【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法について添付の図面を参照して詳細に説明する。本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0031】
本発明が適用される製造装置の一例を
図1(a)に示す。また、
図1(b)は、
図1(a)に示すA−A’断面における配管55及び配管57の断面図である。本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブ(CNT)の製造装置100は触媒層3を備える基材1を受容する例えば石英ガラスや耐熱合金等からなる合成炉10と、合成炉10の上壁およびまたは側壁に設けられ、合成炉10と連通する第1ガスを供給するための第1ガス供給管41及び第2ガスを供給するための第2ガス供給管43と、下流側の下壁もしくは側壁に設けられ、合成炉10と連通し、第1ガスおよび第2ガスを排気するガス排気管50と、合成炉内10を所定温度に加熱するために合成炉10を外囲して設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱手段30と、炉内温度を所定の温度に調整するための加熱温度調整手段と、加熱手段30と加熱温度調整手段により、所定温度に加熱された合成炉10内の加熱領域31(
図1の場合、合成炉全体が加熱されているため、合成炉内の空間が加熱領域となる)と、を備える。合成炉10内の加熱領域31に、触媒層3を備える基材1を保持するための基材ホルダ5が設けられている。
【0032】
基材ホルダ5および触媒層3の上方の加熱領域31内には、好ましくはガス流形成手段21を介して第1ガス供給管41に接続し、加熱手段30によって加熱された加熱領域内に配設された配管55により第1ガス流路45が構成される。第1ガス供給管41から供給される原料ガスを含む第1ガスを、ガス流形成手段21により分配・分散し、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成することが好ましい。ガス流形成手段21は、基材1の触媒層の表面に対して略平行の複数の方向に原料ガスの流れを形成する。分配・分散した第1ガスは、配管55により基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向のガス流として供給される。また、同様に、基材ホルダ5および触媒層3の上方の加熱領域31内には、第2ガス供給管43に接続し、加熱手段30によって加熱された加熱領域内に配設された配管57により第2ガス流路47が構成される。第2ガス流路47は第2ガス供給管43から供給される触媒賦活物質を含む第2ガスを基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向のガス流として供給する。ここで第1ガス流路と第2ガス流路の少なくとも一部において第1ガス流路と第2ガス流路とを独立して設け、触媒層に到達する前の、加熱領域内での第1ガスと第2ガスの混合を抑制する。
【0033】
第1ガスと第2ガスとは、それぞれすくなくとも一部が独立した、異なる配管55により構成された第1ガス流路45と配管57により構成された第2ガス流路47をそれぞれ通って供給されるため、すくなくとも第1ガス流路45と第2ガス流路47の一部の領域において、第1ガスと第2ガスが混合することはないため、流路内で反応する量が少なく、したがって、第2ガスに含まれる触媒賦活物質を流路内での減少量をすくなくできる。第1ガスおよび第2ガスは、それぞれすくなくとも一部が独立した、異なる配管55により構成された第1ガス流路45と配管57を通ったのち、触媒層の近傍で混合され、ガス混合領域80を形成し、基材1上の触媒層を配置した領域に単位面積あたり所定の供給量を触媒に接触する。
【0034】
図1においては、基材ホルダ5および触媒層3に対向する第1ガス流路45を構成する配管55の出口が第1ガス供給管41の径よりも大きく、第2ガス流路47を構成する配管57と第2ガス供給管43の径が同じであるものとして示したが、本実施形態に係るCNTの製造装置100はこれに限定されるものではなく、十分な量の第1ガスおよび第2ガスを供給できればよい。例えば、配管57の出口を第2ガス供給管43の径よりも大きくしてもよい。
【0035】
従来では、原料ガスと触媒賦活物質とを混合したガスを合成炉10内に供給していたため、触媒層の近傍に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが反応してしまい、触媒賦活物質を触媒に所定の量を供給することが困難であった。本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法によれば、原料ガスを含む第1ガスと、触媒賦活物質を含む第2ガスとを別々のすくなくとも一部が独立したガス供給管から供給し、加熱領域内のすくなくとも一部が別々の配管により構成されたガス流路を流すことにより、触媒層の近傍に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが混合して反応することを抑制し、触媒層の近傍で第1ガスと第2ガスとを混合して、ガス混合領域を形成することで触媒層に接触させることができるため、高純度、高比表面積のCNT集合体を、大面積に且つ効率よく製造することができる。
【0036】
〔合成炉〕
合成炉とは、触媒を担持した基材1を受容し、CNTの合成を行う炉のことを指す。合成炉10の材質は、CNTの成長を阻害せず、成長温度で触媒を担持した基材1を受容することができ、炉内の均熱性を保ち得るものとすると良い。さらには、大量のCNTを合成するために、合成炉10は、基材1を複数、もしくは連続的に供給・取り出しを行うシステムを装備していてもよい。
【0037】
本発明の効果を得るためには合成炉10は横型よりも縦型であることが好ましい。ここで縦型合成炉とは、原料ガスが縦(鉛直)方向から供給される合成炉を示す。原料ガスおよび触媒賦活物質を縦(鉛直)方向から供給すると、基材1を水平方向に配設し、かつ、原料ガスを鉛直方向から、触媒に接触させることが容易なため好ましい。
【0038】
〔ガス流路〕
加熱手段30によって加熱された加熱領域内に配設された第1ガス流路45と第2ガス流路47とは、それぞれ第1ガスと第2ガスの各々を少なくとも一部の領域で互いに接触することなく独立して、基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向のガス流として供給する流路である。本発明に係るガス流路は、ガス供給管に接続し、加熱領域31内に配設されたガス流形成手段21及び配管により構成される。ただし、本発明においては、第1ガスと第2ガスの各々を互いに接触することなく少なくとも一部の領域で独立して、供給することができればよく、配管により構成することを限定するものではない。ガス流路がハニカム構造体を備えてもよい(
図2b)。第1ガス供給管41から供給される第1ガスに含まれる原料ガスは、加熱領域内に配設された第1ガス流路45を通過する間に分解が促進され、CNT成長に最適化された原料ガスを基材1上の触媒層近傍のガス混合領域に供給することが可能になる。また、第2ガス供給管43から供給される第2ガスに含まれる触媒賦活物質は、加熱領域内に配設された第2ガス流路47を通過する間には、原料ガスとは反応する量が少ないため、基材1上の触媒層近傍のガス混合領域に単位面積あたり所定の供給量を触媒に接触させることができる。
【0039】
従来は、原料ガスと触媒賦活物質とは同一の流路を用いて加熱領域内に供給され、触媒層の近傍に到達するまでに、相当量の触媒賦活物質が原料ガスと反応して、減少していた。このため、触媒層に接触させる触媒賦活物質の適切な量を制御することは困難であった。本発明においては、合成炉10内に配設されたすくなくとも一部が独立の互いに異なる配管55と配管57とにより、第1ガス流路45と第2ガス流路47をそれぞれ構成することにより、加熱領域31内においての接触が抑制され、供給される第1ガスおよび第2ガスは、流路から放出された後に、触媒層の近傍のガス混合領域80で混合される。第1ガスに含まれる分解の促進された原料ガスと、減少することなく所定の量で供給される触媒賦活物質とがガス混合領域80で混合されることにより、CNT成長に最適な状態の混合ガスとして供給することが可能となる。
【0040】
〔ガス混合領域〕
ガス混合領域と加熱領域内で第1ガスと第2ガスが混合する領域であり、本発明においては、触媒層近傍の加熱領域内の領域内にあることが好ましい。ガス混合領域は、それぞれが独立した第1流路と第2ガス流路の出口から、合成炉内の基板の触媒層に第1ガスおよび第2ガスが到着するまでに、第1ガスおよび/または第2ガスが混合して流れる空間であることが好ましい。第1ガスと第2ガスとが混合したガス混合領域は、CNTを好適に成長させることができる空間の体積を有していればよい。
【0041】
第1流路の出口、および/または第2流路の出口から触媒層までの距離が好ましくは0.3センチ以上、より好ましくは0.5センチ以上あることが、第1ガスと第2ガスをよく混合するために好ましい。また、第1流路の出口、および/または第2流路の出口から触媒層までの距離が10センチ以下、より好ましくは5センチ以下であることが、混合した第1ガスと第2ガスの反応を抑制するために好ましい。ここで、第1流路(および/または第2流路)の出口から触媒層までの距離は、触媒層を構成する全ての点に関し、もっとも第1流路(および/または第2流路)の出口に近い位置に存在する該点と、第1流路(および/または第2流路)の出口との距離で定義する。
【0042】
〔ガス供給管〕
第1ガス供給管41は炭素重量フラックス調整手段70から供給された原料ガス、雰囲気ガス、還元ガスなどを含む第1ガスを合成炉10内の第1ガス流路45を構成する配管55に接続され、第2ガス供給管43は触媒賦活物質などを含む第2ガスを合成炉10内の第2ガス流路47を構成する配管57に接続される。なお、第1ガス供給管41および第2ガス供給管43は、ガスのみならず、液体を供給してもよい。第1ガス供給管41および第2ガス供給管43は、合成炉10の上壁、およびまたは、側壁に設けられた、開口から合成炉10内へ設けることができるが、原料ガスおよび触媒賦活物質を縦(鉛直)方向から供給することが好ましい。配管の一部は合成炉10の中に挿設されていてもよく、加熱領域31内にその末端が設けられていてもよい。合成炉10の中に挿設されている配管は各種ガスと反応せず、高熱下においてもその品質、形状を保ち得るものであればよく、石英、各種金属材料などが挙げられる。
【0043】
〔ガス流形成手段〕
ガス流形成手段21は、好ましくは複数の第1ガス流路45および/または第2ガス流路47に配設され、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から供給される原料ガスおよび/または触媒賦活物質を、複数の方向に分配する手段のことである。ガス流形成手段21は、原料ガスおよび/または触媒賦活物質を複数の方向に分配・分散することができれば、材質、形状等は特に制限されず、公知のものを適宜用いることができる。
【0044】
ガス流形成手段21の形状・形態としては、
図1(a)に示したように、第2ガス流路47を中心に配置し、下流に向かって断面が広がる円錐形の第1ガス流路45の配置を例示できる。
【0045】
第1ガス流路45および/または第2ガス流路47にガス流形成手段21を用いれば、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から点状に供給される原料ガスおよび/または触媒賦活物質を、平面状に分配・分散させ、基材1上の触媒層近傍のガス混合領域に単位面積あたりの所定の供給量をもって接触させることができ、格段の効果を奏するとともに、触媒層に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが反応するのを防ぐ優れた効果を奏する。ガス流形成手段21を用いて、複数の方向に分配される原料ガスおよび/または触媒賦活物質は、異なる複数の方向に流れる原料ガス流および/または触媒賦活物質のガス流を形成する。原料ガス流および/または触媒賦活物質のガス流の流れる複数の方向の軸線の間の最大角度が、90度以上(より好ましくは180度以上)になることが、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から点状に供給される原料ガスおよび/または触媒賦活物質を、平面状に分配・分散させるためには好ましい。
【0046】
また、ガス流形成手段21が対称軸又は対称点を有し、対称軸上又は対称点上に第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43が連通されていることは、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から点状に供給される原料ガスおよび/または触媒賦活物質を、第1ガス流路45および/または第2ガス流路47に対して平面状に分配・分散させるためには好ましい。また、基材1平面に対して略平行方向な複数の方向に原料ガス流および/または触媒賦活物質のガス流を形成するガス流形成手段21は、上記効果を得るために好ましい。略平行方向とは、ガス流形成手段21により、複数の方向に分配・分散された原料ガスおよび/または触媒賦活物質が流れる方向の軸線が基材1の法線と成す角が45°以上135°未満となるような方向を示す。ガス流形成手段21が対称軸又は対称点を有することにより、複数の方向に均一にガスを分配・分散することができる。
【0047】
〔配管〕
配管とは、第1ガス流路45および/または第2ガス流路47を規定できるものであれば何れの公知の手段を用いてもよい。配管を用いて第1ガス流路45および第2ガス流路47を規定すれば、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から合成炉10内に供給された、原料ガス、雰囲気ガス、還元ガス等と、触媒賦活物質とが合成炉10内で接触し反応することを防ぐことができ、本発明の効果を得ることができる。また、配管を用いて第1ガス流路45および第2ガス流路47を規定すれば、第1ガス供給管41および/または第2ガス供給管43から合成炉10内に供給された、原料ガス、雰囲気ガス、還元ガス等と、触媒賦活物質の加熱体積を増加・調整させて、触媒層表面の近傍に供給することができる。ただし、本発明においては、第1ガスと第2ガスの各々を互いに接触することなく独立して、基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向のガス流として供給することができればよい。配管は、加熱領域31内のガス流形成手段21の下流に、触媒層の表面に対して略垂直方向で開口したハニカム構造体であってもよい。配管をガス流形成手段21に配設することで、第1ガス流路45および/または第2ガス流路47は、基材1の触媒層に接触する原料ガスおよび/または触媒賦活物質良好に分散する効果がある。
【0048】
配管は、基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向の原料ガス流および/または触媒賦活物質のガス流を形成し、第1ガス流路45および/または第2ガス流路47を構成する。略垂直方向とは、配管の噴射軸線が基材1の法線と成す角が0°以上45°未満となるような方向を示す。つまり配管から噴出するガス流の方向が、基材1の触媒層3に鉛直方向から接触するようにされていることを指す。
【0049】
〔ガス排気管〕
ガス排気管50は、合成炉10から、原料ガス、雰囲気ガス、還元ガス等を含む第1ガス、および触媒賦活物質を含む第2ガスを排気する配管、ダクト等の手段を指す。なお、ガス排気管50は、ガスのみならず、液体を排気してもよい。ガス排気管50の材料は各種ガスと反応せず、その品質、形状を保ち得るものであればよく、石英、各種金属材料などが挙げられる。ガス排気管50は、合成炉10の下壁、およびまたは、第1ガス供給管41および第2ガス供給管43より下側の側壁に設けられた、開口から合成炉10内へ挿設するのが好ましい。このように、第1ガス供給官41および第2ガス供給管43とガス排気管50を配設すれば、合成炉10内で原料ガスが縦(鉛直)方向から触媒に供給され、好ましい。
【0050】
〔加熱手段および加熱領域〕
加熱手段30は、合成炉10を外囲するように設けられた合成炉10、を加熱するための装置を指す。電熱線を用いるもの、赤外線を用いるものなど既存の加熱手段30を用いることができる。なお、本明細書で言う加熱領域31とは、加熱手段30により、加熱された合成炉10の内部の空間を言う。
【0051】
〔製造装置の材質〕
製造装置の一部、特に第1ガス流路45を構成する配管55、第2ガス流路47を構成する配管57の材質は、その機能を発現できるものであればよく、公知の物を適宜用いることができる。このような材質としては耐熱合金とすると良い。耐熱合金は、加工性、機械的強度に優れるため好ましい。
【0052】
〔本発明のメカニズム〕
本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法が触媒賦活物質含環境下で、高速にかつ高収量で効率良く効率よく、高純度、高比表面積のCNTを製造することができるメカニズムは以下のように推察される。
【0053】
第1ガス供給管41から供給される第1ガスは、第1ガス流路45を通り配管55の出口から触媒層の近傍のガス混合領域80に供給される。第1ガスに含まれる原料ガスは、第1ガス流路45を通る間に高温に晒されることになり、その結果、原料ガスの分解反応が進み、原料ガスが触媒と接触した際に、容易に反応し、CNTの製造が促進される。
【0054】
一方、第2ガス供給管43から供給される第2ガスは、第2ガス流路47を通り配管57の出口から触媒の近傍のガス混合領域80に供給される。第2ガスに含まれる触媒賦活物質は、第2ガス流路47を通る間は、原料ガスと反応する量が少ないため、ガス混合領域80に所定の量の触媒賦活物質が供給される。
【0055】
したがって、本発明のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法においては、原料ガスの分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態の原料ガスと、所定の量の触媒賦活物質とがガス混合領域80に供給されて、混合することとなる。これにより、基材1の触媒層近傍のガス混合領域に原料ガスと、単位面積あたり所定の供給量の触媒賦活物質とを供給して反応させることができる。この結果、触媒の寿命が改善し、CNTの合成効率が著しく向上したことに着目すれば、従来よりも、合成効率が最適化されると考えることができる。
【0056】
〔CNTの製造方法〕
本発明に係るCNTの製造には、上述したCNTの製造装置を用いることで、公知の合成法を適用することができる。これは、基材1上に触媒層を製造し、その触媒から複数のCNTを化学気相成長(合成)させるものである。
【0057】
図1を参照しながら説明すると、先ず、第1ガス供給管41から第1ガス流路45を介して供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)が満たされた合成炉10内に、触媒層3(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した基材1(例えばシリコンウエハ)を搬入し、基材ホルダ5に載置する。
【0058】
このとき、触媒層3表面と第1ガス流路45および第2ガス流路47とが概して垂直に交わるように基材1を配設し、原料ガスが効率良く触媒に供給されるようにする。
【0059】
次いで第1ガス供給管41から第1ガス流路45を介して合成炉10内に還元ガス(例えば水素)を供給しながら、合成炉10内を所定の温度(例えば750℃)に加熱し、その状態を所望の時間保持するフォーメーション工程を行う。
【0060】
この還元ガスにより、触媒層3が微粒子化され、CNTの触媒として好適な状態に調整される。また、フォーメーション工程においては、必要に応じて第2ガス供給管43から第2ガス流路47を介して触媒賦活物質を含む第2ガスを添加してもよい。
【0061】
次いで第1ガス流路45からの還元ガスおよび雰囲気ガスの供給を所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガスと触媒賦活物質の各々を、合成炉10内に配設された互いに異なる配管から触媒層3の近傍のガス混合領域80に供給する。すなわち、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスを含む第1ガスを、第1ガス供給管41から第1ガス流路45を介して合成炉10内に供給し、触媒賦活物質(例えば水)を含む第2ガスを第2ガス供給管43から第2ガス流路47を介して合成炉10内に供給する。第1ガス流路45およびまたは第2ガス流路47から供給されたこれらのガスは、ガス流形成手段により分配・分散し、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成した後に、触媒層3の近傍のガス混合領域80で混合し、好適な量で、基材1上の触媒層3表面に供給される。
【0062】
ここで、第1ガス流路45を通過する間に第1ガスに含まれる原料ガスは分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態となる。また、第2ガス流路47から供給されることで、原料ガスとは反応せずに十分な量の触媒賦活物質がガス混合領域80に供給される。このように最適化された第1ガスと第2ガスとをガス混合領域80で混合して触媒層3に接触させ、基材1に被着した触媒層から高速にかつ高収量で効率良くCNTが成長する(成長工程)。また、触媒層3に接触した後には、これらのガスは速やかにガス排気管50より排気され、炭素不純物の発生は最小限に抑えられる。
【0063】
CNTの生産終了後、合成炉10内に残余する、第1ガスに含まれる原料ガス、第2ガスに含まれる触媒賦活物質、それらの分解物、または合成炉10内に存在する炭素不純物等がCNT集合体へ付着することを抑制するために、第1ガス流路45から雰囲気ガスのみを流し、CNT集合体への不純物の接触を抑制する(炭素不純物付着抑制工程)。
【0064】
このようにして、基材1上の触媒層3から同時に成長した複数のCNTは、触媒層3に直交する向きに成長して、配向し、高さが概ねそろった高比表面積、高純度のCNT集合体を構成する。
【0065】
以下、これらの各種条件について詳述する。
〔フォーメーション工程〕
フォーメーション工程とは、合成炉10内に配設された基材1上の触媒層3に、還元ガスを供給して接触させる工程であって、基材1に担持された触媒層の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒層または第1ガス流路45から供給する還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの触媒微粒子が多数形成される。
【0066】
〔成長工程〕
成長工程とは、CNTの生産に好適な触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒層または第2ガス供給管43から供給する原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、CNT集合体を成長させる工程のことを意味する。フォーメーション工程の後に成長工程を行うことはCNT集合体の生産に好適である。
【0067】
〔冷却工程〕
冷却工程とは、CNT集合体、触媒、および基材1を、成長工程後に冷却する工程のことである。成長工程後のCNT集合体、触媒、および基材1は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT集合体、触媒、および基材1を、好ましくは400℃以下、より好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては、第2ガス供給管43から供給する不活性ガスが好ましく、特に安全性、経済性、およびパージ性などの点から窒素が好ましい。
【0068】
〔基材(基板)〕
基材1(基板)とは、その表面にCNTを成長させる触媒を担持することのできる部材であり、最低限400℃以上の高温でも形状を維持できるものであれば適宜のものを用いることができる。
【0069】
基材1の形態としては、平板等の平面状の形態が、本発明の効果を用いて、大量のCNTを製造するために好ましく、これまでにCNTの製造に実績のある材質であればよい。しかしながら、粉末、または線状体の集合体で、平面状をなす基材1でもよい。
【0070】
金属は、シリコンやセラミックと比較して廉価である点が好ましく、特に、鉄−クロム(Fe−Cr)合金、鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金、および鉄−クロム−ニッケル(Fe−Cr−Ni)合金などが本発明の実施に好適である。
【0071】
粉末、または線状体としては、具体的には、板状アルミナ・石英フレーク・石英繊維・セラミック繊維・繊維状酸化チタンなどを例示できる。
【0072】
〔触媒〕
本発明の実施において基材1に担持され、触媒層3を形成する触媒としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、具体的には、鉄・ニッケル・コバルト・モリブデン、およびこれらの塩化物並びに合金や、これらがさらにアムミニウム・アルミナ・チタニア・窒化チタン・酸化シリコンと複合化、または重層化したものでもよい。
【0073】
〔還元ガス〕
フォーメーション工程で用いる還元ガスは、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つガスである。本発明の実施に用いる還元ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のある還元性を有するガスであれば適宜のものを用いることができるが、例えば水素・アンモニア・水、およびそれらの混合ガスを適用することができる。
【0074】
〔不活性ガス(雰囲気ガス)〕
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアガス)としては、CNTの成長温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよく、本発明の実施に用いる雰囲気ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができる。一般的には、不活性ガスが好ましく、ヘリウム・アルゴン・水素・窒素・ネオン・クリプトン・二酸化炭素・塩素などや、これらの混合ガスが挙げられ、特に窒素・ヘリウム・アルゴン・水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
【0075】
〔原料(原料ガス)〕
本発明の実施においてCNTの製造に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば、適宜な物質を用いることができる。本明細書では、原料ガスを含有するガスを第1ガスと規定する。第1ガスは触媒賦活物質を含有しないことが好ましい。
【0076】
本発明の実施形態に係る原料ガスとしては、芳香族化合物・飽和炭化水素・不飽和炭化水素・不飽和鎖式炭化水素・飽和鎖式炭化水素・環状不飽和炭化水素・環状飽和炭化水素などのガス状炭素化合物を例示できる。中でも、メタン・エタン・プロパン・ブタン・ペンタン・ヘキサン・ヘプタン・プロピレン・エチレン・ブタジエン・ポリアセチレン・アセチレンなどの炭化水素が好適である。これらの原料ガスが成長工程において触媒と接触することにより、触媒表面にCNTが生成される。
【0077】
〔触媒賦活物質の添加〕
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加する。触媒賦活物質の添加により、触媒の寿命を延長し、且つ活性を高め、結果としてCNTの生産効率向上や高純度化を推進することができる。第2ガスは、好ましくは原料ガスを含有せず、触媒賦活物質を含有することが好ましい。
【0078】
ここで用いる触媒賦活物質としては、酸素もしくは、硫黄などの酸化力を有する物質であり、且つ成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水・酸素・オゾン・酸性ガス、および酸化窒素・一酸化炭素・二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、またはエタノール・メタノール・イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類・酸類・塩類・アミド類・エステル類、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水・酸素・二酸化炭素・一酸化炭素・エーテル類・アルコール類が好ましいが、特に、極めて容易に入手できる水が好適である。触媒賦活物質として、炭素を含むものを用いた場合、触媒賦活物質中の炭素が、CNTの原料となりうる。
【0079】
〔触媒賦活物質および原料の条件〕
成長工程において触媒賦活物質と原料とを用いてCNTを製造する際には、(1)原料は炭素を含み酸素を含まず、(2)触媒賦活物質は酸素を含むことが、CNTを高効率で製造することが好ましい。上述したように、本発明においては、原料ガスを含む第1ガスは第1ガス流路45を介して合成炉10内に供給し、触媒賦活物質(例えば水)を含む第2ガスは第2ガス流路47を介して合成炉10内に供給する。これにより、第1ガス流路45を通過する間に原料ガスは分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態となる。また、第2ガス流路47から供給されることで、原料ガスとの反応が抑制され、十分な量の触媒賦活物質がガス混合領域80に供給される。このように最適化された第1ガスおよび第2ガスがガス混合領域80で混合して触媒層3に接触させることにより、CNTを高効率で製造することが可能となる。
【0080】
〔反応温度〕
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、および反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活剤を添加する工程を含むため、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。
【0081】
つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボンやグラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。
【0082】
具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃以上1000℃以下とすることである。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃を超えると触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0083】
また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃以上1100℃以下とすることがより好ましい。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1100℃を超えると触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【0084】
〔CNT集合体〕
上記した生産装置、および製造法により、触媒賦活物質含有雰囲気で、基材上の触媒から原料ガスを用いて、高効率でCNTを成長させることができ、触媒から成長した多数のCNTは特定の方向に配向し、CNT集合体を形成する。CNT配向集合体とは基材1から剥離して得られた物体でも良い。その場合、CNT集合体は粉体状であっても良い。
【0085】
炭素不純物が単層CNT集合体に付着すると、単層CNT集合体の比表面積が低下する。本発明に係る単層CNT集合体は、炭素不純物の発生が抑制されているために、比表面積は800m
2/g以上2600m
2/g以下と非常に大きい。CNT集合体の比表面積は、液体窒素の77Kでの吸脱着等温線の計測によって求めることができる。このように大きな比表面積は、触媒の担持体やエネルギー・物質貯蔵材として有効であり、スーパーキャパシタやアクチュエータなどの用途に好適である。
【0086】
大きい比表面積を得るためには、CNTが可能な限り高純度であることが望ましい。ここでいう純度とは、炭素純度である。炭素純度とは、CNT集合体の重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示し、蛍光X線を用いた元素分析等から求めるとよい。大きな比表面積を得る上での炭素純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上の炭素純度を有するCNT集合体を得ることは困難である。炭素純度が95%に満たないと、未開口CNTの場合、800m
2/gを超える比表面積を得ることが困難となる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
本実施例においては、第1ガス流路45および第2ガス流路47の少なくとも一方が、第1ガス、および/または、第2ガスを複数の方向に分配するガス流形成手段21を備える例について説明する。本実施例においては、一例として、第1ガス流路45がガス流形成手段21を備えるCNTの製造装置200について説明する。
【0089】
図2に本実施例に係るCNTの製造装置200の模式図を示す。
図2(a)は本発明の一実施形例に係るCNTの製造装置200を概念的に示した図であり、
図2(b)は
図2(a)に示すA−A’断面における配管55及び配管57の断面図である。CNTの製造装置200は上述したCNTの製造装置100の第1ガス流路45と第2ガス流路47がガス流形成手段21と配管55及び配管57によりそれぞれ構成される。加熱領域31内に配設された第1ガス流路45には、第1ガス供給管41から供給される原料ガスを含む第1ガスを分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させる、ガス流形成手段21が配設されている。ガス流形成手段21は、基材1の触媒層の表面に対して略平行の複数の方向に原料ガスの流れを形成する。また第1ガス流路45は、ガス流形成手段21に接続し、基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する複数の配管55が設けられている。配管55は、基材1の触媒層に対して、略平行な同一面内に配設されている。また同様に、第2ガス流路47に第2ガス供給管43から供給される触媒賦活物質を含む第2ガスを分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させる、ガス流形成手段を配置することもできる。
【0090】
第1ガス流路45は、このようなガス流形成手段21を備えることにより、第1ガス供給管41から供給された原料ガスを含む第1ガスを、基材1の触媒層の表面と略平行な平面に展開・分散してから、基材1の触媒層と略垂直方向から触媒と接触させることができる。また、第2ガス流路47にガス流形成手段を用いることにより、第2ガス供給管43から供給された触媒賦活物質を含む第2ガスを、基材1の触媒層の表面と略平行な平面に展開・分散してから、基材1の触媒層と略垂直方向から触媒と接触させてもよい。
【0091】
本発明のCNTの製造装置200によれば、第1ガス流路45は、原料ガスを含む第1ガスをガス流形成手段21により分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させる。また、第1ガス流路45は、配管55により基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する。また、複数の配管55を有する第1ガスの流路43は、断面積が大きくして、加熱体積、を増加・調整することにより、原料ガスの分解反応が進み、原料ガスが触媒と接触した際に、容易に反応し、CNTの製造が促進される。また、触媒賦活物質を含む第2ガスは、第2ガス流路47からガス混合領域80に供給されるため、触媒層の近傍に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが混合して反応する量が少なく、触媒表面に到達する前に第1ガスと第2ガスとを混合して触媒層に接触することができるため、高純度、高比表面積のCNT集合体を、大面積に且つ効率よく製造することができる。
【0092】
また、CNTの製造装置200は、CNTの原料となる炭素化合物を収容する原料ガスボンベ61、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスを収容する雰囲気ガスボンベ63、触媒を還元するための還元ガスボンベ65、および触媒賦活物質を収容する触媒賦活物質ボンベ67を備える。また、個別にかつ互いに独立に、第1ガスの炭素重量フラックスを調整する第1炭素重量フラックス調整手段71と、第2ガスの炭素重量フラックスを調整する第2炭素重量フラックス調整手段73とを備える。本実施例においては、第1炭素重量フラックス調整手段71は原料ガスボンベ61、雰囲気ガスボンベ63、還元ガスボンベ65からのガスの供給量を制御して第1ガスの炭素重量フラックスを調整し、第2炭素重量フラックス調整手段73は触媒賦活物質ボンベ67からのガスの供給量を制御して第2ガスの炭素重量フラックスを調整する。このような構成は、最適化された量のガスを触媒に接触させるために好適である。
【0093】
第1ガス供給管41、第2ガス供給管43、ガス排出管50、並びに各供給部の適所には、逆止弁、流量制御弁、および流量センサが設けられており、図示されていない制御装置からの制御信号によって各流量制御弁を適宜に開閉制御することにより、所定流量の原料ガス、雰囲気ガス、還元ガスが、並びに触媒賦活物質、第1ガス供給管41および第2ガス供給管43から反応プロセスに応じて連続的にあるいは間欠的に合成炉10内に供給されるようになっている。
【0094】
(配管の形状)
図3(a)は本実施例に係る流路の変形例を示す。ガス流形成手段21と配管55及び配管57とから形成される第1ガス流路45及び第2ガス流路47を示す模式図であり、
図3(b)は(a)に示すA−A’断面における配管55及び配管57の断面図である。また、
図3では、第2ガス供給管43と接続する1本の配管57により構成された第2ガス流路47として例示したが、例えば、
図4や
図5に示すような配置を用いることにより、複数の配管57を配設して複数の第2ガス流路47を構成してもよい。
図4(a)は、本発明の流路の変形例に係るガス流形成手段21、ガス流形成手段221、配管55及び配管57とから形成される第1ガス流路45及び第2ガス流路47を示す模式図であり、
図4(b)は(a)に示すA−A’断面における配管55及び配管57の断面図である。本実施例においては、
図3に示したガス流形成手段21において、第1ガス流路45を形成する配管55の径を細くして、配設する配管数を増やし、第2ガス流路47を形成する配管57を複数配設した例を示す。
図4(a)においては、第2ガス流路47を複数の流路に分配するために、ガス流形成手段21の内部に複数の配管57に接続するガス流形成手段221をさらに配設する。
【0095】
本実施例においては、第1ガス及び第2ガスは複数の配管57を用いて第1ガス流路45および第2ガス流路47を複数の流路として触媒層の近傍のガス混合領域80に供給されることにより、配管55及び配管57から供給される第1ガス及び第2ガスの放出範囲を細かく制御して、触媒層の近傍のガス混合領域80で混合される第1ガス及び第2ガスの濃度をCNTの成長に最適な状態に制御することができる。
【0096】
また、
図5(a)は、本発明の他の流路の変形例に係るガス流形成手段21、ガス流形成手段221、配管55及び配管57とから形成される第1ガス流路45及び第2ガス流路47を示す模式図であり、
図5(b)は
図5(a)に示すA−A’断面における配管55及び配管57の断面図である。本実施例においては、ガス流形成手段221に接続された第2ガス供給管43を複数の第2ガス流路47に分岐するように配管57を配設した例である。
図5(a)においては、第2ガス流路47を複数の流路に分配するために、ガス流形成手段21の内部に複数の配管57に接続するガス流形成手段221配設する。
【0097】
本実施例においては、複数の配管55を用いて第1ガス流路45を複数の流路として触媒層の近傍のガス混合領域80に供給し、複数の配管57を用いて第2ガス流路47を複数の流路として触媒層の近傍のガス混合領域80に供給する。第1ガス流路45および第2ガス流路47が複数の流路として分散されることにより、CNTの合成において、基材1上に形成された触媒層3の全面に、より均一に第1ガスおよび第2ガスを供給することができる。また、配管55及び配管57の第1ガス流路45および第2ガス流路47の断面積や配置を調整することで、ガス混合領域80での第1ガスおよび第2ガスの供給量を個別に制御することができる。したがって、第1ガスおよび第2ガスの供給量を空間的に制御し、CNTの成長に最適な混合ガスの濃度の分布を形成することができる。
【0098】
また、基材1上に設けられた触媒層3の表面と第1流路と第2流路の出口との距離は、1cmと設定した。出口から触媒層3の表面の空間をガス混合領域と規定した。触媒層3の表面と第1流路と第2流路の出口との距離が0.3センチより小さいと、CNT集合体の収量が著しく減少した。
【0099】
〔炭素重量フラックス調整手段〕
炭素重量フラックス調整手段は、ガスフロー装置等により、CNTの原料となる炭素化合物となる原料ガスの供給量及び原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスである雰囲気ガスの供給量をそれぞれ調整し、任意の炭素重量フラックスを炉内に供給する手段である。
図2において、第1炭素重量フラックス調整手段71は、原料ガス、雰囲気ガスおよび還元ガスの供給量を調整し、第2炭素重量フラックス調整手段73は触媒賦活物質の供給量を調整するものとして示したが、第2炭素重量フラックス調整手段73にも雰囲気ガスボンベ63を接続することで、触媒賦活物質と雰囲気ガスとを混合した第2ガスを供給してもよい。
【0100】
図2に示したCNTの製造装置200を用いて、本発明の実施形態において説明した方法を採用して、CNT集合体、およびCNT配向集合体を製造した。
図2および
図6を参照しながら説明する。
【0101】
本実施例において、縦型合成炉10としては、円筒等の石英管(内径80mm)を用いた。加熱手段30、および加熱領域31の長さは260mmであった。中心部の水平位置から20mm下流に石英からなる基材ホルダ5を設けた。基材ホルダ5は、水平方向に設置され、平面状の基材1を載置することが可能である。
【0102】
合成炉10の上壁には、合成炉10上壁中心に設けられた開口に鉛直方向に挿入された直径22mm(内径(φ)20mm)の耐熱合金からなる第1ガス供給管41を設け、第1ガス供給管41には直径6mm(内径4mm)の耐熱合金からなる第2ガス供給管43を設けた。また下壁には、合成炉10下壁中心に設けられた開口に鉛直方向に挿入されたガス排気管50を設けた。合成炉10を外囲して設けられた抵抗発熱コイルからなる加熱手段30と加熱温度調整手段を設け、所定温度に加熱された合成炉10内の加熱領域31を規定した。
【0103】
直径78mmの円筒状で扁平な中空構造をなす耐熱合金インコネル600からなるガス流形成手段21を、第1ガス供給管41の合成炉10内の端部に連通して接続するように設けた。第1ガス供給管41はガス流形成手段21の中心に連通して接続した。
【0104】
ガス流形成手段21は基材1の触媒層の表面に対して、略平行な同一面内に配設し、基材1の中心が、ガス流形成手段21の中心と一致するように配設された。本実施例においては、
図3に示すように、ガス流形成手段21は中空構造を有する円柱状の形状で、寸法は、一例としては、上端直径22mm×下端直径78mmの円筒形であり、径:32mmの4本の配管57を接続した。また、第1ガス供給管41の中心と一致するように配設された第2ガス供給管43は、ガス流形成手段21およびの中心と一致するように延伸し、の中心と一致して、径:13mmの出口が配設された。
【0105】
配管55および配管57の供給孔は基材1の触媒層3を臨む位置に設けられ、基材1の平面に対して略垂直方向から原料ガスを触媒に供給させた。臨む位置とは、供給孔の、噴射軸線が基材の法線と成す角が0°以上90°未満となるような配置を示す。ガス流形成手段21の配管55および配管57の接続部と対向する触媒層の表面との距離は150mmとした。
【0106】
このようにして、第1ガス供給管41から点状に合成炉10に供給される原料ガスは、拡散・分配され基材1の触媒層の表面に対して略平行面の360度に渡る全方向に供給され、そして、原料ガスは基材1の触媒層の表面に対して略垂直方向から基材1上の触媒層3に接触する。
【0107】
ここで、意図的にガス流形成手段21と触媒表面の間に150mmの距離を設け、第1ガス流路45および第2ガス流路47の加熱体積を増加させ、その加熱体積を設けた。第1ガス流路45は、ガス流形成手段21と接続され、乱流防止手段23を備える、第1ガス流路45は、耐熱合金インコネル600からなるハニカム構造のように配設されたφ32mmの4本の配管55を備え、第2ガス流路47は、4本の配管55の中心と一致するように配設されたφ13mmの配管57を備える。
【0108】
第1炭素重量フラックス調整手段71はCNTの原料となる炭素化合物となる原料ガスボンベ61、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスである雰囲気ガスボンベ63、ならびに触媒を還元するための還元ガスボンベ65をそれぞれガスフロー装置に接続して構成し、それぞれ供給量を独立に制御しながら、第1ガス供給管41に供給することで、原料ガスの供給量を制御した。また、第2炭素重量フラックス調整手段73は、触媒賦活物質ボンベ67をガスフロー装置に接続して構成し、第2ガス供給管43に供給することで、触媒賦活物質の供給量を制御した。
【0109】
基材1としては、触媒であるAl
2O
3を30nm、Feを1.8nmスパッタリングした厚さ500nmの熱酸化膜付きSi基材(縦40mm×横40mm)を用いた。
【0110】
基材1を合成炉2の加熱領域31の中心の水平位置から20mm下流に設置された基板ホルダ8上に搬入した(搬入工程)。基板は水平方向になるように設置した。これにより、基板上の触媒と混合ガスの流路が概して垂直に交わり、原料ガスが効率良く触媒に供給される。
【0111】
次いで、還元ガスとしてHe:200sccm、H
2:1800sccmの混合ガス(全流量:2000sccm)を第1ガス流路45から供給しながら、炉内圧力を1.02×10
5Paとした合成炉10内を、加熱手段30を用いて合成炉10内の温度を室温から15分かけて830℃まで上昇させた。さらに触媒賦活物質として水:80sccmを第2ガス供給管43から供給しながら、830℃に保持した状態で3分間触媒付き基材を熱した(フォーメーション工程)。これにより、鉄触媒層は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、ナノメートルサイズの触媒微粒子がアルミナ層上に多数形成された。
【0112】
次いで、炉内圧力を1.02×10
5Pa(大気圧)とした合成炉10の温度を830℃とし、第1ガス流路45から雰囲気ガスHe:総流量比89%(1850sccm)、原料ガスであるC
2H
4:総流量比7%(150sccm)を、第2ガス供給管43から触媒賦活物質としてH
2O含有He(相対湿度23%):総流量比4%(80sccm)を10分間供給した(成長工程)。
【0113】
これにより、単層CNTが各触媒微粒子から成長し(成長工程)、配向した単層CNTの集合体が得られた。このようにして、触媒賦活物質含有環境下で、CNTを基材1上より成長させた。
【0114】
成長工程の後、3分間、雰囲気ガス(総流量4000sccm)のみを第1ガス流路45から供給し、残余の原料ガス、発生した炭素不純物、触媒賦活剤を排除した(炭素不純物付着抑制工程・フラッシュ工程)。
【0115】
その後、基板を400℃以下に冷却した後、合成炉10内から基板を取り出す(冷却・基板取り出し工程)ことにより、一連の単層CNT集合体の製造工程を完了させた。
【0116】
〔CNT集合体の成長速度〕
CNT集合体の成長速度は380μm/minであった。Appl. Phys. Lett.93巻,143115頁2008年などで今までに報告されているCNTの成長速度は高々200μm/min程度であるので、本発明の装置構成と製造法は、高速に配向したCNT集合体を製造するのに著しく効果があることが分かる。
【0117】
また本製造法での収量は4.45mg/cm
2であり、従来の原料ガスと触媒賦活物質とが触媒表面の近傍に到達する前に反応する製造装置、製造法での収量が1.5〜2.0mg/cm
2程度であるのに比較して、本発明の装置構成と製造法は、高効率でCNT集合体を製造するのに著しく効果があることが分かる。また、基材1上の触媒層3上に一面に、約均一な高さでCNT集合体が製造でき、本発明の装置構成と製造法は、大面積に略均一に且つ効率よくCNT集合体を製造するのに著しく効果があることが分かる。
【0118】
〔実施例1で製造されるCNTの特性〕
単層CNT集合体の特性は、製造条件の詳細に依存するが、実施例1の製造条件では、典型値として、高さが1010μm、単層CNT含有率99%(2層CNT、多層CNTに対する単層CNTの本数割合であり、合成した、単層CNT集合体を透過型電子顕微鏡で観察し画像から求める)、重量密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1150m
2/g、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7である。
【0119】
〔CNT集合体の比表面積〕
基板から剥離したCNT集合体から50mgの塊を取り出し、これをBELSORP−MINI(株式会社日本ベル製)を用いて77Kで液体窒素の吸脱着等温線を計測した(吸着平衡時間は600秒とした)。この吸脱着等温線からBrunauer, Emmett, Teller(BET)の方法で比表面積を計測したところ、1150m
2/gであった。
【0120】
以上説明したように、本実施例のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法においては、原料ガスを含む第1ガスは第1ガス流路を介して合成炉内に供給され、触媒賦活物質を含む第2ガスは第2ガス流路を介して合成炉内に供給される。これにより、第1ガス流路を通過する間に原料ガスは分解反応が進み、CNTの製造に好適な状態となる。また、第2ガス流路から供給されることで、原料ガスとの反応が抑制され、十分な量の触媒賦活物質がガス混合領域に供給される。このように最適化された第1ガスおよび第2ガスがガス混合領域で混合して触媒層に接触させることにより、CNTを高効率で製造することが可能となる。
【0121】
(実施例2)CNTの製造装置300
本実施例においては、ガス流形成手段21と接続かつ連通された、複数枚の複数の孔を備える、板状の整流板からなる乱流抑制手段23を有する配管55を備えるCNTの製造装置300を説明する。
図7は、本実施例に係るCNTの製造装置300の模式図である。本実施例において、特に、第1ガス流路45に乱流抑制手段23を有する配管55を備える例について説明する。
【0122】
CNTの製造装置300において、第1ガス流路45には、複数の乱流抑制手段23を有する配管55が配設され、配管55内の原料ガスの乱流を抑制し、基材1上の触媒に接触するまでの加熱体積を調整する。また、
図7では第2ガス供給管43と接続する1本の配管57で構成された第2ガス流路47として例示したが、第2ガス供給管43とガス流形成手段21を介して接続された複数の配管57で構成された第2ガス流路47を配設してもよい。
【0123】
このようにすれば、第1ガス流路45において、配管55中の原料ガスを含む第1ガスの流路の断面積が大きくなり、加熱体積を増加・調整させることが容易になる。また、同様に第2ガスの加熱体積を調整することもできる。なお、CNTの製造装置300のその他の構成は、実施形態および実施例1と同様であるため、説明は省略する。
【0124】
〔乱流抑制手段〕
乱流抑制手段とは、第1ガス流路45および/または第2ガス流路47において、原料ガスおよび/または触媒賦活物質が、触媒に接触するまでの間に乱流となることを抑制する手段である。乱流抑制手段23は配管55および/または配管57の内部に配設され、乱流抑制手段23の形状、材質等はとくに制限されず、整流板、ハニカム等、公知の方法を適宜用いることができる。本実施例においては整流板を用いる例を示したが、実施例1においては複数の配管を配置することで、複数の配管が乱流抑制手段23の機能も有することとなる。
【0125】
本実施例のカーボンナノチューブの製造装置および製造方法によれば、原料ガスを含む第1ガスと、触媒賦活物質を含む第2ガスとは、別々のガス供給管から供給され、加熱領域内の別々のガス流路を流れることにより、触媒層の近傍に到達する前に原料ガスと触媒賦活物質とが混合して反応することなく供給され、触媒層の近傍に到達する前に第1ガスと第2ガスとが混合して触媒層に接触しないため、高純度、高比表面積のCNT集合体を、大面積に且つ効率よく製造することができる。また、ガス流路を構成する配管に複数の乱流抑制手段を備えることにより、ガスの乱流を抑制し、配管内を流れるガスの加熱体積を調整することができる。
【0126】
(比較例1)
実施例1と同じ、合成炉10を用い、原料ガスと、触媒賦活物質を合成炉に供給する前に混合して、第1ガス供給管と、第2ガス供給管に原料ガスと触媒賦活物質の混合ガスを供給して、実施例1と同じ、基材1、触媒を用いて、実施例1と同じ工程でCNT集合体を製造した。
【0127】
実施例1と同じ工程、製造方法を用いてCNT集合体を製造した、比較例1の製造法での収量は1.72mg/cm
2であり、高さは362μmであった。
【0128】
これらの結果を表1にまとめた。
【表1】