【0018】
本発明において細胞としては、例えばsupE, supF, supB, supC, supG, supL, supM, supN, supO, supDなどの遺伝子型を有する細胞が挙げられる。
一方、終止コドンサプレス能を有していない細胞を宿主として用いた場合には、上記変異致死遺伝子挿入組換えベクターを導入しても、該ベクター中の致死遺伝子は終止コドンでそのペプチド合成は中断するから、毒性は発揮されず、得られる形質転換体は生育可能である。このような終止コドンをサプレスする機能を有しない細胞としては、例えばsupE, supF, supB, supC, supG, supL, supM, supN, supO, supDなどの遺伝子を欠損した細胞が挙げられ、本発明の変異致死遺伝子挿入ベクターを細胞内に維持する必要のある場合は、この終止コドンをサプレスする機能を有しない細胞を用いる。
【実施例】
【0026】
実施例1
(1) 致死遺伝子の改変
致死遺伝子としては、ccdB遺伝子(配列番号1)を利用した。該遺伝子を含む市販プラスミドベクターpCR Blunt-II-TOPO(インビトロジェン社)の外来遺伝子の挿入部位に外来遺伝子を含んだプラスミドを鋳型として、ccdB遺伝子の21番目のアミノ酸(野生型ではグルタミン)をアンバー終止コドンに置き換えた。部位特異的塩基置換はクイックチェンジ法に準じて行った。反応溶液(総量20μl)は、1xKOD-plus version 2バッファー(東洋紡社)、1.5mM 硫酸マグネシウム、各0.2mM デオキシリボヌクレオチド混合物、鋳型プラスミド1 ng、1ユニット KOD-plus version 2 DNAポリメラーゼ(東洋紡社)、各10pmolの上流(配列番号2)及び下流(配列番号3)プライマーである。本溶液を98℃にて2分間の保温後、98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 4分の温度サイクルを18回繰り返した。
【0027】
配列番号2:5’−CGTCTGTTTGTGGATGTATAGAGTGATATTATTGACACG−3’
配列番号3:5’−CGTGTCAATAATATCACTCTATACATCCACAAACAGACG−3’
反応終了後、溶液に対し、10ユニットの制限酵素DpnI(NEB社)を加え、37℃で2時間反応させ鋳型を消失させた。反応後、1μLを分取し、タカラバイオ社製大腸菌コンピテントセルMV1184に加え、製品マニュアルに従い、形質転換した。菌体を50μg/mlのカナマイシンの入ったLB寒天培地に塗布し、37℃にて一晩培養した。生育したコロニーをつつき、キアゲン社製プラスミド精製キットによりプラスミドを精製し、該プラスミドに含まれる変異ccdB遺伝子の配列をDNAシーケンシングにより確認した。
【0028】
(2)次に、21番目のグルタミンがアンバーコドンに置換された変異ccdB遺伝子を増幅するため、PCRを行った。
反応溶液(総量20μl)は、1xKOD-plus version 2バッファー(東洋紡社)、1.5mM 硫酸マグネシウム、各0.2mM デオキシリボヌクレオチド混合物、上記(1)で得た21番目のグルタミンがアンバーコドンに置換された変異ccdB遺伝子を含む鋳型プラスミド1 ng、1ユニット KOD-plus version 2 DNAポリメラーゼ(東洋紡社)、各10pmolの上流(配列番号4)及び下流(配列番号5)プライマーである。本溶液を98℃にて2分間の保温後、98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 30秒の温度サイクルを25回繰り返した。
【0029】
配列番号4:5’−TTTTCATATGCAGTTTAAGGTTTACACCTATAAAAG−3’
配列番号5:5’−TTTTTAAGCTTATATTCCCCAGAACATCAGGTTAA−3’
増幅産物をアガロースゲル電気泳動により分離し、約400塩基対のバンドを切り出し、QIAprepスピンカラム(キアゲン社)によりDNAを精製し、ついでNEB社制限酵素NdeI(10ユニット)及びHindIII(10ユニット)により37℃、2時間消化した。
【0030】
(3) 変異ccdB遺伝子のクローニング
こうして得られたアンバーコドンを含む変異ccdB遺伝子をpTD-tacNd(Miyazaki
K. Isocitrate dehydrogenase from Thermus aquaticus YT1: purification of the
enzyme and cloning, sequencing, and expression of the gene. Appl Environ Microbiol. 1996 Dec;62(12):4627-31.)のNdeI‐HindIII部位に挿入した。この目的で、pTD-tacNdをNdeI及びHindIIIにより37℃、2時間消化し、アガロースゲル電気泳動により分離し、約2600塩基対のバンドを切り出し、QIAprepスピンカラム(キアゲン社)によりDNAを精製した。モル比でほぼ等量となるように、ベクターと変異ccdB遺伝子断片を混合し、T4 DNAリガーゼ(NEB社)の存在下、連結反応を室温にて一晩行った。反応溶液のうち1μL分取し、タカラバイオ社製大腸菌コンピテントセルMV1184 100μLに加え、製品マニュアルに従い、形質転換した。菌体を34μg/mlのクロラムフェニコールの入ったLB寒天培地に塗布し、37℃にて一晩培養した。生育したコロニーをつつき、キアゲン社製プラスミド精製キットによりプラスミドを精製し、アンバー変異を含む変異ccdB遺伝子の配列をDNAシーケンシングにより再度確認した。
【0031】
(4) SmaI制限酵素部位の導入
アンバー変異を含む変異ccdB遺伝子を含むpTD-tacNdプラスミドを鋳型に、ccdB遺伝子内に外来遺伝子を挿入するためのクローニング部位を設けることを行った。まず、配列番号6及び配列番号7のプライマーを用いて28番目−29番目のアミノ酸位置(Pro(CCG)-Gly(GGG))に一塩基置換によりSmaI制限部位(-CCCGGG−)を導入した。なお元のアミノ酸配列はプロリン−グリシンであるが、本実験による塩基配列の変異により、コードされるアミノ酸配列に変化はない。方法は、上述と同様、クイックチェンジ法により行った。PCRは鋳型、プライマーの種類が異なる以外は、組成、温度サイクルともに同一条件である。反応終了後、溶液をDpnIにより37℃、2時間処理し、反応溶液のうち1μL分取し、タカラバイオ社製大腸菌コンピテントセルMV1184 100μLに加え、製品マニュアルに従い、形質転換した。菌体を34μg/mlのクロラムフェニコールの入ったLB寒天培地に塗布し、37℃にて一晩培養した。生育したコロニーをつつき、キアゲン社製プラスミド精製キットによりプラスミドを精製し、アンバー変異およびSmaI部位を含む変異ccdB遺伝子の配列をDNAシーケンシングにより再度確認した。
【0032】
配列番号6:5’−GATATTATTGACACGCCCGGGCGACGGATG−3’
配列番号7:5’−CATCCGTCGCCCGGGCGTGTCAATAATATC−3’
【0033】
(5) BamHI制限酵素部位の導入
上記(4)で合成されたプラスミドを鋳型に、さらにccdB遺伝子内にBamHI制限部位(−GGATCC−)を設けるための部位特異的置換を行った。この際、制限酵素部位を導入することで、アミノ酸の置換を伴うため、ひとつのアミノ酸置換のみでBamHI部位を設定できるような部位を遺伝子内に検索した。その結果、Val33、Val46、Ala69のアミノ酸を置換することを許容することで、BamHI部位を導入可能なことを見出した。
すなわち、アミノ酸位置33〜35番目のVal-Ile-Proに対応する塩基配列は−G
TGATCCCC−であり、VAL33に対応するコドン(GTG)を2文字目、3文字目が−GG−である他のアミノ酸のコドンに置換することで、BamHI制限部位を導入できる(−N
GGATCCCC−;下線部BamHI部位)。Val33については、変異させるアミノ酸として3種類(Trp(TGG),Arg(CGG,AGG),Gly(GGG)の可能性があったため、そのすべてのパターンをカバーするプライマー(配列番号8,9)を設計した。
【0034】
また、アミノ酸位置46、47番目のVal-Serの対応塩基配列は-GTCTCC-であるため、Val46のコドンをGlyのコドン(GGA)に置換すればよく、そのためのプライマー(配列番号10.11)を設計した。
一方、アミノ酸位置69、70番目のAla−Serの対応塩基配列は−GCCAGT−であるが、BamHIの切断部位中のTCCはSerのコドンでもあるから、アミノ酸置換は、Ala69(GCC)をGly(GGA)に置換するのみでよい。上記Ala−Serの対応塩基配列(−GCCAGT−)をBamHIの切断部位(−GAATCC−)の配列に置換するプライマーは配列番号12.13に示される。
これらのBamHI制限部位の導入は、上述のSmaIの場合とは異なり、アミノ酸置換を伴う変異であり、このためccdB遺伝子の致死性が保持されるかどうかは自明ではない。そのため、部位ごとに致死性の有無の検証が必要であったため、並行して実験を行った。
【0035】
部位特異的置換に用いたプライマーの組み合せは、以下の配列番号8及び配列番号9、配列番号10及び配列番号11、配列番号12及び配列番号13の3通りで用いた。方法は、上述と同様、クイックチェンジ法により行った。PCRは鋳型、プライマーの種類が異なる以外は、組成、温度サイクルともに同一条件である。反応終了後、溶液をDpnIにより37℃、2時間処理し、反応溶液のうち1μL分取し、タカラバイオ社製大腸菌コンピテントセルMV1184 100μLに加え、製品マニュアルに従い、形質転換した。菌体を34μg/mlのクロラムフェニコールの入ったLB寒天培地に塗布し、37℃にて一晩培養した。生育したコロニーをつつき、キアゲン社製プラスミド精製キットによりプラスミドを精製し、アンバー変異、SmaI部位、BamHIを含む変異ccdB遺伝子の配列をDNAシーケンシングにより再度確認した。とくに、アミノ酸位置33番目の変異については、配列番号8と9のプライマーを用いれば、Trp(TGG),Arg(CGG,AGG),Gly(GGG)のすべてがライブラリー中に生まれるが、複数個のコロニーを選択し、プラスミドを抽出、精製し、実際に塩基配列を決定することで、いかなる塩基置換、アミノ酸置換が起きているかを確定した。こうして3種すべての置換パターンを得た。
【0036】
配列番号8:5’−GGGCGACGGATGNGGATCCCCCTGGCCA−3’
配列番号9:5’−TGGCCAGGGGGATCCNCATCCGTCGCCC−3’
配列番号10:5’−CGTCTGCTGTCAGATAAAGGATCCCGTGAACTTTACCC−3’
配列番号11:5’−GGGTAAAGTTCACGGGATCCTTTATCTGACAGCAGACG−3’
配列番号12:5’−ATGATGACCACCGATATGGGATCCGTGCCGGTCTCCGT−3’
配列番号13:5’−ACGGAGACCGGCACGGATCCCATATCGGTGGTCATCAT−3’
【0037】
実施例2
(1) ライブラリーの調製
実施例1(5)で調製された各種プラスミドを含む溶液を、エシェリシア コリーJM109のコンピテントセル(東洋紡社製)に導入し、形質転換体を34μg/Lのクロラムフェニコール、0.05mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドを含むLB寒天プレート上に播種した。上記変異ccdB遺伝子のうち、Val33Trpを含む遺伝子については、既報より、温度感受性となることが知られている(Chakshusmathi G, Mondal K, Lakshmi GS, Singh G, Roy A, Ch RB, Madhusudhanan S, Varadarajan R.Design of temperature-sensitive mutants solely from amino acid sequence. Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 May 25;101(21):7925-30.)。すなわち高温では毒性が現れずに37℃ではコロニー形成をすることも考えられた。しかし実験の結果、30℃、37℃のいずれにおいてもすべての場合において形質転換体を得ることはできなかった。このことは、外来遺伝子を挿入しない場合、(4)で得られたベクターのいずれもが生育できず、挿入断片を有するクローンと選別できることを示唆した。
【0038】
(2) ライブラリーの作成
上記のプラスミドのうち、ccdB遺伝子内にSmaI及びBamHI(Val33Argタイプのもの)を含むpTDtacNdベクター(以後pCm-Ccd1Rとする)を利用して、外来遺伝子断片を挿入させ、ライブラリー作成に用いた。
約10kb長からなる未知遺伝子断片を含むプラスミドベクターを基質として、該プラスミドをAluIあるいはSau3AIで部分消化し、1〜3kbのDNA断片をpCm-Ccd1RベクターのそれぞれSmaI、BamHI部位に挿入した。まず基質となるプラスミド1μgを1ユニットの制限酵素AluI(NEB社)またはSau3AI(タカラバイオ社)と混合し、室温にて4分間反応させた。反応を終濃度10 mMのエチレンジアミン四酢酸を添加し終結させ、反応液を70℃にて10分間保温した。次に、反応液をアガロースゲル電気泳動にかけ、1〜3kbのDNA断片を切り出し、QIAquick spinキット(キアゲン社)により精製した。精製した遺伝子断片は30μLの水により溶出した。一方、pCm-Ccd1R 1μgを10ユニットのSmaIあるいは10ユニットのBamHIにて半塗させた。SmaIについては室温にて2時間、BamHIについては37℃にて2時間反応させた。その後、2ユニットのアルカリホスファターゼ(NEB社)を反応液に直接追加し、室温にて1時間反応させた。
【0039】
(3) 各0.2 μgずつのインサート及びベクター遺伝子断片を混合し10μLの反応系で、T4 DNAリガーゼ(NEB社)存在下で連結反応を室温にて行った。6時間の反応後、1μLを分取し、JM109コンピテントセル(タカラバイオ社)20μL添加した。形質転換細胞を34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天培地に播種し、37℃にて一晩静置培養した。
【0040】
各ライブラリーより生育したクローンの10個を無作為に選択し、34μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB液体培地に植え、37℃一晩培養後にプラスミドを抽出し、SmaI、BamHI部位を挟むように設計されたオリゴヌクレオチドプライマーによりインサートの増幅を試みた。反応溶液(総量20μl)は、1xKOD-plus version 2バッファー(東洋紡社)、1.5mM 硫酸マグネシウム、各0.2mM デオキシリボヌクレオチド混合物、鋳型プラスミド1 ng、1ユニット KOD-plus version 2 DNAポリメラーゼ(東洋紡社)、各10pmolの上流(配列番号14)及び下流(配列番号15)プライマーである。本溶液を98℃にて2分間の保温後、98℃ 10秒、55℃ 30秒、68℃ 3分の温度サイクルを25回繰り返した。
【0041】
配列番号14:5’−CTATAAAAGAGAGAGCCGTTATCGTCTG−3’
配列番号15:5’−ATATCGGTGGTCATCATGCGCCA−3’
反応液をアガロースゲル電気泳動により分析し、すべてのクローンにおいて1〜3kbの断片が得られ、ベクターに対し、正しくクローニングされていることが確認された。
また、各ライブラリーより96個ずつのクローンをランダムに選択し、インサート領域に隣接するプライマーを用いてシーケンス解析したところ、すべてのクローンについてインサートの存在が確認された。