特許第5792104号(P5792104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5792104プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5792104
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20150917BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150917BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20150917BHJP
   C08G 85/00 20060101ALI20150917BHJP
   C08F 6/06 20060101ALI20150917BHJP
   H01M 8/10 20060101ALN20150917BHJP
【FI】
   C08F8/00
   H01M8/02 P
   H01B13/00 Z
   C08G85/00
   C08F6/06
   !H01M8/10
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-64828(P2012-64828)
(22)【出願日】2012年3月22日
(65)【公開番号】特開2013-194194(P2013-194194A)
(43)【公開日】2013年9月30日
【審査請求日】2014年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】清水 和哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 竹友
(72)【発明者】
【氏名】須郷 望
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−533530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/00
C08F 6/06
C08G 85/00
H01B 13/00
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する高分子化合物の製造方法であって、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物にスルホン酸基を導入する反応工程、前記反応工程の後に水を加えて固形分を析出させる析出工程、および前記固形分とイオン交換樹脂とを透水性の隔膜を介して配置し、水を介して接触させる洗浄工程を含む、スルホン酸基を有する高分子化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法に関し、さらに詳しくは、製造中の固形分に含まれる水溶性の酸を効率的に除去できる、プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性基を有する高分子化合物は、例えばプロトン伝導性基を有さない高分子化合物を濃硫酸などの水溶性の酸の存在下で処理することでプロトン伝導性基を導入して得られる。かかるプロトン伝導性基を有する高分子化合物は、水素イオン(プロトン)を選択的に透過する性質を有しており、例えば、固体高分子型燃料電池用の電解質膜などに使われる。
【0003】
固体高分子型燃料電池用の電解質膜は、水素と酸素の化学的反応で生成する水(生成水)と接触した状況で用いられる。したがって、電解質膜に水溶性の酸が含まれると、使用中に溶出し、機器設備・配管等の腐食を引き起こす懸念があり、また性能の低下に繋がる可能性もある。したがって、上記したようにプロトン伝導性基を導入した後に、残留する水溶性の酸を除去する必要がある。
【0004】
プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造において、水溶性の酸の除去方法としては、プロトン伝導性基を導入する反応を実施した後に、水により繰り返し洗浄する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしこの方法によれば、多量の水が必要であるため、過大な設備を必要とし、また多量の廃水が発生するため、工業的生産においては改善の余地がある。
【0005】
また、他の方法として、イオン伝導性基を導入した後に、水および有機溶剤の混合溶剤にてイオン性高分子を膨潤・収縮させ水溶性不純物を除去する方法(特許文献2参照)や、またイオン交換樹脂により水溶性不純物を除去する方法などが知られている(特許文献3参照)。
しかし、特許文献2の方法では、有機溶剤を多量に用いるため危険であり、また含水有機溶剤の廃棄に伴う処理が工業的生産に不利となる。また特許文献3の方法では、イオン伝導性基を有する高分子化合物がイオン交換樹脂に直接接触し、イオン交換樹脂を被覆するため、水溶性不純物の除去効率が不十分となる問題や、イオン性高分子とイオン交換樹脂との分離・回収が困難となる問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−294088号公報
【特許文献2】特開平9−201539号公報
【特許文献3】特開平11−166013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況下になされたものであり、水溶性の酸を含まないプロトン伝導性基を有する高分子化合物の工業的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、スルホン酸基を有する高分子化合物の製造方法であって、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物にスルホン酸基を導入する反応工程、前記反応工程の後に水を加えて固形分を析出させる析出工程、および前記固形分とイオン交換樹脂とを透水性の隔膜を介して配置し、水を介して接触させる洗浄工程を含む、スルホン酸基を有する高分子化合物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水溶性の酸を含まないプロトン伝導性基を有する高分子化合物の工業的に有利な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物に、プロトン伝導性基を導入する反応工程を含む。本発明で用いられるプロトン伝導性基を有する高分子化合物について以下に説明する。
【0011】
前記プロトン伝導性基を有さない高分子化合物としては、プロトン伝導性基を導入することができる高分子化合物であり、例えば芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる高分子化合物、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン類、ポリエーテルケトンケトン類、ポリフェニレンサルファイド類、ポリフェニレンエーテル類、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリフェニレンスルホン類、ポリフェニレンスルホキシド類、ポリフェニレンスルフィドスルホン類、ポリフェニレンオキシド類、ポリパラフェニレン類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリベンゾチアゾール類、ポリベンゾイミダゾール類、ポリイミド類等の高分子化合物が挙げられる。プロトン伝導性基の導入が容易である観点から、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる高分子化合物が好ましい。
【0012】
上記の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が有する芳香環は炭素環式芳香環であるのが好ましく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環等が挙げられる。
【0013】
上記芳香族ビニル化合物の具体例として、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2−メトキシスチレン、3−メトキシスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルビフェニル、ビニルターフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−フェノキシスチレン等が挙げられる。これら芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いても複数種を併用してもよい。
【0014】
かかる芳香族ビニル化合物を1種のみ単独で用いる場合、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルビフェニル、1,1−ジフェニルエチレンのいずれかを用いることが好ましく、複数種併用する場合には、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン、α−メチル−2−メチルスチレンからなる群から複数種を選択することが好ましい。
【0015】
かかる芳香族ビニル化合物の芳香環上には、プロトン伝導性基を導入する反応を阻害する置換基がないことが望ましい。例えば、該芳香環がベンゼン環である場合、該ベンゼン環上の水素(特に4位の水素)がアルキル基(特に炭素数3以上のアルキル基)等で置換されていると、プロトン伝導性基の導入が困難な場合があるので、該芳香環は他の置換基を有さないか、アリール基等の、それ自体がプロトン伝導性基を導入可能な置換基を有していることが好ましい。また、プロトン伝導性基の導入容易性、プロトン伝導性基の高密度化等の観点から、上記の芳香族ビニル化合物の中でも、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルビフェニルなどの炭素数8〜15の芳香族ビニル化合物がより好ましい。
【0016】
プロトン伝導性基を有さない高分子化合物が芳香族ビニル化合物に由来する構造単位からなる高分子化合物である場合、本発明の効果を損なわない範囲で、他の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。かかる他の単量体としては、例えば炭素数4〜8の共役ジエン(ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等)、炭素数2〜8のアルケン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等が挙げられる。
【0017】
プロトン伝導性基を有さない高分子化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。プロトン伝導性基を有さない高分子化合物を構成する単量体の種類、分子量等によって、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等から適宜選択される。
【0018】
プロトン伝導性基を有さない高分子化合物の数平均分子量は、GPC法で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量として、5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがより好ましい。
【0019】
本発明で用いられるプロトン伝導性基としては、−SOH、−PO、−COHで示されるスルホン酸基、ホスホン酸基、又はカルボキシル基を用いることができ、特に高いプロトン伝導性を示す観点から、スルホン酸基又はホスホン酸基であることが好ましい。
【0020】
プロトン伝導性基を有さない高分子化合物へのプロトン伝導性基の導入位置については特に制限はないが、芳香環を有する構造単位の場合、プロトン伝導性基の導入が容易である観点から、プロトン伝導性基は芳香環上にあることが望ましい。
【0021】
プロトン伝導性基を有さない高分子化合物にスルホン酸基を導入する方法(スルホン化)について述べる。スルホン化は、公知のスルホン化法を適用でき、例えば、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、スルホン化剤を添加する方法や、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物にガス状のスルホン化剤を添加する方法等が挙げられる。
【0022】
スルホン化剤としては、硫酸、硫酸と脂肪族酸無水物との混合物、クロロスルホン酸、クロロスルホン酸とトリメチルシリルクロリドとの混合物、三酸化硫黄、三酸化硫黄とトリエチルホスフェートとの混合物、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸などの芳香族有機スルホン酸等が挙げられる。また、有機溶媒としては、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、複数種を混合して用いてもよい。
【0023】
次に、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物にホスホン酸基を導入する方法(ホスホン化)について述べる。ホスホン化は、公知の方法を適用でき、例えば、プロトン伝導性基を有さない高分子化合物と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、無水塩化アルミニウム及びクロロメチルエーテルを加えて、芳香環にハロメチル基を導入し、次いで三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加え、さらに加水分解反応を行う方法;プロトン伝導性基を有さない高分子化合物と有機溶媒とを混合して溶液または懸濁液を調製し、三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加えて、芳香環にホスフィン酸基を導入後、硝酸を加えてホスフィン酸基を酸化してホスホン酸基とする方法を例示できる。
【0024】
プロトン伝導性基の導入量は、プロトン伝導性基を有する高分子化合物のイオン交換容量が0.3〜8.0meq/gとなる量が好ましく、0.5〜5.0meq/gとなる量がより好ましい。
【0025】
本発明では、前記反応工程の後に水を加えて固形分を析出させる析出工程を含む。析出工程にて析出する固形分は、プロトン伝導性基を有する高分子化合物の粗生成物に相当する。従って、最終製品であるプロトン伝導性基を有する高分子化合物は、非水溶性であることが、水溶性の酸との分離の観点から好ましい。ここで、水溶性とは25℃の水100質量部中に1質量部が均一かつ透明に溶解することを意味し、非水溶性とは同条件下で溶解しないことを意味する
【0026】
析出工程では、反応工程の内容物(以下、「反応溶液」とする)に、反応停止剤としての水を徐々に添加して固形分を析出させてもよいし、水中に反応溶液を注いで固形分を析出させてもよい。中でも反応停止時の発熱制御の観点や、析出する固形分の粒径制御の観点から、水中に撹拌下、反応溶液を注いで固形分を析出させることが好ましい。
【0027】
析出工程で用いる水の量は、前記反応工程の反応を停止するのに必要量以上であれば特に制限はないが、固形分を十分に析出させ、水溶性の酸を溶解させる観点から、前記スルホン化剤又はホスホン化剤に対して、モル比で3.0倍以上となる量が好ましく、5.0倍以上となる量がより好ましい。
【0028】
析出工程で生成する固−液混合物から、固形分を分離することは、固形分中の水溶性の酸が低減されるため好ましい。該分離方法としては、例えばろ過法、遠心分離法等が挙げられ、工業的な観点からろ過法が好ましい。ここでのろ過は公知の方法で行うことができ、ろ紙、ろ布等のフィルターをロート等のろ過装置に装備してのろ過が例として挙げられる。
【0029】
次に本発明では、前記析出工程で析出した固形分と、イオン交換樹脂とを透水性の隔膜を介して配置し、水を介して接触させる洗浄工程を含む。イオン交換樹脂により、固形分が含む水溶性の酸を、過大な量の水を使用することなく効率よく除去することが可能となる。また、透水性の隔膜の存在により、イオン交換樹脂が、固形分と直接接触することがない。このため、固形分がイオン交換樹脂を被覆して水溶性の酸の除去効率が不十分となる問題や、プロトン伝導性基を有する高分子化合物とイオン交換樹脂との分離が困難という問題を回避できる。
【0030】
本発明において用いることのできるイオン交換樹脂としては、プロトン伝導性基を有する高分子化合物から水溶性の酸を除去する目的から、陰イオン交換樹脂を用いることが好ましい。但し、陰イオン交換樹脂によりpHがアルカリ側にシフトした場合、これを中和するために陽イオン交換樹脂を併用することもできる。
【0031】
陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂および弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いることができる。強塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、交換基に4級アンモニウム基を有する樹脂等が挙げられ、その具体例としては、三菱化学(株)製(商品名)ダイヤイオンSA10A、SA11A、SA12A、NSA100、SA20A、SA21A、PA308、PA312、PA316、PA408、PA412、PA418、HPA25、HPA75、オルガノ(株)製(商品名)アンバーライトIRA−400、IRA−400T、IRA−401、IRA−402、IRA−402BL、IRA−410、IRA−411S、IRA−440B、IRA−458、IRA−900、IRA−904、IRA−910、IRA−958等が挙げられる。弱塩基性イオン交換樹脂としては、例えば、交換基が1〜3級アミンである樹脂等が挙げられ、その具体例としは、三菱化学(株)製(商品名)ダイヤイオンWA10、WA20、WA21J、WA30、オルガノ(株)製(商品名)アンバーライトIRA−35、IRA−60E、IRA−68、IRA−93ZU、IRA−94S等が挙げられる。
【0032】
陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂および弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることができる。強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、交換基がスルホン酸基である樹脂等が挙げられ、その具体例としては、三菱化学(株)製(商品名)ダイヤイオンSK1B、SK104、SK110、SK112、SK116、PK208、PK212、PK216、PK220、PK228、HPK25、オルガノ(株)製(商品名)アンバーライトIR−120B、IR−124、200C、201B、252、IR−118等が挙げられる。弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、交換基がカルボン酸基であるメタクリル酸系及びアクリル酸系のイオン交換樹脂等が挙げられ、その具体例としては、三菱化学(株)製(商品名)ダイヤイオンWK10、WK11、WK100、WK01S、WK40、オルガノ(株)製(商品名)アンバーライトIRC−50、IRC−76等が挙げられる。
【0033】
本発明において、イオン交換樹脂を使用する際に該イオン交換樹脂の再生が行われていない場合には、一般的に行われる再生処理をした後に該イオン交換樹脂を使用する。すなわち、陰イオン交換樹脂の場合、OH型でないもの、例えば、Cl型のものは、使用前に水酸化ナトリウム水溶液を用いて、それぞれのイオン交換樹脂を充填した容器内で、各イオン交換樹脂を処理した後に、脱塩水で洗浄して各イオン交換樹脂の再生を行う。
【0034】
本発明において用いられる透水性の隔膜としては、析出工程で析出した固形分、及びイオン交換樹脂が通過できず、かつ透水性、耐水性、及び耐酸性を有するものであれば特に限定されず、公知の材料を用いることができる。例えば樹脂、セラミック等からなる多孔質状、網状、格子状のシートなどが適宜選択される。
【0035】
洗浄工程における透水性の隔膜の配置は、析出工程で析出した固形分、およびイオン交換樹脂が直接接触せず、かつ両者が水を介して接触できる配置であれば特に限定されず、例えば一つの容器を透水性の隔膜により隔て、一方に析出工程で析出した固形分、他方にイオン交換樹脂を入れて、一方または両方に水を加える配置でもよいし、イオン交換樹脂を透水性の隔膜にて包含し、これを析出工程で析出した固形分と水の混合物の入った容器に浸漬する配置でもよく、さらに析出工程で析出した固形分を透水性の隔膜にて包含し、これをイオン交換樹脂と水の混合物の入った容器に浸漬する配置でもよい。
【0036】
洗浄工程では、析出工程で析出した固形分中に含まれる水溶性不純物に対して、1当量以上の交換基量のイオン交換樹脂を用いるのが好ましく、3当量以上の交換基量のイオン交換樹脂を用いるのがより好ましい。介在する水の量は析出工程で析出した固形分、イオン交換樹脂が浸漬される最低限の量以上であれば特に制限はされない。析出工程で析出した固形分とイオン交換樹脂とを透水性の隔膜を介して配置し、水温10〜80℃の温度範囲にて、0.1〜10時間程度撹拌した後、イオン交換樹脂を取り除き、プロトン伝導性基を有する高分子化合物を取得する。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
(数平均分子量の測定方法)
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定した。
装置:東ソー(株)製、商品名:HLC−8220GPC
溶離液:THF
カラム:東ソー(株)製、商品名:TSK−GEL(TSKgel G3000HxL(内径7.6mm×有効長30cm)を1本、TSKgel Super Multipore HZ−M(内径4.6mm×有効長15cm)を2本の計3本を直列で接続)
カラム温度:40℃
検出器:RI
送液量:0.35ml/分
数平均分子量計算:標準ポリスチレン換算
【0039】
(洗浄工程後のプロトン伝導性基を有する高分子化合物のイオン交換容量の測定方法)
洗浄工程後に得られたプロトン伝導性基を有する高分子化合物を秤量(秤量値a(g))し、過剰量の塩化ナトリウム飽和水溶液((300〜500)×a(ml))を添加して、密閉系で12時間攪拌した。フェノールフタレインを指示薬として、水中に発生した塩化水素を0.01規定の水酸化ナトリウム標準水溶液(力価f)にて滴定(滴定量b(ml))した。
以上の結果から、洗浄工程後のプロトン伝導性基を有する高分子化合物のイオン交換容量を次式により求めた。
イオン交換容量(meq/g)=(0.01×b×f)/a
【0040】
[参考例1]
(プロトン伝導性基を有さない高分子化合物の製造)
乾燥後、窒素置換した内容積1400mlのオートクレーブに、脱水したシクロヘキサン664ml、及びsec−ブチルリチウム(1.0mol/Lシクロヘキサン溶液)1.65mlを添加した後、60℃にて撹拌しつつ、スチレン27.4ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、スチレン27.4ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、イソプレン111ml、4−tert−ブチルスチレン13.8ml、スチレン27.4ml、及び4−tert−ブチルスチレン13.8mlを順次添加して重合し、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTITSTと略記する)を製造した。
得られたSTSTITSTの数平均分子量は196,000であり、H−NMR(400MHz)から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は93.8%、スチレン単位の含有量は35.4質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は24.4質量%であった。
【0041】
上記で得られたSTSTITSTのシクロヘキサン溶液を調製して、窒素置換した耐圧容器に入れ、Ni/Al系のチーグラー系触媒を用いて、水素圧0.5〜1.0MPa、70℃で18時間水添反応を行い、ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−水添ポリイソプレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、STSTETSTと略記する)を得た。
得られたSTSTETSTのポリイソプレンに由来する炭素−炭素二重結合量を、H−NMRスペクトル(400MHz)により算出を試みたが、検出限界以下であった。
【0042】
<実施例1>
(反応工程)
乾燥後、窒素置換した内容積200mlの三口フラスコに、塩化メチレン72.7ml及び無水酢酸36.4mlを添加し、0℃にて撹拌しつつ濃硫酸16.3mlを滴下し、さらに0℃にて60分間攪拌して、スルホン化剤を調製した。
一方、参考例1で得られたSTSTETSTを20g、攪拌機を備えた内容積1Lのガラス製反応容器に入れ、系内を窒素置換した後、塩化メチレン250mlを加えて25℃で4時間攪拌して溶解させた。この溶液に、先に調製したスルホン化剤114mlを5分かけて滴下した。25℃で48時間攪拌後してプロトン伝導性基(スルホン酸基)を導入する反応を行った。
H−NMR(400MHz)分析により、スチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はから100モル%、イオン交換容量は2.60meq/gと算出された。
【0043】
(析出工程)
ビーカー中に蒸留水500mlを添加して撹拌し、これに前記反応工程で得られた反応液を30分にわたり滴下して、固形分を析出させた。この混合液をろ過し、固形分を回収した。
【0044】
(洗浄工程)
前記析出工程で得られた固形分5g(乾燥基準)をビーカー中、水50mlを加えて撹拌し、この中に陰イオン交換樹脂(SA−10A(OH型);三菱化学(株)製)1gをナイロンフィルターネット(NRS−100(目開き100um);日本理化学器械(株)製)で包みこんだ袋状物を投入し、25℃で2時間撹拌した。この混合液より陰イオン交換樹脂をナイロンフィルターネットとともに引き上げた。一方で固形分をろ過した後減圧下で乾燥し、プロトン伝導性基を有する高分子化合物を得た。プロトン伝導性基を有する高分子化合物の滴定の結果から、イオン交換容量は2.60meq/gであった。また、ろ過の際に得られたろ液のpHは7であったことから、ろ液中に水溶性の酸が含まれていないことがわかる。このことから得られたプロトン伝導性基を有する高分子化合物中にも水溶性の酸が含まれていないと判断できる。
【0045】
<比較例1>
実施例1の析出工程で得られた固形分5g(乾燥基準)をビーカー中、水50mlを加えて、25℃で2時間撹拌した後固形分をろ過した。この水中での撹拌およびろ過操作を10回繰り返し、得られた固形分を減圧下で乾燥して、プロトン伝導性基を有する高分子化合物を得た。ここで得られたプロトン伝導性基を有する高分子化合物の滴定の結果から、イオン交換容量は2.75meq/gであった。また、ろ過の際に得られたろ液のpHは5であったことから、ろ液中に水溶性の酸が含まれていることがわかる。このことから得られたプロトン伝導性基を有する高分子化合物中にも水溶性の酸が含まれていると判断できる。
【0046】
<比較例2>
実施例1の析出工程で得られた固形分5g(乾燥基準)をビーカー中、水50mlを加えて撹拌し、この中に陰イオン交換樹脂(SA−10A(OH型);三菱化学(株)製)1gを加えて25℃で2時間撹拌した。この混合液からは上記固形分と陰イオン交換樹脂がいずれも固体の状態で分散しているため、プロトン伝導性基を有する高分子化合物と陰イオン交換樹脂を分離することが困難であった。また、両者をろ過して得られたろ液のpHは4であった。
【0047】
実施例1と比較例1の比較から、本発明の製造方法によれば、製造中の固形分に含まれる水溶性の酸を少量の水で効率的に除去することができることが分かる。また実施例1と比較例2の結果から、本発明では、プロトン伝導性基を有する高分子化合物と陰イオン交換樹脂の分離・回収が容易であり、また一方が他方を被覆して水溶性の酸の除去効率が不十分となる問題を回避できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法であり、更に詳しくは、水溶性の酸を効率的に除去することのできる、プロトン伝導性基を有する高分子化合物の製造方法である。
本発明で製造されるプロトン伝導性基を有する高分子化合物は、含有する水溶性の酸を低減する必要のある用途、例えば固体高分子型燃料電池用の電解質膜などとして好適に用いられる。