特許第5795050号(P5795050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5795050気密封止パッケージ部材及びその製造方法、並びに、該気密封止パッケージ部材を用いた気密封止パッケージの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795050
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】気密封止パッケージ部材及びその製造方法、並びに、該気密封止パッケージ部材を用いた気密封止パッケージの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/02 20060101AFI20150928BHJP
【FI】
   H01L23/02 C
   H01L23/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-271561(P2013-271561)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-126191(P2015-126191A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】小柏 俊典
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕矢
(72)【発明者】
【氏名】宮入 正幸
【審査官】 太田 龍一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−278562(JP,A)
【文献】 特開2008−028364(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/129496(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/02
H03H 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された封止領域を画定する少なくとも1つの枠状の封止材とからなる気密封止パッケージ部材において、
前記封止材は、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末が焼結してなる焼結体より形成されたものであり、
更に、前記封止材は、前記封止領域から領域外へ向けての任意断面における形状が、一定高さを有する基部と、前記基部から突出する少なくとも一つの山部とからなるように形成されており、封止材の上端長さが下端長さよりも短くなっていることを特徴とする気密封止パッケージ部材。
【請求項2】
任意断面における封止材の基部の高さ(h)と山部の高さ(h’)との比(h’/h)が0.2〜5.0である請求項1記載の気密封止パッケージ部材。
【請求項3】
基板平面に対して平行な平面視において、山部の頂点が描く軌跡が網目状、格子状となっている請求項1又は請求項2記載の気密封止パッケージ部材。
【請求項4】
基板と、前記基板上に形成された封止領域を画定する少なくとも1つの枠状の封止材とからなる気密封止パッケージ部材において、
前記封止材は、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末が焼結してなる焼結体より形成されたものであり、
更に、前記封止材は、前記封止領域から領域外へ向けての任意断面における形状が、封止材の下端長さを底辺とする略三角形状を有する山部となるように形成されており、封止材の上端長さが下端長さよりも短くなっていることを特徴とする気密封止パッケージ部材。
【請求項5】
任意断面における封止材のと山部の高さ(h’’)と底辺長さ(L)の比(h’’/L)が0.1〜3.0である請求項4記載の気密封止パッケージ部材。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の気密封止パッケージ部材の製造方法であって、
メッシュ状の開口部を有するマスクを基板表面に載置し、
純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末と溶剤とからなる金属ペーストを塗布し、前記開口部に前記金属ペーストを充填した後、前記マスクを引き上げ、
前記金属ペーストを焼成して焼結体からなる封止材を形成する気密封止パッケージ部材の製造方法。
【請求項7】
金属ペーストは、回転粘度計による23℃におけるシェアレート40/sの粘度に対する4/sの粘度の測定値から算出されるチクソトロピー指数(TI)値が値が3〜15であり、且つ、シェアレート4/sにおける粘度が30〜1000Pa・sである請求項6記載の気密封止パッケージ部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の気密封止パッケージ部材を用いた気密封止パッケージの製造方法であって、
前記気密封止パッケージ部材の基板と他の基板とを、封止材を介して重ねて配置し、80〜300℃に加熱しながら、一方向又は双方向から加圧し、前記封止材を緻密化させる気密封止パッケージの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器等の各種デバイスの気密封止のために用いられるパッケージ部材及びその製造方法に関する。特に、基板上に複数の封止領域を形成するウエハレベルパッケージの製造において有用なパッケージ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS素子等の電子機器に用いられる各種の機能デバイスは、感応部や駆動部を有する繊細な部品であり、パーティクル等の付着による機能低下を防止するため気密封止されパッケージ化されたものが多い。これらの気密封止パッケージは、半導体素子が載置される基板とカバーとを封止材にて接合し密封することで製造される。
【0003】
気密封止パッケージの製造時で使用される封止材としては、かつては、ろう材(例えば、Au−Sn系ろう材等)が広く適用されていた。しかし、接合温度(ろう材の溶融温度)の高さから、より低温での接合を可能とするものが求められていた。そのような背景の中、本発明者等は、低温接合が可能であり封止特性も良好とすることができる手法として、金属ペーストを用いる封止方法を開発している(特許文献1)。この方法では、所定の金属粉末を含む金属ペーストを塗布し、これを焼結することで得られる金属粉末焼結体を封止材とするものである。この金属粉末焼結体においては、接合時(封止時)に加熱及び加圧されることで、更なる緻密化が生じ、バルク体とほぼ同様の緻密性を有することから封止材として作用し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5065718号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の電子機器の高性能化に伴い、各デバイスには更なる小型化・薄型化が要求されており、素子の実装手法もウエハから切り出したチップを基板として個々にパッケージングする既存方式からウエハレベルパッケージへの対応が進められている。ウエハレベルパッケージは、チップに分離することなくウエハ上で封止材の設置、デバイスの組み立てまでを完了させるプロセスである。
【0006】
本発明者等による金属ペーストを利用した封止方法も、基本的にはウエハレベルパッケージへの対応が可能である。ペースト塗布技術の進歩に伴いウエハ上に金属ペーストを微細パターンで塗布することができ、これを焼結することで金属粉末焼結体からなる封止材を形成することができる。そして、封止材を形成したウエハに上部基板(上部ウエハ)を押圧することで、封止領域を形成することができる。
【0007】
但し、ここで問題となるのがウエハ上のパッケージ数の増加による封止工程(焼結体による接合工程)の際の押圧荷重の増大である。上記の通り、金属粉末焼結体による封止は、加熱と加圧により達成されるものであり、封止時にはウエハを加圧して金属粉末焼結体を十分緻密化する必要がある。このときに必要となる押圧荷重は、封止材(金属粉末焼結体)の断面積(封止面積)に応じて大きくなる。封止面積はパッケージ数に比例するものであるから、パッケージ数の増加は押圧荷重の増大に繋がりウエハ接合装置への負荷が大きくなり、装置の仕様を超えることもある。本来、ウエハレベルパッケージは、パッケージの高密度実装に対応することが目的であるが、金属粉末焼結体を封止材とする場合、押圧荷重を抑えつつ封止領域を設定する必要が生じては、そのメリットを十分享受できない可能性がある。
【0008】
本発明は、以上のような背景のもとになされたものであり、金属粉末焼結体を封止材とした気密封止パッケージについて、気密封止の際の荷重を低減しつつ、十分な効果を発揮するための手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、まず、金属粉末焼結体における緻密化の機構を再確認することから検討を行った。本発明者等による金属粉末焼結体からなる封止材は、適用される金属粉末の純度、粒径に基づく特性を利用し、焼結体となった後でも加圧により緻密性が増すようになっている。この加圧による緻密性の増大は、金属粒子(粉末)の塑性変形・結合と言った物理的な変化に加えて、加圧と加熱により印加される熱的エネルギーによる再結晶による金属組織的な変化に起因するものである。この金属粉末の塑性変形及び再結晶という変化は、焼結体が上下方向から拘束された状態で加圧されて圧縮されることにより生じるものである。
【0010】
従って、封止材と上下基板とが接触し加圧される範囲を部分的なものにすれば、封止材内部で生じる金属粉末の塑性変形及び再結晶も部分的なものとなるはずである。そして、そのために要する荷重は低くなると考えられる。本発明者等は、この考察を基に、封止材となる金属粉末焼結体の形状を調整し、低加重であっても封止効果を有する状態を見出し、本発明に想到した。
【0011】
即ち、本発明は、基板と、前記基板上に形成された封止領域を画定する少なくとも1つの枠状の封止材とからなる気密封止パッケージ部材において、前記封止材は、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末が焼結してなる焼結体より形成されたものであり、更に、前記封止領域から領域外へ向けての任意断面について、前記封止材の上端長さが下端長さよりも短くなっていることを特徴とする気密封止パッケージ部材である。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係る気密封止パッケージ部材では、基板上に設定された枠状の封止材の断面形状について、接合される上部基板と接する上端長さが、基板と接する下端長さよりも短くなるように形成されたものとする(図1(a))。金属粉末焼結体からなる封止材の断面形状について上端長さを短くしたとき、封止時に上部基板を押圧すると、上端の頂点部分から圧縮を受け、その直下の金属粉末の変形が生じ再結晶領域が形成される(図1(b))。そして、上部基板の押圧を継続することで再結晶領域が拡大し、柱状の再結晶領域が形成される(図1(c))。この柱状の再結晶領域は、周囲の金属粉末焼結体に対して緻密化され封止効果を有することから、これにより封止領域の気密性を確保することができる。
【0013】
以上のような柱状の再結晶領域の形成にあたっては、上部の基板と封止材との接触が部分的なものとなっているため、平坦な封止材の全面を押圧して全体を再結晶させる従来法と比較すると低荷重で再結晶化発現させることができる。従って、本発明によれば、上部基板の押圧荷重を低減しつつ封止領域を形成することができる。以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明における封止材は、全体が金属粉末の焼結体からなる。この焼結体の形成過程は後に詳述するが、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属からなる金属粉末を焼結したものである。焼結体形成のための金属粉末の条件について、高純度の金属を要求するのは、純度が低いと粉末の硬度が上昇し、焼結体とした後の変形・再結晶化が進行しがたくなり、封止作用を発揮しないおそれがあるからである。また、後述の通り、焼結体形成には金属粉末と溶剤とからなる金属ペーストが適用され、これにはガラスフリットが含まれない。そのため、形成された封止材は、粉末と同様の高純度金属からなる。具体的には、純度99.9重量%以上の金属で構成される。
【0015】
上記した、封止材上端の圧縮による柱状の再結晶領域の形成可否、及び、再結晶領域の寸法(幅)は、封止材の相対密度の影響を受ける。封止材を構成する焼結体の密度が低い場合、圧縮を受けても金属粉末の塑性変形・結合が進行し難くなり、再結晶領域の形成が困難となる、又は、封止効果を期待するのに十分な幅を形成し難い。この封止材を構成する焼結体の相対密度については、構成する金属粒子のバルク体(鋳造、メッキ等により同一組成で製造されるバルク材)に対して、60%以上の密度であることが好ましい。特に、好ましくは70%以上であり、このようにバルク体の密度に近い焼結体を適用することで、形成される再結晶領域の幅は、圧縮された部分の幅と同等のものとなる。
【0016】
ここで、本発明における封止材の断面形状としては、一定高さを有する基部と、前記基部から突出する少なくとも一つの山部とからなるように形成されているものが挙げられる。上記の説明の通り、押圧荷重を低減しつつ封止領域を形成することができるからである。
【0017】
そして、このような断面形状における山部の寸法・形状としては、基部の高さ(h)と山部の高さ(h’)との比(h’/h)が0.2〜5.0とすることが好ましい(図2)。この比率が0.2未満であると、応力集中に伴う山部の圧縮量が小さく、山部が部分的に塑性変形して再結晶する効果が損なわれる。また、5.0を超える場合、垂直に封止材を圧縮するのが困難となる。
【0018】
また、基部上に形成される山部の幅は、再結晶領域の幅に影響を及ぼし、山部の数は、再結晶領域の数に影響を与える。山部は少なくとも一つが形成されていることを要するが、好ましくは複数形成されているのが好ましい。再結晶領域をバックアップ的に複数形成するためである。
【0019】
山部は、封止領域から外部へ向けての任意断面において、常に少なくとも一つ形成されていることが必要である。そのため、山部の頂点は、基板平面に対して平行な平面視において、連続した軌跡を描くことが多く、この軌跡に沿って再結晶領域が形成される。この山部の頂点が描く軌跡は、封止材の基部外縁に平行に沿ったもの、同心円状のもの等でも良いが、頂点の軌跡同士が交差した網目状、格子状となっているものが好ましい(図3)。あらゆる断面方向について再結晶領域を網羅的に形成することができるからである。
【0020】
尚、山部の高さは、上記した基部との高さ比の範囲内にあれば常に均等であることは要しない。例えば、頂点の軌跡が網目状となっている場合において、軌跡の交点部の高さをピークとし、交点間ではこれより低い山部を形成していても良い(後述の実施形態を参照)。また、山部の断面形状についても、頂点から下端部にかけての斜面(尾根)は直線であっても良いし、曲線であっても良い(図4)。
【0021】
また、本発明における封止材の断面形状としては、上記のようなものの他、封止材の下端長さを底辺とする略三角形状を有する山部となるように形成されているものも挙げられる(図5)。この封止材の断面形状はシンプルなものであり、圧縮により形成される再結晶領域は一本であるが、封止領域を極小にする必要がある場合等において好適な封止材の断面形状である。
【0022】
そして、このような断面形状が山部のみからなる封止材については、山部の高さ(h’’)と底辺長さ(L)の比(h’’/L)について0.1〜3.0とするのが好ましい。山部の高さが低すぎる場合、山部の圧縮量を大きくとるには荷重を増大させる必要があるからである。尚、山部の頂点は、底辺の中心にある必要はなく、左右いずれかに偏ったものでも良い。また、山部の高さは均等でなくとも良く、上記した比率の範囲内にあれば良い。
【0023】
本発明では、以上のように封止材の断面形状を規定するものであるが、平面形状については、基板上に封止領域を画定するための枠形状を有していれば良く特に制限されるものではない。枠形状としては、円形の枠でも良いし、矩形の枠でも良い。
【0024】
本発明における基板とは、その表面上に少なくとも一つの封止領域を形成する必要のある部材であり、シリコンウエハー、金属ウエハーの他、樹脂基板であっても良い。尚、基板には予め封止領域内に半導体素子等が設置されていても良い。
【0025】
封止材は基板に直接形成されていても良いが、基板表面に下地金属膜を形成し、その上に封止材を形成しても良い。この下地膜は、封止材である金属粉末焼結体と基板との密着性を高めるためのものであり、下地膜を設定することで、焼結体に均一な加圧を付与した際に適切な再結晶化を誘起することができる。下地膜は、金、銀、パラジウム、白金、チタン、クロム、タングステン、チタン−タングステン合金、ニッケルのいずれかの金属からなるものが好ましく、高純度(99.9重量%以上)のものが好ましい。また、封止材に対する密着性確保のためバルク体の金属からなるのが好ましく、メッキ(電解メッキ、無電解メッキ)、スパッタリング、蒸着、CVD法等により形成されたものが好ましい。尚、金属膜は、単層又は多層構造のいずれでも良いが封止材と接触する層の金属は金属粉末の金属と同材質の金属とするのが好ましい。
【0026】
次に、本発明に係る気密封止パッケージ部材の製造方法及びパッケージの封止封止方法について説明する。本発明に係る気密封止パッケージ部材は、基板上に所定の構成の金属ペーストを枠形状で塗布し、その後焼成することで製造することができる。
【0027】
封止材を形成するための金属ペーストは、純度が99.9重量%以上であり、平均粒径が0.005μm〜1.0μmである金、銀、パラジウム、白金から選択される一種以上の金属粉末と有機溶剤とからなるものが基本構成となる。金属粉末の純度を99.9重量%以上とするのは、上記の通り、焼結体としたときの変形能、再結晶化を考慮することに加え、導電性の確保も考慮するものである。また、金属粉末の平均粒径を0.005μm〜1.0μmとするのは、1.0μmを超える粒径の金属粉では、微小な貫通孔に充填したときに大きな隙間が生じ、最終的に必要な通電性を確保できないからであり、0.005μm未満の粒径では、金属ペースト中で凝集しやすくなり、貫通孔への充填が困難となるからである。
【0028】
金属ペーストで用いる有機溶剤としては、エステルアルコール、ターピネオール、パインオイル、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール、カルビトール、イソボルニルシクロヘキサノール(製品名としてテルソルブMTPH: 日本テルペン化学株式会社製等がある)、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール(製品名として日香MARS(日本香料薬品株式会社製)等がある)、ジヒドロ・ターピネオール(製品名として日香MHD(日本香料薬品株式会社製)等がある)が好ましい。
【0029】
塗布する金属ペーストの金属粉末と有機溶剤との配合割合については、金属粉末を80〜99重量%とし有機溶剤を1〜20重量%として配合するのが好ましい。かかる割合にするのは、金属粉末の凝集を防ぎ、封止材を形成するのに十分な金属粉末を供給できるようにするためである。
【0030】
尚、本発明で使用する金属ペーストは、添加剤を含んでも良い。この添加剤としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、アルキッド樹脂から選択される一種以上がある。例えば、アクリル系樹脂としては、メタクリル酸メチル重合体を、セルロース系樹脂としては、エチルセルロースを、アルキッド樹脂としては、無水フタル酸樹脂を、それぞれ挙げることができる。これらの添加剤は、金属ペースト中での金属粉末の凝集を抑制する作用を有し、金属ペーストを均質なものとする。添加剤の添加量は、金属ペーストに対して2重量%以下の割合とすることが好ましい。安定した凝集抑制効果を維持しつつ、金属粉含有量を貫通孔充填に十分な範囲内とすることができる。
【0031】
但し、本発明で使用する金属ペーストは、電極・配線パターン形成等で広く用いられている一般的な金属ペーストと相違しガラスフリットを含まない。本発明で金属ペーストにガラスフリットを混合しないのは、微細で緻密な枠状の封止材を形成するためであり、再結晶化を阻害しうる不純物を残留させないためである。尚、金属ペーストを構成する有機溶剤等の金属粉末以外の成分は、充填後の乾燥、焼結工程で消失するので、ガラスフリットのような阻害要因とはならない。
【0032】
金属ペーストを基板に塗布する際には、封止材を形成するためのメッシュ状の開口部を有するマスクを基板表面に載置し、ここに金属ペーストを塗布して開口部内に金属ペーストを充填する。マスク開口部の平面形状は、封止材と同じ枠形状であるものが好ましい。本発明では、メッシュ状の開口部を有するマスクを適用するが、これは、封止材の山部形成を目的とするものである。
【0033】
この山部形成のプロセスを図6にて説明する。メッシュは基板表面に対し一定高さを有する状態でマスク開口部に設けられている。金属ペーストは、開口部の少なくともメッシュと接触する高さまで充填される(図6(a))。そして、金属ペーストの充填が完了した後にマスクを除去するが、その際メッシュを引き上げると、金属ペーストの表面張力の作用により表面が持ち上がった状態となり(図6(b))、マスクを完全に引き上げたとき山部が形成される(図6(c))。
【0034】
上記のような金属ペーストの表面張力を利用して形成される山部の高さは、金属ペーストの粘度により調整される。粘度の観点から好ましい金属ペーストは、回転粘度計による23℃におけるシェアレート40/sの粘度に対する4/sの粘度の測定値から算出されるチクソトロピー指数(TI)値が3 〜15であり、且つ、シェアレート4/sにおける粘度が30〜1000Pa・sとなるものである。金属ペーストの粘度は、有機溶剤の選定、金属粉末と有機溶剤との配合割合、添加剤の有無及び添加量により調整することができる。より好ましい金属ペーストは、チクソトロピー指数値が5〜10であり、且つ、シェアレート4/sにおける粘度が100〜800Pa・sとなるものである。
【0035】
パターン部開口のメッシュのパターンは、平面視における封止材の山部頂点の軌跡に相当することになる。このとき、メッシュの線径は10〜25μmが好ましく、孔の目開き(オープニング)は20〜70μmが好ましい。メッシュは、細線を編みこんで形成されていても良いが、メッキ法、電気鋳造法、エッチング等で製造されたものであっても良い。また、マスクの厚さは2〜50μmとするのが好ましい。マスクの材料は、一般的に用いられている感光乳剤や、ペースト中の溶剤耐性を高めるため金属箔、例えばニッケル箔等を適用しても良い。
【0036】
基板への金属ペーストの塗布方法については、特に限定はない。また、金属ペースト塗布後は、金属ペーストの乾燥を行うのが好ましい。乾燥温度は150〜250℃以下で行うのが好ましい。
【0037】
金属ペーストを焼結するときの加熱温度は150〜300℃とするのが好ましい。150℃未満では、金属粉末を十分に焼結できないからであり、300℃を超えると、焼結が過度に進行し、金属粉末間のネッキングの進行により硬くなり過ぎる。また、焼成時の雰囲気は、大気、不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)、1〜5%の水素を混合した不活性ガス等が選択される。更に焼成時間は30分〜8時間とするのが好ましい。焼結時間が長すぎると、焼結が過度に進行し、金属粉末間のネッキングの進行により硬くなり過ぎるといった問題が生じるからである。
【0038】
以上の金属ペーストの塗布、焼結により金属粉末は焼結固化され封止材が形成され、本発明に係る気密封止パッケージ部材が製造される。
【0039】
そして、本発明に係るパッケージの封止方法は、以上のようにして気密封止パッケージ部材を製造し、その基板と他の基板とを封止材を介して重ねて配置し、加熱しつつ加圧して封止材を緻密化させるものである。この他の基板とは、本発明に係る気密封止パッケージ部材の基板と同じ材質・寸法でも良いし、異なる材質・寸法のものでも良い。また、半導体素子等のデバイスでも良い。
【0040】
このときの加熱・加圧条件としては、加熱温度は80〜300℃とするのが好ましい。基板や基板上の素子の損傷を抑制しつつ金属粉末の再結晶を進行させるためである。好ましくは、加熱温度は150〜250℃とする。
【0041】
この加熱・加圧処理の時間は、設定された加熱温度に到達してから0.5〜3時間とするのが好ましい。そして加熱・加圧処理により、封止材は、山部が潰れ、基部の山部直下付近において優先的に金属粉末の塑性変形、再結晶が生じて緻密化する。これにより形成される再結晶領域は上部の基板と封止材との接触が部分的なものとなっているため、封止材の全面を押圧して全体を再結晶させる従来法と比較すると低荷重で気密封止が確立される。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように、本発明に係る気密封止パッケージ部材は、基板上に複数の封止領域を設定した場合においても、押圧荷重を低減しつつ確実な気密封止を得ることができる。本発明に係る気密封止方法は、所定の金属ペーストを用いた比較的簡易な工程にて、複数領域の気密封止が可能であり、ウエハレベルパッケージへの応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の封止材中における再結晶領域形成の過程を説明する図。
図2】基部と山部を有する封止材の山部の寸法を説明する図。
図3】平面視における封止材の山部の軌跡を説明する図。
図4】基部と山部を有する封止材の山部の形状の例を説明する図。
図5】本発明における封止材の他の断面形状(略三角形状の山部)を説明する図。
図6】封止材の形成過程を説明する図。
図7】第1実施形態で製造した封止材の外観写真。
図8】第2実施形態で製造した封止材の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
第1実施形態:基板として直径4インチのシリコンウエハーを用意し、その表面に下地膜として、Ti(0.05μm)/Pt(0.01μm)/Au(0.2μm)(Tiがウエハー表面側)の3層の金属膜をスパッタリング法にて成膜した。
【0045】
次に、封止材となる焼結体の原料である金属ペーストを調整した。金属ペーストは、湿式還元法により製造された金属粉末を96重量%と、有機溶剤であるイソボルニルシクロヘキサノール(MTPH)4重量%とを混合して調整したものを用いた。本実施形態では、金、銀、パラジウム、白金の各金属粉末の金属ペーストを用意した。
【0046】
調整した各金属ペーストについては予め粘度を測定した。粘度測定は、円錐型回転粘度計(HAAKE社製 Rheostress RS75(コーンプレート:チタン製 35mm、ギャップ0.05mmに設定))にて、測定温度23℃、シェアレート4/s、 20/s、 40/sの順でそれぞれ30秒間保持して連続的に測定した。そして、測定値を基にチクソトロピー指数(TI)値を次式にて算出した。
TI=(シェアレート4/sの粘度)÷(シェアレート40/sの粘度)
【0047】
そして、上記金属ペーストを上記の基板に塗布した。本実施形態では、封止材の幅300μm、パターン形状10mm角の矩形の封止領域をウエハー上に10個設定した。この封止材のパターンに沿ったスクリーンマスク(サスペンドメタルマスク)を介して金属ペーストを塗布した。ここで使用したスクリーンマスク(製品名 ESPメタルマスク; 太陽化学工業株式会社)は、一般的な乳剤(エマルジョン)マスクの乳剤部をNi箔メタルで置換えたものである。Ni箔の厚さは30μmであり、開口部上面に線径16μmの金属線を孔密度500で編まれたメッシュを備え、孔の目開き(オープニング)は33μmである。
【0048】
金属ペーストの塗布は、メタルマスクをウエハーに載置し、その上から金属ペーストをスクリーン印刷により塗布した。そして、金属ペーストをメタルマスクの開口部に充填した後、メタルマスクを上方へ略垂直に移動させ、開口部のメッシュにより山部を形成した。
【0049】
金属ペースト塗布後、150℃で乾燥して金属ペースト中の溶剤、ガス成分を除去した。その後、200℃の窒素−4%水素雰囲気中で金属ペーストを焼成し金属ペースト中の溶剤、ガス成分を除去した。この焼結後の封止材の外観を図7に示す。この封止材については、断面を走査電子顕微鏡で観察し、その画像を基に画像解析で二値化処理し、気孔部と非気孔部の比率を基に封止材の相対密度を算出した。
【0050】
以上のようにして製造した気密封止パッケージ部材について、上部基板として、同じ下地膜Ti(0.05μm)/Pt(0.01μm)/Au(0.2μm)を形成した4インチのシリコンウエハーを接合して気密封止を行った。真空雰囲気中、ヒーター上にセットされた気密封止パッケージ部材の封止材に上記ウエハーを載置した。そして、上方から荷重をかけた後に、ヒーターにより昇温速度30℃/minで200℃まで加熱し、200℃に到達後30分保持した。
【0051】
200℃で30分の加熱及び押圧した後除荷し、封止材内側の封止領域の気密性を確認するために、ヘリウムリークテスト(ベルジャー法)を行った。この評価は、ヘリウムリークレートが10-9Pa・m/s以下を合格とした。
【0052】
本実施形態では、金属ペーストの金属種毎に気密封止工程の際の押圧荷重を変更してウエハー同士の接合を行い、封止領域内の気密性を検討した。また、従来例との比較のため、上面が平坦な封止材を形成したパッケージ部材を製造し、その気密性も確認した。この従来例は、本実施形態と同じ金属ペーストを用い、メタルマスク印刷で本実施形態と同様の平面形状(封止材幅300μm、パターン形状10mm角)で高さ20μmの寸法でパターン形成した後、金属ペーストを乾燥・焼成して矩形枠状の封止材を形成した。その後、本実施形態と同様の条件でウエハー同士を接合し気密封止した。この結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から、従来例においては、押圧荷重を12kNとした場合には、十分な気密性を有する封止領域を形成することができるが(No.6)、押圧荷重を7.2kNに下げたときにはリークが生じてしまい、封止が不十分となっている(No.7)。即ち、従来例は上面が平坦な封止材で、その面積は120mm(幅0.3mm、パターン形状10mm角、封止領域10個)であることから、圧力が100MPa(12kN)で封止できるが、圧力が60MPa(7.2kN)ではリークが生じることを意味している。
【0055】
これに対し、本実施形態においては、7.2kNの押圧荷重でもリークは見られず、荷重を低減しつつも気密性十分な封止領域を形成できていることがわかる。即ち、山部に応力集中させた結果、山部直下付近において優先的に金属粉末の塑性変形、再結晶が生じて緻密化するため、封止材の全面を押圧させる必要がある従来例よりも低荷重で気密封止が確立されることがわかる。但し、封止材を構成する金属粉末の純度、粒径が好適範囲外となると、リークが発生し不十分な結果となる。
【0056】
第2実施形態:ここでは封止材の断面形状として、三角形状の山部のみからなるものを形成し、その封止能力を確認した。第1実施形態と同様の基板について、第1実施形態のNo.1の金属ペーストを使用して封止材を形成した。基板上の封止材の配置パターンは、幅(底辺)20μmで10mm角の封止領域100個形成するようにした。
【0057】
封止材の形成は、第1実施形態と同様、スクリーンマスク(サスペンドメタルマスク)を介して金属ペーストを塗布した。ここで使用したESPメタルマスク(太陽化学工業株式会社)は、Ni箔の厚さは24μmであり、開口部上面に線径16μmの金属線を孔密度325で編まれたメッシュを備え、孔の目開き(オープニング)は53μmのものである。図8に本実施形態で形成した封止材の外観を示す。この封止材は、底辺の幅20μm、頂点高さ4〜7μmであり、山部の高さ(h’’)と底辺長さ(L)の比(h’’/L)は0.2〜0.4であった。
【0058】
そして、このパッケージ部材について、第1実施形態と同様にしてウエハーを接合して気密封止した。その後、リークテストを行ったところ、ヘリウムリークレートが10-11〜10-13Pa・m/sの範囲内であり合格と判定された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、基板上に複数の封止領域が設定された気密封止パッケージを製造する際に懸念される押圧荷重の上昇の問題を解決するものである。本発明は、押圧荷重を低減しつつ確実な気密封止を得ることができ、比較的簡易な工程で複数箇所の気密封止が可能であり、ウエハレベルパッケージへの応用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8