【実施例1】
【0022】
デバイスの抗折強度及びゲッタリング効果を適切に確保するためのシリコン窒化膜の膜厚を求めるための試験を行った。具体的には、上記裏面研削工程、裏面研磨工程及びシリコン窒化膜被覆工程を実行することにより、ウェーハWFの裏面W2’’に種々の厚みのシリコン窒化膜を被覆し、それぞれについてゲッタリング効果試験及び抗折強度試験を行い、シリコン窒化膜の膜厚とデバイスの抗折強度及びゲッタリング効果との関係について考察を行った。なお、本試験において、ウェーハは以下のものを使用した。
ウェーハ:シリコンウェーハ
ウェーハの直径:8インチ
ウェーハの厚み:500μm(裏面研磨後)
チップサイズ:20mm×20mm
ウェーハ1枚当たりのチップ数:61(
図10参照)
【0023】
(1)ゲッタリング効果試験
(ア)シリコン窒化膜被覆ステップ
裏面を研削及び研磨したウェーハを複数用意し、前記シリコン窒化膜被覆工程により、当該ウェーハのそれぞれの裏面に、膜厚が1,3,5,6,7,10,50,100,200[nm]のシリコン窒化膜を被覆した。また、研削及び研磨した裏面にシリコン窒化膜を被覆しないウェーハも用意した。これらのすべてのウェーハに対し、以下の(イ)〜(エ)のステップを実行した。
【0024】
(イ)強制汚染ステップ
上記すべてのウェーハについて、シリコン窒化膜が被覆された面に、直径8インチのウェーハの当該裏面の面積あたり、1.0×10
13[atoms/cm
2]のCu標準液(硫酸銅)を塗布し、ウェーハに対して銅による強制汚染を行った。
【0025】
(ウ)加熱ステップ
すべてのウェーハについて、Cu標準液を乾燥させた後、ウェーハを350℃の温度で3時間加熱し、ウェーハ内の銅原子を拡散しやすい状態とした。
【0026】
(エ)測定ステップ
すべてのウェーハを冷却し、それぞれについて、Cu標準液を塗布した裏面の逆面(表面)の銅原子量を、TXRF(全反射蛍光X線分析装置:テクノス株式会社製)を用いて測定した。詳細には、ウェーハの表面を15mm×15mmで区画される領域に分割し、それぞれの領域について1箇所ずつ銅原子量を測定し、平均値及び最大値を求めた。なお、強制汚染ステップ前においても、同様の方法により銅原子の検出量を測定した。
【0027】
本ステップにおいては、ウェーハの表面において銅原子が検出された場合は、銅原子がウェーハ内部に拡散しており、ゲッタリング効果がないかまたは不十分であると判断することができる。一方、ウェーハの表面において銅原子が検出されない場合は、銅原子がシリコン窒化膜側に捕捉されていて、十分なゲッタリング効果があると判断することができる。試験結果は
図9の表に示すとおりである。なお、銅原子が検出されたか否かの判断のためのしきい値(検出限界)は、0.5×10
10[atoms/cm
2]とした。
【0028】
図9の試験結果からわかるように、強制汚染後は、平均値、最大値のいずれにおいても、シリコン窒化膜の膜厚が5[nm]以下の場合は表面において銅原子が検出され、ゲッタリング効果がないかまたは不十分であることが確認された。一方、シリコン窒化膜の膜厚が6[nm]以上の場合は、表面において銅原子が検出されず、ゲッタリング効果が十分であることが確認された(
図9におけるNDは、銅原子が検出されなかったことを示す)。したがって、十分なゲッタリング効果を確保するためには、シリコン窒化膜の膜厚を6[nm]以上とすることが必要であると考えられる。また、
図9の結果からは、シリコン窒化膜の膜厚が厚い方がゲッタリング効果が良好であることがわかる。
【0029】
(2)抗折強度試験
図10に示すように、ウェーハWFは、チップ番号1〜61からなる61個のチップによって構成されている。このようなウェーハWFについて、上記シリコン窒化膜被覆ステップを実行した後、チップごとに抗折強度を測定した。なお、シリコン窒化膜被覆ステップでは、膜厚を0,5,10,50,100,200nmとした。抗折強度測定の具体的な方法は、以下のとおりである。
【0030】
(オ)分割ステップ
切削装置を用いてウェーハの分割予定ラインに沿って切削を行い、
図10に示した個々のチップ1〜61に分割した。
【0031】
(カ)抗折強度測定ステップ
株式会社島津製作所製の圧縮試験機 (AGI−1kN9)を使用し、各チップの抗折強度を測定した。具体的な測定方法は、以下のとおりである。
(カ)−1
図11及び
図12に示すように、中央部に円形の孔110が形成された基台111の上に、各チップ1〜61をそれぞれ載置する。このとき、シリコン窒化膜が下になるようにする。
(カ)−2
球面を有する球状圧子112によって各チップ1〜61に下方(矢印A5方向)に向けて押圧する。
(カ)−3
各チップ1〜61が割れた瞬間において、以下の式(1)を用いて抗折強度δを算出する。
【0032】
【数1】
【0033】
上記式(1)において、各変数の意味及び値は以下のとおりである(
図12参照)。
∂:抗折強度
W:破壊強度(測定時に得られた値)[kgf]
h:チップの厚さ=500[μm]
v:ポアソン比(シリコン)=0.28
a:孔の半径=3.5[mm]
a
0:チップの半径=10[mm]
v
2:ポアソン比(球状圧子)=0.3
【0034】
また、上記式(1)において、a
1は球状圧子112とチップとの接触半径であり、以下の式(2)を用いて算出する。
【0035】
【数2】
【0036】
上記式(2)において、各変数の意味及び値は以下のとおりである。
ε
1:ヤング率(シリコン)=1.31×10
5[MPa]
ε
2:ヤング率(球状圧子)=2.01×10
4[MPa]
R:球状圧子の半径=3.0[mm]
【0037】
すべてのチップについて上記式(1)による抗折強度の算出を行い、各膜厚ごとに最大値、平均値及び最小値を求めた。
図13に示すように、抗折強度の最低ライン(最低限必要な抗折強度の許容値)を1000[MPa]とすると、最低値が1000[Mpa]を超える膜厚は、0〜100[nm]である。一方、膜厚が200[nm]のときは、最低値が1000[MPa]を下回っている。
【0038】
(3)最適な膜厚について
図9に示したゲッタリング効果試験の結果より、既に述べたとおり、十分なゲッタリング効果を確保するためには、シリコン窒化膜の膜厚を6[nm]以上とすることが必要である。一方、許容値を超える十分な抗折強度を確保するためのシリコン窒化膜の膜厚は、0〜100[nm]である。したがって、十分なゲッタリング効果を得ることができ、かつ、抗折強度も十分とするためには、シリコンウェーハの裏面に被覆されたシリコン窒化膜の膜厚を、6〜100[nm]とすることが必要であることが確認された。