(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794955
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】β−Ga2O3単結晶膜付基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20150928BHJP
C30B 19/12 20060101ALI20150928BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B19/12
H01L21/205
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-155200(P2012-155200)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15366(P2014-15366A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2014年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159433
【弁理士】
【氏名又は名称】沼澤 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】流王 俊彦
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−093243(JP,A)
【文献】
Shinji NAKAGOMI,Crystal orientation of β-Ga2O3 thin films formed on c-plane and a-plane sapphire substrate,Journal of Crystal Growth,2012年 4月17日,Vol.349, No.1,Page.12-18
【文献】
Tsung-Yen TSAI,MOCVD Growth of GaN on Sapphire Using a Ga2O3 Interlayer ,Journal of The Electrochemical Society,2011年,Vol.158, No.11,Page.H1172-H1178
【文献】
Daisuke SHINOHARA,Heteroepitaxy of Corundum-Structured α-Ga2O3 Thin Films on α-Al2O3 Substrates by Ultrasonic Mist Chemical Vapor Deposition,Japanese Journal of Applied Physics,2008年,Vol.47, No.9,Page.7311-7313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム粉末と酸化鉛粉末又はフッ化鉛粉末とを溶融して融液を調製し、該融液を過冷却温度まで下げると共に、この過冷却温度に維持した融液中に4インチ〜6インチの口径のサファイア基板を挿入し、該サファイア基板表面に液相エピタキシャル法によってβ−Ga2O3単結晶膜を育成させることを特徴とするβ−Ga2O3単結晶膜付基板の製造方法。
【請求項2】
前記融液に酸化ホウ素(B2O3)又は五酸化バナジウム(V2O5)を添加することを特徴とする請求項1に記載のβ−Ga2O3単結晶膜付基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオードやレーザダイオードなどの発光素子として使われる窒化ガリ
ウムの製造に用いられる高品質なβ−Ga
2O
3単結晶膜付基板
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、窒化ガリウムの育成に用いられる基板材料としてサファイア基板が用いられてきた(特許文献1参照)。しかし、このサファイア基板は、サファイア結晶と窒化ガリウム結晶との格子定数差が大きいために、サファイア基板上に育成された窒化ガリウムの結晶膜中に少なからず欠陥や転位等が含まれてしまい、必ずしも良質な窒化ガリウム膜が得られるとはいえないという問題がある。
そこで、窒化ガリウムとの格子定数のミスマッチを少なくするために、最近では酸化ガリウム単結晶が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献2には、酸化ガリウム(Ga
2O
3)単結晶の表面に窒素イオンをイオン注入して窒化ガリウム変性層を形成した酸化ガリウム単結晶複合体を製造し、この酸化ガリウム単結晶複合体を窒化ガリウム育成用の基板とする技術が記載されている。しかしながら、この技術では、酸化ガリウム焼結体を原料棒として酸化ガリウム単結晶を育成しているために、育成された酸化ガリウム単結晶ウエハの口径が小さい(8mm程度)という問題がある。
【0004】
また、特許文献3には、光学式浮遊帯域溶融法(FZ法)によって酸化ガリウム基板を製造する技術が記載されているが、この技術でも、酸化ガリウム焼結体を原料棒としてFZ法によって酸化ガリウム単結晶を育成しているために、育成された酸化ガリウム単結晶ウエハの口径が小さいという問題がある。
【0005】
特許文献4には、このような酸化ガリウム単結晶のサイズの問題を解決するために、酸化ガリウムを含む原料を溶融前にCIP処理又はHIP処理等して高密度化し、この高密度化処理された原料を溶融しEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法等によって酸化ガリウム単結晶を育成する技術が記載されている。しかしながら、この技術では、原料を高圧又は高温高圧で処理するための設備上のコスト負担を要する上に、育成される酸化ガリウム単結晶の口径が2インチ程度であるのが実情であり、しかも、育成される結晶も薄状となるため工程が長い割りに生産性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−268259号公報
【特許文献2】特開2007−56328号公報
【特許文献3】特開2008−303119号公報
【特許文献4】特開2011−153054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、従来の設備を利用して安価でかつ簡易に製造することができる
4インチ〜6インチの口径のβ−Ga
2O
3単結晶膜付基板
の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、基板がサファイア基板であれば4インチ以上の大口径の基板を安価でかつ容易に入手できることに着目し、この大口径のサファイア基板を使ってGa
2O
3単結晶膜の育成について鋭意検討したところ、Ga
2O
3多結晶が融材となる酸化鉛(PbO)やフッ化鉛(PbF
2)に溶解することを見出した。また、Ga
2O
3多結晶が溶融した酸化鉛(PbO)又はフッ化鉛(PbF
2)の融液を過冷却の温度まで下げてやると、液相エピタキシャル法によって、この融液からサファイア基板上にβ−Ga
2O
3単結晶膜が育成されることを見出して、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の製造方法は、酸化ガリウム粉末と
酸化鉛粉末又はフッ化鉛粉末とを溶融して融液を調製し、該融液を過冷却温度まで下げると共に、この過冷却温度に維持した融液中に
4インチ〜6インチの口径のサファイア基板を挿入し、該サファイア基板表面に液相エピタキシャル法によってβ−Ga
2O
3単結晶膜を育成させることを特徴とする。
【0011】
本発明の製造方法では、鉛系融液に酸化ホウ素(B
2O
3)又は五酸化バナジウム(V
2O
5)を添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のβ−Ga
2O
3単結晶膜付基板によれば、基板表面に大口径のβ−Ga
2O
3単結晶膜を有するから、窒化ガリウムの製造に際し、窒化ガリウムとの格子定数のミスマッチが小さく、大口径で高品質の窒化ガリウムを安価に製造することができる。
また、本発明の製造方法によれば、従来の大口径サファイア基板や液相エピタキシャル法を利用するから、設備上のコスト負担が少ない安価で簡易な方法によって容易に大口径のβ−Ga
2O
3単結晶付基板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の概要を詳細に説明する。本発明で利用する鉛系の融材を用いる液相エピタキシャル法は、例えば、GGG(ガドリウム・ガリウム・ガーネット)基板表面に希土類鉄ガーネット結晶膜を育成するような一般的な製造方法として知られている。そして、この液相エピタキシャル法では、一度のエピタキシャル成長で多数枚の基板表面にエピタキシャル膜を成長させることができる。
【0014】
そこで、本発明では、例えば特開平2−251119に記載されているような液相エピタキシャル装置を利用してβ−Ga
2O
3単結晶付基板を製造するものであり、この装置では、分割された縦型ヒータ(加熱炉)の中にルツボが設置され、ルツボの上部に回転軸が設けられている。
【0015】
また、本発明で用いるサファイア基板は、市販されているものでよく、効率よく大口径のβ−Ga
2O
3結晶膜を得るためには、サファイア基板の口径が4インチ〜6インチのものを選択することが好ましい。液相エピタキシャル法によって育成されるGa
2O
3の材料としては、4Nより高純度品を選択し、また単結晶の構造としては、β−Ga
2O
3の比率が90%以上のものを選択する。
【0016】
さらに、本発明の融材としては、過冷却状態が安定的に保持できる鉛系のもの、一般的には酸化鉛又はフッ化鉛を主成分とするものが好ましく、この鉛系の融材にエピタキシャル膜の成長速度を調整するために、酸化ホウ素(B
2O
3)又は五酸化バナジウム(V
2O
5)を添加するのが好ましい。
【0017】
次に、本発明のβ−Ga
2O
3単結晶付基板を製造する具体的な操作手順について説明する。先ず、結晶成分となるGa
2O
3粉末を秤取し、鉛系の融材粉末とよく混合した後に白金からなるルツボに入れて液相エピタキシャル装置にセットする。次に、このルツボを900℃〜1100℃まで昇温し、昇温した温度で10分〜60分間白金製の撹拌治具で撹拌した後に、融液組成で決まる過冷却状態まで温度を下げる。その後、この融液温度を過冷却状態が保てるように維持しつつ、液相エピタキシャル装置の白金あるいは白金合金製治具にセットしたサファイア基板を融液に挿入し、白金あるいは白金合金製治具を回転・反転させることでエピタキシャル膜を成長させる。このエピタキシャル膜が十分に成長した後に回転軸を上昇させて治具からサファイア基板を外してβ−Ga
2O
3膜付基板を得る。
【0018】
このような操作手順によって得られたβ−Ga
2O
3膜付基板は、その膜表面に残留した融材を除去するために、例えば1N希塩酸などで酸洗浄される。その後、表面観察により膜表面に荒れや結晶膜厚のムラを発見した場合には、コロイダルシリカなどを用いて表面層をCMP研摩により鏡面化するのが好ましい。
【0019】
本発明のβ−Ga
2O
3膜付基板は、大口径でかつ表面にβ−Ga
2O
3膜が育成されているために、サファイア基板の場合のような窒化ガリウムとの格子定数のミスマッチが小さいから、発光ダイオードやレーザダイオードなどの発光素子として使われる窒化ガリウムの製造用基板として好適である。
【0020】
また、本発明の製造方法は、従来の大口径サファイア基板や液相エピタキシャル法を利用するものであるから、設備上のコスト負担が少ない安価で簡易な方法である。
さらに、この液相エピタキシャル法における結晶成長では、融液中への基板の挿入・結晶成長・取り出しという操作手順を繰り返し行なうことができるし、また、複数回の結晶成長を行なった後に、基板表面に成長させた結晶成分をリチャージすることでさらに連続して結晶成長を行うことができるから、本発明の製造方法は、きわめて効率のよい製造方法でもある。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
酸化ガリウム粉末(純度4N)、酸化鉛粉末(純度4N)を秤量し、ステンレススチール製の容器内でよく混合した後、φ150、高さ300mmの白金坩堝に入れ、この坩堝を1000℃に設定した管状炉に移し、ここで1週間加熱を続けた。坩堝を管状炉から取り出した後に、液相エピタキシャル炉にセットし、1100℃に昇温し、白金製の撹拌治具で30分間攪拌した後に、過冷却状態の温度まで降温した。この過冷却状態は融液組成で決まるが、この実施例1の融液組成の場合は870℃であった。本発明のようなGa
2O
3多結晶を酸化鉛(PbO)又はフッ化鉛(PbF
2)に溶融した場合の融液組成の過冷却温度の範囲は、約3℃〜8℃である。
【0022】
次に、4インチサファイア基板8枚を白金製の治具に予め取り付けておき、この治具を液相エピタキシャル炉の回転軸にセットすると共に、過冷却状態の870℃に維持した融液中に挿入して、回転数60rpm、反転周期5秒で5分間結晶成長を行った。その後、回転と反転の操作を止め、回転軸を上昇させて、液相エピタキシャル炉外に治具を取り出した後に、治具より4インチサファイア基板8枚を外した。
【0023】
このサファイア基板8枚を1N塩酸で洗浄し、サファイア基板とGa
2O
3膜との屈折率が異なることを利用して、波長範囲0.8μから1.5μで分光光度計による干渉縞測定によりサファイア基板上の膜の厚さを測定した結果、その膜厚は5ミクロンであった。次に、この膜のX線回折測定を行なった結果、回折パターン解析により、この膜はβ−Ga
2O
3膜であることが確認できたので、実施例1によれば、4インチのサファイア基板上にβ−Ga
2O
3単結晶膜が育成されたβ−Ga
2O
3単結晶膜付基板を容易に製造することができた。
【0024】
(実施例2)
酸化ガリウム粉末(純度4N)、酸化鉛粉末(純度4N)、酸化ホウ素粉末(純度4N)を秤量し、ステンレススチール製の容器内でよく混合した後、φ150、高さ300mmの白金坩堝に入れ、この坩堝を1000℃に設定した管状炉に移し、ここで1週間加熱を続けた。坩堝を管状炉から取り出した後に、液相エピタキシャル炉にセットし、1100℃に昇温し、白金製の撹拌治具で30分間攪拌した後に、過冷却状態の温度まで降温した。この過冷却状態は融液組成で決まるが、この実施例2の融液組成の場合は850℃であった。本発明のようなGa
2O
3多結晶を酸化鉛(PbO)又はフッ化鉛(PbF
2)に溶融した場合の融液組成の過冷却温度の範囲は、約3℃〜15℃である。
【0025】
次に、4インチサファイア基板8枚を白金製の治具に予め取り付けておき、この治具を液相エピタキシャル炉の回転軸にセットすると共に、過冷却状態の850℃に維持した融液中に挿入して、回転数60rpm、反転周期5秒で5分間結晶成長を行った。その後、回転と反転の操作を止め、回転軸を上昇させて、液相エピタキシャル炉外に治具を取り出した後に、治具より4インチサファイア基板8枚を外した。
【0026】
このサファイア基板8枚を1N塩酸で洗浄し、サファイア基板とGa
2O
3膜との屈折率が異なることを利用して、波長範囲0.8μから1.5μで分光光度計による干渉縞測定によりサファイア基板上の膜の厚さを測定した結果、その膜厚は10ミクロンであった。次に、この膜のX線回折測定を行なった結果、回折パターン解析により、この膜はβ−Ga
2O
3膜であることが確認できたので、実施例2によっても、4インチのサファイア基板上にβ−Ga
2O
3単結晶膜が育成されたβ−Ga
2O
3単結晶膜付基板を容易に製造することができた。