【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
例1
以下のスキームで化合物(2)を製造した。
【化3】
【0034】
(a)化合物(1)(RhoHM)の合成
ローダミン110 285 mg (0.8 mmol 1eq.) をメタノール 10 mLに溶かし硫酸を加えてアルゴン雰囲気下に80℃で10時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去し、残渣を飽和重曹水および水で洗浄した。得られた固体をテトラヒドロフラン(THF) 10 mL に溶解させ、アルゴン雰囲気下に0℃で5 M ナトリウムメトキシド溶液(メタノール中) 400μL (0.8 mmol 1eq.)を加えて10分間攪拌した。続いてリチウムアルミニウムハイドライド 333 mg (8 mmol, 10eq.) を加えて3時間攪拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液 を5 mL加え、溶媒を減圧除去し、得られた固体をジクロルメタン及び酒石酸4水和物カリウム・ナトリウム塩の飽和水溶液で抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えてろ過した後、溶媒を除去し、固体を得た。得られた固体をジクロルメタンに溶解し、クロラニル 196 mg (1mmol 1eq.) を加えて30分間室温で攪拌した。溶媒を減圧下で除去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーで精製して(ジクロルメタン/メタノール=10 : 1)目的化合物 (104 mg, 41%) を得た。
【0035】
1H NMR (300 MHz, CD
3OD): δ 7.64 (d, 1H, J = 7.7 Hz), 7.56 (t, 1H, J = 7.6 Hz), 7.44 (t, 1H, J = 7.5 Hz), 7.17 (d, 1H, J = 7.5 Hz), 7.03 - 7.00 (m, 2H), 6.71-6.74 (m, 4H), 4.23 (s, 2H)
13C NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 161.5, 159.9, 159.6, 141.0, 133.4, 132.2, 131.3, 130.3, 129.5, 128.8, 118.0, 115.0, 98.4, 62.8
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]
+, 317.12900, Found, 317.12862 ( - 0.38 mmu)
【0036】
(b)化合物(2)(γGlu-RhoHM)の合成
化合物(1)(0.05 mmol 1eq.)、HATU (0.11 mmol 2eq.)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン (0.11 mmol 2eq.) をジメチルホルムアミド(DMF) 2 mLに溶解し、アルゴン雰囲気下に0℃で10分間攪拌した。続いてBoc-Glu-OtBu (0.05 mmol 1eq.) を溶解したDMF 0.5 mLを加え15時間攪拌した。反応溶媒を減圧除去した後に得られた固体をジクロルメタン 2 mL とトリフルオロ酢酸(TFA) 2 mLに溶かし、30分間攪拌した。溶媒を除去しHPLCを用いて精製を行い(eluent A: H
2O 0.1% TFA及びeluent B: CH
3CN 80%, H
2O 20% 0.1% TFA; A / B = 80 / 20 to 0 / 100 for 40 min.)、目的化合物を得た。
【0037】
化合物(2)
1H NMR (400 MHz, CD
3OD): δ 8.39 (s, 1H), 7.62-7.61 (m, 2H), 7.50-7.47 (m, 1H), 7.39 (d, 1H, J = 7.8 Hz), 7.24 -7.22 (m, 3H), 6.94 (d, 1H, J = 8.3 Hz), 6.86 (s, 1H), 4.25 (s, 2H), 3.96 (t, 1H, J = 6.3 Hz), 2.71-2.69 (m, 2H), 2.30-2.27 (m, 2H)
13C NMR (400 MHz,CD
3OD): δ173.4, 171.8, 164.5, 163.1, 160.7, 157.1, 148.7, 141.2, 134.9, 131.9, 131.7, 130.5, 129.8, 129.0, 121.4, 119.4, 118.5, 106.9, 98.5, 63.1, 53.5, 33.4, 26.6
HRMS (ESI+) Calcd for [M+H]
+, 446.17160, Found, 446.17195 ( + 0.36 mmu).
【0038】
例2
グルタミン酸由来のアシル残基を化合物(1)(RhoHM)の一方のアミノ基に結合させた化合物(2)(γGlu-RhoHM)を中性リン酸バッファーに溶解して、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT, equine kidney, SIGMA G9270-100UN)を作用させた。化合物の5 μM ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液 3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解し、GGT (1.1 U) を加えて37℃で酵素反応を行った。励起波長は501 nmとした。この結果、アシル基の加水分解により開環体を与え即時に吸収及び蛍光強度の顕著な上昇が認められた(
図1)。
【0039】
上記化合物のDMSO溶液 (5 mM) のうち3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解して 37℃で酵素反応を行った。各酵素量において酵素添加から9分後に蛍光強度の値をプロットした。励起波長は501 nm、蛍光波長は524 nmとした。この結果、GGT添加量に依存したリニアな蛍光強度増加を与えた(
図1)。
【0040】
例3
化合物(2)の酵素特異性を検討した。DMSO溶液 (5 mM) のうち3 μLを3 mL の0.1 M リン酸ナトリウムバッファー(pH 7.4) に最終濃度 5 μMとなるように溶解し、LAP(0.4 U)を加えて 37℃で酵素反応を行った。この結果、化合物(2)(γGlu-RhoHM)とLAPとを反応させた場合には蛍光強度の増強が認められなかった。一方、化合物(2)はGGTと反応して顕著な蛍光強度を与えたことから(例2)、γGlu-RhoHMはGGTを特異的に検出するものと考えられた。
【0041】
例4:がんモデルマウスを用いた蛍光イメージング
散在性腹膜転移は卵巣がんにおいて一般的に起こる致死的な合併症として知られている。このような腹膜転移は卵巣がんの比較的早い段階で起こり始め、腫瘍が漿膜を浸し、腹腔内に落ち込む結果、腹腔内の他の臓器に種を播くように転移する(播種転移)。この現象を実験的に再現すべく、卵巣がん由来のSHIN3細胞を胸腺欠損マウスに腹腔内投与し、腹膜播種モデルを作製した(Neoplasia, 8, pp.607-612, 2006)。
【0042】
ヒト卵巣がん由来のSHIN3細胞を10% FBS及び100 U/mLペニシリン、100 μg/mLストレプトマイシンを含むRPMI 1640培地で5% CO
2下に37℃で培養した。細胞がサブコンフルエントに達した後にPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、Trypsin-EDTAを用いて個々の細胞がばらばらになるよう細胞を剥がした。処理した細胞を遠心し(100 × g, 4℃、3 min)、上澄みを捨てた後、1×10
6 cells/300 μLの細胞密度になるように氷冷したPBSを加えて懸濁させた。即座に、調製した細胞懸濁液を8週齢程度の胸腺欠損マウスに1匹あたり300 μL(1×10
6 cells)腹腔内投与した。処置したマウスを5〜10日程度飼育した。概ねこの期間で膵臓及び脾臓に隣接する部位、並びに腸管膜上に0.1 mm〜数mm程度の多数の腫瘍の形成が確認された。
【0043】
300 μLの化合物(2)(γGlu-RhoHM)のPBS溶液(50 μM)を腹膜播種モデルマウスに腹腔内(i.p.)投与した。i.p.投与30分後に麻酔下でマウス体外から450-480 nmの励起光を照射し、516 nm-556 nmの蛍光を観測して蛍光イメージングを行った。また、マウスをCO
2ガスで処理して全採血を行った後、小動物用外科手術用器具を用いて開腹して腹腔を露出し、445-490 nmの励起光を照射して、520 nmから800 nmの蛍光を10 nmごとに取得して蛍光スペクトル画像を得た。
【0044】
その結果、がん部位選択的に強い緑色蛍光が観測された。
図2に開腹前の体外からのイメージング画像を示す(化合物(2)投与後30分)。
図3の上図は開腹後の腹腔内イメージング画像(化合物(2)投与後30分)を示し、下図は開腹後の腸間膜イメージング画像(化合物(2)投与後30分)を示す。図中、左側は白色光画像を示し、右側は蛍光画像を示す。
【0045】
例5:がんモデルマウスを用いた蛍光内視鏡によるライブイメージング
イソフルラン麻酔下、腹膜播種モデルマウスの腹部に小さな穴をあけて蛍光内視鏡を腹腔内に挿入し、300 μLの化合物(2)(γGlu-RhoHM)のPBS溶液(50 μM)を内視鏡の先端から霧状に散布した。その後、450-480 nmの励起光を照射し、516 nm-556 nmの蛍光を経時的に観測して蛍光内視鏡動画及び画像を得た。
図4に結果を示す。図中、噴霧直後(0 sec)、30秒後、60秒後、90秒後の各結果において左側は白色光画像、右側は蛍光画像を示し、「白色画像」は比較のため蛍光モードではなく通常の内視鏡モードで撮影した画像である。蛍光像において噴霧直後から90秒後までにがん組織増が鮮明化してくる様子が確認できる。また、10分後においても明確にがん組織がイメージングされていた(同様に「白色画像」は比較のため蛍光モードではなく通常の内視鏡モードで撮影した画像である)。この結果、本発明のがん診断薬を用いることにより数分以内にがん部位が選択的に蛍光を発するようになることが確認できた。