【文献】
Miguel Orea, Margarita Alberdi, Armando Ruggiero, and Silvia Colaiocco,ALTERNATIVE CALIBRATION AND STANDARDIZATION PROCEDURE OF IATROSCAN TLC-FID FOR SARA HYDROCARBON CLASS QUANTIFICATION: APPLICATION TO TAR-MAT ZONE IDENTIFICATION.,Fuel Chemistry Division Preprints 2002,米国,2002年,47(2),P652-655,URL,https://web.anl.gov/PCS/acsfuel/preprint%20archive/Files/47_2_Boston_10-02_0184.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3工程において、前記薄膜クロマトグラフの表面を撮像し、画像解析装置によって画像解析することにより、前記複数の領域の面積を算出する、請求項1に記載の石油組成物の成分分析方法。
前記第4工程において、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分の質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データと、前記第1工程、第2工程及び第3工程を経て得られた前記石油組成物に関する面積の比率とを対比することにより、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する、請求項1又は2に記載の石油組成物の成分分析方法。
前記第3工程は、前記溶液を滴下した地点を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域に区画し、
前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の石油組成物の成分分析方法。
前記第3工程は、前記溶液を滴下した地点を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域の他に、前記領域B及び領域Cの2領域の範囲間にこれら2領域よりも明度の低い環状の領域Dが存在するか否かを確認する確認工程を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の石油組成物の成分分析方法。
前記確認工程において前記領域Dが存在しない場合には、前記第3工程において、前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出し、
前記確認工程において前記領域Dが存在する場合には、前記第3工程において、前記領域A及び領域Dをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A、領域B及び領域Dを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出する、請求項5に記載の石油組成物の成分分析方法。
前記演算装置は、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分に関する質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データを記憶している記憶部を有する、請求項7に記載の石油組成物の成分分析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、複数の原油を配合したものを原料とする石油精製プロセスにおいて、原料中における原油の配合比率は2〜5日で変動することがある。そのため、原油の切り替え時に、現場で簡易かつ短時間で原油のSARA成分比率を把握する手法が求められている。しかしながら、前述した石油組成物の分析手法は、これらの要望に十分に応えていない。
【0008】
すなわち、カラムクロマトグラフィ法は、分析過程で加熱するため飽和炭化水素や芳香族といった軽質分が蒸発しやすく、未回収成分が生じる。また測定時間に2日程度を要する上に、多量の溶媒を使用する。
TLC−FID法は、分析過程で加熱するため飽和炭化水素や芳香族といった軽質分が蒸発しやすく、分析結果に誤差が生じやすい。また、高価な装置が必要である。
高速液体クロマトグラフィ法は、複雑かつ高価な装置と装置スペースが必要となる。
特許文献1,2の方法及び装置では、石油組成物中におけるアスファルテン分の比率しか決定されない。
本発明は、上記実情に鑑み、簡易、短時間かつ省スペースにて、石油組成物中におけるSARA成分を分析する分析方法及び分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するために鋭意検討した結果、薄層クロマトグラフに石油組成物と特定の溶媒との混合溶液を滴下し、薄膜クロマトグラフ上の領域ごとの色の相違を詳細に解析することにより、SARA成分の質量比を特定できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合して溶液を得る第1工程、前記溶液を薄層クロマトグラフの表面に滴下した後、所定時間経過させることにより、前記溶液を前記薄膜クロマトグラフの面方向に移動させる第2工程、前記溶液が付着した前記薄膜クロマトグラフの色を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、並びに飽和分の存在する領域の面積を算出する第3工程、及び前記第3工程で得られた面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する第4工程、を有する、石油組成物の成分分析方法。
[2]前記第3工程において、前記薄膜クロマトグラフの表面を撮像し、画像解析装置によって画像解析することにより、前記複数の領域の面積を算出する、上記[1]に記載の石油組成物の成分分析方法。
[3]前記第4工程において、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分の質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データと、前記第1工程、第2工程及び第3工程を経て得られた前記石油組成物に関する面積の比率とを対比することにより、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する、上記[1]又は[2]に記載の石油組成物の成分分析方法。
[4]前記第3工程は、前記溶液を滴下した地点を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域に区画し、前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジンの存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出する、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の石油組成物の成分分析方法。
[5]前記第3工程は、前記溶液を滴下した地点を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域の他に、前記領域B及び領域Cの2領域の範囲間にこれら2領域よりも明度の低い環状の領域Dが存在するか否かを確認する確認工程を有する、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の石油組成物の成分分析方法。
[6]前記確認工程において前記領域Dが存在しない場合には、前記第3工程において、前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出し、前記確認工程において前記領域Dが存在する場合には、前記第3工程において、前記領域A及び領域Dをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A、領域B及び領域Dを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出する、上記[5]に記載の石油組成物の成分分析方法。
[7]石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合してなる溶液を滴下可能な滴下装置、前記滴下装置の下方に配置された薄層クロマトグラフ、前記薄膜クロマトグラフの表面を撮像可能な撮像装置、前記撮像装置で撮像された画像に基づいて、前記溶液が付着した前記薄膜クロマトグラフの色を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出可能な画像解析装置、前記画像解析装置で算出される面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する演算装置、を有する、石油組成物の成分分析装置。
[8]前記演算装置は、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分に関する質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データを記憶している記憶部を有する、上記[7]に記載の石油組成物の成分分析装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易、短時間かつ省スペースにて、石油組成物中におけるSARA成分を分析する分析方法及び分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[1]石油組成物の成分分析方法
本発明の実施形態に係る石油組成物の成分分析方法は、石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合して溶液を得る第1工程、前記溶液を薄層クロマトグラフの表面に滴下した後、所定時間経過させることにより、前記溶液を前記薄膜クロマトグラフの面方向に移動させる第2工程、前記溶液が付着した前記薄膜クロマトグラフの色を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、並びに飽和分の存在する領域の面積を算出する第3工程、及び前記第3工程で得られた面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する第4工程、を有する。
ここで、「4成分に関する質量比」とは、4成分の総てに関する質量比を意味し、好ましくは質量比「飽和分:(芳香族分及びレジン分の合計量):アスファルテン分」又は質量比「飽和分:芳香族:レジン分:アスファルテン分」を意味する。
【0014】
本実施形態に係る石油組成物の成分分析方法によれば、簡易、短時間かつ省スペースにて、石油組成物中におけるSARA成分を分析することができる。その理由は次のとおりであると考えられる。
【0015】
石油組成物中におけるSARA成分の極性の大きさは、「アスファルテン分(Asphaltene)>レジン分(Resin)>芳香族分(Aromatics)>飽和分(Saturate)」である。一方、シリカゲル等の薄層クロマトグラフ構成物質は、極性物質である。そのため石油組成物とパラフィン系溶媒を混合した溶液を薄層クロマトグラフ上に滴下する場合、SARA成分は、極性の低いものほど滴下ポイントから離れた位置まで移動する。
【0016】
従って、
図1〜
図3に示すとおり、極性の高いアスファルテン分1は、滴下ポイント11の近傍の領域Aに留まる。この際、アスファルテン分1は、パラフィン系溶媒の添加によって凝集体を形成しサイズが大きくなるため、シリカゲル等よりなる薄層クロマトグラフの内部には移動せず、表面に留まるものと考えられる。
また、レジン分2及び芳香族分3は、アスファルテン分1よりも極性が低いため、滴下ポイントの近傍の領域Aよりも外側の領域Bまで移動する。ここで、レジン分2及び芳香族分3は、同じ芳香族系物質かつ分子量が近いため、同じ領域に存在すると考えられる。なお、上記のとおりアスファルテン分1は、領域Aのうち薄層クロマトグラフの表面に留まるものと考えられるため、これらレジン分2及び芳香族分3は、アスファルテン分1の下部、すなわち領域Aのうち薄層クロマトグラフ内にも存在するものと考えられる。
更に飽和分4は、極性が最も低いため、レジン分2及び芳香族分3の存在する領域Bよりも外側の領域Cまで移動し、当該領域Cに存在するものと考えられる。
また、石油組成物中の上記SARA成分のうち、特定の成分の比率が高くなると、当該成分の存在する領域の面積が大きくなる。従って、上記領域A,B及びCの面積を求め、当該面積比に基づいて、4つのSARA成分に関する質量比を算出することができるものと考えられる。
【0017】
なお、
図4〜
図6は、石油組成物とパラフィン系溶媒を混合した溶液中にミセル構造20が残存している場合に、当該溶液を薄層クロマトグラフ10に滴下したときの様子を示している。
すなわち、レジン分の比率が高い原油又は飽和分4の比率が低い原油は、パラフィン系溶媒と例えば1:1の質量比で混合しても、総てのミセル構造20を崩壊できない場合がある。このミセル構造20は、極性の高いアスファルテン分がレジン分及び芳香族分に囲まれた構造を有している。このようにミセル構造20はアスファルテン分を含んでいるため、レジン分及び芳香族分を含む領域Bや飽和分を含む領域Cよりも暗い。従って、
図4〜
図6に示すように、ミセル構造20は領域Dとして検出可能と考えられる。
【0018】
ここで、石油組成物に対するパラフィン系溶媒の混合比率を増やすと領域Dがなくなり、且つアスファルテン分の凝集体が存在する領域Aの面積が増加する。このため、領域Dをミセル構造と推定することができる。従って、ミセル構造の存在する領域Dをアスファルテン分が存在する領域とみなすことにより、SARA成分の質量比を算出することができる。この点については、異なる実施形態として後述する。
また、パラフィン系溶媒の混合比率を増やしてミセル構造を総て崩壊させた溶液を用いて再度成分分析を行ってもよい。これにより、正確にSARA成分の質量比を算出することができる場合がある。ただし、溶液中におけるパラフィン系溶媒の混合比率が高すぎると、石油組成物が希釈され過ぎて、却って領域A〜Cが明確に区別できなくなる場合がある。その場合には、上記のとおりミセル構造をアスファルテン分とみなし、SARA成分の質量比を算出することが好ましい。
次に、本実施形態における各工程について説明する。
【0019】
[第1工程]
第1工程は、石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合して溶液を得る工程である。
このように石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合することにより、石油組成物中のSARA成分がパラフィン系溶媒中に良好に分散する。
【0020】
石油組成物としては特に制限はないが、原油、原油から精製される各種石油製品、石油半製品、残差油等が挙げられ、原油がより好ましい。
石油組成物は、飽和分(Saturate)、芳香族分(Aromatics)、レジン分(Resin)及びアスファルテン分(Asphaltene)の少なくとも1種を有するものであることが好ましく、少なくとも2種を有するものであることがより好ましく、少なくとも3種を有するものであることが更に好ましく、これら4種を含むものがより更に好ましい。
【0021】
パラフィン系溶媒としては特に制限はないが、好ましくは炭素数5〜10のパラフィンである。これらパラフィンは、飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分を良好に分離することができる。このパラフィン系溶媒は、当該観点から、より好ましくは炭素数5〜10の直鎖パラフィン、更に好ましくは炭素数5〜8の直鎖パラフィン、より更に好ましくはn−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタン及びn−オクタンの少なくとも1種であり、より更に好ましくはn−ヘプタンである。
【0022】
石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合してなる溶液中における、パラフィン系溶媒の含有量は、石油組成物の種類にもよるが、ミセル構造を崩壊させ、溶液を薄膜クロマトグラフに滴下したときにSARA成分を異なる領域に移動させる観点から、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは30〜70質量%、更に好ましくは45〜55質量%である。
【0023】
[第2工程]
第2工程は、前記溶液を薄層クロマトグラフの表面に滴下した後、所定時間経過させることにより、前記溶液を前記薄膜クロマトグラフの面方向に移動させる工程である。
【0024】
薄層クロマトグラフには特に制限はないが、石英ガラス板等の支持体に、石油組成物を移動させるための担体が塗布等により形成されたものが好ましい。
担体の種類には特に制限はないが、好ましくはシリカゲル、アルミナゲル、セルロース及び珪藻土、より好ましくはシリカゲル及びアルミナゲル、更に好ましくはシリカゲルである。
シリカゲルとしては、TLC/FID法によるアスファルト組成分析試験方法(JPI−5S−70−2010)で用いられるものと同様のものが好適に用いられる。
薄層の厚みにも特に制限はないが、シリカゲルの場合、好ましくは100〜1000μm、より好ましくは125〜500μm、更に好ましくは150〜250μmであり、アルミナの場合、好ましくは100〜1500μm、より好ましくは200〜250μmである。
薄膜の構成材料の細孔径は、シリカゲルの場合、好ましくは4〜6nmであり、アルミナの場合、6〜15nmである。
薄膜の構成材料の細孔容量は、シリカゲルの場合、好ましくは0.7〜0.8mL/gであり、アルミナの場合、好ましくは0.2〜0.3mL/gである。
薄膜の構成材料の粒度分布は、シリカゲルの場合、好ましくは1〜40μm、より好ましくは3〜20μm、更に好ましくは4〜8μmである。
薄膜の構成材料の平均粒径は、シリカゲルの場合、好ましくは1〜25μm、より好ましくは3〜15μm、更に好ましくは5〜7μmである。
【0025】
溶液の滴下量は、好ましくは1〜20μL、より好ましくは2〜15μL、更に好ましくは3〜10μLである。
滴下後の保持時間には特に制限はないが、例えば10〜60分である。このように本実施形態に係る成分分析方法によるとTLC/FID法(JPI−5S−70−2010)と比べて極めて短時間で成分分析を行うことが可能である。
【0026】
[第3工程]
第3工程は、前記溶液が付着した前記薄膜クロマトグラフの色を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジンの存在する領域の面積、並びに飽和分の存在する領域の面積を算出する工程である。
【0027】
第3工程において、前記薄膜クロマトグラフの表面を撮像装置等を用いて撮像し、画像解析装置によって画像解析することにより、前記複数の領域の面積を算出するのが好ましいが、これに限定されない。例えば、薄層クロマトグラフの表面又はその撮像された画像を目視して複数の領域を特定し、定規等を用いてこれら複数の領域の面積を算出してもよい。
色には、明度、彩度及び色相が存在する。第3工程での色の解析では、これら総てに基づいて解析しても良いが、明度に基づいて解析するのが簡易であり好ましい。
【0028】
この第3工程は、好ましくは
図1〜3に示すとおり、前記溶液を滴下した地点11を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域に区画し、前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出する工程である。
【0029】
すなわち、前述したとおり、
図1〜3において、極性の高いアスファルテン分1は、滴下ポイントの近傍の領域Aの表面に留まる。また、レジン分2及び芳香族分3は、滴下ポイントの近傍の領域A及びその外側の領域Bの薄層クロマトグラフ内に存在する。更に、飽和分4は、領域Bよりも外側の領域Cの薄層クロマトグラフ内に存在する。
そして、これら領域A、B及びCは、存在する成分が異なることに起因して色が相違するため、区別することができる。従って、これら領域A、B及びCの面積を測定することにより、アスファルテン分1の存在する領域の面積、レジン分2及び芳香族分3の存在する領域の面積、並びに飽和分4の存在する領域の面積を算出することができる。
【0030】
前記薄膜クロマトグラフの表面を撮像するための撮像装置には特に制限はなく、例えば市販のカメラやスマートフォンを用いることができる。
また、撮像された画像を解析するための画像解析装置にも特に制限はなく、例えば市販のパソコンやスマートフォンに、市販の画像解析アプリケーションをインストールしたものを用いることができる。
【0031】
[第4工程]
第4工程は、前記第3工程で得られた面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する工程である。
当該4成分のうち特定の成分の質量比が高くなると、薄膜クロマトグラフにおける当該成分が存在する領域の面積が大きくなる。従って、前記第3工程で得られた面積の比率に基づいて、これら4成分に関する質量比を算出することができる。
【0032】
この第4工程は、好ましくは、前記第4工程において、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分の質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データと、前記第1工程、第2工程及び第3工程を経て得られた前記石油組成物に関する面積の比率とを対比することにより、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する工程である。
【0033】
上記参照データは、次のような要領で取得するのが好ましい。
例えば、石油精製プラントにおいて、原料である原油は、原産地や入手時期等によってSARA成分が異なる。従って、予め当該複数の原油に関して、SARA成分の質量比を、前述のカラムクロマトグラフィ法、高速液体クロマトグラフィ法等により測定しておく。また、予め複数の原油に関して、前述の第1工程〜第3工程を得て、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジンの存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出しておく。そして、これら質量比と面積比とから、両者の相関関係を示す参照データを導出する。例えば、アスファルテン分に関して、複数の原油に関する面積と質量比に関するデータ(面積比、質量比)を収集し、これらデータに基づいて、アスファルテン分に関する面積比と質量比との間の近似式を算出する。同様に、芳香族分及びレジン分に関しても、これら2成分の合計に関する面積比と質量比との間の近似式を算出する。同様に、飽和分に関しても、面積比と質量比との間の近似式を算出する。
【0034】
そして、測定対象である原油に関して第1工程〜第3工程を実施し、得られたアスファルテン分の面積比をアスファルテン分に関する近似式に代入することにより、アスファルテン分の質量比を算出することができる。同様に、得られた芳香族分及びレジン分の面積比の合計を芳香族分及びレジン分に関する近似式に代入することにより、芳香族分及びレジン分の合計質量比を算出することができる。同様に、得られた飽和分の面積比を飽和分に関する近似式に代入することにより、飽和分の質量比を算出することができる。
【0035】
上記の要領では、芳香族分及びレジン分の合計質量比を算出している。すなわち、上記の要領では、「飽和分の質量比:(芳香族分及びレジン分の合計質量比):アスファルテン分の質量比」を算出している。しかしながら、これら芳香族分とレジンとが所定の質量比であると仮定して、4成分の各々の質量比、すなわち、「飽和分の質量比:芳香族分の質量比:レジン分の質量比:アスファルテン分の質量比」を算出してもよい。また、上記参照データの収集過程において、芳香族分及びレジンの質量比と、上記面積比との間に関係性を見出すことができる場合、当該関係性に基づいて、4成分の各々の質量比を算出してもよい。
なお、前記第2工程、第4工程及び第3工程のセットを複数セット行って、4成分に関する質量比を複数セット算出し、成分ごとに質量比に関する算出値を相加平均することにより、4成分に関する質量比を求めてもよい。
【0036】
[異なる実施形態に係る石油組成物の成分分析方法]
前述したとおり、石油組成物の種類及びパラフィン系溶媒の混合割合によっては、これらを混合してなる溶液中に、ミセル構造の一部が崩壊せずに残存することがある。よって、前記第3工程は、ミセル構造の残存の有無を確認する確認工程を有していてもよい。
すなわち、前記第3工程は、前記溶液を滴下した地点を中心とする円状の領域A、前記領域Aの外側に存在する環状の領域B、及び前記領域Bの外側に存在する環状の領域Cの合計3領域の他に、前記領域B及び領域Cの2領域の範囲間にこれら2領域よりも暗い環状の領域Dが存在するか否かを確認する確認工程を有していてもよい。
これにより、領域Dの有無に応じて後の操作を変えることができるため、SARAの4成分に関する質量比をより正確に算出することができる。
【0037】
上記確認工程を実施した結果、領域Dが存在しない場合には、前述の実施形態と同様の方法を実施することができる。すなわち、前記第3工程において、前記領域Aをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A及び領域Bを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出し、次いで前述の第4工程を実施するのが好ましい。
【0038】
一方、上記確認工程を実施した結果、前記領域Dが存在する場合には、前記第3工程において、前記領域A及び領域Dをアスファルテン分の存在する領域とし、前記領域A、領域B及び領域Dを芳香族分及びレジン分の存在する領域とし、前記領域Cを飽和分の存在する領域として、前記アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出し、次いで前述の第4工程を実施するのが好ましい。これにより、SARAの4成分に関する質量比をより正確に算出することができる。
なお、ミセル構造が存在する場合、
図5に示すとおり、ミセル構造20の左端(すなわち、環状の領域Dの外側の端部)は、レジン分2及び芳香族分3が存在する領域の外側の端部と一致する。そのメカニズムの詳細は不明であるが次のように推定される。ミセル構造は、極性の高いアスファルテン分がレジン分及び芳香族分に囲まれた構造を有している。従って、ミセル構造は、その表面成分であるレジン及び芳香族分と同様の成分を有する領域上を移動し易いものと推定される。また、ミセル構造は寸法が大きいために薄層クロマトグラフの内部に浸透することなく表面を移動するため、移動が容易であり、その結果、レジン分及び芳香族分が存在する領域の外側の端部にまで移動するものと推定される。更に、それよりも外側の領域Cは飽和分を含むのに対して、ミセル構造は飽和分を含まないため、領域C上までは移動し難いものと推定される。
【0039】
[2]石油組成物の成分分析装置
図7は、本実施形態に係る石油組成物の成分分析装置の模式図である。
本実施形態に係る石油組成物の成分分析装置は、石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合してなる溶液を滴下可能な滴下装置21、前記滴下装置21の下方に配置された薄層クロマトグラフ22、前記薄膜クロマトグラフ22の表面を撮像可能な撮像装置23、前記撮像装置23で撮像された画像に基づいて、前記溶液が付着した前記薄膜クロマトグラフの色を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、及び飽和分の存在する領域の面積を算出可能な画像解析装置24、前記画像解析装置24で算出される面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する演算装置25、を有する。
この演算装置25は、組成の異なる複数種の参照組成物に関する、前記4成分に関する質量比と前記面積比との相関関係を示す参照データを記憶している記憶部26を有することが好ましい。
なお、上記成分分析装置を構成する各種装置22〜24の詳細は、前述したとおりである。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実験例により、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0041】
実験例1
[カラムクロマトグラフィ法による成分分析]
カラムクロマトグラフィ法で原油をサンプルとした場合、軽質分は試験過程で蒸発し未回収分がおよそ30wt%〜40wt%生じる。そのため原油中のSARA成分の真の質量比はわからない。そこで収率の高い高速液体クロマトグラフィ(HPLC)法の結果からカラムクロマトグラフィ法で求められたSARA成分の質量比の未回収分を推測した。
すなわち、HPLC法でSARA分析を行った場合、クロマトグラフィ法とは異なり、SARA成分の回収率は90〜100wt%となる。非特許文献2では北海油田、西アフリカ、フランスの18種類の比重の異なる原油を用いてHPLC法でSARA分析を行っている。一般的に原油中のSARA成分の比重はアスファルテン分>レジン分>芳香族分>飽和分の序列で大きい。成分ごとに比重が異なるため、原油の比重とSARA成分の質量比は相関することが予想される。そこで非特許文献2のHPLC法によるSARA分析で求められた各SARA成分と原油の比重との相関を確認した。その結果を表1及び
図8に示す。
飽和分、芳香族分、レジン分は原油の比重と相関することが分かる。アスファルテン分は原油全体に占める割合が少ないため、原油の比重とは相関しにくいことが推測される。
【0042】
【表1】
【0043】
そこで、中東系の原油種が混合された原油17種類を用いて、JPI−5S−22−83に準拠し、カラムクロマトグラフィ法によってSARA成分分析を行った。
ここで、カラムクロマトグラフィ法による成分分析過程における加熱時に蒸発した未回収分は、軽質な飽和分または芳香族分であると考えられる。そこで、未回収分は飽和分及び芳香族分のみからなると想定し、且つ未回収分中における飽和分と芳香族分との質量比(飽和分:芳香族分)が100:0であると想定した場合における、飽和分及び芳香族分の補正結果を
図9に示す。また、当該グラフから算出した近似式を
図9中に示す。同様に、当該質量比(飽和分:芳香族分)が75:25及び50:50であると想定した場合の結果を、それぞれ
図10及び
図11に示す。その結果、当該質量比(飽和分:芳香族分)が100:0であると想定した場合における近似式のR
2(決定係数)が最も1に近い。
したがって、分析過程で生じる未回収分は総て飽和分とみなしてカラムクロマトグラフィ法による成分分析結果を補正する。その結果を、表2中の「カラムクロマトグラフィ法によるSARA分析」の欄に示す。
【0044】
[本発明による成分分析]
(1)石油組成物として、カラムクロマトグラフィ法で用いたものと同様の中東系の原油種が混合された原油17種類を用意した。また、薄層クロマトグラフィとして、Merck株式会社製のHigh Performance Thin Layer Chromatographyを用意した。
(2)各原油に関して、原油5gとパラフィン系溶媒としてn−ヘプタン5gをサンプル瓶内で室温(25℃)にて混合した。
(3)次いで、サンプル瓶を室温(25℃)で100回振って撹拌した後、15分間静置して、溶液を得た。
(4)得られた溶液を室温(25℃)でガラスシリンジで5μL採取し、薄層クロマトグラフの高さ5mmの位置から薄層クロマトグラフ上に滴下し、3分間静置した。
(5)次いで、薄層クロマトグラフの表面をスマートフォン(画素数:800万pixel)で撮像し、スマートフォンの画像解析アプリケーション(栗田工業株式会社製、商品名「TLC Analyzer」)を用いて256階調にグレースケール化した。そして、70階調以下の領域を
図1における領域A、71階調以上かつ170階調以下の領域を
図1における領域B、170〜230階調の領域を
図1における領域Cとして、領域A〜Cの面積を算出した。
領域Aをアスファルテンの存在する領域、領域A及びBを芳香族分及びレジンの存在する領域、領域Cを飽和分の存在する領域とした。また、芳香族分及びレジンの存在する領域A及びBにおいて、およそ75質量%が芳香族分であるとみなし、およそ25%がレジンであるとみなした。
このようにして、これら4成分の面積を算出した。
(6)上記(3)〜(5)の操作を合計4回行い、これらの相加平均により、これら4成分の面積(pixel数)を決定した。その結果を表2に示す。
(7)表2の結果に基づいて、成分ごとに、横軸を算出した面積、縦軸をカラムクロマトグラフィ法により得られた質量比として、プロットしたグラフを
図12に示す。なお、
図12においては、上記(6)で得られた面積(pixel数)において、16.16pixelを1mm
2として換算し、面積の単位を「mm
2」とした。
また、
図12中における等式は、算出した面積を各SARA成分の質量比に換算する近似式である。
【0045】
図12に示すように、各SARA成分比率に対して各領域面積をプロットすると、これらは比例相関することが分かる。従って、SARA成分比率が未知の原油に関して、前述の薄膜クロマトグラフィ分析を行って各成分の面積比を算出し、次いで当該面積比を、
図12に示す近似式に代入するだけで、SARA成分比率を簡易、短時間かつ省スペースにて算出できる。
【0046】
実験例2〜3
原料とn−ヘプタンの混合割合を、それぞれ6:4及び3:7(質量比)としたこと以外は実験例1と同様の操作を行った。その結果を、
図13(実験例2)、及び
図14(実験例3)に示す。
実験例1〜3のうち、実験例1が最も4成分のR
2(決定係数)の相加平均値が1に近く、SARA成分比率を精度良く算出できた。
【0047】
【表2】
【解決手段】石油組成物とパラフィン系溶媒とを混合して溶液を得る第1工程、前記溶液を薄層クロマトグラフの表面に滴下した後、所定時間経過させることにより、前記溶液を前記薄膜クロマトグラフの面方向に移動させる第2工程、前記溶液によって着色された前記薄膜クロマトグラフの場所による色の相違を解析することにより、アスファルテン分の存在する領域の面積、芳香族分及びレジン分の存在する領域の面積、並びに飽和分の存在する領域の面積を算出する第3工程、及び前記第3工程で得られた面積の比率に基づいて、前記石油組成物中に存在する飽和分、芳香族分、レジン分及びアスファルテン分の4成分に関する質量比を算出する第4工程、を有する、石油組成物の成分分析方法。