特許第5791497号(P5791497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5791497シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造に好適なシリカ粉の判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791497
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造に好適なシリカ粉の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20150917BHJP
   G01B 11/14 20060101ALI20150917BHJP
   C30B 29/06 20060101ALI20150917BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C03B20/00 H
   G01B11/14 Z
   C30B29/06 502B
   C30B15/10
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-290382(P2011-290382)
(22)【出願日】2011年12月29日
(65)【公開番号】特開2013-139354(P2013-139354A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(74)【代理人】
【識別番号】100161492
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 栄斉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 忠広
(72)【発明者】
【氏名】北原 賢
(72)【発明者】
【氏名】小玉 真喜子
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−002082(JP,A)
【文献】 特開2005−060152(JP,A)
【文献】 特開2007−008746(JP,A)
【文献】 特開2013−134057(JP,A)
【文献】 特開2013−112597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 19/12−20/00
C30B 15/10
C30B 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粉におけるシリカ粒子間の間隙を測定する工程と、
前記シリカ粉を熔融する工程と、
熔融シリカを冷却し、硬化したシリカブロックにおける間隙を測定する工程と、
前記シリカ粒子間の間隙あたりの前記シリカブロック間隙が規定の範囲であるか否かを判定する工程と、を有する、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボにおける無気泡層の形成に好適なシリカ粉の判定方法。
【請求項2】
前記規定の範囲が0.5以上である、請求項1記載の判定方法。
【請求項3】
前記シリカ粉を耐熱性容器に供給する工程を更に含む、請求項1又は2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記間隙の測定は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて行われる、請求項1乃至3のいずれかに記載の判定方法。
【請求項5】
前記シリカ粉を熔融する温度は、1500から2600℃である、請求項1乃至4のいずれかに記載の判定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された判定方法により好適と判定されたシリカ粉を原料とすることを特徴とするシリカガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボの製造に好適なシリカ粉の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造に用いられるシリコンウェーハは、シリコン単結晶をスライスすることで得られる。近年の半導体デバイスの高集積度化に伴い、シリコンウェーハの表面におけるボイド欠損の低減が要求されている。
【0003】
ボイド欠損は、ウェーハ表層部をエッチング処理することで除去できることが知られているが、エッチング工程は時間と費用がかかるためボイド欠損が存在しないシリコン単結晶の製造がエレクトロニクス分野から望まれている。
【0004】
ボイド欠損のないシリコン単結晶を製造するために、さまざま方法が知られている。その一つに、シリコン単結晶引き上げ用シリカガラスルツボにおける内面層の気泡を低減する方法がある。シリコン単結晶引き上げ用シリカガラスルツボは、粉体のシリカを用いて製造される。回転モールド法によれば、シリカガラスルツボは、(1)回転モールドにシリカ粉を堆積させて、(2)アーク放電によりシリカ粉を熔融させる工程により製造される。シリコン単結晶における気泡の混入がボイド欠損の一つの原因と考えられている。そのため、シリコン単結晶への気泡の混入を避ける目的で、シリカガラスルツボの内表面は実質的に気泡が存在しない層から形成されている。
【0005】
内表面に実質的な無気泡層を備えるシリカガラスルツボを製造するために、モールド内部からガス成分を吸引可能な回転モールドを用いたシリカガラスルツボの製造方法が知られている。詳細には、モールド内面にシリカ粉を堆積させて吸引装置によりガス成分を吸引しながらアーク熔融する方法である(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−143818
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の方法であっても、内表面の無気泡層ができる場合とできない場合があり、品質を安定させることが困難であった。
【0008】
品質が安定しない理由は、これまで明らかになっていなかったため、シリカガラスルツボを製造しなければ品質の良し悪しを知ることが出来ないでいた。
【0009】
本発明は、このような事情を鑑み、無気泡層を備えるシリカガラスルツボを安定して製造できるシリカ粉の判定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は次のような判定方法を提供する。即ち、シリカ粉におけるシリカ粒子間の間隙を測定する工程と、上記シリカ粉を熔融する工程と、熔融シリカを冷却し、硬化したシリカブロックにおける間隙を測定する工程と、上記シリカ粒子間の間隙あたりの上記シリカブロック間隙が規定の範囲であるか否かを判定する工程と、を有する、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボにおける無気泡層の形成に好適なシリカ粉の判定方法が提供される。
【0011】
シリカガラスルツボの無気泡層の形成に好適なシリカ粉の判定は、シリカガラスルツボを製造することで行われる。しかしながら、シリカガラスルツボの製造には時間と費用がかかりすぎるため、一般的には、シリカ粉末を熔融して作成したシリカブロックの気泡含有率を測定して、好適なシリカ粉の評価を行なっている(以下、従来の判定方法)。従来の判定方法は、耐熱性容器にシリカ粉を供給して、真空雰囲気下でシリカ粉を熔融させ、そして、シリカ粉が熔融して固まったシリカブロック中の気泡の含有率を測定する方法が一般的である。しかしながら、この方法により好適であると判定されたシリカ粉をシリカガラスルツボの製造に用いたとしても、必ずしも良好な結果が得られるわけではなかった。
【0012】
本発明者らは、気泡含有率が低いシリカブロックが得られるシリカ粉の解析を行なっていた。その結果、シリカブロックの気泡含有率が低かったり高かったりと結果がバラつくシリカ粉があることを明らかにした。詳しく解析したところ、バラツキのあるシリカ粉は、熔融前のシリカ粉の間隙と熔融後のシリカブロックにおける間隙との差が大きくなりやすいことが明らかとなった。これは、たとえシリカブロックにおける間隙が小さくても、熔融前のシリカ粒子間の間隙が予想以上に大きい場合があることを意味する。シリカブロックにおける間隙が小さければ、熔融前のシリカ粒子間の間隙も小さいということが当業者の間の技術常識であっただけに、この発見は大変驚くべきことであった。
【0013】
このような驚くべき発見に基づいて、本発明者らは、単に熔融後のシリカブロック中の気泡含有率を測定するだけでは、好適なシリカ粉であるかは判定できないという結論にいたった。つまり、熔融後のシリカブロックの間隙だけでなく、熔融前のシリカ粉の間隙も考慮する必要があるという結論である。本発明者らは、更に研究を重ねた結果、シリカ粒子間の間隙あたりのシリカブロックの間隙が規定値の範囲内のシリカ粉は、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボにおける無気泡層の形成に好適であることを見出し本発明は完成した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、堆積したシリカ粉の表面11上を対物レンズ10が走査する様子を表した模式図である。
図2図2は、耐熱性容器におけるシリカ粉の概念図である。斜線部がシリカ粒子であり、白色部が間隙である。
図3図3は、耐熱性容器における、熔融したシリカブロックの概念図である。斜線部がシリカであり、白色部が間隙である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明にかかる実施形態の判定方法は、シリカ粉におけるシリカ粒子間の間隙を測定する工程と、上記シリカ粉を熔融する工程と、熔融シリカを冷却し、硬化したシリカブロックにおける間隙を測定する工程と、上記シリカ粒子間における間隙と上記シリカブロック中における間隙から好適なシリカ粉であるか否かを判定する工程と、を有する、シリコン単結晶引上げ用シリカガラスルツボにおける無気泡層の形成に好適なシリカ粉の判定方法である。以下、各構成要素について詳細に検討する。
【0016】
1 シリカ粉
本発明におけるシリカ粉は、合成シリカ粉又は天然シリカ粉である。合成シリカ粉は、化学合成されたシリカであり、不純物濃度が非常に低いため、シリカガラスルツボの内面層に使用される。合成シリカ粉の製造方法は、特に限定しないが、四塩化珪素(SiCl)の気相酸化(乾式合成法)や、シリコンアルコキシド(Si(OR))の加水分解(ゾル・ゲル法)が挙げられる。天然シリカ粉は、α―石英を主成分とする天然鉱物を粉砕して粉状にすることによって製造される粉末である。
【0017】
2 検査方法
シリカ粉を耐熱性容器に供給する。耐熱性容器は、高温での使用に耐えられる素材であれば特に限定しないが、例えば、セラミック系複合材料や炭素繊維強化炭素複合材(C/Cコンポジット)等が例示できる。耐熱性容器のサイズは特に限定しないが、例えば、縦30mm×横40mm×高さ20mmの直方体の容器を選択することができる。
【0018】
シリカ粒子間における間隙を測定する。シリカ粒子間の間隙は、シリカ粉に照射した光の反射光を受ける受光装置を備える光学的検出手段を用いて非接触的に測定することが可能である。
【0019】
この光学的検出手段における照射光の発光手段は、内蔵されたものでもよく、また外部の発光手段を利用するものでもよい。また、光学的検出手段は、耐熱容器中に堆積したシリカ粉の表面に沿って走査できるものを用いることが好ましく、例えば、共焦点レーザー顕微鏡を例示できる。照射光としては、可視光、紫外線及び赤外線のほか、X線もしくはレーザー光などを利用でき、シリカ粒子間における間隙を検出できるものであればいずれを採用してもよい。受光装置は、照射光の種類に応じて選択されるが、例えば受光レンズ及び映像部を含む光学カメラを用いることができる。シリカ粒子間における間隙を検出するためには、集光点で生じる光のみを受光することが好ましい。集光点で生じる光のみを受光するためには、受光装置に含まれる光検出器の手前にピンホールを備えることが好ましい。
【0020】
測定方法としては、図1に示す通り、光学的検出手段の対物レンズ10を耐熱容器12中の堆積したシリカ粉の表面11に非接触的に配置し、走査方向13に向かって走査することで、シリカ粒子間における間隙が測定される。他の走査方式としては、サンプル走査方式とレーザー走査方式とがある。サンプル走査方式は、サンプルを載せたステージをXY方向に駆動させて二次元像を取得する方式である。レーザー走査方式は、レーザーをXY方向に当てることで、サンプル上を二次元走査する方式である。いずれの走査方式を採用してもよい。
【0021】
集光点を走査して二次元像を取得し、肉厚方向にも走査することでシリカ粉の密度測定することが可能になる。本実施形態において、間隙は密度で表してもよい。また、複数の測定点における間隙を測定し、その平均値を採用してもよい。例えば、3箇所を測定し、その平均値であってもよい。測定された間隙は、任意のパラメーターに変換してもよく、例えば、面積、面積比及び割合であってもよい。測定の結果、間隙が不明瞭である場合は、X軸、Y軸又はZ軸のいずれかの方向に焦点をズラして測定しても良い。
【0022】
熔融前のシリカ粒子間の間隙率は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、更に好ましく5%以下であって、少なくとも1%以上であってもよい。本実施形態における「間隙率」:nとは、ある区画の面積をS、上記区画中に堆積するシリカ粉の断面積の合計面積をSと、すると以下の通りである。
間隙率:n=((S―S)/S)×100
また、間隙の合計面積をSとすると、以下の式で求めることができる。
間隙率:n=(S/S)×100
【0023】
シリカ粉入り耐熱性容器を炉の内に入れて、炉の内の温度を上記シリカ粉が熔融する温度まで上昇させる。炉内の加熱速度は、シリカ粉中のガス成分が膨張して破裂する様な急激な温度変化でなければ、特に限定はしない。例えば、加熱速度は、50から300℃/minであってもよい。シリカ粉を熔融させる温度は、特に限定しないが、好ましくは、アーク熔融時の温度である約1500〜2600℃である。加熱時間は、熔融する温度に達してから好ましくは20時間から60時間、より好ましくは30時間から50時間までである。シリカ粉の熔融は、大気圧下でおこなってもよい。大気圧下で熔融することで、対象のシリカ粉の性質をより詳細に解析することができる。真空下で行なう場合は、例えば1.0×10Paから1.0×10Paの間であってもよく、好ましくは2.0×10Paである。
【0024】
熔融シリカを冷却し、硬化したシリカブロックの間隙を測定する。熔融シリカの冷却は、加熱終了に伴って徐々に冷却される。冷却速度が早い場合、シリカガラスが急速に収縮するため正確な間隙率を算出できないおそれがある。間隙の測定は、上述した通りである。測定する深さは、特に限定しないが、好ましくは表面から1mm〜3mmの深さであって、例えば、2mmである。
【0025】
シリカ粒子間における間隙とシリカブロック中における間隙から最適なシリカ粉であるか否かを判定する。判定方法は、特に限定しないが、熔融前のシリカ粒子間の間隙あたりの熔融後のシリカブロックの間隙が、好ましくは0.5以上、よりこの好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上の時に優れたシリカ粉であると判定することができる。上記判定は、間隙の面積であってもよい。また、面積以外で間隙を数値化した場合であっても面積に換算、又は他の手段を用いて面積を算出した結果が、上述の範囲内であれば本実施形態の範囲内である。
【実施例】
【0026】
1 間隙の測定
(実施例1)
耐熱性容器に実施例1の合成シリカ粉を縦30mm×横40mm×高さ20mmの直方体のカーボン製容器に供給し、共焦点レーザー顕微鏡で間隙率を測定した。この時の間隙率は、7.2%であった。間隙率を測定の後、合成シリカ粉入りの耐熱性容器を炉内に設置した。
【0027】
カーボンヒーターを用いて炉内の温度を上昇させ、炉内温度を約2200℃にし、耐熱容器内における実施例1の合成シリカ粉を熔融させた。2200℃で40時間熔融後、炉を開けることなく室温になるまで放置した。室温になった時点で、シリカブロックを取り出し、間隙率を測定すると4.2%であった。なお、測定深度は、表面から2mmの位置である。
【0028】
従って、実施例1のシリカ粉は、シリカ粒子間の間隙あたりのシリカブロックの間隙が0.58であることが明らかとなった。
【0029】
(比較例1)
耐熱性容器に比較例1の合成シリカ粉を縦30mm×横40mm×高さ20mmの直方体のカーボン製容器に供給し、共焦点レーザー顕微鏡で間隙率を測定した。この時の間隙率は、10.2%であった。間隙率の測定後、合成シリカ粉入りの耐熱性容器を炉内に設置した。
【0030】
カーボンヒーターを用いて炉内の温度を上昇させ、炉内温度を約2200℃に、耐熱容器内における比較例1の合成シリカ粉を熔融させた。2200℃で40時間熔融後、炉を開けることなく室温になるまで放置した。室温になった時点で、シリカブロックを取り出し、間隙率を測定すると4.0%であった。なお、測定深度は、表面から2mmの位置である。
【0031】
従って、比較例1のシリカ粉は、シリカ粒子間の間隙あたりのシリカブロックの間隙が0.39であることが明らかとなった。
【0032】
2 シリカガラスルツボの製造
実施例1及び比較例1の合成シリカ粉を用いて、回転モールド法により、シリカガラスルツボを製造した。モールド口径は、32インチ(81.3cm)、モールド内表面に堆積したシリカ粉層の平均厚さは15mm、3相交流電流3本電極によりアーク放電を行った。アーク熔融工程の通電時間は90分、出力2500kVA、通電開始から10分間はシリカ粉層の真空引きを行った。
【0033】
それぞれの合成シリカ粉を用いてシリカガラスルツボを3つ作成し、内面層の気泡を確認した。気泡の測定は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した。
【0034】
実施例1の合成シリカ粉を用いたシリカガラスルツボは、いずれも内面層に気泡が確認されず、安定して実質的に無気泡な層を有するシリカガラスルツボが製造できた。一方、比較例1の合成シリカ粉を用いたシリカガラスルツボは、3つの内2つが内面層に気泡が存在していることが確認され、安定して実質的に無気泡な層を有するシリカガラスルツボを製造することができなかった。
【0035】
以上の結果から、本発明にかかる判定方法を用いることで、内面層に気泡が発生しないシリカ粉を事前に判定することが可能になることが明らかとなった。
図1
図2
図3