【実施例1】
【0017】
本発明においては、光信号を電気信号に変換せずに、光信号のまま、光非線形材料により、光の電界の4乗の演算を行って、入力された位相変調光信号の4値の位相のいずれかと同一の位相を有する光を生成する手段を提供する。これにより、消費電力の大きなLSIに頼ることなく、入力信号光の位相を決定することができる。
本発明の光非線形素子としては、光の入力強度に比例して屈折率が変化する光非線形素子であればよいが、当該装置の使用には内部で4光波混合が生じ得る光非線形素子が望ましい。
本発明の実施は光ファイバ、サブバンド間遷移素子で行ったが、光非線形素子ならば半導体光増幅器(SOA, Semiconductor Optical Amplifier)、LiNb0
3光導波路等でもよい。
【0018】
まず、本発明の手段の原理について
図1を用いて説明する。4値に変調された第1の入力光信号(1)が、光非線形素子(3)に入力される。入力信号の光電界の時間変化E
1を以下で表わす。
【数1】
ここで、|E
1|は光の電界の振幅、ω
1は入力信号光の角周波数、tは時刻、c.c.は、(1)式第一項の複素共役である。δ
1は、0,π/2,π、3π/2の位相の値を取って変調されている。
図1(a)は複素平面上で表示された第1の入力光信号の光電界ベクトルを表わしている。
【0019】
さらに、この入力光信号に近い波長を有する第2の連続光(2)を同時に入力する。非線形素子では、四光波混合が生じ、入力光信号の二乗と、第2の連続光の積に比例した第3の光(4)が生じる。
図1(b)は複素平面上で表示された第3の光信号の光電界ベクトルを表わしている。
第3の光(4)の光電界の時間変化E
3は、以下で表わされる。
【数2】
ここで、|E
2|は第2の連続光の電界の振幅、ω
2は第2の連続光の角周波数、c.c.は、(2)式第一項の複素共役である。δ
2は、第2の連続光(2)の位相で固定である。
【0020】
この第3の光(4)を、第1、第2の光を光フィルタで除去したのちに、第2の光非線形素子(6)に第4の連続光(5)と同時に入力する。四光波混合が生じ、第3の信号(4)の二乗と第4の連続光(5)の積に比例した光が生じる。
図1(c)は複素平面上で表示された第5の出力光信号の光電界ベクトルを表わしている。
出力光の光電界の時間変化E
outは、以下で表わされる。
【数3】
ここで、|E
4|は第4の連続光の電界の振幅、ω
4は第2の連続光の角周波数、c.c.は、(3)式第一項の複素共役である。δ
4は、第4の連続光の位相で固定である。
【0021】
(2)式より、第3の光(4)の周波数と位相を代入すると、
【数4】
となる。c.c.は、(4)式第一項の複素共役である。δ
1(t)は、0,π/2,π、3π/2の値しかとらないので、4δ
1(t)は、常に0になり、位相が決まった光となる。
特に、第2の連続光(2)と、第4の連続光(5)の周波数の関係を、
【数5】
と設定すると、
【数6】
となり、元の周波数に一致させることができる。
【0022】
図2に第一の実施例の構成を示す。装置は、第1の入力光信号(11)(波長1550nm,入力パワー30dBm,100Gbaud/s)と、第2の連続光(12)(波長1552nm,入力パワー0dBm)を合波する光カプラ1、第1の光非線形素子として動作する高非線形光ファイバ1(14)、第3の信号光(17)のみを透過する光フィルタ1(15)(中心波長1548nm,帯域幅1nm)、第3の光(17)と第4の連続光(18)を合波する光カプラ2(19)、第2の非線形素子として動作する高非線形光ファイバ2(20)と、第5の出力光信号のみ透過する光フィルタ2(21)より構成される。
【0023】
第1の入力光信号(11)と第2の連続光(12)は、高非線形ファイバ1(14)内の四光波混合により、第3の光を生成する。第3の光は、0もしくは、πの位相のみを持っている。第3の光(17)は、EDFA光増幅器(Er Doped optical Fiber Amplifier)(16)により増幅され後、第4の連続光と合波される。第3の光(17)と、第4の連続光(18)は、高非線形ファイバ2(20)での四光波混合により、第5の光(22)を生成する。第5の光は、0の位相のみを持っている。
【0024】
本実施例を用いて、例えば、第5の光と、第1の位相変調信号光と合波して、フォトダイオードで受ける構成のヘテロダイン受信装置を構成すれば、第1の変調信号の位相の揺らぎを高速電気回路の信号処理で抽出することなく、光受信装置が構成可能である。
【0025】
また、本実施例を用いて、例えば、第5の光と、第1の4値の位相変調信号光と合波して、光の強度に応じて光の透過率の変わる光スイッチに入射すれば、電気信号に変換することなく、4値の位相変調信号光から2値の位相変調信号光を抜き出す多重分離装置を構成することが可能である。
本発明は、上記のような、光受信装置や多重分離装置への適用に限定されるものではない。
【実施例2】
【0026】
第二の実施例として用いる、サブバンド間遷移素子を
図3に示す。
図3の左側はサブバンド間遷移素子(31)の概念図を、
図3(a)はInGaAs/AlAsSb量子井戸のバンド構造を表わしている。
【0027】
サブバンド間遷移素子(31)は、n型にドープされたAlGaSb/InGaAs量子井戸(32)をコアとし、InPをクラッドとした光導波路構造になっている(非特許文献2)。この光導波路に、波長が1.5μm帯のTMモードの光(34)を入射すると、AlGaSb/InGaAs量子井戸(32)に形成されたサブバンド間の遷移(40)を引き起こし、光が吸収される。AlGaSbとInGaAsの間の伝導帯のn=1の準位(37)と伝導帯のn=2の準位(38)との伝導帯バンド不連続は比較的大きいため、サブバンド間遷移(40)で1.55μm帯の吸収が可能である。一方、TEモードの光(33)を入射しても、サブバンド間遷移を起こさず、さらに、この量子井戸は、伝導帯のn=1の準位(37)と価電子帯(39)の間のバンド間遷移波長が、1.5μm帯より高エネルギー側にあるため、バンド間遷移(36)吸収も生じない。TEモードの光は、光導波路を損失少なく伝搬していく。
【0028】
TEの光(33)を伝搬させた状態で、TM光(34)を入射しサブバンド間吸収を生じさせると、TEモードに対する屈折率分散が変化し、TEの光に位相変調(35)が生じることが知られている(非特許文献2)。
【0029】
この素子を用いた実施例を
図4に示す。
装置は、第一の入力光信号(41)(波長1550nm,入力パワー17dBm,100Gbaud/s)と、第二の連続光(42)(波長1550nm,入力パワー17dBm)を合波する光カプラ1(43)、第一の光非線形素子として動作するサブバンド間遷移素子1(44)、第3の光(45)と第4の連続光(47)を合波する光カプラ2(48)、第2の非線形素子として動作するサブバンド間遷移素子2(49)より構成される。
【0030】
第1の入力光信号(41)は、TM偏光の成分が17dBm、TE偏光の成分が0dBmの状態で入射される。第2の連続光(42)は、第1のサブバンド間遷移素子に対して、TM偏光の状態で入射される。第2の連続光に対して、第一の入力光信号の位相が一致する場合は強くサブバンド間吸収が起こる。逆の位相の場合には、サブバンド間吸収は弱く生じる。このサブバンド間吸収により、第1の光のTE成分にさらに、0からπの位相変調が重畳された第3の光(45)を生成する。第3の光(45)は、EDFA光増幅器(Er Doped optical Fiber Amplifier)(46)により増幅される。
【0031】
第3の光(45)は、元の位相変調に同じだけの位相変調が再度かかるのでの2倍の位相変調を持つことになる。この操作を再度繰り返すことにより、第5の光(50)は、0の位相のみを持っている。
【0032】
従って、例えば、第5の光(50)を局発光として用い、第1の信号光(41)と合波して、フォトダイオードで受ける構成のイントラダイン受信器を構成すれば、局発光の位相を高速電気回路の信号処理で抽出することなく、安定な動作が可能となる。また、第一の実施例と比較して、光フィルタが必要でなく、さらに、全ての光を入射信号光と同一の波長を用いることができるという特長がある。
【0033】
本実施例を用いて、例えば、第5の光(50)と、第1の位相変調信号光(41)と合波して、フォトダイオードで受ける構成のヘテロダイン受信装置を構成すれば、第一の変調信号の位相の揺らぎを高速電気回路の信号処理で抽出することなく、光受信装置が構成可能である。
【0034】
また、本実施例を用いて、例えば、第5の光(50)と、第1の4値の位相変調信号光と合波して、光の強度に応じて光の透過率の変わる光スイッチに入射すれば、電気信号に変換することなく、4値の位相変調信号光から2値の位相変調信号光を抜き出す多重分離装置を構成することが可能である。
本発明は、上記のような、光受信装置や多重分離装置への適用に限定されるものではない。