(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794698
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】光通信システム
(51)【国際特許分類】
H01S 5/026 20060101AFI20150928BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20150928BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
H01S5/026
G02B6/42
H01S5/183
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-185807(P2012-185807)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-45038(P2014-45038A)
(43)【公開日】2014年3月13日
【審査請求日】2014年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田野辺 博正
(72)【発明者】
【氏名】美野 真司
(72)【発明者】
【氏名】小山 二三夫
(72)【発明者】
【氏名】望月 翔太
【審査官】
金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−043329(JP,A)
【文献】
米国特許第05274720(US,A)
【文献】
特開2012−049180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 − 5/50
G02B 6/42
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面発光レーザと、
前記面発光レーザと当接している円弧形状導波路を備えた光増幅器と
から構成された光源が基板上に配置されたマルチモード光源であって、
前記面発光レーザは、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜と、上部半導体膜上の表面電極とから構成され、
前記光増幅器は、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜とから構成され、当該下部半導体膜の下部境界面は、当該上部半導体膜の上部境界面より高い反射率を有し、
前記面発光レーザで前記基板の主面法線方向とは異なる所定の角度をもって発生したレーザ光は、前記下部境界面および前記上部境界面で反射されながら、前記光増幅器を伝搬し、かつ、前記光増幅器上部の上部境界面から、前記基板主面法線方向と所定の角度で出力され、これによって、出力された光の進行方向において螺旋状の波面を形成することを特徴とするマルチモード光源。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチモード光源と、
前記マルチモード光源からの光を集光するレンズと、
前記螺旋状の波面が結合され、前記レンズで集光された光が伝搬する光ファイバと
から構成された光通信システムであって、
前記光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させることにより、モード分散を低減させたことを特徴とする光通信システム。
【請求項3】
面発光レーザと、
前記面発光レーザと当接している円弧形状導波路を備えた光増幅器と
から構成された光源が複数個基板上に配置されたマルチモード光源であって、
前記複数個の光源を構成する夫々の円弧形状導波路の円弧形状は、同一の中心および異なる径を有し、
前記面発光レーザは、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜と、上部半導体膜上の表面電極とから構成され、
前記光増幅器は、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜とから構成され、当該下部半導体膜の下部境界面は、当該上部半導体膜の上部境界面より高い反射率を有し、
前記面発光レーザで前記基板の主面法線方向とは異なる所定の角度をもって発生したレーザ光は、前記下部境界面および前記上部境界面で反射されながら、前記光増幅器を伝搬し、かつ、前記光増幅器上部の上部境界面から、前記基板主面法線方向と所定の角度で出力され、これによって、出力された光の進行方向において螺旋状の波面を形成することを特徴とするマルチモード光源。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチモード光源と、
前記マルチモード光源からの光を集光するレンズと、
前記螺旋状の波面が結合され、前記レンズで集光された光が伝搬する光ファイバと、
前記光ファイバからの光を平行光にするコリメータレンズと、
前記コリメータレンズからの光を波長毎に分ける分波器と、
前記分波器からの光が結像する光受信機と
から構成された光通信システムであって、
前記光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させることにより、モード分散を低減させたことを特徴とする光通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムに関し、具体的には、限定された高次モードの励振のみによる伝搬を行いモード分散の低減を行う光通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ等の導波路に結合させる前に、光源からの波面を螺旋状に形成させる手法として、回折型レンズを導入する方式が従来から知られている(特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−277695号公報
【特許文献2】特開2008−046312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示すように、特許文献1、特許文献2に記載されたような従来の光通信システムでは、光の進行方向において螺旋状の波面を形成するため、光軸からθ方向に対して位相面を変化させるための、exp(imθ)(ただし、mは1以上の整数)を極座標系で満たす回折格子(1−2)を光源(1−1)の直後に配置し、レンズ(1−3)によって、光ファイバ等の光導波路(1−4)に光結合させていた。
【0005】
回折格子は波長依存性を備えるため、光源の波長毎に異なる回折格子を配置させる必要があった。さらに、より大きな整数mで位相面をより早く変化させる場合では、波面を螺旋状に1回転させるための位相2π変化領域を回折格子面内に複数配置する必要が生じるが、回折格子の大きさによって回折格子面内に配置可能な2π変化領域の最大値が制限されていた。
【0006】
大きな整数mの導入により、螺旋状に波面が進む際での波面の角運動量の上昇が得られ、軸方向からより離れた領域で光強度をよりシャープに同心円状に形成することが可能なモード生成が得られる。従って、大きな整数mを導入した光通信システムは、マルチモード光ファイバ伝送時におけるモード分散が比較的少ない限定高次モード励振用の光通信システムとして好適であることから、軸中心からθ方向により早く位相を変化させる方式が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、面発光レーザと、面発光レーザと当接している円弧形状導波路を備えた光増幅器とから構成された光源が基板上に配置されたマルチモード光源であって、面発光レーザは、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜と、上部半導体膜上の表面電極とから構成され、光増幅器は、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜とから構成され、下部半導体膜の下部境界面は、上部半導体膜の上部境界面より高い反射率を有し、面発光レーザで
前記基板の主面法線方向とは異なる所定の角度をもって発生したレーザ光は、下部境界面および上部境界面で反射されながら、光増幅器を伝搬し、かつ、光増幅器上部の上部境界面から、基板主面法線方向と所定の角度で出力され、これによって、出力された光の進行方向において螺旋状の波面を形成することを特徴とする。
【0008】
本発明は、マルチモード光源と、マルチモード光源からの光を集光するレンズと、螺旋状の波面が結合され、レンズで集光された光が伝搬する光ファイバとから構成された光通信システムであって、光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させることにより、モード分散を低減させたことを特徴とする。
【0009】
本発明は、面発光レーザと、面発光レーザと当接している円弧形状導波路を備えた光増幅器とから構成された光源が複数個基板上に配置されたマルチモード光源であって、複数個の光源を構成する夫々の円弧形状導波路の円弧形状は、同一の中心および異なる径を有し、面発光レーザは、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜と、上部半導体膜上の表面電極とから構成され、光増幅器は、下部半導体膜と、下部半導体膜上の活性領域と、活性領域上の上部半導体膜とから構成され、下部半導体膜の下部境界面は、上部半導体膜の上部境界面より高い反射率を有し、面発光レーザで
前記基板の主面法線方向とは異なる所定の角度をもって発生したレーザ光は、下部境界面および上部境界面で反射されながら、光増幅器を伝搬し、かつ、光増幅器上部の上部境界面から、基板主面法線方向と所定の角度で出力され、これによって、出力された光の進行方向において螺旋状の波面を形成することを特徴とする。
【0010】
本発明は、マルチモード光源と、マルチモード光源からの光を集光するレンズと、螺旋状の波面が結合され、レンズで集光された光が伝搬する光ファイバと、光ファイバからの光を平行光にするコリメータレンズと、コリメータレンズからの光を波長毎に分ける分波器と、分波器からの光が結像する光受信機とから構成された光通信システムであって、光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させることにより、モード分散を低減させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させることによって、モード分散を低減させた光通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】従来技術に係る光通信システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源の構成を示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源の構成を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源の放射パターンを示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源の構成を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施例に係る光通信システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例においては、面発光レーザや光増幅素子の基板材料をGaAs、分布ブラッグ反射鏡(Distributed Bragg Reflector:本明細書では「DBR」ともいう)をGaAlAs/GaAs半導体多層膜反射鏡、そして活性領域をGaInAs/GaAs多重量子井戸として実施しているが、決してこれに限られることはない。
【0014】
たとえば、基板材料をInP、DBRをInGaAsP/InP半導体多層膜反射鏡、活性領域をInGaAsP/InP多重量子井戸としても本発明を適用可能であることはいうまでもない。
【0015】
(第1の実施例)
図2は、本発明の第1の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源(2)の構成を示す斜視図である。半導体基板(2−0)上に、面発光レーザ(2−2)と円弧形状導波路を備えた光増幅器(2−3)とが集積して配置されている。面発光レーザ(2−2)と光増幅器(2−3)とは、当接している。
【0016】
面発光レーザ(2−2)の上部は金属で構成された表面電極(2−4)によって覆われているため、面発光レーザ(2−2)からの基板(2−0)の主面法線方向のレーザ出力は無い。
【0017】
一方、面発光レーザ(2−2)内部のレーザ光は、当接されている光増幅器(2−3)を伝搬し、光増幅器(2−3)上部に備えられた光取出し窓(2−8)から、基板主面法線方向と所定の角度(θとする、
図3(b)を参照)をなす光(2−11)として出力される。
【0018】
図3(b)は、面発光レーザ(2−2)およびそれと当接している光増幅器(2−3)の構造を示す断面図である。断面を得るにあたっては、
図3(a)で示すところの面(2−10)を用いている。
【0019】
図3(a)および
図3(b)で示すように、本実施例に係る面発光レーザ(2−2)は、下部半導体膜(2−5)と、下部半導体膜(2−5)の上の活性領域(2−7)と、活性領域(2−7)の上の上部半導体膜(2−6)と、上部半導体膜(2−6)の上の表面電極(2−4)とから構成されている。
【0020】
光は、下部半導体膜(2−5)と、活性領域(2−7)と、上部半導体膜(2−6)とから構成されている光導波路内部を伝搬し、下部半導体膜(2−5)の下部境界面と上部半導体膜(2−6)の上部境界面とが、伝搬する光の反射鏡(本明細書では「半導体多層膜反射鏡」ともいう)として機能する。下部半導体膜(2−5)の下部境界面を下部反射鏡という。上部半導体膜(2−6)の上部境界面を上部反射鏡という。
【0021】
光増幅器(2−3)は、面発光レーザ(2−2)と同一半導体プロセスで一括形成可能である。面発光レーザ(2−2)で得られたレーザ光(2−9)は、共振器内を多重反射すると共に、その一部が当接されている光増幅器(2−3)へと伝搬する。
【0022】
光増幅器(2−3)に備えられた半導体多層膜反射鏡は、上部反射鏡の反射率が下部反射鏡の反射率と比較して低くなるように構成されており、その結果、光取出し窓(2−8)を形成している。
【0023】
光増幅器(2−3)へと伝搬したレーザ光は、スネルの法則に従い、次の(式1)
n
wg×sin(θ
i)=sin(θ) (式1)
を満たす角度θで光取出し窓(2−8)から空間へと出射される。ただし、n
wgは光増幅器(2−3)の等価屈折率である。
【0024】
図2に示すような、面発光レーザ(2−2)と光増幅器(2−3)とが当接されて構成されている光源(2−1−1)に関し、直径50μmの円弧導波路を備える光増幅器(2−3)から構成された光源(2−1−1)を用いて、実験を行ったところ、
図4に示すような放射パターンが得られた。ここで、
図4のグラフの横軸は、基板主面法線方向と出射光とのなす角度(θ)であり、縦軸は、光強度を表す。
図4に示すように、放射パターンは、θ=-10°または10°でそれぞれ単峯性のピーク(4)を有する。
【0025】
(第2の実施例)
図5は、本発明の第2の実施例に係る光通信システムで利用するマルチモード光源(3)の構成を示す斜視図である。3つの光源(2−1−1、2−1−2、2−1−3)が同一半導体基板(2−0)上に、形成されている。3つの光源(2−1−1、2−1−2、2−1−3)は夫々、異なる直径の円弧導波路を備える。直径が異なる円弧導波路の中心は同一である。
【0026】
3つの光源(2−1−1、2−1−2、2−1−3)からの光の波長を夫々相違させたマルチモード光源3を使用する。このようなマルチモード光源3を用いて、
図6に示すようなマルチモード波長多重光通信システムを構成する。マルチモード光源3から出力された3波長が合波されているレーザ光は、レンズ(4−1)によって光ファイバ(5)へ結合される。
【0027】
このとき、光ファイバ(5)に入力するレーザ光の波面は、光の進行方向において螺旋状の波面が形成されている。本実施形態に係るマルチモード波長多重光通信システムでは、光ファイバの軸中心を励振せず中心から離れた所定の半径方向のみを励振させ、限定された高次モードの励振のみを伝搬させるので、モード分散を低減させた伝送が可能となっている。
【0028】
光ファイバ(5)で伝送された後は、光はコリメータレンズ(4−2)によって平行光とされた後、分波器(6)へと導かれる。分波器(6)でそれぞれの波長毎に分波された後に、レンズ(4−3)を介して光受信器(7)へと結像し、波長多重マルチモード光通信を提供する。
【0029】
なお、本実施例では、
図5および
図6に示したように、各々が異なる直径の円形導波路を備える光源の数を3としているが、光源の数は任意の自然数としてよい。任意の数の光源から成るマルチモード光源に対し、本発明を適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0030】
1−1、2−1−1、2−1−2、2−1−3:光源
1−2:回折格子
1−3:レンズ
1−4:光導波路
2、3:マルチモード光源
2−0:半導体基板
2−2:面発光レーザ
2−3:光増幅器
2−4:表面電極
2−5:下部半導体膜
2−6:上部半導体膜
2−7:活性領域
2−8:光取出し窓
2−9:面発光レーザ2−2で得られたレーザ光
2−10:面
2−11:基板主面法線方向と所定の角度θで出射される光
4:ピーク
4−1、4−3:レンズ
4−2:コリメータレンズ
5:光ファイバ
6:分波器
7:光受信器