特許第5793624号(P5793624)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793624エネルギー低消費の塩化ビニル系ラテックス及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793624
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】エネルギー低消費の塩化ビニル系ラテックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20150928BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08L27/06
   C08F2/18
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-537016(P2014-537016)
(86)(22)【出願日】2013年9月16日
(65)【公表番号】特表2014-529004(P2014-529004A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】KR2013008379
(87)【国際公開番号】WO2014046445
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2014年3月25日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0104321
(32)【優先日】2012年9月20日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0110866
(32)【優先日】2013年9月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒュン スプ
(72)【発明者】
【氏名】ファン、ウ スン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ハン ホン
【審査官】 繁田 えい子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−076413(JP,A)
【文献】 特開昭56−157444(JP,A)
【文献】 特開2000−281716(JP,A)
【文献】 特開2000−281717(JP,A)
【文献】 特開昭63−006008(JP,A)
【文献】 特開2004−224838(JP,A)
【文献】 特開昭60−163906(JP,A)
【文献】 特公昭30−007097(JP,B1)
【文献】 特開昭55−066907(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
C08F 2/00 − 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)塩化ビニル系単量体100重量部及び重合水40〜55重量部の重合を開始する工程と、
(b)重合末期に重合水5〜20重量部を追加投入する工程とを含むことを特徴とする、塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項2】
前記重合末期は、重合転化率65〜75%の地点であることを特徴とする、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程の重合水と(b)工程の重合水との重量比は、3.5:1〜5:1であることを特徴とする、請求項1または2に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【請求項4】
前記(b)工程は、重合水の投入後にも重合が進行することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂ラテックスに係り、より詳細には、初期に投入される重合水を減少させた後、重合を進行し、追加重合水の投入を通じてラテックスの固形分含量を高め、水分含量を低くして、最終的に噴霧乾燥工程の過程で画期的なエネルギー低減効果を示すポリ塩化ビニルラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
ペースト塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体単独、または塩化ビニル単量体と、それと共重合可能な単量体との混合物(これらを合わせて塩化ビニル系単量体という)を、水性媒体中で乳化剤、そして油溶性重合開始剤を添加して均質化した後、微細懸濁重合を行う。必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸などの補助分散剤を用いてもよい。
【0003】
他の重合法として、前記塩化ビニル系単量体を水性媒体中で乳化剤、水溶性開始剤を添加し、乳化重合やシード乳化重合を行う。シード乳化重合では、平均粒径が異なる2種類のシードを重合初期に投入して、塩化ビニル単量体がシードと反応しながら成長して、最終ラテックス粒子を製造する。ペースト塩化ビニル系樹脂の重合において、使用された塩化ビニル系単量体は、一般に80〜98重量%がペースト塩化ビニル系樹脂となり、残りの未反応の単量体が除去された後、ラテックス状態で得るようになる。ペースト塩化ビニル系樹脂は、ラテックスをスプレードライヤーで噴霧乾燥を通じて得られる。乾燥過程でラテックス内の50重量%以上の水を蒸発させるために、200℃の高い温度のスチームが必要である。比熱が高い多量の水を蒸発させるために、高価な高い温度の多くのスチーム量が必要となるため、固形分を高めることはエネルギー低減に非常に効果的である。従来は、ラテックスの固形分を高めるために、ラテックス濃縮過程を用いる方法を使用しており、分離膜を用いて水を取り出すことで、ラテックスの固形分を高める方法である。しかし、上記の濃縮工程の方法は、初期投資費用が高いだけでなく、固形分含量を3重量%以上高めることが難しく、分離膜を頻繁に交換及び掃除しなければならないため、多くの維持費用がかかり、非常に非効率的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来技術の問題点を解決するための本発明の目的は、低い水分含量を有する塩化ビニル系ラテックス及びその製造方法を提供するものである。
【0005】
本発明の上記目的は、下記に説明する本発明によって全て達成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、水分含量が40〜48重量%であることを特徴をする塩化ビニル系樹脂ラテックスを提供する。
【0007】
前記水分は、一例として、重合完了直後の残留重合水である。
【0008】
前記水分含量は、一例として、150℃30分間で失われる水分含量である。
【0009】
また、本発明は、塩化ビニル系樹脂ラテックスを噴霧乾燥することにより調製されたことを特徴とするペースト塩化ビニル系樹脂を提供する。
【0010】
また、本発明は、(a)塩化ビニル系単量体100重量部及び重合水40〜55重量部の重合を開始する工程と;(b)重合末期に重合水5〜20重量部を追加投入する工程と;を含むことを特徴とする塩化ビニル系樹脂ラテックスの製造方法を提供する。この場合、重合が安定的に進み、ヒートキックの発生が抑制され、重合終了後のラテックスの高温乾燥過程が短縮されてエネルギーが大きく低減され、物性が変質しないという効果がある。
【0011】
前記(a)工程の重合水は、一例として、40〜50重量部または40〜45重量部を含むことができ、この範囲内で、重合が安定的に進み、重合終了後のラテックスの高温乾燥過程が短縮されてエネルギーが大きく低減され、物性が変質しないという効果がある。
【0012】
前記(b)工程の重合水は、一例として、5〜15重量部、または5〜10重量部を投入することができ、この範囲内で、重合が安定的に進み、ヒートキックの発生が抑制され、重合終了後のラテックスの高温乾燥過程が短縮されてエネルギーが大きく低減され、物性が変質しないという効果がある。
【0013】
前記(b)工程の重合水は、一例として、一括投入や連続投入、または1分当り0.1〜0.5重量部、または0.2〜0.3重量部を投入することができ、この範囲内で、除熱がうまく行われ、重合が安定的に進むという効果がある。
【0014】
前記重合末期は、一例として、重合転化率65〜75%、または67〜75%の地点であり、この範囲内で、重合終了後のラテックスの高温乾燥過程が短縮されてエネルギーが大きく低減され、物性が変質しないという効果がある。
【0015】
前記(a)工程の重合水と(b)工程の重合水との重量比は、一例として、3.5:1ないし5:1、4:1ないし5:1、または4:1ないし4.5:1であり、この範囲内で、重合反応が安定的に進み、重合終了後のラテックスの高温乾燥過程が短縮されてエネルギーが大きく低減され、物性が変質しないという効果がある。
【0016】
前記(b)工程は、一例として、重合水の投入中にも重合が終結せずに進行する。
【0017】
本発明は、ペースト塩化ビニル系樹脂に係り、重合に使用される重合水の投入比率及び時点を調節することによって、低い水分含量を有するポリ塩化ビニルラテックスを製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るペースト塩化ビニル系樹脂用塩化ビニル系ラテックスの製造方法は、初期に投入される重合水を減少させた後、重合を進行し、重合末期に、初期に減少させた重合水の一定量を一定時間の間投入する。したがって、本発明は、重合末期に発生するゲル効果によるヒートキックを減少させるだけでなく、ラテックスの重合安定性も付与できるようになり、ラテックスの水分含量を4%以上低くすることができるようになった。また、本発明は、初期重合水を減少させることによって、塩化ビニル単量体及び副原料の濃度の増加により初期反応性が増大して、活性化剤(activator)の投入量が減少する効果も得ることができた。最終的に、本発明は、スプレードライヤーを用いた乾燥工程の過程で画期的なエネルギー低減を可能にした。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明によれば、水分含量が40〜48重量%である塩化ビニル系樹脂ラテックスを提供する。
【0020】
前記塩化ビニル系樹脂ラテックスは、噴霧乾燥(spray drying)によるペースト塩化ビニル系樹脂の製造に使用される。
【0021】
前記塩化ビニル系樹脂ラテックスは、(a)重合水を、重合開始前に投入される単量体総100重量部を基準として、40〜55重量部を投入して重合し、(b)その後、重合末期に、塩化ビニル系単量体100重量部を基準として、5〜20重量部を投入して製造される。具体的には、初期に、重合に使用される総重合水を基準として、重合水67〜92重量%を投入し、重合末期に8〜33重量%を投入して塩化ビニル系樹脂ラテックスを製造する。
【0022】
少なすぎる量の重合水を使用する場合、熱制御能力が低下して、反応コントロールが難しく、ラテックスの安定性低下を誘発し得る。多すぎる量の重合水を使用する場合、水分含量の減少を期待しにくい。重合末期に投入される重合水は、末期温度上昇を防止するために、5重量部以上の重合水を投入しなければならない。これもまた、20重量部を超える多量の重合水を投入する場合には、重合温度の低下のため、重合が強制的に終了し得る。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
ペースト塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル単量体単独、または塩化ビニル単量体と、それと共重合可能な単量体との混合物(これらを合わせて塩化ビニル系単量体という)を、水性媒体中で乳化剤、そして油溶性重合開始剤を添加して均質化した後、微細懸濁重合を行う。必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸などの補助分散剤を用いてもよい。
【0025】
他の重合法として、前記塩化ビニル系単量体を、水性媒体中で乳化剤、水溶性開始剤を添加し、乳化重合やシード(seed)乳化重合を行う。
【0026】
シード乳化重合法では、平均粒径が異なる2種類のシードを重合初期に投入して、塩化ビニル単量体がシードと反応しながら成長して、最終ラテックス粒子を製造する。
【0027】
第1のシードは、塩化ビニル系単量体、乳化剤、油溶性開始剤を添加し、ローターステータ(rotor-stator)タイプのホモジナイザーポンプを用いて均質化した後、重合して製造したもので、平均粒径が0.4〜1.5μm程度であり、第2のシードは、乳化重合で製造し、平均粒径が0.1〜0.4μm程度である。この場合にも、必要に応じて、高級アルコール、高級脂肪酸などの補助分散剤を用いてもよい。
【0028】
ペースト塩化ビニル系樹脂の重合において、使用された塩化ビニル系単量体は、一般に80〜98重量%がペースト塩化ビニル系樹脂となり、残りの未反応の単量体は除去する。
【0029】
重合後のペースト塩化ビニル系樹脂のラテックスを噴霧乾燥を通じて得られる。乾燥の際に、一般的に脱水、ろ過などを行わないため、乳化剤、活性化剤などの原料は樹脂ラテックス中に残留する。
【0030】
本発明は、塩化ビニル系ラテックスの重合において、エネルギー低減のために、低い水分含量を有するポリ塩化ビニルラテックスを製造する方法に関する。
【0031】
本発明は、初期に投入される重合水を減少させた後、重合を進行し、重合末期に、初期に減少させた重合水を、一定時間の間一定量を投入する。したがって、上記の発明は、重合末期に発生するゲル効果(gel effect)によるヒートキック(heat kick)を減少させるだけでなく、ラテックスの重合安定性も付与できるようになり、最終的にラテックスの水分含量を減少させることができる。
【0032】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であるということは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然なものである。
【0033】
[実施例]
<実施例1>
500Lの高圧反応器に、初期重合水40重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を57.5℃に昇温させ、1時間重合後、温度を51.5℃に下げて、重合中に重合温度が54.5℃である時点(重合転化率65〜75%の地点)で追加重合水10重量部を投入した。その後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして得られた塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0034】
<実施例2>
500Lの高圧反応器に、初期重合水40重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を54℃に昇温させ、重合中に重合温度が57℃である時点(重合転化率65〜75%の地点)で追加重合水10重量部を投入した。その後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして得られた塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0035】
<実施例3>
500Lの高圧反応器に、初期重合水45重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を55℃に昇温させ、重合中に重合温度が58℃である時点(重合転化率65〜75%の地点)で追加重合水10重量部を投入した。その後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして得られた塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0036】
<比較例1>
500Lの高圧反応器に、初期重合水65重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を57.5℃に昇温させ、1時間重合後、温度を51.5℃に下げて重合を行った後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0037】
<比較例2>
500Lの高圧反応器に、初期重合水72重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を54℃に昇温させ、重合後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0038】
<比較例3>
500Lの高圧反応器に、初期重合水73.5重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を55℃に昇温させ、重合後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0039】
<比較例4>
500Lの高圧反応器に、初期重合水50重量部、塩化ビニル単量体100重量部を投入した後、反応器の温度を57.5℃に昇温させ、1時間重合後、温度を51.5℃に下げて重合を行った後、反応器圧力3.5kg/cm3に到達して反応を終結した。このようにして得られた塩化ビニル系ラテックスを噴霧乾燥機で乾燥して、塩化ビニル系樹脂を収得した。
【0040】
[試験例]
前記実施例及び比較例のポリ塩化ビニルラテックスの物性を測定して、下記の表1、2に示した。使用された測定方法は、次の通りである。
【0041】
1)水分含量
オーブンで150℃、30分間加熱して、残った固形分の重量変化を測定した後、100から固形分の重量を差し引いて計算した。
【0042】
2)ラテックス安定性
ラテックス220gにEDC(ethylene dichloride)20mlを投入し、撹拌機を用いて1000rpmで撹拌して、ラテックスの凝集にかかる時間を測定した。このとき、重合が安定的に進む場合、ラテックス安定性に優れる。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
上記実施例1乃至3による塩化ビニル系樹脂ラテックスは、比較例1乃至3に比べて、重合水の投入総量が減少するだけでなく、ラテックスの水分含量を最大4%以上低下させることができるので、最終ラテックスの乾燥にかかるスチーム費用を画期的に減少させることができた。
【0046】
用途に応じて様々な温度で重合を実施し、重合温度に関係なく、技術適用を通じて水分含量を減少させることができ、全ての場合においてアスコルビン酸(ascorbic acid)の使用量が減少することを確認することができる。
【0047】
なお、比較例4の場合には、重合末期にブローダウン過程でラテックスの凝集が発生して、水分含量を測定できなかった。したがって、初期重合水のみを50重量部以下で投入する場合には、正常な塩化ビニル系樹脂ラックテックスを収得できないことを確認することができた。