(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
本実施形態に係るイオン選択性電極1は、
図1及び
図2に示すように、円筒状のガラス製の支持管2と、その支持管2の先端部に接合した応答ガラス膜3とを備えたガラス電極であり、例えば、プロトン(H
+)、カリウムイオン(K
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、アンモニウムイオン(NH
4+)、銀イオン(Ag
+)等のイオン種に選択的に応答するものである。
【0017】
支持管2には、内部電極4が収容してあり、かつ、内部液5が充填してある。内部電極4には、リード線6が接続してあり、リード線6はこの支持管2の基端部から外部に延出し図示しないイオン濃度計本体に接続されるようにしてある。
【0018】
内部電極4としては、例えばAg/AgCl電極等が用いられ、内部液5としては、例えばpH7に調整した塩化カリウム溶液等が用いられる。
【0019】
応答ガラス膜3は、先端部が略半球状をなすようにブロー成形してある円筒状のものであり、この応答ガラス膜3を前記支持管2に接合するには、応答ガラス膜3に用いられる酸化物ガラスを、例えば千数百度に保たれた炉内で溶融状態にしておき、そこに支持管2の先端部を浸漬した後、所定速度で引き上げ、ブローするといった方法がとられる。
【0020】
また、リチウムイオンを含有するガラス(以下、リチウムガラスという。)では、屈伏点が失透領域に含まれるのに対して、以下に詳述する酸化物ガラスでは、屈伏点が失透領域に含まれない。また、当該酸化物ガラスは、リチウムガラスの場合に起こり得る金型又は金型の離型剤等との反応を回避することが可能である。このため、このような酸化物ガラスを用いた応答ガラス膜3は、従来のリチウムガラスでは不可能であった金型を用いたプレス加工により成形することも可能である。
【0021】
応答ガラス膜3は、酸化数が+nであるMeと酸化数が+(n±m)であるMe´(Me及びMe´はdブロック元素の遷移金属を表し、Me及びMe´は同じでも異なっていてもよく、nは1以上の整数を表し、mは1〜3の整数を表す。)とを、(酸化数が+nであるMe)/(酸化数が+(n±m)であるMe´)=0.0001〜0.6、好ましくは0.01〜0.6のモル比で含有する酸化物ガラスからなるものである。当該モル比が0.6を超えると、ガラス化が困難であり、当該モル比が0.0001未満であると、イオン応答性に必要な電気伝導性が発現しない。
【0022】
Me及びMe´としてはdブロック元素の遷移金属であれば特に限定されず、例えば、Ti、V、Mo、W、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ce等が挙げられる。
【0023】
このような応答ガラス膜3においては、その表面では、Me−O
−がカチオンとの間で電子の授受を行い、その内部では、Me
n+−O−Me´
(n±m)+とMe
(n±m)+−O−Me´
n+とが相互に変換してホッピング伝導が起こり電子が伝達されることによって電気伝導性が発現し、この結果イオン応答性が発現すると推測される。
【0024】
具体的には、例えば、Me及びMe´がいずれもTiである場合、応答ガラス膜3の表面では、チタノール基がカチオンとの間で電子の授受を行い、応答ガラス膜3の内部では、Ti
3+−O−Ti
4+とTi
4+−O−Ti
3+とが相互に変換してホッピング伝導が起こり電子が伝達される。
【0025】
また、Me及びMe´がいずれもFeである場合は、Fe
2+−O−Fe
3+とFe
3+−O−Fe
2+とが相互に変換してホッピング伝導が起こり、Me及びMe´がいずれもVである場合は、V
4+−O−V
5+とV
5+−O−V
4+とが相互に変換してホッピング伝導が起こる。
【0026】
更に、MeがFeでMe´がVである場合は、例えば、Fe
2+−O−V
5+、Fe
3+−O−V
4+、Fe
3+−O−V
5+及びFe
2+−O−V
4+が相互に変換してホッピング伝導が起こる。
【0027】
MeとMe´との酸化数が離れている場合は、電子の移動がスムーズになり、結果として比抵抗が下がる効果にあり、MeとMe´とが互いに異なる元素である場合は、ガラス化しやすいという効果がある。
【0028】
なお、Ti以外のMe(又はMe´)が取り得る酸化数はそれぞれ下記表1に記載のとおりである。
【0029】
【表1】
【0030】
応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスは、リン酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、及び、オキシナイトライドガラスのいずれであってもよいが、なかでもリン酸塩ガラスが好ましい。このようなリン酸塩ガラスを応答ガラス膜3に用いると、ガラス電極1自体の軽量化を図ることができるうえ、電気抵抗(比抵抗)が低いことからイオン応答性を向上させることもできる。そして、電気抵抗(比抵抗)が低いため、機械的強度等も考慮し、歪みを柔軟に設定することができ、応答ガラス膜3を設計する際の自由度を大幅に高めることができる。
【0031】
更に、応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスは、原料として、例えばAl
2O
3等の酸化数が+3〜+5である金属の酸化物を含有していてもよい。このようなものであれば、耐蝕性がより向上しうる。
【0032】
また、応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスは、Sc、Y、ランタノイド等の3族の元素を含有していてもよい。このようなものであれば、アルカリ誤差を低減することができる。これらの3族の元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0033】
更に、応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスは、原料として、酸化バリウム(BaO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)等のアルカリ土類金属の酸化物を含有していてもよい。このようなものであれば、アルカリ応答性を抑制することができる。これらの酸化物は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0034】
本実施形態において応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスとしては、比抵抗が3×10
10Ω・cm以下であるものが好ましい。比抵抗が3×10
10Ω・cmを超えると感度が50%を下回ることがあり、充分なイオン応答性が得られない場合がある。なお、ここで、感度とは、ネルンスト応答における理論値を100%として表した値である。
【0035】
このような応答ガラス膜3を構成する酸化物ガラスは、例えば、MeとMe´とが同じものである場合、+(n±m)であるMeの酸化物、更に必要に応じて酸化数が+nであるMeの酸化物を含む原料化合物を秤量・混合し、N
2ガス等による還元雰囲気下で溶融した後、冷却することにより製造される。この際、溶融を還元雰囲気下で行うのは、ガラス中のMeが酸化数+(n±m)であるものに偏るのを防ぐためである。
【0036】
応答ガラス膜3のイオン応答性を向上させるためには、更に200〜1000℃でアニーリングを行い、応答ガラス膜3の表面のみを酸化して、Me−O
−を増加させてもよい。また、MeがTiである場合は、応答ガラス膜3の表面のみを酸化することにより、応答ガラス膜3表面のチタノール基を増加して、応答ガラス膜3内部における電子伝達は阻害せずに、光触媒作用を発現させることも可能となる。
【0037】
ガラス電極1を用いて試料溶液のイオン濃度を測定する際には、ガラス電極1の応答ガラス膜3をイオン濃度を求めたい試料溶液に浸すと、応答ガラス膜3に内部液5と試料溶液との間のイオン濃度の差に応じた起電力が生じる。この起電力を、図示しない比較電極を用いて、ガラス電極1の内部電極4と比較電極の内部電極の電位差(電圧)として測定してイオン濃度を算出する。この起電力は温度によって変動するため、温度素子を用い、この出力信号値をパラメータとして前記電位差を補正して、試料溶液のイオン濃度を算出しイオン濃度計本体に表示することが好ましい。
【0038】
本実施形態における応答ガラス膜3として、70mol%TiO
2と30mol%P
2O
5とからなるチタノリン酸ガラスから構成されたものを作製した。当該チタノリン酸ガラスのTi
3+/Ti
4+(モル比)を光吸収スペクトル法で調べたところ、0.06〜0.15であった。この応答ガラス膜3を備えたガラス電極1(本発明品)の極性有機溶媒中でのpH応答性を調べるために、pH7の水性緩衝液から99.5%エタノールに測定液を切り替えたときのpH応答性(指示安定性)を調べた。この際、比較として、従来のリチウムシリケートガラスからなる応答ガラス膜を備えた電極(従来品)と、他社の非水溶媒用電極(他社製品)を用いた。その結果、
図3のグラフに示すように、本発明品のpH応答性は抜きんでて優れていた。
【0039】
また、本実施形態における応答ガラス膜3として、更に、74mol%TiO
2と26mol%P
2O
5とからなるチタノリン酸ガラスから構成されるものを作製した。当該チタノリン酸ガラスのTi
3+/Ti
4+(モル比)を光吸収スペクトル法で調べたところ、10
−4〜0.2であった。この応答ガラス膜3を備えたガラス電極1を作製し、水性の緩衝液を用いてpH7→pH4→pH9の順で電位測定を3回行ったところ、
図4のグラフに示すように、良好なpH応答性を示した。また、この電位測定の結果から、pH4−9間のpH感度を求めたところ79.6%であった。なおここで、「感度」とは、ネルンスト応答における理論値を100%として表した値である。
【0040】
また、本ガラス電極1は、アルカリ水溶液(pH13)の測定に使用した後、酸で洗浄することにより、アルカリ水溶液測定前と同等の応答性を回復することが可能であると思われる。
【0041】
したがって、このように構成した本実施形態に係るガラス電極1によれば、応答ガラス膜3に用いられる酸化物ガラスがイオン導電物質を含有していなくとも電気伝導性を示すので、良好なイオン応答性を発現することが可能となる。
【0042】
また、ガラス電極1の応答ガラス膜3は、イオン導電物質を含有しない酸化物ガラスからなるので、イオン導電物質を含有するものに比べて、以下のような有利な特徴を有する。すなわち、(1)ガラス骨格の結合数がより多くなるので耐久性・耐蝕性が向上する。(2)イオン導電性ではなく、電子導電性であるため、電気抵抗(比抵抗)が低下してイオン応答性が向上する。(3)電気抵抗(比抵抗)が低いので膜厚を厚くして強度を向上することができる。(4)組成が単純であるのでガラスの再生が容易である。(5)水溶液中に浸漬してもイオン導電カチオンが溶出することがないので、使用に伴い水和層の厚さが増してイオン応答速度が低下することがない。(6)極性有機溶媒中に浸漬してもイオン導電物質がガラス膜表面に局在したり溶媒中に引き抜かれたりして電気伝導性が阻害されることがないので極性有機溶媒中でも高いイオン応答速度を維持することができる。
【0043】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0044】
例えば、本発明のイオン選択性電極はガラス電極1に限られず、ガラス電極と比較電極を一体化した複合電極や、複合電極に更に温度補償電極を加えて一体化した一本電極であってもよい。
【0045】
また、本発明に係るガラス電極1の応答ガラス膜3は、比抵抗が低く膜厚を厚くしても良好なイオン応答性を発現することができるので、板状の酸化物ガラスを切削研磨することにより作製されたものや、溶融した酸化物ガラスを所定の型に流し込んで成型することによって作製されたものであってもよい。このようにして得られた応答ガラス膜3は機械的強度が高いので、接着剤又は機械的な機構(メカニカルシール)を用いて支持管2の一端開口部に接合して封止することにより、
図5に示すようなガラス電極1を作製することができる。このような構成を有するガラス電極1の支持管2としては、例えば、耐食性や機械的強度に優れたホウケイ酸塩ガラスやフッ素樹脂等からなるものを用いることできる。
【0046】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。