特許第5791251号(P5791251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791251
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】ピロリン酸メラミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/22 20060101AFI20150917BHJP
   C01B 25/42 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C07F9/22
   C01B25/42
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-202106(P2010-202106)
(22)【出願日】2010年9月9日
(65)【公開番号】特開2011-16833(P2011-16833A)
(43)【公開日】2011年1月27日
【審査請求日】2013年7月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100087631
【弁理士】
【氏名又は名称】滝田 清暉
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(74)【代理人】
【識別番号】100144543
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 有穂
(72)【発明者】
【氏名】神本 哲男
(72)【発明者】
【氏名】金田 崇良
(72)【発明者】
【氏名】木下 等
(72)【発明者】
【氏名】中野 慎司
(72)【発明者】
【氏名】石井 進
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03920796(US,A)
【文献】 特開2007−231094(JP,A)
【文献】 特開2005−120021(JP,A)
【文献】 特開2004−155764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/00
C01B 25/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルトリン酸1モルに対してメラミン1モルが結合したオルトリン酸一メラミンを、固相状態で、加熱手段と攪拌手段とを有する装置を用いて攪拌しながら、120〜350℃で焼成することを特徴とする、純度が96.5%以上の粉末状ピロリン酸メラミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤として有用なピロリン酸メラミンの製造方法に関し、特に、高純度のピロリン酸メラミンを製造する方法及び該方法によって得られた純度が96.5%以上のピロリン酸メラミンに関する。
【背景技術】
【0002】
ピロリン酸塩、特にピロリン酸メラミンは、縮合リン酸であるピロリン酸とメラミンが結合した化合物であり、塗料や合成樹脂等に添加する難燃剤として有用な物質であるため、従来から、種々の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、水溶液中でメラミンと塩酸を混合してメラミン塩酸塩とし、これにピロリン酸ナトリウムを加えてピロリン酸メラミンの沈殿を生成させ製造することが開示されている(特許文献1)。しかしこの方法では、高価なピロリン酸塩を原料として使用することや、ハロゲンを除去するための水洗工程や濾過工程が必要なことから経済的に問題があった。
【0004】
また、水溶液中で、ピロリン酸とメラミンを0〜60℃で反応させてピロリン酸メラミンを製造することも開示されている(特許文献2)。しかし、この場合も高価なピロリン酸を原料として使用することや、濾過工程が必要なことから経済的に問題があった。
【0005】
また、脱水縮合反応によってピロリン酸メラミン等のピロリン酸塩を製造する場合には、ピロリン酸塩だけではなく、トリリン酸塩等の過反応由来のポリリン酸塩が生成する場合があるため、ピロリン酸塩の純度が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭49−25675号公報
【特許文献2】米国特許第4,950,757号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、純度の高いピロリン酸メラミンを、高収率で効率的に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、オルトリン酸一メラミンを固相状態で焼成し、粉末状のピロリン酸メラミンを得ることによって容易に目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、オルトリン酸1モルに対してメラミン1モルが結合したオルトリン酸一メラミンを、固相状態で加熱手段と攪拌手段とを有する装置を用いて攪拌しながら、120〜350℃で焼成することを特徴とする、純度が96.5%以上の粉末状ピロリン酸メラミンの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、96.5%以上という高純度の粉末状ピロリン酸メラミンを効率良く提供することができる。また本発明の製造方法によれば、過反応によるトリリン酸メラミンやポリリン酸メラミン等の副生成物が少ないので、効率良く高純度な粉末状ピロリン酸メラミンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高純度ピロリン酸メラミンを効率良く得るために、原料として、オルトリン酸1モルに対してメラミン1モルが結合したオルトリン酸一メラミンを使用する
【0012】
本発明のピロリン酸メラミンの製造方法は、攪拌しながらオルトリン酸一メラミンを焼成することにより、脱水縮合反応を進行させてピロリン酸メラミン化するものである。本発明におけるオルトリン酸一メラミンの焼成は、固相状態で焼成することが必要である。
【0013】
本発明におけるオルトリン酸一メラミンの焼成温度は120〜350℃であり、得られるピロリン酸メラミンの純度と生産効率の観点から、150℃〜300℃であることが好ましく、160〜280℃であることがより好ましい。120℃より低いとピロリン酸化の反応が十分に進まず、350℃を超えると、トリリン酸メラミンやそれ以上に脱水縮合反応の進んだポリリン酸メラミンが生成するため好ましくない。
また、焼成時間は特に限定されることはなく、温度条件によって、オルトリン酸一メラミンからピロリン酸メラミンへの脱水縮合反応が完了するまで、適宜焼成すればよい。
【0014】
また原料のオルトリン酸一メラミンは、焼成する前に、粉砕や微細化を行ってもよい。粉砕装置や微細化装置としては、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、アトリションミル、ミクロンミル、コロイドミル、ジェットミル、シングルトラックジェットミル、カウンタージェットミル、ピンディスクミル、ジェットオーマイザー、イノマイザー等が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法に使用される撹拌手段を備える焼成装置としては、加熱混練装置や、温風乾燥装置、焼成炉等を用いることができ、例えば、押出し機、ヘンシェルミキサー、フラッシュミキサー、パドルミキサー、バンバリーミキサー、リボンミキサー、粉砕混合機、SCプロセッサ、プラストミル、KRCニーダー、真空ニーダー、加圧ニーダー、流動焼成炉、マイクロ波焼成炉、熱風乾燥機、流動層乾燥機、振動乾燥機、振動流動層乾燥機、攪拌乾燥機、ドライマイスター、マイクロウェーブドライヤー、ディスクドライヤー、コニカルドライヤー、パドルドライヤー、ロータリードライヤー、ロータリーキルン、等が挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法においては、過反応を抑制することができるため、トリリン酸メラミンや、それ以上に脱水縮合反応が進んだポリリン酸メラミン等の過反応物の生成が少ない。また、焼成装置の内壁に、生成物、特に粘着性のある過反応物が付着することも少ない。したがって、本発明は、合成樹脂用難燃剤として好適な高純度のピロリン酸メラミンを得るのに好適である。
【0017】
以下本発明を実施例及び比較例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、下記、実施例1〜9及び比較例1で得られたピロリン酸メラミンの純度は、下記分析方法によって分析した結果の数値である。
【0018】
<純度の測定方法>
(株)センシュー科学製のHPLC装置(ポンプ;SSC−3150,RI検出器;ERC−7515A)、日本分光製カラムオーブン(CO−965)、及びショーデックス製のOH pakカラム(SB−802.5 HQ)を用い、ピロリン酸メラミンの純度の測定を行った。
【実施例1】
【0019】
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌・加熱しながら、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.5%であった。
【実施例2】
【0020】
オルトリン酸一メラミンをオイルジャケット付きのニーダーを使用して加熱・撹拌し、200〜250℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は98.2%であった。
【実施例3】
【0021】
オルトリン酸一メラミンを、熱媒を通したヘンシェルミキサー(三井鉱山製、FM150J/T)を用いて加熱・撹拌し、170〜250℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.1%であった。
【実施例4】
【0022】
オルトリン酸一メラミンを、流動層乾燥機((株)大川原製作所製)を用いて加熱・撹拌し、230〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.8%であった。
【実施例5】
【0023】
オルトリン酸一メラミンを、ロータリーキルン((株)栗本鐵工所製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.5%であった。
【実施例6】
【0024】
オルトリン酸一メラミンを、パドルドライヤー((株)奈良機械製作所製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.3%であった。
【実施例7】
【0025】
オルトリン酸一メラミンを、押出し機(日本製鋼所製、TEX44αII−52.5BW)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は98.1%であった。
【実施例8】
【0026】
オルトリン酸一メラミンを、振動乾燥機(中央加工機(株)製)を用いて加熱・撹拌し、200〜260℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.8%であった。
【実施例9】
【0027】
オルトリン酸一メラミンをマイクロ波焼成炉中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、200〜280℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は97.5%であった。
【0028】
比較例1
オルトリン酸一メラミンを、遠赤外線コンベア炉を用いて加熱し、220〜230℃で焼成してピロリン酸メラミンの白色粉末を得た。得られたピロリン酸メラミンの純度は96.1%であった。
【0029】
比較例2
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、90〜100℃で焼成したが、ピロリン酸メラミンの生成は見られなかった。
【0030】
比較例3
オルトリン酸一メラミンの入ったステンレス製バットを熱風乾燥機中に入れ、時々撹拌しながら加熱し、380〜400℃で焼成して白色粉末を得た。得られた白色粉末を分析したところ、ピロリン酸メラミンの純度は65.1%と低く、トリリン酸メラミンのみならず、それ以上に脱水縮合反応の進んだポリリン酸メラミンの生成が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の製造方法によれば、過反応を抑制することができるため、トリリン酸メラミンや、それ以上に脱水縮合反応が進んだポリリン酸メラミン等の過反応物の生成が少なくなるだけでなく、焼成装置の内壁に、生成物、特に粘着性のある過反応物があまり付着せず、合成樹脂用難燃剤として好適な高純度のピロリン酸メラミンを容易に得ることができるので、本発明は産業上極めて有意義である。