特許第5791047号(P5791047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791047コイヘルペスウイルス特異的抗体及びその抗原
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791047
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】コイヘルペスウイルス特異的抗体及びその抗原
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/03 20060101AFI20150917BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20150917BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20150917BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20150917BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20150917BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20150917BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   C07K14/03ZNA
   C07K16/08
   C12N15/00 C
   C12N5/00 102
   G01N33/569 J
   G01N33/531 A
   !C12P21/08
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-505877(P2011-505877)
(86)(22)【出願日】2010年3月25日
(86)【国際出願番号】JP2010002120
(87)【国際公開番号】WO2010109874
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2013年3月13日
(31)【優先権主張番号】特願2009-77737(P2009-77737)
(32)【優先日】2009年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-919
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】青木 宙
(72)【発明者】
【氏名】廣野 育生
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/119279(WO,A1)
【文献】 特開2007−223913(JP,A)
【文献】 特表2008−531478(JP,A)
【文献】 望月敦之 他,コイヘルペスウイルス感染症に対するDNAワクチンの開発,2007年度日本水産学会春季大会講演要旨集,2007年,Vol.2007,p.209, 1103
【文献】 Aoki T. et al.,Genome sequences of three koi herpesvirus isolates representing the expanding distribution of an eme,J. Virol.,2007年,Vol.81, No.10,p.5058-65
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C07K 14/00
C07K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)、又は(B)のペプチドからなるコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチド。
(A)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(B)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドで免疫することにより得られ、請求項1に記載のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを特異的に認識する抗コイヘルペスウイルス特異的抗体。
【請求項3】
抗コイヘルペスウイルス特異的ポリクローナル抗体であることを特徴とする請求項に記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体。
【請求項4】
抗コイヘルペスウイルス特異的モノクローナル抗体であることを特徴とする請求項に記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体。
【請求項5】
抗コイヘルペスウイルス特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞ORF68(7C6)(NITE BP−919)。
【請求項6】
請求項1に記載の抗原ペプチドを含有することを特徴とするコイヘルペスウイルス病の診断キット。
【請求項7】
請求項のいずれかに記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体を含有することを特徴とするコイヘルペスウイルスの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗コイヘルペスウイルス特異的抗体、コイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチド、コイヘルペスウイルス病の診断キット、及びコイヘルペスウイルスの検出キットに関する。
【背景技術】
【0002】
コイヘルペスウイルス病は、コイヘルペスウイルス(Koi herpes virus;KHV)に感染することによりマゴイやニシキゴイに発生する病気で、発病すると行動が緩慢になったり餌を食べなくなるが、目立った外部症状は少なく、鰓の退色やびらん(ただれ)などが見られ、幼魚から成魚までに発生する、死亡率が高いコイの病気である。
【0003】
コイヘルペスウイルス病は、1998年5月にイスラエルにて、最初の発症の報告がなされた。その後、同じイスラエルにおいて、その年の秋と翌年の春との2度発症し、輸出用のコイを含めて約600トンのコイが死滅した。被害総額は400万ドルを超えるものであった。その後も世界各国(イスラエル、英国、ドイツ、オランダ、ベルギー、米国、インドネシア、台湾)で次々と発症の報告がなされた。
【0004】
わが国においても2003年(平成15年)11月に農林水産省が茨城県の霞ヶ浦においてコイヘルペスウイルス病を疑うコイを確認したと発表して以来、青森、山梨、三重、岡山、宮崎と各地でコイヘルペスウイルス病の発生が報告されている。農林水産省でも感染経路の特定をはじめとして、この病気の拡散防止について努めているところである。
【0005】
自然界や養殖場でウイルスによる感染症が発生したとき、その原因となる病原体を同定することは感染症の新たな伝播の阻止あるいは予防・治療において極めて重要である。従来、魚類病原体を含めて一般細菌、ウイルス、カビ等を同定するに当たっては、その形態、生化学的性状、又は免疫学的手法を用いた生物化学的性状の観察が行われていたが、現在では、生化学及び分子遺伝学の発展に伴い、その病原体が有する染色体DNAやRNA、病原体構成物質や病原体の代謝物による同定・検出も可能になった。
【0006】
コイヘルペスウイルスを対象とした遺伝子診断、コイヘルペスウイルス遺伝子検出方法としては、コイ組織中のコイヘルペスウイルスをコンベンショナルPCRにより特異的に検出するPCR法(非特許文献1、2、及び3参照)や、LAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification)によりコイヘルペスウイルスを迅速かつ高感度に検出する方法(非特許文献4参照)が知られている。また、コイヘルペスウイルス遺伝子を高感度・高精度かつ迅速に検出することができるコイヘルペスウイルス検出用プライマーセットやコイヘルペスウイルス検出用プローブに関する技術が、本発明者により提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
ウイルス感染を診断する手段としては、遺伝子診断のほか、免疫学的ないし血清学的検定が用いられることがある。中でも、コイヘルペスウイルスが分類されるヘルペスウイルスでは、一度罹患すると病気の症状が治まった後も、体内に潜伏感染することが報告されており、前記PCR等を用いた遺伝子診断では、感染源の特定や、感染歴の特定は行えない。そのため、特異的な抗体の開発が重要であり、例えば、市販されているコイヘルペスウイルス抗体として、Anti-Koi Herpes virus (KHV) monoclonal antibody(AQUATIC diagnostic Ltd.製)がある。また、コイヘルペスウイルスの感染歴を調べる方法としては、ELISA法が有効であるという報告(非特許文献5参照)がある。しかし、固相に吸着させる抗原の調整は煩雑である。
【0008】
一方、コイヘルペスウイルス病の予防を目的とした、ワクチンに関する技術が提案されている。この種の技術として、濃縮した不活化コイヘルペスウイルス、又は不活化したコイヘルペスウイルス感染細胞を抗原として含有するコイヘルペスウイルス病を予防することが可能な注射ワクチン(特許文献2参照)や、超音波処理したコイヘルペスウイルスとリン脂質とを溶液中に共存させた状態で超音波処理を行ってリポソームを調製するリポソームワクチン(特許文献3参照)や、細菌毒素のAB5クラスメンバーのBサブユニットに融合したコイヘルペスウイルス起源の抗原タンパク質からなる融合タンパク質、又はタンパク質複合体を含むワクチン組成物(特許文献4参照)が知られている。また、コイヘルペスウイルスのグリコプロテインをコードする遺伝子や膜タンパク質をコードする遺伝子を用いた、コイヘルペスウイルス病に対する防御免疫を誘導するためのコイ用DNAワクチンが、本発明者により提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、コイヘルペスウイルスの主要抗原について開示した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/119557号
【特許文献2】特開2007−223913号公報
【特許文献3】国際公開第2006/090816号
【特許文献4】特表2008−531478号公報
【特許文献5】国際公開第2007/119279号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Diseases of aquatic organisms, 2002 Mar 11;48(2):101-108.
【非特許文献2】Journal of Fish Diseases, 2002 25 (3):171-178.
【非特許文献3】Fish Pathology, 2005 40:37-39.
【非特許文献4】Virology Journal, 2005 2:83.
【非特許文献5】Journal of Fish Diseases, 2009 32 (4):311-320.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
コイ科魚類に感染するヘルペスウイルス(Cyprinid herpes virus;CyHV)としては、コイヘルペスウイルス;KHV(Cyprinid herpes virus-3;CyHV−3ともいう)の他に、ウイルス性のコイ乳頭腫症の原因であるコイ乳頭腫症ウイルス(Cyprinid herpes virus-1;CyHV−1、又はCHV)や、キンギョの造血器壊死を引き起こすCyprinid herpes virus-2(CyHV−2)が報告されている。同じCyHVに分類されるコイヘルペスウイルスとコイ乳頭腫症ウイルスは、その血清学上、交差性が高いという報告があり(St-Hilaireet al., 2009)、従来の抗コイヘルペスウイルス抗体は、コイヘルペスウイルスのみを正確に検出できるものではなかった。またウイルスの検出感度も低いという問題があった。一方、コイヘルペスウイルスに対する抗体やワクチンの開発や、ELISAなどに有用な、コイヘルペスウイルス主要抗原については明らかになっていなかった。本発明の課題は、コイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドや、コイヘルペスウイルス特異的であって、他のCyHV、特にコイ乳頭腫症ウイルスに対する交差性を示さない抗体や、これら抗原又は抗体を用いた検査キット、検出キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究し、コイヘルペスウイルスゲノムDNAの全長の約70倍の塩基配列長に相当するコイヘルペスウイルスDNAライブラリー85000個について、コイヘルペスウイルスに特異的で、かつ抗コイヘルペスウイルス抗体とよく反応するエピトープ領域の探索を行った。その結果、配列番号1又は3に示される領域を抗原とする抗体が、コイ乳頭腫症ウイルスとの交差性を示さず、コイヘルペスウイルスに対する検出感度も高いこと、配列番号1又は3に示される領域がコイヘルペスウイルスの主要抗原として有用であること、並びに、これらの抗体及び抗原を用いることによりコイヘルペスウイルス病の正確な診断が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、(1)(A)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、又は(B)配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドや、(2)上記(1)に記載のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドで免疫することにより得られ、上記(1)に記載のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを特異的に認識する抗コイヘルペスウイルス特異的抗体や、()抗コイヘルペスウイルス特異的ポリクローナル抗体であることを特徴とする上記()記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体や、()抗コイヘルペスウイルス特異的モノクローナル抗体であることを特徴とする上記()に記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体や、()抗コイヘルペスウイルス特異的モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞ORF68(7C6)(NITE BP−919)や、()上記(1)に記載の抗原ペプチドを含有することを特徴とするコイヘルペスウイルス病の診断キットや、()上記()〜()のいずれかに記載の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体を含有することを特徴とするコイヘルペスウイルスの検出キットに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドによれば、コイヘルペスウイルス特異的であって、コイ乳頭腫症ウイルスに対する交差性を示さない抗体を作製することができる。また、本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチド、又は、コイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドに対する抗体を用いることにより、コイヘルペスウイルス病の正確な診断やコイヘルペスウイルスの正確な検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A)抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び、(B)抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体のコイヘルペスウイルスに対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を示す図である。
図2】A)市販抗KHVモノクローナル抗体、B)抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び、C)抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体のコイヘルペスウイルスに対する特異性と検出感度をELISAで解析した結果を示す図である。
図3】抗KHV−ORF62モノクローナル抗体のKHV−ORF62抗原及びKHV−ORF68抗原に対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を示す図である。図中、Mは分子量マーカー、Aは組換えKHV−ORF62のSDS−PAGE、レーン1〜12は、順に抗KHV−ORF62モノクローナル抗体2E10、10D10、2A1、4B7、5G6、4F12のKHV−ORF62抗原(レーン1〜6)、KHV−ORF68抗原(レーン7〜12)それぞれを示す。
図4】抗KHV−ORF68モノクローナル抗体のKHV−ORF68抗原及びKHV−ORF62抗原に対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を示す図である。図中、Mは分子量マーカー、Aは組換えKHV−ORF68のSDS−PAGE、レーン1〜16は、順に抗KHV−ORF68モノクローナル抗体10E6、7C6、8D10、12A2、1F3、5G5、9C7、10F9のKHV−ORF68抗原(レーン1〜8)、KHV−ORF62抗原(レーン9〜16)それぞれを示す。
図5】抗KHV−ORF68モノクローナル抗体7C6のCHV、CyHV−2、KHVに対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を示す図である。図中、Mは分子量マーカーを示す。
図6】抗KHV−ORF68モノクローナル抗体7C6のCHV、CyHV−2、KHVに対する特異性を蛍光抗体法で解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、「コイヘルペスウイルス」とは、Koi herpes virus(KHV)、すなわち、Cyprinid herpes virus-3(CyHV−3)のことをいう。また、「コイヘルペスウイルス特異的」とは、コイヘルペスウイルスに由来する抗原又は抗コイヘルペスウイルス抗体と反応し、他のCyHV、特にコイ乳頭腫症ウイルスに由来する抗原又は抗コイ乳頭腫症ウイルス抗体と反応しないことをいう。
【0017】
本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドとしては、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、KHV−ORF62抗原ということがある)、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、KHV−ORF68抗原ということがある)、及び配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチド、並びに、配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの部分ペプチドであって、コイヘルペスウイルス特異的抗原決定基を含むペプチドのいずれかであって、抗コイヘルペスウイルス抗体と反応し、抗コイ乳頭腫症ウイルス抗体と反応せず、抗原として用いると、コイ乳頭腫症ウイルスと交差性を示さない抗コイヘルペスウイルス抗体を作ることができるペプチドであれば特に制限されない。
【0018】
本発明の配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、コイヘルペスウイルス抗原コード領域であって、いずれもコイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株、又はコイヘルペスウイルスU(KHV−U)株のゲノムDNA上にコードされている。配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、卵巣腫瘍様システインプロテアーゼドメイン(OTU-like cystein protease domain)を含むタンパクの翻訳領域「KHV ORF62」の一部分であり、低複雑性領域及びコイルドコイルのモチーフに富むアミノ酸配列からなり、KHV−UのゲノムDNA(ACCESSION No. NC_009127)の114797〜116506のプラス鎖側の塩基配列(配列番号2)にコードされている。配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、ミオシン様タンパクの翻訳領域「KHV ORF68」の一部分であり、AAA(ATPase associated with a variety of cellular activities)ATPaseドメインを含み、低複雑性領域及びコイルドコイルのモチーフに富むアミノ酸配列からなり、KHV−UのゲノムDNAの131963〜130461のマイナス鎖側の塩基配列(配列番号4)にコードされている。
【0019】
上記配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるペプチドとしては、配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列において、例えば1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個、例えば1個など任意の数のアミノ酸が欠失、置換、又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることができる。
【0020】
上記配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの部分ペプチドであって、コイヘルペスウイルス特異的抗原決定基を含むペプチドのうち、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの部分ペプチドとしては、配列番号1に示されるアミノ酸配列に含まれる連続したアミノ酸配列からなるアミノ酸残基数6〜570個のペプチド断片を、また、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの部分ペプチドとしては、配列番号3に示されるアミノ酸配列に含まれる連続したアミノ酸配列からなるアミノ酸残基数6〜501個のペプチド断片を、それぞれ挙げることができる。上記配列番号1又は3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドの部分ペプチドは、好ましくは低複雑性領域及び/又はコイルドコイルのモチーフを含むアミノ酸配列からなり、より好ましくは部分ペプチドの80%以上のアミノ酸残基が低複雑性領域及び/又はコイルドコイルのモチーフを構成する部分ペプチドからなる。これらの部分ペプチドは、部分ペプチドを抗原とする抗体を定法に従い作製して、かかる抗体とコイヘルペスウイルスやコイ乳頭腫症ウイルスとの反応をウエスタンブロット法やELISA等の公知の免疫測定法で測定し、コイヘルペスウイルスを特異的に検出し得る場合にコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドであると確認することができる。
【0021】
また、上記コイヘルペスウイルス特異的抗原決定基(エピトープ)とは、コイヘルペスウイルス特異的抗体により認識されるが、コイ乳頭腫症ウイルスに対する抗体により認識されないアミノ酸残基の集合の最小単位をいい、配列番号1又は配列番号3に示されるアミノ酸配列の一部分と一致する6〜10個のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を意味する。
【0022】
本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドの取得及び作製の方法は特に制限されず、コイヘルペスウイルスから単離したペプチド、化学合成したペプチド、又は遺伝子組換えにより作製したペプチドのいずれであってもよい。例えば、KHV−UのゲノムDNA(ACCESSION No. NC_009127)配列に基づき、配列の114797〜116506の領域や、131963〜130461の領域を増幅するプライマーを用いてPCRを行い、得られたDNA断片を、好適な発現系に導入することにより本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを取得することができる。あるいは、公知の融合タンパク質発現系に導入して、融合タンパク質として発現させることもできる。また、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って合成することができる。
【0023】
本発明の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体としては、本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを特異的に認識する抗体であれば特に制限されず、その種類としてモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、一本鎖抗体等を例示することができる。また抗体の免疫グロブリンのクラスとしては特に制限されず、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等のいずれのアイソタイプを選択することができ、抗体の形態としては、全抗体、又はFab断片やF(ab’)2断片等の抗体断片、CDR、多機能抗体、単鎖抗体(ScFv)などを用いることができる。本発明の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体は、例えば、前記本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチド、又はこれらの部分ペプチドを動物の静脈、腹腔、又は皮下に注射して免疫し、続いて免疫した動物から採血して、抗血清又はポリクローナル抗体として作製することができる。また、前記コイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチド、又はこれらの部分ペプチドを所定の動物の静脈、腹腔、又は皮下に注射して免疫し、続いて免疫した動物から脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞等の抗体産生細胞を採取し、これらと腫瘍細胞とを細胞融合して、適切な選択培地を用いてハイブリドーマを選択し、モノクローナル抗体として産生させて作製することもできる。
【0024】
本発明の抗コイヘルペスウイルス特異的抗体の作製方法において、免疫する動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、サル、ニワトリ、コイ、キンギョ等が例示されるが、モノクローナル抗体を作製する場合は、腫瘍細胞が入手しやすいマウス、ラット、ウサギが好ましい。前記ペプチドには、必要に応じて、スカシ貝ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin)、卵白アルブミン(ovalbumin)、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)等のキャリアタンパクを付加することができ、免疫には、アジュバントを併用することができる。免疫の間隔、回数、投与量は、例えば、免疫の間隔を3日〜4週間、回数を1〜10回、投与量を100μg〜100mgの範囲で選択できるが、これらの条件に制限されるものではない。細胞融合には、エレクトロポレーション、プロトプラスト細胞融合法等の公知の手段を用いることができ、ハイブリドーマの選択には、HAT(hypoxanthine/aminopterin/thymidine)培地を用いた方法等を用いることができる。抗体は、前記モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをMEM培地等の適切な低タンパク培地で培養して培養液上清から回収するほか、前記モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腫瘍細胞が由来する動物の腹腔内に注射して腹水を回収して作製することができる。さらに、本発明の抗体は、採血された血清、培養液上清、又は腹水から、定法に従い、ゲル濾過、塩析、アフィニティー精製・IgG精製等を組み合わせて精製することもできる。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体としては、具体的には、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体4B7、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体2A1、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体2E10、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体4F12、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体5G6や、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体1F3、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体5G5、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体9C7、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10F9、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体8D10、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体12A2、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10E6を挙げることができる。これらの中でも、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10は、KHV−ORF68にコードされるペプチドに対して交差反応性を示さず、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6及び抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10E6は、KHV−ORF62にコードされるペプチドに対して交差反応性を示さないことから好ましい。また、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6は、KHV由来の抗原と反応するがCHV及びCyHV−2由来の抗原と反応することがなくコイヘルペスウイルス特異的であることから特に好ましい。
【0026】
本発明のハイブリドーマ細胞ORF68(7C6)は、コイヘルペスウイルス特異的な抗体である抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を産生するハイブリドーマである。ハイブリドーマ細胞ORF68(7C6)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)に2010年3月24日付で、受番号 NITEP−919として寄託されている。
【0027】
本発明のコイヘルペスウイルス病の診断キットとしては、本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを抗原として含むキットであって、試料中の抗体との抗原抗体反応を指標としてコイヘルペスウイルスに対する抗体を検出するキットであれば特に制限されず、また、本発明のコイヘルペスウイルスの検出キットは、本発明のコイヘルペスウイルス特異的抗原ペプチドを特異的に認識する抗コイヘルペスウイルス特異的抗体を含むキットであって、試料中の抗原との抗原抗体反応を指標としてコイヘルペスウイルスの抗原を検出又は定量するキットであれば特に制限されない。キットに含まれる抗コイヘルペスウイルス特異的抗体としては、抗コイヘルペスウイルス特異的モノクローナル抗体が好ましく、例えば、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を用いることができる。
【0028】
本発明のコイヘルペスウイルス病の診断キットに含まれる抗原や、コイヘルペスウイルスの検出キットに含まれる抗体は、遊離の状態で用いることができるほか、適宜、マイクロタイタープレートやビーズ、試験管等に固定化することができる。固定化する固相としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリレート等の合成高分子やシリカゲル、ガラス等の無機高分子等が挙げられる。また、指標とする抗原抗体反応は、公知の免疫測定法の原理に基づき確認することができればよく、本発明の抗体、あるいは公知の二次抗体をアルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ等の酵素、蛍光色素、放射性物質、金コロイド等で標識して試薬とすることができる。また、キットには、ブロッキング溶液、緩衝液、界面活性剤、保存剤、安定剤等の公知の添加剤が含まれてもよい。
【0029】
本発明のコイヘルペスウイルス病の診断キットや、コイヘルペスウイルスの検出キットの試料としては、特に制限されないが、例えば、マゴイやニシキゴイのエラ、表皮、肝臓、腎臓などの組織や血液を挙げることができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0031】
1−1.抗原領域の決定
以下の方法で、コイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株のゲノムDNAからファージライブラリーを作製し、コイヘルペスウイルス抗原領域のスクリーニングを行った。
【0032】
1−2.KHVゲノムDNAの調製
コイ鰭由来KF−1細胞を75cmフラスコ10本に培養し、90%程度のコンフルエントになった時点で、コイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株を接種し、細胞変性効果(cytopathic effect、CPE)が十分に現れるまで、25℃で約2週間培養を行った。続いて、Gilad et al. (2002)らの方法を参考に、以下の手順でコイヘルペスウイルスの精製、及びゲノムDNAの抽出を行った。コイヘルペスウイルスを接種しCPE形成されたKF−1細胞の培養フラスコを−80℃で24時間以上冷凍した後、室温で解凍して、10℃で20分間、3500×gで遠心分離を行い、ウイルスの含まれる上清を回収した。上清は、10℃で90分間、95300×gでさらに遠心分離し、得られたペレットを1mLのTNE buffer(50mM Tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、pH7.5)に懸濁し、ホモジナイズした後、10−60%のショ糖濃度で密度勾配遠心を行った。10℃で18時間、77000×gで遠心分離し、底面に近い2バンドを回収し、TNE bufferに溶解して、10℃で1時間、151000×gで遠心分離した。得られたウイルスペレットはTNE bufferに懸濁して、精製KHVとした。
【0033】
前記精製KHVを56℃で3時間、プロテイナーゼKにより処理した後、70℃で20分間の条件で失活させ、コイヘルペスウイルスのゲノムDNAをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1)混合溶液により抽出した。続いて、0.1倍量の3M 酢酸ナトリウムと2.5倍量の95%エタノールを添加して、エタノール沈殿を行った。遠心分離後のペレットを70%エタノールで洗浄し、乾燥した後、TE bufferに懸濁して、精製ゲノムDNAとした。
【0034】
1−3.ファージライブラリーのスクリーニング
前記精製ゲノムDNAを、制限酵素Sau3AIを用いた部分消化により断片化した。得られた0.5〜2kbのDNA断片をファージミドベクターpBK−CMV(STRATAGENE社製)のBamHIサイトに挿入し、遺伝子発現ファージライブラリーを構築した。続いて、定法に従い、ファージDNAのパッケージングを行い、得られたファージを大腸菌に感染させて、プレート上にプラークを形成させ、形成したファージをニトロセルロース膜に転写して、抗KHVウサギ血清(東京海洋大学水族病理学研究室 福田教授より分与)と反応させた。得られた陽性ファージからDNAを単離して、陽性ファージがコードする抗原コード領域の塩基配列を定法により解析した。その結果、配列番号2及び配列番号4に示される塩基配列が特定され、KHV−ORF62の部分配列である配列番号1、及びKHV−ORF68の部分配列である配列番号3からなるKHV主要抗原領域が得られた。
【0035】
1−4.組換えタンパク質(抗原)の作製
KHV−ORF62、及びKHV−ORF68の部分からなる主要抗原領域のDNA断片を前記精製ゲノムDNAからPCRにより増幅して得た。KHV−ORF62の増幅には、BamHI認識配列を付加したPCRプライマーKHV_62expF(AAGGATCCCATATGGATCAGATTCCCCCCGTCCCAT;配列番号5)、及びEcoRI認識配列を付加したKHV_62expR(TTGAATTCTCACATCGCGGTGGCGTCAAACTT;配列番号6)を用い、KHV−ORF68の増幅には、BamHI認識配列を付加したPCRプライマーKHV_68expF(AAGGATCCCATATGGATCAGTTCAAGCAGACCACGG;配列番号7)、及びEcoRI認識配列を付加したKHV_68expR(TTGAATTCTCACTGCGACTCGAGCCTGGAGTT;配列番号8)を用いた。
【0036】
得られた増幅DNA断片を発現ベクターpET−28(Novagen社製)のBamHIサイトとEcoRIサイトとの間に挿入して組換えプラスミドベクターを作製し、それぞれpET−KHVORF62、pET−KHVORF68とした。続いて、pET−KHVORF62、及びpET−KHVORF68を用いて、大腸菌BL21株をそれぞれ形質転換し、1Lの2×YT培地(Bacto Tryptone 1.6%、Yeast Extract 1.0%、NaCl 0.5%)により37℃で振とう培養した。OD600が0.8に達した時点で、最終濃度が1mMとなるようにIPTGを添加して組換えタンパク質の発現を誘導し、さらに、4時間振とう培養して組換えタンパク質(抗原)を産生させた。菌体内には、組換えタンパク質の高度凝集物である封入体が形成された。
【0037】
培養後の大腸菌BL21株を集菌し、超音波破砕して、封入体の不溶性画分に含まれる組換えタンパク質を回収した。得られた組換えタンパク質は、Ni−NTAアガロ−ス(nickel-nitrilotriacetic acid、Qiagen社製)を用いて精製した。精製された組換えタンパク質のサイズは、pET−KHVORF62を用いた組換えタンパク質では、60kDaであり、pET−KHVORF68を用いた組換えタンパク質では、56kDaであった。
【0038】
2−1.マウスポリクローナル抗体の作製
精製した組換えタンパク質2種をそれぞれ抗原(KHV−ORF62抗原、KHV−ORF68抗原)として、100μgで1回、150μgで2回、200μgで3回の計6回マウス(ICR系統、5周齢)の腹腔に接種して免疫し、62日後に採血し、4℃で10分間、5000rpmで遠心分離して血清を得た。得られた血清を抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体として、以下の解析に用いた。
【0039】
2−2.ウエスタンブロットによるポリクローナル抗体の特異性の確認
得られた抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体について、ウエスタンブロット解析による抗原特異性の確認を行った。
【0040】
前記の培養方法に準じて、KF−1細胞に、コイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株、コイ乳頭腫症ウイルス(CHV)をそれぞれ接種し、25℃で約2週間培養した後、細胞を回収して、lysis buffer(10mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM NaCl、0.5% NP−40)で溶解した。続いて、遠心分離を行い、得られた可溶性画分を回収して、KHV感染KF−1細胞ライセート及びCHV感染KF−1細胞ライセートを得て、以下のウエスタンブロッティングに供した。
【0041】
1レーンあたりのタンパク質量を50μgとして、KHV感染KF−1細胞ライセート、CHV感染KF−1細胞ライセート、及び対照として未感染のKF−1細胞ライセートを、10%のアクリルアミドゲルでSDS−PAGEに供した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜上にタンパク質をブロッティングした。続いて、PVDF膜を3%スキムミルクを用いて45分間ブロッキングし、TBS bufferで10000倍希釈した抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体をそれぞれ添加し、室温で2時間振とうした。
【0042】
二次抗体として10000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgGヤギモノクローナル抗体を用いて、各ポリクローナル抗体の検出を行った。その結果を、図1に示す。抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体による解析の結果、KHV感染KF−1細胞ライセートで、約150kDaのタンパク質が検出された(図1A)。また、抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体による解析の結果、KHV感染KF−1細胞ライセートで、ORF68がコードすると考えられる約250kDaのタンパク質と、そのタンパク質がプロセッシングされて生じたと考えられる90kDa、70kDaのタンパク質が検出された(図1B)。これに対し、抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体を用いたいずれの場合でも、未感染のKF−1細胞ライセート及びCHV感染KF−1細胞ライセートでは、タンパク質が検出されず、各ポリクローナル抗体は交差性を示さなかった。
【0043】
2−3.ELISAによるポリクローナル抗体の特異性の確認
得られた抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体について、ELISAによる抗原特異性の確認を行った。
【0044】
上記と同様に、コイヘルペスウイルスTUMST1株(KHV−TUMST1株)、及びコイ乳頭腫症ウイルス(CHV)をそれぞれ感染させたKF−1細胞を培養後、lysis buffer(10mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM NaCl、0.5% NP−40)で溶解した。タンパク質濃度が20μg/mLとなるようにPBSで希釈したKHV感染KF−1細胞ライセート、CHV感染KF−1細胞ライセート、及び対照として未感染のKF−1細胞ライセートを、96ウェルマイクロタイタープレートにコーティングし、5%BSAでブロッキングしてELISAプレートを作製した。比較例とした市販の抗KHVモノクローナル抗体(AQUATIC diagnostic Ltd.製)と、抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体とをそれぞれ1:500、1:1000、1:2000、1:4000、及び1:8000に希釈し、作製したELISAプレートで2時間反応させた。
【0045】
反応後、SensoLyteTM pNPP Alkaline PhosphataseELISAAssay Kit (ANASPEC社製)を用いて抗体価を測定した。吸光度の測定は405nmで行った。その結果を、図2に示す。市販の抗KHVモノクローナル抗体では、最低希釈倍数の500倍希釈の場合においても検出感度が得られなかった(図2A)。これに対し、抗KHV−ORF62マウスポリクローナル抗体、抗KHV−ORF68マウスポリクローナル抗体では、8000倍希釈においても十分な検出感度が得られ、また、CHV抗原との交差性も認められなかった(図2B及びC)。
【0046】
3−1.モノクローナル抗体の作製
KHV−ORF62、及びKHV−ORF68の部分からなる主要抗原領域にコードされるペプチドを抗原として抗KHVモノクローナル抗体を作製した。脾臓細胞は、前記のKHV−ORF62、又はKHV−ORF68の部分からなる主要抗原領域にコードされるペプチドで免疫されたマウス(ICR系統、5周齢)から脾臓を摘出し、脾臓細胞を分離してPBSで洗浄して調製した。得られた脾臓細胞とミエローマ細胞株SP2とを混合し、遠心後上清を除去した。細胞融合はPEG法により行い、20%FBS RPMI1640培地に懸濁して所定濃度に希釈し、96ウェルマイクロタイタープレートに播種して、COインキュベーターで7〜10日間培養してハイブリドーマを調製した。得られたハイブリドーマは、KHV抗原ペプチドを用いたELISAによりスクリーニングした。KHV−ORF62抗原及びKHV−ORF68抗原のそれぞれを96ウェルマイクロタイタープレートにコーティングし、5%BSAでブロッキングしてELISAプレートを作製し、プレートの各ウェルにハイブリドーマの培養上清を添加して室温(約23℃)で1〜2時間反応させた。各ハイブリドーマが産生したモノクローナル抗体のELISA抗体価は、SensoLyteTM pNPP Alkaline PhosphataseELISAAssay Kit (ANASPEC社製)を用いて測定した。その結果、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして、ハイブリドーマ4B7、ハイブリドーマ2A1、ハイブリドーマ10D10、ハイブリドーマ2E10、ハイブリドーマ4F12、ハイブリドーマ5G6の6種、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして、ハイブリドーマ1F3、ハイブリドーマ5G5、ハイブリドーマ9C7、ハイブリドーマ10F9、ハイブリドーマ7C6、ハイブリドーマ8D10、ハイブリドーマ12A2、ハイブリドーマ10E6の8種が選抜された。
【0047】
3−2.モノクローナル抗体の交差性の確認
得られたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のKHV−ORF62及びKHV−ORF68に対する交差性をELISA抗体価に基づいて判定した。KHV−ORF62抗原で免疫して得られた各抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体のKHV−ORF62抗原、KHV−ORF68抗原に対する抗体価を表1に、KHV−ORF68抗原で免疫して得られた各抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体のKHV−ORF68抗原、KHV−ORF62抗原に対する抗体価を表2にそれぞれ示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
その結果、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10は、交差反応性を示さず、KHV−ORF62抗原と反応するがKHV−ORF68抗原と反応しないモノクローナル抗体であると判定された。また、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6、10E6は、交差反応性を示さず、KHV−ORF68抗原と反応するがKHV−ORF62抗原と反応しないモノクローナル抗体であると判定された。
【0051】
3−3.モノクローナル抗体のアイソタイプの確認
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプを判定した。各アイソタイプ特異的抗体に対する抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体のELISA値を表3に、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体のELISA値を表4にそれぞれ示す。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
その結果、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10は、IgMであると判定された。また、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6及び10E6は、IgG1であると判定された。
【0055】
3−4.ウエスタンブロットによるモノクローナル抗体の特異性の確認
得られた抗KHV−ORF62モノクローナル抗体、及び抗KHV−ORF68モノクローナル抗体について、常法に従いウエスタンブロット解析による抗原特異性の確認を行った。KHV−ORF62抗原及びKHV−ORF68抗原のそれぞれを、1レーンあたりのタンパク質量を50μgとして10%のアクリルアミドゲルでSDS−PAGEに供した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜上にブロッティングした。続いて、PVDF膜を3%スキムミルクを用いて45分間ブロッキングし、TBS bufferで希釈した前記各抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体をそれぞれ添加し、室温で2時間振とうした。次いで、二次抗体としてHRP標識抗マウスIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を用いて各モノクローナル抗体の検出を行った。抗KHV−ORF62モノクローナル抗体のKHV−ORF62抗原及びKHV−ORF68抗原に対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を図3に、抗KHV−ORF68モノクローナル抗体のKHV−ORF68抗原及びKHV−ORF62抗原に対する特異性をウエスタンブロットで解析した結果を図4に示す。図3に示す結果から、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10は、約60kDaのKHV−ORF62抗原を特異的に検出し、約56kDaのKHV−ORF68抗原を検出しないことが確認された。また、図4に示す結果から、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10E6及び7C6は、約56kDaのKHV−ORF68抗原を特異的に検出し、約60kDaのKHV−ORF62抗原を検出しないことが確認された。
【0056】
3−5.モノクローナル抗体によるウイルスの検出(ウエスタンブロット)
KHV−ORF62抗原及びKHV−ORF68抗原との間で交差反応性を示さないことが確認された抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10、並びに抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10E6及び7C6を用いて、コイヘルペスウイルスの特異的な検出の可否を確認するために、ウエスタンブロットによるウイルス抗原の検出を行った。試料としては、KF−1細胞に、コイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株、コイ乳頭腫症ウイルス(CHV)、Cyprinid herpes virus-2(CyHV−2)をそれぞれ接種し、25℃で約2週間培養した後、回収した細胞をlysis bufferで溶解した可溶性画分を用いた。KHV感染KF−1細胞、CHV感染KF−1細胞、及びCyHV−2感染KF−1細胞から調製した前記試料を、抗KHV−ORF62マウスモノクローナル抗体10D10、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体10E6及び7C6をそれぞれ用いて、常法に従いウエスタンブロットを行った。抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6についての結果を図5に示す。KHV感染KF−1細胞(右レーン)では、ORF68がコードするタンパク質がプロセシングされて生じたと考えられる抗原による複数の強いバンドが確認されたのに対し、CHV感染KF−1細胞(左レーン)及びCyHV−2感染KF−1細胞(中央レーン)ではバンドは確認されなかった。なお、各レーンの50kDa付近のバンドは、ハイブリドーマ培養液に含まれるウシ胎児血清(FBS)に由来するものと確認された。図5に示す結果から、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6は、コイヘルペスウイルス(KHV)を特異的に検出し、コイ乳頭腫症ウイルス(CHV)及びCyprinid herpes virus-2(CyHV−2)を検出しないことが確認された。抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を産生するハイブリドーマは、KHVハイブリドーマ細胞ORF68(7C6)と命名され、2010年3月24日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託された(受番号 NITEP−919)。
【0057】
3−6.モノクローナル抗体によるウイルスの検出(蛍光抗体法)
抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を用いて、蛍光抗体法により細胞中のコイヘルペスウイルスの検出確認を行った。試料としては、チャンバースライド(Lab-Tek chamber slide w/cover Permanox Slide sterile (NUNC社製))を用いてCCB細胞(common carp brain cell;コイ脳由来株化細胞)をあらかじめ培養し、コイヘルペスウイルスTUMST1(KHV−TUMST1)株、コイ乳頭腫症ウイルス(CHV)、Cyprinid herpes virus-2(CyHV−2)をそれぞれ接種し、20℃で7〜10日間培養したものを用い、対照としてウイルスを感染させていないCCB細胞を用いた。KHV感染CCB細胞、CHV感染CCB細胞、及びCyHV−2感染CCB細胞から調製した前記試料を、スライドに塗抹し、100%メタノールで固定した後、PBSで洗浄した。続いて、塗抹標本上にブロッキング溶液(PBS−T;50% スキムミルク,0.05% Tween−20)を添加し、37℃で30分間インキュベートした。1次抗体として抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を添加し、37℃で1時間反応させた後洗浄した。次いで、2次抗体としてFITC標識抗マウスIgGヤギ抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社製)を添加し、37℃で1時間反応させた後洗浄し、封入剤(10%グリセロール)を添加して蛍光顕微鏡により観察した。その結果を図6に示す。非感染CCB細胞(A)、CHV感染CCB細胞(B)、CyHV−2感染CCB細胞(C)と比較して、KHV感染CCB細胞(D)において強い蛍光が認められたことから、抗KHV−ORF68マウスモノクローナル抗体7C6を用いることにより、コイヘルペスウイルスに感染した細胞或いは組織におけるコイヘルペスウイルス特異的な検出が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の抗原ペプチドは、交差性がなくコイヘルペスウイルスに特異的なポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を作製するのに用いられる。本発明のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体は、コイヘルペスウイルスの特異的検出に用いられる。また、本発明のコイヘルペスウイルスの検査方法は、コイヘルペスウイルス感染魚の感染歴を正確に診断するのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]