特許第5793824号(P5793824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5793824有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を含む熱硬化性組成物、および光半導体用封止材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793824
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物、該有機ケイ素化合物を含む熱硬化性組成物、および光半導体用封止材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/14 20060101AFI20150928BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20150928BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 183/14 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20150928BHJP
   C09D 183/05 20060101ALI20150928BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20150928BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20150928BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08L83/14
   C08L83/07
   C08L83/05
   C09D183/14
   C09D183/07
   C09D183/05
   H01L33/00 424
   H01L23/30 F
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2009-133518(P2009-133518)
(22)【出願日】2009年6月2日
(65)【公開番号】特開2010-280766(P2010-280766A)
(43)【公開日】2010年12月16日
【審査請求日】2012年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】猪木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】川畑 毅一
(72)【発明者】
【氏名】田島 晶夫
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝志
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/081084(WO,A1)
【文献】 特開2006−022207(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/119627(WO,A1)
【文献】 特開2007−031619(JP,A)
【文献】 特開2005−290352(JP,A)
【文献】 特開2009−298908(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/119253(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/084562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00− 77/62
C08L 83/00− 83/16
C09D183/00−183/16
C09K 3/10
H01L 23/28−23/31
H01L 33/53−33/56
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(1−a)で表される構成単位と、式(1−b)で表される構成単位とからなる液状有機ケイ素化合物を熱硬化性組成物中30重量%以上、及び(B)両末端にビニル基を有する直鎖ポリシロキサン又は末端に2個以上ビニル基を持つ分岐ポリシロキサンを熱硬化性組成物中1〜70重量%、を含有する熱硬化性組成物
【化1】


上記式(1−a)中、R1はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、式(1−b)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、nは2〜50の整数である。ここで、式(1−a)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をαとし、式(1−b)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をβとした場合に、αとn×βの比(α:n×β)が1:3〜1:100を満たす。
【請求項2】
(A)式(2−a)で表される化合物と式(2−b)で表される化合物とを、ヒドロシリル化反応することで得られる液状有機ケイ素化合物を熱硬化性組成物中30重量%以上、及び(B)両末端にビニル基を有する直鎖ポリシロキサン又は末端に2個以上ビニル基を持つ分岐ポリシロキサンを熱硬化性組成物中1〜70重量%、を含有する熱硬化性組成物。
ただし、式(1−a)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をαとし、式(1−b)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をβとした場合に、下記関係式を満たす。
α:n×β=1:3〜1:100
【化2】

【化3】

上記式(2−a)又は(1−a)中、R1はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、式(2−b)又は(1−b)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、nは2〜50の整数である。
【請求項3】
更に(C)白金触媒を含有する請求項1又は2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
更に(D)両末端にSiH基を有する直鎖ポリシロキサン、側鎖に2個以上SiH基を持つ直鎖ポリシロキサン又は末端に2個以上SiH基を持つ分岐ポリシロキサンから選択される少なくとも1つを有するケイ素化合物を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
更にシリカ及び/又は蛍光体を分散させた、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の熱硬化性組成物を熱硬化させてなる硬化物。
【請求項7】
請求項記載の硬化物を成形して得られる成形体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化性組成物を塗布してなる塗膜。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化性組成物からなる、光半導体用封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物、および該化合物を含む、光学材料、電気絶縁材料などの用途に有用な熱硬化性組成物、これを熱硬化させた硬化物、並びにこれを用いた光半導体用の封止材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光ダイオード(LED)等の発光装置は、種々の表示板、画像読み取り用光源、交通信号、大型ディスプレイ用ユニット、携帯電話のバックライト等に実用化されている。これら発光装置は、芳香族エポキシ樹脂と硬化剤である脂環式酸無水物とを硬化させて得られた硬化性樹脂で封止されているのが一般的である。しかし、この芳香族エポキシ樹脂系では脂環式酸無水物が酸で変色しやすいことや、硬化するまでに長時間を要することが問題として知られている。また、発光装置が屋外に放置される場合や、紫外線を発生する光源に曝される場合に、封止した硬化性樹脂が黄変するという問題を有している。
【0003】
このような問題を解消するために、脂環式エポキシ樹脂またはアクリル樹脂と、カチオン重合開始剤とを用いた硬化性樹脂でLED等を封止する方法が試みられている(特許文献1および2を参照)。しかし、上記カチオン重合した硬化性樹脂は、非常に脆く、冷熱サイクル試験(ヒートサイクル試験ともいう。)により亀裂破壊を生じやすい欠点を有している。また、この硬化性樹脂は、従来の芳香族エポキシ樹脂と酸無水物とを用いる硬化性樹脂と比べて、硬化後の封止した硬化性樹脂の着色が著しいという欠点を有している。そのため、この硬化性樹脂は、無色透明性を要求される用途、特に耐熱性と透明性が要求されるLEDの封止用途には不向きである。
【0004】
そこで、冷熱サイクル試験による亀裂破壊の発生が改良され、耐光性に優れたLED封止材用樹脂組成物が検討されている(特許文献3を参照)。ここに示された樹脂組成物は、水素化エポキシ樹脂や脂環式エポキシ樹脂をマトリックス成分とするものではあるが、未だ硬化後の着色が大きく更なる変色に対する改善が望まれている。
【0005】
一方、白色LEDが照明等の用途に用いられ、その大出力化に伴いLEDパッケージの発熱が無視できなくなっている。エポキシ樹脂を封止材料に用いた場合にはその発熱による黄変が避けられなくなったため、エポキシ樹脂に代わってシリコーン樹脂が白色LEDの封止材料に用いられてきている。LEDに用いられるシリコーン樹脂は大きく分けて、フェニルシリコーン樹脂、メチルシリコーン樹脂の2種類に分けられる。一般的に用いられているフェニルシリコーン樹脂は、屈折率は満足するものである一方、耐熱性についてはエポキシ樹脂よりは優れているものの、LEDの大出力化に対応するには十分ではない。もう一方のメチルシリコーン樹脂は、耐熱性・耐候性は非常に優れているものの、屈折率が低いためLEDの光取り出し効率が悪いという欠点がある。さらに硬化したメチルシリコーン樹脂は非常に脆く、冷熱サイクル試験により亀裂破壊を生じやすい欠点や、LED基板に用いられるポリアミド樹脂との接着性がエポキシ樹脂等に比較して弱い、という欠点がある。
【0006】
そのため、白色LEDの大出力化に対応できる、高屈折率、耐熱性等の特性を両立させた封止材料、およびそれに用いられる熱硬化性組成物が求められていた。
【0007】
一方、特許文献4〜8には、かご型ケイ素化合物およびその重合体が開示されているが、いずれも固体もしくは結晶であることから、LED等の成形用途に対応するためには、これらを溶解するための溶媒を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭61−112334号公報、
【特許文献2】特開平02−289611号公報
【特許文献3】特開2003−277473号公報
【特許文献4】特開2006−070049号公報
【特許文献5】国際公開WO2004/081084号パンフレット
【特許文献6】特開2004−331647号公報
【特許文献7】国際公開WO2003/24870号パンフレット
【特許文献8】国際公開WO2004/24741号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、屈折率が高く、透明性、耐熱性が良好な硬化物を得ることができる熱硬化性組成物を提供することを課題の一つとし、また、この熱硬化性組成物に含有させる液状有機ケイ素化合物、熱硬化性組成物からなる硬化物、成形体、および発光ダイオード用などの封止材料を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ダブルデッカー型のケイ素化合物の構造を含み、固体ではないために溶媒が必要ない、液状の有機ケイ素化合物の合成に成功し、さらに該化合物と硬化剤とを含む熱硬化性組成物の硬化物が、透明性、耐熱性などに優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の構成を有する。
【0011】
[1]式(1−a)で表される構成単位と、式(1−b)で表される構成単位とからなる液状有機ケイ素化合物。
【化1】
上記式(1−a)中、R1はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、式(1−b)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、nは2〜50の整数である。ここで、式(1−a)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をαとし、式(1−b)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をβとした場合に、αとn×βの比(α:n×β)が1:3〜1:100を満たす。
[2]式(2−a)で表される化合物と、式(2−b)で表される化合物とを、ヒドロシリル化反応することで得られる液状有機ケイ素化合物の製造方法であって、式(2−a)で表される化合物の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をαとし、式(2−b)で表される化合物の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をβとした場合に、下記関係式を満たす液状有機ケイ素化合物の製造方法。
α:n×β=1:3〜1:100
【化2】
上記式(2−a)中、R1はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、式(2−b)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、nは2〜50の整数である。
[3](A)[1]に記載の液状有機ケイ素化合物又は[2]に記載の製造方法により製造された液状有機ケイ素化合物、と(B)ビニル基を2個以上有するケイ素化合物、とを含有する熱硬化性組成物。
[4]更に(C)白金触媒を含有する[3]記載の熱硬化性組成物。
[5]更に(D)末端に2個以上SiH基を有するケイ素化合物を含有する[3]または[4]に記載の熱硬化性組成物。
[6]更にシリカ及び/又は蛍光体を分散させた、[3]〜[5]のいずれか1項記載の熱硬化性組成物。
[7][3]〜[6]のいずれか1項記載の熱硬化性組成物を熱硬化させてなる硬化物。[8][7]記載の硬化物を成形して得られる成形体。
[9][3]〜[6]のいずれか1項記載の熱硬化性組成物を塗布してなる塗膜。
[10][3]〜[6]のいずれか1項記載の熱硬化性組成物からなる、光半導体用封止材。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機ケイ素化合物は、液状であることから、利用する場合に、溶媒を用いる必要がない。さらに本発明の熱硬化性組成物を用いて得られた硬化物は、高透明、高屈折率の特性を持ち合わせており、従来のフェニルシリコーン系封止材と比較して、耐熱性に優れ、さらに接着強さにも優れている。また、この硬化物はダブルデッカー型のシルセスキオキサンの骨格を有することから、絶縁性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<本発明の有機ケイ素化合物>
本発明の有機ケイ素化合物は、式(1−a)で表される構成単位と、式(1−b)で表される構成単位とからなる。
【化3】
【0014】
上記式(1−a)中、R1はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基であり、式(1−b)中、R2及びR3はそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル、シクロペンチル、シクロヘキシルから選択される基である。R1、R2及びR3は、メチル、エチル、プロピルが好ましく、メチルであることがより好ましい。また、R1、R2及びR3は、得られる有機ケイ素化合物が液状となる範囲内であれば、フェニルに置き換えられていてもよい。nは2〜50の整数である。ここで、式(1−a)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をαとし、式(1−b)で表される構成単位の液状有機ケイ素化合物中のモル分率をβとした場合に、αとn×βの比(α:n×β)が1:3〜1:100を満たす。
【0015】
本発明の有機ケイ素化合物は、式(2−a)で表される化合物(シルセスキオキサン誘導体)と式(2−b)で表される化合物(両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン)とを、ヒドロシリル化反応することで得られる。
【化4】
【0016】
上記式(2−a)で表される化合物と式(2−b)で表される化合物とのヒドロシリル化反応は、公知の方法が使用でき、溶媒中で反応を行うことが好ましい。
ヒドロシリル化反応に用いる溶剤は、反応の進行を阻害しないものであれば特に制限されない。好ましい溶剤は、ヘキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチルなどのエステル系溶剤などである。これらの溶剤は単独で使用しても、その複数を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤の中でも、芳香族炭化水素系溶剤、その中でもトルエンが最も好ましい。
【0017】
ヒドロシリル化反応は、室温、常圧で実施することができ、反応を促進させるために加熱してもよい。反応による発熱または好ましくない反応等を制御するために冷却してもよい。ヒドロシリル化反応では、必要に応じて触媒を用いることができる。ヒドロシリル化触媒を添加することによって、反応をより容易に進行させることができる。好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karsted’t)触媒、スパイヤー(Spier)触媒、ヘキサクロロプラチニック酸などであり、これらは一般的によく知られた触媒である。これらのヒドロシリル化触媒は、反応性が高いので少量添加すれば十分に反応を進めることができる。その使用量は、触媒に含まれる遷移金属のヒドロシリル基に対する割合で、10-9〜1モル%である。好ましい添加割合は10-7〜10-3モル%である。
【0018】
本発明の有機ケイ素化合物は、液状であることに特徴を有する。従来知られている有機ケイ素化合物やその重合体は固体状態や結晶状態であった。そのため、硬化物とする際には、容易に成形が可能とするために、一度、有機ケイ素化合物を溶媒に溶解させて、ビニル基を2個以上有するケイ素化合物と混合し、さらに触媒を含有させたうえで、基材等に塗布してから熱硬化させることにより塗膜を成形体とするか、鋳型に流し込んでから熱硬化させることで成形体とする必要があった。そのため、成形体に溶媒が必ず含まれることとなり、溶媒の存在が不都合となる用途に用いることはできなかった。しかしながら本発明の有機ケイ素化合物は液状であるために、溶媒に溶解させる必要がないことから、様々な用途に用いることができ、さらに硬化物を成形することが容易となる。
【0019】
本発明の有機ケイ素化合物は、液状とするために、架橋を抑制することで構造を制御している。具体的には、上記式(1−a)、式(1−b)または、上記式(2−a)、式(2−b)におけるα、βは、液状有機ケイ素化合物中のそれぞれの構成単位のモル分率を表し、αとn×βの比(α:n×β)が1:3〜1:100であることで、液状の有機ケイ素化合物とすることができ、また熱硬化性組成物とした際に、硬化物の屈折率が高く、透明性、耐熱性(耐熱黄変性、耐熱透明性)に優れる。本発明で液状とは、25℃において流動性があることをいい、具体的には、粘調液体、水アメ状物質などである。水アメ状物質の場合には、流動性を上げるために60℃程度に暖めて、硬化性組成物の調製に用いてもよい。また、αは2〜20であることが好ましく、βはαを1としたとき1〜2であることが好ましい。上記比においてn×βが3より小さい場合には、液状とはならない。また、100を超える場合には、熱硬化性組成物とした場合に所望の効果が発揮されない。
【0020】
上記(α:n×β)は、構造の制御の観点や、硬化物とした際の優れた特性を顕著とさせる観点から、1:3〜1:75であることが好ましく、1:3〜1:50であることが更に好ましく、1:3〜1:25であることがより一層好ましい。また、本発明の液状有機ケイ素化合物の分子量は重量平均分子量(Mw)で3,000〜100,000であることが好ましい。
【0021】
また、本発明の有機ケイ素化合物は、該化合物を含有する熱硬化性組成物を調製して硬化させた硬化物が屈折率、透明性、耐熱性(耐熱黄変性、耐透明性)に優れており、従来使用されていたフェニルシリコーン樹脂やメチルシリコーン樹脂からなる硬化物の欠点が改善された、優れた硬化物の原料である。
LED等に用いる場合には、硬化物の屈折率は、1.4以上であれば特に問題なく利用でき、好ましくは、1.49以上であり、上限は特に制限されない。
【0022】
上記式(2−a)で表される化合物であるシルセスキオキサン誘導体は、例えば国際公開2004/024741号パンフレットに開示されている方法により合成することができる。式(2−a)で表される化合物の例(以下DD−4Hと表記する。)を示す。
【化5】
【0023】
上記式(2−b)で表される化合物である両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサンは、公知の方法により合成することができ、また市販の化合物を用いてもよい。式(2−b)で表される化合物としては、例えば以下の構造で表される1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(DVDS)を用いて製造することができる。その他1,3−ジビニル−1,3−ジメチル−1,3−ジフェニルジシロキサン、などが例示できる。また、式中のnの値は、2〜50の整数であり、2〜30であることが好ましい。上記式中のnの値は、合成する際の原料(例えばDVDSとオクタメチルシクロテトラシロキサン)のモル比を適宜調整することで調整することができる。
【化6】
【0024】
本発明の熱硬化性組成物は、(A)式(1−a)で表される構成単位と式(1−b)で表される構成単位とからなる液状有機ケイ素化合物、または上記式(2−a)で表される化合物と上記式(2−b)で表される化合物とをヒドロシリル化反応することで得られる液状有機ケイ素化合物、と(B)ビニル基を2個以上有するケイ素化合物、とを含有する。該熱硬化性組成物に、さらに(C)硬化触媒を加え、加熱することで、硬化物となる。また、上記熱硬化性組成物に、(D)末端に2個以上SiH基を有するケイ素化合物を更に含有することも好ましい態様である。
【0025】
上記(B)ビニル基を2個以上有するケイ素化合物は、架橋用のビニル基を2個以上有するケイ素化合物であれば特に限定はされず、例えば両末端にビニル基を有する直鎖ポリシロキサンや末端に2個以上ビニル基を持つ分岐ポリシロキサンを用いることができる。具体的には、1,1,3,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,1,5,5−ジビニルヘキサメチルトリシロキサン、両末端にビニル基を持つ直鎖状ポリシロキサン、T構造を持ち末端ビニル基を持つ分岐ポリシロキサンなどが挙げられ、分子量が150〜10,000、好ましくは分子量が200〜5,000の化合物を用いることが好ましい。上記(B)のビニル基を2個以上有するケイ素化合物は、1種類でも、異なる2種類以上の化合物をブレンドして使用してもよい。
また、(D)末端に2個以上SiH基を有するケイ素化合物は、架橋用のSiH基を2個以上有するケイ素化合物であれば特に限定はされず、例えば両末端にSiH基を有する直鎖ポリシロキサンや、側鎖にSiH基を持つ直鎖ポリシロキサン、末端に2個以上SiH基を持つ分岐ポリシロキサンを用いることができる。具体的には、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン、両末端にSiH基を持つ直鎖状ポリシロキサン、T構造を持ち末端SiH基を持つ分岐ポリシロキサンなどが挙げられ、分子量が150〜10,000、好ましくは分子量が200〜5,000の化合物を用いることが好ましい。末端に2個以上SiH基を有するケイ素化合物は、1種類でも、異なる2種類以上の化合物をブレンドして使用してもよい。
これらの分子量は、GPCで測定できる範囲の場合には、重量平均分子量であり、GPCで測定できない低分子量の場合には、化合物の構造から算出した分子量である。
本発明の熱硬化性組成物中、上記化合物(A)の含有量は、耐熱性の観点から、(A)、(B)及び(D)の全量に対し30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがより一層好ましい。また、上記(B)の含有量は、(A)、(B)及び(D)の全量に対し1〜70重量%であることが好ましく、3〜60重量%であることがより好ましく、5〜50重量%であることがより一層好ましい。本発明の熱硬化性組成物中、SiH基合計とビニル基合計の含有比はSiH基とビニル基の官能基モル比で1:2〜2:1であることが好ましい。
【0026】
上記(C)硬化触媒は、通常、反応触媒として用いられる遷移金属触媒であれば特に限定されないが、白金触媒を用いることが好ましい。白金触媒の例としては、通常のヒドロシリル化触媒が選択できる。好ましいヒドロシリル化触媒の例は、カルステッド(Karsted’t)触媒、スパイヤー(Spier)触媒、ヘキサクロロプラチニック酸などである。
その使用量は、触媒に含まれる遷移金属の、熱硬化性組成物に対する重量比で、0.1ppm〜10ppmである。添加割合が0.1ppm以上であれば、硬化が良好である。また添加割合が10ppm以下であれば、熱硬化性組成物調製後のポットライフが短くなりすぎることがなく、好適に使用でき、また得られる硬化物の着色も生じにくい。好ましい添加割合は0.5ppm〜4ppmである。
【0027】
本発明の熱硬化性組成物は溶媒を必要としない。既に述べたように、ポリシルセスキオキサンは固体状であるが、本発明の有機ケイ素化合物は液状である。即ち、ビニル基を2個以上有するケイ素化合物が固体であったとしても、本発明の組成物も液状となる。本発明の熱硬化性組成物は、溶媒の混入が好まれない用途に使用することができるため、用途が大幅に拡がる。
【0028】
本発明の熱硬化性組成物には、更に下記成分を配合してもよい。
(i)粉末状の補強剤や充填剤、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカなどのケイ素化合物、ガラスビーズ等の透明フィラー、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、その他、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン等。これらは、好ましくは、本発明の熱硬化性組成物の透明性を損なわない範囲で配合される。これらを配合するときの好ましい割合は、本発明の熱硬化性組成物全量に対する重量比で、0.1〜0.6の範囲である。
(ii)着色剤または顔料、例えば、二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等。
(iii)難燃剤、例えば、三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等。
(iv)イオン吸着体。
上記(ii)〜(iv)の成分を配合するときの好ましい割合は、熱硬化性組成物全量に対する重量比で0.0001〜0.30である。
(v)シランカップリング剤。
(vi)ジルコニア、チタニア、アルミナ、シリカなどの金属酸化物のナノ粒子分散液。
上記(v)〜(vi)の成分を配合するときの好ましい割合は、熱硬化性組成物全量に対する重量比で0.01〜0.50である。
(vii)フェノール系、硫黄系、リン系などの酸化防止剤。硬化促進剤を使用するときの好ましい割合は、本発明の熱硬化性組成物全量に対する重量比で、0.0001〜0.1の範囲である。
(viii)耐光性を向上させるための紫外線吸収剤。硬化促進剤を使用するときの好ましい割合は、本発明の熱硬化性組成物全量に対する重量比で、0.0001〜0.1の範囲である。
【0029】
本発明の熱硬化性組成物は、例えば以下の方法で作製できる。(A)本発明の有機ケイ素化合物、(B)少なくとも両末端にビニル基を有するケイ素化合物、(C)硬化触媒、さらには必要に応じて上記任意成分を攪拌し混合した後、減圧して脱泡する。そしてこの混合物を型に流し込み、100℃で1時間加熱し、最後に150℃で1〜2時間加熱することで硬化させることができる。
【0030】
硬化物の耐熱性は、耐熱透明性と耐熱黄変性を評価する。耐熱透明性は、耐熱試験前後の硬化物の透過率を紫外可視分光光度計で測定し、その光線透過率の保持率により評価した。また、耐熱黄変性は、耐熱試験前後の硬化物の黄色度(YI値)の保持率により評価した。180℃での黄色度(YI値)及び光線透過率の保持率が、それぞれ5以下、90%以上であることが好ましい。これらの範囲内にそれぞれの値が入る場合には、硬化物は、無色で透明性が高いことを示しており、透明性が要求されるような光半導体封止剤などの分野に特に好ましく利用できる。
本発明の熱硬化性組成物を熱硬化させてなる硬化物の、耐熱透明性に非常に良好な特性は、前記式(2−a)で表される化合物であるシルセスキオキサン誘導体の構造に起因している。すなわち、ダブルデッカー型シルセスキオキサン骨格は、その立体構造により、通常のランダム構造であるシルセスキオキサンに較べて耐熱透明性に優れた性質を与えているとともに、硬化物の加熱における着色を抑制する効果を与える。
【0031】
本発明の熱硬化性組成物を熱硬化させてなる硬化物を成形し、成形体とすることで、様々な用途に用いることができる。上記組成物にシリカ及び/又は蛍光体を分散させることで発光機能を有し、LED組成物として用いることができる。また、用途としては、光半導体封止材、半導体封止材、絶縁膜、シール材、接着剤、光学レンズなどが挙げられる。
【実施例】
【0032】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されない。
本発明で合成した化合物の数平均分子量と重量平均分子量は、以下のように測定した。
日本分光(株)製の高速液体クロマトグラフシステムCO−2065plusを使用し、試料濃度1重量%のTHF溶液20μLを分析サンプルとして、カラム:Shodex KF804L(昭和電工(株)製)(直列に2本接続)、カラム温度:40℃、検出器:RI、溶離液:THF、及び溶離液流速:1.0mL/分でGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。
【0033】
[合成例1]<シルセスキオキサン誘導体(DD−4H)の合成>
環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、フェニルトリメトキシシラン(6,540g)、水酸化ナトリウム(880g)、イオン交換水(660g)、及び2−プロパノール(26.3リットル)を仕込んだ。窒素気流下、撹拌しながら加熱(80℃)を開始した。還流開始から6時間撹拌し、室温(25℃)で1晩静置した。そして反応混合物を濾過器に移し、窒素ガスで加圧して濾過した。得られた固体を2−プロピルアルコールで1回洗浄、濾過した後、80℃で減圧乾燥を行ない、下式で表される無色固体(DD−ONa)(3,300g)を得た。
【化7】
【0034】
次に、環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、シクロペンチルメチルエーテル(2,005g)、2−プロパノール(243g)、イオン交換水(1,400g)、塩酸(461g)を仕込み、窒素雰囲気下、室温(25℃)で攪拌した。続いて滴下ロートに、上記得られた化合物(DD−ONa)(800g)、シクロペンチルメチルエーテル(2,003g)を仕込み、スラリー状にして30分かけて反応器に滴下し、滴下終了後30分間攪拌した。その後、静置して有機層と水層に分けた。得られた有機層は水洗により中性とした後、メンブレンフィルタにてゴミを取り除き、ロータリーエバポレーターを用いて60℃で減圧濃縮して、678gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(980g)で洗浄し、減圧乾燥して下式で表される無色粉末状固体(DD−4OH)(496g)を得た。
【化8】
【0035】
次に、滴下漏斗、温度計、及び還流冷却器を取り付けた反応器に、上記得られた化合物(DD−4OH)(7,160g)、トルエン(72,600g)、ジメチルクロロシラン(2,850g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。次いでトリエチルアミン(3,230g)を滴下漏斗から約20分間かけて滴下した。このときの、溶液温度は35℃〜40℃である。滴下終了後、1時間攪拌し、その後、イオン交換水(16,700gを)加え、過剰量のジメチルクロロシランを加水分解し、有機層と水層に分けた。有機層を水洗により中性とした後、ロータリーエバポレーターを用いて85℃で減圧濃縮を行い、得られた残渣をメタノール(19,950g)で洗浄し、8,587.6gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(9,310g)で洗浄し、減圧乾燥して無色粉末状固体(7,339g)を得た。得られた無色粉末状固体は下記の分析結果から下記の構造(DD−4H)を有すると判断される。
1H−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);0.16(d,24H)、4.84−4.89(m,4H)、7.05−7.50(m,40H).29Si−NMR(溶剤:CDCl3):δ(ppm);3.85(s,4Si)、−71.90(s,4Si)、−75.05(s,4Si).
【化9】
【0036】
[合成例2]<ジオルガノポリシロキサン1の合成>
500mlの4つ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、1,1,3,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン(100g)(0.538モル)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(400g)(1.35モル)、酸触媒として活性白土(5.0g)を仕込んだ。80℃に温度を上げ、22時間反応させた後、室温(25℃)まで冷却し、活性白土を5Cの濾紙で濾過により除去した。ナスフラスコに濾液を移し、エバポレーターにて120℃、5mmHgの減圧条件下、低沸分を留去後に無色透明の液体(ジオルガノポリシロキサン1)(460g)を得た。29Si−NMRを測定し、分子鎖末端のSiのピークと分子鎖内部のSiのピークの積分強度の比より、n、ビニル基当量を求めた。下記式中のn平均は11でありビニル基当量は450g/molと計算された。
【化10】
【0037】
[実施例1]
式(2−a)で表される化合物である、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と、式(2−b)で表される化合物である、合成例2で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン1とを、α=0.5、β=0.5となるように配合し、下記のとおりヒドロシリル化反応により化合物(1−1)を製造した。
【0038】
温度計、還流冷却器、および撹拌機を備えた内容積1Lの反応容器に合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)(100g)、および合成例2で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン1(70.8g)(DD−4Hと等モル)、溶媒としてトルエン(750g)を入れた。
窒素雰囲気下、加熱攪拌を開始した。内容物が70℃に達した後、カルステッド触媒2μlを加えて、そのまま5時間、70℃で加熱攪拌を行った。その後、H−NMRによりビニル基ピーク(5.9〜6.3ppm)の消失を確認して反応を終了させた。エバポレーターにて100℃、5mmHgの減圧条件下でトルエンを留去した。
得られた粘調液体を、アセトン(222g)に溶解させ、活性炭(1.4g)を加えて一夜攪拌を行った。0.2μlフィルターを用い減圧下で活性炭をろ過により除去し、ろ液を再度エバポレーターにて、70℃、5mmHgの減圧条件下でアセトンを留去し、無色アメ状物質(160g)を得た。
分子量をGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=5,400、重量平均分子量:Mw=64,600であった。また、SiH当量は1,100g/molであった。
【0039】
[合成例3]<ジオルガノポリシロキサン2の合成>
500mlの4つ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、1,1,3,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン(100g)(0.538モル)とオクタメチルシクロテトラシロキサン(350g)(1.18モル)、酸触媒として活性白土(4.5g)を仕込んだ。80℃に温度を上げ、22時間反応させた後、室温まで冷却し、活性白土を5Cの濾紙で濾過により除去した。ナスフラスコに濾液を移し、エバポレーターにて120℃、5mmHgの減圧条件下で、低沸分を留去することで無色透明の液体(ジオルガノポリシロキサン2)410gを得た。Si−NMRを測定し、分子鎖末端のSiのピークと分子鎖内部のSiのピークの積分強度の比より、n、ビニル基当量を求めた。下記式中のn平均は9.5でありビニル基当量は400g/molと計算された。
【0040】
[実施例2]
式(2−a)で表される化合物である、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と、式(2−b)で表される化合物である、合成例3で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン2とを、α=0.57、β=0.43となるように配合し、下記のとおりヒドロシリル化反応により化合物(1−2)を製造した。
【0041】
2,000mL(ミリリットル)の四ツ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)(100g)、および合成例3で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン2(57.8g)(DD−4Hの0.75倍モル)、溶媒としてトルエン(890g)を仕込んだ。
窒素雰囲気下、加熱攪拌を開始した。内容物が70℃に達した後、カルステッド触媒を2μlを加えて、70℃で3時間反応を行い、その後100℃で3時間反応させた。その後H−NMRによりビニル基ピーク(5.9〜6.3ppm)の消失を確認して反応を終了させた。得られた反応混合物をナスフラスコに移し、エバポレーターにて100℃、5mmHgの減圧条件下でトルエンを留去した。
得られた粘調液体を、アセトン(350g)で溶解させ、活性炭(1.7g)を加えて5時間攪拌した。0.2μlフィルターを用いて減圧下で活性炭をろ過した。濾液を再度エバポレーターにて70℃、5mmHgの減圧条件下でアセトンを留去し、無色粘調液体(170g)を得た。
分子量をGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=2,200、重量平均分子量:Mw=6,800であった。また、SiH当量は850g/molであった。
【0042】
[合成例4〜7]<ジオルガノポリシロキサン3〜6の合成>
1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(DVDS)、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)の仕込み量を変更した以外は合成例2と同様にして、ジオルガノポリシロキサン3〜6を合成した。ジオルガノポリシロキサン3〜6のn平均及びビニル当量を表1に示す。なお、合成例6のみオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)の代わりにヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)を用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例3〜9、及び比較例1、2]
合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と合成例4〜7で製造したジオルガノポリシロキサン3〜6を表2に示す割合で、実施例1と同様に化合物(1−3)〜(1−9)を調製した。また、合成例2で製造したジオルガノポリシロキサン1に変えて、市販のDVDS及びDVTSを用いること以外は実施例1と同様にして化合物(1−10)、(1−11)を調製した。実施例1〜9及び比較例1、2の反応条件、得られた化合物(1−1)〜(1−11)のSiH当量、外観および粘度を以下の表に記載した。また、(a)シルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と(b)ジオルガノポリシロキサンのモル比の関係(α:n×β)については表3に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
以下、熱硬化性組成物の調製、この組成物から得られる硬化物、および物性評価試験方法について説明する。
【0048】
使用した主な材料は以下のとおりである。
液状有機ケイ素化合物:実施例で合成した化合物(1−1)〜(1−9)
DVDS:1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン
DVTS:1,5−ジビニル−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン
DV4S:1,7−ジビニル−1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン
V4:1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン
以上4つの化合物は市販のものを用いることができ、例えばGelest社から入手することができる。なお、ここで、Ph=フェニル、Vi=ビニル、Me=メチルを示す。
ビニルシリコーンA:平均組成式(Me3SiO1/21.5(ViMe2SiO1/21.5(PhSiO3/26で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンB:平均組成式(Me3SiO1/22(ViMe2SiO1/22(PhSiO3/24で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンC:平均組成式(Me3SiO1/23(ViMe2SiO1/23(PhSiO3/23で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンD:平均組成式(Me3SiO1/22.5(ViMe2SiO1/21.25(PhSiO3/25で表されるオルガノポリシロキサン
SiHシリコーンA:平均組成式(Me3SiO1/22(HMe2SiO1/22(PhSiO3/24で表されるオルガノポリシロキサン
以上の5つのシリコーンは、公知の方法で合成することができる。
【0049】
<熱硬化性組成物の調製>
スクリュー管に実施例で合成した化合物とポリオルガノシロキサンの混合物を入れた。スクリュー管を自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎ARE−250)にセットし、混合・脱泡を行い、ワニスとした。白金触媒を白金が1ppmになるように加え、ふたたび自転・公転ミキサーにて混合・脱泡を行い、熱硬化性組成物1〜18、および比較組成物1を得た。
表4、表5に各組成物の配合比を示す。
【0050】
<硬化物の作成>
上記熱硬化性組成物をフロン工業(株)製テフロン(登録商標)PFAペトリ皿に流し込んだ。このペトリ皿に流し込んだワニスをオーブンに入れ、80℃で1時間、120℃で1時間、150℃で2時間の順に加熱することにより硬化させ、硬化物を得た。また、ガラス2枚をニチアス(株)製ナフロンSPパッキン(4mm径)をスペーサーとして挟み、この中にワニスを流し込み、減圧脱泡後、同様に加熱硬化させ、ガラスをはがして4mm厚の表面が平滑な硬化物を得た。
【0051】
<光線透過率測定>
島津製作所(株)製紫外可視分光光度計 UV−1650にて透過率を測定した。また、400nm−800nmの透過率から全光線透過率を計算した。
硬化物の透明性は、目視により着色の有無で判断し、着色がない場合には、透明性がよいと判断した。より詳細に透明性を評価する場合には、全光線透過率を計算し、判断した。
【0052】
<屈折率>
試験片は硬化物をバンドソーにて切断し、JIS K7142に従って試験片を作製した。この試験片を用いて、アッベ屈折計((株)アタゴ製NAR−2T)によりナトリウムランプのD線(586nm)を用いて屈折率を測定した。中間液はヨウ化メチレンを用いた。
【0053】
<硬度>
JIS K6253に従い、西東京精密(株)製デュロメータWR−105Dにより測定した。
【0054】
<耐熱試験>
耐熱試験は、以下の方法にて実施、評価した。
厚さ4mmの硬化物を2個作製し、それぞれの光線透過率を紫外可視分光光度計で測定し、初期透過率をとした。硬化物を180℃のオーブン(定温乾燥機:ヤマト科学(株)製DX302)に入れ、一定時間(表6では160時間、表8では260時間)加熱処理した。
・耐熱透明性
試験後の硬化物の光線透過率を紫外可視分光光度計で測定し、波長400nm、370nm、350nmの透過率から、この波長における保持率(一定時間熱処理後の透過率/各波長の初期透過率×100)を計算して評価した。
180℃での光線透過率の保持率が90%以上であることが好ましい。
・耐熱黄変性
硬化物の黄色度(YI値)を、JIS K7105に従い、スガ試験機製カラーメーターにて測定し、評価した。
180℃での黄色度(YI値)の保持率が5以下であることが好ましい。
【0055】
<硬化収縮>
上記の硬化物作成において、加熱硬化終了後に冷却した後、硬化物がPFAペトリ皿から簡単に取れる場合、これを硬化収縮ありとした。これは、硬化収縮により硬化物とPFAペトリ皿との間に隙間が生じるためである。
【0056】
<接着強さ試験>
試験片は、基材としてポリフタルアミド樹脂(ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製アモデル(商品名)A−4122NLWH905)を厚さ2mmの板状に成形し、JIS K6850に従って寸法を調整して作製した。接着試験は、JIS K6850に従って引張圧縮試験機((株)島津製作所製オートグラフAGS−500B)により1kNのロードセルを用いて測定した。
【0057】
<ヒートサイクル試験>
ヒートサイクル試験は、上記方法により作成した硬化物を、エスペック(株)製冷熱衝撃装置TSA−101S−Wのテストエリアに入れ、−40℃で30分間さらし、105℃で30分間さらしを1サイクルとして、100サイクル繰り返すことにより実施した。なお、両さらし温度の間の移動時間は5分間で実施した。
【0058】
表6、表7に、それぞれ表4、表5の各組成物1〜18、比較組成物1より硬化させて得られた硬化物1〜18、比較硬化物1の屈折率およびデュロメーター硬度試験結果を示す。ここで、「組成物2」、「硬化物2」は「参考例」である。
また、耐熱試験(180℃、160時間)にて黄変があるかを観察したところ、シルセスキオキサン構造を含まない比較硬化物1について黄変が観察された。また、400nmの透過率についても硬化物1〜18はすべて初期透過率の95%以上の透過率を保持していたのに対して、比較硬化物1については初期透過率の70%に低下した。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
表8に、硬化物1、および市販の発光ダイオード封止用2液型シリコーンを硬化させた比較硬化物2で得られた試験片の試験結果、及び従来品に対する硬化物1の評価を示す。なお、○は従来品と同程度を示し、◎は従来品と比較して優れていることを示す。
【0064】
【表8】
【0065】
このことから、本発明の熱硬化性組成物を用いて得られた硬化物は、透明性が良好で、1.49以上の高屈折率であるなどの良好な特性を持ち合わせており、従来のフェニルシリコーン系発光ダイオード封止用材と比較して、耐熱性(耐熱黄変性、耐熱透明性等)に優れ、接着強さに優れていることが明らかとなった。また、この硬化物はダブルデッカー型のシルセスキオキサンの骨格を有することから、絶縁性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の硬化物からなる成形体は、半導体の封止材、光半導体の封止材、絶縁膜、シール材、光学レンズなどの用途に好適に用いることができる。また、透明材料、光学材料、光学フィルム、光学シート、接着剤、電子材料、絶縁材料、層間絶縁膜、塗料、インク、コーティング材料、成形材料、ポッティング材料、液晶シール材、表示デバイス用シール材、太陽電池封止材料、レジスト材料、カラーフィルター、電子ペーパー用材料、ホログラム用材料、太陽電池用材料、燃料電池用材料、表示材料、記録材料、防水材料、防湿材料、電池用固体電解質、ガス分離膜に用いることができる。また、他の樹脂への添加剤等に用いることができる。