(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールとを備え、前フィードロールの周速度をキャンロールの周速度より遅くしてキャンロールに搬入される長尺帯状体に対し搬入張力を付与し、かつ、後フィードロールの周速度をキャンロールの周速度と同一若しくはキャンロールの周速度より速くしてキャンロールから送り出される長尺帯状体に対し搬出張力を付与しながら長尺帯状体の搬送を行なう搬送制御方法において、
(A)事前の搬送条件設定段階において上記前フィードロールの周速度を低速から高速へ連続的に変化させ、キャンロールに搬入される長尺帯状体がスリップする状態から前フィードロールとキャンロール間で弛む状態になるまで、下記定義の「前フィード率」を連続的に変化させる周速度調整工程と、
(B)上記周速度調整工程において「前フィード率」を連続的に変化させたときの「キャンロールのモータ軸トルクCn」と「前フィードロールのモータ軸トルクFn」をそれぞれ測定し、下記数式(1)から計算される長尺帯状体の「搬入張力」Ffをその都度求める搬入張力計算工程と、
(C)連続的に変化させた「前フィード率」と、各「前フィード率」に対応する長尺帯状体の「搬入張力」Ffとの関係をグラフ化し、得られたグラフから「搬入張力」Ffが高過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体がスリップしてしまうことが確認される「スリップ領域」と、「搬入張力」Ffが低過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体が弛んでしまうことが確認される「弛み領域」と、これ等「スリップ領域」と「弛み領域」間に存在して長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことなくキャンロールの外周面に密着しながら搬送されることが確認される「グリップ領域」をそれぞれ求め、求めた「グリップ領域」の範囲内から「搬入張力」Ffを設定する条件設定工程と、
(D)「グリップ領域」の範囲内から設定した上記「搬入張力」Ffが一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御する制御工程、
を具備することを特徴とする長尺帯状体の搬送制御方法。
「前フィード率」=(前フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100
搬入張力Ff=Cn×Cg÷Cr−Fn×Fg÷Fr 式(1)
(但し、式1中、Cgはキャンロールのギア比、Crはキャンロールのロール半径を示し、Fgは前フィードロールのギア比、Frは前フィードロールのロール半径を示す)
上記制御工程のトルク制御が、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」が最小となる条件にしていることを特徴とする請求項1に記載の長尺帯状体の搬送制御方法。
上記前フィードロールのサーボモータを制御する手段が、「搬入張力」Ffの変動を抑制するフィードバック手段を備えて、前フィードロールの「モータ軸トルクFn」を制御していることを特徴とする請求項1または2に記載の長尺帯状体の搬送制御方法。
「グリップ領域」の範囲内から設定される上記「搬入張力」Ffの値が、「スリップ領域」における搬入張力の最小値をH1、「弛み領域」における搬入張力の最大値をH2とした場合、[H2+0.1×(H1−H2)]〜[H2+0.9×(H1−H2)]の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長尺帯状体の搬送制御方法。
(後フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100=「後フィード率」で定義される後フィードロールの上記「後フィード率」が、100%以上101%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の長尺帯状体の搬送制御方法。
長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールが減圧室内に配置され、かつ、キャンロールの外周面近傍に設けられた表面処理手段により長尺帯状体の表面処理を行なう方法において、
上記長尺帯状体を搬送する制御手段が、請求項1〜7のいずれかに記載の長尺帯状体の搬送制御方法で構成されていることを特徴とする長尺帯状体の表面処理方法。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体が皺等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、接着剤により金属箔を耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより耐熱性樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
そして、メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。尚、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する場合は、以下に述べるスパッタリングウェブコーターを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上述したスパッタリング法は、一般に成膜された金属薄膜等の密着力に優れる利点を有する反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱的負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱的負荷がかかると、フィルムに皺が発生し易くなることも知られている。この皺の発生を防ぐため、スパッタリングウェブコーターでは、ロール・ツー・ロール等により搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムを、冷却機能を有するキャンロールに密着させながら巻き付けることで成膜中の耐熱性樹脂フィルムを裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば、特許文献3には、上記スパッタリングウェブコーターの一例である巻出巻取式(ロール・ツー・ロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、冷却用キャンロールとして機能するクーリングロールを具備し、更に、クーリングロールの少なくとも耐熱性樹脂フィルムの搬入側(搬送上流側)にサブロール(前フィードロール)が設けられており、このサブロールによって耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着させる制御が行われている。
【0007】
また、回転駆動される上記前フィードロールの周速度を、同じく回転駆動されるキャンロールの周速度より相対的に遅く設定することで耐熱性樹脂フィルムに引っ張り力を作用させ、耐熱性樹脂フィルムを若干伸ばしながらキャンロールに密着させる方法も知られている。このフィルムの搬送制御方法を「ドロー制御」と呼ぶことがある。
【0008】
尚、非特許文献1には、真空中でのウェブ基板の熱伝達が紹介され、また、非特許文献2には、真空中におけるドラム(キャンロール)の設計が記載されている。
【0009】
以下、従来から広く利用されているスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50の概略構成を
図1に示す。
【0010】
すなわち、このスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50は、長尺帯状体である長尺樹脂フィルム52を巻き出す巻出ロール51と、長尺樹脂フィルム52を巻き取る巻取ロール64と、巻出ロール51と巻取ロール64間に設けられかつ内部で冷媒が循環していると共に回転駆動される冷却用のキャンロール56と、キャンロール56の上流側に設けられかつ回転駆動されると共に巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52をキャンロール56に搬入させる前フィードロール55と、キャンロール56の下流側に設けられかつキャンロール56から送り出される長尺樹脂フィルム52を上記巻取ロール64側へ搬出させる後フィードロール61が減圧室内に配置された構造を有しており、かつ、成膜手段であるスパッタリングカソード57、58、59、60が上記キャンロール56の外周面に沿って設けられている。尚、
図1中、符号53は長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール、符号54は搬送上流側において長尺樹脂フィルム52の張力測定を行なう張力センサロール、符号62は搬送下流側において長尺樹脂フィルム52の張力測定を行なう張力センサロール、符号63は長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロールをそれぞれ示している。
【0011】
そして、従来のスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50においては、搬送される長尺樹脂フィルム52をキャンロール56に密着させるため上記「ドロー制御」が採られている。すなわち、キャンロール56の周速度より前フィードロール55の周速度を相対的に遅く設定し、前フィードロール55とキャンロール56間において長尺樹脂フィルム52に引っ張り力を作用させ、キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム52を密着させる制御方法が採られている。尚、「キャンロール56の周速度」に対する「前フィードロール55の周速度」の比率、すなわち(前フィードロール55の周速度÷キャンロール56の周速度)×100を「前フィード率」と定義している。
【0012】
ところで、スパッタリング成膜時における長尺樹脂フィルム52への上記熱的負荷を抑制するには、キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム52を密着させることが重要となる。そして、キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム52を密着させるには、長尺樹脂フィルム52を引っ張りながらキャンロール56に搬入させることが必要となり、長尺樹脂フィルム52搬入時における張力(搬入張力)が重要なパラメータとなる。
【0013】
しかし、
図1に示すように上記キャンロール56と前フィードロール55は極めて接近した位置関係で配置されているため、キャンロール56と前フィードロール55間に上述した張力センサロールを配置することは困難である。
【0014】
このため、引っ張り過ぎにより長尺樹脂フィルム52がスリップして擦り傷が入らないような搬入条件に設定して、具体的には「キャンロール56の周速度」に対する「前フィードロール55の周速度」の比率、すなわち上記「前フィード率」を適正に設定して行なわれており、この「前フィード率」の設定については、過去の経験則やスパッタリングウェブコーターの窓から皺発生の有無を直接観察する等の方法にて適宜調整していた。
【0015】
しかしながら、長尺樹脂フィルムの種類、厚み、表面状態等によりそれぞれの条件が相違するため、過去の経験則によって上記「前フィード率」を適正に設定することは実際上困難であり、現実的には皺発生の有無をスパッタリングウェブコーターの窓から直接観察しながら「前フィード率」を設定せざるを得ない煩雑さが存在した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、長尺帯状体に作用する搬入張力Ffに関し、長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことのない適正条件内に保持できる方法(すなわち、長尺帯状体の搬送制御方法)を提供し、かつ、長尺帯状体の表面処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
すなわち、請求項1に係る発明は、
長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールとを備え、前フィードロールの周速度をキャンロールの周速度より遅くしてキャンロールに搬入される長尺帯状体に対し搬入張力を付与し、かつ、後フィードロールの周速度をキャンロールの周速度と同一若しくはキャンロールの周速度より速くしてキャンロールから送り出される長尺帯状体に対し搬出張力を付与しながら長尺帯状体の搬送を行なう搬送制御方法において、
(A)事前の搬送条件設定段階において上記前フィードロールの周速度を低速から高速へ連続的に変化させ、キャンロールに搬入される長尺帯状体がスリップする状態から前フィードロールとキャンロール間で弛む状態になるまで、下記定義の「前フィード率」を連続的に変化させる周速度調整工程と、
(B)上記周速度調整工程において「前フィード率」を連続的に変化させたときの「キャンロールのモータ軸トルクCn」と「前フィードロールのモータ軸トルクFn」をそれぞれ測定し、下記数式(1)から計算される長尺帯状体の「搬入張力」Ffをその都度求める搬入張力計算工程と、
(C)連続的に変化させた「前フィード率」と、各「前フィード率」に対応する長尺帯状体の「搬入張力」Ffとの関係をグラフ化し、得られたグラフから「搬入張力」Ffが高過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体がスリップしてしまうことが確認される「スリップ領域」と、「搬入張力」Ffが低過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体が弛んでしまうことが確認される「弛み領域」と、これ等「スリップ領域」と「弛み領域」間に存在して長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことなくキャンロールの外周面に密着しながら搬送されることが確認される「グリップ領域」をそれぞれ求め、求めた「グリップ領域」の範囲内から「搬入張力」Ffを設定する条件設定工程と、
(D)「グリップ領域」の範囲内から設定した上記「搬入張力」Ffが一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御する制御工程、
を具備することを特徴とする。
「前フィード率」=(前フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100
搬入張力Ff=Cn×Cg
÷Cr−Fn×Fg
÷Fr 式(1)
(但し、式1中、Cgはキャンロールのギア比、Crはキャンロールのロール半径を示し、Fgは前フィードロールのギア比、Frは前フィードロールのロール半径を示す)
【0020】
また、請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
上記制御工程のトルク制御が、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」が最小となる条件にしていることを特徴とし、
請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
上記前フィードロールのサーボモータを制御する手段が、「搬入張力」Ffの変動を抑制するフィードバック手段を備えて、前フィードロールの「モータ軸トルクFn」を制御していることを特徴とし、
請求項4に係る発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
「グリップ領域」の範囲内から設定される上記「搬入張力」Ffの値が、「スリップ領域」における搬入張力の最小値をH1、「弛み領域」における搬入張力の最大値をH2とした場合、[H2+0.1×(H1−H2)]〜[H2+0.9×(H1−H2)]の範囲内に設定されていることを特徴とし、
請求項5に係る発明は、
請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
前フィードロールの上記「前フィード率」が99.7%以上100%未満であることを特徴とし、
請求項6に係る発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
(後フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100=「後フィード率」で定義される後フィードロールの上記「後フィード率」が、100%以上101%以下であることを特徴とし、
請求項7に係る発明は、
請求項1〜6のいずれかに記載の発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法において、
上記長尺帯状体が、長尺樹脂フィルムであることを特徴とする。
【0021】
次に、請求項8に係る発明は、
長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールが減圧室内に配置され、かつ、キャンロールの外周面近傍に設けられた表面処理手段により長尺帯状体の表面処理を行なう方法において、
上記長尺帯状体を搬送する制御手段が、請求項1〜7のいずれかに記載の長尺帯状体の搬送制御方法で構成されていることを特徴とし、
請求項9に係る発明は、
請求項8に記載の発明に係る長尺帯状体の表面処理方法において、
上記表面処理手段が、乾式めっき手段であることを特徴とし、
請求項10に係る発明は、
請求項9に記載の発明に係る長尺帯状体の表面処理方法において、
上記乾式めっき手段が、スパッタリング成膜手段であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る長尺帯状体の搬送制御方法によれば、
長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールとを備え、前フィードロールの周速度をキャンロールの周速度より遅くしてキャンロールに搬入される長尺帯状体に対し「搬入張力」Ffを付与し、かつ、後フィードロールの周速度をキャンロールの周速度と同一若しくはキャンロールの周速度より速くしてキャンロールから送り出される長尺帯状体に対し搬出張力を付与しながら長尺帯状体の搬送を行なう搬送制御方法において、
事前の搬送条件設定段階により求められた「グリップ領域」、すなわち、長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことなく搬送される「グリップ領域」から設定した上記「搬入張力」Ffが一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御しているため、巻出ロールから供給される長尺帯状体をキャンロールの外周面に確実に密着させながら搬送することが可能となる。
【0023】
従って、長尺帯状体に対しスパッタリング等の表面処理を行なった場合、長尺帯状体への熱的負荷に起因した皺の発生を効率よく抑制できる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
本発明の搬送制御方法は、長尺帯状体を巻き出す巻出ロールと、長尺帯状体を巻き取る巻取ロールと、巻出ロールと巻取ロール間に設けられかつサーボモータにより回転駆動されるキャンロールと、キャンロールの上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロールから供給された上記長尺帯状体をキャンロールに搬入させる前フィードロールと、キャンロールの下流側に設けられかつキャンロールから送り出される長尺帯状体を上記巻取ロール側へ搬出させる後フィードロールとを備え、前フィードロールの周速度をキャンロールの周速度より遅くしてキャンロールに搬入される長尺帯状体に対し「搬入張力」Ffを付与し、かつ、後フィードロールの周速度をキャンロールの周速度と同一若しくはキャンロールの周速度より速くしてキャンロールから送り出される長尺帯状体に対し搬出張力を付与しながら長尺帯状体の搬送を行なう搬送制御方法において、
事前の搬送条件設定段階により求められた「グリップ領域」、すなわち、長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことなく搬送される「グリップ領域」から設定した「搬入張力」Ffが一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御することを特徴とするものである。
【0027】
まず、本発明の搬送制御方法を説明する前に、本発明の搬送制御方法が採用されるスパッタリングウェブコーターについて説明する。
【0028】
尚、このスパッタリングウェブコーター(成膜装置)において、ロール・ツー・ロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムを長尺帯状体の一例として挙げている。
【0029】
(1)スパッタリングウェブコーター
スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50は、減圧室内に、
図1に示すように長尺樹脂フィルム52を巻き出す巻出ロール51と、長尺樹脂フィルム52を巻き取る巻取ロール64と、巻出ロール51と巻取ロール64間に設けられかつ内部で温調された冷媒が循環していると共にサーボモータにより回転駆動される冷却用キャンロール56と、キャンロール56の上流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共に巻出ロール51から供給された長尺樹脂フィルム52をキャンロール56に搬入させる前フィードロール55と、キャンロール56の下流側に設けられかつサーボモータにより回転駆動されると共にキャンロール56から送り出される長尺樹脂フィルム52を上記巻取ロール64側へ搬出させる後フィードロール61が配置された構造を有しており、かつ、成膜手段(乾式めっき手段)としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が上記キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0030】
また、上記巻出ロール51からキャンロール56までの上流側搬送路上には、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサロール54と、サーボモータにて回転駆動される前フィードロール55がそれぞれ配置されている。そして、サーボモータにて回転駆動されるキャンロール56に対しその周速度が遅くなるように調整された上記前フィードロール55により長尺樹脂フィルム52に搬入張力が作用し、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺樹脂フィルム52が、キャンロール56の外周面に密着し搬送されるようになっている。尚、「キャンロール56の周速度」に対する「前フィードロール55の周速度」の比率、すなわち、(前フィードロール55の周速度÷キャンロール56の周速度)×100を上述したように「前フィード率」と定義している。
【0031】
また、キャンロール56から巻取ロール64までの下流側搬送路上にも、サーボモータにて回転駆動される後フィードロール61と、長尺樹脂フィルム52の張力測定を行う張力センサロール62と、長尺樹脂フィルム52を案内するフリーロール63がそれぞれ配置されている。そして、キャンロール56に対しその周速度が同一若しくは速くなるように調整された上記後フィードロール61により長尺樹脂フィルム52に搬出張力が作用し、キャンロール56から巻取ロール64側に向けて長尺樹脂フィルム52が排出されるようになっている。また、「キャンロール56の周速度」に対する「後フィードロール61の周速度」の比率、すなわち、(後フィードロール61の周速度÷キャンロール56の周速度)×100を「後フィード率」と定義している。
【0032】
また、上記巻出ロール51と巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルム52の張力バランスが保たれるようになっている。更に、キャンロール56の回転と、これに連動して回転するサーボモータ駆動の前フィードロール55と後フィードロール61により、巻出ロール51から長尺樹脂フィルム52が巻き出されて上記巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0033】
また、スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50では、上述したように成膜手段(乾式めっき手段)としてマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が上記キャンロール56の外周面に沿って設けられている。
【0034】
そして、スパッタリング成膜に際して、スパッタリングウェブコーター50の減圧室内を到達圧力10
-4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50の形状や材質に関しては、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものが使用される。また、スパッタリングウェブコーター50における減圧室内の減圧状態を維持するため、スパッタリングウェブコーター50には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が付設されている。
【0035】
尚、金属膜のスパッタリング成膜の場合には、板状のターゲット(図示せず)を使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題となる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率が高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。また、
図1に示すスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50は、熱的負荷が掛かるスパッタリング処理を想定したものであることからマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が示されているが、熱的負荷の掛かる処理が蒸着処理等他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の成膜手段(乾式めっき手段)を備えることもできる。尚、熱的負荷が掛かる他の成膜手段(乾式めっき手段)として、CVD(化学的気相成長)または真空蒸着等がある。
【0036】
次に、
図1に示すスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50における主要部(巻出ロール51、前フィードロール55、キャンロール56、後フィードロール61、巻取ロール64)の回転駆動系(ドロー制御)について
図2を用いて説明する。
【0037】
図2に示すように冷却キャンロールの速度設定が基準となり、前フィードロールと後フィードロールそれぞれの「フィード率」が設定され、前フィードロール、冷却キャンロールと後フィードロールがそれぞれ設定された周速度で駆動するようになっている。冷却キャンロールと前後のフィードロールは、それぞれサーボモータで回転駆動されるので回転数等のフィードバックが掛かる。各サーボモータに接続されるコントローラは回転数等の情報を他のコントローラと相互に交換するので、前フィードロールと後フィードロールの「フィード率」は設定された値を維持できる。
【0038】
尚、
図2中における前フィードロールと後フィードロールの符号「×」は、冷却キャンロールの設定速度に「フィード率」を掛けることを意味している。
【0039】
また、
図2においては後フィードロールもサーボモータで回転駆動する構成になっているが、後フィードロールをサーボモータで駆動することなくフリーロールで構成しても、スパッタリングウェブコーター(成膜装置)における長尺樹脂フィルムの搬出効果を発揮させることは可能である。後フィードロールをフリーロールで構成した場合、後フィードロールの周速度は冷却キャンロールと略同じであり、後フィードロールと冷却キャンロール間において長尺樹脂フィルムが弛みを起こすことは生じ難い。但し、後フィードロールをフリーロールとせずにサーボモータで回転駆動すればより望ましいことは勿論である。
【0040】
尚、巻出ロールと巻取ロールは、巻出ロールから巻き出される長尺樹脂フィルムに作用する張力と巻取ロールに巻き取られる長尺樹脂フィルムに作用する張力が、それぞれの張力センサロールからの信号により指定張力となるようにトルク制御されて駆動する。
図1に示すスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50であれば、張力センサロール54は巻出ロール51と前フィードロール55の張力を測定し、その結果、巻出ロール51のトルクが制御される。巻取ロール64側も同様である。
【0041】
(2)本発明に係る搬送制御方法
本発明に係る搬送制御方法は、
(A)事前の搬送条件設定段階において前フィードロールの周速度を低速から高速へ連続的に変化させ、キャンロールに搬入される長尺帯状体がスリップする状態から前フィードロールとキャンロール間で弛む状態になるまで、下記定義の「前フィード率」を連続的に変化させる周速度調整工程と、
(B)上記周速度調整工程において「前フィード率」を連続的に変化させたときの「キャンロールのモータ軸トルクCn」と「前フィードロールのモータ軸トルクFn」をそれぞれ測定し、下記数式(1)から計算される長尺帯状体の「搬入張力」Ffをその都度求める搬入張力計算工程と、
(C)連続的に変化させた「前フィード率」と、各「前フィード率」に対応する長尺帯状体の「搬入張力」Ffとの関係をグラフ化し、得られたグラフから「搬入張力」Ffが高過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体がスリップしてしまうことが確認される「スリップ領域」と、「搬入張力」Ffが低過ぎて前フィードロールとキャンロール間の長尺帯状体が弛んでしまうことが確認される「弛み領域」と、これ等「スリップ領域」と「弛み領域」間に存在して長尺帯状体がスリップや弛みを起こすことなくキャンロールの外周面に密着しながら搬送されることが確認される「グリップ領域」をそれぞれ求め、求めた「グリップ領域」の範囲内から「搬入張力」Ffを設定する条件設定工程と、
(D)「グリップ領域」の範囲内から設定した上記「搬入張力」Ffが一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御する制御工程、
を具備することを特徴とするものである。
「前フィード率」=(前フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100
搬入張力Ff=Cn×Cg
÷Cr−Fn×Fg
÷Fr 式(1)
(但し、式1中、Cgはキャンロールのギア比、Crはキャンロールのロール半径を示し、Fgは前フィードロールのギア比、Frは前フィードロールのロール半径を示す)
【0042】
まず、
図3は、連続的に変化させた「前フィード率」(%)と各「前フィード率」に対応する長尺帯状体(長尺樹脂フィルム52を例示)の「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]との関係を模式的に示すグラフ図である。
【0043】
尚、「搬入張力」とは、前フィードロール55とキャンロール56間に存在する長尺樹脂フィルム52に作用する張力を意味し、長尺樹脂フィルム52がキャンロール56に搬入されるときに作用する張力である。
【0044】
スパッタリング成膜時における長尺樹脂フィルム52への熱的負荷を抑制するには、上述したようにキャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム52を密着させることが重要となる。そして、キャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルム52を密着させるには、長尺樹脂フィルム52を引っ張りながらキャンロール56に搬入させることが必要となり、長尺樹脂フィルム52搬入時における張力(搬入張力)が重要なパラメータとなる。
【0045】
しかし、
図1に示したように上記キャンロール56と前フィードロール55は極めて接近した位置関係で配置されているため、キャンロール56と前フィードロール55間に上述した張力センサロールを配置することは困難である。
【0046】
ところで、上記前フィードロール55とキャンロール56間に存在する長尺樹脂フィルム52に作用する「搬入張力」Ffについては、キャンロール56のモータ軸トルクCn、ギア比Cg、ロール半径Crとし、前フィードロール55のモータ軸トルクFn、ギア比Fg、ロール半径Frとした場合、下記数式(1)により求めることができる。
搬入張力Ff=Cn×Cg
÷Cr−Fn×Fg
÷Fr 式(1)
【0047】
尚、上記「搬入張力」Ffを求める場合、前フィードロール55とキャンロール56がサーボモータで駆動されるので、数式(1)に示したように両ロール前後の長尺樹脂フィルム52の張力を考慮する必要はない。
【0048】
ここで、前フィードロール55の周速度を低速から高速へ連続的に変化させて、キャンロール56に搬入される長尺樹脂フィルム52がスリップする状態から前フィードロール55とキャンロール56間で弛む状態になるまで「前フィード率」を連続的に変化させ(工程A)、かつ、「前フィード率」を連続的に変化させたときのキャンロール56のモータ軸トルクCnと前フィードロール55のモータ軸トルクFnをそれぞれ測定し、上記数式(1)から計算される長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ffをその都度求める(工程B)と共に、連続的に変化させた「前フィード率」(%)と各「前フィード率」に対応する長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]との関係をグラフ化すると、例えば、
図3に示すようなグラフ図が得られる。
【0049】
そして、得られた
図3のグラフ図から、「搬入張力」Ffが高過ぎて前フィードロール55とキャンロール56間に存在する長尺樹脂フィルム52がスリップしてしまうことが確認される「スリップ領域」と、「搬入張力」Ffが低過ぎて前フィードロール55とキャンロール56間に存在する長尺樹脂フィルム52が弛んでしまうことが確認される「弛み領域」と、これ等「スリップ領域」と「弛み領域」の中間に存在して長尺樹脂フィルム52がスリップや弛みを起こすことなくキャンロール56の外周面に密着しながら搬送されることが確認される「グリップ領域」をそれぞれ求める(工程C)ことができる。
【0050】
尚、
図3のグラフ図において「スリップ領域」となる「前フィード率」での長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ffは、キャンロール56のモータ軸トルクCnと前フィードロール55のモータ軸トルクFnに基づき数式(1)から求めた値[フィルム張力計算値(N)]であり、長尺樹脂フィルム52がスリップしているので、各ロールと長尺樹脂フィルム52の動摩擦により発生していると推定できる。一方、「弛み領域」となる「前フィード率」での長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ffも、キャンロール56のモータ軸トルクCnと前フィードロール55のモータ軸トルクFnに基づき数式(1)から求めた値[フィルム張力計算値(N)]であり、長尺樹脂フィルム52が弛んでいるので、前フィードロール55はキャンロール56に長尺樹脂フィルム52を送っているだけである。尚、長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ffが負なのは、スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50の機械的損失等による。
【0051】
そして、
図3に示された「スリップ領域」の条件では、長尺樹脂フィルム52にすり傷が付いてしまい好ましくない。他方、
図3に示された「弛み領域」の条件では、長尺樹脂フィルム52が弛んでしまいキャンロール56の外周面に密着させることができない。このため、長尺樹脂フィルム52がスリップや弛みを起こすことなくキャンロール56の外周面に密着される「グリップ領域」の条件内に「前フィード率」(%)並びに「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]を設定することが重要になる。
【0052】
尚、「スリップ領域」「弛み領域」および「グリップ領域」の各範囲は、長尺樹脂フィルム52の種類により、伸び易さ、滑り易さ、乾燥度合いや静電気等が相違するので、上記「前フィード率」並びに「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]と「グリップ領域」との関係は変化することがある。しかし、上記工程(A)から工程(C)の確認試験を経て「前フィード率」と長尺樹脂フィルム52の「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]との関係を求め、適正な「前フィード率」並びに「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]と「グリップ領域」との関係を知ることにより対応は可能である。
【0053】
このように、従来からの経験値(経験則)に頼ることなく工程(A)から工程(C)の確認試験を経ることで、前フィードロール55における適正な「前フィード率」並びに「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]と「グリップ領域」との関係を知ることができ、かつ、新しい品種のフィルムや膜厚、表面状態等にも敏速に対応できる顕著な効果を有する。
【0054】
次に、「グリップ領域」の範囲内から設定した上記「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]が一定となるように、キャンロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と、前フィードロールにおけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」それぞれを制御する制御工程(工程D)について
図4を用いて説明する。
【0055】
図4は、
図2に示したスパッタリングウェブコーターにおける主要部(巻出ロール、前フィードロール、冷却キャンロール、後フィードロール、巻取ロール)の回転駆動系(ドロー制御)に代えて、冷却キャンロール、前フィードロールと後フィードロールにおける各サーボモータのモータ軸トルク制御による回転駆動系(トルク制御)の構成を示している。
【0056】
図4中、冷却キャンロール、前フィードロール、後フィードロールにおける各コントローラ間の符号「−」は、冷却キャンロール、前フィードロール、後フィードロールにおける各サーボモータのモータ軸トルクの差を意味し、このトルク差により長尺樹脂フィルムが両端に引っ張られていることを示している。冷却キャンロールの速度設定が基準となり、前フィードロールと後フィードロールの「搬入張力」と「搬出張力」がそれぞれ設定される。
【0057】
そして、冷却キャンロールをフィルム搬送速度で回転させるサーボモータのモータ軸トルクが基準となり、前フィードロールの設定「搬入張力」と後フィードロールの設定「搬出張力」となるように、前フィードロールと後フィードロールにおけるサーボモータのモータ軸トルクをフィードバック制御することを
図4は示している。
【0058】
前フィードロールにおいては、コントローラが、設定した「搬入張力」Ffが一定となるように演算回路にて上記数式(1)に基づき「モータ軸トルクFn」を算出し、サーボモータを制御する。尚、この制御には公知のPID制御等を用いることができる。前フィードロールをサーボモータの「モータ軸トルクFn」で制御すると、「搬入張力」Ffの変動を抑制する(すなわち、Ffを一定にする)ことが可能となる。
【0059】
前フィード率(%)とフィルム張力計算値「搬入張力Ff」(N)との関係を示す
図3の「グリップ領域」における「前フィード率」で制御する「ドロー制御」に代えて、前フィードロールをサーボモータの「モータ軸トルクFn」で制御する「トルク制御」を採用した場合、「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]の変動幅を約半分に抑制することが可能である。例えば、キャンロールの外周面近傍に設けられたスパッタリングカソードによる成膜処理において、長尺樹脂フィルムがキャンロール外周面に密着しながら搬送されかつ「搬入張力」Ff[フィルム張力計算値(N)]の変動を抑制できるため、長尺樹脂フィルムのキャンロールへの密着性が向上すると考えられ、結果的に皺の発生を抑制することが可能となる。
【0060】
尚、
図4に示す回転駆動系(トルク制御)では、後フィードロールもサーボモータで回転駆動する構成になっているが、後フィードロールをサーボモータで駆動することなくフリーロールで構成してもスパッタリングウェブコーターにおける長尺樹脂フィルムの搬出効果を発揮させることは上述したように可能である。後フィードロールをフリーロールで構成した場合、後フィードロールの周速度は冷却キャンロールと略同じであり、後フィードロールと冷却キャンロール間において長尺樹脂フィルムが弛みを起こし難いからである。但し、後フィードロールをフリーロールとせずにサーボモータで回転駆動し、モータ軸トルク制御する場合には「搬出張力」の変動が抑制されるためより望ましいことは勿論である。
【0061】
ここで、
図4に示す回転駆動系(トルク制御)では、冷却キャンロール、前フィードロール、後フィードロール等の各ロールはサーボモータで回転駆動されるので、ギヤードモータと異なり、回転数とトルクを独立して変動させることが可能である。尚、巻出ロールと巻取ロールは、上述したようにそれぞれの張力センサロールからの信号により、指定張力になるようにトルク制御されて駆動する。
【0062】
次に、前フィード率(%)とフィルム張力計算値「搬入張力Ff」(N)との関係を示す
図3の「グリップ領域」における「前フィード率」で制御する「ドロー制御」方式に代えて、前フィードロールをサーボモータの「モータ軸トルクFn」で制御する「トルク制御」方式を採用した場合の優位性について説明する。
【0063】
例えば、長尺帯状体が「伸び難い長尺樹脂フィルム」で構成される場合、
図3に示すように「グリップ領域」における「前フィード率」の設定許容範囲が0.1%未満となることがある。このようなときに上記「搬入張力」Ffが一定となるようにサーボモータの「モータ軸トルク」で制御する「トルク制御」方式を採用した場合、「グリップ領域」におけるフィルム張力計算値「搬入張力Ff」(N)の設定許容範囲が、
図3に示すように100N〜300Nと広範囲になっているため、「前フィード率」で制御する「ドロー制御」方式より制御し易い優位性を有している。
【0064】
また、「前フィード率」で制御する「ドロー制御」方式では、フィードロール等を交換した場合、ロール直径の若干の誤差でも最適なフィード率に影響を与えるため、「グリップ領域」を再度の確認試験により求める必要を生ずるが、サーボモータの「モータ軸トルク」で制御する「トルク制御」方式の場合には、ロール直径の誤差による影響を殆ど受けない優位性を有している。
【0065】
更に、例えば、キャンロール、前フィードロール、後フィードロール等を加熱冷却制御する場合、「前フィード率」で制御する「ドロー制御」方式では、熱膨張に起因したロール直径の変化により最適なフィード率に影響を与えるため、「グリップ領域」を再度の確認試験により求める必要を生ずるが、サーボモータの「モータ軸トルク」で制御する「トルク制御」方式の場合には、ロール直径の変化による影響を殆ど受けない優位性を有している。
【0066】
ここまで前フィードロール55をサーボモータの「モータ軸トルクFn」で制御する方法について説明してきたが、以下、後フィードロール61について説明する。
【0067】
まず、
図2および
図4において、後フィードロールはサーボモータで回転駆動する構成になっているが、後フィードロールをサーボモータで駆動することなくフリーロールで構成してもスパッタリングウェブコーター(成膜装置)における長尺樹脂フィルムの搬出効果を発揮させることは可能である。後フィードロールをフリーロールで構成した場合、後フィードロールの周速度は冷却キャンロールと略同じであり、後フィードロールと冷却キャンロール間において長尺樹脂フィルムが弛みを起こし難いからである。
【0068】
しかし、「グリップ領域」の「後フィード率」(%)条件にて、サーボモータにより後フィードロール61を回転駆動することが望ましいしことは勿論である。前フィードロール55とキャンロール56の「搬入張力」Ffにより、長尺樹脂フィルム52をキャンロール56の外周面に密着させて搬送しても、長尺樹脂フィルム52がキャンロール56から離れていくに従い後フィードロール61付近で長尺樹脂フィルム52が弛むこともあり、後フィードロール61により長尺樹脂フィルム52を引っ張る必要がある場合もあるからである。特に、搬送速度、スパッタリングウェブコーター(成膜装置)の機械的性能、長尺樹脂フィルム等の種類、搬送条件等によっては、後フィードロール61をサーボモータで回転駆動し、「グリップ領域」の「後フィード率」(%)条件にて制御する必要があることに留意すべきである。
【0069】
ここで、上記後フィードロール61の周速度は、キャンロール56の周速度と同一若しくはキャンロール56の周速度より速くする必要がある。後フィードロール61の周速度がキャンロール56の周速度より遅い場合、長尺樹脂フィルム52がキャンロール56から離れる箇所において弛むことがあるからである。また、(後フィードロールの周速度÷キャンロールの周速度)×100で定義される「後フィード率」(%)については、必ずしも「前フィード率」(%)の逆数とするのではなく、長尺樹脂フィルム52がキャンロール56と後フィードロール61間でスリップすることがないフィード率を選択すればよい。
【0070】
次に、「グリップ領域」の範囲内から設定される前フィードロール55の上記「搬入張力」[フィルム張力計算値(N)]Ffの値については、前フィードロール55とキャンロール56間の長尺樹脂フィルム52がスリップしてしまうことが確認される「スリップ領域」における搬入張力[フィルム張力計算値(N)]の最小値をH1とし、前フィードロール55とキャンロール56間の長尺樹脂フィルム52が弛んでしまうことが確認される「弛み領域」における搬入張力[フィルム張力計算値(N)]の最大値をH2とした場合、上記「搬入張力」[フィルム張力計算値(N)]Ffの値が[H2+0.1×(H1−H2)]〜[H2+0.9×(H1−H2)]の範囲内に設定されていることが好ましい。この理由は、前フィードロール55の上記「搬入張力」[フィルム張力計算値(N)]Ffの値が、静電気等の予期せぬ状況により「スリップ領域」や「弛み領域」に入ってしまうことが無いようにするためである。
【0071】
そして、前フィードロール55の周速度が上記「グリップ領域」内とするため、前フィードロール55の「前フィード率」(%)は、99.7%以上100%未満とすることが望ましい。
【0072】
また、後フィードロール61の「後フィード率」(%)については、キャンロール56と後フィードロール61間の長尺樹脂フィルム52がスリップし、弛んでしまうことがないようにするため100%以上101%以下とすることが望ましい。
【0073】
ところで、
図3に示す「グリップ領域」の範囲内から設定した「搬入張力」Ffが一定となるように、上記キャンロール56におけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」と前フィードロール55におけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」をそれぞれ制御する「トルク制御」方式を具体的に実施する場合、キャンロール56におけるサーボモータの「モータ軸トルクCn」が不必要に大きな数値とならないようにする(言い換えると前フィードロール55におけるサーボモータの「モータ軸トルクFn」が最小となるようにする)ため、上記前フィードロール55を中央にして、上流側に存在する長尺樹脂フィルム52の張力(張力センサロール54により測定される張力)が、下流側に存在する長尺樹脂フィルム52の張力(すなわち、「グリップ領域」の範囲内から設定された上記「搬入張力」Ff)より低い値(好ましくは上記「搬入張力」Ff値の30%以上100%未満の数値)となるように調整するとよい。例えば、前フィードロール55とキャンロール56間に存在する長尺樹脂フィルム52の張力(すなわち、「搬入張力」Ff)が200Nに設定されているとすれば、前フィードロール55より上流側に存在する長尺樹脂フィルム52の張力(張力センサロール54により測定される長尺樹脂フィルム52の張力)が上記「搬入張力」Ff(200N)より低い値、例えば100Nに設定するとよい。
【0074】
(3)表面処理方法等
本発明の搬送制御方法は、上記スパッタリングウェブコーター(成膜装置)以外にも、例えば、プラズマ処理やイオンビーム処理にも好適に使用することができる。
【0075】
すなわち、キャンロール上で行われるプラズマ処理やイオンビーム処理は、長尺樹脂フィルムの表面改質を目的として真空チャンバー内の減圧雰囲気下で行われるが、長尺樹脂フィルムに熱的負荷が掛かる処理であるため皺発生の原因となる。このため、本発明の搬送制御方法を適用することにより、キャンロールと長尺樹脂フィルムを密着させることができることから皺の発生を抑制することが可能となる。
【0076】
尚、プラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法により例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスからなる減圧雰囲気下において放電を行うことで、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムを処理する方法である。また、イオンビーム処理とは、公知のイオンビーム源を用い、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして照射することにより長尺樹脂フィルムを処理する方法である。
【0077】
次に、本発明に係る搬送制御方法の対象となる長尺帯状体には、上述した長尺樹脂フィルムに加えて長尺の金属箔等も用いることが可能で、本発明の搬送制御方法を適用することにより、リチウムイオン二次電池等の集電体の金属箔に乾式めっき法による表面処理を効率よく施すことも、銅箔の表面にNi合金等をスパッタリングして3層基板に用いる銅箔の製造に応用することも可能である。そして、金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムに用いられる長尺樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。これ等の耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましいものである。
【0078】
長尺樹脂フィルムとして耐熱性樹脂フィルムを用い、かつ、金属膜をスパッタリング等により成膜することで金属膜付耐熱性樹脂フィルムが得られる。具体的には、金属膜付耐熱性樹脂フィルムのスパッタリングウェブコーター(成膜装置)を用いるメタライジング法により、皺のない金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造することができる。
【0079】
上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムとしては、耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等からなる膜とCu膜が積層された構造体が例示される。このような構造を有する金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、上記サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0080】
上記Ni合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、Ni−Cr合金またはインコネル、コンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。また、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの金属膜を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理(すなわち、電解めっき処理)のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0081】
このようにして、皺発生のない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製し、液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線基板に適用することができる。
【0082】
尚、上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。この場合にも、酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明の搬送制御方法を用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。
【0084】
図1に示すスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50を用いて、長尺樹脂フィルム52上にシード層であるNi−Cr膜を成膜し、その上にCu膜を成膜した。尚、長尺樹脂フィルム52には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの東レ・ディポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0085】
上記スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50のキャンロール56は、直径900mm、幅750mmであり、前フィードロール55と後フィードロール61は、それぞれ直径200mm、幅750mmである。尚、全てのロール表面には、ハードクロムめっきを施した。
【0086】
上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)52上に、シード層であるNi−Cr膜とCu膜を成膜するため、マグネトロンスパッタリングカソード57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタリングカソード58〜60にはCuターゲットを使用した。また、アルゴンガスを300sccmで導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロール51と巻取ロール64の張力は80Nとし、キャンロール56は水冷により20℃に制御した。
【0087】
そして、巻出ロール51に上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)をセットし、キャンロール56を経由してポリイミドフィルムの先端部を巻取ロール64に取り付けた。また、減圧室(真空チャンバー)を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0088】
次に、「グリップ領域」範囲内の「搬入張力」Ffを求めるため、上記スパッタリングウェブコーターにおける回転駆動系を
図2に示す「ドロー制御」で構成し、かつ、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分にした。
【0089】
そして、「前フィード率」を99.00%〜101.00%まで変化させてキャンロール56へのフィルム搬入張力を数式(1)で計算し、
図3のグラフを求めた。このグラフから「グリップ領域」の中間付近である「前フィード率」99.95%に対応する「搬入張力」Ffが「280N」であることを求めた。
【0090】
次に、上記スパッタリングウェブコーターにおける回転駆動系を
図4に示す「トルク制御」の構成に変更し、「グリップ領域」範囲内の「搬入張力」Ffを「280N」に設定すると共に、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分とした。尚、前フィードロール55側へ搬送されてくる上流側の耐熱性ポリイミドフィルムに作用する張力が、上記「搬入張力」Ff(280N)より低い値の「120N」であることを張力センサロール54により確認した。
【0091】
次に、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、Ni−Cr膜およびその上にCu膜の成膜を開始した。このとき、前フィードロール55とキャンロール56の各モータ軸トルクから、上記数式(1)により計算される[フィルム張力計算値(N)]を
図5に示す。
【0092】
この
図5のグラフから、経過時間に対する[フィルム張力計算値(N)]の変動幅は、約±5%であった。
【0093】
そして、成膜中におけるキャンロール56上のポリイミドフィルム表面観察が可能なスパッタリングウェブコーター(成膜装置)の観察窓(図示せず)から観察しながら、各カソードへの印加電力を徐々に増加していった。その結果、スパッタリングの熱的負荷による皺が発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)は40kWであり、耐熱性ポリイミドフィルムを全長800mの成膜を行っても皺が発生することは無かった。
【0094】
[比較例]
図1に示すスパッタリングウェブコーター(成膜装置)50を用いて、長尺樹脂フィルム52上にシード層であるNi−Cr膜を成膜し、その上にCu膜を成膜した。尚、長尺樹脂フィルム52には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの東レ・ディポン株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「カプトン(登録商標)」を使用した。
【0095】
上記スパッタリングウェブコーター(成膜装置)50のキャンロール56は、直径900mm、幅750mmであり、前フィードロール55と後フィードロール61は、それぞれ直径200mm、幅750mmである。尚、全てのロール表面には、ハードクロムめっきを施した。
【0096】
上記長尺樹脂フィルム(ポリイミドフィルム)52上に、シード層であるNi−Cr膜とCu膜を成膜するため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58〜60にはCuターゲットを使用した。また、アルゴンガスを300sccmで導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロール51と巻取ロール64の張力は80Nとし、キャンロール56は水冷により20℃に制御した。
【0097】
次に、「グリップ領域」範囲内の「前フィード率」を求めるため、上記スパッタリングウェブコーターにおける回転駆動系を
図2に示す「ドロー制御」で構成し、かつ、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分にした。
【0098】
そして、「前フィード率」を99.00%〜101.00%まで変化させてキャンロール56へのフィルム搬入張力を数式(1)で計算し、
図3のグラフを求めた。このグラフから「グリップ領域」の中間付近である「前フィード率」が99.95%であることを求めた。
【0099】
次に、上記スパッタリングウェブコーターにおける回転駆動系を
図2に示す「ドロー制御」の構成のままで、前フィードロール55の「前フィード率」を99.95%に設定し、かつ、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分とした。
【0100】
次に、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、Ni−Cr膜およびその上にCu膜の成膜を開始した。このとき、前フィードロール55とキャンロール56の各モータ軸トルクから、上記数式(1)により計算される[フィルム張力計算値(N)]を
図6に示す。
【0101】
この
図6のグラフから、経過時間に対する[フィルム張力計算値(N)]の変動幅は、約±10%であった。
【0102】
そして、スパッタリング電力(4台の合計)が40kWでは、全長800mの耐熱性ポリイミドフィルムの成膜中、数回に亘り数mの皺が発生する領域があった。皺の発生は、キャンロール56への「搬入張力」[フィルム張力計算値(N)]の変動が大きいことに起因していると考えられる。
【0103】
但し、確認試験に基づき耐熱性ポリイミドフィルムがスリップや弛みを起こすことなく搬送されることを確認している「グリップ領域」内から前フィードロール55の「前フィード率」が設定されている比較例に係る搬送制御方法は、実施例に係る搬送制御方法と比較して経過時間に対する[フィルム張力計算値(N)]の変動幅が大きいことから実施例より若干劣っているが、過去の経験則から前フィードロールの「前フィード率」を適宜調整する従来の制御方法に較べて皺の発生を効率よく抑制できる優位性を有している。