特許第5793919号(P5793919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5793919
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】溶融ガラスの撹拌装置及び撹拌方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/18 20060101AFI20150928BHJP
   C03B 5/187 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C03B5/18
   C03B5/187
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-82855(P2011-82855)
(22)【出願日】2011年4月4日
(65)【公開番号】特開2012-218948(P2012-218948A)
(43)【公開日】2012年11月12日
【審査請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 公貴
【審査官】 永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−287429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/18−5/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌槽と、
前記撹拌槽に接続され、前記撹拌槽へ溶融ガラスを導入する導入管と、
前記撹拌槽内に設けられ、前記溶融ガラスを撹拌する撹拌翼と、
一端が前記撹拌槽に、他端が前記導入管に夫々接続され、前記撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を前記導入管内へ還流させる還流管と、
前記撹拌槽に接続され、前記撹拌された溶融ガラスを前記撹拌槽から導出する導出管と、
を具備し、
前記還流管の一端が接続される位置における前記撹拌槽の接線と、前記還流管の中心線との間の角度θが90°未満であることを特徴とする溶融ガラスの撹拌装置。
【請求項2】
撹拌槽と、
前記撹拌槽に接続され、前記撹拌槽へ溶融ガラスを導入する導入管と、
前記撹拌槽内に設けられ、前記溶融ガラスを撹拌する撹拌翼と、
一端が前記撹拌槽に、他端が前記導入管に夫々接続され、前記撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を前記導入管内へ還流させる還流管と、
前記撹拌槽に接続され、前記撹拌された溶融ガラスを前記撹拌槽から導出する導出管と、
を具備し、
前記還流管の前記他端は、前記導入管の中心部まで延伸した状態で前記導入管に接続されており、前記撹拌槽内の溶融ガラスを、前記導入管内の中心部へ還流させることを特徴とする溶融ガラスの撹拌装置。
【請求項3】
前記還流管の一端が接続される位置における前記撹拌槽の接線と、前記還流管の中心線との間の角度θが90°未満であることを特徴とする請求項2に記載の溶融ガラスの撹拌装置。
【請求項4】
前記還流管の前記一端は、前記撹拌槽内における前記溶融ガラスの流れに対し、前記導入管の接続位置よりも下流側に接続されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の溶融ガラスの撹拌装置。
【請求項5】
前記還流管の前記一端は、前記撹拌槽内における前記溶融ガラスの流れに対し、前記導出管の接続位置よりも上流側に接続されていることを特徴とする請求項4に記載の溶融ガラスの撹拌装置。
【請求項6】
撹拌槽と、前記撹拌槽に接続された導入管と、前記撹拌槽内に設けられた撹拌翼と、一端が前記撹拌槽に、他端が前記導入管に夫々接続された還流管と、前記撹拌槽に接続された導出管と、を具備し、前記還流管の一端が接続される位置における前記撹拌槽の接線と、前記還流管の中心線との間の角度θが90°未満である撹拌装置を用いた溶融ガラスの撹拌方法であって、
前記導入管から溶融ガラスを前記撹拌槽内へ導入する第1ステップと、
記撹拌槽内へ導入される前記溶融ガラスを、前記撹拌翼により撹拌する第2ステップと、
前記撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を前記還流管を介して前記導入管内へ還流させる第3ステップと、
前記撹拌された溶融ガラスを前記導出管から導出する第4ステップと、
を具備することを特徴とする溶融ガラスの撹拌方法。
【請求項7】
撹拌槽と、前記撹拌槽に接続された導入管と、前記撹拌槽内に設けられた撹拌翼と、一端が前記撹拌槽に、他端が前記導入管に夫々接続された還流管と、前記撹拌槽に接続された導出管と、を具備し、前記還流管の前記他端は、前記導入管の中心部まで延伸した状態で前記導入管に接続されている撹拌装置を用いた溶融ガラスの撹拌方法であって、
前記導入管から溶融ガラスを前記撹拌槽内へ導入する第1ステップと、
記撹拌槽内へ導入される前記溶融ガラスを、前記撹拌翼により撹拌する第2ステップと、
前記撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を前記還流管を介して前記導入管内の中心部へ還流させる第3ステップと、
前記撹拌された溶融ガラスを前記導出管から導出する第4ステップと、
を具備する溶融ガラスの撹拌方法
【請求項8】
前記還流管の一端が接続される位置における前記撹拌槽の接線と、前記還流管の中心線との間の角度θが90°未満であることを特徴とする請求項7に記載の溶融ガラスの撹拌方法。
【請求項9】
前記還流管の前記一端は、前記撹拌槽内における前記溶融ガラスの流れに対し、前記導入管の接続位置よりも下流側に接続されており、
前記第3ステップは、前記導入管の接続位置よりも下流側の溶融ガラスを還流させることを特徴とする請求項6乃至請求項8に記載の溶融ガラスの撹拌方法。
【請求項10】
前記還流管の前記一端は、前記撹拌槽内における前記溶融ガラスの流れに対し、前記導出管の接続位置よりも上流側に接続されており、
前記第3ステップは、前記導出管の接続位置よりも上流側の溶融ガラスを還流させることを特徴とする請求項9に記載の溶融ガラスの撹拌方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融ガラスの撹拌装置及び撹拌方法、特に、半導体分野や光学ガラスに使用される高品質なガラスを供給する溶融ガラスの撹拌装置及び撹拌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイやカメラ等に使用されるガラス(以下、光学ガラスと称する)では、きわめて高い品質が要求されている。例えば、光学ガラスの均質性が低いと局所的にガラスの組成が他の箇所と異なるストリエ、コード、パネリングと称される脈理が発生する。この脈理は、ガラスの組成が他の箇所と異なるために光学ガラスの屈折率にばらつきが生じてしまい、光学ガラスとしては不適切なものとなる。そこで、ガラスの製造は、溶融ガラスを均質化して脈理の発生を抑制するために機械的に溶融ガラスを撹拌する工程を設けている。
【0003】
撹拌は、撹拌槽と呼ばれる円筒状の耐火物内で行われる。撹拌槽内には、撹拌翼が設けられ、この撹拌翼が所定の回転数で回転することで、溶融ガラスにせん断力を加え、撹拌槽内の溶融ガラスを撹拌して均質化している。溶融ガラスに撹拌翼によるせん断力が加わると、不均質ガラスがせん断されて他の溶融ガラスと撹拌され均質化される。
【0004】
そして、この溶融ガラスが均質性よく撹拌するために種々の手法が提案されている。例えば、撹拌翼によるせん断力、すなわち撹拌性能を向上させるために、リード角を22°〜58°とした螺旋翼を回転軸に設けたもの(特許文献1参照)、回転軸に設けられた複数の撹拌翼における溶融ガラスの流れの方向を撹拌翼毎に異ならせるようにしたもの(特許文献2参照)、撹拌槽内の中心部領域(翼の回転軸近傍)に存在する溶融ガラスを、強いせん断力が発生する外周部領域(撹拌翼の外側方向)に誘導するもの(特許文献3参照)などの手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−34539号公報
【特許文献2】特開2009−29704号公報
【特許文献3】特開2010−100462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の撹拌翼では、撹拌槽の内壁近傍において十分なせん断力が生じず、溶融ガラスを十分に撹拌しきれないために撹拌後の溶融ガラス中に不均質な部分が残存してしまう問題があった。このため、近年の液晶ディスプレイや半導体分野等で使用されるガラスに求められる高い均質性に対応できないという問題が生じている。
【0007】
この原因としていくつかの要因がある。例えば、撹拌槽の内壁近傍では、撹拌翼から距離が離れているため撹拌翼によるせん断力が十分に確保できず、特に、溶融ガラスの粘性が高い場合は、レイノルズ数が極端に低くなるため溶融ガラスの流れが層流となるため、撹拌翼で発生する乱流の撹拌作用が広範囲に作用することを期待できない。さらに、撹拌槽内の内壁近傍を流れる溶融ガラスは、内壁に近づくほど流れがゼロ、すなわち、流れない状態となるため撹拌効率が極めて低くなってしまう。
【0008】
上記問題を解決するために、撹拌翼の回転数を上げる、撹拌翼と撹拌槽内壁との隙間を小さくする、といったことが考えられる。しかし、撹拌翼の回転数を上げたとしても撹拌槽内壁近傍を流れる溶融ガラスを完全に撹拌することは難しく、逆に、再沸泡が生じたり、撹拌翼の表面が剥がれる虞がある。また、撹拌翼と撹拌槽内壁との隙間を小さくすると、撹拌槽と撹拌槽内壁とが接触する虞がある。
【0009】
その他、撹拌槽の内壁に突起物等を設け、撹拌槽の内壁近傍を流れる溶融ガラスを、撹拌翼によるせん断力が働く領域へ誘導することも考えられるが、撹拌槽の内壁に突起物等を設けたとしても、撹拌槽の内壁近傍を流れる溶融ガラスは、突起物の表面近傍を這うようにして流れるため、撹拌翼によるせん断力が働く領域へ誘導することができず、溶融ガラスを効率良く撹拌することは難しい。
【0010】
本発明は、上記の事情に対処してなされたものであり、溶融ガラスを効率的に撹拌して、高品質なガラスを供給することができる撹拌装置及び撹拌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の溶融ガラスの撹拌装置は、撹拌槽と、撹拌槽に接続され、撹拌槽へ溶融ガラスを導入する導入管と、撹拌槽内に設けられ、溶融ガラスを撹拌する撹拌翼と、一端が撹拌槽に、他端が導入管に夫々接続され、撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を導入管内へ還流させる還流管と、撹拌槽に接続され、撹拌された溶融ガラスを撹拌槽から導出する導出管と、を具備する。
【0012】
本発明の溶融ガラスの撹拌方法は、撹拌槽と、撹拌槽に接続された導入管と、撹拌槽内に設けられた撹拌翼と、一端が撹拌槽に、他端が導入管に夫々接続された還流管と、撹拌槽に接続された導出管と、を具備する撹拌装置を用いた溶融ガラスの撹拌方法であって、導入管から溶融ガラスを撹拌槽内へ導入する第1ステップと、撹拌槽内へ導入される溶融ガラスを、撹拌翼により撹拌する第2ステップと、撹拌槽内の溶融ガラスの少なくとも一部を還流管を介して導入管内へ還流させる第3ステップと、撹拌された溶融ガラスを導出管から導出する第4ステップと、を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶融ガラスの撹拌装置によれば、撹拌槽内の溶融ガラスを、該溶融ガラスを撹拌槽内へ導入する導入管へ還流させる還流管を具備しているので、溶融ガラスを効率的に撹拌して、高品質なガラスを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るガラスの製造装置の模式図である。
図2】実施形態に係る撹拌装置の断面図である。
図3図2の線分X−Yにおける断面図である。
図4】撹拌槽と還流管との接続部を含む断面図である。
図5】実施例1に係る実験炉の構成断面図である。
図6】比較例1に係る実験系の構成断面構成図である。
図7】その他の実施形態に係る撹拌装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(実施形態)
【0016】
図1は、実施形態に係るガラスの製造装置1の模式図である。ガラスの製造装置1は、最上流に配置され、ガラスの原料(珪砂(けいしゃ)、ソーダ灰、石灰石など)を加熱して溶融する溶融窯10と、溶融したガラス(以下、溶融ガラスと称する)を高所へ輸送するライザ20と、ガラス化反応により発生するHO、CO、Oなどの気体あるいは溶融時に巻き込まれた空気が原因で溶融ガラス中に生じた気泡を溶融ガラスから取り除く清澄槽(リファイナ)30と、溶融ガラスを撹拌して均質化する撹拌装置40と、撹拌装置40から供給される撹拌後の溶融ガラスを成形するガラス成形装置50とを具備する。
【0017】
(撹拌装置40の構成)
図2は、撹拌装置40の模式図である。なお、図2中の矢印は、撹拌装置40内の溶融ガラスの流れを示している。また、図2中の斜線部は、溶融ガラスの均質性が低い部分を示している。
【0018】
図2に示すように、撹拌装置40は、回転軸401と、溶融ガラスを撹拌する撹拌翼402と、撹拌翼402を収容し、溶融ガラスを撹拌する撹拌槽403と、撹拌槽403へ溶融ガラスを導入する導入管404と、撹拌槽403内へ導入された溶融ガラスを導入管404内へ還流させる還流管405と、撹拌後の均質化された溶融ガラスをガラス成形装置50へ導出する導出管406とを備えている。
【0019】
回転軸401は、一端側が図示しないモータに接続され、他端側には撹拌翼402が設けられている。上記モータにより回転軸401が回転駆動されると、この回転軸401の他端側に設けられた撹拌翼402も回転し、撹拌槽403内の溶融ガラスが撹拌される。
【0020】
撹拌翼402は、溶融ガラスを撹拌するためのパドルである(パドルの数は、3つに限られない)。撹拌翼402の表面は、耐熱性に優れる材料、例えば、白金(Pt)、白金とロジウム(Rh)との合金で被覆されている。なお、撹拌翼402の形状は、溶融ガラスにせん断力を加えて撹拌するものであればよく、パドル以外にも、例えば、螺旋翼(スクリュー翼)など種々の形状を使用できる。
【0021】
撹拌槽403の内壁403aは、回転により溶融ガラスを撹拌する撹拌翼402との隙間を一定とするため、その形状が円柱形となっている。また、撹拌槽403の内壁403aは、撹拌翼402と同様、耐熱性に優れる材料、例えば、白金(Pt)、白金とロジウム(Rh)との合金で被覆されている。
【0022】
撹拌槽403の内壁403aと撹拌翼402との隙間(クリアランス)は、5〜20mm程度とするのがよい。クリアランスがあまりに小さいと、撹拌槽403の内壁403aと撹拌翼402とが接触する虞があり、クリアランスが大きいと撹拌翼402による撹拌効果が低減するためである。
【0023】
導入管404は、図示しない一端側が清澄槽30に、他端側404aが撹拌槽403に各々接続されており、清澄槽30からの溶融ガラスを撹拌槽403内へ導入する。
【0024】
還流管405は、一端側405aが撹拌槽403に、他端側405bが導入管404に各々接続されており、撹拌槽403内の溶融ガラスを導入管404内へ還流させる。図2に示す通り、還流管405の他端側405bは、導入管404の中心付近まで延伸しており、溶融ガラスが導入管404の中心付近に還流される構造となっている。
【0025】
図3は、図2の線分X−Yでの断面図である。図3中の矢印αは、還流管405の中心線の向き、すなわち還流管405内の溶融ガラスの流れの向きを示している。また、図3中の線分β―γは、還流管405の中心線が撹拌槽403の外周面と交わった位置P1での接線である。
【0026】
還流管405は、図3に示す矢印αの方向と線分β―γとの角度θが鋭角となるように撹拌槽403に接続される。角度θは、90°未満(鋭角)であることが好ましく、30°以下であることがより好ましい。なお、理想的には角度θは0°とするのがよい。
【0027】
導出管406は、一端側が撹拌槽403の底部に接続され、他端側がガラス成形装置50に接続されており、撹拌後の均質化された溶融ガラスをガラス成形装置50へ導出する。
【0028】
(撹拌装置40内の溶融ガラスの流れ)
次に、撹拌装置40内の溶融ガラスの流れについて説明する。
導入管404から撹拌槽403内の上部へ導入された溶融ガラスは、撹拌槽403の上端側から下端側へ降下する。
【0029】
このとき、撹拌槽403の内壁403a近傍の溶融ガラスの少なくとも一部は、撹拌翼402の撹拌(回転)により、還流管405から導入管404内へ還流される。なお、撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる溶融ガラスは均質化され難いため、均質性に劣る。このため、この内壁403a近傍を流れる溶融ガラスを効率良く均質化できるか否により、高品質なガラスを得ることができるか否かが決まる。
【0030】
撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる溶融ガラスは、撹拌翼402の回転により撹拌槽403の内壁403aに沿って回転しながら降下する。つまり、撹拌槽403の内壁403a近傍を螺旋状に流れることになる。ここで、還流管405は、角度θが鋭角となるように撹拌槽403に接続されている。このため、撹拌槽403の内壁403a近傍を螺旋状に流れる溶融ガラスの少なくとも一部は、撹拌槽403の内壁403a近傍を這うようにして流れるので還流管405内へと流れ込む。
【0031】
なお、撹拌翼402は、溶融ガラスに対し還流管405内へ流れ込む回転運動を付与できる位置に設けられていればよく、必ずしも、図2のように側面視した状態(断面図の状態)において、撹拌翼402のパドル位置が、還流管405の一端(図2の405a側)の位置と重複する必要はない。
【0032】
還流管405内へと流れた溶融ガラスは、還流管405内を伝って導入管404の中心部近傍へ還流される。この還流された溶融ガラスは、図2に示すように、回転軸401近傍、すなわち、撹拌槽403の中心軸近傍に流れ込む。撹拌槽403の中心軸近傍では、撹拌翼402による撹拌作用が高いため、還流された均質性の低い溶融ガラスは、撹拌翼402により回りを流れる溶融ガラスと十分に撹拌されて均質性の高い溶融ガラスとなる。
【0033】
すなわち、導入管404から導入される溶融ガラスの内、導入管404内の中心部近傍を流れる溶融ガラスは、撹拌翼402の撹拌作用により均質化される。一方、導入管404内の下部を流れる溶融ガラスの内、撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる均質性の低い溶融ガラスは、還流管405により導入管404内の中心部近傍へ還流され、撹拌翼402により回りを流れる溶融ガラスと十分に撹拌されて均質性の高い溶融ガラスとなる。従って、撹拌装置40からは、均質性の高い溶融ガラスが導出管406からガラス成形装置50へ導出される。
【0034】
図4(a)及び図4(b)は、撹拌槽403と還流管405との接続部を含む断面図である。図3に示した撹拌装置40では、還流管405の一端側405aの端部形状を円弧状とし、撹拌槽403の外周面に合わせて接続していたが、図4(a)、図4(b)に示すように、還流管405の一端側405aの端部が撹拌槽403内へ突き出た状態で接続していても構わない。
【0035】
図4に示す接続とした場合、還流管405の端部が撹拌槽403内へ突き出ているので、撹拌槽403内を螺旋状に降下する溶融ガラスが還流管405内に取り込まれ易くなるために、導入管404から撹拌槽403へ導入される溶融ガラスに含まれる還流管405から導入管404へ還流した溶融ガラスの割合(以下、還流率と称する)が向上する。
【0036】
なお、図4に示す接続とした場合、撹拌翼402が、還流管405の撹拌槽403内へ突き出た部分へ接触しないようにするため、撹拌翼402の径を短くする、すなわち撹拌翼402を短くする必要があることに注意する。また、還流率を向上するためには、撹拌翼402の一分間当たりの回転数(rpm)を上げることが考えられるが、撹拌翼402の一分間当たりの回転数を上げ過ぎると、溶融ガラスに再沸泡が生じたり、撹拌翼402の表面が剥がれて溶融ガラスに混入する虞がある。このため、撹拌翼402の一分間当たりの回転数は、溶融ガラスに再沸泡が生じたり、撹拌翼402の表面が剥がれたりしない程度に抑える必要がある。
【0037】
以上のように、この実施形態に係る撹拌装置40では、一端側405aが撹拌槽403に、他端側405bが導入管404に各々接続されており、撹拌槽403内の溶融ガラスを導入管404内へ還流させる還流管405を備え、導入管404内の下部を流れる溶融ガラスの内、撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる均質性の低い溶融ガラスをこの還流管405により導入管404内の中心部近傍へ還流しているので、溶融ガラスを効率的に撹拌して、高品質なガラスを供給することができる。
【実施例】
【0038】
次に、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例1及び比較例1では、実際の炉(以下、実炉と称する)ではなく、実炉を模した実験炉を使用している。この実験炉では、溶融ガラスの代わりに流体として水あめを使用している。溶融ガラスと水あめでは、粘性及び比重が異なるため、この実験炉では、以下の表1に示すように種々の物性値を設定し、実験炉におけるレイノルズ数を実炉と一致させた。これにより、実験炉における水あめの挙動が実炉における溶融ガラスの挙動と一致するようにしている。なお、表1は輸送管内におけるレイノルズ数のパラメータである。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の物性値について説明する。
1.粘度は、溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の粘度である。
2.密度は、溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の密度である。
3.代表速度は、導入管内における溶融ガラス(実炉)、水あめ(実験炉)の流速である。
4.代表径は、実炉及び実験炉における導入管の内径である。
【0041】
表1から、実験炉におけるレイノルズ数が、実炉のレイノルズ数と一致していることがわかる。なお、実験炉の物性値を表1のように設定することにより、実験系の時間スケール、すなわち実験炉における流体(水あめ)の流速は、実炉の1/4(4分の1)程度となっている。また、流量[g/min]は、一分間当たり重量が実炉の15%となっている。
【0042】
(実施例1)
初めに、実施例1に係る実験炉Aの構成について説明する。
図5は、実施例1に係る実験炉Aの構成断面図である。以下、図5を参照して、この実施例1について説明する。なお、図2で説明した構成と同じ構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0043】
導入管404の内径D1、還流管405の内径D2及び撹拌槽403の内径D3は、ぞれぞれ50mm、26mm及び120mmである。撹拌槽403の高さL1(撹拌槽403の底面から撹拌槽403の縁まで)は、465mmである。導入管404、還流管405及び撹拌槽403の材質は、アクリルである。
【0044】
撹拌槽403と撹拌翼402との隙間(クリアランス)C1は、12.5mmである。撹拌槽403の底部と回転軸401の下端との隙間(クリアランス)C2は、11mmである。また、この実施例1では、図3で説明した、還流管405の中心線分α-βと還流管405の中心線線分γ-δとの角度θがほぼゼロとなっている。
【0045】
次に、実施例1の実験方法について説明する。なお、この実施例1では、還流管405内を還流する水あめの流量を撹拌翼40により制御できること及び水あめを還流させることにより、着色剤が拡散されることを確認した。
【0046】
(実験1)
実施例1では図5に示す撹拌槽403、導入管404、還流管405及び導出管406を水あめで満たし、撹拌装置Aを流れる水あめの流量が18.8[g/min]となるように調整した。
【0047】
次に、水あめが還流管405内へ導入されるように撹拌翼402を回転させて(図3では、左(反時計)回り)、水あめが還流管405内を流れる速さを測定した。なお、水あめの流速は、着色剤を図5に示す位置P2から導入し、この着色剤が還流管405内を流れる速さを測定して算出した。
【0048】
なお、一般的に、管内を流れる流体の速さは、管内の中心部が最も早く、管壁に近づくにつれて、中心からの距離の2乗に比例して遅くなる。今回の実施例1では、図5の位置P2から導入した着色剤のうち最も早く流れる着色剤から水あめの流量を算出した。
【0049】
具体的には、還流管405内における水あめの流れが層流であることから、還流管405内の水あめの流量は、以下の(1)式(ハーゲン・ポアズイユの式)から求めることができる。
【数1】
ここで、u(t)は流下方向の流速、rは還流管405中心からの断面方向の距離、gは重力加速度、Ieは動水勾配またはエネルギー勾配、vは動粘性係数、aは還流管405の半径である。
【0050】
上記条件の下、撹拌翼402の回転数を0、10、20rpmの3段階に変化させて、還流管405内へ還流される水あめの流量を調べた。結果を以下の表2に示す。なお、表2中の「回転数」は、撹拌翼402の回転数(時計回りが正(図3参照))、「流量」は、還流管405内を流れる水あめの流量(導入管404から撹拌槽403の向きが正)、「調整幅」は、撹拌翼402が回転していない際の還流管405内を流れる水あめの流量(導入管404から撹拌槽403の向きが正)を100%とした相対的な数値である。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、撹拌翼402の回転数の増加に伴い、還流管405内を還流する水あめの流量も増えることがわかる。すなわち、撹拌翼402の回転数を制御することにより、還流管405内の水あめの還流量を制御できることがわかる。
【0053】
(実験2)
次に、実験1と同一の条件(撹拌翼402の回転数は、10rpm)で、図5のP3の位置から着色剤を導入した。図5のP3の位置から導入した着色剤の一部(特に、撹拌槽403の内壁403a近傍を流れる着色剤)は、図5の矢印Aに示すように還流管405から導入管404の中心部付近へ還流された。そして、撹拌翼402による撹拌作用が高い領域である回転軸401近傍に流れ込んだ後、色が薄くなった状態、すなわち、撹拌翼402により十分に撹拌された状態で導出管406から導出されることを確認した。また、還流された着色剤の一部は、再度、還流管405内へ導入されることを確認した。
【0054】
(実験3)
なお、発明者らは、図5に示した実験炉Aにおいて、撹拌翼402を時計方向に回転させた場合における還流管405内を流れる水あめの流量についても調べた。その結果を以下の表3に示す。なお、表3中の「回転数」、「流量」、「調整幅」の意味は、表2を参照して説明した「回転数」、「流量」、「調整幅」と同じ意味である。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示す結果から、撹拌翼402を時計方向(図3参照)に回転させた場合にも、撹拌翼402の回転を制御することにより還流管405内を流れる水あめの流量を制御できることがわかった。なお、この場合、還流管405内を流れる水あめは、導入管404から撹拌槽403の向きに流れることに留意する。
【0057】
(比較例1)
図6は、比較例1に係る実験炉Bの構成断面図である。以下、図6を参照して、この比較例1について説明する。図6に示すように、この比較例1に係る実験炉Bは、還流管405を具備していいない。そのほかの構成は、図2で説明した構成と同じであるため、同一の構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0058】
この比較例1では、図6に示すP3,P4から着色剤を導入し、撹拌槽403内における水あめの流れを観察した。この比較例1に係る実験炉では、図6のP4,P5の位置から導入した着色剤は、図6の矢印B,Cに示すように、どちらも撹拌槽403の内壁403aと撹拌翼402との間を、撹拌翼402の撹拌作用がおよぶ領域内の水あめよりもゆっくりとした速度で、螺旋を描きながらゆっくりと降下する様が観察された。
【0059】
そして、着色剤は、撹拌翼402により拡散されることなく導出管406から導出された。つまり、撹拌槽403の内壁403aの近傍を流れる水あめは、撹拌翼402の撹拌作用によって均質化されていないことが分かる。
【0060】
(比較結果)
実施例1と比較例1との比較から、撹拌槽403の内壁403aの表面近傍を這うようにして流れる溶融ガラスを導入管404の中心部近傍に還流させる還流管405を設けることで、撹拌槽403における撹拌能力を大幅に向上できることがわかった。
【0061】
以上のように、本発明の撹拌装置では、還流管405内を流れる溶融ガラスの向きと、還流管405の中心線が撹拌槽403の外周面と交わった位置での接線との角度θが鋭角となるように、還流管405を撹拌槽403に接続し、撹拌翼402を回転させることで、撹拌槽403の内壁403aの表面近傍を這うようにして流れる溶融ガラスを導入管404の中心部近傍に還流させている。このため、撹拌槽403における撹拌能力を大幅に向上することができる。また、撹拌翼402の回転数を制御することで、還流させる溶融ガラスの流量を制御することができるので、溶融ガラスの撹拌を最適な状態に保つことができる。
【0062】
(その他の実施形態)
図7は、その他の実施形態に係る撹拌装置40Aの断面図である。この他の実施形態では、実施形態に係る撹拌装置40をライザに適用した例を示す。なお、図2で説明した構成と同一の構成には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0063】
この他の実施形態に係る撹拌装置40Aのように、溶融ガラスが下側から上側へ流れる場合でも、一端側405aを撹拌槽403に、他端側405bを導入管404に各々接続して、撹拌槽403内の溶融ガラスを導入管404内へ還流させることにより、溶融ガラスの撹拌効率を向上させることができる。
【0064】
なお、実施形態に係る撹拌装置40と同様に、還流管405の他端側405bを導入管404の中心付近まで延伸して、溶融ガラスが導入管404の中心付近に還流されるようにすることに留意する。また、図3に示したように、撹拌槽403との接続は、還流管405の中心線と、還流管405の中心線が撹拌槽403の外周面と交わった位置P1での接線との角度θが鋭角となるように撹拌槽403に接続することに留意する。
【0065】
また、実施例1の実験2では、導入した着色剤が効率よく撹拌できることが確認できた。このことから、本願発明の撹拌装置は、ガラスの着色にも適用することが可能であることがわかる。例えば、車両や建材等の紫外線赤外線吸収ガラスとして、適宜の着色剤をガラスに含有させる場合に、本発明の撹拌装置を用いて、色ムラのない均一な色の着色ガラスを得ることが可能である。
【0066】
この場合、図1に示した溶融窯10とライザ20との間のガラス搬送路にガラス着色成分(着色剤を含むフリットやカレット)を供給する装置を設けてガラスを所望の色に着色するが、溶融ガラスと着色成分との混ざり具合が均一でないと成形されたガラスが色ムラ等の不具合がでるおそれがある。しかしながら、上記実施例1の実験2で分かったように、本発明の撹拌装置は、溶融ガラスと着色成分とを効率よく撹拌することが可能であり、これらを均一に混ぜることができ、よって色ムラの生じない着色ガラスを形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の撹拌装置及び撹拌方法は、溶融ガラスの撹拌に用いることができ、特に、高い品質が求められる液晶ディスプレイや半導体分野等で使用される溶融ガラスの撹拌に好適である。
【符号の説明】
【0068】
1…ガラスの製造装置、10…溶融窯、20…ライザ、30…清澄槽(リファイナ)、40,40A…撹拌装置、50…ガラス成形装置、401…回転軸、402…撹拌翼、403…撹拌槽、404…導入管、405…還流管、406…導出管。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7