特許第5793086号(P5793086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793086エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793086
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/14 20060101AFI20150928BHJP
   C08G 59/22 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08G59/14
   C08G59/22
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-547677(P2011-547677)
(86)(22)【出願日】2010年12月17日
(86)【国際出願番号】JP2010073471
(87)【国際公開番号】WO2011078372
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2009-295112(P2009-295112)
(32)【優先日】2009年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089406
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏
(72)【発明者】
【氏名】軍司 雅男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】海東 淳子
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/096235(WO,A1)
【文献】 特開平11−199645(JP,A)
【文献】 特開2005−097352(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/060987(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/066101(WO,A1)
【文献】 特開2006−036936(JP,A)
【文献】 特開2000−309624(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/133246(WO,A1)
【文献】 特開2006−160855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ当量が200〜600g/eqであり、リン含有率が1〜5重量%であり、全塩素量が0.2重量%以下であり、100℃における溶融粘度が1,000mPa・s以下である一般式(1)で示されるリン含有エポキシ樹脂。
【化1】
式中Xは単環でも複素環でも良い少なくとも1つのシクロヘキサン環または芳香環を有する、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでも良い、炭素数6〜31の炭化水素基であり、Yは式(2)を示し、Zは少なくとも1つは式(4)である、水素または式(3)または式(4)のいずれかを示し、nは0〜10の整数を示す。
【化2】
式中R1、R2は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R1とR2が結合して環状構造となっても良い。kは0または1の整数を示す。Arはベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらの炭化水素置換体のいずれかを示す。
【化3】
式中R3、R4は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R3とR4が結合して環状構造となっても良い。mは0または1の整数を示す。
【化4】
【請求項2】
一般式(1)のXが式(5)または式(6)または式(7)のうち少なくとの1つであることを特徴とする請求項1に記載のリン含有エポキシ樹脂。
【化5】
【請求項3】
一般式(1)のYが式(8)または式(9)いずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載のリン含有エポキシ樹脂。
【化6】
【請求項4】
一般式(1)のZが少なくとも1つは式(4)である、水素または式(4)または式(10)のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のリン含有エポキシ樹脂。
【化7】
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のリン含有エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分として含有することを特徴としたエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低粘度性に優れるとともに、難燃性を有した優れた硬化物を与える半導体素子に代表される電気・電子部品等の封止、コーティング材料、積層材料、複合材料等の硬化物として有用な新規エポキシ樹脂、更にそれを用いたエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物に関するものであり、プリント配線板、半導体封止等の電気電子分野の絶縁材料等に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は工業的に幅広い用途で使用されてきているが、その要求性能は近年ますます高度化している。例えば、エポキシ樹脂を主剤とする樹脂組成物の代表的分野に半導体封止材料があるが、近年、半導体素子の集積度の向上に伴い、パッケージサイズが大面積化、薄型化に向かうとともに、実装方式も表面実装化への移行が進展しており、より半田耐熱性に優れた材料の開発が望まれている。
また最近では、高集積化、高密度実装化の技術動向により、従来の金型を利用したトランスファー成形によるパッケージに変わり、ハイブリッドIC、チップオンボード、テープキャリアパッケージ、プラスチックピングリッドアレイ、プラスチックボールグリッドアレイ等の金型を使用しないで液状材料を用いて封止し、実装する方式が増えてきている。しかし、一般に液状材料はトランスファー成形に用いる固形材料に比べて信頼性が低い欠点がある。これは、液状材料に粘度上の限界があり、用いる樹脂、硬化剤、充填剤等に制約があるからである。さらに、近年のハロゲンフリー難燃化を受け、ハロゲン系難燃剤を使用している時では必要とされていなかったこれらの用途でも難燃化の要求が高まっている。
また、複合材分野でもハロゲンフリー化の要求が高まってきているが、難燃性を確保しながら低粘度化が必須のため、満足できるものは得られていない。
【0003】
これらの問題点を克服するため、主剤となるエポキシ樹脂及び硬化剤には、低粘度化、低吸湿化、高耐熱化とともに難燃化が望まれている。低粘度エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等が一般に広く知られているが、低粘度性の点で充分ではないし、難燃性を有していない。低粘度性に優れたエポキシ樹脂として、特許文献1には、オキシメチレン鎖を有するエポキシ樹脂が提案されているが、耐熱性、耐湿性に改良の余地があり、難燃性に関してはまったく考慮されていない。特許文献2には、ビシクロヘキシル環を有するエポキシ樹脂が提案されているが、難燃性に関してはまったく考慮されていない。特許文献3では、難燃性を有するリン含有エポキシ樹脂が提案されているが、芳香族骨格を有する2官能エポキシ樹脂とリン含有フェノール樹脂から得られるリン含有エポキシ樹脂であって低粘度化という点では問題があった。特許文献4では、リン含有エポキシ樹脂組成物で難燃性について言及しているし、脂肪族エポキシ樹脂もリン含有エポキシ樹脂の原料として使用可能なことが記載されているが、脂肪族エポキシ樹脂を使用する効果についての記載はなく、さらには、リン含有エポキシ樹脂としての特徴についての記載もなく、粘度に関してはまったく考慮されていない。特許文献5ではリン含有モノエポキシ樹脂を含有した組成物を提案されているが、脂肪族系の希釈剤の併用が必須で単独での使用はできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−359009号公報
【特許文献2】特開2006−188606号公報
【特許文献3】特開2001−288247号公報
【特許文献4】特開2002−249540号公報
【特許文献5】特開2001−106766号公報
【特許文献6】特開昭61−268691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように難燃性のある液状エポキシ樹脂を得ることは難しかった。従って、本発明の目的は低粘度性に優れ、かつ難燃性を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物ならびにその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記の課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、硬化物物性が著しく損なわれることなく、有効な難燃性を有する低粘度エポキシ樹脂に必須な骨格を見出し、本願発明のリン含有エポキシ樹脂を完成したものであり、前記の課題を解決するための手段はその特許請求の範囲に記載した下記のようなものである。
(1)エポキシ当量が200〜600g/eqであり、リン含有率が1〜5重量%であり、全塩素量が0.2重量%以下であり、100℃における溶融粘度が1,000mPa・s以下である一般式(1)で示されるリン含有エポキシ樹脂。
【0007】
【化1】
【0008】
式中Xは単環でも複素環でも良い少なくとも1つのシクロヘキサン環または芳香環を有する、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでも良い、炭素数6〜31の炭化水素基であり、Yは式(2)を示し、Zは少なくとも1つは式(4)である、水素または式(3)または式(4)のいずれかを示し、nは0〜10の整数を示す。
【0009】
【化2】
【0010】
式中R1、R2は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R1とR2が結合して環状構造となっても良い。kは0または1の整数を示す。Arはベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらの炭化水素置換体のいずれかを示す。
【0011】
【化3】
【0012】
式中R3、R4は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R3とR4が結合して環状構造となっても良い。mは0または1の整数を示す。
【0013】
【化4】
【0014】
(2)(1)に記載のリン含有エポキシ樹脂と硬化剤を必須成分として含有することを特徴としたエポキシ樹脂組成物。
(3)(2)に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリン含有エポキシ樹脂は低粘度に優れ、かつ難燃性を有する液状エポキシ樹脂を提供することができ、該エポキシ樹脂を含有した本発明のエポキシ樹脂組成物を使用して得られた成形物の評価を行った結果、従来の低粘度樹脂組成物に比べ、難燃性を有しかつ比較的低吸水率である硬化物を得ることが可能である。該エポキシ樹脂組成物及びその硬化物は、電子回路基板に用いられる銅張積層板の製造用樹脂組成物や電子部品に用いられる封止材、成形材、注型材、接着剤、フィルム材、電気絶縁塗料用材料などとして有用であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1に係るリン含有エポキシ樹脂(E−1)の赤外吸収スペクトルである。フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製 Spectum One)を用い、液膜法(KBr)により測定した。
図2】本発明の実施例1に係るリン含有エポキシ樹脂(E−1)のGPCチャートである。横軸は溶離時間(分)を、左軸はmVを、右軸は標準ポリスチレン検量線の分子量(M)の対数をそれぞれ表している。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(東ソー株式会社製 HLC−8220GPC、溶出溶剤:テトラヒドロフラン)で測定した。
図3】本発明の実施例2に係るリン含有エポキシ樹脂(E−2)の赤外吸収スペクトルである。フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製 Spectum One)を用い、液膜法(KBr)により測定した。
図4】本発明の実施例2に係るリン含有エポキシ樹脂(E−2)GPCチャートである。横軸は溶離時間(分)を、左軸はmVを、右軸は標準ポリスチレン検量線の分子量(M)の対数をそれぞれ表している。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置(東ソー株式会社製 HLC−8220GPC、溶出溶剤:テトラヒドロフラン)で測定した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について更に詳細に述べる。
本発明のリン含有エポキシ樹脂は一般式(1)で表され、nは0〜10の整数を示していて、その平均値である平均重合度は0.1〜3の範囲のオリゴマーである。
本発明のリン含有エポキシ樹脂のエポキシ当量は200g/eq〜600g/eqに制御する必要がある。エポキシ当量が200g/eq未満の場合は接着性に劣り、600g/eqを越えると粘度が増大し、得られる硬化物の耐熱性が大きく損なわれる。
そのために200g/eq〜600g/eqに調整することが好ましく、より好ましくは230g/eq〜550g/eq、さらに好ましくは250g/eq〜500g/eqである。
本発明のリン含有エポキシ樹脂のリン含有率は、1重量%〜5重量%に制御する必要がある。難燃性の観点からはリン含有率が高い方が好ましいが、リン含有率が高くなるにつれてリン含有エポキシ樹脂の粘度の増大やエポキシ当量の増加が起こり、得られる硬化物の耐熱性が大きく損なわれる。そのために1重量%〜5重量%に調整することが好ましく、より好ましくは1重量%〜4重量%であり、さらに好ましくは2重量%〜3重量%である。
本発明のリン含有エポキシ樹脂の全塩素量は得られる硬化物の電気的信頼性の低下と相関があり、増加すれば硬化物の電気的信頼性は低下し、少なければ電気的信頼性は向上する。許容できる硬化物の電気的信頼性から考えて、本発明のリン含有エポキシ樹脂の全塩素量は0.2重量%以下が好ましく、より好ましくは一般的な封止材用エポキシ樹脂と等しく0.09重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
本発明のリン含有エポキシ樹脂の100℃における溶融粘度は好ましくは1,000mPa・s以下、より好ましくは600mPa・s以下、さらに好ましくは300mPa・s以下である。100℃における溶融粘度が1,000mPa・sを越えると比較的粘度の低い硬化剤を使用してもエポキシ樹脂組成物の粘度が上がり、実作業が困難になり、正常な成型物を得ることが難しい。
本発明の一般式(1)で示されるリン含有エポキシ樹脂は、一般式(5)で示される2官能エポキシ樹脂類(A)と一般式(6)で示される有機リン化合物類(B1)と必要により一般式(7)で示される有機リン化合物類(B2)とを反応させて得られる。
【0018】
【化5】
【0019】
式中Xは単環でも複素環でも良い少なくとも1つのシクロヘキサン環または芳香環を有する、酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含んでも良い、炭素数6〜31の炭化水素基である。
【0020】
【化6】
【0021】
式中R1、R2は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R1とR2が結合して環状構造となっても良い。kは0または1の整数を示す。Arはベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びこれらの炭化水素置換体のいずれかを示す。
【0022】
【化7】
【0023】
式中R3、R4は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良い。また、R3とR4が結合して環状構造となっても良い。mは0または1の整数を示す。
【0024】
一般的に、エポキシ樹脂類とフェノール樹脂類とを反応させて新たなエポキシ樹脂を合成する場合、得られたエポキシ樹脂中に原料となるエポキシ樹脂類が残存することはさけられない。そのため、得られるリン含有エポキシ樹脂では原料となる2官能エポキシ樹脂類(A)の影響も考慮する必要がある。
有機リン化合物類と反応させる2官能エポキシ樹脂類(A)は、シクロヘキサン環または芳香環を少なくとも1つ含有することが必須である。シクロヘキサン環や芳香環はリン含有エポキシ樹脂の難燃性の向上に役立ち、シクロヘキサン環や芳香環を含有しない脂肪族系エポキシ樹脂では難燃性を確保できない。即ち、この2官能エポキシ樹脂類(A)は、骨格内にシクロヘキサン環または芳香環を少なくとも1つ含有する炭素数8〜33の2官能の1級アルコールのグリシジルエーテル化物である。
また、2官能エポキシ樹脂類(A)の構造において、−O−CH2−X−CH2−O−構造は必須である。この構造を持たない2官能エポキシ樹脂類では、一般式1で示されるリン含有エポキシ樹脂が得られないし、得られたリン含有エポキシ樹脂は低粘度化が十分ではないため、エポキシ樹脂組成物の低粘度化のために、脂肪族系エポキシ樹脂などの反応性希釈剤を多用する必要があり、難燃性を確保できない。また、難燃性を確保しようと脂肪族系エポキシ樹脂の使用量を減らすと、エポキシ樹脂組成物の粘度が著しく上がるため、低粘度化に不利であり、目的とする低粘度リン含有エポキシ樹脂組成物が得られない。
一般的に、アルコール性水酸基由来のグリシジルエーテル化は反応性が劣ることから未反応の残存水酸基量が多い傾向となる。原料2官能エポキシ樹脂類(A)中の残存水酸基はリン化合物との反応に関与せずにそのまま残存し、リン含有エポキシ樹脂の末端基純度を低下させるので、原料2官能エポキシ樹脂類(A)中の残存水酸基の増加はそのままリン含有エポキシ樹脂組成物の吸湿性を増大させ、酸無水物硬化剤やマイクロカプセル型潜在硬化剤に対して貯蔵安定性低下の原因となる。さらに、硬化物の強度や耐熱性の低下などの硬化物の物性の悪化の要因となるため、原料2官能エポキシ樹脂類(A)の残存水酸基の高純度化が必要となる。2官能エポキシ樹脂類(A)の残存水酸基濃度は200meq/100g以下が好ましく、より好ましくは100meq/100g以下であり、さらに好ましくは50meq/100g以下である。
【0025】
また、残存水酸基濃度を低減するために、触媒添加等で反応性を上げると平行して副反応が増加して含有する全塩素量の高濃度化が起こる。原料2官能エポキシ樹脂類(A)中の全塩素量はそのままリン含有エポキシ樹脂に残存するため硬化物の電気的信頼性を著しく低下させるので、全塩素量についても高純度化が必要となる。原料2官能エポキシ樹脂類(A)の全塩素量は0.4重量%以下が好ましく、より好ましくは0.2重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。アルコール性水酸基由来のグリシジルエーテル化では、全塩素量が1重量%以上の場合がほとんどであるため、高度な精製反応や蒸留操作または抽出操作によって全塩素量を減らす必要がある。それらの方法は特に規定されるものではなく、現在考案されている様々の方法を使用することができる。
一般式(5)で表される2官能エポキシ樹脂類(A)の式中のXの具体的な例を式(8)群に示した。また、Xは一般式(8)群の異性体でもいいし、置換基を有しても良い。さらに、Xはこれらが単一でも良いし、2種類以上であっても良い。
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
一般式(5)で表される2官能エポキシ樹脂類(A)の中では、一般式(9)で示されるシクロヘキサンジメタノールのグリシジルエーテル化物や一般式(10)で示されるパラキシレングリコールのグリシジルエーテル化物や一般式(11)で示されるオキシメチレンビフェニルのグリシジルエーテル化物が好ましい。
【0029】
【化10】
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
【0032】
また、2官能エポキシ樹脂類(A)と反応させる有機リン化合物類は、一般式6で示される有機リン化合物(B1)とまたは一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)で、これらを併用しても良い。
一般式(6)で示される有機リン化合物(B1)は活性水素を2個もつ有機リン化合物であり、式中のR1、R2は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良く、また、R1とR2が結合して環状構造となっても良いものである。R1、R2の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられる。また、R1とR2が結合して環状構造を形成しているものの例としては、例えば、テトラメチレン、シクロペントレン、シクロヘキシレン、シクロヘブチレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、ノルボルニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。Arはアリーレン基であり、具体例な例としては、フェニレン基、トルイレン基、キシリレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。また、kの数は0または1である。
これらの有機リン化合物(B1)は一般式(7)の有機リン化合物(B2)と単環又は多環キノン化合物との反応によって容易に得られる(特許文献6)。本発明に使用される好ましい有機リン化合物としては、一般式(12)で表される有機リン化合物である9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスフォフェナントレン−10−オキサイド(以下、DOPOと略記する)と1,4−ベンゾキノンの付加反応物である一般式(13)で示されるリン含有化合物(以下、DOPO−HQ略記する)または、DOPOと1,4−ナフトキノンの付加反応物である一般式(14)で示される有機リン化合物(以下、DOPO−NQ略記する)が挙げられる。
【0033】
【化13】
【0034】
【化14】
【0035】
【化15】
【0036】
DOPOは、商品名「HCA」(三光株式会社製)として入手することができるし、DOPO−HQは、商品名「HCA−HQ」(三光株式会社製)として入手することができる。
一般式(7)で表される有機リン化合物(B2)は活性水素を1個もつ有機リン化合物であり、式中のR3、R4は水素または炭化水素基を示し、それぞれは異なっていても同一でも良く、直鎖状、分岐鎖状、環状であっても良く、また、R3とR4が結合して環状構造となっても良いものである。R3、R4の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、1−メチルヘプチル基、オクチル基、ノニル基、ドデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基等が挙げられる。また、R3とR4が結合して環状構造を形成しているものの例としては、例えば、テトラメチレン、シクロペントレン、シクロヘキシレン、シクロヘブチレン、シクロオクチレン、シクロデシレン、ノルボルニレン基、ビフェニレン基等が挙げられる。また、mの数は0または1である。これらの中では、一般式(12)で表されるDOPOが好ましい。
【0037】
本発明のリン含有エポキシ樹脂を得るために使用する有機リン化合物類中において、一般式(6)で示される有機リン化合物(B1)と一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)との(B1)/(B2)の重量比は、50/50〜100/0であり、好ましくは65/35〜100/0であり、より好ましくは80/20〜100/0であり、さらに好ましくは90/10〜100/0である。(B1)/(B2)の重量比=0/100〜50/50未満だとリン含有率の調整が容易なため難燃性の向上や粘度低下に効果があるが、一般式(7)で示される1官能の有機リン化合物(B2)とエポキシ基の反応が多く起こり、1官能以下エポキシ樹脂が多く生成し全体のエポキシ基数が低下するため、反応性が大きく低下する。さらに、得られる硬化物の接着性の低下や耐熱性の低下や耐湿性の低下が起こり、電気絶縁信頼性が著しく低下する。(B1)/(B2)の重量比=50/50〜100/0の範囲であれば、十分な反応性を確保できるため硬化物の物性低下はない。一般式(6)で示される有機リン化合物(B1)を多用すると分子量が増加し接着性を大幅に向上できるし、一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)を多用するとのリン含有率の調整が容易になるので、目的とする特性によって使用量を調整する必要がある。(B1)/(B2)の重量比=50/50〜100/0の範囲内で、より難燃性を求める場合は有機リン化合物(B2)の使用比率を増やし、より接着性の必要とする場合は有機リン化合物(B1)の使用比率を増やせばよい。
【0038】
有機リン化合物類は、あらかじめ合成しておいた一般式(6)で示される有機リン化合物(B1)と一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)を混合して用いても良いし、2官能エポキシ樹脂類(A)との反応前に一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)とキノン類を反応させても良い。その場合、キノン類は一般式(7)で示される有機リン化合物(B2)1モルに対し、1モル未満で反応することが好ましい。一般式(7)で示される化合物(B2)1モルに対し、キノン類を1モル以上使用すると、得られるリン含有エポキシ樹脂中に、原料のキノン類が残存し、硬化物の耐湿性が悪化するため好ましくない。
【0039】
本発明に用いる有機リン化合物類と2官能エポキシ樹脂類(A)との反応は公知の方法で行うことが可能である。反応温度として100℃〜200℃、より好ましくは120℃〜180℃で攪拌下行うことができる。反応時間はエポキシ当量の測定を行って決定することができる。測定にはJIS K−7236の方法により測定可能である。2官能エポキシ樹脂類(A)と有機リン化合物類との反応によりエポキシ当量は大きくなっていき、理論エポキシ当量との比較により反応終点を決定できる。
また、反応の速度が遅い場合、必要に応じて触媒を使用して生産性の改善を計ることができる。具体的にはベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類、トリフェニルホスフィン、トリス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類、エチルトリフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩類、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類等各種触媒が使用可能である。
本発明組成物には特性を損ねない範囲で本発明のリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂類を配合してもよい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分に対するリン含有率を特に規定する必要はないが、難燃性の観点からはリン含有率が高い方が好ましく、低粘度化の観点からリン含有率が低い方が好ましい。従って両方を満足させるには、好ましくは0.5重量%から5重量%であり、より好ましくは1重量%から4重量%であり、さらに好ましくは2重量%から3重量%である。
本発明の硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂を代表とする各種多価フェノール樹脂類や酸無水物類、ジシアンジアミンやジエチルジアミノジフェニルメタンを代表とするアミン類、ヒドラジッド類、酸性ポリエステル類等の通常使用されるエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができ、これらの硬化剤は1種類だけ使用しても2種類以上使用しても良い。
また、本発明エポキシ樹脂組成物は必要に応じて硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤としては、ホスフィン類、四級ホスホニウム塩類、三級アミン類、四級アンモニウム塩類、イミダゾール化合物類、三フッ化ホウ素錯体類、3−(3,4−ジクロロジフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−(4−クロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、3−フェニル−1,1−ジメチルウレア等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
これら硬化促進剤は併用するエポキシ樹脂、使用するエポキシ樹脂硬化剤の種類、成型方法、硬化温度、要求特性によるが、エポキシ樹脂100部に対して0.01〜20重量部の範囲が好ましく、さらには0.1〜10重量部が好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて無機充填剤、有機充填剤を配合することができる。充填剤の例としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、窒化ホウ素、炭素、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、アラミド繊維等が挙げられる。これら充填剤はエポキシ樹脂組成物中の1〜95重量%が好ましい。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに必要に応じてシランカップリング剤、酸化防止剤、離型剤、消泡剤、乳化剤、揺変性付与剤、平滑剤、難燃剤、顔料等の各種添加剤を配合することができる。これら添加剤はエポキシ樹脂組成物全量中の0.01〜20重量%の範囲が好ましい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様な方法により成型、硬化して硬化物とすることができる。成型方法、硬化方法は公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法をとることができ、本発明エポキシ樹脂組成物固有の方法は不要である。
本発明のエポキシ樹脂硬化物は塗膜、接着層、成型物、積層物、フィルム等の形態をとることができる。
【実施例】
【0042】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例と比較例における各成分の配合部数は、特に断らない限り重量部を示すものである。
また、本発明では以下の分析方法を使用した。
エポキシ当量:JIS K−7236に記載の方法。即ち、試料をクロロホルム10mLに溶解し、無水酢酸20mL、20%の臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mLをそれぞれ加えて、電位差滴定装置を用いて0.1mol/L過塩素酸酢酸標準液で滴定を行い、各試薬の濃度と添加量ならびに滴定量から、エポキシ樹脂に含まれるエポキシ当量を測定した。
全塩素量:JIS K−7243−3に記載の方法。即ち、試料をジエチレングリコールモノブチルエーテル25mLに溶解し、1mol/L水酸化カリウムの1,2−プロパンジオール溶液25mLを加えて、ホットプレート上にて10分間加熱還流下で反応させる。室温まで冷却後、50mLの無水酢酸を加えて、電位差滴定装置を用いて0.01mol/L硝酸銀溶液で滴定を行い、各試薬の濃度と添加量ならびに滴定量から、エポキシ樹脂に含まれる全塩素量を測定した。
粘度:JIS K−7233に記載の方法。即ち、500mLの円筒缶に樹脂400gをはかりとって、25±0.2℃の恒温水槽で5時間放置して恒温にし、回転粘度計のローターを樹脂に浸漬して測定した。
軟化点:JIS K−7234に記載の方法。即ち、環球法で、規定の環に試料を充填し、グリセリン浴中に水平に支え、試料中央に規定の球を置き、5℃/minで昇温して測定した。
水酸基濃度:エポキシ樹脂に含まれる水酸基量に対して、当量以上のフェニルイソシアネートと、触媒としてジブチル錫マレーアートを加え、水酸基とイソシアネートを十分に反応させた後、用いたフェニルイソシアネートの当量に対してそれ以上のジブチルアミンを添加して余剰のフェニルイソシアネートを消費させ、最後に過塩素酸にて滴定を行い、各試薬の濃度と添加量ならびに滴定量から、エポキシ樹脂に含まれる水酸基濃度を測定した。
【0043】
リン含有率:試料に硫酸、塩酸、過塩素酸を加え、加熱して湿式灰化し、全てのリン原子を正リン酸とした。硫酸酸性溶液中でメタバナジン酸塩およびモリブデン酸塩を反応させ、生じたリンバナードモリブデン酸錯体の420nmにおける吸光度を測定し、予め作成した検量線により求めたリン原子含有量を重量%で表し、エポキシ樹脂に含まれるリン含有率を測定した。
溶融粘度:コーンプレート型粘度計(東亜工業株式会社製、MOEDL CV−1S)を用い、ローターは10ポアズコーン(Φ:19.5mm、θ:0.5°)を使用して、100℃の測定温度で測定した。
難燃性:UL(Underwriters Laboratories Inc.)規格、UL94垂直試験法に準じて測定を行い、同規格の判定基準である、V−0、V−1、V−2、NG(難燃性なし)の4水準で判定した(後になるほど難燃性が悪い)。
接着性:JIS C−6481 5.7に準じた方法。即ち、プリプレグ1枚と残りの3枚の間で直角方向に50mm/minの速度で剥離を行い測定した。
吸湿率:JIS C−6481 5.13に準じた方法。即ち、50mm×50mmにカットした試験片を用いて、50℃のオーブン中で24時間乾燥した後の乾燥重量を測定し、引き続き85℃/85%RHに調整した処理槽内に72時間保管した後の重量を測定し、乾燥重量からの増加分に基づいて吸湿率を測定した。
耐熱性:IPC−TM−650、2.4.24.1に準じた方法。即ち、TMA装置によるデラミネーション時間の測定であり、TMA装置で260℃の一定温度に保持し、試験片がはじけ変位が生じるまでの時間が10分以上だった場合、○とし、10分未満だった場合、×とした。なお、TMA装置はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS120Uを使用した。
塩素イオン:硬化物を粉砕し、2mmパス、1mmオンの粒径に揃えた試料を、150、20時間のプレッシャークッカーテストを行った後、イオンクロマトグラフィーにて、抽出水の塩素イオンを測定し、硬化物中の濃度に換算して求めた。
【0044】
実施例1
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、一般式(5)の2官能エポキシ樹脂(A)として、エポトートZX−1658(東都化成株式会社製、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:140g/eq、全塩素:0.075重量%、粘度:45mPa・s、水酸基濃度:19meq/100g)632.0g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(三光株式会社製、商品名:HCA−HQ、水酸基当量:162g/eq、リン含有率:9.5重量%)168.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで1時間温度を保った後、触媒としてトリフェニルホスフィン(北興化学株式会社製、製品名:TPP)0.17gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−1)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−1)の性状を表1に示す。
【0045】
実施例2
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、一般式(5)の2官能エポキシ樹脂(A)として、エポトートTX−0929(東都化成株式会社製、パラキリレングリコールジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:144g/eq、全塩素:0.11重量%、粘度:50mPa・s、水酸基濃度:39meq/100g)547.4g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(前述)252.6gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.25gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−2)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−2)の性状を表1に示す。
【0046】
実施例3
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、一般式(5)の2官能エポキシ樹脂(A)として、エポトートTX−0929(前述)602.5g、有機リン化合物としてDOPO−NQ(9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドの1,4−ナフトキノン付加物、水酸基当量:187g/eq、リン含有量:8.1重量%)197.5gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒として2エチル4メチルイミダゾール(四国化成株式会社製、製品名:2E4MZ)0.05gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−3)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−3)の性状を表1に示す。
【0047】
実施例4
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、一般式(5)の2官能エポキシ樹脂(A)として、エポトートTX−0934(東都化成株式会社製、オキシメチレンビフェニルジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:184g/eq、全塩素:0.11重量%、粘度:200mPa・s、水酸基濃度:63meq/100g)608.7g、有機リン化合物としてDOPO−NQ(前述)116.3gとDOPO(三光株式会社製、商品名:HCA、リン含有率:14.2重量%)75.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.19gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−4)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−4)の性状を表1に示す。
【0048】
実施例5
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、有機リン化合物としてDOPO(前述)168.0gとトルエン400gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら加熱して完全に溶解した。その後、キノン類として1,4−ナフトキノン(川崎化成株式会社製、3%含水品)70.0gを反応熱による昇温に注意しながら分割投入した。この時の1,4−ナフトキノンとDOPOのモル比は1,4−ナフトキノン/DOPO=0.52であった。加熱反応後、一般式(5)の2官能エポキシ樹脂(A)として、エポトートTX−0917(東都化成株式会社製、一般式5のXが式8−10の化合物、エポキシ当量:173g/eq、全塩素:0.10重量%、粘度:46mPa・s、水酸基濃度:72meq/100g)563.0gを仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、130℃まで加熱を行ってトルエンを系外に除去した。その後触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)を0.24g添加して、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−5)790gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−5)の性状を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例1
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂としてエポトートPG−207GS(東都化成株式会社製、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:319g/eq、全塩素:0.10重量%、粘度:45mPa・s)632.0g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(前述)168.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.17gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−6)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−6)の性状を表2に示す。
【0051】
比較例2
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂としてエポトートTX−0917(前述)757.9g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(前述)42.1gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.05gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−7)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−7)の性状を表2に示す。
【0052】
比較例3
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂としてエポトートTX−0917(前述)480.0g、有機リン化合物としてDOPO(前述)220.0gとDOPO−HQ(前述)100.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.32gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−8)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−8)の性状を表2に示す。
【0053】
比較例4
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂としてエポトートTX−0934(前述)505.0g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(前述)295.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.30gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−9)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−9)の性状を表2に示す。
【0054】
比較例5
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂として、エポトートST−3000(東都化成株式会社製、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:230g/eq、全塩素:5.0重量%、粘度:3,200mPa・s)632.0g、有機リン化合物としてDOPO−NQ(前述)168.0gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.17gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−10)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−10)の性状を表2に示す。
【0055】
比較例6
攪拌装置、温度計、冷却管、窒素ガス導入装置を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、有機リン化合物としてDOPO(前述)169.7gとトルエン400gを仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら加熱して完全に溶解した。その後、キノン類として1,4−ナフトキノン(前述)36.4gを反応熱による昇温に注意しながら分割投入した。この時の1,4−ナフトキノンとDOPOのモル比は1,4−ナフトキノン/DOPO=0.28であった。加熱反応後、エポキシ樹脂として、エポトートZX−1658Z(東都化成株式会社製、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:145g/eq、全塩素:0.45重量%、粘度:85mPa・s、水酸基濃度:150meq/100g)595.0gを仕込み、窒素ガスを導入しながら攪拌を行い、130℃まで加熱を行ってトルエンを系外に除去した。その後触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)を0.21g添加して、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、リン含有エポキシ樹脂(E−11)790gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−11)の性状を表2に示す。
【0056】
比較例7
攪拌装置、温度計、窒素ガス導入装置、及び冷却管を備えた4つ口のガラス製セパラブルフラスコに、エポキシ樹脂として、エポトートYDF−170(東都化成株式会社製、ビスフェノールFジグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:168g/eq、全塩素:0.15重量%、粘度:3,000mPa・s)547.4g、有機リン化合物としてDOPO−HQ(前述)252.6gを仕込み、マントルヒーターで130℃まで撹拌しながら加熱して、130℃に達したところで触媒としてトリフェニルホスフィン(前述)0.25gを加え、反応温度を160℃〜165℃に保ちながら4時間反応して、軟化点96℃のリン含有エポキシ樹脂(E−12)795gを得た。得られたリン含有エポキシ樹脂(E−12)の性状を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例6〜8、比較例8〜11
表3に示す配合処方によりリン含有エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤等を配合した。リン含有エポキシ樹脂をメチルエチルケトンで溶解させ、あらかじめメチルセロソルブ、ジメチルホルムアミドに溶解させておいた硬化剤としてジシアンジアミド(DICY、活性水素当量:21.0g/eq)と硬化促進剤として2エチル4メチルイミダゾール(前述)を加えて、不揮発分が50重量%になるように樹脂組成物ワニスを調製した。その後、得られた樹脂ワニスを用い、基材であるガラスクロス(日東紡績株式会社製、WEA 116E 106S 136、厚み100μm)に含浸させ、含浸させたガラスクロスを150℃の熱風循環式オーブンで8分間乾燥を行い、プリプレグを得た。次いで、得られたプリプレグ4枚を重ね、130℃×15分及び170℃×2.0MPa×70分間の条件で加熱と加圧を行い0.5mm厚の積層板を得た。得られた各々の積層板について、難燃性、接着性、吸湿率の各物性を試験した。その結果を表4に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
比較例8は脂肪族系リン含有エポキシ樹脂を使用しているため、接着性は良いが難燃性が悪いし耐吸湿性も悪い。比較例9は一般式1のリン含有エポキシ樹脂だが、リン含有率が0.5重量%と低いため難燃性が悪く、エポキシ当量も196g/eqと小さいため接着性も悪い。比較例10は一般式1のリン含有エポキシ樹脂だが、リン含有率が5.2重量%と大きすぎるためエポキシ当量が705g/eqと大きくなり難燃性は良いが、接着性が悪く、耐熱性も悪い。比較例11は一般式1のリン含有エポキシ樹脂だが、エポキシ当量が880g/eqと大きく、溶融粘度も1,300mPa・sと大きいため、接着性は良いが、耐熱性は悪い。それに対し実施例は全て、十分な難燃性を確保しながら、接着性は良く、耐吸湿性や耐熱性も良い。
実施例9〜12、比較例12〜14
【0062】
表5に示す配合処方によりリン含有エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤等を配合した。硬化剤として、ジエチルジアミノジフェニルメタン(日本化薬株式会社製、商品名:カヤハードAA、活性水素当量:63g/eq、粘度:2,500mPa・s)を、硬化促進剤として2エチル4メチルイミダゾール(前述)を用いて、50℃に加熱しながら、撹拌し均一化してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を脱泡して金型に注型し、150℃×120分の温度条件で硬化させて2mm厚の硬化物試験片を得た。得られた硬化物試験片について、塩素イオン、難燃性、吸湿率の各物性を試験した。その結果を表6に示す。なお、比較例14では、エポキシ樹脂として、エポトートZX−1059(東都化成株式会社製、ビスフェノールFジグリシジルエーテル樹脂とビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂の混合物、エポキシ当量:165g/eq、全塩素:0.08重量%、粘度:2,300mPa・s)を使用し、添加型難燃剤として、1,3−フェニレンビス−ジ−2,6−キシレニルホスフェート(大八化学工業株式会社製、商品名:PX−200、リン含有量:9.0重量%)を、エポキシ樹脂組成物中のリン含有率が2.0重量%になるように添加した。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
比較例12は全塩素が3.8重量%と非常に多い脂肪族系リン含有エポキシ樹脂を使用しているため、塩素イオンが実施例より100倍程度多い。これは信頼性が非常に悪くなることを示している。さらに、一般式(1)のリン含有エポキシ樹脂ではないため、難燃性も悪く、耐吸湿性も悪い。比較例13は一般式(1)のリン含有エポキシ樹脂だが、全塩素が0.33重量%と高いため、塩素イオンが実施例より5〜7倍程度多い。これは信頼性が悪くなることを示している。比較例14は一般的に使用されている低塩素液状樹脂に難燃剤を配合したエポキシ樹脂組成物だが、リン含有率を実施例と合わせても難燃性は悪く、耐吸湿性も悪い。それに対し実施例は全て、十分な難燃性を確保しながら、塩素イオンは低いし耐吸湿性も良い。これは信頼性が良いことを示している。
【0066】
実施例13〜14、比較例15〜17
表7に示す配合処方によりリン含有エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤等を配合した。硬化剤として、トリフェニルメタン型フェノール樹脂(群栄化学工業株式会社製、商品名:TMP−100、水酸基当量:97.5g/eq、軟化点:107℃)を用い、120℃に加熱しながら、撹拌し均一化してエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を脱泡して金型に注型し、150℃×120分+180℃×60分の温度条件で硬化させて2mm厚の硬化物試験片を得た。得られた硬化物試験片について、成形性、難燃性、吸湿率の各物性を試験した。その結果を表8に示す。なお、実施例13ではリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂として、エポトートZX−1059(前述)を併用し、比較例17ではリン含有エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂として、エポトートZX−1542(東都化成株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル樹脂、エポキシ当量:122g/eq、全塩素:0.065重量%、粘度:80mPa・s)を併用した。
【0067】
【表7】
【0068】
【表8】
【0069】
比較例15は脂肪族系リン含有エポキシ樹脂を使用しているため、難燃性が悪いし耐吸湿性も悪い。比較例16は特許文献4で開示された製法で得られたリン含有エポキシ樹脂だが、一般式1のリン含有エポキシ樹脂ではないため、エポキシ樹脂組成物の粘度が高すぎて、金型成型が困難なため、試験に必要な試験片が作成できなかった。比較例17は特許文献4で開示された製法で得られたリン含有エポキシ樹脂に、希釈剤を併用して粘度を下げたエポキシ樹脂組成物で、成形性は改良されるが、難燃性が悪化し、耐湿性も悪化する。それに対し実施例は全て、十分な難燃性を確保しながら、成形性も良く耐吸湿性も良い
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、電子材料用途の難燃性エポキシ樹脂として利用することが出来る。
図1
図2
図3
図4