特許第5795747号(P5795747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5795747
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】ペリクルフレーム及びペリクル
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20150928BHJP
   B65D 85/86 20060101ALI20150928BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
   G03F1/64
   B65D85/38 R
   B65D1/00
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-85314(P2012-85314)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-214013(P2013-214013A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088306
【弁理士】
【氏名又は名称】小宮 良雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126343
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 浩之
(72)【発明者】
【氏名】関原 一敏
【審査官】 植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−102357(JP,A)
【文献】 特表2011−516351(JP,A)
【文献】 特開平08−085728(JP,A)
【文献】 特開平06−301199(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007523(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融加圧成型して得られた樹脂製のペリクルフレームが、繊維状の補強物質が混合されている熱可塑性樹脂で形成されており、
前記ペリクルフレームの少なくとも内側表面を覆う、紫外線に対して耐光性を有する樹脂からなる樹脂被膜が、前記樹脂中に配合された紫外線の遮蔽効果を有する物質で黒色化されていることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
前記補強物質が、長さが0.2〜10mmで、且つ太さが0.05〜20μmのものであることを特徴とする請求項1に記載のペリクルフレーム。
【請求項3】
前記補強物質が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブから成る群から選択されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
前記補強物質の含有量が、前記熱可塑性樹脂に対して重量比で5〜50%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
前記溶融加圧成型が、射出成型であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーからなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項7】
前記樹脂被膜が、フッ素樹脂又はシリコーン樹脂から成るものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項8】
前記樹脂被膜を黒色化する物質が、酸化鉄、二酸化チタン又はカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項9】
前記ペリクルフレームの全表面が、前記樹脂被膜で覆われていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項10】
前記ペリクルフレームの内側表面を覆う前記樹脂被膜が、粘着性樹脂から成る内面粘着層で覆われていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のペリクルフレーム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のペリクルフレームの一面側に、ペリクルが貼付されていることを特徴とするペリクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂製のペリクルフレーム及び樹脂製のペリクルフレームを用いたペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSIや超LSI等の半導体製造或は液晶ディスプレイ等の製造において、半導体ウエハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するリソグラフィーの作業が行われる。この際に、フォトマスク或いはレチクルにゴミが付着していると、転写したパターンが変形したり、エッジがガサツいたものとなる他、下地が黒く汚れたりする等の現象が発生することがある。ゴミが光を吸収したり光を曲げてしまうからである。この作業は通常クリーンルームで行われているが、フォトマスクを常に清浄に保つことは難しく、透明なペリクル膜がペリクルフレームに貼着されたペリクルが使用されている。例えば、リソグラフィーの際に、ペリクルをフォトマスク上に載置して、フォトマスクへの異物付着を防止しつつ、焦点をフォトマスクのパターン上に合わせて露光することにより、ペリクル膜上に付着した異物に影響されることなく転写できる。
【0003】
近年、ペリクルにも低コスト化が強く求められるようになってきており、ペリクルの構成材料中で最もコストが掛かるのはペリクルフレームである。従来のペリクルフレームは、金属製の板材或いは角パイプ材から機械切削加工により削り出して形成していたからである。このため、ペリクルフレームを低コスト化すべく、様々な検討が行われてきた。例えば、下記特許文献1には、アルミニウム合金のダイカストによりペリクルフレームを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−318451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミニウム合金のダイカストによって形成したペリクルフレームは、従来の金属製の板材或いは角パイプ材から機械切削加工により削り出して形成したペリクルフレームに比較して低コスト化できる。しかし、ダイカストによって形成されたペリクルフレームには、溶湯の流動距離が長く充填時の空気巻き込み等による内部欠陥が発生し易く、表面にもピンホール等の欠陥が生じ易い。また、ダイカスト用のアルミニウム合金には、ダイカストでの湯流れ性向上用として、種々の元素が添加されており、ダイカストで得られたペリクルフレーム中に金属間化合物が多く生成し易いことから、アルマイト処理を施したペリクルフレームに白点、ピットといった外観上の欠陥も生じ易い。これらのことから、現在、アルミニウム合金のダイカストによって形成したペリクルフレームは実用に供されていない。
【0006】
また、アルミニウム合金のダイカストによって形成したペリクルフレームよりも低コスト化できるものとして、樹脂製のペリクルフレームが考えられる。しかし、樹脂製のペリクルフレームは、その剛性が低下し、許容できないほどの撓みが生じたり、貼付したペリクル膜にシワが発生したりする。
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、剛性が向上された樹脂製のペリクルフレーム、及びそのペリクルフレームを用いたペリクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたペリクルフレームは、溶融加圧成型して得られた樹脂製のペリクルフレームが、繊維状の補強物質が混合されている熱可塑性樹脂で形成されており、前記ペリクルフレームの少なくとも内側表面を覆う、紫外線に対して耐光性を有する樹脂からなる樹脂被膜が、前記樹脂中に配合された紫外線の遮蔽効果を有する物質で黒色化されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載されたペリクルフレームは、請求項1に記載されているものであって、前記補強物質が、長さが0.2〜10mmで、且つ太さが0.05〜20μmのものであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載されたペリクルフレームは、請求項1又は請求項2のいずれか一項に記載されているものであって、前記補強物質が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブから成る群から選択されたものであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜3のいずれか一項に記載されているものであって、前記補強物質の含有量が、前記熱可塑性樹脂に対して重量比で5〜50%の範囲であることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜4のいずれか一項に記載されているものであって、前記溶融加圧成型が、射出成型であることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜5のいずれか一項に記載されているものであって、前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーからなる群から選択されたものであることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜6のいずれか一項に記載されているものであって、前記樹脂被膜が、フッ素樹脂又はシリコーン樹脂から成るものであることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜7のいずれか一項に記載されているものであって、前記樹脂被膜を黒色化する物質が、酸化鉄、二酸化チタン又はカーボンブラックであることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載されたペリクルフレームは、請求項1〜8のいずれか一項に記載されているものであって、前記ペリクルフレームの全表面が、前記樹脂被膜で覆われていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載されたペリクルフレームは、請求項〜9のいずれか一項に記載されているものであって、前記ペリクルフレームの内側表面を覆う前記樹脂被膜が、粘着性樹脂から成る内面粘着層で覆われていることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載されたペリクルは、請求項1〜10のいずれか一項に記載のペリクルフレームの一面側に、ペリクルが貼付されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のペリクルフレームは、樹脂製であっても、繊維状の補強物質が混合されている熱可塑性樹脂で形成されており、許容できないほどの撓みが生じたりすることなく実用十分な剛性を有している。このペリクルフレームを用いたペリクルは、貼付したペリクル膜にシワが発生したりすることもなく十分に実用に供し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るペリクルフレームの一例を示す斜視図である。
図2図1に示すペリクルフレーム10の横断面図である。
図3図1に示すペリクルフレーム10の射出成型直後の斜視図である。
図4図1に示すペリクルフレーム10を用いて得られたペリクルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るペリクルフレームの一例を図1に示す。図1は長方形のペリクルフレーム10の斜視図であり、長辺部の側面に通気孔12と治具穴14,14とが形成されている。通気孔12は、ペリクルフレーム10の長辺部を貫通しており、一面側にペリクル膜を貼付したペリクルの内側の通気に用いられる。また、治具穴14は、長辺部の側面に開口されている凹部であって、ペリクルフレーム10やペリクルの移動等の際に移動治具の先端部が挿入されるものである。ペリクルフレーム10の四隅の角部は平面又は曲面に形成されており、他の物への接触による発塵等の防止を図っている。
【0022】
ペリクルフレーム10は、繊維状の補強物質が混合されている熱可塑性樹脂で形成されている。繊維状の補強物質は、長さが0.2〜10mmで、且つ太さが0.05〜20のものが好ましい。補強物質としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、カーボンナノチューブから成る群から選択されたものを好適に用いることができる。繊維状の補強物質の熱可塑性樹脂に対する含有量は、含有量が増加するほど、ペリクルフレーム10の弾性率及び強度が向上されると共に、熱膨張率が低下して寸法安定性も向上する。しかし、過度に補強物質を含有した熱可塑性樹脂は、その成形性及び得られたペリクルフレーム10の外観が悪化する傾向にある。従って、補強物質の含有量を、熱可塑性樹脂に対して重量比で5〜50%(更に好ましくは30〜50%)とすることにより、成形性及び外観を良好に保持しつつ、得られたペリクルフレーム10の強度等の物性の向上を図ることができ好ましい。
【0023】
この熱可塑性樹脂としては、強度、成形性等の観点から、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマーからなる群の中から選択されたものが好ましい。中でも、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイドは剛性の観点から好ましく、ポリエーテルエーテルケトンは耐光性の観点からも好ましい。この他に、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等であっても、熱可塑性を呈するものは使用可能である。これらの熱可塑性樹脂中に補強物質の他に、例えば黒色化用の酸化鉄、二酸化チタン等の顔料やカーボンブラック等を混入してもよい。
【0024】
図1に示すペリクルフレーム10は、そのX−Xでの横断面図である図2(a)に示すように、ペリクルフレーム10の内側表面が、紫外線に耐光性を有する樹脂被膜16で覆われていることが好ましい。リソグラフィー等で照射される紫外線に対してペリクルフレーム10を形成する熱可塑性樹脂を保護して耐光性を向上でき、且つペリクルフレーム10の内側を形成する熱可塑性樹脂中の補強物質からの発塵を防止できるからである。また、図2(b)に示すように、ペリクルフレーム10の全表面を樹脂被膜16で覆うことにより、ペリクルフレーム10の全表面を形成する熱可塑性樹脂中の補強物質からの発塵を防止できる。
【0025】
樹脂被膜16には、ペリクルフレーム10の内表面を形成する熱可塑性樹脂と異なる樹脂であって、紫外線に耐光性を有する樹脂、例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を好適に用いることができる。樹脂被膜は黒色であることが好ましい。樹脂被膜16の黒色化は、紫外線に耐光性を有する樹脂中に、酸化鉄、二酸化チタン、カーボンブラック等を配合することで行うことができる。中でも紫外線の遮蔽効果が高く且つ劣化の心配のない酸化鉄を配合することが好ましい。但し、ペリクルフレーム10を形成する熱可塑性樹脂が黒色化されている場合、樹脂被膜16は透明であってもよい。
【0026】
更に、図2(c)に示すように、ペリクルフレーム10の全表面を樹脂被膜16で覆い、更にペリクルフレーム10の樹脂被膜16の内側表面を、粘着性樹脂から成る内面粘着層18で覆うことにより、ペリクルフレーム10の内側表面に付着した異物の脱落を防止し、ペリクルフレーム10の紫外線に対する耐光性及び発塵性を更に一層向上できる。特に、樹脂被膜16に酸化鉄等の黒色化材が含有されている場合には、樹脂被膜16中の黒色化材の剥離等による発塵を内面粘着層18によって効果的に防止できる。面粘着層18は、粘着性を有するシリコーン樹脂、アクリル樹脂等を塗布することによって形成できる。尚、図2(a)に示すようにペリクルフレーム10の内側表面のみに樹脂被膜16が形成されている場合であっても、樹脂被膜16を内面粘着層18で覆ってもよい。
【0027】
ここで、ペリクルフレーム10を形成する熱可塑性樹脂が十分な耐光性を有している場合、例えば補強物質としての炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンは、黒色で且つ十分な耐光性を有するから、形成したペリクルフレーム10は、その内側表面に粘着性のシリコーン樹脂等を塗布して樹脂被膜16を形成することで、実用に供することができる。
【0028】
図1に示すペリクルフレーム10は、繊維状の補強物質を混合した熱可塑性樹脂を溶融加圧成型して形成できる。この溶融加圧成型としては、射出成型を好適に採用できる。補強物質は射出成型時に熱可塑性樹脂ペレットと混合してもよいが、予め補強物質を均一に分散した熱可塑性樹脂ペレットを用いることが好ましい。従来の熱可塑性樹脂を用いた射出成形によるペリクルフレームは、寸法精度の点で金属の切削加工品に大きく劣っていた。かかる従来の樹脂製のペリクルフレームに対し、繊維状の補強物質を混入した熱可塑性樹脂を射出成型して得られた図1のペリクルフレーム10は、熱膨張による寸法誤差が低減され、寸法精度を実用可能な範囲とすることができる。
【0029】
図3に射出成型の金型から取り出したペリクルフレーム10aを示す。ペリクルフレーム10aには、その片側の端面にゲート部20が付着している。ゲート部20を除去したペリクルフレーム10には、ゲート部20の除去跡の平滑化や金型の合わせ面のバリ除去をすべく、ペリクルフレーム10の両端面を軽く手仕上げ又はごくわずかの機械切削することが好ましい。また、図3のペリクルフレーム10aの長辺部の側面に、図1に示す通気孔12と治具穴14,14とを機械加工で形成して、図1に示すペリクルフレーム10を得ることができる。尚、ペリクルフレーム10aの射出成型の際に、通気孔12と治具穴14,14とを同時に成型することは可能であるが、金型構造が複雑になる。
【0030】
得られたペリクルフレーム10の内側表面又は全表面に、必要に応じて図2(a)又は図2(b)に示すように、フッ素樹脂又はシリコーン樹脂をスプレー塗布、ロール塗布、ディッピング等によって塗布して樹脂被膜16を形成する。この塗布方法は、塗布する材質に応じて適宜選択できる。更に、形成した樹脂被膜16の内側表面に、必要に応じて図2(c)に示す内面粘着層18を、粘着性のシリコーン樹脂、アクリル樹脂等をスプレー塗布、ロール塗布、ディッピング等によって塗布して形成する。
【0031】
図1のペリクルフレーム10を使用したペリクルを図4に示す。図4のペリクル30は、ペリクルフレーム10の一面側にペリクル膜22がペリクル膜接着層(図示せず)を介して貼付されており、他面側にマスク粘着層26が貼付されている。マスク粘着層26は、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムに離型層を設けたセパレータ28で保護されている。また、ペリクルフレーム10の長辺部の側面に形成した通気孔12は、ペリクル30内への埃等の侵入を防止すべく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質膜等から構成されるフィルタ24で覆われている。
【0032】
図4に示すペリクル30は、図1のペリクルフレーム10が、従来の金属製のペリクルフレームと同等の性能を維持しつつ、射出成形等により低コストで生産されることから、全体として低コスト化を図ることができる。また、図4のペリクル30は、構成材料全体が樹脂製であり、従来の金属製のペリクルフレームとは別の利点を有している。つまり、近年、ArFレーザー光源(193nm)等を使用する露光環境においては、露光中のマスク或いはペリクルの表面への異物状生成物(ヘイズ)が問題となっている。この原因として、金属製のペリクルフレーム(例えば、アルミニウム製のペリクルフレームのアルマイト皮膜)中の酸やアルカリ性イオン成分の関与が疑われている。図1のペリクルフレーム10は、異物状生成物(ヘイズ)の原因となるイオン成分を一切含有していないことから、これらの用途においても異物状生成物の発生抑制が期待できる。
【0033】
ペリクル30は、溶融加圧成型でペリクルフレーム10を形成できる大きさであれば適用が可能であり、その他には特に制限されることがない。しかしながら、ペリクル30が大型になるほど、ペリクルフレーム10の成形機が大型になり、成形用の金型コストも増大して低コスト化の障害となるから、適用できるペリクル30は、その辺長が100〜1400mm、好ましくは100〜800mm、更に好ましくは100〜600mmの範囲とすることがよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例)
長さが2〜6mmで太さが5〜7μmの炭素繊維をポリアミドに40%含有する炭素繊維含有熱可塑性樹脂(商品名;NXMR−C−40B 三菱レイヨン株式会社製)を用いて、図1に示す長方形のペリクルフレーム10を射出成形により製作した。射出成形し冷却した金型から取り出した図3に示すペリクルフレーム10aには、ゲート部20が形成されていた。ゲート部20を切断して得たペリクルフレーム10の両端面をフライスで0.2mm面削した。更に、ペリクルフレーム10のエッジ部をサンドペーパーで軽く手仕上げを行って、ゲート部20の除去跡及び金型合わせ面のバリを除去した。このとき、ペリクルフレーム10の長辺部の側面に通気孔12と治具穴14,14とを機械加工で形成し、図1に示すペリクルフレーム10を形成した。その寸法は149×113×高さ4.7mm、内寸145×109mmである。
【0036】
このペリクルフレーム10を、Class10のクリーンルームに搬入し、純水と界面活性剤にて洗浄し、十分に乾燥させた。その後、フッ素系樹脂(商品名;サイトップ 旭硝子株式会社製)をフッ素系溶媒にて希釈し、更に酸化鉄(商品名;トダカラー 戸田工業株式会社製)を混合した溶液を、ペリクルフレーム10にスプレー法により塗布し、図2(b)に示すようにペリクルフレーム10の全面に厚さ15μmの樹脂被膜16を形成した。更に、ペリクルフレーム10の内面に、トルエンで希釈したシリコーン粘着剤をスプレー塗布し、図2(c)に示すように、樹脂被膜16の内側表面上に厚さ10μmの内面粘着層18を形成した。
【0037】
次いで、ペリクルフレーム10の上端面に、ペリクル膜接着層としてシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製;商品名KR3700)を塗布し、下端面にマスク粘着層26としてシリコーン粘着剤(信越化学工業株式会社製;商品名KR3700)を塗布し、乾燥、硬化させた。マスク粘着層26はセパレータ28を取り付けて保護し、通気孔12をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質膜のフィルタ24で覆った。更に、ペリクル膜接着層上に、フッ素系樹脂からなる厚さ約0.8μmのペリクル膜22を貼り付け、外側の余剰膜をカッターにより切除して図4に示すペリクル30を得た。
【0038】
このペリクル30を暗室内で集光ランプにより外観検査したところ、表面に射出成形や樹脂に由来する欠陥は特に見受けられなかった。また、ペリクル30の取り扱いに際し、ペリクル膜22にシワが寄る等の問題も特に見られなかった。次に、このペリクル30を定盤上に置き、ペリクルフレーム10の撓み量を計測したところ、長辺部の中央で片側0.22mm、短辺部の中央で片側0.1mmの撓み量となっていたが、使用上十分に許容できるものであった。
【0039】
(比較例)
実施例と同一形状で且つ同一寸法のペリクルフレームを、炭素繊維含有熱可塑性樹脂に代えてポリアミド(繊維状の補強物質なし)を用いた他は、実施例と全て同一の工程でペリクルを製作した。このペリクルを定盤上に置き、ペリクルフレームの撓み量を計測したところ、長辺部の中央で片側1.0mm、短辺部の中央で片側0.5mm程度の撓み量となっていた。また、このペリクルの取り扱いの際には、ペリクルフレームの長辺部の中央を保持すると、ペリクル膜にすぐにシワが発生してしまうため、角部を把持しないと取り扱うことができなかった。更に、このペリクルフレームには、成形工程に起因すると思われる捩れが発生しており、定盤上に置いた際に二つの角部がそれぞれ0.5mm程度浮き上がるのが見られた。このような捩れが発生したペリクルフレームは、ペリクル用には到底使用できないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係るペリクルフレーム及びペリクルは、半導体デバイス、プリント基板、液晶或いは有機ELディスプレイ等の製造工程で用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
10はペリクルフレーム、10aは射出成型直後のペリクルフレーム、12は通気孔、14は治具穴、16は樹脂被膜、18は内面粘着層、20はゲート部、22はペリクル膜、24はフィルタ、26はマスク粘着層、28はセパレータ、30はペリクルである。
図1
図2
図3
図4