【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例1及び比較例1では、実際の炉(以下、実炉と称する)ではなく、実炉を模した実験炉を使用している。この実験炉では、溶融ガラスの代わりに流体として水あめを使用している。溶融ガラスと水あめでは、粘性及び比重が異なるため、この実験炉では、以下の表1に示すように種々の物性値を設定し、実験炉におけるレイノルズ数を実炉と一致させた。これにより、実験炉における水あめの挙動が実炉における溶融ガラスの挙動と一致するようにしている。なお、表1は輸送管内におけるレイノルズ数のパラメータである。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の物性値について説明する。
1.粘度は、溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の粘度である。
2.密度は、溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の密度である。
3.代表速度は、導入管内における溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の流速である。
4.代表径は、実炉及び実験炉における導入管の内径である。
【0041】
表1から、実験炉におけるレイノルズ数が、実炉のレイノルズ数と一致していることがわかる。なお、実験炉の物性値を表1のように設定することにより、実験系の時間スケール、すなわち実験炉における流体(水あめ)の流速は、実炉の1/4(4分の1)程度となっている。また、流量[g/min]は、一分間当たり重量が実炉の15%となっている。
【0042】
(実施例1)
初めに、実施例1に係る実験炉Aの構成について説明する。
図5は、実施例1に係る実験炉Aの構成断面図である。以下、
図5を参照して、この実施例1について説明する。なお、
図2で説明した構成と同じ構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0043】
導入管404の内径D1、還流管405の内径D2及び撹拌槽403の内径D3は、ぞれぞれ50mm、26mm及び120mmである。撹拌槽403の高さL1(撹拌槽403の底面から撹拌槽403の縁まで)は、465mmである。導入管404、還流管405及び撹拌槽403の材質は、アクリルである。
【0044】
撹拌槽403と撹拌翼402との隙間(クリアランス)C1は、12.5mmである。撹拌槽403の底部と回転軸401の下端との隙間(クリアランス)C2は、11mmである。また、この実施例1では、
図3で説明した、還流管405の中心線分α-βと還流管405の中心線線分γ-δとの角度θがほぼゼロとなっている。
【0045】
次に、実施例1の実験方法について説明する。なお、この実施例1では、還流管405内を還流する水あめの流量を撹拌翼40により制御できること及び水あめを還流させることにより、着色剤が拡散されることを確認した。
【0046】
(実験1)
実施例1では
図5に示す撹拌槽403、導入管404、還流管405及び導出管406を水あめで満たし、撹拌装置Aを流れる水あめの流量が18.8[g/min]となるように調整した。
【0047】
次に、水あめが還流管405内へ導入されるように撹拌翼402を回転させて(
図3では、左(反時計)回り)、水あめが還流管405内を流れる速さを測定した。なお、水あめの流速は、着色剤を
図5に示す位置P2から導入し、この着色剤が還流管405内を流れる速さを測定して算出した。
【0048】
なお、一般的に、管内を流れる流体の速さは、管内の中心部が最も早く、管壁に近づくにつれて、中心からの距離の2乗に比例して遅くなる。今回の実施例1では、
図5の位置P2から導入した着色剤のうち最も早く流れる着色剤から水あめの流量を算出した。
【0049】
具体的には、還流管405内における水あめの流れが層流であることから、還流管405内の水あめの流量は、以下の(1)式(ハーゲン・ポアズイユの式)から求めることができる。
【数1】
ここで、u(t)は流下方向の流速、rは還流管405中心からの断面方向の距離、gは重力加速度、Ieは動水勾配またはエネルギー勾配、vは動粘性係数、aは還流管405の半径である。
【0050】
上記条件の下、撹拌翼402の回転数を0、10、20rpmの3段階に変化させて、還流管405内へ還流される水あめの流量を調べた。結果を以下の表2に示す。なお、表2中の「回転数」は、撹拌翼402の回転数(時計回りが正(
図3参照))、「流量」は、還流管405内を流れる水あめの流量(導入管404から撹拌槽403の向きが正)、「調整幅」は、撹拌翼402が回転していない際の還流管405内を流れる水あめの流量(導入管404から撹拌槽403の向きが正)を100%とした相対的な数値である。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、撹拌翼402の回転数の増加に伴い、還流管405内を還流する水あめの流量も増えることがわかる。すなわち、撹拌翼402の回転数を制御することにより、還流管405内の水あめの還流量を制御できることがわかる。
【0053】
(実験2)
次に、実験1と同一の条件(撹拌翼402の回転数は、10rpm)で、
図5のP3の位置から着色剤を導入した。
図5のP3の位置から導入した着色剤の一部(特に、撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる着色剤)は、
図5の矢印Aに示すように還流管405から導入管404の中心部付近へ還流された。そして、撹拌翼402による撹拌作用が高い領域である回転軸401近傍に流れ込んだ後、色が薄くなった状態、すなわち、撹拌翼402により十分に撹拌された状態で導出管406から導出されることを確認した。また、還流された着色剤の一部は、再度、還流管405内へ導入されることを確認した。
【0054】
(実験3)
なお、発明者らは、
図5に示した実験炉Aにおいて、撹拌翼402を時計方向に回転させた場合における還流管405内を流れる水あめの流量についても調べた。その結果を以下の表3に示す。なお、表3中の「回転数」、「流量」、「調整幅」の意味は、表2を参照して説明した「回転数」、「流量」、「調整幅」と同じ意味である。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示す結果から、撹拌翼402を時計方向(
図3参照)に回転させた場合にも、撹拌翼402の回転を制御することにより還流管405内を流れる水あめの流量を制御できることがわかった。なお、この場合、還流管405内を流れる水あめは、導入管404から撹拌槽403の向きに流れることに留意する。
【0057】
(比較例1)
図6は、比較例1に係る実験炉Bの構成断面図である。以下、
図6を参照して、この比較例1について説明する。
図6に示すように、この比較例1に係る実験炉Bは、還流管405を具備していいない。そのほかの構成は、
図2で説明した構成と同じであるため、同一の構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0058】
この比較例1では、
図6に示すP3,P4から着色剤を導入し、撹拌槽403内における水あめの流れを観察した。この比較例1に係る実験炉では、
図6のP4,P5の位置から導入した着色剤は、
図6の矢印B,Cに示すように、どちらも撹拌槽403の内壁403aと撹拌翼402との間を、撹拌翼402の撹拌作用がおよぶ領域内の水あめよりもゆっくりとした速度で、螺旋を描きながらゆっくりと降下する様が観察された。
【0059】
そして、着色剤は、撹拌翼402により拡散されることなく導出管406から導出された。つまり、撹拌槽403の内壁403aの近傍を流れる水あめは、撹拌翼402の撹拌作用によって均質化されていないことが分かる。
【0060】
(比較結果)
実施例1と比較例1との比較から、撹拌槽403の内壁403aの表面近傍を這うようにして流れる溶融ガラスを導入管404の中心部近傍に還流させる還流管405を設けることで、撹拌槽403における撹拌能力を大幅に向上できることがわかった。
【0061】
以上のように、本発明の撹拌装置では、還流管405内を流れる溶融ガラスの向きと、還流管405の中心線が撹拌槽403の外周面と交わった位置での接線との角度θが鋭角となるように、還流管405を撹拌槽403に接続し、撹拌翼402を回転させることで、撹拌槽403の内壁403aの表面近傍を這うようにして流れる溶融ガラスを導入管404の中心部近傍に還流させている。このため、撹拌槽403における撹拌能力を大幅に向上することができる。また、撹拌翼402の回転数を制御することで、還流させる溶融ガラスの流量を制御することができるので、溶融ガラスの撹拌を最適な状態に保つことができる。
【0062】
(その他の実施形態)
図7は、その他の実施形態に係る撹拌装置40Aの断面図である。この他の実施形態では、実施形態に係る撹拌装置40をライザに適用した例を示す。なお、
図2で説明した構成と同一の構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0063】
この他の実施形態に係る撹拌装置40Aのように、溶融ガラスが下側から上側へ流れる場合でも、一端側405aを撹拌槽403に、他端側405bを導入管404に各々接続して、撹拌槽403内の溶融ガラスを導入管404内へ還流させることにより、溶融ガラスの撹拌効率を向上させることができる。
【0064】
なお、実施形態に係る撹拌装置40と同様に、還流管405の他端側405bを導入管404の中心付近まで延伸して、溶融ガラスが導入管404の中心付近に還流されるようにすることに留意する。また、
図3に示したように、撹拌槽403との接続は、還流管405の中心線と、還流管405の中心線が撹拌槽403の外周面と交わった位置P1での接線との角度θが鋭角となるように撹拌槽403に接続することに留意する。
【0065】
また、実施例1の実験2では、導入した着色剤が効率よく撹拌できることが確認できた。このことから、本願発明の撹拌装置は、ガラスの着色にも適用することが可能であることがわかる。例えば、車両や建材等の紫外線赤外線吸収ガラスとして、適宜の着色剤をガラスに含有させる場合に、本発明の撹拌装置を用いて、色ムラのない均一な色の着色ガラスを得ることが可能である。
【0066】
この場合、
図1に示した溶融窯10とライザ20との間のガラス搬送路にガラス着色成分(着色剤を含むフリットやカレット)を供給する装置を設けてガラスを所望の色に着色するが、溶融ガラスと着色成分との混ざり具合が均一でないと成形されたガラスが色ムラ等の不具合がでるおそれがある。しかしながら、上記実施例1の実験2で分かったように、本発明の撹拌装置は、溶融ガラスと着色成分とを効率よく撹拌することが可能であり、これらを均一に混ぜることができ、よって色ムラの生じない着色ガラスを形成することが可能である。