されることが問題となる。シリコン単結晶中に不純物が含有されればデバイスへの影響が懸念されるので、石英ルツボ内表面に不純物層を形成することは好ましくない。特に、高純度化が望まれる次世代デバイスではより好ましくない解決手段である。
【0006】
また、特許文献2には、クリストバライトの大きさを制御するためにシリコン融液に磁場を断続的に印加することが記載されている。しかしながら、シリコン融液に磁場を断続的に複数回印加するためにはコイルの励磁、消磁の作業を繰り返す必要があり、煩わしいと同時に作業ミスの危険性が高まる。その上、コイルの励磁、消磁を繰り返すことでシリコン単結晶を製造していない無駄な時間が長時間化し、非効率となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−30816号公報
【特許文献2】特開2001−240494号公報
【特許文献3】特開平10−297994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、シリコン単結晶を製造する際に転位の発生を抑制するシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、ルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする原料溶融工程と、前記シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する引き上げ工程とを有するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記原料溶融工程後、前記引き上げ工程前に、磁場を印加しながら、所定のルツボの回転数、ガス流量、炉内圧で放置して前記ルツボ表面にクリストバライトを発生させるクリストバライト化工程、及び
前記クリストバライト化工程よりルツボの回転数の高速化、ガス流量の増加、及び炉内圧の低下のいずれか一つ以上を行うことにより前記クリストバライトを一部溶解する溶解工程を行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0010】
このようなシリコン単結晶の製造方法であれば、一度クリストバライトを発生させたルツボ表面を敢えて適度に溶解して理想のルツボ表面状態を作り出すことで、転位の発生を抑制するシリコン単結晶の製造方法となる。
【0011】
また、前記溶解工程において、クリストバライト化工程と同じ磁場を印加することができる。
【0012】
このようにクリストバライト化工程と磁場の印加はそのままで、ルツボの回転数の高速化等を行うだけでクリストバライトを一部溶解することもできるので、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮することができる。
【0013】
さらに、前記クリストバライト化工程において、ルツボの回転数を3rpm以下に調整することが好ましく、ガス流量を250L/min以下に調整することが好ましく、また炉内圧を80hPa以上に調整することが好ましい。
【0014】
このように調整することで適度にクリストバライトが発生し有転位化を一層効果的に回避できる。
【0015】
また、前記クリストバライト化工程を1時間以上行うことが好ましい。
【0016】
このような時間であれば、ルツボ表面にクリストバライトを形成させるのに十分な時間となり、また効率の観点からも十分に短い時間となる。
【0017】
さらに、前記溶解工程において、ルツボの回転数を5rpm以上に高速化することが好ましく、ガス流量を300L/min以上に増加することが好ましく、また炉内圧を70hPa以下に低下することが好ましい。
【0018】
このように調整することで適度にクリストバライトを溶解し有転位化を一層効果的に回避できる。
【0019】
また、前記溶解工程を1時間以上9時間以下で行うことが好ましい。
【0020】
このように、溶解工程の時間が1時間以上であればクリストバライトが剥離しない程度にまで十分に溶解することができ、また剥離したとしても剥離したクリストバライトは固液界面に到達する前にシリコン融液中に溶解するのに十分な薄さとなる。また、溶解工程の時間が9時間以下であれば、発生させたクリストバライトが全て溶解して新たなクリストバライトの核形成が生じることを回避できる。
【0021】
さらに、前記クリストバライト化工程か、前記溶解工程か、前記クリストバライト化工程かつ前記溶解工程かにおいて印加する磁場を水平磁場とし、中心磁場強度を3000ガウス以上5000ガウス以下とすることが好ましい。
【0022】
このように水平磁場を印加し、その中心磁場強度が3000ガウス以上であれば放置時間を短縮でき、効率が良い。一方、5000ガウスも印加すれば十分である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明のシリコン単結晶の製造方法であれば、一度クリストバライトを発生させたルツボ表面を敢えて適度に溶解して理想のルツボ表面状態を作り出すことで、シリコン単結晶成長における転位の発生を抑制することができる。また、磁場の印加はそのままで、ルツボの回転数の高速化等を行うだけでクリストバライトを一部溶解することができるので、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
特許文献2や特許文献3に開示されているように、シリコン融液に磁場を印加した環境下ではルツボ表面にクリストバライトが形成され、磁場の印加を止めた環境下では形成したクリストバライトはシリコン融液に徐々に溶解される。従来、このクリストバライトがシリコン融液中に剥離して育成中のシリコン単結晶の有転位化を招くことが問題であった。
【0026】
本発明者が、多結晶シリコンの溶融工程終了後に、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して1時間放置し、その後MCZ法にてシリコン単結晶を引き上げた後のルツボの表面のクリストバライトを観察したところ、いわゆるブラウンリングの中心付近にクリストバライトの剥離した跡が観察された。一方、多結晶シリコンの溶融工程終了後に、シリコン融液に4000ガウスの磁場を印加して1時間放置し、次にルツボの回転数の高速化、ガス流量の増加、炉内圧の低下のいずれかを行った後に、MCZ法にて結晶を引き上げた後のルツボの表面では、ブラウンリングは溶解しており観察されず、大部分がアモルファスシリカになってしまい、その中にまだらにクリストバライトが島状に形成されていた。
【0027】
この磁場を印加して放置した後すぐにMCZ法により育成されたシリコン単結晶と、磁場を印加して放置し、その後ルツボの回転数の高速化等を行った後にMCZ法により育成されたシリコン単結晶それぞれ10本について、有転位化が起こる回数を調べた。その結果、磁場を印加して放置したのみでは10本全てのシリコン単結晶で有転位化しているのに対し、さらにルツボの回転数の高速化等を行った場合では有転位化は認められなかった。
【0028】
これより、シリコン融液に磁場を印加して放置するのみでは、形成されたクリストバライトが引き上げ工程で剥離して、剥離したクリストバライトはシリコン融液中に溶け終わる前にシリコン単結晶成長中の固液界面に到達し、シリコン単結晶の有転位化を招くことが分かった。一方で、ルツボの回転数の高速化等によりクリストバライトを適度に溶解すると、引き上げ工程でのクリストバライトの剥離を抑制でき、シリコン単結晶を有転位化させないことが分かった。また仮にルツボからクリストバライトが剥離しても、適度に溶解されたクリストバライトは厚さが薄くなっているためシリコン単結晶の固液界面まで到達せずにシリコン融液中に溶解し、成長中のシリコン単結晶を有転位化させないことが分かった。
【0029】
さらに、磁場を印加して放置し、その後ルツボの回転数の高速化等を長時間にわたり行ってクリストバライトを完全に溶解した後に、シリコン単結晶を引き上げたときのルツボの表面では、再びブラウンリングが観察され、その中心付近にはクリストバライトの剥離した跡が観察された。これは、クリストバライトが全て溶解されるとルツボ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態に戻り、引き上げ工程の際に再度クリストバライトの核形成、成長及び剥離が起きることを示す。つまり、ルツボ表面にクリストバライトが残っているときにはクリストバライトの新たな核形成は起こりにくいが、表面全面がアモルファスシリカの状態では核形成が起きうることを示唆している。これより、クリストバライトを全て溶解すると、その後の結晶引き上げの際にシリコン単結晶が有転位化する可能性が高まることが分かった。
【0030】
そこで本発明者らは、上記知見に基づき、結晶引き上げ工程前のルツボ表面状態が、大部分がアモルファスシリカで、その中にまだらにクリストバライトが島状に形成されている状態であれば、育成中のシリコン単結晶の有転位化が抑制されるという考えに至った。そして、シリコン融液に対し磁場を印加して放置し、ルツボ表面にクリストバライトを形成させ、続いてルツボの回転数の高速化等を行うことでクリストバライトを適度に溶解させることで、クリストバライトが剥離せず、かつ、クリストバライトの新たな核形成が起きない理想のルツボ表面状態を作り出せることを見出した。さらに、ルツボの回転数等の制御は瞬時に行えるため、磁場の印加制御をする場合と比べて時間的なロスは発生せず、作業員の負荷も軽減されることを見出した。以上より、本発明者らはシリコン単結晶の有転位化を回避することができるシリコン単結晶の製造方法を見出し、本発明に想到した。以下詳細に説明する。
【0031】
本発明の原料溶融工程はルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とする工程である。この工程は溶融する多結晶シリコンの量等に応じて条件を設定し、一般に行われる多結晶シリコンの溶融法により行えばよい。
【0032】
本発明のクリストバライト化工程は原料溶融工程後に磁場を印加しながら、所定のルツボの回転数、ガス流量、炉内圧で放置して前記ルツボ表面にクリストバライトを発生させる工程である。この工程により、ルツボはシリコン融液と反応し、ルツボとシリコン融液の界面にクリストバライトが形成される。
【0033】
この際の放置条件としては、ルツボの回転数は3rpm以下に調整することが好ましく、またガス流量は250L/min以下に調整することが好ましく、炉内圧は80hPa以上に調整することが好ましい。このように調整することで適度にクリストバライトが発生し有転位化を一層回避できる。また、ルツボを均等に加熱するためにはルツボの回転数は0.1rpm以上であることが好ましい。さらに、炉内部品への酸化物付着を避けるためにはガス流量は100L/min以上であることが好ましい。また、減圧操業を行うためには炉内圧は300hPa以下であることが好ましい。
【0034】
また、クリストバライト化工程は1時間以上行うことが好ましい。磁場を印加して放置する時間が1時間以上であれば、ルツボ表面にクリストバライトを形成させるのに十分な時間となり、またシリコン単結晶を育成していない無駄な時間を必要以上に長くすることもなく、効率の観点からも十分に短い時間となる。また、磁場を印加した放置の最大時間を10時間とすることが好ましい。磁場を印加した放置時間が10時間以下であれば、ルツボ表面のクリストバライトの形成が進みすぎ、その後の溶解工程で十分に溶解できないことを回避できる。
【0035】
さらに、この際に印加する磁場を水平磁場とし、中心磁場強度が3000ガウス以上5000ガウス以下であることが好ましい。中心磁場強度が3000ガウス以上であれば放置時間を短縮でき、工業的に効率が良い。一方、5000ガウスも印加すれば十分である。
【0036】
本発明の溶解工程は、クリストバライト化工程後に、クリストバライト化工程よりルツボの回転数の高速化、ガス流量の増加、及び炉内圧の低下のいずれか一つ以上を行うことによりクリストバライトを一部溶解する工程である。このように、ルツボの回転数の高速化等のように簡便な方法でクリストバライトを一部溶解するので、他の煩雑な工程で作業員の負荷増大、ミス増大を招き時間的なロスが発生することを回避することができる。この工程により、ルツボ表面に形成されたクリストバライトは適度に溶解し、引き上げ工程中に剥離することが抑制されるため、クリストバライトに由来する有転位化を防ぐことができる。
【0037】
なお、この工程においてはクリストバライトを全て溶解しないようにする。クリストバライトが全て溶解しルツボ表面全面が初期のアモルファスシリカに近い状態になると、引き上げ工程に磁場を印加した場合には、新たにクリストバライトの核形成が起こりやすくなり、引き上げ工程中に新たに発生したクリストバライトが剥離し有転位化を引き起こす可能性がある。
【0038】
また、溶解工程ではクリストバライト化工程と同じ磁場を印加することが好ましい。このように同じ磁場を印加すれば、磁場の励磁、消磁、あるいは強弱等の操作をする必要がなく、シリコン単結晶を製造していない無駄な時間を短縮することができる。なお、この際に印加する磁場の強度はクリストバライト化工程と同じであり、印加する磁場を水平磁場とし、中心磁場強度が3000ガウス以上5000ガウス以下であることが好ましい。このような範囲であれば工業的に効率が良い。
【0039】
この工程において、ルツボの回転数を5rpm以上に高速化することが好ましく、ガス流量を300L/min以上に増加することが好ましく、また炉内圧を70hPa以下に低下することが好ましい。このように調整することで適度にクリストバライトを溶解し有転位化を一層回避できる。また、高速で回し過ぎると溶解の進行が速すぎて適度な溶解の制御が難しくなるので、ルツボの回転数は20rpm以下が好ましい。さらに、流量が大きすぎると溶解の進行が速すぎて適度な溶解の制御が難しくなるばかりか、経済的な観点からも無駄に流量を増やす必要はないので、ガス流量は500L/min以下で十分である。また、減圧し過ぎると溶解の進行が速すぎて適度な溶解の制御が難しくなるので、炉内圧は10hPa以上が好ましい。
【0040】
また、溶解工程の時間は、1時間以上9時間以下であることが好ましい。溶解工程の時間が1時間以上であればクリストバライトが剥離しない程度にまで十分に溶解することができ、また剥離したとしても剥離したクリストバライトは固液界面に到達する前にシリコン融液中に溶解するのに十分な薄さとなる。また、溶解工程の時間が9時間以下であれば、クリストバライトが全て溶解して、新たなクリストバライトの核形成が生じることを回避できる。
【0041】
本発明の引き上げ工程は、溶融工程後に、シリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることによりシリコン単結晶を育成する工程である。この工程は引き上げるシリコン単結晶の仕様に応じて条件を設定し、一般に行われるシリコン単結晶の引き上げ法により行えばよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1−1〜13、比較例1〕
ルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とし、中心磁場強度が4000Gaussの水平磁場を印加しながら、表1に示したルツボ回転数(rpm)、ガス流量(L/min)、炉内圧(hPa)で放置してルツボ表面にクリストバライトを発生させた(クリストバライト化工程)。次いで、比較例1以外は同じ水平磁場を印加しながら、ガス流量と炉内圧は変えないでルツボの回転数を表1に示すように高速化させてクリストバライトを一部溶解した(溶解工程)。最後にシリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることで直径300mmのシリコン単結晶を育成した。それぞれの条件で10本のシリコン単結晶を引き上げたときの有転位化回数を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
クリストバライト化工程のみの比較例1では10本全て有転位化した。これは溶解工程が行われなかったためクリストバライトが剥離して有転位化を招いたためと考えられる。一方で、実施例1−1〜13では有転位化回数を低減することができた。特に、実施例1−1〜3ではクリストバライト化工程のルツボ回転数は3rpm以下が好ましいことが示され、実施例1−4〜7ではクリストバライト化工程の時間は1時間以上10時間以下が好ましいことが示された。また、実施例1−8〜9では溶解工程のルツボ回転数は5rpm以上が好ましいことが示され、実施例1−10〜13では溶解工程の時間は1時間以上9時間以下が好ましいことが示された。
【0046】
特に、上記結果より3rpm以下の回転数で1時間以上放置してクリストバライト化工程を行い、次いで、5rpm以上の回転数で1時間以上9時間以下で溶解工程を行うことが好ましい。
【0047】
〔実施例2−1〜14、比較例2〕
ルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とし、中心磁場強度が4000Gaussの水平磁場を印加しながら、表2に示したルツボ回転数(rpm)、ガス流量(L/min)、炉内圧(hPa)で放置してルツボ表面にクリストバライトを発生させた(クリストバライト化工程)。次いで、比較例2以外は同じ水平磁場を印加しながら、ルツボの回転数と炉内圧は変えないでガス流量を表2に示すように増加させてクリストバライトを一部溶解した(溶解工程)。最後にシリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることで直径300mmのシリコン単結晶を育成した。それぞれの条件で10本のシリコン単結晶を引き上げたときの有転位化回数を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
クリストバライト化工程のみの比較例2では10本全て有転位化した。これは溶解工程が行われなかったためクリストバライトが剥離して有転位化を招いたためと考えられる。一方で、実施例2−1〜14では有転位化回数を低減することができた。特に、実施例2−1〜3ではクリストバライト化工程のガス流量は250L/min以下が好ましいことが示され、実施例2−4〜8ではクリストバライト化工程の時間は1時間以上10時間以下が好ましいことが示された。また、実施例2−9〜10では溶解工程のガス流量は300L/min以上が好ましいことが示され、実施例2−11〜14では溶解工程の時間は1時間以上9時間以下が好ましいことが示された。
【0050】
特に、上記結果より250L/min以下の流量で1時間以上放置してクリストバライト化工程を行い、次いで、300L/min以上の流量で1時間以上9時間以下で溶解工程を行うことが好ましい。
【0051】
〔実施例3−1〜15、比較例3〕
ルツボ内に収容された多結晶シリコンを溶融してシリコン融液とし、中心磁場強度が4000Gaussの水平磁場を印加しながら、表3に示したルツボ回転数(rpm)、ガス流量(L/min)、炉内圧(hPa)で放置してルツボ表面にクリストバライトを発生させた(クリストバライト化工程)。次いで、比較例3以外は同じ水平磁場を印加しながら、ルツボの回転数とガス流量は変えないで炉内圧を表3に示すように低下させてクリストバライトを一部溶解した(溶解工程)。最後にシリコン融液の融液面に種結晶を接触させ、上方に引き上げることで直径300mmのシリコン単結晶を育成した。それぞれの条件で10本のシリコン単結晶を引き上げたときの有転位化回数を表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
クリストバライト化工程のみの比較例3では10本全て有転位化した。これは溶解工程が行われなかったためクリストバライトが剥離して有転位化を招いたためと考えられる。一方で、実施例3−1〜15では有転位化回数を低減することができた。特に、実施例3−1〜3ではクリストバライト化工程の炉内圧は80hPa以上が好ましいことが示され、実施例3−4〜8ではクリストバライト化工程の時間は1時間以上10時間以下が好ましいことが示された。また、実施例3−9〜11では溶解工程の炉内圧は70hPa以下が好ましいことが示され、実施例3−12〜15では溶解工程の時間は1時間以上9時間以下が好ましいことが示された。
【0054】
特に、上記結果より80hPa以上の圧力(低真空)で1時間以上放置してクリストバライト化工程を行い、次いで、70hPa以下の圧力(高真空)で1時間以上9時間以下で溶解工程を行うことが好ましい。
【0055】
なお、上記では、ルツボの回転数の高速化、ガス流量の増加、及び炉内圧の低下をさせたときの場合を示したが、本発明はこれらを組み合わせて溶解工程を行うことができる。また、磁場に関してもクリストバライト化工程と溶解工程とで必ずしも同一の磁場強度にする必要はない。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。