【実施例】
【0032】
本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されない。
本発明で合成した化合物の数平均分子量と重量平均分子量は、以下のように測定した。
日本分光(株)製の高速液体クロマトグラフシステムCO−2065plusを使用し、試料濃度1重量%のTHF溶液20μLを分析サンプルとして、カラム:Shodex KF804L(昭和電工(株)製)(直列に2本接続)、カラム温度:40℃、検出器:RI、溶離液:THF、及び溶離液流速:1.0mL/分でGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。
【0033】
[合成例1]<シルセスキオキサン誘導体(DD−4H)の合成>
環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、フェニルトリメトキシシラン(6,540g)、水酸化ナトリウム(880g)、イオン交換水(660g)、及び2−プロパノール(26.3リットル)を仕込んだ。窒素気流下、撹拌しながら加熱(80℃)を開始した。還流開始から6時間撹拌し、室温(25℃)で1晩静置した。そして反応混合物を濾過器に移し、窒素ガスで加圧して濾過した。得られた固体を2−プロピルアルコールで1回洗浄、濾過した後、80℃で減圧乾燥を行ない、下式で表される無色固体(DD−ONa)(3,300g)を得た。
【化7】
【0034】
次に、環流冷却器、温度計、及び滴下漏斗を取り付けた反応容器に、シクロペンチルメチルエーテル(2,005g)、2−プロパノール(243g)、イオン交換水(1,400g)、塩酸(461g)を仕込み、窒素雰囲気下、室温(25℃)で攪拌した。続いて滴下ロートに、上記得られた化合物(DD−ONa)(800g)、シクロペンチルメチルエーテル(2,003g)を仕込み、スラリー状にして30分かけて反応器に滴下し、滴下終了後30分間攪拌した。その後、静置して有機層と水層に分けた。得られた有機層は水洗により中性とした後、メンブレンフィルタにてゴミを取り除き、ロータリーエバポレーターを用いて60℃で減圧濃縮して、678gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(980g)で洗浄し、減圧乾燥して下式で表される無色粉末状固体(DD−4OH)(496g)を得た。
【化8】
【0035】
次に、滴下漏斗、温度計、及び還流冷却器を取り付けた反応器に、上記得られた化合物(DD−4OH)(7,160g)、トルエン(72,600g)、ジメチルクロロシラン(2,850g)を仕込み、乾燥窒素にてシールした。次いでトリエチルアミン(3,230g)を滴下漏斗から約20分間かけて滴下した。このときの、溶液温度は35℃〜40℃である。滴下終了後、1時間攪拌し、その後、イオン交換水(16,700gを)加え、過剰量のジメチルクロロシランを加水分解し、有機層と水層に分けた。有機層を水洗により中性とした後、ロータリーエバポレーターを用いて85℃で減圧濃縮を行い、得られた残渣をメタノール(19,950g)で洗浄し、8,587.6gの無色固体を得た。この無色固体を酢酸メチル(9,310g)で洗浄し、減圧乾燥して無色粉末状固体(7,339g)を得た。得られた無色粉末状固体は下記の分析結果から下記の構造(DD−4H)を有すると判断される。
1H−NMR(溶剤:CDCl
3):δ(ppm);0.16(d,24H)、4.84−4.89(m,4H)、7.05−7.50(m,40H).
29Si−NMR(溶剤:CDCl
3):δ(ppm);3.85(s,4Si)、−71.90(s,4Si)、−75.05(s,4Si).
【化9】
【0036】
[合成例2]<ジオルガノポリシロキサン1の合成>
500mlの4つ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、1,1,3,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン(100g)(0.538モル)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(400g)(1.35モル)、酸触媒として活性白土(5.0g)を仕込んだ。80℃に温度を上げ、22時間反応させた後、室温(25℃)まで冷却し、活性白土を5Cの濾紙で濾過により除去した。ナスフラスコに濾液を移し、エバポレーターにて120℃、5mmHgの減圧条件下、低沸分を留去後に無色透明の液体(ジオルガノポリシロキサン1)(460g)を得た。
29Si−NMRを測定し、分子鎖末端のSiのピークと分子鎖内部のSiのピークの積分強度の比より、n、ビニル基当量を求めた。下記式中のn平均は11でありビニル基当量は450g/molと計算された。
【化10】
【0037】
[実施例1]
式(2−a)で表される化合物である、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と、式(2−b)で表される化合物である、合成例2で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン1とを、α=0.5、β=0.5となるように配合し、下記のとおりヒドロシリル化反応により化合物(1−1)を製造した。
【0038】
温度計、還流冷却器、および撹拌機を備えた内容積1Lの反応容器に合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)(100g)、および合成例2で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン1(70.8g)(DD−4Hと等モル)、溶媒としてトルエン(750g)を入れた。
窒素雰囲気下、加熱攪拌を開始した。内容物が70℃に達した後、カルステッド触媒2μlを加えて、そのまま5時間、70℃で加熱攪拌を行った。その後、H−NMRによりビニル基ピーク(5.9〜6.3ppm)の消失を確認して反応を終了させた。エバポレーターにて100℃、5mmHgの減圧条件下でトルエンを留去した。
得られた粘調液体を、アセトン(222g)に溶解させ、活性炭(1.4g)を加えて一夜攪拌を行った。0.2μlフィルターを用い減圧下で活性炭をろ過により除去し、ろ液を再度エバポレーターにて、70℃、5mmHgの減圧条件下でアセトンを留去し、無色アメ状物質(160g)を得た。
分子量をGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=5,400、重量平均分子量:Mw=64,600であった。また、SiH当量は1,100g/molであった。
【0039】
[合成例3]<ジオルガノポリシロキサン2の合成>
500mlの4つ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、1,1,3,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン(100g)(0.538モル)とオクタメチルシクロテトラシロキサン(350g)(1.18モル)、酸触媒として活性白土(4.5g)を仕込んだ。80℃に温度を上げ、22時間反応させた後、室温まで冷却し、活性白土を5Cの濾紙で濾過により除去した。ナスフラスコに濾液を移し、エバポレーターにて120℃、5mmHgの減圧条件下で、低沸分を留去することで無色透明の液体(ジオルガノポリシロキサン2)410gを得た。Si−NMRを測定し、分子鎖末端のSiのピークと分子鎖内部のSiのピークの積分強度の比より、n、ビニル基当量を求めた。下記式中のn平均は9.5でありビニル基当量は400g/molと計算された。
【0040】
[実施例2]
式(2−a)で表される化合物である、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と、式(2−b)で表される化合物である、合成例3で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン2とを、α=0.57、β=0.43となるように配合し、下記のとおりヒドロシリル化反応により化合物(1−2)を製造した。
【0041】
2,000mL(ミリリットル)の四ツ口フラスコに磁器攪拌子、冷却管、温度計を取り付け、合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)(100g)、および合成例3で製造した両末端にビニル基を有するジオルガノポリシロキサン2(57.8g)(DD−4Hの0.75倍モル)、溶媒としてトルエン(890g)を仕込んだ。
窒素雰囲気下、加熱攪拌を開始した。内容物が70℃に達した後、カルステッド触媒を2μlを加えて、70℃で3時間反応を行い、その後100℃で3時間反応させた。その後H−NMRによりビニル基ピーク(5.9〜6.3ppm)の消失を確認して反応を終了させた。得られた反応混合物をナスフラスコに移し、エバポレーターにて100℃、5mmHgの減圧条件下でトルエンを留去した。
得られた粘調液体を、アセトン(350g)で溶解させ、活性炭(1.7g)を加えて5時間攪拌した。0.2μlフィルターを用いて減圧下で活性炭をろ過した。濾液を再度エバポレーターにて70℃、5mmHgの減圧条件下でアセトンを留去し、無色粘調液体(170g)を得た。
分子量をGPCにより分析したところ、数平均分子量:Mn=2,200、重量平均分子量:Mw=6,800であった。また、SiH当量は850g/molであった。
【0042】
[合成例4〜7]<ジオルガノポリシロキサン3〜6の合成>
1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(DVDS)、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)の仕込み量を変更した以外は合成例2と同様にして、ジオルガノポリシロキサン3〜6を合成した。ジオルガノポリシロキサン3〜6のn平均及びビニル当量を表1に示す。なお、合成例6のみオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)の代わりにヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)を用いた。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例3〜9、及び比較例1、2]
合成例1で製造したシルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と合成例4〜7で製造したジオルガノポリシロキサン3〜6を表2に示す割合で、実施例1と同様に化合物(1−3)〜(1−9)を調製した。また、合成例2で製造したジオルガノポリシロキサン1に変えて、市販のDVDS及びDVTSを用いること以外は実施例1と同様にして化合物(1−10)、(1−11)を調製した。実施例1〜9及び比較例1、2の反応条件、得られた化合物(1−1)〜(1−11)のSiH当量、外観および粘度を以下の表に記載した。また、(a)シルセスキオキサン誘導体(DD−4H)と(b)ジオルガノポリシロキサンのモル比の関係(α:n×β)については表3に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
以下、熱硬化性組成物の調製、この組成物から得られる硬化物、および物性評価試験方法について説明する。
【0048】
使用した主な材料は以下のとおりである。
液状有機ケイ素化合物:実施例で合成した化合物(1−1)〜(1−9)
DVDS:1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン
DVTS:1,5−ジビニル−1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルトリシロキサン
DV4S:1,7−ジビニル−1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルテトラシロキサン
D
V4:1,3,5,7−テトラビニル−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン
以上4つの化合物は市販のものを用いることができ、例えばGelest社から入手することができる。なお、ここで、Ph=フェニル、Vi=ビニル、Me=メチルを示す。
ビニルシリコーンA:平均組成式(Me
3SiO
1/2)
1.5(ViMe
2SiO
1/2)
1.5(PhSiO
3/2)
6で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンB:平均組成式(Me
3SiO
1/2)
2(ViMe
2SiO
1/2)
2(PhSiO
3/2)
4で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンC:平均組成式(Me
3SiO
1/2)
3(ViMe
2SiO
1/2)
3(PhSiO
3/2)
3で表されるオルガノポリシロキサン
ビニルシリコーンD:平均組成式(Me
3SiO
1/2)
2.5(ViMe
2SiO
1/2)
1.25(PhSiO
3/2)
5で表されるオルガノポリシロキサン
SiHシリコーンA:平均組成式(Me
3SiO
1/2)
2(HMe
2SiO
1/2)
2(PhSiO
3/2)
4で表されるオルガノポリシロキサン
以上の5つのシリコーンは、公知の方法で合成することができる。
【0049】
<熱硬化性組成物の調製>
スクリュー管に実施例で合成した化合物とポリオルガノシロキサンの混合物を入れた。スクリュー管を自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製 あわとり練太郎ARE−250)にセットし、混合・脱泡を行い、ワニスとした。白金触媒を白金が1ppmになるように加え、ふたたび自転・公転ミキサーにて混合・脱泡を行い、熱硬化性組成物1〜18、および比較組成物1を得た。
表4、表5に各組成物の配合比を示す。
【0050】
<硬化物の作成>
上記熱硬化性組成物をフロン工業(株)製テフロン(登録商標)PFAペトリ皿に流し込んだ。このペトリ皿に流し込んだワニスをオーブンに入れ、80℃で1時間、120℃で1時間、150℃で2時間の順に加熱することにより硬化させ、硬化物を得た。また、ガラス2枚をニチアス(株)製ナフロンSPパッキン(4mm径)をスペーサーとして挟み、この中にワニスを流し込み、減圧脱泡後、同様に加熱硬化させ、ガラスをはがして4mm厚の表面が平滑な硬化物を得た。
【0051】
<光線透過率測定>
島津製作所(株)製紫外可視分光光度計 UV−1650にて透過率を測定した。また、400nm−800nmの透過率から全光線透過率を計算した。
硬化物の透明性は、目視により着色の有無で判断し、着色がない場合には、透明性がよいと判断した。より詳細に透明性を評価する場合には、全光線透過率を計算し、判断した。
【0052】
<屈折率>
試験片は硬化物をバンドソーにて切断し、JIS K7142に従って試験片を作製した。この試験片を用いて、アッベ屈折計((株)アタゴ製NAR−2T)によりナトリウムランプのD線(586nm)を用いて屈折率を測定した。中間液はヨウ化メチレンを用いた。
【0053】
<硬度>
JIS K6253に従い、西東京精密(株)製デュロメータWR−105Dにより測定した。
【0054】
<耐熱試験>
耐熱試験は、以下の方法にて実施、評価した。
厚さ4mmの硬化物を2個作製し、それぞれの光線透過率を紫外可視分光光度計で測定し、初期透過率をとした。硬化物を180℃のオーブン(定温乾燥機:ヤマト科学(株)製DX302)に入れ、一定時間(表6では160時間、表8では260時間)加熱処理した。
・耐熱透明性
試験後の硬化物の光線透過率を紫外可視分光光度計で測定し、波長400nm、370nm、350nmの透過率から、この波長における保持率(一定時間熱処理後の透過率/各波長の初期透過率×100)を計算して評価した。
180℃での光線透過率の保持率が90%以上であることが好ましい。
・耐熱黄変性
硬化物の黄色度(YI値)を、JIS K7105に従い、スガ試験機製カラーメーターにて測定し、評価した。
180℃での黄色度(YI値)の保持率が5以下であることが好ましい。
【0055】
<硬化収縮>
上記の硬化物作成において、加熱硬化終了後に冷却した後、硬化物がPFAペトリ皿から簡単に取れる場合、これを硬化収縮ありとした。これは、硬化収縮により硬化物とPFAペトリ皿との間に隙間が生じるためである。
【0056】
<接着強さ試験>
試験片は、基材としてポリフタルアミド樹脂(ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製アモデル(商品名)A−4122NLWH905)を厚さ2mmの板状に成形し、JIS K6850に従って寸法を調整して作製した。接着試験は、JIS K6850に従って引張圧縮試験機((株)島津製作所製オートグラフAGS−500B)により1kNのロードセルを用いて測定した。
【0057】
<ヒートサイクル試験>
ヒートサイクル試験は、上記方法により作成した硬化物を、エスペック(株)製冷熱衝撃装置TSA−101S−Wのテストエリアに入れ、−40℃で30分間さらし、105℃で30分間さらしを1サイクルとして、100サイクル繰り返すことにより実施した。なお、両さらし温度の間の移動時間は5分間で実施した。
【0058】
表6、表7に、それぞれ表4、表5の各組成物1〜18、比較組成物1より硬化させて得られた硬化物1〜18、比較硬化物1の屈折率およびデュロメーター硬度試験結果を示す。
ここで、「組成物2」、「硬化物2」は「参考例」である。
また、耐熱試験(180℃、160時間)にて黄変があるかを観察したところ、シルセスキオキサン構造を含まない比較硬化物1について黄変が観察された。また、400nmの透過率についても硬化物1〜18はすべて初期透過率の95%以上の透過率を保持していたのに対して、比較硬化物1については初期透過率の70%に低下した。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
表8に、硬化物1、および市販の発光ダイオード封止用2液型シリコーンを硬化させた比較硬化物2で得られた試験片の試験結果、及び従来品に対する硬化物1の評価を示す。なお、○は従来品と同程度を示し、◎は従来品と比較して優れていることを示す。
【0064】
【表8】
【0065】
このことから、本発明の熱硬化性組成物を用いて得られた硬化物は、透明性が良好で、1.49以上の高屈折率であるなどの良好な特性を持ち合わせており、従来のフェニルシリコーン系発光ダイオード封止用材と比較して、耐熱性(耐熱黄変性、耐熱透明性等)に優れ、接着強さに優れていることが明らかとなった。また、この硬化物はダブルデッカー型のシルセスキオキサンの骨格を有することから、絶縁性に優れることがわかる。