(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
厚み方向に対向する一方の面のフッ素濃度が他方の面のフッ素濃度より大きいガラス板であって、下式(1)を満たすガラス板。ここで、フッ素濃度は深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)である。
0.186≦ΔF/ΔH2O…(1)
式(1)中、ΔFは、フッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)からフッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)を減じた値である。
式(1)中、ΔH2Oは、フッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H2O濃度(mol%)からフッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H2O濃度(mol%)を減じた値の絶対値である。
厚み方向に対向する一方の面のフッ素濃度が他方の面のフッ素濃度より大きいガラス板であって、下式(2)を満たすガラス板。ここで、フッ素濃度は深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)である。
1≦x…(2)
式(2)中、xはSIMSによるF濃度プロファイルにおいて、任意の深さxi(μm)における傾きが下式(3)を満たす最大の深さ(μm)である。
[F(xi)−F(xi+0.1)]/0.1=−0.015…(3)
式(3)中、F(xi)は、深さxi(μm)におけるSIMSによるフッ素濃度(mol%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.ガラス板
本発明において、「ガラス板」とは、溶融硝子が板状に成型されているものも含み、たとえばフロートバス内のいわゆるガラスリボンもガラス板である。ガラス板の化学強化後の反りは、ガラス板の一方の面ともう一方の面において化学強化の入り方が異なることにより生じる。具体的には、例えば、フロートガラスの場合、フロート成形時に溶融錫と接触していないガラス面(トップ面)と溶融金属(通常、錫)と接触しているガラス面(ボトム面)において化学強化の入り方が異なることにより化学強化後の反りが生じる。
【0020】
本発明のガラス板によれば、典型的にはガラス板の一方の面がフッ化処理されていることにより、ガラス板の一方の面ともう一方の面におけるイオンの拡散速度を調整して、一方の面ともう一方の面におけるにおける化学強化の入り方を調整することができる。そのため、本発明のガラス板は、強化応力を調整したり、化学強化処理の前に研削および研磨等の処理をすることなく、化学強化後のガラス板の反りを低減することができる。
【0021】
ガラス板の表面をフッ化処理することにより化学強化後の反りが低減できるメカニズムとしては、以下のような現象が生じていると考えられる。
(1)ガラスの表面に取り込まれたフッ素により緩和が促進され、フッ素化処理された面のCS(compressive stress、表面圧縮応力)が低下する。
(2)ガラスの表面に取り込まれたフッ素によりイオン交換が阻害され、フッ素化処理された面のDOL(depth of layer、圧縮応力深さ)が低下する。
(3)フッ素化処理により、ガラスの脱アルカリが生じる。
(4)フッ素化処理によりガラス表面の主成分が変化し、ガラス中のSiがSiF
4またはH
2SiF
6としてガラス表面から減少するため、応力の入り方が変化する。
(5)フッ素化処理により、ガラス表面からの脱水が抑制されるかあるいは水が侵入することにより、反りが低減される。
【0022】
1A.反り改善のための適正なフッ素添加量を規定するパラメータ
ガラスの化学強化による反りは、トップ面およびボトム面における化学強化の入り方の違いに起因する。該化学強化の入り方の違いはガラスの中の水分量の影響を多分に受ける。ガラス表層にフッ素を添加することで種々の要因によって反りが改善されるが、ガラスに添加されるフッ素の適正量をトップ面およびボトム面における水分量の違いを考慮して下記パラメータを設定する。
【0023】
本発明のガラス板は、厚み方向に対向する一方の面のフッ素濃度が他方の面のフッ素濃度より大きいガラス板であって、下式(1)を満たすガラス板である。
0.07≦ΔF/ΔH
2O…(1)
【0024】
式(1)中、ΔFは、フッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)からフッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)を減じた値である。
【0025】
フッ素濃度は、SIMS装置でガラス中のフッ素濃度プロファイル測定を実施し、以下の手順(a1)〜(a3)により該プロファイルから算出する。
図7(a)〜(c)は典型的なソーダライムガラスのSIMSによるフッ素濃度プロファイルを示す。
(a1)濃度が既知の標準試料および測定対象サンプルのSIMSによるフッ素濃度プロファイルを測定する[
図7(a)]。
(a2)標準試料の測定結果から検量線を作成し、19F/30Siをフッ素濃度(mol%)に変換するための係数を算出する[
図7(b)]。
(a3)工程(a2)で算出した係数から測定対象サンプルのフッ素濃度(mol%)を求める。深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)は、深さ1〜24μmのフッ素濃度を積算し、前記係数である23で除した値である[
図7(c)]。
前記手順(a1)〜(a3)により深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)をガラスの厚さ方向に対向する両面について算出した値の差の絶対値がΔFとなる。
【0026】
式(1)中、ΔH
2Oは、フッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)からフッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)を減じた値の絶対値である。
【0027】
平均水分濃度(mol%)は、SIMS装置でガラス中のフッ素濃度プロファイル測定を実施し、以下の手順(b1)〜(b3)により該プロファイルから算出する。
図8(a)〜(c)は典型的なソーダライムガラスのSIMSによるH
2O濃度プロファイルを示す。
(b1)濃度が既知の標準試料および測定対象サンプルのSIMSによるH
2O濃度プロファイルを測定する[
図8(a)]。
(b2)標準試料の測定結果から検量線を作成し、1H/30SiをH
2O濃度(mol%)に変換するための係数を算出する[
図8(b)]。
(b3)工程(b2)で算出した係数から測定対象サンプルのH
2O濃度(mol%)を求める。深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)は、深さ1〜24μmのH
2O濃度を積算し、23で除した値である[
図8(c)]。
前記手順(b1)〜(b3)により深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)をガラスの厚さ方向に対向する両面について算出した値の差の絶対値がΔH
2Oとなる。
【0028】
前記工程(b2)において、標準試料中のH
2O濃度は、測定対象サンプルのトップ面およびボトム面ともに両面研磨し、ガラスの厚み方向に水分濃度の分布がないように加工したものについてFT−IR装置を用いてガラスのIRスペクトルを取得し、ガラス中の水に起因するピークの強度から水分濃度(mol%)を算出する。典型的なソーダライムガラスのIRスペクトルを
図9に示す。
【0029】
すなわち、ガラス中の水分濃度C
H2O(mol%)の算出は、式(i)に示すランベルト・ベールの法則とd:ガラスの比重(g/cm
3)、Mw:ガラスの平均分子量を用いて、式(ii)により求められる。
【0030】
A
H2O=ε
H2O×C×l…(i)
ε
H2O:ガラス中のH
2Oのモル吸光係数 (L mol−
1 cm
−1)
C:ガラス中H
2O濃度 (mol L
−1)
l:光路長(cm)
【0032】
図10に示すように、ΔF/ΔH
2Oとガラスの反り変位量は相関関係を示し、0.07≦ΔF/ΔH
2Oとすることにより、化学強化後の反りを効果的に抑制することができる。ΔF/ΔH
2Oは0.07以上であり、0.2以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。ΔF/ΔH
2Oが0.07未満であると、反りの変位に優位な差が見られないため不適である。
【0033】
1B.反り改善のためのフッ素侵入深さを規定するパラメータ
ガラス表層にフッ素を添加することで化学強化後の反りが改善されるが、フッ素の侵入深さをトップ面およびボトム面における水分量の違いを考慮して下記パラメータを設定する。
【0034】
本発明のガラス板は、厚み方向に対向する一方の面のフッ素濃度が他方の面のフッ素濃度より大きいガラス板であって、下式(2)を満たすガラス板である。
1≦x…(2)
式(2)中、xはSIMSによるフッ素濃度プロファイルにおいて、任意の深さx
i(μm)における傾きが下式(3)を満たす最大の深さ(μm)である。
[F(x
i)−F(x
i+0.1)]/0.1=−0.015…(3)
式(3)中、F(x
i)は、深さx
i(μm)におけるSIMSによるフッ素濃度(mol%)を示す。
【0035】
図11(a)に典型的なソーダライムガラスのSIMSによるフッ素濃度プロファイルを示す。
図11(b)は、横軸に深さ、縦軸に下式(a)で表される任意の点x
iにおける傾きをプロットしたグラフである。下式(a)において、Fxは点xにおけるフッ素濃度(mol%)を示す。
[F(x
i)−F(x
i+Δx)]/Δx…(a)
Δxを0.1とした場合に、式(a)で表される傾きが−0.0015となる最大の深さx(μm)は1以上であり、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。xが1未満であると、反りの変位に優位な差が見られない。
【0036】
図11(c)は、
図11(b)のグラフの点線部分を拡大した図である。例えば、
図11(c)において、Δxを0.1とした場合に、式(a)で表される傾きが−0.0015となる最大の深さx(μm)は6.5となる。
【0037】
二次イオン質量分析における元素Mの同位体M
1の二次イオン強度I
M1は、一次イオン強度I
P、マトリックスのスパッタ率Y、元素Mの濃度C
M(全濃度に対する比)、同位体M
1の存在確率α
1、元素Mの二次イオン化率β
M、および質量分析計の透過効率η(検出器の検出効率を含む)に比例する。
I
M1=A・I
P・Y・C
M・α
1・β
M・η (式1)
【0038】
ここで、Aは一次イオンビームの走査範囲に対する二次イオンの検出面積の比である。一般的には装置のηを求めるのは困難なためβ
Mの絶対値を求めることができない。そこで、同じ試料の中の主成分元素などを参照元素として用い、(式1)との比をとることによりηを消去する。
【0039】
ここで参照元素をR、その同位体をR
jとした場合、(式2)が得られる。
I
M1/I
Rj=(C
M・α
1・β
M)/(C
R・α
j・β
R)=C
M/K (式2)
ここでKは元素Mの元素Rに対する相対感度因子である。
K=(C
R・α
j・β
R)/(α
1・β
M) (式3)
この場合、元素Mの濃度は(式4)より求められる。
C
M=K・I
M1/I
Rj (式4)
【0040】
本発明においては、FはM
1に、SiはR
jにそれぞれ対応する。したがって、(式2)より両者の強度比(F/Si)はフッ素濃度C
MをKで除したものに等しい。すなわち、F/Siはフッ素濃度の直接的な指標である。
【0041】
二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry、SIMS分析)の分析条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。なお、以下で示す分析条件は例示であり、測定装置、サンプルなどによって適宜変更されるべきものである。また、SIMS分析によって得られる深さ方向プロファイルの横軸の深さは、分析クレーターの深さを触針式膜厚計(例えば、Veeco社製Dektak150)によって測定することで、求められる。
【0042】
(分析条件)
一次イオン種:Cs
+
一次イオン入射角:60°
一次加速電圧:5kV
【0043】
より具体的な分析条件としては、例えば、以下の条件が挙げられる。
(分析条件)
測定装置:四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置
一次イオン種:Cs
+
一次加速電圧:5.0kV
一次イオンカレント:1μA
一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60°
ラスターサイズ:200x200μm
2
検出領域:40x40μm
2
二次イオン極性:マイナス
中和用の電子銃使用:有
【0044】
四重極型質量分析器を有する二次イオン質量分析装置としては、例えば、アルバック・ファイ社製ADEPT1010が挙げられる。
【0045】
2.ガラス板の製造方法
本発明のガラス板の製造方法は特に限定されず、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができる。例えば、種々の原料を適量調合し、加熱溶融した後、脱泡または攪拌などにより均質化し、周知のフロート法、ダウンドロー法(例えば、フュージョン法など)またはプレス法などによって板状に成形し、徐冷後所望のサイズに切断、研磨加工を施して製造される。これらの製造方法の中でも、フロート法により製造されたガラスは、特に本発明の効果である化学強化後の反り改善が発揮され易いため、好ましい。
【0046】
本発明に用いられるガラス板としては、具体的には、例えば、典型的にはソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラスからなるガラス板が挙げられる。
【0047】
これらの中でも、Alを含む組成のガラスが好ましい。Alはアルカリが共存すると4配位をとってSiと同様にガラスの骨格となる網目の形成に参加する。4配位のAlが増えると、アルカリイオンの移動が容易になり、化学強化処理時にイオン交換が進行しやすくなる。
【0048】
ガラス板の厚みは、特に制限されるものではなく、たとえば2mm、0.8mm、0.73mm、0.7mmが挙げられるが、後述する化学強化処理を効果的に行うために、通常5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましく、0.8mm以下であることが特に好ましい。
【0049】
通常、厚み0.7mmのガラス板の化学強化後における反り量は40μm以下であることが求められる。90mm角のガラス板でCSが750MPa、DOLが40μmの場合、化学強化後の反り量は約130μmである。一方、化学強化後におけるガラス板の反り量は板厚の2乗と反比例の関係にあるので、ガラス板の厚みが2.0mmのときの反り量は約16μmとなり、実質的に反りが問題となることはない。したがって、ガラス板の厚み2mm未満、典型的には1.5mm以下で化学強化後における反りの問題が生じる可能性がある。
【0050】
本発明のガラス板の組成としては特に限定されないが、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0〜25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意であり、ソーダライムシリケートガラスは(i)のガラスに含まれる。なお、ソーダライムシリケートガラスとはモル%表示でSiO
2を69〜72%、Al
2O
3を0.1〜2%、Na
2Oを11〜14%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜8%、CaOを8〜10%含有するガラスである。
(i)モル%で表示した組成で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を0.1〜25%、Li
2O+Na
2O+K
2Oを3〜30%、MgOを0〜25%、CaOを0〜25%およびZrO
2を0〜5%を含むガラスとしては、ソーダライムシリケートガラスや、モル%で表示した組成で、SiO
2を50〜80%、Al
2O
3を2〜25%、Li
2Oを0〜10%、Na
2Oを0〜18%、K
2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO
2を0〜5%を含むガラスが挙げられる。
(ii)モル%で表示した組成が、SiO
2を50〜74%、Al
2O
3を1〜10%、Na
2Oを6〜14%、K
2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO
2を0〜5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が75%以下、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiO
2を68〜80%、Al
2O
3を4〜10%、Na
2Oを5〜15%、K
2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO
2を0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiO
2を67〜75%、Al
2O
3を0〜4%、Na
2Oを7〜15%、K
2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO
2を0〜1.5%含有し、SiO
2およびAl
2O
3の含有量の合計が71〜75%、Na
2OおよびK
2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0051】
本発明のガラス板の製造方法では、ガラス板またはガラスリボンの少なくとも一面に対して、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を接触させて表面処理する。ガラスリボンの少なくとも一面に対して前記気体または液体を接触させて表面処理する場合、ガラスリボンの温度は650℃以上であることが好ましい。650℃以上とすることにより後述する凹部の発生を抑制しつつ、化学強化後のガラスの反り量を低減するのに十分なHF総接触量(後述)でHF吹き付け処理を実施しやすくなる。なお、以下ではガラス板という語をガラス板およびガラスリボンを総称するものとして用いることがある。
【0052】
その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体としては、例えば、フッ化水素(HF)、フロン(例えば、クロロフルオロカーボン、フルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハロン)、フッ化水素酸、フッ素単体、トリフルオロ酢酸、四フッ化炭素、四フッ化ケイ素、五フッ化リン、三フッ化リン、三フッ化ホウ素、三フッ化窒素、三フッ化塩素などが挙げられるが、これらの気体または液体に限定されるものではない。
【0053】
これらの中でも、フッ化水素、フロンまたはフッ化水素酸がガラス板表面との反応性が高い点で好ましい。またこれらのガスのうち、2種以上を混合して使用してもよい。また、フロートバス内では酸化力が強すぎるので、フッ素単体を使用しないことが好ましい。
【0054】
また液体を使用する場合は、液体のまま、例えば、スプレー塗布でガラス板表面に供給しても、液体を気化してからガラス板表面に供給してもよい。また必要に応じて他の液体または気体で希釈してもよい。
【0055】
その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体としては、それらの液体や気体以外の液体または気体を含んでいてもよく、常温でフッ素原子が存在する分子と反応しない液体または気体であることが好ましい。
【0056】
前記液体または気体としては、例えば、N
2、空気、H
2、O
2、Ne、Xe、CO
2、Ar、HeおよびKrなどが挙げられるが、これらのものに限定されるものではない。またこれらのガスのうち、2種以上を混合して使用することもできる。
【0057】
その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体のキャリアガスとしては、N
2、アルゴンなどの不活性ガスを用いることが好ましい。また、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体には、更にSO
2を含んでもよい。SO
2はフロート法などで連続的にガラス板を生産する際に使用されており、徐冷域において搬送ローラーがガラス板と接触して、ガラスに疵を発生させることを防ぐ働きがある。また、高温で分解するガスを含んでいてもよい。
【0058】
更に、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体には、水蒸気または水を含んでもよい。水蒸気は加熱した水に窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスをバブリングさせて取り出すことができる。大量の水蒸気が必要な場合は、気化器に水を送り込んで直接気化させる方法をとることも可能である。
【0059】
本発明のガラス板の製造方法の具体例としては、フロート法に代表されるガラス板を製造する方法が挙げられる。フロート法では、ガラスの原料を溶解する溶融炉と、溶融ガラスを溶融金属(錫等)上に浮かせてガラスリボンを成形するフロートバスと、該ガラスリボンを徐冷する徐冷炉とを有するガラス製造装置を用いてガラス板が製造される。
【0060】
溶融金属(錫)浴上でガラスが成形される際に、溶融金属浴上を搬送されるガラス板に対して、金属面に触れていない側からその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を供給して当該ガラス板表面を処理してもよい。溶融金属(錫)浴に続く徐冷領域では、ガラス板はローラー搬送により搬送される。
【0061】
ここで、徐冷領域とは、徐冷炉内だけではなく、上記溶融金属(錫)浴から搬出されてから徐冷炉内に搬送されるまでの部分も含むものである。徐冷領域においては溶融金属(錫)に触れていない側から当該ガスを供給してもよい。
【0062】
図5(a)にフロート法によるガラス板の製造において、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体を供給してガラス表面を処理する方法の概略説明図を示す。
【0063】
溶融ガラスを溶融金属(錫等)上に浮かせてガラスリボン101を成形するフロートバスにおいて、フロートバス内に挿入したビーム102により、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体を、該ガラスリボン101に吹き付ける。
図5(a)に示すように、該気体は、ガラスリボン101が溶融金属面に触れていない側からガラスリボン101に吹き付けることが好ましい。矢印Yaは、フロートバスにおいてガラスリボン101が流れる方向を示す。
【0064】
ビーム102によりガラスリボン101に前記気体を吹き付ける位置は、ガラス転移点が550℃以上の場合には、ガラスリボン101が好ましくは600〜900℃または650〜900℃、より好ましくは700℃〜900℃、さらに好ましくは750〜850℃、典型的には800℃の位置であることが好ましい。また、ビーム102の位置は、ラジエーションゲート103の上流であってもよいし、下流であってもよい。ガラスリボン101に吹きつける前記気体の量は、HFとして1×10
−6〜5×10
−4mol/ガラスリボン1cm
2であることが好ましい。
【0065】
図5(b)に
図5(a)のA−A断面図を示す。ビーム102によりY1の方向からガラスリボン101に吹き付けられた前記気体は、「IN」から流入して、「OUT」の方向から流出する。すなわち、矢印Y4およびY5の方向に移動して、ガラスリボン101に曝露する。また、矢印Y4の方向に移動した該気体は矢印Y2の方向から流出し、矢印Y5の方向に移動した該気体は矢印Y3の方向から流出する。
【0066】
ガラスリボン101の幅方向の位置によって化学強化後におけるガラス板の反り量が変化する場合もあり、そのような場合は、前記気体の量を調整することが好ましい。すなわち、反り量が大きい位置には該気体を吹きつける量を多くし、反り量が少ない位置には該気体を吹きつける量を少なくすることが好ましい。
【0067】
ガラスリボン101の位置によって化学強化後におけるガラス板の反り量が変化する場合には、ビーム102の構造を、ガラスリボン101の幅方向で前記気体量を調整可能な構造とすることにより、ガラスリボン101の幅方向で反り量を調整してもよい。
【0068】
具体例として、前記気体の量をガラスリボン101の幅方向110をI〜IIIで3分割して調整するビーム102の断面図を
図6(a)示す。ガス系統111〜113は、隔壁114,115によって分割されており、それぞれガス吹き穴116から該気体を流出させて、ガラスに吹き付ける。
【0069】
図6(a)における矢印は気体の流れを示す。
図6(b)における矢印は、ガス系統111における気体の流れを示す。
図6(c)における矢印は、ガス系統112における気体の流れを示す。
図6(d)における矢印は、ガス系統113における気体の流れを示す。
【0070】
ガラス板にその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体をガラス表面に供給する方法としては、例えば、インジェクタを用いる方法、および導入チューブを用いる方法等が挙げられる。
【0071】
本発明で用いることのできるガラス板の表面処理に用いるインジェクタの模式図を
図1および
図2に示す。
図1は、本発明で用いることのできる両流しタイプのインジェクタを模式的に示す図である。
図2は、本発明で用いることのできる片流しタイプのインジェクタを模式的に示す図である。
【0072】
インジェクタより供給される「その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体」が気体である場合、インジェクタの気体吐出口とガラス板との距離は50mm以下であることが好ましい。
【0073】
前記距離を50mm以下とすることにより、気体が大気中に拡散するのを抑制し、所望するガス量に対して、ガラス板に十分量のガスを到達させることができる。逆にガラス板との距離が短すぎると、例えばフロート法で生産されるガラス板にオンラインで処理をする際に、ガラスリボンの変動により、ガラス板とインジェクタが接触する恐れがある。
【0074】
またインジェクタより供給される「その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体」が液体である場合、インジェクタの液体吐出口とガラス板との距離には特段の制限がなく、ガラス板が均一に処理できるような配置であればよい。
【0075】
インジェクタは、両流しまたは片流しなど、いずれの態様で用いてもよく、ガラス板の流れ方向に直列に2個以上並べて、ガラス板表面を処理してもよい。両流しインジェクタとは、
図1に示す通り、吐出から排気へのガスの流れがガラス板の移動方向に対して、順方向と逆方向に均等に分かれるインジェクタである。
【0076】
片流しインジェクタとは、
図2に示す通り、吐出から排気へのガスの流れがガラス板の移動方向に対して順方向もしくは逆方向のいずれかに固定されるインジェクタである。片流しインジェクタを使用するときは、気流安定性の点でガラス板上のガスの流れとガラス板の移動方向が同じであること方が好ましい。
【0077】
また、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体の供給口と、未反応のその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体ならびにガラス板と反応して生成する気体、またはその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体のうち2種以上のガスが反応して生成する気体の排気口とが、ガラス板の同じ側の面に存在することが好ましい。
【0078】
搬送されているガラス板表面に対してその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を供給して表面処理をするにあたっては、例えば、ガラス板がコンベヤーの上を流れている場合は、コンベヤーに触れていない側から供給してもよい。また、コンベヤーベルトにメッシュベルトなどのガラス板の一部が覆われていないメッシュ素材を用いることにより、コンベヤーに触れている側から供給してもよい。
【0079】
また2つ以上のコンベヤーを直列に並べて、隣り合うコンベヤーの間にインジェクタを設置することにより、コンベヤーに触れている側から当該ガスを供給してガラス板表面を処理してもよい。また、ガラス板がローラーの上を流れている場合は、ローラーに触れていない側から供給してもよいし、ローラーに触れている側において、隣り合うローラーの間から供給してもよい。
【0080】
ガラス板の両方の側から同じまたは異なるガスを供給してもよい。例えば、ローラーに触れていない側と、ローラーに触れている側の両方の側からガスを供給してガラス板を表面処理してもよい。例えば、徐冷領域で両方の側からガスを供給する場合は、連続的に搬送されているガラスに対してインジェクタを、ガラス板を挟んで向かい合うように配置して、ローラーに触れていない側とローラーに触れている側の両方の側からガスを供給してもよい。
【0081】
ローラーに触れている側に配置されるインジェクタと、ローラーに触れていない側に配置されるインジェクタは、ガラス板の流れ方向に異なる位置に配置してもよい。異なる位置に配置するにあたっては、いずれがガラス板の流れ方向に対して上流に配置されても、下流に配置されてもよい。
【0082】
フロート法によるガラス製造技術とCVD技術を組み合わせて、オンラインで機能膜付きガラス板が製造されていることは広く知られている。この場合透明導電膜及びその下地膜については、いずれも錫に触れていない面から、もしくは、ローラーに触れていない面からガスを供給して、ガラス板上に製膜されることが知られている。
【0083】
例えば、このオンラインCVDによる機能膜付きガラス板の製造において、ローラーに触れている面にインジェクタを配置して、そのインジェクタからガラス板にその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を供給してガラス板表面を処理してもよい。
【0084】
本発明においては、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を搬送中のガラス板の表面に供給して該表面を処理する際のガラス板の温度は、該ガラス板のガラス転移温度をTgとした場合に、ガラス板の表面温度が(Tg−200℃)〜(Tg+300℃)であることが好ましく、(Tg−200℃)〜(Tg+250℃)であることがより好ましい。なお、以上にかかわらずガラス板の表面温度は(Tg+300℃)以下である限り、650℃超であることが好ましい。後掲の実施例で示されるようにガラス板の表面温度が650℃以下で脱アルカリ処理すると凹部が発生しやすくなる。
【0085】
ガラス板における凹部の発生を抑制し、且つ化学強化後の反りの改善効果を得るためには、(Tg+90)℃以上であることが好ましい。本明細書において、凹部とはSEMにより視認できるガラス板の表面に発生する微小穴である。ガラス板に凹部が発生することにより、ガラス板の強度が低下する。
【0086】
凹部は典型的には、表面から深さ方向に縮径した後、略球状の袋状に広がった形状を示す。このような凹部の直径は、縮径部と袋状部の間のくびれ部分の直径を表し、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)等により観察することができる。凹部の深さは、ガラス表面から袋状部の最深部までの深さを表わし、断面SEM観察等により測定することができる。
【0087】
本発明における凹部は大きさまたは直径が10nm以上であるものをいい、通常は20nm以上であり、また典型的には直径が40nm以下である。凹部の深さはたとえば断面のSEM観察により測定されるが、その深さは通常10nm以上であり、また典型的には150nm以下である。
【0088】
F濃度が大きい方の表面に凹部が7個/μm
2超の密度で存在すると、化学強化されたガラス板の強度が低下するおそれがある。したがって、凹部が存在するとしてもその密度は6個/μm
2以下であることが好ましく、より好ましくは4個/μm
2以下であり、最も好ましくは0個/μm
2である。なお、凹部密度が6個/μm
2のときの凹部平均間隔は460nmである。
【0089】
凹部の有無を、HF総接触量(mol/cm
2)とHF処理温度(℃)に対してプロットすると、
図12に示すグラフのように相関関係を示す。
図12では、凹部未発生を○、凹部発生を×でプロットしている。
【0090】
ここで、HF総接触量とHF処理温度が下記式(a)を満たすことにより、HF処理による凹部は発生しないと考えられる。すなわち、(1)処理温度が低く(フッ化物の揮散速度が遅く)、(2)HF総接触量が多い(フッ化物の生成速度が速い)場合に、凹部がより発生しやすいと考えられる。
Y>81lnX+1500…式(a)
式(a)において、YはHF処理温度(℃)、XはHF総接触量(mol/cm
2)を表わし、Xは下記式(b)により求められ、同式中の処理時間とは、HFガスで処理する場合についていえば、HFガスがガラス板またはガラスリボンの表面と接触している時間である。
[HF総接触量(mol/cm
2)]=[HFガス濃度(体積%)]×[ガス流量(mol/s/cm
2)]×[処理時間(s)]…(b)
【0091】
図13にHF処理による凹部発生のメカニズムの説明図を示す。ガラスをHF処理することによりフッ化物の生成と揮散が生じ[
図13(a)]、HFと硝子の反応によるフッ化物の生成速度が、生成したフッ化物の揮散速度よりも早い場合に、生成したフッ化物が処理面に残存し[
図13(b)]、溶融したフッ化物がエッチングしながら結晶成長するとともに溶融塩が減少し[
図13(c)]、その結果最終生成物が凹部として観察される[
図13(d)]と考えられる。
【0092】
また、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体をガラス板表面に供給する際のガラス板表面の圧力は、大気圧−100パスカルから大気圧+100パスカルの圧力範囲の雰囲気であることが好ましく、大気圧−50パスカルから大気圧+50パスカルの圧力範囲の雰囲気であることがより好ましい。
【0093】
ガス流量について、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体としてHFを用いた場合を例として述べる。HFでガラス板を処理するにあたっては、HF流量が多いほど化学強化処理時の反り改善効果が大きいため好ましく、全ガス流量が同じ場合は、HF濃度が高いほど、化学強化処理時の反り改善効果が大きくなる。
【0094】
全ガス流量とHFガス流量の両方が同じ場合は、ガラス板を処理する時間が長いほど、化学強化処理時の反り改善効果が大きくなる。例えばガラス板を加熱した後に、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体を用いてガラス板表面を処理する場合、ガラス板の搬送速度が低いほど化学強化後の反りが改善する。全ガス流量やHF流量をうまくコントロールできない設備でも、ガラス板の搬送速度を適宜コントロールすることによって、化学強化後の反りを改善することができる。
【0095】
また、
図4に、導入チューブを用いてその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体をガラス板に供給する方法の模式図を示す。導入チューブを用いてその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体をガラス板に供給する方法としては、具体的には、例えば、予め、処理温度で加熱しておいた管状炉60中央に設置した反応容器61内にサンプル乗せ台車62に乗せたガラス板のサンプル63を、スライダー64を動かすことにより移動させる。
【0096】
次に好ましくは60〜180秒間均熱化処理を行なった後、導入チューブ65からその構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体を導入方向67の方向で導入して保持し、排気方向68から排気する。保持時間終了後、サンプル63をサンプル取り出し棒66で、徐冷条件(例えば、500℃1分保持および400℃1分保持)を経てサンプルを取り出す。
【0097】
導入チューブ65からガラス板に導入するフッ素原子が存在する分子を含有する気体の濃度は0.01〜1%であることが好ましく、0.05〜0.5%であることがより好ましい。また、該気体を導入後の保持時間は、10〜600秒間であることが好ましく、30〜300秒間であることがより好ましい。
【0098】
3.化学強化
化学強化は、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、LiイオンまたはNaイオン)をイオン半径のより大きなアルカリイオン(典型的には、Kイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって行うことができる。
【0099】
本発明のガラス板は、化学強化後の反りが改善されたガラス板である。化学強化前のガラス板に対する化学強化後のガラス板の反りの変化量(反り変化量)は、三次元形状測定器(例えば、三鷹光器株式会社製)で測定することができる。
【0100】
本発明において、化学強化後の反りの改善は、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体により表面処理する以外は全て同じ条件の実験において、以下に示す式により求める反り変位量により評価する。
【0101】
反り変位量=ΔY−ΔX
ΔX:未処理ガラス板の化学強化による反り変化量
ΔY:処理ガラス板の化学強化による反り変化量
ここで反り変化量は、化学強化後のガラス板の反り量から、化学強化前のガラス板の反り量を減じた値である。
【0102】
ガラス板のCSおよびDOLは、表面応力計により測定することができる。化学強化ガラスの表面圧縮応力は600MPa以上であることが好ましく、圧縮応力層の深さは15μm以上であることが好ましい。化学強化ガラスの表面圧縮応力および圧縮応力層の深さを当該範囲とすることにより、優れた強度と耐傷性が得られる。
【0103】
以下、本発明のガラス板を化学強化した後、フラットパネルディスプレイ用のカバーガラスとして用いた例について説明する。
図3は、カバーガラスが配置されたディスプレイ装置の断面図である。なお、以下の説明において、前後左右は図中の矢印の向きを基準とする。
【0104】
ディスプレイ装置40は、
図2に示すように、筐体15内に設けられた表示パネル45と、表示パネル45の全面を覆い筐体15の前方を囲うように設けられるカバーガラス30とを備える。
【0105】
カバーガラス30は、主として、ディスプレイ装置40の美観や強度の向上、衝撃破損防止などを目的として設置されるものであり、全体形状が略平面形状の一枚の板状ガラスから形成される。カバーガラス30は、
図2に示すように、表示パネル45の表示側(前側)から離間するように(空気層を有するように)設置されていてもよく、透光性を有する接着膜(図示せず)を介して表示パネル45の表示側に貼り付けられてもよい。
【0106】
カバーガラス30の表示パネル45からの光を出射する前面には機能膜41が設けられ、表示パネル45からの光が入射する背面には、表示パネル45と対応する位置に機能膜42が設けられている。なお、機能膜41、42は、
図2では両面に設けたが、これに限らず前面または背面に設けてもよく、省略してもよい。
【0107】
機能膜41、42は、例えば、周囲光の反射防止、衝撃破損防止、電磁波遮蔽、近赤外線遮蔽、色調補正、および/または耐傷性向上などの機能を有し、厚さおよび形状などは用途に応じて適宜選択される。機能膜41、42は、例えば、樹脂製の膜をカバーガラス30に貼り付けることにより形成される。あるいは、蒸着法、スパッタ法またはCVD法などの薄膜形成法により形成されてもよい。
【0108】
符号44は、黒色層であり、例えば、顔料粒子を含むインクをカバーガラス30に塗布し、これを紫外線照射、または加熱焼成した後、冷却することによって形成された被膜であり、筐体15の外側からは表示パネル等が見えなくなり、外観の審美性を向上させる。
【実施例】
【0109】
以下に本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0110】
(ガラス板の組成)
本実施例では、以下の組成の硝材A〜Dのガラス板を用いた。
(硝材A)モル%表示で、SiO
2を72.0%、Al
2O
3を1.1%、Na
2Oを12.6%、K
2Oを0.2%、MgOを5.5%、CaOを8.6%含有するガラス(ガラス転移温度566℃)
(硝材B)モル%表示で、SiO
2を64.3%、Al
2O
3を6.0%、Na
2Oを12.0%、K
2Oを4.0%、MgOを11.0%、CaOを0.1%、SrOを0.1%、BaOを0.1%およびZrO
2を2.5%含有するガラス(ガラス転移温度620℃)
(硝材C)モル%表示で、SiO
2を64.3%、Al
2O
3を8.0%、Na
2Oを12.5%、K
2Oを4.0%、MgOを10.5%、CaOを0.1%、SrOを0.1%、BaOを0.1%およびZrO
2を0.5%含有するガラス(ガラス転移温度604℃)
(硝材D)モル%表示で、SiO
2を73.0%、Al
2O
3を7.0%、Na
2Oを14.0%、MgOを6.0%、含有するガラス(ガラス転移温度617℃)
【0111】
(反り量の測定)
化学強化前に三鷹光器株式会社製三次元形状測定器(NH−3MA)で反り量を測定した後、各ガラスを化学強化し、化学強化後の反り量も同様に測定し、下式で表されるΔ反り量を算出した。なお、後述の実施例6の反り量測定では株式会社ニデック製フラットネステスターFT−17を使用した。
Δ反り量=化学強化後反り量−化学強化前反り量
【0112】
(反り変位量)
化学強化後の反りの改善は、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有する気体または液体により表面処理する以外は全て同じ条件の実験において、以下に示す式により求める反り変位量により評価した。
【0113】
反り変位量=ΔY−ΔX
ΔX:未処理ガラス板の化学強化による反り変化量
ΔY:処理ガラス板の化学強化による反り変化量
ここで反り変化量は、化学強化後のガラス板の反り量から、化学強化前のガラス板の反り量を減じた値とした。
【0114】
(二次イオン質量分析)
二次イオン質量分析における元素Mの同位体M
1の二次イオン強度I
M1は、一次イオン強度I
P、マトリックスのスパッタ率Y、元素Mの濃度C
M(全濃度に対する比)、同位体M
1の存在確率α
1、元素Mの二次イオン化率β
M、および質量分析計の透過効率η(検出器の検出効率を含む)に比例する。
I
M1=A・I
P・Y・C
M・α
1・β
M・η (式1)
【0115】
Aは一次イオンビームの走査範囲に対する二次イオンの検出面積の比である。同じ試料の中の主成分元素などを参照元素として用い、(式1)との比をとることによりηを消去した。
【0116】
ここで参照元素をR、その同位体をR
jとした場合、(式2)が得られる。
I
M1/I
Rj=(C
M・α
1・β
M)/(C
R・α
j・β
R)=C
M/K (式2)
Kは元素Mの元素Rに対する相対感度因子である。
K=(C
R・α
j・β
R)/(α
1・β
M) (式3)
元素Mの濃度は(式4)より求めた。
C
M=K・I
M1/I
Rj (式4)
【0117】
本発明においては、FはM
1に、SiはR
jにそれぞれ対応する。したがって、(式2)より両者の強度比(F/Si)はフッ素濃度C
HをKで除したものに等しい。すなわち、F/Siをフッ素濃度の直接的な指標とした。
【0118】
二次イオン質量分析の分析条件は以下とした。
測定装置:アルバック・ファイ社製 ADEPT1010
一次イオン種:Cs
+
一次加速電圧:5.0kV
一次イオンカレント:1μA
一次イオン入射角(試料面垂直方向からの角度):60°
ラスターサイズ:200x200μm
2
検出領域:40x40μm
2
二次イオン極性:マイナス
中和用の電子銃使用:有
【0119】
また、SIMS分析によって得られる深さ方向プロファイルの横軸の深さは、分析クレーターの深さを触針式膜厚計(Veeco社製Dektak150)によって測定した。
【0120】
(ΔF/ΔH
2O)
また、ガラスのトップ面およびボトム面において、深さ1〜24μmにおけるフッ素濃度およびH
2O濃度のSIMSプロファイルから平均フッ素濃度および平均H
2O濃度を求め、ΔF/ΔH
2Oを算出した。フッ素濃度およびH
2O濃度は、濃度が既知の標準試料のプロファイルから検量線を各々引き、測定対象サンプルのフッ素濃度およびH
2O濃度を求めた。
【0121】
標準試料について、ガラス中のH
2O濃度は、ガラス中の水分濃度[C
H2O(mol%)]の算出は、式(i)に示すランベルト・ベールの法則とd:ガラスの比重(g/cm
3)、Mw:ガラスの平均分子量を用いて、式(ii)により求めた。なお、ε=59、d=2.5、Mw=64.05とした。
【0122】
A
H2O=ε
H2O×C×l…(i)
ε
H2O:ガラス中のH
2Oのモル吸光係数 (L mol−
1 cm
−1)
C:ガラス中H
2O濃度 (mol L
−1)
l:光路長(cm)
【0123】
【数2】
【0124】
「ΔF」は、フッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)からフッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均フッ素濃度(mol%)を減じた値である。
【0125】
「ΔH
2O」は、フッ素濃度が小さい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)からフッ素濃度が大きい面における深さ1〜24μmのSIMSによる平均H
2O濃度(mol%)を減じた値の絶対値である。
【0126】
(フッ素の侵入深さx)
SIMSによるF濃度プロファイルにおいて、任意の深さx
i(μm)における傾きが下式(3)を満たす最大の深さであるx(μm)を下記式(3)により求めた。
[F(x
i)−F(x
i+0.1)]/0.1=−0.015…(3)
式(3)中、F(x
i)は、深さx
i(μm)におけるSIMSによるフッ素濃度(mol%)を示す。
【0127】
(凹部の有無)
ガラスのHF処理面をSEM観察し、観察視野内(倍率5万〜20万倍)において、凹部が一か所以上観察された場合、凹部有りとした。
【0128】
(ボールオンリング試験)
ボールオンリング(Ball on Ring;BOR)試験では、ガラス板を水平に載置した状態で、SUS304製の加圧治具(焼入れ鋼、直径10mm、鏡面仕上げ)を用いてガラス板を加圧し、ガラス板の強度を測定した。
【0129】
SUS304製の受け治具(直径30mm、接触部の曲率R2.5mm、接触部は焼入れ鋼、鏡面仕上げ)の上に、サンプルとなるガラス板を水平に設置し、ガラス板の上方には、ガラス板を加圧するための、加圧治具を設置した。ガラス板の上方から、ガラス板の中央領域を加圧し、ガラスが破壊された際の、破壊荷重(単位N)をBOR強度とした。なお、試験条件は下記の通りとした。
サンプルの厚み:1.1(mm)
加圧治具の下降速度:1.0(mm/min)
【0130】
[実施例1]
硝材Cのガラスリボンが流れるフロートバスにおいてHF処理(HF濃度0〜2.0%)を実施した。得られたガラス表面の深さ0〜20μmの平均フッ素濃度および深さ50〜70μmの平均フッ素濃度をSIMS分析により測定した。
【0131】
得られた板厚0.7mmのガラスを100mm角3枚に切断し、その基板の90mm角部に相当する部分の対角線2本の反りを測定し、その平均値を強化前の反り量とした。その後、435℃に加熱されたKNO
3熔融塩中にガラスを4時間浸漬し化学強化を行った。次に、基板の90mm角部に相当する部分の対角線2本の反りを測定し、その平均値を強化後の反り量とし、反り変位量を算出した。
【0132】
尚、比較例1−1はHF処理をしていないリファレンスである。深さ0〜20μmのデータ3点(比較例1−1のトップ面及びボトム面、実施例5−7のボトム面)から、実施例1−7のトップ面側深さ50〜70μmの数値は、HF処理されていないガラス表面と同等と考えることができる。
【0133】
結果を表1に示す。また、横軸にΔF/ΔH
2Oを、縦軸に反り変位量(μm)をプロットしたグラフを
図10に示す。なお、実施例1−1〜1−6および比較例1−1および1−2については凹部の発生は観察されなかった。実施例1−7および実施例1−8について凹部の発生が観察された。
【0134】
【表1】
【0135】
表1に示すように、HFで表面処理した実施例1−7のガラス板は、HFで表面処理しなかった比較例1−1と比較して、化学強化後の反りが改善されていた。このことから、一方の面の深さ0〜20μmにおけるSIMS分析における平均フッ素濃度が、もう一方の面の深さ0〜20μmにおける平均フッ素濃度より大きいガラス板は、Δ反り量が小さくなり、化学強化後の反りが改善されることが分かった。なお、実施例5−1〜5−4および比較例5−1について凹部の発生は観察されなかった。また、実施例5−5〜5−9について凹部の発生が観察された。
【0136】
図10に示すように、ΔF/ΔH
2Oと反り変位量とは相関関係(y=279.81x)を示した。化学強化後の反りを改善するためには、反り変位量は10以上であることが好ましく、
図10に示すグラフから、ΔF/ΔH
2Oを0.07以上とすることにより、化学強化後の反りを効果的に改善できることがわかった。表1に示すように、ΔF/ΔH
2Oが0.07以上である実施例1−1〜1−7は、化学強化後の反りが効果的に改善されていることがわかった。また、表1に示すように、x(μm)が1以上である実施例1−1〜1−7は、化学強化後の反りが効果的に改善された。
【0137】
[実施例2]
硝材Cのガラスリボンが流れるフロートバスにおいて表2に示す処理温度でHF処理(HF濃度2%)を実施し、得られた板厚0.7mmのガラスのフッ素侵入深さx(μm)を測定した。該ガラスを100mm角3枚に切断し、その基板の90mm角部に相当する部分の対角線2本の反りを測定し、その平均値を強化前の反り量とした。
【0138】
その後、435℃に加熱されたKNO
3熔融塩中にガラスを4時間浸漬し化学強化を行った。次に、基板の90mm角部に相当する部分の対角線2本の反りを測定し、その平均値を強化後の反り量とし、反り変位量を算出した。結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2に示す結果から、x(μm)を1以上とすることにより化学強化後の反りを効果的に改善できることがわかった。
【0141】
[実施例3]
図5(a)に示すように、前述の硝材Cのガラスリボンが流れるフロートバスにおいて、ガラスリボン101が約800℃の位置に挿入したビーム102により、ガラスリボン101にHFを表3に示す条件で吹きつけた。
【0142】
実施例2−1では、表3に示すように、オペレーション条件を吹きつけるプロセスガスのHFモル濃度を変更することにより、部位[
図5(a)におけるX1:ガラスリボン101の幅方向の中心から1741.5mm、X2:ガラスリボン101の幅方向の中心、X3:ガラスリボン101の幅方向の中心から−1841.5mm、X1〜X3はすべてビーム直下の位置]によってHF供給量を変更した。
【0143】
得られた板厚0.7mmのガラスについて、ガラスリボン101の幅方向の中心および該中心から、(ガラスリボンの中心位置を原点、流れ進行方向に向かって右側を正方向として)+1741.5、0、−1841.5mmにおける部位において100mm角に切断し、各基板の90mm角部分の反りに相当する値を測定し、強化前の反り量とした。その後、450℃に加熱されたKNO
3溶融塩中にガラスを2時間浸漬し、化学強化を行った。
【0144】
次に、基板の90mm角部分の反りに相当する値を測定し、その平均値を強化後の反り量とした。また、
図5(a)に示すガラスリボン101の幅方向の中心から368mmの位置のガラスを切断して表面応力の値を測定した。その結果を表3に示す。
【0145】
また、前記部位X1、X2、X3に対応する位置の各ガラスについて、トップ面およびボトム面の深さ0〜20μmにおけるF/Si強度比ならびにトップ面の深さ50〜70μmにおけるF/Si強度比を同表のF/Si強度比平均値の欄に示す。なお、同表中のたとえば「5.2E+18」は5.2×10
18の略記であり、「→」は当該欄の数値が右隣の欄の数値と同じであることを示す。
【0146】
【表3】
【0147】
表3に示すように、比較例3−1より、ガラスリボンの幅方向によって反り量が異なることがわかった。また、全部位でHF吹きつけ濃度が同じ実施例3−2と比べて、実施例3−1は、部位ごとの強化後反り量がより0μmに近い値であった。この結果から、部位によってHF供給量を変えることで、ガラスリボン幅方向で強化後反り量をより均一な値に近づけることができることがわかった。なお、実施例3−1〜3−2および比較例3−1について凹部の発生は観察されなかった。
【0148】
[実施例3]
実施例1および2の設備を用いて作製された、フロートバス内でHF処理したガラスのSEM観察結果に基づいて、HF総接触量および処理温度と凹部発生の有無との相関関係について解析した結果を
図12に示す。
【0149】
得られた結果から、HF総接触量とHF処理温度が下記式(a)を満たすことにより、HF処理による凹部は発生しないことがわかった。
Y>81lnX+1500…式(a)
式(a)において、YはHF処理温度(℃)、XはHF総接触量(mol/cm
2)を表わし、Xは下記式(b)により求めた。
HF総接触量(mol/cm
2)=HFガス濃度(体積%)×ガス流量(mol/s/cm
2)×処理時間(s)…式(b)
【0150】
処理時間は、ガス吹き付け領域長さ(m)をガラスリボン速度(m/s)で除した値であり、ガス吹き付け領域長さは
図5(b)についていえば「OUT」の文字が付されている2個のガス流路間の距離すなわちガスがガラスリボンと接触している距離である。
【0151】
[実施例4]
硝材Cのガラスリボンが流れるフロートバスにおいて、HF処理を実施した。HF処理は、(1)未処理、(2)ガラスリボン749℃におけるHF総接触量1.92×10
−5(mol/cm
2)での処理、(3)ガラスリボン749℃におけるHF総接触量1.28×10
−4(mol/cm
2)での処理、または(4)ガラスリボン749℃におけるHF総接触量1.92×10
−4(mol/cm
2)での処理とした。得られた各ガラス板(50mm角)をKNO
3により453℃にて200分間化学強化処理し、BOR試験により強度を評価した。また、SEM(倍率は50000倍)によりガラス板の表面を観察した。その結果を
図14に示す。
【0152】
図14に示す結果から、HF処理におけるHF濃度が高くなると凹部が増え、ガラス板の強度が下がることが分かった。SEM観察結果からガラス表面の凹部密度を見積もると、それぞれのガラス表面において、(1)及び(2)は、0個/μm
2、(3)は7個/μm
2、(4)は13個/μm
2であった。また、観察された凹部は、直径10〜30nm、且つ深さが10nm以上である。
【0153】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2012年3月26日付で出願された日本特許出願(特願2012−069557)、2012年3月30日付で出願された日本特許出願(特願2012−081072)および2012年12月19日付で出願された日本特許出願(特願2012−276840)に基づいており、その全体が引用により援用される。