特許第5794480号(P5794480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5794480複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794480
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/02 20060101AFI20150928BHJP
   G01N 17/02 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   C23F13/02 B
   C23F13/02 L
   G01N17/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-26202(P2012-26202)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-163832(P2013-163832A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】福手 勤
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
【審査官】 向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−209181(JP,A)
【文献】 特開2009−227475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00〜13/22
G01N 17/02〜17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートと、前記コンクリートに形成された陽極と、前記コンクリートに形成された鋼材とを含む複数のコンクリート試験体を、単一の容器内に収容された液体中に設置する工程と、
前記複数のコンクリート試験体の各々に、複数の電源装置の各々を電気的に接続する工程と、
前記複数の電源装置の各々から、前記複数のコンクリート試験体の各々に、直流電流を供給する工程とを備えた、複数のコンクリート試験体への通電方法。
【請求項2】
前記複数の電源装置の各々は、1V以上100V以下のAC/DCアダプタを含む、請求項1に記載の複数のコンクリート試験体への通電方法。
【請求項3】
コンクリートと、前記コンクリートに形成された陽極と、前記コンクリートに形成された鋼材とを含む複数のコンクリート試験体を、内部に収容された液体中に設置可能な単一の容器と、
前記複数のコンクリート試験体の各々に電気的に接続され、前記複数のコンクリート試験体の各々に直流電流を供給する複数の電源装置とを備えた、複数のコンクリート試験体への通電装置。
【請求項4】
前記複数の電源装置の各々は、1V以上100V以下のAC/DCアダプタを含む、請求項3に記載の複数のコンクリート試験体への通電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置に関し、より特定的には、鋼材を含む複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートなどのコンクリート中の鋼材の表面には、不導態被膜が形成されているため、腐食から保護されている。しかし、コンクリートの時間の経過に伴う劣化によって形成された亀裂や間隙などを通って、水分に溶解した塩素成分がコンクリート内部まで侵入する場合がある。この場合、侵入した塩素成分により鋼材の不導態被膜が破壊され、鋼材が腐食(酸化)されることがある。
【0003】
この際、腐食した鋼材の表面では、腐食した部分と、腐食していない部分とで酸化反応(アノード反応)と還元反応(カソード反応)とが同時に進行する。これにより、鋼材表面に生じたアノード部とカソード部との間に電位差が生じ、アノード部からカソード部へとコンクリート中に腐食電流が流れる。この腐食電流は、鋼材の腐食をさらに進行させる。
【0004】
コンクリート中の鋼材の腐食を抑制するために、コンクリートに設置した陽極からコンクリート中の鉄筋に電流を流すことによって、鋼材表面の電位差を解消して腐食電流の発生を抑制する電気防食工法が知られている。
【0005】
上記のコンクリート中の鉄筋に電流を流す方法として、コンクリート硬化体の中央部に丸鋼を配置した供試体を液体中に収容する方法がある(例えば非特許文献1)。この非特許文献1には、図2に示すように、1台の直流電源装置に3体の供試体を直列に接続して防食電流量を測定する方法と、図3に示すように、1台の直流電源装置に2体の供試体を並列に接続して防食電流量を測定する方法とが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】岡本理沙、他3名、「干満帯環境下での電気防食のための通電方法に関する検討」、土木学会第65回年次学術講演会、平成22年9月、p.619−620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1において、図2に示すように、1台の直流電源装置に3体の供試体を直列に接続した場合には、電流が不安定であり、電流量の正負号のみから判断すると逆流が見られたことが開示されている。
【0008】
また、上記非特許文献1において、図3に示すように、1台の直流電源装置に2体の供試体を並列に接続した場合には、各供試体に分配される防食電流にばらつきがあることが開示されている。
【0009】
このように、非特許文献1に開示のコンクリート中の鉄筋に電流を流す方法では、複数の供試体(コンクリート試験体)の各々に所望の電流を供給できない。この場合、電気防食工法による効果が十分でないため、コンクリート中の鋼材の腐食を十分に抑制できない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑み、複数のコンクリート試験体に所望の電流を供給することが可能な複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は鋭意研究の結果、1台の直流電源装置に複数のコンクリート試験体を液体中で直列に接続して各々のコンクリート試験体に電流を供給する上記非特許文献1の方法において、所望の電流量を供給できないのは、液体に電気が拡散することに起因していることを見出した。そこで、本発明者は、液体に電気が拡散することを抑制することで、所望の電流量の供給が可能になる手段を見出して、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の複数のコンクリート試験体への通電方法は、コンクリートと、該コンクリートに形成された陽極と、該コンクリートに形成された鋼材とを含む複数のコンクリート試験体を、単一の容器内に収容された液体中に設置する工程と、該複数のコンクリート試験体の各々に、複数の電源装置の各々を電気的に接続する工程と、該複数の電源装置の各々から、該複数のコンクリート試験体の各々に、直流電流を供給する工程とを備える。
【0013】
本発明の複数のコンクリート試験体への通電装置は、コンクリートと、該コンクリートに形成された陽極と、該コンクリートに形成された鋼材とを含む複数のコンクリート試験体を、内部に収容された液体中に設置可能な単一の容器と、該複数のコンクリート試験体の各々に電気的に接続され、該複数のコンクリート試験体の各々に直流電流を供給する複数の電源装置とを備える。
【0014】
本発明の複数のコンクリート試験体への通電方法及び通電装置によれば、液体を収容した単一の容器内に複数のコンクリート試験体を設置し、複数のコンクリート試験体の各々に接続された電源装置の各々から直流電流を供給することで、液体中に電流が拡散することを抑制できる。このため、各々の電源装置から各々のコンクリート試験体へ、所望の直流電流を供給することができる。したがって、複数のコンクリート試験体に所望の電流を供給することが可能な複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置を提供できる。
【0015】
上記複数のコンクリート試験体への通電方法において好ましくは、上記複数の源装置の各々は、1V以上100V以下のAC/DCアダプタを含む。
【0016】
上記複数のコンクリート試験体への通電装置において好ましくは、上記複数の電源装置の各々は、1V以上100V以下のAC/DCアダプタを含む。
【0017】
これにより、電源装置の小型化を図ることができるので、複数のコンクリート試験体に通電するために要する装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、複数のコンクリート試験体に所望の電流を供給することが可能な複数のコンクリート試験体への通電方法及び複数のコンクリート試験体への通電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態における複数のコンクリート試験体への通電装置を示す模式図である。
図2】比較例1(非特許文献1)における複数のコンクリート試験体への通電装置を示す模式図である。である。
図3】比較例2(非特許文献1)における複数のコンクリート試験体への通電装置を示す模式図である。である。
図4】比較例3における複数のコンクリート試験体への通電装置を示す模式図である。である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0021】
始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態である複数のコンクリート試験体への通電装置100について説明する。
【0022】
図1に示すように、通電装置100は、単一の容器110と、複数の電源装置120とを備えている。
【0023】
容器110は、内部に液体Wを収容する。この液体W中に複数のコンクリート試験体10が設置可能である。内部に収容する液体Wは、特に限定されず、例えば、水、海水、模擬海水などである。
【0024】
コンクリート試験体10は、コンクリート11と、コンクリート11に形成された鋼材12と、コンクリート11に形成された陽極13とを含む。本実施の形態では、コンクリート11中に鋼材12が埋設され、コンクリート11の表面または表面近傍に陽極13が形成されている。
【0025】
陽極13を構成する材料は特に限定されず、例えば、チタンなどを用いることができる。また、陽極13の形状は特に限定されず、例えば、面状、帯状、棒状であってもよい。
【0026】
複数の電源装置120の各々は、複数のコンクリート試験体10の各々に電気的に接続され、かつ複数のコンクリート試験体10の各々に直流電流を供給する。すなわち、複数のコンクリート試験体10の各々に、1つの電源装置120が電気的に各々接続されている。このため、コンクリート試験体10の数と、電源装置120の数とは、同じである。
【0027】
本実施の形態では、複数の電源装置120の各々は、コンクリート試験体10の鋼材12及び陽極13のそれぞれに、電気的に接続されている。
【0028】
電源装置120は、入力電圧を与えることにより、調整可能な直流電流を供給できる装置である。本実施の形態の電源装置120は、入力電圧を与える手段としてのAC/DCアダプタ121と、このAC/DCアダプタ121と電気的に接続され、かつ直流電流を調整可能な調整部122とを含む。
【0029】
AC/DCアダプタ121は、1V以上100V以下の入力電圧の直流電流を供給することが可能であることが好ましく、2V以上100V以下の入力電圧の直流電流を供給することが可能であることがより好ましい。調整部122は、AC/DCアダプタ121から供給された電流量を一定に調整することが可能である。
【0030】
なお、電源装置120は、上記構成に特に限定されず、例えば安定化直流電源装置であってもよいが、小型化を図る観点から、AC/DCアダプタ121及び調整部122を含む電源装置120を用いることが好ましい。
【0031】
続いて、本実施の形態における複数のコンクリート試験体10への通電方法について説明する。本実施の形態では、上述した図1に示す複数のコンクリート試験体への通電装置100を用いる。
【0032】
まず、図1に示すコンクリート試験体10を複数準備する。この工程では、例えば、コンクリート11に鋼材12及び陽極13を形成してコンクリート試験体10を準備し、さらにコンクリート試験体10を複数形成する。
【0033】
なお、陽極13の形成方法は、特に限定されないが、例えば、以下の方法を採用することができる。陽極13が面状である場合、鋼材12が埋設されたコンクリート11の表面に、陽極13を配置し、硬化前のセメントモルタルなどの被覆材で陽極13の全体を覆って被覆材を養生して硬化させることで、陽極13を形成することができる。また、陽極13が帯状である場合、鋼材12が埋設されたコンクリート11の表面側にコンクリートカッター等を用いて陽極13に対応する形状の溝を複数形成し、溝内に陽極13を配置し、硬化前の被覆材で陽極13を覆うように溝を埋め込んで、被覆材を養生して硬化させることで、陽極13を形成することができる。陽極13が棒状である場合、鋼材12が埋設されたコンクリート11の表面から鋼材12へ向かってドリル等を用いて孔を複数形成し、孔の各々に陽極13を差し込んだ後、硬化前の被覆材で陽極13の全体が覆われるように孔を被覆材で埋め込むことで、陽極13を形成することができる。
【0034】
次に、複数のコンクリート試験体を、単一の容器110内に収容された液体W中に設置する。この工程では、例えば、容器110内に液体Wを収容し、液体W中に複数のコンクリート試験体10を配置する。容器110内に収容する液体Wは、特に限定されず、例えば、水、海水、模擬海水などである。
【0035】
次に、複数のコンクリート試験体10の各々に、複数の電源装置120の各々を電気的に接続する。つまり、1つの電源装置120と1つのコンクリート試験体10が接続される。この工程では、電源装置120として、1V以上100V以下のAC/DCアダプタを用いることが好ましく、2V以上100V以下のAC/DCアダプタを用いることが好ましい。この工程では、例えば、複数のコンクリート試験体10の鋼材12及び陽極13の各々に、複数の電源装置120の各々を電気的に接続する。
【0036】
なお、複数のコンクリート試験体10を液体W中に配置する工程と、電源装置120の各々を電気的に接続する工程とは、工程の順序は限定されない。例えば、コンクリート試験体10に電源装置120を接続した後に、容器110の内部に配置し、その後、液体Wを容器110の内部に収容してもよい。
【0037】
次に、複数の電源装置120の各々から、複数のコンクリート試験体10の各々に、直流電流を供給する。つまり、1つの電源装置120から1つのコンクリート試験体10に直流電流を供給する。これにより、複数のコンクリート試験体10の各々に、所望の直流電流を個別に供給することができる。
【0038】
この工程では、複数のコンクリート試験体10の各々に、同一の値の直流電流を供給してもよく、個別に任意の値の直流電流を供給してもよい。
【0039】
この工程を実施すると、コンクリート11中に埋設された鋼材12と陽極13との間に電流を流して鋼材12の腐食を防止することができる。
【0040】
続いて、本実施の形態における複数のコンクリート試験体への通電装置100及び通電方法の効果について図2図4に示す比較例1〜3と対比して、説明する。
【0041】
図2に示す比較例1においては、単一の容器に収容された液体中に、直列に接続された複数のコンクリート試験体(図2における供試体)が配置され、複数のコンクリート試験体に1つの電源装置(図2における直流電源)を用いて通電する。比較例1では、上記非特許文献1に記載されているように、逆流が発生し、電流が不安定である。
【0042】
図3に示す比較例2においては、1つの電源装置(図3における直流電源)に複数のコンクリート試験体(図3における供試体)を並列に接続する。比較例2では、上記非特許文献1に記載されているように、各コンクリート試験体に分配される防食電流にばらつきがあることが開示されている。このように、比較例2では、同一液体中環境の複数のコンクリート試験体に対して、正常に電流量を調整することができない。
【0043】
図4に示す比較例3においては、複数の容器210の各々に収容された液体中に複数のコンクリート試験体の各々が配置され、複数のコンクリート試験体10に1つの電源装置を用いて通電する。比較例3では、比較例1に比べて電流が安定し、比較例2に比べて電流量の調整はできる。しかし、比較例3では、複数の容器に収容された複数のコンクリート試験体の各々に対して、同量の電流しか供給できず、コンクリート試験体個別に電流量を調整することができない。また、例えば液体Wとして人口海水などを用いた場合、人口海水などの水溶液成分が暴露中の水の蒸発に伴い、Cl-、Mg2+などの成分が変化するが、これを容器毎に調整するのは困難である。このため、比較例3では、各容器中の水溶液の成分を同一のものとすることが困難であるため問題である。
【0044】
なお、図3に示す比較例2において、複数のコンクリート試験体の各々を、個別の容器に収容した場合であっても、比較例3と同様の問題がある。
【0045】
一方、図1に示す本実施の形態におけるコンクリート試験体の通電装置100及び通電方法によれば、液体Wを収容した単一の容器110内に複数のコンクリート試験体10を設置し、複数のコンクリート試験体10の各々に接続された複数の電源装置120の各々から直流電流を供給することで、液体W中に電流が拡散することを抑制できる。このため、各々の電源装置120から各々のコンクリート試験体10へ、所望の直流電流を供給することができる。
【0046】
また、複数のコンクリート試験体10の各々を個別に収容する場合に比べて、複数のコンクリート試験体10を単一の容器110に配置する場合の方が、容器110の数を増やすことなく、設備として小型化を図ることができる。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
10 コンクリート試験体、11 コンクリート、12 鋼材、13 陽極、100 通電装置、110 容器、120 電源装置、121 AC/DCアダプタ、122 調整部、W 液体。
図1
図2
図3
図4