特許第5794207号(P5794207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許5794207付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物及び剥離フィルム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794207
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物及び剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20150928BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20150928BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20150928BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20150928BHJP
   C08L 101/14 20060101ALI20150928BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08L71/02
   C08J7/04 ECER
   C08J7/04CEZ
   C08L101/14
   B32B27/00 L
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-129935(P2012-129935)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-253176(P2013-253176A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2014年6月26日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】入船 真治
(72)【発明者】
【氏名】中島 勉
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−006661(JP,A)
【文献】 特開2003−055552(JP,A)
【文献】 特開2012−092165(JP,A)
【文献】 特開2001−164187(JP,A)
【文献】 特開2003−192896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
71/00−71/14
101/00−101/14
B32B 27/00−27/42
C08J 7/00−7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)で表される単位からなる25℃における粘度が5〜100mPa・sであるオルガノポリシロキサンI 10〜40質量%、
【化1】
(R1は炭素数8以下のアルケニル基である。R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又は炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれ異なっていてもよい。R3は水素原子又は非置換若しくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。また、0.6≦(b+c)/a≦1.5、0≦c/(b+c)≦0.05である。)
(B)下記平均組成式(2)で表され、25℃における粘度が30〜10,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンII 90〜60質量%、
【化2】
(R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又は炭素数8以下のアルケニル基で、それぞれ異なっていてもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。また、d、e、f、gは(B)成分の25℃における粘度が30〜10,000mPa・sとなるように定められる正数であり、0≦f≦10である。)
(但し、(A)成分と(B)成分の合計は100質量%である。)
(C)下記平均組成式(3)で表され、25℃における粘度が5〜200mPa・sであり、1分子中にケイ素原子に直結する水素原子(SiH基)を少なくとも3個有すると共に、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいてSiH基を0.80〜1.25mol/100g含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A)成分及び(B)成分の全アルケニル基に対するSiH基のモル比率
(SiH基量/アルケニル基量)が1.0〜3.0となる量、
【化3】
(R5は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。R6は水素原子又は非置換若しくは置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。また、h及びiは、0<h≦150、0<i≦150、0<h+i≦200を満たす正数である。)
(D)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類及びポリオキシアルキレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤
(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜20質量部、
(E)水
(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して50〜100,000質量部
を含有し、動的光散乱法により測定されるエマルジョン粒子の数平均粒子径が200〜600nmである付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項2】
更に、(F)触媒量の白金族金属系触媒を含有する請求項1記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項3】
(D)成分が下記組成式
7O(EO)n(PO)m
(R7は炭素数8〜30の直鎖又は分岐のアルキル基、あるいは非置換又は置換のフェニル基である。EOはエチレンオキシド基、POは炭素数3以上のアルキレンオキシド基であり、それらの配列はブロックでもランダムでもよい。また、n、mはそれぞれ0〜100であり、n+m>0である。)
で表される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤である請求項1又は2記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項4】
(D)成分がポリオキシエチレンアルキルエーテル類及びポリオキシエチレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤である請求項3記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項5】
(D)成分がポリオキシエチレントリデシルエーテル又はポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルである請求項4記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項6】
更に、水溶性樹脂を含有する請求項1〜5のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
【請求項7】
プラスチックフィルムに請求項1〜6のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物の硬化皮膜を形成してなる剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤に対する剥離性とプラスチックフィルム基材に対する密着性を両立させた剥離性皮膜の形成に適した付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物及び該組成物をプラスチックフィルム基材に塗工して形成した剥離フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙、プラスチックなどの基材と粘着物質との間の粘着ないし固着を防止するために使用される剥離紙用シリコーン組成物としては色々なものが知られており、そのうち溶剤型シリコーン組成物は剥離特性の面や比較的基材選択性が少ない点から広く使用されてきた。
【0003】
しかしながら、近年では、溶剤型シリコーン組成物の使用に際し、環境汚染、安全、衛生等の面から溶剤の使用量を削減することや、回収して外部に排出しない等の対策が必要となっている。このうち、溶剤使用量の削減方法としては、無溶剤型シリコーンの使用が有効であるが、これらを紙、ラミネート紙、プラスチックフィルム基材上に1μm以下の膜厚で均一に塗工するには、高価な塗工装置と技術が必要であり、シリコーン組成物として溶剤型から無溶剤型への変更は、一般的には容易に採用できる方法ではない。
【0004】
溶剤使用量を削減する他の有効な方法としてエマルジョン型シリコーン組成物の使用が挙げられる。この種のシリコーン組成物は従来から利用されており、オルガノビニルポリシロキサン、白金化合物、乳化剤及び水からなるエマルジョンとオルガノハイドロジェンポリシロキサン、乳化剤及び水からなるエマルジョンを混合したもの(特公昭57−53143号公報(特許文献1))、乳化重合により製造されるもの(特開昭54−52160号公報(特許文献2))、特定の乳化剤を用いてオルガノビニルシロキサン、オルガノハイドロジェンを乳化したものに白金化合物のエマルジョンを混合するもの(特開昭63−314275号公報(特許文献3))などが知られている。
【0005】
これらの組成物は水で任意に希釈可能であることから、無溶剤型のように薄膜塗工のための高価な塗工装置や技術は必要なく、使い勝手も溶剤型に近いという長所がある。
しかしながら、エマルジョン型シリコーン組成物は分散媒が水であることによる欠点から現状ではあまり普及が進んでいない。欠点の一つとして、水の蒸発潜熱が大きいため高温キュアーが必要で、溶剤型や無溶剤型に比べるとキュアー性が悪いことが挙げられる。もう一つには、水の表面張力が大きいため、基材に対する濡れ性に劣り密着性が悪いことが挙げられる。これらの欠点は、とりわけプラスチックフィルム基材に対しては重大な問題となり、殆ど利用されていない原因と言える。
【0006】
これらの問題を解決するために多くの改良が提案されており、例えば、分子末端にアルケニル基をもつオルガノポリシロキサンを用いるもの(特開平6−57144号公報(特許文献4))、非シリコーン系ポリマーからなるエマルジョンを配合するもの(特開平11−222557号公報(特許文献5))などが提案されている。しかしながら、これらは紙基材を対象とした改良が多く、プラスチックフィルム基材に塗工した場合に満足のいく密着性を得られるシリコーンエマルジョンの提案は殆どなかった。そのため、本発明者らは種々検討し、3官能性シロキサン単位(T単位)が全シロキサン単位中約35〜60モル%を占め、全有機基中20モル%以上がアルケニル基であるオルガノポリシロキサンを主成分としたシリコーンエマルジョン組成物が各種プラスチックフィルム基材に対して良好に密着することを報告している(特許第3824072号公報(特許文献6))。このものは、各種プラスチック基材に良好に密着するものの、密着発現成分として3官能性シロキサン単位やアルケニル基を多量に含んだオルガノポリシロキサンを50質量%以上占める必要があり、アクリル系の粘着剤に対して十分軽剥離にする(剥離し易くする)ことが難しかった。
【0007】
また、近年の光学用途や電子電気部品用途に使用されるプラスチックフィルム基材の剥離フィルムは粘着剤に対して軽剥離な特性が求められる傾向が強くなっており、現状の要求に対して応えることができるプラスチックフィルム用のシリコーンエマルジョン組成物はなかった。
【0008】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有する付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物一般に共通する欠点として、オルガノハイドロジェンポリシロキサンはエマルジョン中で水と界面活性剤と接触するため、製品の保存中や処理浴中で脱水素を起こすことがよくあった。この脱水素反応が発生してしまうと、組成物の中の活性なオルガノハイドロジェンポリシロキサンの量が減少してしまうことになり、硬化性や密着性の低下を招く原因になっていた。特に、基材としてプラスチックフィルムを使用する場合、この脱水素による架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサンの劣化が、シリコーン硬化皮膜の基材との密着性に大きく影響する。このため、付加組成物をシリコーンエマルジョンとした場合、製品経時や処理浴中での脱水素が少ない付加硬化型のシリコーンエマルジョン組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭57−53143号公報
【特許文献2】特開昭54−52160号公報
【特許文献3】特開昭63−314275号公報
【特許文献4】特開平6−57144号公報
【特許文献5】特開平11−222557号公報
【特許文献6】特許第3824072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、シリコーン硬化皮膜として粘着剤に対する軽剥離性とプラスチックフィルム基材に対する密着性の両立を実現すると共に、製品として保管しても製品性能の劣化の少ない付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物及び該組成物を用いた剥離フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは上記の欠点を解決するために検討した結果、特定構造の架橋剤成分と特定の界面活性剤成分を含む付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物が、製品として保管した際の脱水素反応が少なく、フィルム基材に対して良好な濡れ性を示し、硬化後のシリコーン皮膜がプラスチックフィルム基材と十分に密着すると共に、粘着剤に対して軽剥離となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物及び剥離フィルムを提供する。
〔1〕 (A)下記平均組成式(1)で表される単位からなる25℃における粘度が5〜100mPa・sであるオルガノポリシロキサンI 10〜40質量%、
【化1】
(R1は炭素数8以下のアルケニル基である。R2は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又は炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれ異なっていてもよい。R3は水素原子又は非置換若しくは置換の炭素数1〜10の1価炭化水素基である。また、0.6≦(b+c)/a≦1.5、0≦c/(b+c)≦0.05である。)
(B)下記平均組成式(2)で表され、25℃における粘度が30〜10,000mPa・sであるオルガノポリシロキサンII 90〜60質量%、
【化2】
(R4は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又は炭素数8以下のアルケニル基で、それぞれ異なっていてもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。また、d、e、f、gは(B)成分の25℃における粘度が30〜10,000mPa・sとなるように定められる正数であり、0≦f≦10である。)
(但し、(A)成分と(B)成分の合計は100質量%である。)
(C)下記平均組成式(3)で表され、25℃における粘度が5〜200mPa・sであり、1分子中にケイ素原子に直結する水素原子(SiH基)を少なくとも3個有すると共に、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいてSiH基を0.80〜1.25mol/100g含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(A)成分及び(B)成分の全アルケニル基に対するSiH基のモル比率
(SiH基量/アルケニル基量)が1.0〜3.0となる量、
【化3】
(R5は非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。R6は水素原子又は非置換若しくは置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。また、h及びiは、0<h≦150、0<i≦150、0<h+i≦200を満たす正数である。)
(D)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類及びポリオキシアルキレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤
(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜20質量部、
(E)水
(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して50〜100,000質量部
を含有し、動的光散乱法により測定されるエマルジョン粒子の数平均粒子径が200〜600nmである付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔2〕 更に、(F)触媒量の白金族金属系触媒を含有する〔1〕記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔3〕 (D)成分が下記組成式
7O(EO)n(PO)m
(R7は炭素数8〜30の直鎖又は分岐のアルキル基、あるいは非置換又は置換のフェニル基である。EOはエチレンオキシド基、POは炭素数3以上のアルキレンオキシド基であり、それらの配列はブロックでもランダムでもよい。また、n、mはそれぞれ0〜100であり、n+m>0である。)
で表される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤である〔1〕又は〔2〕記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔4〕 (D)成分がポリオキシエチレンアルキルエーテル類及びポリオキシエチレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤である〔3〕記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔5〕 (D)成分がポリオキシエチレントリデシルエーテル又はポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルである〔4〕記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔6〕 更に、水溶性樹脂を含有する〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物。
〔7〕 プラスチックフィルムに〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物の硬化皮膜を形成してなる剥離フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定構造の架橋剤成分(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)と特定の界面活性剤成分を含むので、組成物として保管しても脱水素反応が少なく、プラスチックフィルム基材の種類に拘らず良好な濡れ性を示し、更にその硬化皮膜は基材に対して良好な密着性を有し、かつ各種粘着剤に対して軽剥離性を示すことから剥離フィルムへの利用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物の構成の詳細を説明する。
本発明の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物は、下記(A)〜(E)成分を必須成分として含有し、動的光散乱法により測定されるエマルジョン粒子の数平均粒子径が200〜600nmであるものである。
【0015】
[(A)オルガノポリシロキサンI]
本発明の付加硬化型シリコーンエマルジョン組成物を構成する(A)成分としてのオルガノポリシロキサンIは、25℃における粘度が5〜100mPa・sであり、下記平均組成式(1)で示されるものである。
【0016】
【化4】
【0017】
平均組成式(1)において、R1はビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などの炭素数8以下のアルケニル基である。また、R2はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又はビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などの炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれは異なっていてもよい。R3は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。なお、このオルガノポリシロキサンIのアルケニル基としてはビニル基が工業的に好ましい。
【0018】
また、(b+c)/aは0.6〜1.5の範囲にある。(b+c)/aが0.6より小さいと、本発明の特徴であるプラスチックフィルムに対する密着性が低下する。また、(b+c)/aが1.5より大きいと、R2SiO3/2単位及びR2(R3O)SiO2/2単位の割合が大きくなりすぎてオルガノポリシロキサンIの合成が困難になる。
【0019】
また、c/(b+c)は0〜0.05の範囲にある。c/(b+c)が0.05より大きくなるとアルコシキ基あるいは水酸基が多過ぎて、シリコーンエマルジョン組成物の硬化性が低下する。
【0020】
また、(A)成分の25℃での粘度は、5〜100mPa・sの範囲である。粘度が5mPa・sより小さいとシリコーンエマルジョン組成物の保存安定性が低くなり、粘度が100mPa・sより大きくなるとオルガノポリシロキサンIの合成が難しくなる。なお、本発明における粘度は回転粘度計による測定値である(以下、同じ)。
【0022】
また、(A)成分の配合量は、シリコーン硬化皮膜としてプラスチックフィルム基材に対して十分な密着性を維持し、かつ粘着剤に対して軽剥離とするために、(A)成分と後述する(B)成分の総量(合計100質量%)において10〜40質量%とし、10〜30質量%とすることがより好ましい。(A)成分の含有量が10質量%未満ではプラスチックフィルム基材に対する密着性が不足し、40質量%超では粘着剤に対する剥離力が増加して不適となる。
【0023】
なお、粘着剤に対して軽剥離であるとは、プラスチックフィルム基材にシリコーン硬化皮膜を形成したもの(剥離フィルム)を粘着剤と密着した状態から所定の剥離力よりも小さな力で該粘着剤から剥離させることができることをいい、例えば後述する実施例における剥離力評価において剥離力0.30N/5cm未満、特に好ましくは0.20N/5cm以下のものをいう。
【0024】
[(B)オルガノポリシロキサンII]
(B)成分のオルガノポリシロキサンIIは、下記平均組成式(2)で示されるものである。
【0025】
【化5】
【0026】
平均組成式(2)において、R4はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基、又はビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基などの炭素数8以下のアルケニル基であり、それぞれは異なってもよいが、少なくとも2個はアルケニル基である。
【0027】
また、式中、d、e、f、gは、(B)成分の25℃における粘度が30〜10,000mPa・sの範囲に入るように選ばれる正数であり、0≦f≦10である。fが10を超えると、オルガノポリシロキサンIIは合成中にゲル化してしまい得ることが難しくなる。なお、d、e、gは特に限定はされない。
【0028】
(B)成分の25℃での粘度は、上述のように、30〜10,000mPa・sである。粘度が30mPa・sより小さいとシリコーンエマルジョン組成物の保存安定性が悪くなり、10,000mPa・sより大きくなると十分な硬化皮膜が得られなくなる。
【0029】
(B)成分は、本発明のシリコーンエマルジョン組成物の硬化物の粘着剤に対する剥離力に大きく影響を及ぼす成分であり、このオルガノポリシロキサンIIの構造や置換基を種々変化させることにより、このシリコーンエマルジョン組成物の硬化皮膜の剥離特性を変化させることが可能である。
【0030】
また、(B)成分は単一組成である必要はなく、複数の成分の平均として上記平均組成式(2)の要件を満たせば、数種類の異なる組成のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0031】
また、(B)成分の配合量は、シリコーン硬化皮膜としてプラスチックフィルム基材に対して十分な密着性を維持し、かつ粘着剤に対して軽剥離とするために、(A)成分と(B)成分の総量(合計100質量%)において60〜90質量%とし、70〜90質量%とすることがより好ましい。
【0032】
[(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、下記平均組成式(3)で示され、25℃における粘度が5〜200mPa・sであり、1分子中にケイ素原子に直結する水素原子(SiH基)を少なくとも3個有すると共に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中にSiH基を0.80〜1.25mol/100g含有するものである。
【0033】
【化6】
【0034】
平均組成式(3)において、R5はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。また、R6は水素原子、又はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合している水素原子の一部又は全部をヒドロキシル基、シアノ基、ハロゲン原子などで置換したヒドロキシプロピル基、シアノエチル基、1−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基などから選択される非置換又は置換の炭素数1〜10の脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基である。
【0035】
また、h及びiはそれぞれ、0<h≦150、0<i≦150、0<h+i≦200を満たす正数であればよく、より好ましくは10≦h≦100、10≦i≦100である。
【0036】
このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいてSiH基を0.80〜1.25mol/100g含有している必要があり、より好ましくは1.00〜1.20mol/100g含有していることが好ましい。このSiH基含有量が0.8mol/100gより小さいと十分な硬化性を得ることが難しくなり、1.25mol/100gより大きくなると、シリコーンエマルジョン組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの脱水素反応が多くなり、製品のシェルフライフが短くなり、プラスチックフィルム基材に対する保存後密着性が低下する。
【0037】
(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの全SiH基量のモル比率(SiH基量/アルケニル基量)が1.0〜3.0となる量であればよく、1.2〜2.0がより好ましい。このモル比率が1.0より小さいと硬化性が著しく低下し、3.0より大きくなると粘着剤に対する剥離力が大きくなりすぎる。
【0038】
[(D)ノニオン系界面活性剤]
(D)成分は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類及びポリオキシアルキレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系(非イオン性)界面活性剤(乳化剤)である。
【0039】
このポリオキシアルキレンアルキルエーテル類及びポリオキシアルキレンフェニルエーテル類は、組成式R7O(EO)n(PO)mHで表され、式中のR7は炭素数8〜30の直鎖又は分岐のアルキル基、あるいは非置換又は置換のフェニル基であり、好ましくは炭素数8〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、あるいは非置換又は置換のフェニル基であり、更に好ましくはフェニル基の水素原子がスチリル基乃至C65−CH(CH3)−基で置換されたスチレン化フェニル基である。また、EOはエチレンオキシド基、POはプロピレンオキシド基、ブチレンオキシド基等の炭素数3以上のアルキレンオキシド基を表し、それらの配列はブロックでもランダムでもよい。また、n、mはそれぞれ0〜100であり、好ましくは0〜50である。なお、n+m>0である。
【0040】
また、前記組成式において、n>0、m=0が好ましく、即ち(D)成分がポリオキシエチレンアルキルエーテル類及びポリオキシエチレンフェニルエーテル類の中から選択される少なくとも1種類のノニオン系界面活性剤であることが好ましい。更に、(D)成分がポリオキシエチレントリデシルエーテル又はポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルであることが好適である。
【0041】
これらのノニオン系界面活性剤は、1種単独又は複数種を組み合わせて使用することができるが、これらノニオン系界面活性剤の単独あるいは混合後のHLB値が10〜15であることが望ましい。
【0042】
(D)成分(ノニオン系界面活性剤)の配合量は、シリコーンエマルジョン組成物の安定性とプラスチックフィルム基材に対する濡れ性が十分得られる最少の量とすることが望ましい。具体的には、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜20質量部であり、好ましくは0.5〜15質量部である。(D)成分の配合量が0.1質量部未満では組成物における乳化が困難になり、20質量部を超えるとシリコーンエマルジョン組成物の硬化性が低下する。
【0043】
組成物における乳化を助け、安定性を向上させるために、(D)ノニオン系界面活性剤と共に、水溶性樹脂を併用してもよい。水溶性樹脂としては、白金族金属系触媒に対する触媒毒作用が極力少ないものを選択するとよく、例えばポリビニルアルコールなどが挙げられる。また、水溶性樹脂の配合量は、(D)ノニオン系界面活性剤と同様に、シリコーンエマルジョン組成物の安定性とプラスチックフィルム基材に対する濡れ性が十分得られる最少量とすることが望ましい。具体的には、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。
【0044】
[(E)水]
(E)成分の水は、水道水程度の不純物濃度の水であれば十分使用できる。なお、強酸、強アルカリ、多量のアルコール、塩類等が混入することはエマルジョンの安定性を低下させるため使用には適さない。
【0045】
(E)水の配合量は、組成物として、実際に使用する塗布装置に適した粘度と、目標とする基材へのシリコーン塗布量を満たすように調整されるもので、特に限定されるものではないが、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して50〜100,000質量部であり、100〜10,000質量部が好ましい。50質量部未満では組成物としてO/W(水中油滴)型エマルジョンを得るのが難しく、100,000質量部を超えると組成物の安定性が低下する。
【0046】
[(F)白金族金属系触媒]
本発明のシリコーンエマルジョン組成物では、更に(F)触媒量の白金族金属触媒を含有してもよい。この(F)白金族金属系触媒は組成物における付加硬化反応を促進するための触媒であり、付加反応触媒として公知のものが使用できる。このような白金族金属系触媒としては、例えば白金系、パラジウム系、ロジウム系などの触媒が挙げられ、これらの中で特に白金系触媒が好ましい。このような白金系触媒としては、例えば塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液やアルデヒド溶液、塩化白金酸の各種オレフィン又はビニルシロキサンとの錯体などが挙げられる。
【0047】
(F)白金族金属系触媒の添加量は触媒量であるが、良好な硬化皮膜を得ると共に経済的な見地から、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して白金族金属量として1〜1,000ppmの範囲とすることが好ましい。
【0048】
以上の各成分以外に、他の任意成分、例えば白金族金属系触媒の触媒活性を抑制する目的で各種有機窒素化合物、有機リン化合物、アセチレン誘導体、オキシム化合物、有機ハロゲン化物などの触媒活性抑制剤、剥離性を制御する目的でシリコーンレジン、シリカ、又はケイ素原子に結合した水素原子やアルケニル基を有さないオルガノポリシロキサン、フッ素系界面活性剤などのレベリング剤、水溶性高分子、例えばメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの増粘剤などを必要に応じて添加することができる。なお、任意成分の添加量は、本発明の効果を妨げない範囲で通常量とすることができる。
【0049】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物の製造には、公知の方法を用いることができるが、上記(A)〜(D)成分の所定量と、(E)成分の水の一部を、プラネタリーミキサー、コンビミキサーなどの高剪断可能な撹拌装置を用いて混合し、転相法により乳化し、ついで(E)成分の水の残分を加えて希釈するとよい。このとき、各成分は単一で使用しても2種類以上を併用してもよい。
【0050】
このシリコーンエマルジョン組成物におけるエマルジョン粒子の数平均粒子径は、動的光散乱相関法から求めたもので、プラスチックフィルム基材に対する濡れ性や硬化皮膜の透明性の点から数平均粒子径が200〜600nmである必要があり、好ましくは300〜500nmである。本発明のシリコーンエマルジョン組成物では数平均粒子径が200nm未満のエマルジョン粒子を形成することが難しく、またエマルジョン粒子の数平均粒子径が600nmを超えるとプラスチックフィルム基材に対する濡れ性や硬化皮膜の透明性が低下する。
【0051】
なお、本発明のシリコーンエマルジョン組成物の調製の際に、(F)白金族金属系触媒を他の成分の乳化段階では添加せず、上記(A)〜(E)成分を混合して乳化してシリコーンエマルジョン組成物とした後に、このエマルジョン組成物を使用する直前に添加することが望ましい。白金族金属系触媒は添加に先立ち水分散可能なものとするのが好ましく、例えば界面活性剤と予め混合する等の方法でエマルジョンにしておく方法などが有効である。
【0052】
このように、調製されたシリコーンエマルジョン組成物をプラスチックフィルム基材に濡れ性よく塗布し、熱硬化させることにより、プラスチックフィルム基材に密着性よく、かつ粘着剤に対して軽剥離性を有する剥離フィルムとすることができる。
【0053】
ここで、プラスチックフィルム基材としては、例えば二軸延伸ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合フィルム等のポリオレフィン系フィルムやポリエステルフィルム等が挙げられる。これらプラスチックフィルム基材の厚さに制約はないが通常5〜100μm程度のものを使用できる。
【0054】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物をプラスチックフィルム基材に塗布するためには、グラビアコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、ワイヤーバーなどを使用できる。このときの塗布量は特に制限はないが、シリコーンの固形分として通常0.1〜2.0g/m2程度であればよい。
【0055】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物を塗布後、塗布されたプラスチックフィルム基材を、例えば熱風循環式乾燥機などを用いて、80〜160℃で5秒〜3分間程度加熱すれば、基材上にシリコーンの硬化皮膜が密着性よく形成され、更に粘着剤に対する軽剥離性が付与される。皮膜の硬化は赤外線、紫外線の照射によって行ってもよく、これらの方法を併用することで、硬化効率を向上させることもできる。
【0056】
本発明の剥離フィルムの剥離対象となる粘着剤としては、例えばアクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の公知のものが挙げられる。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の粘度は回転粘度計により測定した25℃における値であり、シリコーンエマルジョン組成物のエマルジョン粒子の数平均粒子径は動的光散乱相関法を測定原理としたBECKMAN COULTER製Submicron Particle Seizer COULTER N4 Plusを用いて測定した値である。
【0058】
[エマルジョン組成物の調製]
(シリコーンエマルジョン1(SE1))
容器内全体を撹拌できる錨型撹拌装置と、周縁に小さな歯型突起が上下に交互に設けられている回転可能な円板とを有する容量5リットルの複合乳化装置(TKコンビミックスM型、特殊機化工業株式会社製)に、(A)オルガノポリシロキサンIとして、下記平均組成式
【化7】

で示され、粘度が30mPa・sでビニル基含有量が0.60mol/100gのオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)オルガノポリシロキサンIIとして粘度が400mPa・sでビニル基含有量0.02mol/100gの直鎖状の両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.20mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が40mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−1)を186質量部、(D)ノニオン系界面活性剤として、HLB13.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(商品名:ノイゲンEA−137、第一工業製薬(株))(d−1)を12質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して1.01質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.64である。
次いで、この混合物に水(イオン交換水、以下同じ)150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。更に、このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,462質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径470nmのO/W型シリコーンエマルジョン組成物1(SE1)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物1における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は890質量部である。
【0059】
(シリコーンエマルジョン2(SE2))
(A)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、成分(B)として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じ両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.10mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が140mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−2)を205質量部、(D)成分として、HLB13.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(商品名:ノイゲンEA−137、第一工業製薬(株))(d−1)を12質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して1.00質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、シリコーンエマルジョン組成物1の場合と同様に複合乳化装置を用いて均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.66である。
次いで、この混合物に水150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。更に、このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,628質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径450nmのO/W型シリコーンエマルジョン組成物2(SE2)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は890質量部である。
【0060】
(シリコーンエマルジョン3(SE3))
(A)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じ両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.20mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が40mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−1)を186質量部、(D)成分として、HLB13.3のポリオキシエチレントリデシルエーテル(商品名:レオコールTDN90−80、ライオン(株))(d−2)を12質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して1.01質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、シリコーンエマルジョン組成物1の場合と同様に複合乳化装置を用いて均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.64である。
次いで、この混合物に水150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,462質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径500nmのO/W型エマルジョン組成物3(SE3)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物1における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は890質量部である。
【0061】
(シリコーンエマルジョン4(SE4))
(A)成分オルガノポリシロキサンIとして、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)成分のオルガノポリシロキサンIIとして、250mPa・sでビニル基含有量0.028mol/100gの分岐状で末端のみにビニル基を持つジメチルポリシロキサン(b−2)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.20mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が40mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−1)を197質量部、(D)成分のノニオン系界面活性剤として、HLB13.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(商品名:ノイゲンEA−137、第一工業製薬(株))(d−1)を12質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して1.00質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.64である。
次いで、この混合物に水(イオン交換水、以下同じ)150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。更に、このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,556質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径450nmのO/W型エマルジョン組成物4(SE4)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物4における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は890質量部である。
【0062】
(シリコーンエマルジョン5(SE5))
(A)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じ両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.60mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が20mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−)を140質量部、(D)成分として、HLB13.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(商品名:ノイゲンEA−137、第一工業製薬(株))(d−1)を11質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して0.93質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、シリコーンエマルジョン組成物1の場合と同様に複合乳化装置を用いて均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.65である。
次いで、この混合物に水150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,026質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径450nmのO/W型エマルジョン組成物5(SE5)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物1における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は888質量部である。
【0063】
(シリコーンエマルジョン6(SE6))
(A)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じ両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が0.72mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が130mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−)を308質量部、(D)成分として、HLB13.0のポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(商品名:ノイゲンEA−137、第一工業製薬(株))(d−1)を11質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して0.84質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、シリコーンエマルジョン組成物1の場合と同様に複合乳化装置を用いて均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.63である。
次いで、この混合物に水150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。更に、このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水10,556質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径480nmのO/W型エマルジョン組成物6(SE6)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物1における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は891質量部である。
【0064】
(シリコーンエマルジョン7(SE7))
(A)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じオルガノポリシロキサン(a)を200質量部、(B)成分として、シリコーンエマルジョン組成物1と同じ両末端ビニル基含有ジメチルポリシロキサン(b−1)を800質量部、(C)成分として、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおけるSiH基含有量が1.20mol/100gで、SiH基を側鎖に有する、粘度が40mPa・sである直鎖状のメチルハイドロジェンポリシロキサン(c−1)を186質量部、(D)成分として、HLB12.6のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(商品名:ラテムルPD−420、花王(株))(d−3)を12質量部((A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対して1.01質量部)、増粘剤として10質量%ポリビニルアルコール水溶液1,050質量部、触媒活性抑制剤としてエチニルシクロヘキサノール5質量部を仕込み、シリコーンエマルジョン組成物1の場合と同様に複合乳化装置を用いて均一に撹拌混合した。なお、(A)成分と(B)成分の全アルケニル基量に対する(C)成分の全SiH基量のモル比率は、1.65である。
次いで、この混合物に水150質量部を添加して転相させ、引続き30分間撹拌した。更に、このエマルジョンを容量15リットルの撹拌機がついたタンクへ移し、希釈水として水9,462質量部を加えて撹拌し、シリコーン分10質量%で数平均粒子径700nmのO/W型シリコーンエマルジョン組成物7(SE7)を得た。なお、シリコーンエマルジョン組成物1における(A)、(B)、(C)成分の合計100質量部に対する(E)水の配合量は890質量部である。
以上のシリコーンエマルジョン組成物1〜7(SE1〜SE7)の明細を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例1]
シリコーンエマルジョン組成物1(SE1)100質量部に対して信越化学工業(株)製の白金触媒エマルジョンCAT−PM−10Aを1.5質量部配合し、良く混合して評価用シリコーンエマルジョン組成物とした。
【0067】
[実施例2,3]
実施例1のシリコーンエマルジョン組成物1をシリコーンエマルジョン組成物2、3(SE2、SE3)に変更した以外は同様な調製を行い、それぞれを実施例2、3の評価用シリコーンエマルジョン組成物とした。
【0068】
[実施例4]
実施例1のシリコーンエマルジョン組成物1をシリコーンエマルジョン組成物4(SE4)に変更した以外は同様な調製を行い、実施例4の評価用シリコーンエマルジョン組成物とした。
【0069】
[比較例1〜3]
実施例1のシリコーンエマルジョン組成物1をシリコーンエマルジョン組成物5、6、7(SE5、SE6、SE7)に変更した以外は同様な調製を行い、それぞれを比較例1〜3の評価用シリコーンエマルジョン組成物とした。
【0070】
以上の実施例及び比較例の評価用シリコーンエマルジョン組成物を用いて、次に示す方法によりフィルム基材に対する濡れ性、密着性及び粘着剤に対する剥離力を評価した。
【0071】
[評価項目]
(1)濡れ性
調整直後の評価用シリコーンエマルジョン組成物を用いて、厚さ38μmのPETフィルム基材に硬化後のシリコーン量が0.3g/m2となるように塗布し、30秒間放置した後にPETフィルム基材上のシリコーンエマルジョン組成物のハジキの様子(濡れ性)を調べた。このとき、濡れ性判定基準として、目視にて基材中央部でシリコーンエマルジョン組成物のハジキがほとんどない場合を○、一部ハジキが僅かにある場合を△、ハジキが多量に発生する場合を×とした。
【0072】
(2)初期密着性
調製直後の評価用シリコーンエマルジョン組成物を用いて、厚さ38μmのPETフィルム基材に硬化後のシリコーン量が0.3g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で30秒加熱して硬化皮膜を形成し、室温で1日間保存した後、その表面を指で数回こすり、皮膜の曇り及び脱落の有無を目視により判断してこれを初期密着性とした。このときの密着性の判定基準として、皮膜の脱落、曇りなく良好な場合を○、僅かに皮膜の曇りありの場合を△、皮膜の脱落ありの場合を×とした。
【0073】
(3)保存後密着性
(F)白金族金属系触媒成分が含まれていないシリコーンエマルジョン組成物を40℃、1ヶ月間保存する。その保存後のシリコーンエマルジョン組成物に(F)白金族金属系触媒成分を添加して調製し、その調製直後の評価用シリコーン組成物を用いて、38μmのPETフィルム基材に硬化後のシリコーン量が0.3g/m2となるように塗布し、120℃の熱風式乾燥機中で30秒加熱し形成された硬化皮膜を、室温で1日間保存した後、指で数回こすり、皮膜の曇り及び脱落の有無を目視により判断してこれを保存後密着性とした。このときの密着性の判定基準として、皮膜の脱落、曇りなく良好な場合を○、僅かに皮膜の曇りありの場合を△、皮膜の脱落ありの場合を×とした。
初期密着性がよく、保存後密着性評価においてシリコーン皮膜の脱落等が見られる場合、シリコーンエマルジョン組成物中のSiH基量が脱水素等により減少していることが示唆される。
【0074】
(4)剥離力
調製直後の評価用シリコーンエマルジョン組成物を用いて、密着性測定と同様な方法で120℃×30秒で硬化させ、アクリル系粘着剤BPS−5127(東洋インキ製造株式会社製)を塗布して100℃で3分間加熱処理した。次に、この処理面に基材と同じフィルムを貼合せ、試料を5cm幅に切断し、室温×1日間エージングさせた後、試料の貼合せフィルムを引っ張り試験機を用いて180゜の角度、剥離速度0.3m/minではがし、剥離するのに要する力(N/5cm)を剥離力として測定した。ここでは、剥離力0.30N/5cm以上の場合を不良とした。
【0075】
以上の評価結果を表2に示す。
実施例1〜4では、シリコーンエマルジョン組成物がフィルム基材に対して良好な濡れ性、初期密着性及び保存後密着性を示し、粘着剤に対して0.20N/5cm以下の小さな力で剥離が可能であった。
一方、比較例1では、(C)成分のSiH基含有量が本発明の規定よりも多いことから保存密着性が不良となった。また、比較例2では、(C)成分のSiH基含有量が本発明の規定よりも少ないことからシリコーン皮膜の硬化性不良となり初期密着性及び保存後密着性が不良となった。また、比較例3では、(D)界面活性剤の種類が本発明のものと異なり、エマルジョン粒子の数平均粒子径が本発明の規定よりも大きくなったことからフィルム基材に対する濡れ性が悪くなり、初期密着性及び保存後密着性も不良となった。
【0076】
【表2】
【0077】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。