特許第5794869号(P5794869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5794869固体電解質膜形成用のマスク、リチウム二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794869
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】固体電解質膜形成用のマスク、リチウム二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20150928BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20150928BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-198614(P2011-198614)
(22)【出願日】2011年9月12日
(65)【公開番号】特開2013-60618(P2013-60618A)
(43)【公開日】2013年4月4日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 俊介
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光隆
(72)【発明者】
【氏名】浅川 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
(72)【発明者】
【氏名】鄒 弘綱
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−211920(JP,A)
【文献】 特開2008−234860(JP,A)
【文献】 特開2009−179867(JP,A)
【文献】 特開2009−158416(JP,A)
【文献】 特開2003−132941(JP,A)
【文献】 特開2010−182448(JP,A)
【文献】 特開2007−103130(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0118897(US,A1)
【文献】 特開2004−127743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極と負極との間に配置される固体電解質層をスパッタリング法によって基板上に形成する際に前記基板上に配置されるマスクであって、
前記マスクは、スパッタリング粒子を通過させない遮蔽部と、前記スパッタリング粒子を通過させる通過部とを有し、表面には、Liを吸収する素材であるグラファイト、ハードカーボン、Si、Sn、SiO、SnO、Nb25、Li4Ti512、TiO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFePO4、V25、FeF3、又はSが露出された固体電解質膜形成用のマスク。
【請求項2】
Liを吸収する前記素材は、LiCoO2又はグラファイトのいずれか一方又は両方である請求項1記載のマスク。
【請求項3】
基板表面に形成され、正極と負極との間に配置される固体電解質層を、スパッタリング粒子を通過させない遮蔽部と、前記スパッタリング粒子を通過させる通過部とを有するマスクを、前記正極と前記負極のいずれか一方が前記基板上に形成された成膜対象物に配置して形成するリチウム二次電池の製造方法であって、
表面にLiを吸収する素材であるグラファイト、ハードカーボン、Si、Sn、SiO、SnO、Nb25、Li4Ti512、TiO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFePO4、V25、FeF3、又はSが露出するマスクを配置し、Liを含有する化合物から成るターゲットをスパッタリングし、スパッタリング粒子に前記マスクに設けられた通過部を通過させ、前記通過部底面の前記成膜対象物の表面に固体電解質膜を形成するリチウム二次電池の製造方法。
【請求項4】
Liを吸収する前記素材は、LiCoO2又はグラファイトのいずれか一方又は両方である請求項3記載のリチウム二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記ターゲットはLi3PO4で構成された請求項3又は4のいずれか1項記載のリチウム二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成の技術分野に係り、特に、リチウムイオン電池の固体電解質層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜リチウムイオン二次電池の固体電解質層を形成する際には、スパッタリング装置内に搬入した成膜対象物の表面に、所定形状の貫通孔を有するマスクを配置し、貫通孔を通過したスパッタリング粒子によって、成膜対象物上に、貫通孔と同じパターンの固体電解質層を形成する。
【0003】
このマスクについては、金属を母材とするのが一般的であり、Liを含有する固体電解質層を正極層に形成する際に、正極層の下層の正極集電層が露出しているおり、固体電解質層が形成されると、マスクと正極集電層間に形成される電場により、Liイオンの偏り、イオンマイグレーションが発生する。
【0004】
このイオンマイグレーションによって基板上やマスク上にデンドライト状の析出物が形成され、成膜対象物上で、析出物によって正極と負極とが短絡し、大幅に歩留まりが低下する問題が発生する。
【0005】
マスクの材質をセラミックスの様な絶縁物にして、マスクと集電層との間に電界が形成されないようにしても、マスクを固定する金具の周辺にデンドライト状の析出物が形成され、パーティクルが発生し、また、固体電解質層中のLiが不足することから、固体電解質層が変質するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−103130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、デンドライト状の析出物を発生させずに個体電解質層を形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の発明者等は、リチウムイオンが電界の影響で移動することが析出の原因であると考えたが、電界が形成されることは避けることができないことも判明した。
そこで、リチウムイオンを移動させないためには、移動するリチウムを固体、即ちマスク表面に吸収して固定すればよいことに考えが至った。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいて創作されたものであり、本発明では、マスクを正極材料で構成することができ、また、マスクを負極材料で構成することもできる。
そして本発明は、リチウム二次電池の正極と負極との間に配置される固体電解質層をスパッタリング法によって基板上に形成する際に前記基板上に配置されるマスクであって、前記マスクは、スパッタリング粒子を通過させない遮蔽部と、前記スパッタリング粒子を通過させる通過部とを有し、表面には、Liを吸収する素材であるグラファイト、ハードカーボン、Si、Sn、SiO、SnO、Nb25、Li4Ti512、TiO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFePO4、V25、FeF3、又はSが露出された固体電解質膜形成用のマスクである。
また、本発明は、Liを吸収する前記素材は、LiCoO2又はグラファイトのいずれか一方又は両方であるマスクである。
また、本発明は、基板表面に形成され、正極と負極との間に配置される固体電解質層を、スパッタリング粒子を通過させない遮蔽部と、前記スパッタリング粒子を通過させる通過部とを有するマスクを、前記正極と前記負極のいずれか一方が前記基板上に形成された成膜対象物に配置して形成するリチウム二次電池の製造方法であって、表面にLiを吸収する素材であるグラファイト、ハードカーボン、Si、Sn、SiO、SnO、Nb25、Li4Ti512、TiO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiFePO4、V25、FeF3、又はSが露出するマスクを配置し、Liを含有する化合物から成るターゲットをスパッタリングし、スパッタリング粒子に前記マスクに設けられた通過部を通過させ、前記通過部底面の前記成膜対象物の表面に固体電解質膜を形成するリチウム二次電池の製造方法である。
また、本発明は、Liを吸収する前記素材は、LiCoO2又はグラファイトのいずれか一方又は両方であるリチウム二次電池の製造方法である。
また、本発明は、前記ターゲットはLi3PO4で構成されたリチウム二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、デンドライト状の析出物の発生が防止されるので、高歩留まりで固体電解質層を形成することができ、又、リチウムイオン二次電池の信頼性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)、(b):本発明に用いることができるスパッタリング装置の一例
図2】(a)〜(f):本発明のリチウム二次電池を製造する工程を説明するための図
図3】薄膜が形成された本発明に用いるマスクの例
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2(f)は、リチウム二次電池20の概略構造を示す断面図であり、基板11を有している。
ここでは基板11はガラス基板であり、基板11上に、それぞれパターニングされた正極集電体層12と、正極13と、固体電解質層14と、負極15とがこの順序で積層されており、負極15は、基板11上の離間した位置に配置された負極集電体層16と接触されている。図2(f)では、保護膜やパッケージは省略されている。
【0013】
このリチウム二次電池20を充電するときには、直流電圧源の正電圧出力端子を正極集電体層12に接続し、負電圧出力端子を負極集電体層16に接続し、リチウム二次電池内部で正極と負極の間に位置する固体電解質層14に電圧を印加し、固体電解質層14の内部でリチウムイオンを正極から負極に向けて移動させ、負極内部に浸入させる。
放電させるときには、正極集電体層12と負極集電体層16との間に負荷を接続してリチウムイオンを固体電解質層14内部で負極から正極に移動させ、負荷に通電する。
【0014】
このように、リチウム二次電池の正極と負極は、どちらもリチウムイオンを吸蔵し、放出できる特性を有しており、本発明は固体電解質層14を所望形状に形成する際にマスクを用いて固体電解質層14をスパッタリング成膜しており、本発明のマスクには、正極を構成できる物質と、負極を構成できる物質の両方とも使用し、電界によって移動するリチウムイオンを吸収することができる。
【0015】
本願発明の工程を説明すると、図2(a)を参照し、本発明は、一枚の基板11上に複数個のリチウム二次電池を形成し、基板11を切断して一枚の基板11から複数個のリチウム二次電池を得るリチウム二次電池の製造方法であり、複数個のうちの一個のリチウムイオン二次電池を図(a)〜(f)に示して、その工程を説明する。
【0016】
同図では、一個の正極集電体層12が示されている。正極集電体層12はアルミニウムやニッケル等の金属で構成されており、その表面に、図2(b)に示すように、正極13を形成する。正極13は、ここではLiCoO2で構成されている。
【0017】
次に、正極13上に、パターニングされた固体電解質層14を形成する。図1(a)、(b)の符号40は、固体電解質層14を成膜するスパッタリング装置であり、真空槽41の内部に載置台45が配置されており、載置台45と対面する位置にはターゲット46が配置されている。
【0018】
先ず、図1(a)に示すように、真空槽41内を真空排気装置42によって真空排気して真空雰囲気にしておき、真空雰囲気を維持しながら、正極13を形成した成膜対象物10を真空槽41内に搬入し、載置台45上に配置する。
【0019】
次に、マスク17aを、成膜対象物10に対して位置合わせして、成膜対象物10上に配置する。ここでは真空槽41の内部で配置したが、予め成膜対象物10とマスク17aとを真空槽41の外部で位置合わせして配置し、その状態で真空槽41内に搬入して載置台45上に配置してもよい。
載置台45上のターゲット46は板状に成形されたLi3PO4で構成されており、バッキングプレート47に取り付けられている。
【0020】
バッキングプレート47は、交流電源48に接続されており、ガス導入系43から反応性ガスN2と、スパッタリングガスとを真空槽41内に導入し、交流電源48を動作させてバッキングプレート47に交流電圧を印加すると、ターゲット46がスパッタリングされ、ターゲット46の構成物質がターゲット46からスパッタリング粒子として飛び出す。
【0021】
マスク17aは、スパッタリング粒子から成膜対象物10を遮蔽する遮蔽部21aと、遮蔽部21a間に設けられ、スパッタリング粒子を通過させる通過部22aとを有しており、通過部22aを通過したスパッタリング粒子は、成膜対象物10の表面に到達し、ターゲット46の構成物質が反応性ガスN2と反応して形成されたLiPONの薄膜が通過部22aと同じ平面形状に形成される。
【0022】
本発明のマスク17aは、グラファイト板が加工されて、グラファイトから成る遮蔽部21と、貫通孔である通過部22aとが形成されており、スパッタリングの際に形成される電界によって成膜対象物10上に到達したLiPON中のLi原子がマスク17a上に移動しても、グラファイト板中の平面状に炭素が結合したグラファイトシートの間にLi原子が進入するので、リチウムはマスク17aの表面に析出せず、デンドライト状の析出物は発生しない。
【0023】
図2(d)の符号14は、形成された固体電解質層14であり、スパッタリング装置40の真空槽41から固体電解質層14が形成された成膜対象物10を搬出し、他の成膜装置内に搬入して、図2(e)に示すように、露出する基板11の表面に負極集電体層16を形成する。
【0024】
この状態では、固体電解質層14と負極集電体層16とは表面が露出しており、この状態の成膜対象物10上にLi金属を堆積させると、固体電解質層14の表面と負極集電体層16の表面とに接触したLi金属から成る負極15が形成され、基板11上に形成されたリチウム二次電池20が得られる。
保護膜を形成した後、基板11を切断して基板11上の複数のリチウム二次電池20を分離させると、複数のリチウム二次電池が得られる。
【0025】
なお、本願発明のリチウム二次電池では、固体電解質層14には、Li2O−P25+N(LiPON),Li2O−B25+N(LiBON)等のガラス系固体電解質、Li2S−P25,Li2S−SiS等のガラス硫化物系固体電解質、Li2Ti37,Li3N,La0.5Li0.5TiO3等の結晶系固体電解質を用いることができる。
【0026】
上記実施例では、負極としてはLi金属を用いたが、グラファイト、ハードカーボン等の炭素系負極材料を用いることができ、また、Si,Sn,SiO,SnO等の合金系負極を用いることができ、また、Nb25,Li4Ti5O12,TiO2等の酸化物系負極材料を用いることができる。
また、一般的ではないが、Al,Zn,Ga,Ge,Ag,Cd,In,Sb,Pb,Bi等の金属も用いることができる。
【0027】
正極には、LiCoO2、LiNiO2等の層上岩塩型正極材料を用いることができる他、LiMn24等のスピネル型正極材料、LiFePO4等のオリビン型正極材料、V25等の酸化バナジウム系正極材料、FeF3等のフッ化物正極材料、S等の硫化物系正極材料を用いることができる。
これら正極の構成材料と、負極の構成材料は、本発明のマスクを形成するマスク構成材料に用いることができる。
【0028】
上記実施例では、グラファイト板を加工してマスク17aを形成したが、図3に示すように、金属やセラミックス等のグラファイト以外の物質から成る母材19に貫通孔22bを形成し、貫通孔22bの内周面であり、貫通孔22b内に露出する面と、板状の母材19の少なくともターゲットに対面する面と、その面の反対側の面と、から成る表面にグラファイト薄膜23を形成し、表面にグラファイト薄膜23が露出するマスク17bを用いても良い。要するに、Liが析出する部分にグラファイト層が形成されていればよく、マスク17の全面にグラファイト層が形成されていなくてもよい。
【0029】
また、マスク17aを構成するマスクの材料や、母材19表面に形成する薄膜の材料は、グラファイトに限定されるものでは無く、Liイオンを吸収できる材料であればよく、正極や負極に用いられる物質はリチウムを吸収する素材であるから、正極の物質や負極の物質をマスク材料や薄膜材料にし、表面に露出させてもよい。
【0030】
例えば、グラファイトやLiCoO2がマスク材料と薄膜材料として使用でき、グラファイトとLiCoO2はリチウムを吸収した場合、Liイオン単独拡散層として侵入するため、基本的な材料の構造にあまり変化が無いため使用による劣化が少ない。従って、リチウムの析出物を発生させず、また、マスク起因のパーティクルも発生させずに、スパッタリングによってパターニングされた固体電解質層14を形成することができる。マスク17の表面には、LiCoO2又はグラファイトに代表される正極材料、負極材料が露出していれば良い。
なお、上記例では、正極13上に固体電解質層14を形成したが、負極を形成した後、負極上に固体電解質層を形成し、固体電解質層上に正極を形成してもよい。
【符号の説明】
【0031】
11……基板
13……正極
14……固体電解質層
15……負極
17……マスク
20……リチウム二次電池
46……ターゲット
図1
図2
図3