【実施例】
【0043】
1.4遺伝子由来のiPS細胞と3遺伝子由来のiPS細胞からの巨核球産生効率の比較
4遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYC)により樹立したiPS細胞(TkDA3−2、TkDA3−4及びTkDA3−5)とc−MYCを除く3遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4)により樹立したiPS細胞(253G1(京都大学、山中伸弥博士より供与)及びTkDN4−M)、及びヒトES細胞(KhES−3;京都大学、中辻憲夫先生より供与)からの産生される巨核球細胞の数を比較した(
図1)。iPS細胞及びES細胞からの培養後15日目に、ネット様構造物から取り出した造血前駆細胞を、フィーダー細胞上に播種し、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMにTPO(100ng/mL)、SCF(50ng/mL)及びHeparin(25U/ml)の存在下で培養を行う。その後、誘導されるCD42b陽性である巨核球細胞の数を経時的にカウントした(
図1)。その結果、3遺伝子(c−MYCなし)由来iPS細胞及びヒトES細胞に比べて、4遺伝子(c−MYCあり)由来のiPS細胞は、使用した3株とも巨核球細胞数が増加していた。
【0044】
次に、iPS細胞を作製するときに導入した遺伝子(OCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYC)の未分化iPS細胞における発現活性を調べたところ、いずれの遺伝子もサイレンシング機構により発現が抑制されていた(
図2A)。これに対し、分化誘導を行った培養25日目の巨核球細胞では、各導入遺伝子の発現の再活性化が確認された(
図2B)。
以上のことから、iPS細胞を作製するために導入した遺伝子のうち、いずれかの遺伝子発現の再活性化が、産生される巨核球細胞数の増加に関与している可能性が示唆された。そこで、巨核球細胞数の増加に関与している原因遺伝子の検証を行った。ヒトES細胞(iPS細胞と異なりOCT3/4、SOX2、KLF−4、c−MYCが外因性に導入されていない)由来の造血前駆細胞に、レトロウイルスにより各遺伝子を単独で強制発現させ、産生されたCD42b陽性の巨核球細胞の数をカウントした。その結果、c−MYCを導入した場合、他の遺伝子を導入した場合と比較して、産生されるCD42b陽性の巨核球細胞数が約10倍程度増加することが明らかとなった(
図3)。以上のことから、4遺伝子由来iPS細胞からの巨核球誘導効率が高い理由として、c−MYC遺伝子の発現の再活性化が考えられた。
また、4遺伝子由来iPS細胞から誘導した巨核球細胞は、ES細胞又は3遺伝子由来iPS細胞から誘導した巨核球細胞よりも、凍結融解後生存率が高いことが確認された。具体的には、ヒトES細胞(KhES−3)又は3遺伝子由来ヒトiPS細胞(TkDN4−M)から誘導した巨核球細胞の凍結融解後生存率が、各々、56.7%、54.5%と約5割程度に留まったのに対し、4遺伝子由来ヒトiPS細胞(TkDA3−4)から誘導した巨核球細胞の凍結融解後生存率は、81.0%と約8割に達することが分かった。この事から、c−MYC遺伝子などの癌遺伝子の再活性化が生じている巨核球前駆細胞は、より凍結保存に適しており、解凍後の供給をしやすい細胞と考えられる。
【0045】
血小板の産生数についても巨核球細胞と同様の検討を行った。iPS細胞及びES細胞からの培養後15日目に、ネット様構造物から取り出した造血前駆細胞を播種し、その後、誘導される血小板の数を経時的にカウントしたところ、巨核球細胞と同様に、4遺伝子導入によるiPS細胞から、効率よく血小板の産生が行われた(
図4)。
次に、最も血小板産生能が高いTkDA3−4株を用いて、試験管内で産生した血小板の輸血実験を行った。あらかじめ放射線照射して血小板減少モデルの免疫不全マウスを作製し、iPS細胞由来の血小板を尾静脈より輸血した(
図5A)。輸血後30分では20%前後、2時間後でも10%前後の血小板キメリズムが観察され、ヒト末梢血由来の新鮮な血小板と同様であった(
図5B)。
【0046】
さらに、ヒトiPS細胞由来血小板の生体での血栓形成能をタイムラプス共焦点顕微鏡(Time-lapse confocal microscopy)を用いて評価した。
あらかじめ、iPS細胞由来血小板はテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE;赤い色素)で染色し、ヘマトポルフィリン(hematoporphyrin)と混ぜてマウス尾静脈から注射した。血流(細胞成分以外)をFITC−dextran(緑色)で染色することで、血管内の血液成分が抜けて見え、形態や大きさから血球成分を確認できる。レーザーによりヘマトポルフィリンが反応し、血管内皮障害が引き起こされると、障害内皮もしくは内皮剥離スポットに血小板が固層化および接着し、血栓形成が誘導される。
マウスの腸間膜微小動脈に波長488nm,30mWのレーザー照射を行うと、13秒後には赤く染色されたiPS細胞由来血小板が障害内皮へ接着した(
図6中、矢印で「iPS由来」と示す部位)。20秒後には他のホスト由来の血小板(マウス血小板)と協調して血栓を形成し、血管閉塞を引き起こしたことが確認され、iPS細胞由来の血小板は生体内の流血下で血栓を形成する能力があることが証明された。
以上のことから、c−MYC遺伝子を含む4遺伝子の導入により樹立され、c−MYC遺伝子が再活性化されているiPS細胞から調製した血小板も、ヒト末梢血由来の血小板と同様の生理学的特徴を保持していることが確認できた。
【0047】
ここまでの解析から、iPS細胞から巨核球細胞及び血小板を効率的に誘導するためには、c−MYC遺伝子の発現誘導とそのc−MYC遺伝子産物の細胞内での効果を維持することが重要であることが明らかとなった。従って、iPS細胞から巨核球細胞及び血小板を誘導する場合、未分化の巨核球前駆細胞である単核の巨核球前駆細胞中でc−MYC遺伝子を発現させ、かつ、c−MYC遺伝子産物の効果を維持すべく、癌遺伝子誘導性細胞老化(OIS)を抑制することが効果的であると予想される。そこで、OISの抑制のために、ポリコーム群遺伝子をc−MYC遺伝子と同時に発現させ、その効果について検討した。
【0048】
2.c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現させた巨核球前駆細胞からの成熟巨核球細胞の産生効率
iPS細胞の4遺伝子樹立株と3遺伝子樹立株の巨核球産生効率の比較により、巨核球前駆細胞中における、c−MYC遺伝子の再活性化が、その後誘導される成熟巨核球細胞の数に影響を与えることが分かった。そこで、c−MYC遺伝子が導入されていない多能性幹細胞であるES細胞由来の巨核球前駆細胞におけるc−MYC遺伝子の発現が、その後の巨核球細胞の誘導にどのような影響を与えるかを検討した。
ヒトES細胞株(KhES−3)から20ng/mlVEGF存在下でネット様構造物を調製し、このネット様構造物から取り出した巨核球前駆細胞(多核化前)を、10T1/2細胞上に細胞数1×10
5/ウェルになるように播き、c−MYC遺伝子(配列番号1)を保持したレトロウイルスベクターを、播種後、0時間、12時間、24時間経過時に感染させた。36時間後に、レトロウイルスを含まない培地に変更し、培養を継続した。レトロウイルスによる遺伝子導入は、培地を2〜3ml添加した6ウェルプレートを使用して、900rpm、90分の条件で、スピン感染法(Spin infection)を用いて行った。最終濃度15%のFBSを添加したIMDMに100ng/ml SCF、40ng/ml TPO、100ng/ml FL、40ng/ml VEGF及びプロタミンを添加した培地を用いて培養を行った(
図7)。
【0049】
レトロウイルスの感染後9日目にFACS解析を行ったところ、コントロールベクターと比べc−MYCを導入した細胞では、CD41a、CD42bをもつ細胞が優位に増加していることが観察された(
図8A)。また、サイトスピンで細胞を観察したところ、コントロールでは多核化している細胞が観察されるが、
c−MYC導入細胞では、多核化前の単核の細胞が観察された(
図8B)。以上の結果から、
c−MYCの強制発現により単核の未成熟な巨核球細胞が増加することが示唆された。この結果は、巨核球特異的に
c−MYCを発現させたトランスジェニックマウスと同様の結果であった(Alexander et al., Deregulated expression of c-MYC in megakaryocytes of transgenic mice increases megakaryopoiesis and decreases polyploidization. J.Biol.Chem.,1996 Sep 20;271(38):22976-82を参照のこと)。
【0050】
次に、c−MYCを発現した状態での細胞の増殖能を観察したところ、感染後14日目から増殖が減少することが観察された(
図9)。この現象は、
c−MYC等のOncogeneの過剰発現による異常な増殖シグナルに対し、細胞周期の停止、細胞老化、アポトーシスを行う細胞の癌化回避機構であり、癌遺伝子誘導性細胞老化(oncogene−induced senescence:OIS)と呼ばれている(前述)。そこで、癌抑制遺伝子産物であるp16及びp19をコードしているInk4a/Arf遺伝子を負に制御するポリコーム群遺伝子の1つ、
BMI1を巨核球前駆細胞内に導入し、OISを回避することを試みた。前述のレトロウイルスによる遺伝子導入法により、c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子(配列番号2)を細胞内に導入して発現させたのち、FACS解析を行った。その結果、遺伝子導入後の時間経過に伴い、指数関数的に安定して増殖するCD41a陽性CD42b陽性(巨核球のマーカー)細胞群を得ることができた(
図10)。c−MYC遺伝子のみを細胞に導入した場合、遺伝子導入後20日目には、CD41a陽性CD42b陽性細胞がかなり減少しているのに対し(
図10下の解析結果)、c−MYC遺伝子とBMI1遺伝子を導入した場合には、日を追うごとにCD41a陽性CD42b陽性細胞が増加していくのが確認できた(
図10上の解析結果)。この結果から、ポリコーム遺伝子の1つであるBMI1遺伝子を導入したc−MYC遺伝子導入多核化前の巨核球前駆細胞は、OISを回避し、高い増殖能を保持しながら巨核球前駆細胞へと分化することが明らかになった。そこで、ここで得られた巨核球細胞の特徴を確認するため、さらに他の巨核球特異的機能分子であるCD9及びCD42aが細胞表面上に存在するかどうか(
図11Aを参照)、FACS解析により検討した。その結果、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した細胞株において、CD9及びCD42aの存在を確認することができた(
図11B)。
【0051】
次に、c−MYC/BMI1発現細胞の増殖能について検討した。c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した多核化前の巨核球前駆細胞を、最終濃度15%のFBSを添加したIMDMに、100ng/ml SCF、40ng/ml TPO、100ng/ml FL、40ng/ml VEGFを添加した培地で培養し、経時的に細胞数をカウントした。その結果、遺伝子導入後49日目において、約4×10
7個のCD41a陽性細胞が得られた(
図12)。さらに、c−MYC/BMI1発現細胞由来の巨核球前駆細胞から放出された血小板を電子顕微鏡により観察したところ、血小板に特徴的な、微小管構造、開放小管系(Open canalicular system)、血小板顆粒を確認することができた(
図13)。
【0052】
3.c−MYC遺伝子導入造血前駆細胞からの赤血球前駆細胞を介した赤血球の誘導
次に、c−MYC遺伝子を導入した造血前駆細胞から得られる赤血球前駆細胞からの赤血球の産生を試みた。上記2において記載したc−MYC遺伝子又はBMI1遺伝子の導入と同様に、c−MYC/HOXA2(配列番号3)発現細胞及びc−MYC/BCLXL(配列番号4)発現細胞を作製し、FACS解析を行った。その結果、c−MYC/HOXA2発現細胞では、遺伝子導入後105日目において、赤血球のマーカーであるCD71及びGlyA陽性細胞群の存在が確認された(
図14右上段)。また、c−MYC/BCLXL発現細胞においてもGlyA陽性細胞群の存在が確認された(
図14右下段)。この結果から、c−MYC遺伝子の導入した造血前駆細胞は、組み合わせる導入因子を変えることで、赤血球への分化も可能であることが分かった。
【0053】
4.遺伝子の発現誘導システムを利用した機能性血小板の製造
巨核球細胞、血小板を効率よく、大量に調製するためには、巨核球前駆細胞の数を増加させることが有効であることが、明らかとなった。そのためには、c−MYCファミリー遺伝子、ポリコーム遺伝子を多核化前の巨核球前駆細胞中で同時に共発現させて、該多核化前の巨核球前駆細胞の増殖能を高めることが必要となるが、巨核球細胞の成熟化を(多核化)を促進するために、場合によっては、c−MYCファミリー遺伝子、ポリコーム遺伝子の発現を抑制的に制御することが望ましい。
【0054】
そこで、pMX tet offシステムを利用して、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現を誘導的に調節して血小板を製造し、その血小板の生理的機能について検討を行った。
4−1.遺伝子制御部ベクターの機能性の確認
pMX tet offベクター(自治医科大学 間野 博行 教授より供与)に
c−MYC−2A−
BMI1を組み込んだオールインワン(all in one)型ベクターを作製した(「2A]は、foot-and-mouth disease virus 由来のself cleavage 活性をもつペプチドで、この配列を複数のタンパク質の間に挟むことで、単一のプロモーターから複数のタンパク質を効率良く取得するためのものである(Hasegawaら、2007 Stem Cells))。pMx tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターは、エストラジオール存在化で、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現させる。一方、テトラサイクリン存在化、エストラジオール非存在化では、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現を抑制する。
作製したpMx tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターを、293GPG細胞内で発現させ、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現制御の状況をFACSにより確認した。
図15は、細胞内のc−MYCタンパク質を、抗c−MYCタンパク質抗体で染色後、Alexa647標識の2次抗体で染色し、FACS解析を行った結果である。pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1を組み込んだ293GPG細胞において、テトラサイクリン存在化では、コントロールの293GPG細胞と変わらないc−MYC遺伝子の発現量であるが(
図15中、293gpg及び+テトラサイクリンで示すグラフ)、エストラジオール存在化ではc−MYC遺伝子の発現が促進されていることがわかる(
図15、+β−エストラジオール)。
以上の結果から、ここで使用するpMx tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターにより目的遺伝子の発現制御が可能であることが確認できた。
【0055】
4−2.遺伝子制御ベクターによる巨核球細胞株の作製
上記4−1で記載した遺伝子制御ベクターを用いて、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子をヒトES細胞株(KhES−3)由来の巨核球前駆細胞内で発現させ、その増殖能及び分化能について検討した。
ベクターのみを導入した細胞(
図16A(a))、pMX
c-MYC及びDsam
BMI1を別個に強制発現させた細胞株(
図16A(b))、pMX tet off
c-MYC及びpMX tet off
BMI1で別個に発現させた細胞株(
図16A(c))、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1で発現させた細胞株(
図16A(d))及びpMX tet off
BMI1 2A
c-MYC(
図16A(e))で発現させた細胞株について検討を行った。ここで、(d)と(e)は、2A配列を挟んでc−MYC遺伝子とBMI1遺伝子の配置の順番が異なるコンストラクトである。
これらの細胞株について、CD41a
+細胞の増殖曲線を
図16Aに示す。巨核球マーカーである抗CD41a抗体及び抗CD42b抗体で各細胞株を染色し、フローサイトメーターを用いて解析した。pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1で作成した細胞株(
図16A(d))は、pMX
c-MYC及びDsam
BMI1を別個に強制発現させた細胞株(
図16A(b))と同様の表現系を示し、ほとんどの集団が巨核球マーカーを発現していた(
図16B上のパネル)。さらに、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1で作成した細胞株(
図16A(d))は、pMX tet off
c-MYC及びpMX tet off
BMI1を別個に導入した細胞株(
図16A(c))及びpMX tet off
BMI1 2A
c-MYCで作成した細胞株(
図16A(e))よりも高い増殖能を示した。
また、抗Glycophorin-a抗体及び抗CD41a抗体で染色すると、pMX
c-MYC及びDsam
BMI1を別個に強制発現させた細胞株では、巨核球/赤芽球共通のマーカーであるCD41a
+/Gly−a
+の細胞集団が存在するのに対して(
図16B、下のパネル左側)、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1で作成した細胞株ではGly−aは消失していた(
図16B、下のパネル右側)。この結果は、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1で作成した細胞株は、pMX
c-MYC及びDsam
BMI1を別個に強制発現させた細胞株よりも、より巨核球系への分化が進んだ細胞株であることを示している。
【0056】
4−3.巨核球の多核化について
β−エストラジオールの存在下、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させた細胞株の多核化の程度について検討を行った。ヒト由来巨核球は、通常、32N程度に多核化しているが(
図17A)、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させた細胞株では、ほとんど多核化が進んでおらず、2N−4Nであることが示された。
【0057】
4−4.c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現する巨核球細胞株由来の血小板の機能解析
c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を発現する巨核球細胞株に由来する血小板の機能アッセイを行った。
コントロールのヒト末梢血由来血小板は、ADP(アデノシン二リン酸;血小板を活性化する細胞内因子)存在化でフィブリノーゲンと結合し、血栓形成の初期に必要なインテグリン活性化能(インサイドアウトシグナル)が正常であることを示される(
図18上段右図)。一方、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1株(エストラジオール存在下)及びpMX
c-MYC及びDsam
BMI1強制発現株ともに、ADPを加えてもフィブリノーゲンに結合しなかった(
図18中段及び下段)。従って、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子が強制発現されたままであると、正常機能を有する血小板を放出しないことがわかった。
次に、pMX tet off
c-MYC 2A
BMI1ベクターでc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を強制発現させている細胞株に対し、+テトラサイクリン及び−β−エストラジオールの条件下で強制発現を解除した後、培養4日目のCD41a
+/CD42b
+血小板のインテグリン活性化能を、フローサイトメーターを用いて解析した(
図19)。その結果、ADP存在下でPAC1抗体(活性型インテグリンαIIbβ3結合抗体)が結合し、インテグリン活性化能(インサイドアウトシグナル)が正常であることが示された(
図19B)。
以上の結果から、c−MYC遺伝子の強制発現により増殖させた巨核球株から産生される血小板は、機能に障害を持つが、巨核球株のc−MYC遺伝子等の強制的な発現を解除することで、正常な機能を有する血小板の産生が可能であることが示された。
【0058】
上記巨核球前駆細胞内におけるc−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子の発現制御は、同様に赤血球前駆細胞株樹立に用いたMYCファミリー遺伝子、BCLXL遺伝子、HOXA2遺伝子についても使用することができ、成熟赤血球の誘導が可能になると考えられる。
【0059】
MYC及びBMI1は、巨核球細胞・赤血球細胞の共通前駆細胞であるMEP分画、又はそれより分化が進んだ巨核球前駆細胞の段階で細胞を増殖させていることが示された(
図20)。また、c−MYC遺伝子及びBMI1遺伝子を導入した多核化前の巨核球前駆細胞は、凍結保存が可能であることから、必要な時に凍結ストックから、巨核球細胞、血小板を調製することができる。
同様にMYC遺伝子とBCLXL又はHOXA2遺伝子導入で作製した赤血球前駆細胞株も凍結保存し、必要なときに解凍して調製できる。
また、導入したMYC遺伝子、BMI1遺伝子の発現を上方あるいは下方に制御することで、生理活性を保持した血小板又は赤血球細胞を充分な量調製することが可能となる。