(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  低周波数電流乃至高周波電流の通電により前記シリコン芯線の加熱開始を行い、該シリコン芯線の表面が所望の温度となった後に前記多結晶シリコンの析出を開始する、請求項1に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。
  前記シリコン芯線の加熱開始を、前記m本のシリコン芯線を並列に連結し、低周波数電流を供給する1つの低周波電源からの前記並列連結されたシリコン芯線への電流供給により行う、請求項2に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。
  前記シリコン芯線の加熱開始を、前記m本のシリコン芯線同士を1番目からm番目へと順次直列に連結し、前記1つの高周波電源からの前記直列連結されたシリコン芯線への電流供給により行う、請求項2に記載の多結晶シリコン棒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0029】
  以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
 
【0030】
  図1は、本発明により多結晶シリコン棒を製造する際の反応炉100の構成の一例を示す断面概略説図である。反応炉100は、シーメンス法によりシリコン芯線12の表面に多結晶シリコンを気相成長させ、多結晶シリコン棒11を得る装置であり、ベースプレート5とベルジャ1により構成される。
 
【0031】
  ベースプレート5には、シリコン芯線12に電流を供給する金属電極10と、窒素ガス、水素ガス、トリクロロシランガスなどのプロセスガスを供給するガスノズル9と、排気ガスを排出する反応排ガス出口8が配置されている。
 
【0032】
  ベルジャ1には、これを冷却するための冷媒入口3と冷媒出口4および内部を目視確認するためののぞき窓2が設けられている。また、ベースプレート5にも、これを冷却するための冷媒入口6と冷媒出口7が設けられている。
 
【0033】
  金属電極10の頂部にはシリコン芯線12を固定するためのカーボン製の芯線ホルダ14を設置する。
図1では、ベルジャ1内に2対の鳥居型に組まれたシリコン芯線12を配置した状態を示したが、シリコン芯線12の対数はこれに限定されるものではなく、3対以上の複数のシリコン芯線12を配置してもよい。そのような態様の回路については後述する。
 
【0034】
  2対の鳥居型のシリコン芯線12の間には、これらを直列若しくは並列に接続する回路16が設けられている。この回路の直列/並列の切り替えは、スイッチS1〜3により行う。具体的には、スイッチS1を閉としスイッチS2および3を開とするとこれら2対の鳥居型シリコン芯線12は直列に接続され、スイッチS1を開としスイッチS2および3を閉とするとこれら2対の鳥居型シリコン芯線12は並列に接続される。
 
【0035】
  当該回路16には、低周波数電流(例えば商用周波数である50Hz乃至60Hzの電流)を供給する1つの低周波電源15L、若しくは、2kHz以上の単一の周波数を有する高周波電流を供給する1つの高周波電源15Hから、電流が供給される。なお、この低周波電源15L/高周波電源15Hの切り替えは、スイッチS4により行う。
 
【0036】
  従って、スイッチS1を閉としスイッチS2および3を開として2対の鳥居型のシリコン芯線12(乃至は多結晶シリコン棒11)を直列に連結し、スイッチS4を高周波電源15H側に切り替えると、直列接続された鳥居型のシリコン芯線12(乃至は多結晶シリコン棒11)に2kHz以上の単一周波数の高周波電流を供給して通電加熱することができる。
 
【0037】
  また、多結晶シリコンの析出開始後から多結晶シリコン棒11の直径が所定値D
0に達するまでは並列に接続した多結晶シリコン棒に低周波電源15Lから電流供給し、その後、多結晶シリコン棒11の接続を直列として高周波電源15Hから電流供給するなども可能である。
 
【0038】
  なお、鳥居型のシリコン芯線12が3対以上配置されている場合には、鳥居型のシリコン芯線12(乃至は多結晶シリコン棒11)を順次直列に連結してゆくようにすることも可能である。
 
【0039】
  図1には、多結晶シリコンの析出反応開始に先立って行われるシリコン芯線12の初期加熱用として、電源15Cから電力供給されシリコン芯線12表面を輻射加熱するためのカーボンヒータ13を図示した。このカーボンヒータ13は、輻射加熱によりシリコン芯線12の抵抗を下げることにより初期通電時のシリコン芯線12への印加電圧を低く抑えるのを目的に設けられているものであるが、かかるカーボンヒータ13に代え若しくはこれと併用する態様で、低周波電源15L乃至高周波電源15Hを利用してもよい。例えば、シリコン芯線12を並列に連結して低周波電源15Lから電流供給したり、或いは、順次直列に接続されるシリコン芯線12に低周波電源15Lから電流供給したり、更にまた、順次直列に接続されるシリコン芯線12に高周波電源15Hから電流供給したりすることにより通電加熱を行うこともできる。
 
【0040】
  図1に示した例では、高周波電源15Hを、2kHz以上の単一の周波数を有する高周波電流を供給する電源としたが、2kH以上の周波数電流を供給する周波数可変の高周波電源としてもよい。この場合、当該周波数可変の高周波電源は、周波数を連続的に変えることができるものであってもよく、複数のレベル間で変化させることができるものであってもよい。
 
【0041】
  図2は、このような周波数可変の高周波電源15Hの構成例を説明するためのブロック図で、図中に符号で示したものは、受電部151、低圧気中遮断器(ACB)152、電源変圧器153、出力制御部154、出力部155、出力変圧器156、周波数変換器157である。このような周波数可変の高周波電源15Hを用いることとすれば、多結晶シリコン棒に供給する高周波電流の周波数を多結晶シリコン棒の表面温度変動に応じて変化させ、多結晶シリコン棒の径に応じて表皮深さを制御することが容易となる。
 
【0042】
  図1に示した態様では、ベルジャ1内に2対の鳥居型に組まれたシリコン芯線12が配置されているが、3対以上の複数のシリコン芯線12を配置してもよい。
 
【0043】
  図3Aおよび
図3Bは、3対のシリコン芯線12A〜Cを配置する際の、シリコン芯線12同士を接続する回路の第1例を示したブロック図である。
 
【0044】
  図3Aに示した態様では、6個のスイッチ(S1〜S6)で回路を構成しており、スイッチS1およびS2が開とされ、スイッチS3、S4、およびS5が閉とされて3対のシリコン芯線12A〜Cが並列に接続され、スイッチS6が低周波電源15L側に切り替えられて上記並列接続回路に電流が供給される状態にある。また、スイッチS1およびS2を閉とし、スイッチS3、S4、およびS5を開とすると、低周波電源15Lにより直列接続での電流供給状態になる。
 
【0045】
  図3Bに示した態様では、スイッチS1およびS2が閉とされ、スイッチS3、S4、およびS5が開とされて3対のシリコン芯線12A〜Cが直列に接続され、スイッチS6が高周波電源15H側に切り替えられて上記直列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0046】
  図4Aおよび
図4Bは、3対のシリコン芯線12A〜Cを配置する際の、シリコン芯線12同士を接続する回路の第2例を示したブロック図である。
 
【0047】
  図4Aに示した態様では、3個のスイッチ(S1〜S3)で回路を構成しており、スイッチS1、S2及びS3が閉とされて3対のシリコン芯線12A〜Cが並列に接続され、スイッチS4が低周波電源15L側に切り替えられて上記並列接続回路に電流が供給される状態にある。また、この状態よりスイッチS1およびS2を開とすると、低周波電源15Lにより直列接続での電流供給状態になる。
 
【0048】
  図4Bに示した態様では、スイッチS1およびS2が開とされて3対のシリコン芯線12A〜Cが直列に接続され、スイッチS3が高周波電源15H側に切り替えられて上記直列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0049】
  なお、これまで説明してきた接続関係を有する複数(m本:mは2以上の整数)のシリコン芯線のグループ(第1のグループ)と一緒に、別のグループ(第2のグループ)を成す複数(M本:Mは2以上の整数)のシリコン芯線を、同じ反応炉内に設ける態様としてもよい。
 
【0050】
  つまり、反応器中に、第1のグループを成すm本のシリコン芯線に加え、さらに第2のグループを成すM本のシリコン芯線を配置し、上記第1のグループに対応付けられて設けられる高周波電源とは別個に、第2のグループに対応付けられる2kH以上の周波数電流を供給する高周波電源を設けることとし、上記第2のグループを成すM本のシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出を、上述の第1のグループを成すシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出と同様に行うようにしてもよい。
 
【0051】
  図5Aは、それぞれが3対のシリコン芯線から成る2つのグループ(m=3、M=3)を反応炉内に配置する際のシリコン芯線同士を並列接続する回路の第1例を示したブロック図である。
図3Aに示した態様と同様に、何れのグループにおいても、6個のスイッチ(S1〜S6、S1´〜S6´)で回路を構成しており、スイッチS1およびS2、S1´およびS2´が開とされ、スイッチS3、S4、およびS5、S3´、S4´、およびS5´が閉とされて3対のシリコン芯線12A〜C、12A´〜C´が並列に接続され、スイッチS6、S6´が低周波電源15L、15L´側に切り替えられて上記並列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0052】
  図5Bは、それぞれが3対のシリコン芯線から成る2つのグループ(m=3、M=3)を反応炉内に配置する際のシリコン芯線同士を直列接続する回路の第1例を示したブロック図である。
図3Bに示した態様と同様に、何れのグループにおいても、スイッチS1およびS2、S1´およびS2´が閉とされて3対のシリコン芯線12A〜C、12A´〜C´が直列に接続され、スイッチS6、S6´が高周波電源15H、15H´側に切り替えられて上記直列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0053】
  図6Aは、それぞれが3対のシリコン芯線から成る2つのグループ(m=3、M=3)を反応炉内に配置する際のシリコン芯線同士を並列接続する回路の第2例を示したブロック図である。
図4Aに示した態様と同様に、何れのグループにおいても、スイッチS1、S2及びS3、S1´、S2´及びS3´が閉とされて3対のシリコン芯線12A〜C、12A´〜C´が並列に接続され、スイッチS4、S4´が低周波電源15L、15L´側に切り替えられて上記並列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0054】
  図6Bは、それぞれが3対のシリコン芯線から成る2つのグループ(m=3、M=3)を反応炉内に配置する際のシリコン芯線同士を直列接続する回路の第2例を示したブロック図である。
図4Bに示した態様と同様に、何れのグループにおいても、スイッチS1およびS2、S1´およびS2´が開とされて3対のシリコン芯線12A〜C、12A´〜C´が直列に接続され、スイッチS3、S3´が高周波電源15H、15H´側に切り替えられて上記直列接続回路に電流が供給される状態にある。
 
【0055】
  本発明では、上述したような構成の反応システムを用い、反応器中に2本以上のシリコン芯線を配置し、反応炉内にシラン化合物を含有する原料ガスを供給し、通電により加熱されたシリコン芯線上にCVD法により多結晶シリコンを析出させて多結晶シリコン棒を製造する。そして、多結晶シリコンの製造プロセス中に、多結晶シリコン棒に2kHz以上の周波数を有する電流を通電させて加熱する高周波電流通電工程を設けることにより、高周波電流による表皮効果を適切に利用することにより、多結晶シリコン棒の局部的な異常加熱を抑制して、大口径の多結晶シリコン棒を安定的に製造することを可能としている。
 
【0056】
  なお、上述したように、2kHz以上の周波数を有する高周波電流の供給電源としては、単一高周波電流を供給するもの乃至周波数可変のものの何れも用いることが可能である。
 
【0057】
  詳細については後述するが、単一高周波電流を供給する高周波電源を用いる場合、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、下記の構成とすることができる。
 
【0058】
  本発明の多結晶シリコン棒の製造方法では、反応器中にm本(mは2以上の整数)のシリコン芯線を配置し、反応炉内にシラン化合物を含有する原料ガスを供給し、通電により加熱された前記シリコン芯線上にCVD法により多結晶シリコンを析出させて多結晶シリコン棒を製造するプロセス中に、多結晶シリコン棒に2kHz以上の周波数を有する電流を通電させて加熱する高周波電流通電工程を設ける。この高周波電流通電工程は、多結晶シリコンの析出により直径が80mm以上の所定値D
0に達したn本(nは2以上でm以下の整数)の直列に連結された多結晶シリコン棒に対し、単一高周波電流を供給する1つの高周波電源から高周波電流を供給する工程を含み、高周波電流の周波数を、直列連結されたn本の多結晶シリコン棒を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下の範囲の所望の値となるように設定する。
 
【0059】
  周波数可変の高周波電源を用いる場合、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、下記の構成とすることができる。
 
【0060】
  反応器中にシリコン芯線を配置し、前記反応炉内にシラン化合物を含有する原料ガスを供給し、通電により加熱された前記シリコン芯線上にCVD法により多結晶シリコンを析出させて多結晶シリコン棒を製造するプロセス中に、周波数可変の高周波電源により、多結晶シリコン棒に2kHz以上の周波数を有する電流を通電させて加熱する高周波電流通電工程を設ける。この高周波電流通電工程は、直列に連結された多結晶シリコンの析出により直径が80mm以上の所定値D
0に達した多結晶シリコン棒に高周波電流を供給する工程を含み、該高周波電流の供給工程では、高周波電流が多結晶シリコン棒中を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下となる範囲内で、高周波電流の周波数が多結晶シリコン棒の表面温度変動に応じて選択される。
 
【0061】
  これらの態様の何れにおいても、低周波数電流乃至高周波電流の通電によりシリコン芯線の加熱開始を行い、該シリコン芯線の表面が所望の温度となった後に多結晶シリコンの析出を開始することとしてもよい。
 
【0062】
  このとき、シリコン芯線の加熱開始を、m本のシリコン芯線を並列に連結し、低周波数電流を供給する1つの低周波電源からの並列連結されたシリコン芯線への電流供給により行うこととしてもよい。
 
【0063】
  また、シリコン芯線の加熱開始を、m本のシリコン芯線同士を1番目からm番目へと順次直列に連結し、1つの低周波電源若しくは1つの高周波電源からの直列連結されたシリコン芯線への電流供給により行うこととしてもよい。
 
【0064】
  本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、多結晶シリコンの析出開始後から多結晶シリコン棒の直径が所定値D
0に達するまでは、多結晶シリコン棒の加熱を、m本の多結晶シリコン棒を並列に連結し、低周波数電流を供給する1つの低周波電源からの並列連結された多結晶シリコン棒への電流供給により行う態様としてもよい。
 
【0065】
  また、反応器中にさらにM本(Mは2以上の整数)のシリコン芯線を配置し、1つの高周波電源とは別個に設けられた高周波電源であって2kHz以上の単一高周波電流を供給する1つの高周波電源若しくは2kHz以上の周波数電流を供給する周波数可変の1つの高周波電源を用い、M本のシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出をm本のシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出と同様に行う態様としてもよい。
 
【0066】
  さらに、原料ガスとしてトリクロロシランを含有するガスを選択し、多結晶シリコン棒の表面温度を900℃以上で1250℃以下に制御して多結晶シリコンを析出させる態様としてもよい。
 
【0067】
  なお、金属電極10は、チャンバ1内に配置される鳥居型シリコン芯線12の対と同数又は同数未満の対だけ設けられることとなるが、これらの金属電極10の対は、高周波電流を流した際に、近接する金属電極対に保持されている鳥居型シリコン芯線12乃至は多結晶シリコン棒11により形成される誘導磁界によって強い抵抗が生じないような相互配置関係とすることが好ましい。或いは、高周波電流の位相調整により、誘導磁界により生じる強い抵抗を抑制するようにしてもよい。
 
【0068】
  図7A〜Cは、このような金属電極対の配置関係を例示により説明するための、上方向から眺めた状態の図で、図中に示した矢印はシリコン芯線への通電により形成される磁場方向である。
 
【0069】
  図7Aに示した態様では、鳥居型シリコン芯線12の2本の柱部とこれら柱部を繋ぐ梁部で形成される長方形の面が、近隣に配置された鳥居型シリコン芯線12の上記長方形の面と、部分的にも対向しないように配置されている。
 
【0070】
  図7Bに示した態様では、鳥居型シリコン芯線12の2本の柱部とこれら柱部を繋ぐ梁部で形成される長方形の面が、近接する鳥居型シリコン芯線12の上記長方形の面と直交するように配置されている。
 
【0071】
  図7Cに示した態様では、鳥居型シリコン芯線12の2本の柱部とこれら柱部を繋ぐ梁部で形成される長方形の面が、近接する鳥居型シリコン芯線12の上記長方形の面と平行に配置されており、これらのシリコン芯線12には、各シリコン芯線12が形成する磁場の方向が逆向きとなるように位相調整された電流(i
a、i
b)が通電されている。
 
【0072】
  また、真円性の高い断面形状の多結晶シリコン棒を得るためには、ベースプレートの中央を中心とする同心円上にシリコン芯線を配置することが好ましい。
 
【0073】
  図8A〜Cは、このような金属電極対の配置関係を例示するもので、図中に示した破線はベースプレートの中央を中心とする同心円である。
 
【0074】
  図8Aに示した態様では、上記同心円上に、例えば4対のシリコン芯線12が配置されている。
 
【0075】
  チャンバ内に多数のシリコン芯線12を配置する場合には、例えば8対のシリコン芯線12を異なる直径の2つの同心円上に4対ずつ配置するなどすることが好ましく、
図8Bに示した態様では、内側の同心円上に配置されるシリコン芯線12の上記長方形の面と外側の同心円上に配置された近隣のシリコン芯線12の長方形の面とが、部分的にも対向しないように配置されている。
 
【0076】
  また、
図8Cに示した態様では、内側の同心円上に配置されるシリコン芯線12の上記長方形の面と外側の同心円上に配置された近隣のシリコン芯線12の長方形の面とは対向してはいるが、
図7Cで示したのと同様に、これらのシリコン芯線12には、各シリコン芯線12が形成する磁場の方向が逆向きとなるように位相調整された電流(i
a、i
b)が通電されている。
 
【0077】
  次に、本発明による多結晶シリコン棒の製造プロセスについて説明する。
 
【0078】
  図9は、
図1に示した構成の反応炉100を用いた場合の、本発明による多結晶シリコン棒の製造プロセス例を説明するためのフロー図である。
 
【0079】
  先ず、チャンバ1をベースプレート5上に密着載置し、ガスノズル9から窒素ガスを供給してチャンバ1内の空気を窒素に置換する(S101)。チャンバ1内の空気と窒素は、排ガス出口8からチャンバ1外へと排出される。チャンバ1内の窒素置換終了後、窒素ガスに代えて、水素ガスをガスノズル9から供給し、チャンバ1内を水素雰囲気とする(S102)。
 
【0080】
  次に、シリコン芯線12の初期加熱(予備加熱)を行う(S103)。
図1に示した構成の反応炉100では、この初期加熱にはカーボンヒータ13が用いられるが、加熱した水素ガスをチャンバ1内に供給することにより行ってもよい。この初期加熱によりシリコン芯線12の温度は300℃以上となり、シリコン芯線12の電気抵抗は、効率的な通電が得られる値となる。
 
【0081】
  続いて、金属電極10から電力供給し、芯線ホルダ14を介して、シリコン芯線12に通電し、この通電によりシリコン芯線12を900℃〜1300℃程度にまで加熱(本加熱)する(S104)。そして、キャリアガスである水素ガスとシラン化合物を含有する原料ガスであるトリクロロシランガスの混合ガスを比較的低い流量(流速)でチャンバ1内に供給し、シリコン芯線12上への多結晶シリコンの気相成長を開始する(S105)。またシリコン芯線の初期加熱を窒素雰囲気で行うことも可能であるが、この場合はトリクロルシランガスを供給する前に水素置換が必要である。
 
【0082】
  シリコン芯線12は細く力学的な強度は高いとは言えない。このため、多結晶シリコンの気相成長反応の初期においては、供給ガスがチャンバ1内に供給される際の噴出圧によってシリコン芯線12が倒壊等するといったトラブルが発生し易い。そこで、気相成長反応の初期段階での供給ガス流量(流速)を比較的小さく設定することが好ましい(S106)。
 
【0083】
  一方、多結晶シリコンの析出速度(反応速度)を大きくして収率を高めるためには、チャンバ内1に供給する原料ガスのバルク濃度(供給ガス中の原料ガスの濃度)を高く保つ必要がある。具体的には、多結晶シリコン棒の直径が少なくとも15mm(好ましくは20mm)となるまでの間は、原料ガス(トリクロロシラン)のバルク濃度を15モル%以上40モル%以下とすることが好ましい。
 
【0084】
  また、析出速度を大きくするため、シリコン芯線12(多結晶シリコン棒11)の倒壊等のおそれがなくなった後は、供給ガス流量(流速)を最大値近くにまで高めることが好ましい(S107)。このような供給ガス流量(流速)設定は、例えば多結晶シリコン棒11の直径が20mmに達した時点で行うことができるが、40mmを目安としてもよい。また、このときのガス供給は、好ましくはチャンバ1内の圧力が0.3MPa〜0.9MPaとなるように行われ、ガスノズル9の噴出口での流速は150m/sec以上であることが好ましい。
 
【0085】
  この間の多結晶シリコン棒11の表面温度は、1000℃以上の比較的高い温度に保つことが好ましく、例えば1000℃〜1250℃の範囲に制御する。
 
【0086】
  更に多結晶シリコン棒の直径が大きくなると、チャンバ1内に原料ガスが滞留し易い部位が生じてくる。このような状態で高濃度にシラン化合物を含有する原料ガスを供給するとシリコン微粉末の多量発生の危険があり、これら微粉末が多結晶シリコン棒11の表面に付着して汚染等の原因となる可能性がある。
 
【0087】
  そこで、遅くとも多結晶シリコン棒11の直径が130mmになる段階までには、供給ガス中の原料ガスのバルク濃度を下げることが好ましい(S108)。例えば、原料ガス(トリクロロシラン)のバルク濃度を、30モル%以上50モル%以下の範囲の値から、15モル%以上45モル%以下の範囲の値とする。好ましくは、トリクロロシランのバルク濃度を、20モル%以上40モル%以下とする。
 
【0088】
  ところで、シリコン結晶は、温度が高いほど電気的抵抗が低くなるという性質を有しているため、商用周波数の電源を用いて多結晶シリコン棒の通電加熱を行った場合、多結晶シリコン棒の直径が一定以上になると、通電による加熱と表面付近での冷却により、多結晶シリコン棒の中心部の温度が表面付近の温度よりも高い状態になる。この場合、多結晶シリコン棒の中心部の電気抵抗は表面側の電気抵抗に比較して低くなり、この傾向は直径が大きくなるにつれて顕著になる。
 
【0089】
  そして、多結晶シリコン棒に供給された電流はより低い電気抵抗を示す中心部に流れ易いため、中心部の電流密度は高まる一方で表面側の電流密度は低下するため、上述の温度不均一は益々増幅されることになる。例えば、多結晶シリコン棒の表面温度が1000℃以上となるように加熱を行った場合、直径が130mm以上であれば中心部と表面側の温度差は150℃以上にもなる。
 
【0090】
  これに対し、高周波電流は表皮効果(skin effect)を示し、導体に通電した場合には表面近傍の電流密度が高くなることは上述したとおりである。この表皮効果は周波数が高いほど顕著になり、表面に電流が集中し易くなる。なお、その電流の流れる深さを表皮深さ(skin depth)あるいは電流浸透深さと呼ばれる。表皮深さδは、電流の周波数f、多結晶シリコンの透磁率μ、および多結晶シリコンの導電率kと、δ
-1=(π・f・μ・k)
1/2の関係にある。
 
【0091】
  図10Aおよび
図10Bはそれぞれ、直径が160mmの多結晶シリコン棒に80kHzの周波数の電流を通電した場合の断面内での電流分布を説明するための様子を説明するための図および電流分布(I
x/I
0)のI
xとI
0の関係を説明するための図である。電流分布は、多結晶シリコン棒の表面(半径R
0=80mm)を流れる電流値(I
0)と多結晶シリコン棒の中心Cから半径R
xの部位を流れる電流値(I
x)との比で規格化している。
 
【0092】
  この図に示すように、高周波電流を通電することにより多結晶シリコン棒を加熱することとすれば、表面付近の優先的な加熱が可能となるから、多結晶シリコン棒が径拡大したとしても、表面近傍を優先的に加熱することができるため、多結晶シリコン内部での温度分布が製造上の障害となるほどに大きくなることを回避することができる。
 
【0093】
  このような高周波電流の通電は、多結晶シリコン棒の直径が80φmm以上の所定値D
0となったものに対して行うことが好ましい。
 
【0094】
  図11は、本発明で用いる高周波電流の適切な周波数を検討した結果を示す図である。周波数は2kHzから200kHzまで検討している。この図に示した結果によれば、周波数が800kHzの場合には、多結晶シリコン棒の表面温度が1150℃の条件下での浸透深さδは僅かに4mm程度であり、900℃の場合でも7mm程度に過ぎない。また、周波数が200kHzの場合、多結晶シリコン棒の表面温度が1150℃の条件下での浸透深さδは9mm弱であり、900℃の場合でも13.7mmに過ぎない。
 
【0095】
  このような浅い浸透深さしか得られない場合には、特に、鳥居型のシリコン芯線の屈曲部において電流密度が集中することによる多結晶シリコンの部分的な溶解が生じてしまい、製造上の支障をきたすおそれがある。
 
【0096】
  本発明者らが行った実験によっても、200kHzの高周波電流で通電加熱を行ってトリクロロシランを原料ガスとする多結晶シリコン棒の育成を試みたところ、多結晶シリコン棒が直径160mm程度となった段階で崩落してしまうというトラブルが生じた。原因を確認したところ、この多結晶シリコン棒は、鳥居型に組んだシリコン芯線の屈曲部(上端角部)に割れが生じていた。
 
【0097】
  図12Aおよび
図12Bは、上述の多結晶シリコン棒の割れ発生の様子を説明するための図で、破線で示した部分が割れの発生個所である。
 
【0098】
  このような割れの発生原因について、本発明者らはいわゆる「ポップコーン」の発生が関与しているものと考えている。
 
【0099】
  トリクロロシランを用いた多結晶シリコン棒の製造を行う場合、棒の表面温度に応じて決まる適切な原料ガス供給がなされないと局所的な過剰結晶成長が起こり、「ポップコーン」と呼ばれるごつごつした表面形状となる(例えば、特許文献3:特開昭55−15999号公報を参照)が、割れが生じた部分にはポップコーンの発達が観察された。また、このポップコーンはクラック状の隙間を伴っていた。
 
【0100】
  つまり、このクラック状の隙間の周辺で高周波電流の表皮効果が局所的に強く作用した結果、多結晶シリコンの溶融等が生じて割れ(崩壊)が生じたものと推定される。このような高周波電流による局所的な過剰加熱およびそれが及ぼす製造上の不都合は、これまで知られていなかった知見である。
 
【0101】
  図13は、直径が160mmの多結晶シリコン棒に80kHzおよび200kHzの周波数の電流を通電した場合の、断面内での電流分布を説明するための図である。なお、電流分布(I
x/I
0)の算出は、
図10Bに示したとおりである。
 
【0102】
  図13に示したように、200kHzの周波数の電流を通電した場合、多結晶シリコン棒の表面から30mm以上中心側に位置する部位には殆ど電流は流れず、表面側に集中している。
 
【0103】
  従って、周波数が200kHz以上の高周波電流は、本発明で用いる通電加熱用の電流として適切なものとは言えない。換言すれば、直径が160mmを超える多結晶シリコン棒を製造するに際しては、上記式により算出される浸透深さ(表皮深さ)δは少なくとも13.7mmを超える値である必要がある。このような理由から、本発明では、高周波電流の周波数を、多結晶シリコン棒を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下の範囲の所望の値となるように設定する。
 
【0104】
  高周波電流の浸透深さは多結晶シリコン棒の温度に依存するが、1200℃であれば67.2kHz〜2.0kHz、1100℃であれば93.7kHz〜2.8kHz、1000℃であれば137.8kHz〜4.1kHz、950℃であれば171.1kHz〜5.1kHz、900℃であれば216.3kHz〜6.4kHz、の周波数の電流により上記範囲の浸透深さを得ることができる。
 
【0105】
  なお、上述のポップコーンの発生防止には、多結晶シリコン棒の表面に十分な原料ガスを供給すればよいのであるが、多結晶シリコン棒が径拡大してその表面積が大きくなればなるほど原料ガスの供給が不足の状態となり易い。そこで、多結晶シリコン棒の直径が130φmm以上となった後は、徐々に表面温度を下げてゆくことが好ましい(S109)。例えば、直径が160mm程度になった段階では表面温度を950℃以上1030℃未満の範囲に低下させ、更に径拡大させる場合には最終段階での表面温度が900〜980℃の範囲となるように低下させていくことが好ましい。
 
【0106】
  このような適切な浸透深さが得られる高周波電流は多結晶シリコン棒の析出反応開始に先立つシリコン芯線の初期加熱段階から用いることも可能であるが、反応器中に配置されたm本(mは2以上の整数)のシリコン芯線上に多結晶シリコンが析出して直径が80mm以上の所定値D
0に達したn本(nは2以上でm以下の整数)の直列に連結された多結晶シリコン棒において、このn本の多結晶シリコン棒に高周波電流を供給するようにし、それ以前は商用周波数の電流(低周波数電流)を加熱用として用いるようにしてもよい。
 
【0107】
  この高周波電流の通電に用いられる電源は、単一高周波電流を供給する1つの高周波電源であってもよいし周波数可変の1つの高周波電源であってもよい。ここで、「周波数可変」は、連続的に可変であってもよいし複数レベル間での段階的可変であってもよい。
 
【0108】
  周波数可変の高周波電源を用いる利点とは、例えば下記のようなものである。多結晶シリコン棒表面の温度を適切に制御するためには、析出反応の進行に伴うシリコン棒の径拡大に合わせて、多結晶シリコン棒への通電量を高めてゆく必要がある。
 
【0109】
  しかし、周波数が単一のものである場合には、周波数の高めのものを使用する方が総電流量の抑制が可能となり経済的となるものの、周波数の高めのものを使用するほど、多結晶シリコン棒の直径に応じて周波数を変えて浸透深さ(表皮深さ)δをより適切に制御することが難しくなる。
 
【0110】
  具体的には、ある周波数fの電流の通電量を増やすと表面温度は上がり導電率が上がる(kが大きくなる)ためにδ値は小さくなるが、浸透深さ(表皮深さ)δが小さくなると更に表面温度が上がるという循環を生むことで温度制御が難しくなり、上述のような表皮効果が強く現れる形状を持った領域でのシリコン棒の溶融や割れといった事故が起きやすくなる。
 
【0111】
  そこで、2kHz以上の周波数を複数(例えばf
1とf
2)選択できるようにしておき、先ず、高周波数f
1の電流による通電加熱を行い、表面温度維持のために通電量を上げる必要が生じた際には、先の周波数f
1よりも低めの高周波数f
2の電流通電に切り替えてその通電量を上げるといった操作を行うことが可能である。このように低めの高周波数f
2により通電量を上げることで、表皮効果が強く出過ぎることを防止できる。なお、このような通電量の制御は、電流制御によってでも電圧制御によってでもよい。
 
【0112】
  また、低めの高周波数f
2の電流通電を行っている際に表面温度維持のために表面付近における発熱量を上げたい場合には、通電量一定のまま高めの周波数f
1に切り替えて表皮効果を高めることとすると、通電量を増加させなくても表面付近の発熱量を上げることができる。
 
【0113】
  このような周波数の可変範囲は、2kHzから400kHzであることが好ましく、連続的乃至選択可能周波数が多いほど好ましいことは言うまでもない。
 
【0114】
  例えば、直径が160mm程度でその表面温度が980℃程度の多結晶シリコン棒の加熱が100kHzの周波数の電流により行われている場合、通電量を上げることにより表面温度を1000℃程度に上げたい場合には、電流の周波数を100kHzより低い80kHzに切り替え、通電量を1ステップ当たり10A〜50Aずつ徐々に増加させて温度の上昇を観察する。逆に、80kHzで多結晶シリコン棒の表面温度が下がり始めた場合には、通電量を維持したまま、電流の周波数を100kHzに引き上げ、更に表面温度が低下し始めた場合には通電量を維持したまま120kHzに引き上げるといった操作を行って温度の上昇を観察する。上記操作によっても表面温度が低下し始めた場合には周波数を80kHzに下げ、通電量を10A〜50Aずつ徐々に増加させる。このような通電量および電流周波数の制御を交互に行うことにより、強すぎる表皮効果の発生を避けて、多結晶シリコン棒の表面付側と中心部での温度差発生の抑制に加え、使用電力量の抑制も効率的に行うことができる。
 
【0115】
  図14は、このような通電量の変化を伴って高周波電流の周波数を変化させつつ多結晶シリコン棒の径拡大を図る工程のプロセス例を説明するためのフロー図である。径拡大が進むと(S201)、シリコン棒表面の温度が下がってくる。ここで通電量を上げると温度上昇に伴い低効率が下がって浸透深さδが浅くなり、表面温度が高くなりすぎる可能性があるため、高周波電流の周波数を先ず下げて浸透深さδを深くする操作(S202)および電流量を増加させる操作(S203)を行う。このように浸透深さδを予め深くすることで安全に通電量をアップさせ、これにより表面温度を上昇させて径拡大させる(S204)。径拡大に伴ってシリコン棒表面の温度が下がった際(S205)、今度は高周波電流の周波数を上げて浸透深さδを浅くする操作を行い(S206)、表面温度を上昇させる(S207)。以降は、多結晶シリコン棒表面の温度を適切に制御しながらシリコン棒の径拡大を図る(S201)。
 
【0116】
  これまでの説明は多結晶シリコン棒の育成プロセスについてのものであったが、高周波電流の利用は多結晶シリコン棒の育成が終了した後の冷却工程においても有用である。
 
【0117】
  クロロシラン類を原料とした場合のように、析出反応温度が高いプロセスを経て得られる多結晶シリコン棒の内部には、表面側と中心部の温度差に基づく歪みが蓄積し易い。従って、このような多結晶シリコン棒を冷却する際にも、なるべく、表面側と中心部の温度差が小さくなるようなプロセス設計が必要である。
 
【0118】
  例えば、多結晶シリコン棒の育成が終了した後の工程において、多結晶シリコン棒の表面が所定の温度以下となるまでの間は、2kHz以上の周波数をもつ電流を流して表面側のみを僅かに加熱し、表面側と中心部の温度差がなるべく小さくなるように冷却する。このような冷却工程用の高周波電源は別途用意する必要はなく、上述した単一周波数の若しくは周波数可変の高周波電源を用いればよい。なお、冷却工程で流す高周波電流の周波数は2kHz以上100kHz以下であることが好ましい。
 
【0119】
  このような冷却工程での通電は、多結晶シリコン棒の表面温度が例えば500℃以下となった段階で終了することとしてもよい。なお、冷却工程時の高周波電流の通電時間の目安は、多結晶シリコン棒の直径等にも依存するが、4時間程度とすることが好ましい。
 
【0120】
  従来、直径が160mmを超える程度の大口径の多結晶シリコン棒の製造では、育成後に反応炉外に取り出すまでに多結晶シリコン棒が倒壊したり、多結晶シリコン塊に加工する段階においても内部残留歪みによって割れが生じる等の問題があった。しかし、上述したような冷却方法によれば、内部残留歪みの小さな多結晶シリコン棒を得ることができる。
 
【0121】
  以上説明したように、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法では、多結晶シリコン棒に2kHz以上の周波数を有する電流を通電させて加熱する高周波電流通電工程を備え、該高周波電流通電工程は、多結晶シリコンの析出により直径が80mm以上の所定値D
0に達したn本(nは2以上でm以下の整数)の直列に連結された多結晶シリコン棒に、単一高周波電流を供給する1つの高周波電源若しくは周波数可変の1つの高周波電源から、上記直列連結されたn本の多結晶シリコン棒に高周波電流を供給する工程を含み、この際の高周波電流の周波数を、直列連結されたn本の多結晶シリコン棒を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下の範囲の所望の値となるように設定する。
 
【実施例】
【0122】
  [実施例]
  反応炉100のチャンバ1内に高純度多結晶シリコンからなるシリコン芯線12をセットした。カーボンヒータ13を用い、シリコン芯線12を370℃まで初期加熱した後、シリコン芯線12に、印加電圧2000V、商用周波数である50Hzの低周波電流の通電を開始した。
【0123】
  シリコン芯線12上への多結晶シリコンの析出反応は、シリコン芯線12に1050Vの電圧を印加して表面温度を1160℃とし、キャリアガスである水素ガスと原料ガスであるトリクロロシランの混合ガスの供給により開始した。
【0124】
  その後、多結晶シリコンの直径が82mmとなるまでは上記通電条件の下で析出反応を継続し、その後、周波数80kHzの高周波電流に切り替えて通電し、シリコン多結晶棒が直径163mmになるまで反応を継続した。なお、反応終了時点、すなわち多結晶シリコン棒の直径が163mmとなった時点での供給電力は363kWであった。
【0125】
  混合ガスの供給を停止して析出反応を終了した後、周波数80kHzの高周波電流の通電を維持したまま、多結晶シリコン棒の表面温度が600℃に低下するまでの間、徐々に通電量を下げながら冷却し、その後は通電を停止した。多結晶シリコン棒11の表面温度が45℃となるまでチャンバ1内で放置した後に取り出しを行った。
【0126】
  得られた多結晶シリコン棒にクラックの発生は認められなかった。
【0127】
  [比較例1]
  反応炉100のチャンバ1内に高純度多結晶シリコンからなるシリコン芯線12をセットした。カーボンヒータ13を用い、シリコン芯線12を340℃まで初期加熱した後、シリコン芯線12に、印加電圧2000V、商用周波数である50Hzの低周波電流の通電を開始した。
【0128】
  シリコン芯線12上への多結晶シリコンの析出反応は、シリコン芯線12に1050Vの電圧を印加して表面温度を1130℃とし、キャリアガスである水素ガスと原料ガスであるトリクロロシランの混合ガスの供給により開始した。
【0129】
  その後、多結晶シリコンの直径が80mmとなるまでは上記通電条件の下で析出反応を継続し、その後も、周波数50Hzの低周波電流の通電を継続させて、シリコン多結晶棒が直径156mmになるまで反応を継続した。なお、反応終了時点、すなわち多結晶シリコン棒の直径が156mmとなった時点での供給電力は428kWであった。
【0130】
  混合ガスの供給を停止して析出反応を終了した後、周波数50Hzの低周波電流の通電を維持したまま、多結晶シリコン棒の表面温度が600℃に低下するまでの間、徐々に通電量を下げながら冷却し、その後は通電を停止した。
【0131】
  多結晶シリコン棒11は、この冷却工程中にチャンバ1内で倒壊した。倒壊原因はクラックの発生と推定される。
【0132】
  [比較例2]
  反応炉100のチャンバ1内に高純度多結晶シリコンからなるシリコン芯線12をセットした。カーボンヒータ13を用い、シリコン芯線12を355℃まで初期加熱した後、シリコン芯線12に、印加電圧2000V、商用周波数である50Hzの低周波電流の通電を開始した。
【0133】
  シリコン芯線12上への多結晶シリコンの析出反応は、シリコン芯線12に1010Vの電圧を印加して表面温度を1100℃とし、キャリアガスである水素ガスと原料ガスであるトリクロロシランの混合ガスの供給により開始した。
【0134】
  その後、多結晶シリコンの直径が80mmとなるまでは上記通電条件の下で析出反応を継続し、その後も、周波数50Hzの低周波電流の通電を継続させて径拡大させたが、シリコン多結晶棒は直径159mmになった時点で倒壊してしまった。なお、多結晶シリコン棒の直径が159mmとなった時点での供給電力は448kWであった。
【0135】
  多結晶シリコン棒11の倒壊原因は、同じくクラックの発生と推定される。
【0136】
  以上、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法について説明したが、ここで開示された発明を再度整理すると下記のとおりとなる。
【0137】
  単一高周波電流を供給する高周波電源を用いる場合、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、下記の構成とすることができる。
【0138】
  反応器中にm本(mは2以上の整数)のシリコン芯線を配置し、反応炉内にシラン化合物を含有する原料ガスを供給し、通電により加熱されたシリコン芯線上にCVD法により多結晶シリコンを析出させて多結晶シリコン棒を製造するプロセス中に、多結晶シリコン棒に2kHz以上の周波数を有する電流を通電させて加熱する高周波電流通電工程を設ける。この高周波電流通電工程は、多結晶シリコンの析出により直径が80mm以上の所定値D
0に達したn本(nは2以上でm以下の整数)の多結晶シリコン棒を直列に連結し、単一高周波電流を供給する1つの高周波電源から直列連結されたn本の多結晶シリコン棒に高周波電流を供給する工程を含み、高周波電流の周波数を、直列連結されたn本の多結晶シリコン棒を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下の範囲の所望の値となるように設定する。
【0139】
  周波数可変の高周波電源を用いる場合、本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、下記の構成とすることができる。
【0140】
  上述の高周波電流通電工程において、多結晶シリコンの析出により直径が80mm以上の所定値D
0に達したn本(nは2以上でm以下の整数)の多結晶シリコン棒を直列に連結し、周波数可変の1つの高周波電源から直列連結されたn本の多結晶シリコン棒に高周波電流を供給する工程を含み、高周波電流の周波数を、直列連結されたn本の多結晶シリコン棒を流れる際の表皮深さが13.8mm以上で80.0mm以下の範囲内で、多結晶シリコン棒の表面温度変動に応じて変化させる。
【0141】
  これらの態様の何れにおいても、低周波数電流乃至高周波電流の通電によりシリコン芯線の加熱開始を行い、該シリコン芯線の表面が所望の温度となった後に多結晶シリコンの析出を開始することとしてもよい。
【0142】
  このとき、シリコン芯線の加熱開始を、m本のシリコン芯線を並列に連結し、低周波数電流を供給する1つの低周波電源からの並列連結されたシリコン芯線への電流供給により行うこととしてもよい。
【0143】
  また、シリコン芯線の加熱開始を、m本のシリコン芯線同士を1番目からm番目へと順次直列に連結し、1つの低周波電源若しくは1つの高周波電源からの直列連結されたシリコン芯線への電流供給により行うこととしてもよい。
【0144】
  本発明に係る多結晶シリコン棒の製造方法は、多結晶シリコンの析出開始後から多結晶シリコン棒の直径が所定値D
0に達するまでは、多結晶シリコン棒の加熱を、m本の多結晶シリコン棒を並列に連結し、低周波数電流を供給する1つの低周波電源からの並列連結された多結晶シリコン棒への電流供給により行う態様としてもよい。
【0145】
  また、反応器中にさらにM本(Mは2以上の整数)のシリコン芯線を配置し、1つの高周波電源とは別個に設けられた高周波電源であって2kHz以上の単一高周波電流を供給する1つの高周波電源若しくは2kHz以上の周波数電流を供給する周波数可変の1つの高周波電源を用い、M本のシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出をm本のシリコン芯線上への多結晶シリコンの析出と同様に行う態様としてもよい。
【0146】
  さらに、原料ガスとしてトリクロロシランを含有するガスを選択し、多結晶シリコン棒の表面温度を900℃以上で1250℃以下に制御して多結晶シリコンを析出させる態様としてもよい。