特許第5792099号(P5792099)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792099
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】硝酸ルテニウム水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20150917BHJP
   B01J 37/06 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C01G55/00
   B01J37/06
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-46625(P2012-46625)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-180936(P2013-180936A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】野尻 大介
(72)【発明者】
【氏名】倉嶋 麻衣
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−206448(JP,A)
【文献】 特開平07−206449(JP,A)
【文献】 特開2003−201526(JP,A)
【文献】 特開平08−217459(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0006612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
B01J21/00−38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法であって、
前記水酸化アルカリ水溶液による中和をpH8〜13の範囲で行い、前記水酸化ルテニウムの洗浄において、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除くための希硝酸洗浄を1回以上行うことを特徴とする、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
塩化ルテニウム水溶液に塩基性水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し硝酸ルテニウム水溶液を得る第1の工程と、硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し硝酸ルテニウム水溶液を得る第2の工程からなる、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法であって、
第2の工程の水酸化アルカリ水溶液による中和をpH8〜13の範囲で行い、第2の工程の水酸化ルテニウムの洗浄において、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除くための希硝酸洗浄を1回以上行うことを特徴とする、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
第1の工程で用いる塩基性水溶液がアンモニア水である請求項2に記載の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
水酸化アルカリ水溶液が水酸化カリウム水溶液である請求項1〜3のいずれか1項に記載の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法。
【請求項5】
水酸化アルカリ水溶液による中和前の硝酸ルテニウム水溶液中の塩素イオン濃度が100g/L以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸ルテニウム水溶液の製造方法、詳しくは、ルテニウムの特性を利用した触媒の原料、あるいはルテニウム化合物の合成のための出発原料となる、塩素イオンの量が顕著に低減された硝酸ルテニウム水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ルテニウム(Ru)の特性を利用した触媒(例えば、水蒸気改質触媒、一酸化炭素(CO)選択還元用触媒など)の原料、あるいはルテニウム化合物の合成のための出発原料としては、塩化ルテニウムや塩化ルテニウム酸塩が使用されていた。
しかしながら、ルテニウム触媒中に塩素イオンが混入していると触媒活性が低下するおそれがある。また、塩素イオンは、ルテニウム担持触媒の基板や各種装置の腐食原因にもなりうる。そのため、塩素イオンの量は極力低減させることが好ましいが、一般に、混入した塩素イオンの除去は非常に困難である。そこで、近年、塩化ルテニウムや塩化ルテニウム酸塩に代わる原料として、硝酸ルテニウム(Ru(NO))が注目を集めている。
【0003】
塩素イオンの含有濃度を低減させた硝酸ルテニウム溶液の製造方法としては、従来、各種の方法が提案されており、例えば、塩化ルテニウム溶液にアンモニア水を加えて中和する工程と、生成した水酸化ルテニウムを傾斜法により分離して洗浄する工程と、洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸を加えて湯浴中で加熱溶解する工程と、加熱溶解後に未溶解物をろ過分離する工程とからなる方法、あるいは塩化ルテニウム溶液の代わりに、上記方法によって得られた硝酸ルテニウム溶液を用いて上記方法を行う方法が知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、この方法は、塩素イオンを十分に除去することができず、また、収率も低いという問題があった。
【0004】
塩化銀の溶解度が小さいことを利用して、銀イオンの添加により塩素イオンを除去する、硝酸ルテニウム溶液の製造方法として、例えば、塩化ルテニウム溶液にアンモニア水を加えて中和する工程と、生成した水酸化ルテニウムを傾斜法により分離して洗浄する工程と、洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸を加えて湯浴中で加熱溶解し、冷却する工程と、該溶液中の塩素イオン濃度を測定し、該塩素イオン量に当量の銀イオンを加えて撹拌して静置し、濾過分離する工程とからなる方法が知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、この方法も塩素イオンの除去が十分とは言えず、また、収率も低いという問題があった。
【0005】
そこで、上述した2つの製造方法の問題点を解消した硝酸ルテニウム溶液の製造方法として、塩化ルテニウム溶液を中和する工程と、生成した水酸化ルテニウムをろ取した後洗浄する工程と、洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸を加えてルテニウムの不溶解酸化物を生成しない温度で加熱溶解する工程と、加熱溶解後に硝酸銀又は酸化銀液を液中の塩素イオンのモル当量分より過剰に添加して加熱する工程と、この加熱後に塩酸を、液中に残存する銀イオンのモル当量分添加して加熱する工程と、生成した塩化銀をろ過分離する工程とからなることを特徴とする硝酸ルテニウム溶液の製造方法が報告されている(特許文献3参照)。
【0006】
また、その他の製造方法として、塩化ルテニウム溶液に水酸化カリウムを加えて中和する工程と、生成した水酸化ルテニウムをろ取した後洗浄する工程と、洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸を加えてルテニウムの不溶解酸化物を生成しない温度で加熱溶解する工程と、加熱溶解後にアンモニア水を加えて再度中和する工程と、生成した水酸化ルテニウムをろ取した後再度洗浄する工程と、再度洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸を加えてルテニウムの不溶解性酸化物を生成しない温度で再度加熱溶解する工程とからなることを特徴とする硝酸ルテニウム溶液の製造方法も報告されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−131531号公報
【特許文献2】特開平3−131533号公報
【特許文献3】特開平7−206448号公報
【特許文献4】特開平7−206449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、塩素イオンに対して過剰に銀イオンを添加する特許文献3に記載の硝酸ルテニウム溶液の製造方法では、該溶液中に銀イオンが残留することになるため、製品が銀イオンで汚染されることになり、その上、この残留した銀イオンは除去されにくいという問題があった。また、過剰に銀イオンを添加しても、ルテニウム触媒等の分野で要求されている程度の極微量のレベルにまで塩素イオンを低減させることはほとんど不可能であり、あるいは、繰り返し硝酸銀処理を行っても、硝酸ルテニウム溶液中の塩素イオンを著しく低減させることは困難であった。さらには、使用する材料が高価であるため、製造コストが嵩むという欠点もある。
【0009】
一方、特許文献4に記載の硝酸ルテニウム溶液の製造方法は、低塩素濃度を実現するため、塩化ルテニウム溶液を中和させる際に水酸化カリウムを用いているが、この製造方法によると、硝酸ルテニウム溶液中にアルカリ金属(カリウム)が残留してしまい、その結果、アルカリ金属の濃度が高い硝酸ルテニウム溶液が得られるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、従来技術における前記問題点に鑑み、塩素イオンを含む硝酸ルテニウム水溶液あるいは塩化ルテニウム水溶液から、塩素イオンを極微量のレベルにまで低減させた硝酸ルテニウム水溶液であって、かつ、低アルカリ金属濃度の硝酸ルテニウム水溶液を高収率で製造することができる、硝酸ルテニウム水溶液の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、塩素イオン濃度を最小にするためには、水酸化アルカリ水溶液を用いてpH8以上で中和することが有効であり、さらに、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除去するためには、希硝酸洗浄を1回以上行うことが効果的であるという新たな知見を見出し、かかる知見を基礎にして、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液を製造する方法であって、前記水酸化アルカリ水溶液による中和をpH8〜13の範囲で行い、前記水酸化ルテニウムの洗浄において、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除くための希硝酸洗浄を1回以上行うことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明は、塩化ルテニウム水溶液に塩基性水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し硝酸ルテニウム水溶液を得る第1の工程と、硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を加えて中和し、生成した水酸化ルテニウムを洗浄した後、硝酸を加えて溶解し硝酸ルテニウム水溶液を得る第2の工程からなる、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液の製造方法であって、第2の工程の水酸化アルカリ水溶液による中和をpH8〜13の範囲で行い、第2の工程の水酸化ルテニウムの洗浄において、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除くための希硝酸洗浄を1回以上行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塩素イオンを含む硝酸ルテニウム水溶液あるいは塩化ルテニウム水溶液から、塩素濃度がルテニウムに対して1000ppm以下であって、かつ、低アルカリ金属濃度の硝酸ルテニウム水溶液を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においては、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液を製造するための出発原料として、硝酸ルテニウム水溶液あるいは塩化ルテニウム水溶液を用いる。塩化ルテニウム水溶液を用いる場合は、例えば、以下に示す一連の処理(第1の工程)を最初に行うことにより、塩化ルテニウム水溶液から硝酸ルテニウム水溶液を調製し、これに続けて後述する第2の工程を行い、最終的に本発明の目的とする硝酸ルテニウム水溶液を作製する。
【0015】
第1の工程においては、まず、塩化ルテニウム水溶液に塩基性水溶液を加えてpH6.5〜7.5にまで中和し、生成した水酸化ルテニウムをろ過分離して洗浄する。このとき用いる塩化ルテニウム水溶液の濃度は、5〜100g/Lであればよく、また、塩基性水溶液としては、アンモニア水(14%程度)を用いることが好ましい。アンモニア水を用いるのは、他のアルカリ塩、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムの水溶液を用いると、ナトリウムやカリウムのイオンが混入して分離が困難となる場合があり、アンモニア水であれば加熱分解ができるためである。
【0016】
上記中和処理は、30℃以下の温度で行われることが好ましい。30℃を超える温度で行われると、水酸化ルテニウムが不溶解性のものとなるためである。
【0017】
生成した水酸化ルテニウムのろ過分離、洗浄の方法としては、例えば、純水を加えて静置した後、ろ過する操作を2〜3回繰り返して行うことが例示される。また、まず希アンモニア水(0.1%程度)で2〜3回洗浄し、次いで、純水で2〜3回洗浄すると塩素イオンの除去に特に効果がある。
【0018】
次いで、上記洗浄した水酸化ルテニウムに硝酸をルテニウム質量に対して3〜5倍量加えて加熱溶解させ、この処理液をろ過して未溶解物を分離し、これにより硝酸ルテニウム水溶液を得る。このとき用いる硝酸の濃度は特に限定されないが、溶解速度の点から45%以上のものがよく、最適には濃硝酸が用いられる。加熱溶解の方法としては湯浴中で撹拌しながら行うのがよい。なお、本明細書においては、特に断りがない限り、%は質量%を表す。
【0019】
上記加熱溶解の処理は、80〜95℃の温度で行われることが好ましい。より好ましくは、85〜90℃の温度である。該加熱溶解の処理が80℃未満の温度で行われると、溶解速度が遅くなり、一方、95℃を超える温度で行われると、ルテニウムの不溶解性酸化物が生成され、硝酸ルテニウムの収率が低くなる。また、上記温度で加熱する時間は、5〜7時間が好適である。
【0020】
第1の工程で得られた硝酸ルテニウム水溶液中に残留する塩素イオンの量をさらに低減させるため、硝酸ルテニウム水溶液に硝酸銀を該水溶液中の塩素イオン量の1.0〜1.5倍モル当量加えて、60〜100℃の温度で1〜10時間加熱し、生成した塩化銀をろ過分離することによって第2の工程を行うための硝酸ルテニウム水溶液を調製する処理を追加して行ってもよい。
そのほか、第1の工程によって得られた硝酸ルテニウム水溶液に対して、さらに第1の工程を繰り返し行うことにより、硝酸ルテニウム水溶液中の塩素イオン量をより一層低下させることができる。
【0021】
本発明においては、第1の工程等によって調製された硝酸ルテニウム水溶液に対して、以下に示す一連の処理(第2の工程)を行う。すなわち、まず、硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を加えて中和する。この場合、水酸化アルカリ水溶液による中和前の硝酸ルテニウム水溶液中の塩素イオン濃度は100g/L以下であることが好ましい。塩素イオン濃度が100g/Lを超えていると、最終的に得られる硝酸ルテニウム水溶液のルテニウムに対する塩素イオン濃度が1000ppmを超えるおそれがある。したがって、中和前の硝酸ルテニウム水溶液中の塩素イオン濃度が100g/Lを超えている場合は、純水で希釈するなどして濃度を薄めて100g/L以下としてから中和するのが望ましい。
【0022】
硝酸ルテニウム水溶液を中和するための水酸化アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液などが挙げられるが、なかでも水酸化カリウム水溶液(25〜50%)を用いることが好ましい。水酸化カリウムは解離定数が大きく、解離した水酸基の攻撃により硝酸ルテニウムを完全に水酸化ルテニウムにすることができ、最終的に塩素イオン濃度を顕著に低減させた硝酸ルテニウム水溶液を得ることが可能となる。なお、水酸化カリウム水溶液で中和した場合、水酸化ルテニウムの沈殿中に一部カリウムイオンが取り込まれるが、本発明においては、希硝酸で1回以上洗浄することにより、このカリウムイオンを除去している。
【0023】
上述した硝酸ルテニウム水溶液の中和処理は、硝酸ルテニウム水溶液に水酸化アルカリ水溶液を徐々に注入し、この処理液のpHをpH計で連続的に検知するなどして行う。本発明においては、この中和処理をpH8〜13、好ましくはpH9〜12、最適にはpH9〜11の範囲で行う。すなわち、上記処理液のpHが8〜13の範囲となったら、水酸化アルカリ水溶液の注入を停止する。上記処理液のpHが8より低いと塩素イオンの除去が不十分となり、pHが13よりも高いとアルカリ金属の洗浄除去が困難となる。
【0024】
硝酸ルテニウム水溶液に対する上記中和処理は、60〜100℃、特に65〜75℃の温度で、0.5時間以上、撹拌しながら行われることが好ましい。その理由は、60℃よりも低い温度であると、塩素除去が困難となり、100℃を超える温度で行われると、水酸化ルテニウムが不溶解性のものとなるためである。また、0.5時間よりも短い時間であると発熱量が増加し温度制御が困難となる場合がある。
【0025】
このようにして中和処理が終了したら、該中和処理液を好ましくは20〜50℃の温度に冷却した後、該中和処理液から生成した水酸化ルテニウムをろ過分離し、次いで、水酸化アルカリ水溶液由来のアルカリ金属を除くために、希硝酸で洗浄を1回以上、好ましくは1〜2回行う。このとき用いる希硝酸の濃度は、0.01〜1%、特には0.05〜0.5%とすることが好ましい。0.01%よりも低い濃度であると、洗浄が不十分でアルカリ金属の残留濃度が高くなる場合があり、1%よりも高い濃度であると硝酸ルテニウムが少なからず生成し収率が低下する場合がある。洗浄中の水酸化ルテニウム懸濁液のpHは、pH3〜5の範囲が好ましく、4〜4.5の範囲が最適である。上記ろ過分離、洗浄の方法としては、まず事前に純水で3〜5回洗浄を行い、その後、希硝酸で1回以上、好ましくは1〜2回洗浄を行い、次いで、さらに純水で1〜2回洗浄するとアルカリ金属及び塩素イオンの除去に特に効果がある。
【0026】
希硝酸を用いて上記洗浄を行う際の希硝酸の温度は、20〜60℃、特には30〜50℃の範囲が好適であり、その洗浄時間は、0.5〜2.0時間が好適である。希硝酸の温度が20℃よりも低いと洗浄が不十分でアルカリ金属の残留濃度が高くなる場合があり、60℃よりも高いと硝酸ルテニウムが少なからず生成し収率が低下する場合がある。また、希硝酸による上記洗浄に加えて、純水を用いた洗浄を行う場合の純水の温度は、20〜60℃、特には30〜50℃の範囲が好適であり、その洗浄時間は、0.5〜2.0時間が好適である。純水の温度が20℃よりも低いと洗浄が不十分でアルカリ金属の残留濃度が高くなる場合があり、60℃よりも高いと水酸化ルテニウムが純水中へ溶出し収率が低下する場合がある。
【0027】
このようにして洗浄処理が終了したら、上記水酸化ルテニウムに硝酸を該水酸化ルテニウム中のルテニウム質量に対して3〜5倍量加えて加熱溶解し、ろ過して未溶解物を分離し、ろ液をルテニウムが50g/Lとなるように純水で希釈して、ルテニウムに対する塩素濃度が1000ppm以下の硝酸ルテニウム水溶液を得る。このとき用いる硝酸の濃度は特に限定されないが、溶解速度の点から45%以上のものがよく、最適には濃硝酸が用いられ、加熱溶解の方法としては、80〜95℃、好ましくは85〜90℃の温度で、湯浴中で加熱撹拌しながら行うのがよい。その理由は、加熱温度が95℃よりも高いと酸化物が生成しやすくなり、硝酸ルテニウムの収率を低下させるおそれがあり、80℃よりも低いと水酸化ルテニウムが硝酸に十分に溶解しなくなるからである。また、上記温度の範囲で加熱する時間は、4〜10時間が好適である。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。なお、これらは例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0029】
[実施例1〜10、比較例1〜5]
[硝酸ルテニウム水溶液の調製]
(第1の工程)
塩化ルテニウム水溶液(ルテニウムとして100g/L)30Lを撹拌しながら14%アンモニア水を加え、30℃以下の温度でpH7まで中和して水酸化ルテニウムを生成させた。次いで、ろ取した水酸化ルテニウムに純水を70L加え、撹拌した後ろ過する操作を2回行った。その後、洗浄した水酸化ルテニウムに62%硝酸をルテニウム質量に対して4.43倍量(13290g)加えて85℃の温度で撹拌しながら7時間加熱溶解した後ろ過し、ろ液に硝酸銀液を液中の塩素イオンの1.2倍モル当量分を加えて120℃の温度で撹拌しながら8時間加熱した。生成した塩化銀をろ過分離し、ろ液として硝酸ルテニウム水溶液30Lを得た。その硝酸ルテニウム水溶液中の塩素イオン濃度は400mg/Lであった。また、第1の工程で得られた硝酸ルテニウム水溶液のルテニウム換算収率は95%であった。なお、塩素イオン濃度、ルテニウム換算収率及びアルカリ金属濃度は後述する測定方法によって求めた。
【0030】
(第2の工程)
第1の工程で得られた硝酸ルテニウム水溶液を、ルテニウム濃度50g/Lとなるように純水で希釈した後、撹拌しながら表1に記載の塩基性水溶液を加え、表1に記載の温度で表1に記載のpHまで中和して1時間撹拌した後、25℃へ冷却し水酸化ルテニウムを生成させた。
次いで、ろ取した水酸化ルテニウムに純水を75L加え、室温で0.5〜1時間撹拌した後ろ過し、その後、更に表1に示すように洗浄とろ過を繰り返し行った。その洗浄は、温度50℃の純水又は温度50℃の希硝酸(0.1%程度の硝酸)水溶液をそれぞれ1回の洗浄につき75L用いて0.5〜1.0時間行った。洗浄終了後、洗浄した水酸化ルテニウムに62%硝酸をルテニウム質量に対して4.43倍量(12700g)加えて85℃の温度で撹拌しながら6時間加熱溶解した後ろ過し、ろ液として硝酸ルテニウム水溶液20Lを得た。
【0031】
[ルテニウム換算収率、塩素イオン濃度及びアルカリ金属濃度の測定]
第2の工程で得られた硝酸ルテニウム水溶液を50g/Lのルテニウム濃度となるように純水で希釈した後、その希釈後の水溶液中のルテニウム濃度を以下の方法により、誘導プラズマ発光分析装置で測定し、ルテニウム換算収率(%)を算出した。
また、該水溶液中の塩素イオン濃度を以下の方法により、吸光度法により測定し、ルテニウムに対する塩素イオン濃度(ppm)を算出した。
更に、該水溶液中のアルカリ金属濃度を以下の方法により、誘導プラズマ発光法により測定し、ルテニウムに対するアルカリ金属(カリウム)濃度(ppm)を算出した。
こうして算出したルテニウム換算収率、塩素イオン濃度及びアルカリ金属濃度をそれぞれ表2に示す。
(ルテニウム濃度測定)
硝酸ルテニウム水溶液を塩酸で希釈し、金属マグネシウムで還元してルテニウムブラックを析出させた後、析出したルテニウムブラックを濾取し、水素炎で還元して得られるルテニウム金属の質量を測定した。
(塩素イオン濃度測定)
硝酸ルテニウム水溶液に硝酸銀水溶液を加えて塩化銀として白濁させ、可視紫外吸収スペクトル測定器により標準液との吸光度を比較することにより測定した。
(カリウム金属濃度測定)
硝酸ルテニウム水溶液を純水で希釈し、誘導プラズマ(ICP)発光分析装置AA7000(商品番号、島津製作所製)を用いて測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】
【0034】
表2に示した結果から、本発明の製造方法によれば、塩素イオンとアルカリ金属の濃度を共に顕著に低減させた硝酸ルテニウム水溶液を高収率で得られることが分かる。