【文献】
佐野泰久, 原英之, 有馬健太, 山内和人,原子レベルで平坦な表面の創成技術,トライボロジスト,日本,2010年 3月15日,Vol.55 No.3,Page.148-153
【文献】
牛尾昌史、吉井新、玉井尚登、大谷昇、金子忠昭,4H-SiC(000-1)C面上エピタキシャル・多層グラフェン成長におけるリッジ構造の温度依存性,応用物理学会学術講演会「講演予稿集」,日本,2010年 8月30日,第71回,16a-ZM-3
【文献】
松波弘之,シリコンカーバイド(SiC)研究の進展,FEDレビュー,日本,2002年 4月,Vol.1,No.17,1-7
【文献】
吉井新、牛尾昌史、久津間保徳、大谷昇、金子忠昭、玉井尚登,4H-SiC(0001)表面ステップ密度に依存したグラフェン成長のラマン評価,応用物理学会関係連合講演会「講演予稿集」,日本,2011年 3月 9日,第58回,26p-BM-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
単結晶のSiC層を表面に有する基板上にステップ/テラス構造を形成し、ステップの高さが、単結晶SiC分子の積層方向の1周期分であるフルユニットの高さ、又は単結晶SiC分子の積層方向の半周期分であるハーフユニットの高さと同一であり、前記ステップの高さが標準長さとして用いられるナノメーター標準原器を製造する方法において、
前記基板の表面である(0001)Si面上にオフ角を形成するオフ角形成工程と、
温度範囲が1500℃以上2300℃以下のSi蒸気圧下で前記基板の加熱処理を行うことにより、当該基板の表面を気相エッチングして分子レベルに平坦化するとともに、単結晶SiC分子配列周期の1周期又は半周期のステップを形成させて、前記オフ角に整合するステップ/テラス構造を前記基板の表面に形成し、各テラスに、単結晶SiC分子配列構造からなる(√3×√3)−30°又は(6√3×6√3)−30°のパターンを有する表面構成を形成する表面構成形成工程と、
を含むナノメーター標準原器の製造方法であって、
前記基板が大気中で保存されることで前記SiC層の表面に自然酸化膜が形成された場合であっても、前記基板を温度範囲が800℃以上1400℃以下の真空状態で加熱することで前記SiC層の表面の自然酸化膜が除去されるとともに、前記SiC層の表面の単結晶SiC分子配列が再構成されて(√3×√3)−30°又は(6√3×6√3)−30°のパターンが形成されることを特徴とするナノメーター標準原器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0048】
初めに、原子間力顕微鏡(AFM、測定器)及び走査型トンネル顕微鏡(STM、測定器)の測定原理について説明する。初めに、
図1を参照してAFMの測定原理について説明する。
図1は、AFMの測定原理を概略的に示す説明図である。
【0049】
AFMとは、
図1に示すカンチレバー92(探針)と、検出対象の試料10と、の原子間力に基づいて、当該試料10の表面の形状を検出する装置である。より詳細に説明すると、カンチレバー92は光を反射可能な反射面92aを備えており、AFMが備えるレーザ発生器91は、この反射面92aにレーザを照射している。この反射面92aで反射したレーザは、4分割されたフォトダイオード93で測定される。フォトダイオード93の各領域で発生した光起電力は増幅器94で増幅され、適宜の信号処理装置へ送られる。
【0050】
この構成により、カンチレバー92が試料10に近づくと、カンチレバー92と試料10との原子間力によりカンチレバー92が試料10に引き寄せられることで、当該カンチレバー92が変形する。この変形によって、反射面92aで反射するレーザの進行方向が変わり、フォトダイオード93の各領域の光起電力に差が生じる。そして、この光起電力の差がなくなる(カンチレバー92の変形量を一定にする)ようにカンチレバー92を上下させながら、試料10の表面を移動させていく。そして、試料10のどの位置でカンチレバー92をどれくらい上下させたかに基づいて、試料10の表面の形状を検出することができる。
【0051】
次に、
図2を参照して、STMの測定原理について簡単に説明する。
図2は、STMの測定原理を概略的に示す説明図である。STMは、探針と試料との間に発生するトンネル電流を利用して、試料の表面の形状を検出する装置である。そのため、STMは、導電性を有する試料についてのみ測定を行うことができる。
【0052】
STMは、
図2に示すように、走査部95と、電流増幅部96と、制御部97と、表示部98と、を主要な構成として備えている。
【0053】
走査部95は、制御部97により電圧が印加されている。走査部95は、制御部97から印加された電圧の圧電効果によって試料10に近づく方向又は離れる方向(高さ方向)に移動可能である。また、走査部95は、適宜の駆動手段により試料10の表面に沿う方向に移動可能である。走査部95の先端には、探針95aが形成されている。この探針95aを試料10に原子レベルで近づけることにより、当該探針95aと試料10との間にトンネル電流が流れる。このトンネル電流は、電流増幅部96によって増幅された後に制御部97に入力される。
【0054】
制御部97は、走査部95に印加する電圧を変化させることで、走査部95の前記高さ方向の位置を制御可能である。また、トンネル電流は、探針95aが試料10に近づくにつれて、大きな値を示すことが知られている。そのため、制御部97は、走査部95に印加した電圧と、トンネル電流の大きさと、の関係性に基づいて試料10の表面の形状を検出することができる。具体的には、制御部97は、以下に示す2つの方法の何れかによって試料10の表面の形状を検出する。
【0055】
1つ目の方法は、
図3(a)に示すように、探針95aの高さを一定に保つ方法である。この方法では、試料10の凹凸に応じて、流れるトンネル電流が変化する。制御部97は、このトンネル電流の変化に基づいて、試料10の表面の形状を検出することができる。
【0056】
2つ目の方法は、
図3(b)に示すように、流れるトンネル電流を一定に保つ方法である。この方法では、制御部97は、流れるトンネル電流が一定になるように、走査部95へ印加する電圧を調整する。制御部97は、走査部95へ印加する電圧に基づいて、試料10の表面の形状を検出することができる。
【0057】
なお、STMを用いて計測を行う場合、試料10の周囲を真空にして計測を行うことが一般的である。真空中で計測を行うことにより、試料10が気体分子と反応し得ないので、試料そのものの表面を計測することができる。特に、高温雰囲気下では試料10は気体分子と反応し易くなるため、試料10の周囲を真空にしないと、試料10の表面を適切に計測することができない。
【0058】
また、AFMやSTMでは、試料の表面の形状を精度良く検出できるようにするために、一定期間毎に校正が行われることがある。この校正は、後述の
図14及び
図15に示すように、所定の高さのステップが形成された標準試料を用いて行われる。
【0059】
この校正作業は、初めに標準試料のステップが形成された位置を把握した後に、当該テラスの表面をAFM又はSTMによって測定する。次に、測定したテラスの表面が水平になるように画像処理を行う。各テラスは通常は平行であるため、1つのテラスの表面が水平になるようにすることで、全てのテラスの表面を水平にして測定を行うことができる。そして、測定したテラスに隣接するテラスの測定を行う。このとき、AFM又はSTMに基づいて測定された高さを、標準試料の標準長さ(シリコンステップ基板の場合は、0.31nm)と一致するように当該AFM又はSTMを設定することで、校正を行うことができる。また、異なる標準長さを有する標準試料を更に測定することにより、AFM又はSTMの測定値に対する線形特性を検証しても良い。
【0060】
次に、AFMやSTMの校正を行うための標準試料(ナノメーター標準原器)の製造に用いる高温真空炉11と坩堝(収容容器)2について、
図4から
図7までを参照して説明する。
図4は、標準試料を製造するための加熱処理に用いられる高温真空炉を示す模式図である。
図5は、高温真空炉の本加熱室及び予備加熱室を詳細に示す断面図である。
図6(a)は坩堝2を上方から撮影した外観写真であり、
図6(b)は坩堝2の断面顕微鏡写真である。
図7は、炭素ゲッター効果を説明する模式図である。
【0061】
図4及び
図5に示すように、高温真空炉11は、被処理物を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室21と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室22と、を備えている。予備加熱室22は本加熱室21の下方に配置され、本加熱室21に対して上下方向に隣接している。また、高温真空炉11は、予備加熱室22の下方に配置された断熱室23を備えている。この断熱室23は予備加熱室22に対して上下方向に隣接している。
【0062】
高温真空炉11は真空チャンバ19を備え、前記本加熱室21と予備加熱室22は、この真空チャンバ19の内部に備えられている。真空チャンバ19には真空形成装置としてのターボ分子ポンプ34が接続されており、例えば10
-2Pa以下、望ましくは10
-7Pa以下の真空を真空チャンバ19内に得ることができるようになっている。ターボ分子ポンプ34と真空チャンバ19との間には、ゲートバルブ25が介設される。また、ターボ分子ポンプ34には、補助のためのロータリポンプ26が接続される。
【0063】
高温真空炉11は、予備加熱室22と本加熱室21との間で被処理物を上下方向に移動させることが可能な移動機構27を備えている。この移動機構27は、被処理物を支持可能な支持体28と、この支持体28を上下動させることが可能なシリンダ部29と、を備えている。シリンダ部29はシリンダロッド30を備え、このシリンダロッド30の一端が前記支持体28に連結されている。また、高温真空炉11には、真空度を測定するための真空計31、及び、質量分析法を行うための質量分析装置32が設けられている。
【0064】
前記真空チャンバ19は、被処理物を保管しておくための図略のストック室と、搬送路65を通じて接続されている。この搬送路65は、ゲートバルブ66によって開閉可能になっている。
【0065】
前記本加熱室21は、平面断面視で正六角形に形成されるとともに、真空チャンバ19の内部空間の上部に配置される。
図5に示すように、本加熱室21の内部には、加熱ヒータとしてのメッシュヒータ33が備えられている。また、本加熱室21の側壁や天井には第1多層熱反射金属板41が固定され、この第1多層熱反射金属板41によって、メッシュヒータ33の熱を本加熱室21の中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0066】
これにより、本加熱室21内において、加熱処理対象としての被処理物を取り囲むようにメッシュヒータ33が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板41が配置されるレイアウトが実現されている。従って、被処理物を強力且つ均等に加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。
【0067】
本加熱室21の天井側は第1多層熱反射金属板41によって閉鎖される一方、底面の第1多層熱反射金属板41には貫通孔55が形成されている。被処理物は、この貫通孔55を介して、本加熱室21と、この本加熱室21の下側に隣接する予備加熱室22との間で移動できるようになっている。
【0068】
前記貫通孔55には、移動機構27の支持体28の一部が挿入されている。この支持体28は、上から順に、第2多層熱反射金属板42、第3多層熱反射金属板43、及び第4多層熱反射金属板44を互いに間隔をあけて配置した構成となっている。
【0069】
3つの多層熱反射金属板42〜44は、何れも水平に配置されるとともに、垂直方向に設けた柱部35によって互いに連結されている。そして、第2多層熱反射金属板42及び第3多層熱反射金属板43とで挟まれたスペースに受け台36が配置され、この受け台36上に被処理物を載置できるように構成されている。本実施形態において、この受け台36はタンタルカーバイドにより構成されている。
【0070】
前記シリンダ部29のシリンダロッド30の端部にはフランジが形成されて、このフランジが第4多層熱反射金属板44の下面に固定される。この構成により、前記シリンダ部29を伸縮させることで、受け台36上の被処理物を前記3つの多層熱反射金属板42〜44とともに上下動させることができる。
【0071】
前記予備加熱室22は、本加熱室21の下側の空間を、多層熱反射金属板46で囲うことにより構成されている。この予備加熱室22は、平面断面視で円状となるように構成されている。なお、予備加熱室22内には、前記メッシュヒータ33のような加熱手段は備えられていない。
【0072】
図5に示すように、予備加熱室22の底面部においては、前記多層熱反射金属板46に貫通孔56が形成されている。また、予備加熱室22の側壁をなす多層熱反射金属板46において、前記搬送路65と対面する部位に通路孔50が形成されている。更に、前記高温真空炉11は、前記通路孔50を閉鎖可能な開閉部材51を備えている。
【0073】
予備加熱室22の下側で隣接する前記断熱室23は、上側が前記多層熱反射金属板46によって区画され、下側及び側部が多層熱反射金属板47によって区画されている。断熱室23の下側を覆う多層熱反射金属板47には貫通孔57が形成されて、前記シリンダロッド30を挿通できるようになっている。
【0074】
前記貫通孔57の上端部に相当する位置において、多層熱反射金属板47には収納凹部58が形成される。この収納凹部58には、前記支持体28が備える第4多層熱反射金属板44を収納可能になっている。
【0075】
多層熱反射金属板41〜44,46,47は何れも、金属板(タングステン製)を所定の間隔をあけて積層した構造になっている。前記開閉部材51においても、通路孔50を閉鎖する部分には、同様の構成の多層熱反射金属板が用いられている。
【0076】
多層熱反射金属板41〜44,46,47の材質としては、メッシュヒータ33の熱輻射に対して十分な加熱特性を有し、また、融点が雰囲気温度より高い物質であれば、任意のものを用いることができる。例えば、前記タングステンのほか、タンタル、ニオブ、モリブデン等の高融点金属材料を多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることができる。また、タングステンカーバイド、ジリコニウムカーバイド、タンタルカーバイド、ハフニウムカーバイド、モリブデンカーバイド等の炭化物を、多層熱反射金属板41〜44,46,47として用いることもできる。また、その反射面に、金やタングステンカーバイド等からなる赤外線反射膜を更に形成しても良い。
【0077】
そして、支持体28に備えられる多層熱反射金属板42〜44は、小さな貫通孔を多数有するパンチメタル構造のタングステン板を、当該貫通孔の位置を異ならせつつ所定の間隔をあけて積層した構造になっている。
【0078】
また、支持体28の最も上層に備えられる第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、本加熱室21の第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。
【0079】
この構成で、真空チャンバ19内の汚染を防止するために適宜の容器に被処理物(例えばSiC基板)を収納する。なお、容器は後述の坩堝2であっても良いし、それ以外の容器であっても良い。そして、この状態で被処理物を搬送路65から真空チャンバ19の内部へ導入し、予備加熱室22内にある前記受け台36上に載置する。この状態で前記メッシュヒータ33を駆動すると、本加熱室21が1000℃以上2300℃以下の所定の温度(例えば約1900℃)に加熱される。またこのとき、前記ターボ分子ポンプ34の駆動によって、真空チャンバ19内の圧力は10
-3Pa以下、好ましくは10
-5Pa以下となるように調整されている。
【0080】
ここで前述したとおり、支持体28の第2多層熱反射金属板42の積層枚数は、前記第1多層熱反射金属板41の積層枚数よりも少なくなっている。従って、メッシュヒータ33が発生する熱の一部が第2多層熱反射金属板42を介して予備加熱室22に適度に供給(分配)され、予備加熱室22内の被処理物を500℃以上の所定の温度(例えば800℃)となるように予備加熱することができる。即ち、予備加熱室22にヒータを設置しなくても予備加熱を実現でき、予備加熱室22の簡素な構造が実現できている。
【0081】
上記の予備加熱処理を所定時間行った後、シリンダ部29を駆動し、支持体28を上昇させる。この結果、被処理物が下側から貫通孔55を通過して本加熱室21内に移動する。これにより、直ちに本加熱処理が開始され、本加熱室21内の被処理物を所定の温度(約1900℃)に急速に昇温させることができる。
【0082】
次に、坩堝(収容容器)2について説明する。
図6(a)に示すように、坩堝2は互いに嵌合可能な上容器2aと下容器2bとを備える嵌合容器である。また、この坩堝2は、高温処理を行う場合に後述の炭素ゲッター効果を発揮するように構成されており、具体的には、タンタル金属からなるとともに、炭化タンタル層を内部空間に露出させるようにして備えている。この坩堝2に、シリコン供給源としての図略のシリコンペレットを収容する。これにより、坩堝2に炭素ゲッター機能を良好に発揮させて、その内部空間を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0083】
更に詳細に説明すると、坩堝2は
図6(b)に示すように、その最表層の部分にTaC層を形成し、このTaC層の内側にTa
2C層を形成し、更にその内側に基材としてのタンタル金属を配置した構成となっている。なお、タンタルと炭素の結合状態は温度依存性を示すため、前記坩堝2は、炭素濃度が高いTaCを最も表層の部分に配置するとともに、炭素濃度が若干低いTa
2Cが内側に配置される。そして、Ta
2Cの更に内側には、炭素濃度がゼロである基材のタンタル金属を配置した構成となっている。
【0084】
坩堝2を加熱処理する際には、
図5の鎖線で示すように高温真空炉11の予備加熱室22に配置し、適宜の温度(例えば約800℃)で予備加熱する。次に、予め設定温度(例えば、約1900℃)まで昇温させておいた本加熱室21へ、予備加熱室22内の坩堝2をシリンダ部29の駆動によって移動させ、急速に昇温させる。
【0085】
なお、本加熱室21での加熱時において、坩堝2内の雰囲気は約1Pa以下に維持されることが好ましい。また、上容器2aと下容器2bとを嵌め合わせたときの嵌合部分の遊びは、約3mm以下であることが好ましい。これによって、実質的な密閉状態が実現され、前記本加熱室21での加熱処理において坩堝2内のシリコン圧力を高めて外部圧力(本加熱室21内の圧力)よりも高い圧力とし、不純物がこの嵌合部分を通じて坩堝2内に侵入するのを防止することができる。
【0086】
この昇温により、坩堝2の内部空間がシリコンの蒸気圧に保たれる。また、前記坩堝2は上述したように、その表面が炭化タンタル層に覆われており、当該炭化タンタル層(TaC層)が坩堝2の内部空間に露出する構成になっている。従って、上述のように真空中で高温処理を続ける限りにおいて、坩堝2は
図7に示すように、炭化タンタル層の表面から連続的に炭素原子を吸着して取り込む機能を奏する。この意味で、本実施形態の坩堝2は炭素原子吸着イオンポンプ機能(イオンゲッター機能)を有するということができる。これにより、加熱処理時に坩堝2内の雰囲気に含まれているシリコン蒸気及び炭化珪素蒸気のうち、炭素だけが坩堝2に選択的に吸蔵されるので、坩堝2内を高純度のシリコン雰囲気に保つことができる。
【0087】
本実施形態においては、以上のように構成される高温真空炉11と坩堝2を用いて、SiC基板70から標準試料72を製造する。以下の説明において、単に加熱処理等といった場合は上述した高温真空炉11を用いて行うものとする。
【0088】
次に、標準試料の製造方法について説明する。標準試料に求められる特性は、校正を行う雰囲気や、校正の対象の測定器等によって異なる。以下では、初めに、大気中で計測及び校正が行われる測定器(例えばAFM等)を校正するための標準試料72について説明し、次に、高温真空中で計測及び校正が行われる測定器(例えばSTM等)を校正するための標準試料102について説明する。
【0089】
以下、上記標準試料72の製造方法について、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、AFMを校正するためのナノメーター標準原器の製造工程を示す概念図である。
図9は、機械研磨後のSiC基板70が坩堝2に収容された様子を示す模式図である。
【0090】
本実施形態では、所定のオフ角を有するSiC基板70を用いて標準試料72の製造を行う。この種のSiC基板70は、所定のオフ角を有する既製品を購入する他、表面がジャスト面であるSiC基板を研磨することで形成することもできる。なお、オフ角が形成される面は、(0001)Si面であっても良いし、(000−1)C面であっても良い。
【0091】
表面に所定のオフ角が形成された基板であっても、その表面に機械研磨等が施されていれば、SiC基板70の表面は巨視的には平坦なように見える。しかし、ミクロ的には、
図8(a)に模式的に示すように凹凸が形成されており、このSiC基板70を標準試料として用いるためには、この凹凸を分子レベルで平坦化させる平坦化処理を行う必要がある。
【0092】
この平坦化処理は、
図4で説明した高温真空炉11を用いて、SiC基板70をSi蒸気圧下で高温加熱することにより行う。この加熱処理は、1500℃以上2300℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。また、この加熱処理は、
図9に示すように、SiC基板70を坩堝2内に収容して行うことが好ましい。
【0093】
この平坦化のための加熱処理を具体的に説明する。この加熱処理は、予備加熱工程と、本加熱工程と、によりなる。前記予備加熱工程では、SiC基板70を収容した坩堝2を、予備加熱室22において800℃以上の温度で加熱する。前記本加熱工程では、予め所定の温度で加熱されている本加熱室21に前記予備加熱室から坩堝2を移動し、この状態で、SiC基板70を1500℃以上2300℃以下の温度で所定時間(例えば10分)加熱する。このように、SiC基板70を坩堝2に収容して事前に予備加熱しておき、予備加熱室22から本加熱室21へ移動させることで、SiC基板70を急速に昇温させて加熱処理を行うことができる。
【0094】
この処理により、機械研磨によって凹凸が形成されたSiC基板70の表面部分が
図8(b)のように気相エッチングされて分子レベルに平坦化し、ステップ/テラス構造が形成されたSiC基板71を生成することができる。即ち、Si蒸気圧下で高温加熱することによって、SiC基板70の表面のSiCがSi
2C又はSiC
2になって昇華することにより、平坦化される。なお、このときの加熱温度は、上述のとおり1500℃以上2300℃以下とすることが好ましい。分子レベルに平坦化させたSiC基板71を更にSi蒸気圧下で1800℃以上2000℃以下の気相雰囲気で加熱処理することにより、
図8(c)に示すように、テラス幅が均一なステップが形成される。以上により、標準試料72を製造することができる。
【0095】
このとき形成されるテラス幅の値は、形成されるステップの高さ(下記で示すように温度、SiC基板70の種類等により選択することができる)と、SiC基板70のオフ角と、に基づいて定まる。例えば、オフ角を大きくしたり、ステップの高さを低くしたりする場合は、形成されるテラス幅は小さくなる。一方、オフ角を小さくしたり、ステップの高さを高くしたりする場合は、形成されるテラス幅は大きくなる。
【0096】
次に、
図10から
図13までを参照して、加熱温度と平坦化の関係について説明する。
【0097】
図10は、Si蒸気圧下の気相アニール処理温度と平均表面粗さの関係を示したグラフである。
図10のグラフでは、単結晶SiC(4H−SiC)において、(0001)Si面の加熱処理の温度(アニール温度)に対する平均粗さ(nm)の関係と、(000−1)C面の加熱処理の温度に対する平均粗さ(nm)の関係と、が示されている。
図10のグラフに示すように、1500℃以上の高温で加熱処理した場合、平均粗さが1.0nm以下に収まる結果になった。このことから、高温環境下では、SiC基板70の表面の平坦化が効率的に進むことが判る。
【0098】
図11は、Si蒸気圧下の気相アニール処理温度と表面に形成されたステップの高さの関係を示したグラフである。
図11中の(a)は、フルユニット高さに終端した標準試料72の表面の顕微鏡写真である。また、
図11中の(b)は、ハーフユニット高さに終端した標準試料72の表面の顕微鏡写真である。
図11のグラフに示すように、高温領域では、フルユニット高さ及びハーフユニット高さでのステップの終端が進んでいることが判る。
【0099】
ここで、
図12を参照して、ハーフユニット高さ及びフルユニット高さについて説明する。
図12は、4H−SiC単結晶及び6H−SiCの分子配列と周期を説明するための模式図である。「フルユニット高さ」とは、
図12に示すように、SiとCからなるSiC単分子層が積層方向に積み重ねられる1周期分の前記積層方向の高さをいう。従って、フルユニット高さのステップとは、4H−SiCの場合は1.01nmのステップを意味する。「ハーフユニット高さ」とは、前記1周期の半分の時点での積層方向の高さをいう。従って、ハーフユニット高さのステップとは、4H−SiCの場合0.50nmのステップを意味する。6H−SiCの場合は、フルユニット高さのステップとは1.51nmのステップを意味し、ハーフユニット高さのステップとは0.76nmのステップを意味する。
【0100】
図13は、SiC層の(0001)Si面に、C軸方向に1周期分の高さのステップを形成させたときの表面を示すSEM写真である。
図13では、ステップが形成された箇所(曲線)が細くなっていることから、形成された各ステップが鋭く立ち上がることが判る。また、各テラスに凹凸が見られないことから、精度良く平坦化が行われたことが判る。
【0101】
以上に示してきた実験結果(グラフ及び写真)から判るように、Si蒸気圧下で所定時間高温加熱することによって、機械的な研磨やエッチングでは極めて困難な分子レベル(フルユニット高さ又はハーフユニット高さ)での平坦化を行うことができる。
【0102】
次に、
図14から
図15までを参照して、本実施形態の製造方法により製造された標準試料72と、従来の方法で製造された標準試料81と、を比較する。
【0103】
図14(a)はSi基板を用いた従来の標準試料81の表面の形状を示す図であり、
図14(b)はSi基板を用いた従来の標準試料81の模式断面図である。
図15(a)は本実施形態の標準試料72の表面の形状を示す図であり、
図15(b)は本実施形態の標準試料72のステップの断面形状を示す図であり、
図15(c)は本実施形態の標準試料72の模式断面図である。
【0104】
初めに、従来の標準試料81について簡単に説明する。標準試料81は、シリコンステップ基板であり、従来技術として上記で説明した方法によって製造される。標準試料81に形成されたステップの高さは、シリコン2原子層分の高さであり、0.31nmとなっている。
【0105】
しかし、実際には、シリコン表面の酸化等によりテラスに凹凸が生じているため、テラス幅が
図14(a)に示すように不均一になっており、ステップの高さの値も0.31nmを高精度に実現できている訳ではない。更に言えば、このステップ形状の精度は、シリコンが時間の経過に従って大気中の酸素と反応して酸化することで、徐々に低下してしまう。
【0106】
次に、本実施形態の標準試料72について説明する。なお、
図15で示した標準試料72は、オフ角が1度の4H−SiC基板70を用いて、ハーフユニット高さのステップを形成させたものである。
【0107】
図15(b)に示すように、標準試料72に形成されたテラスは、平坦となっている。しかも、この標準試料72に形成されたステップは、時間が経過しても、表面が粗くなることがない。加えて、SiCはSiよりも融点が高いので、本実施形態の標準試料72は、従来の標準試料81が利用できないような高温環境下であっても、問題なく校正等に用いることができる。
【0108】
また、この標準試料72に形成されるテラス幅は、
図15(a)に示すように均一になっている。ここで、AFMの校正は、標準試料72,81に形成されたステップの高さを用いて行われるので、テラス幅の均一具合が直接的にAFMの校正の精度に影響を与える訳ではない。しかし、テラス幅が狭い箇所が形成されると、その箇所においてはテラスの表面の微細な凹凸の影響が相対的に強まってしまうため、AFMの校正を安定的に行う観点からは好ましくない。この点、本実施形態の標準試料72はテラス幅が均一なため、標準試料72のどの部分で校正を行った場合においても、良好な精度で校正を行うことができる。
【0109】
また、上記特許文献2及び3が開示する単結晶サファイア基板から製造される標準試料は、大気と反応しにくいため、この点では本実施形態の標準試料72と同等であるということができる。しかし、特許文献2の図面に示すように、単結晶サファイア基板から製造される標準試料のテラス幅は不均一であり、更にステップの平坦度に関しても本願発明の標準試料72の方が優れている。
【0110】
前述のように、本実施形態の製造方法では、温度等を変更することで、形成されるステップの高さを4種類から選択できる。この結果、4つの異なる標準長さを校正のために提供することができる。そして、得られる4つの標準長さは何れも非常に高精度であるので、通常は0.1nm程度であるAFMの測定精度を大幅に向上させることができる。また、この標準長さのうち少なくとも2つを用いて校正を行うことで、評価装置の測定値に対する線形特性をナノオーダー以下で検証することが可能となる。
【0111】
以上に説明したように、ナノメーター標準原器としての標準試料72は、長さの基準となる標準長さを有している。また、この標準試料72は、ステップ/テラス構造が形成されたSiC層を有している。そして、ステップの高さが、SiC分子の積層方向の1周期分であるフルユニットの高さ、又はSiC分子の積層方向の半周期分であるハーフユニットの高さと同一である。また、このステップの高さが前記標準長さとして用いられる。
【0112】
これにより、素材としてSiCを用いているため、耐熱性に優れた標準試料72が実現できる。また、SiCは、酸素等の大気中の物質と反応しにくいので、ステップの高さの精度を長期間にわたって維持可能な標準試料72が実現できる。
【0113】
次に、STMを校正するための標準試料の製造方法について
図16及び
図17を参照して説明する。
図16は、STMを校正するためのナノメーター標準原器の製造工程を示す概念図である。
図17は、SiC結晶格子の(√3×√3)−30°又は(6√3×6√3)−30°のパターンを概念的に示す模式平面図である。
【0114】
上述のように、STMは、高温かつ真空中で測定及び校正を行うことが多いので、当該環境においても利用できる標準試料が求められている。以下では、STMの校正用の標準試料を符号102で記し、当該標準試料102を製造する方法について説明する。
【0115】
前述したように、STMを用いて校正を行う場合、標準試料102には導電性が必要となる。そのため、STMの校正用の標準試料102を製造する際には、導電性を有するSiC基板100が用いられる。SiC基板100としては、例えば窒素等の不純物をドープすることによって0.3Ωcm以下の抵抗率を有することが好ましいが、それ以上又は以下の抵抗率であっても良い。また、窒素以外の導電性不純物をドープすることで導電性を持たせても良い。
【0116】
STMの校正用の標準試料102を作成する場合であっても、AFM校正用の標準試料72と同様に、基板にオフ角を形成して機械研磨を行う。なお、AFM校正用の標準試料72を作成する場合は、(0001)Si面と(000−1)C面のどちらの面にオフ角を形成しても良いが、STM校正用の標準試料102を作成する場合は、(0001)Si面にオフ角を形成する(
図16(a)を参照)。これは、Si面にステップを形成した方が、基板の表面に形成された自然酸化膜を容易に除去でき、安定な表面再構成を得ることができるからである。
【0117】
次に、オフ角を形成したSiC基板100に、上記と同様に平坦化処理を行う。この平坦化処理は、標準試料72を製造する際と同様に、SiC基板100を坩堝2内に収容して、当該SiC基板100をSi蒸気圧下で高温加熱することにより行う。この加熱処理は、1500℃以上2300℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。なお、この加熱処理も上記と同様に、予備加熱工程と本加熱工程とに分けて行っても良い。
【0118】
この加熱処理により、SiC基板70の表面部分が
図16(b)のように気相エッチングされて分子レベルに平坦化し、ステップ/テラス構造が形成される。そして、このSiC基板101を更にSi蒸気圧下で1800℃以上2000℃以下のSi蒸気圧下で加熱処理することにより、
図16(c)に示すように、テラス幅が均一なステップが形成された標準試料102を作成できる。
【0119】
なお、標準試料102は気体分子と反応しにくいが、大気中に長時間放置されること等によって当該標準試料102の表面に微量の自然酸化膜が形成されることがある。この自然酸化膜は絶縁被覆として働くので、自然酸化膜が形成された標準試料102には、トンネル電流が流れにくい。そのため、標準試料102に形成された自然酸化膜は容易に除去可能であることが好ましい。
【0120】
この点、本実施形態では、(0001)Si面が標準試料102の表面(ステップ/テラス構造を形成した面)となっているので、真空中で温度を上昇させることで、自然酸化膜を容易に除去することができる。
【0121】
自然酸化膜を除去するための加熱処理はSTMに内蔵された真空炉で、800℃以上1400度以下で行うことが好ましい。ただし、加熱温度は、標準試料102の表面の自然酸化膜を除去できる限り、上記以外の温度であっても良い。
【0122】
この加熱処理によって自然酸化膜が除去されるので、標準試料102に導電性を良好に発揮させることができる。また、この自然酸化膜が除去されることにより、標準試料102の表面には、表面再構成が生じる。
【0123】
従来の標準試料は、一般的には、表面再構成が形成されると、テラスの平坦度が悪化して標準試料として使用できなくなってしまう。この点、本実施形態では、単結晶SiC分子配列が規則的なパターンを有しているので、表面再構成の形成時であっても表面平坦度が悪化することを防止できる。従って、本実施形態の標準試料102は、高温真空下においてもその機能を良好に維持することができる。
【0124】
以下、標準試料102に形成された表面再構成のSiC結晶格子で構成されるパターンについて
図17を参照して説明する。
図17に示すように、標準試料102の表面(Si面)には、自然酸化膜が除去されることで、単結晶SiC分子配列が再構成されて(√3×√3)−30°又は(6√3×6√3)−30°のパターンが形成されている(
図17の太線を参照)。
【0125】
このように、標準試料102は、表面再構成が周期的なパターンを有するので、当該表面再構成が形成された場合であっても、テラスの平坦度が悪化しない。そのため、真空かつ高温という環境であってもステップの高さを正確に維持できるので、標準試料102は、当該環境下で計測を行うSTM等を良好な精度で校正することができる。
【0126】
次に、上記実施形態の変形例について
図18を参照して説明する。
図18は、基板のSi面とC面の両方にステップ/テラス構造を形成した模式断面図である。
【0127】
上記実施形態の標準試料72,102は、SiC基板のSi面又はC面のうち何れか一方にのみステップ/テラス構造を形成する構成である。これに対し、本変形例の標準試料110は、SiC基板のSi面及びC面の両方にステップ/テラス構造を形成する構成である。
【0128】
標準試料110は、例えば上記実施形態と同様に製造することができる。即ち、導電性を有するSiC基板のSi面とC面の両方にオフ角を形成し、Si蒸気圧下で加熱処理を行うことで標準試料110を製造することができる。
【0129】
この標準試料110は、例えば上記AFM及びSTMの両方を校正するための標準試料として用いることができる。上述のように、AFMの測定環境は常温の大気圧下であるため、標準試料110のSi面又はC面の何れを用いても適切にAFMの校正を行うことができる。一方、STMの測定環境は高温真空下であるため、標準試料110のSi面を用いることで、上述のように容易に自然酸化膜を除去して安定な表面再構成を形成することができるので、STMの校正を適切に行うことができる。
【0130】
以上から、標準試料110のC面をAFMの校正用とし、Si面をSTMの校正用とすることで、複数種類の顕微鏡の校正に用いることができる多機能なナノメーター標準原器が実現できる。
【0131】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0132】
収容容器としての坩堝2は、炭化タンタルに限定されない。例えばタンタル以外の金属であって、炭素元素に対するゲッター効果を有し、SiC基板に対して高温接合せず、2000℃程度の温度に対する耐熱性を有し、更に超高真空材料であるものがあれば、当該金属からなる坩堝2に変更することができる。
【0133】
上記実施形態では、AFM又はSTMを校正するための標準試料及びその製造方法を説明したが、形成されるステップの高さを標準長さとして使用する限り、様々なナノメーター標準原器及びその製造方法に適用することができる。例えば、電子顕微鏡、光干渉顕微鏡及びレーザ顕微鏡等の測定器を校正する標準試料を挙げることができる。
【0134】
また、本発明を適用する限りにおいて、以上に説明してきた製造方法の一部を変更できることは勿論である。また、上記実施形態で説明した温度条件や圧力条件等は一例であって、装置の構成や要求される標準長さ等の事情に応じて適宜変更することができる。