(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
モリブデン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、タングステン、シリコンの群から選択される1種以上の元素を含有し、フッ素系ドライエッチングでエッチング可能な無機材料膜上に、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜を備えており、
前記スズを含有するクロム系材料は、スズの含有量がクロムの含有量に対し、原子比で0.01倍以上2倍以下である、
ことを特徴とするフォトマスクブランク。
前記スズを含有するクロム系材料は、スズ−クロム金属、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物の何れかである、
請求項1に記載のフォトマスクブランク。
【背景技術】
【0002】
半導体技術の分野では、パターンの更なる微細化のための研究開発が進められている。特に近年では、大規模集積回路の高集積化に伴い、回路パターンの微細化や配線パターンの細線化、あるいは、セルを構成する層間配線のためのコンタクトホールパターンの微細化などが進行し、微細加工技術への要求はますます高くなってきている。
【0003】
これに伴い、微細加工の際の光リソグラフィ工程で用いられるフォトマスクの製造技術の分野においても、より微細でかつ正確な回路パターン(マスクパターン)を形成する技術の開発が求められるようになってきている。
【0004】
一般に、光リソグラフィ技術により半導体基板上にパターンを形成する際には、縮小投影が行われる。このため、フォトマスクに形成されるパターンのサイズは、半導体基板上に形成されるパターンのサイズの4倍程度となる。しかし、このことは、フォトマスクに形成されるパターンに求められる精度が半導体基板上に形成されるパターンに比較して緩やかになることを意味するものではない。寧ろ、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには、露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。
【0005】
今日の光リソグラフィ技術分野においては、描画される回路パターンのサイズは、露光で使用される光の波長をかなり下回るものとなっている。このため、回路パターンのサイズを単純に4倍にしてフォトマスクのパターンを形成した場合には、露光の際に生じる光の干渉等の影響によって、
半導体基板上のレジスト膜に本来の形状が転写されない結果となってしまう。
【0006】
そこで、フォトマスクに形成するパターンを、実際の回路パターンよりも複雑な形状とすることにより、上述の光の干渉等の影響を軽減する場合もある。このようなパターン形状としては、例えば、実際の回路パターンに光学近接効果補正(OPC:Optical Proximity Correction)を施した形状がある。
【0007】
このように、回路パターンサイズの微細化に伴い、フォトマスクパターン形成のためのリソグラフィ技術においても、更なる高精度加工手法が求められる。リソグラフィ性能は限界解像度で表現されることがあるが、上述したとおり、原版としてのフォトマスクに形成されるパターンには露光後に得られる実際のパターン以上の高い精度が求められる。このため、フォトマスクパターンを形成するための解像限界もまた、半導体基板上にパターン形成する際のリソグラフィに必要な解像限界と同等程度又はそれ以上の解像限界が求められることとなる。
【0008】
ところで、フォトマスクパターンを形成する際には、通常、透明基板上に遮光膜を設けたフォトマスクブランクの表面にレジスト膜を形成し、電子線によるパターンの描画(露光)を行う。そして、露光後のレジスト膜を現像してレジストパターンを得た後、このレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングして遮光(膜)パターンを得る。このようにして得られた遮光(膜)パターンが、フォトマスクパターンとなる。
【0009】
このとき、上述のレジスト膜の厚みは、遮光パターンの微細化の程度に応じて薄くする必要がある。これは、レジスト膜の厚みを維持したまま微細な遮光パターンを形成しようとした場合には、レジスト膜厚と遮光パターンサイズの比(アスペクト比)が大きくなって、レジストパターンの形状の劣化によりパターン転写がうまく行かなくなったり、レジストパターンが倒れたり剥れを起こしたりしてしまうためである。
【0010】
一方、従来のフォトマスクブランクにおいて、レジストの膜厚だけを薄くしてパターニングを行った場合、エッチングの工程中にレジスト膜が受けるダメージにより、そのパターン形状が劣化したり後退してしまうことが起こり得る。その場合には、遮光膜にレジストパターンを正確に転写することができず、パターニング精度の高いフォトマスクを作ることができない。そこで、レジストを薄膜化しても高い精度でパターニングを可能とする構造のフォトマスクブランクが種々検討されてきた。
【0011】
例えば、特開2006−78807号公報(特許文献1)には、主成分としてケイ素と遷移金属とを含み且つケイ素と遷移金属との原子比がケイ素:金属=4〜15:1である材料から成る層を少なくとも1層備える構成の遮光膜が開示されている。上記ケイ素と遷移金属とを含む材料から成る層はフッ素系ドライエッチングで加工でき、フッ素系ドライエッチングはレジストパターンに与えるダメージの程度が低い。このため、上記構成の採用により、遮光性能と加工性に優れたArF露光用の遮光膜が得られるとされる。
【0012】
また、特開2007−241060号公報(特許文献2)には、クロム系材料から成る薄膜をハードマスク膜として用いることにより、ケイ素と遷移金属とを含む遮光膜の加工性を更に高める方法が開示されている。
【0013】
従来、遮光膜やハーフトーン位相シフト膜等の光学膜には、遷移金属と必要に応じて選択される酸素や窒素または炭素等の軽元素を含有する遷移金属化合物膜や、ケイ素と必要に応じて選択される遷移金属や酸素、窒素、炭素等の軽元素を含有するケイ素化合物膜が用いられてきた。特に、クロム系材料膜やモリブデン・ケイ素系材料膜は、光学膜として広く用いられてきた。
【0014】
遮光膜をクロム系材料から成る膜とした場合、この遮光膜をパターニングするためのレジスト膜を薄くすると、遮光膜のパターニング工程におけるエッチング耐性を十分に確保することが難しくなる。そこで、特許文献2では、レジスト膜を薄くした場合にも微細パターンの加工を可能とすべく、遮光膜をフッ素系ドライエッチングで加工可能な材料から成る膜としたフォトマスクブランクが提案されている。
【0015】
また、この特許文献2には、遷移金属ケイ素化合物から成る遮光膜に精密なパターニングを行うべく、薄いクロム化合物膜をハードマスク膜として利用することも開示されている。なお、このようなクロム化合物から成るハードマスク膜はレジストパターンを転写することによりパターニングされるが、その精度は、ハードマスク膜の厚みを十分に薄くすることで確保できるとされている。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して、本発明を実施するための形態について説明する。
【0034】
なお、スズを含有するクロム材料によるハードマスク膜は、透過型のフォトマスクにも反射型のフォトマスクにも適用可能であるが、以下の説明では、透過型のフォトマスクブランクを例に説明する。
【0035】
上述したとおり、フォトマスクブランクの構成要素である遮光膜や位相シフト膜等の光学膜がフッ素系ドライエッチングによりエッチング加工可能な材料から成る膜である場合、かかる光学膜を高精度にパターニングするための加工補助膜として、クロム系材料から成るハードマスク膜が用いられる(例えば特許文献2を参照)。
【0036】
このようなハードマスク膜は、レジストパターンのエッチング耐性が十分に確保できずに加工精度が低下してしまう場合に、レジストパターンの代用として用いられるものである。そこで、ハードマスク膜用の材料としては、エッチング対象の膜(被加工膜)をパターニングする際のエッチング条件下において高いエッチング耐性をもつと共に、当該ハードマスク膜を剥離する際にはエッチング済みの被加工膜に殆どダメージを与えない物性のものが選ばれる。
【0037】
例えば、フッ素系ドライエッチングで加工可能な膜、例えば、モリブデン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、タングステン、ケイ素から選ばれる元素を1以上含有する膜が被加工膜である場合、この被加工膜の上に設けるハードマスク膜には、従来より、クロム系材料が用いられてきている。クロム系材料は、フッ素系ドライエッチングに対して高いエッチング耐性を示し、しかも、塩素系ドライエッチング時に添加する酸素の量を調節することにより、上記被加工膜に殆どダメージを与えることなく剥離することが可能である。
【0038】
しかし、従来のクロム系材料では、マスクパターンの微細化に伴いフォトレジスト膜の薄膜化が進行すると、これに伴いハードマスク膜も薄膜化せざるを得ず、その結果として、ハードマスク膜としての機能を十分に担保することが困難となる。
【0039】
そこで、近年のフォトマスクパターン形成のためのリソグラフィ技術に対する更なる微細化・高精度化の要求に応えるフォトマスクブランクを提供するためには、クロム系材料から成る光学膜の諸特性を担保しつつ、当該膜をドライエッチングする際のエッチング速度を、従来とは異なる手法により向上させることが必要となる。
【0040】
本発明者らは、クロム系材料から成る膜のドライエッチング速度向上につき検討した結果、クロム系材料にスズを含有させることにより、塩素系ドライエッチングに対するドライエッチング速度を有意に向上させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0041】
本発明に係るフォトマスクブランクは、モリブデン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、タングステン、シリコンの群から選択される1種以上の元素を含有し、フッ素系ドライエッチングでエッチング可能な無機材料膜上に、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜を備えていることを特徴とする。
【0042】
ところで、クロム系材料膜をスパッタリングにより成膜する場合には、金属不純物を含まない高純度のクロムターゲットが用いられるのが一般的である。これは、スパッタリング成膜されたクロム系材料膜中に金属不純物が混入してしまうと、クロム系材料膜のエッチング速度が低下することが経験的に知られている等の理由による。
【0043】
本発明者らは、クロム系材料からなる膜の設計自由度を担保しつつ当該膜のドライエッチング速度を高め得る新規な手法について種々の検討を重ねた結果、クロム系材料膜中にスズが含まれていると、酸素を含む塩素系ドライエッチングを行った際のエッチング速度が向上するという知見を得て本発明をなすに至った。
【0044】
つまり、従来は、クロム系材料膜のエッチング速度を低下させないために、高純度のクロムターゲットを用いて金属不純物を混入させないように成膜がなされていたのに対し、本発明者らは、上述した新たな知見に基づき、クロム系材料膜中にスズを意識的に添加させるように成膜することとした。
【0045】
本発明者らの検討によれば、クロム系材料膜中のスズ含有量(濃度)は、クロムの含有量に対して、原子比で0.01倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.1倍以上であり、さらに好ましくは0.3倍以上である。
【0046】
クロムに対してスズの含有量が原子比で0.01倍以上のクロム系材料膜は、一般的な塩素系ドライエッチング条件下において、エッチング速度が有意に向上する。この効果は、スズ含有量を高めることで大きくなる。なお、スズの含有量の上限には特別な制約はないが、スズの含有量が過剰となると、スズを含まないクロム系材料と略同等の諸特性を示す膜を得難くなる可能性がある。このため、スズの含有量は、クロムに対し、原子比で2倍以下とすることが好ましく、1.5倍以下とすることがより好ましい。
【0047】
スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜中における、スズのクロムに対する含有比は深さ方向に一定でも良く、あるいは、深さ方向に含有比が変化を有するプロファイルとしてもよい。
【0048】
例えば、ハードマスク膜を多層構造とし、上層はスズを含有しない、あるいはスズの含有比の低い層とし、下層は高いスズ含有比の層とすれば、上層(表面側)のエッチング速度に対して下層(基板側)のエッチング速度のみを向上させることができ、オーバーエッチング時間を短く設定することが可能となる。一方、基板側のスズ含有比を低く設計した場合には、ドライエッチング時のクロムのモニタリングによる終端検出をより容易にすることができる。
【0049】
上述のスズを含有するクロム系材料としては、スズ−クロム金属のほか、スズ−クロム酸化物、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム炭化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化炭化物、スズ−クロム窒化炭化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、スズ−クロム窒化物、スズ−クロム酸化窒化物、スズ−クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0050】
なお、ハードマスク膜の膜厚のうち、例えば50%以下、好ましくは25%以下の領域を、スズを含有しないクロム系材料から成る構成としてもよい。
【0051】
この場合、スズを含有しないクロム系材料としては、クロム金属のほか、クロム酸化物、クロム窒化物、クロム炭化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化炭化物、クロム窒化炭化物、クロム酸化窒化炭化物等のクロム化合物を例示することができる。これらのうち、クロム窒化物、クロム酸化窒化物、クロム酸化窒化炭化物が特に好ましい。
【0052】
本発明で採用するスズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜は、一般的なクロム系材料膜を成膜するための公知の方法(例えば、特許文献1、2、3等を参照)に準じて行うことができるが、DCスパッタリングやRFスパッタリング等のスパッタリング法によれば、均質性に優れた膜を容易に得ることができる。
【0053】
スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜をスパッタンリング成膜する際には、スズを添加したクロムターゲット(スズ添加クロムターゲット)を用いてもよく、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けてコ・スパッタリング(同時スパッタリング)を行うようにしてもよい。また、単一のターゲット中にクロム領域とスズ領域を有する複合ターゲットを用いるようにしてもよい。更には、複合ターゲットとクロムターゲットを用いてコ・スパッタリングを行うようにしてもよい。
【0054】
クロムターゲットにスズを添加する場合には、金属スズとして添加するほか、スズ酸化物、スズ窒化物、ITO等のスズ化合物として添加してもよい。
【0055】
また、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットを用いてコ・スパッタリングを行う場合には、それぞれのターゲットの面積比のみならず、各ターゲットに印加する電力を制御することにより無機材料膜中のスズ濃度を調整することもできる。
【0056】
特に、スズを含むクロム系材料から成る層間でクロムとスズの比を変化させたい場合や、1つの層中でクロムとスズの比を徐々に変化させたい場合には、スズを含むターゲットとスズを含まないターゲットの組み合わせ、もしくはスズの含有量が異なるターゲットの組み合わせを用いてコ・スパッタリングを行い、ターゲット間の印加電力比を変化させることによって、所望のスズ含有比が異なる層を容易に形成することができる。
【0057】
本発明に係るハードマスク膜を成膜する際のスパッタリングガスは、膜組成に応じて適宜選択される。膜の密着性やフッ素系ドライエッチング工程中でのサイドエッチングの防止のためには、膜に軽元素を含ませることが好ましく、特に、窒素を含ませることが好ましいが、このような軽元素の導入には、スパッタリングガスによる反応性スパッタリングを用い、酸素、窒素、炭素から選ばれる1種以上の元素を添加して膜の組成を調整することは、公知のクロム系材料膜を成膜する場合と同じである。
【0058】
例えば、軽元素を含まないスズ含有無機材料膜を成膜する場合には、アルゴンガスのみを用いればよい。軽元素を含有するハードマスク膜を成膜する場合には、窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス、酸化炭素ガス、炭化水素ガス等の反応性ガスの1種類以上、あるいはそれらの反応性ガスとアルゴン等の不活性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行えばよい。なお、フッ素系ドライエッチング条件におけるサイドエッチングの防止には窒素を5%程度以上含む膜としてやることが好ましい。
【0059】
スパッタリングガスの流量は適宜調整される。ガス流量は成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。
【0060】
本発明のフォトマスクブランクに設けられるハードマスク膜は、膜厚を1〜30nmとすることで十分なエッチングマスク機能が得られるが、ハードマスク膜を加工する際の粗密依存性をより低いものとするためには、1〜20nmとすることが好ましく、特に、1〜10nmとすることが好ましい。
【0061】
このようなハードマスク膜は、フッ素系ドライエッチングで加工される膜の上に設けられ、ハードマスクパターンにより下膜のパターニングが行われる。
【0062】
フッ素系ドライエッチングで加工される膜としては種々のものが知られており、例えば、金属成分としてモリブデン、タンタル、ハフニウム、ニオブ、タングステン、ケイ素から選ばれる元素を1以上含有する膜を例示することができる。なお、このような膜は、酸素、窒素、炭素等の軽元素成分を含有していてもよい。
【0063】
フッ素系ドライエッチングで加工される膜が遮光膜である場合、モリブデンとケイ素を含有する材料などの遷移金属とケイ素を含有する材料(特許文献2等)、タンタル(特許文献4:特開昭61−138257号公報)等が多く用いられる。これらの遮光膜材料には、通常、更に軽元素が添加され、光学膜としての物性や密着性等の諸物性が調整される。中でも、モリブデンとケイ素を含有する材料は、光学特性と加工性能に優れ、遮光膜材料として好ましい。
【0064】
本発明で採用されるスズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜は、フッ素系ドライエッチングで加工される膜の何れのパターニングにも使用可能である。このような膜の典型は遮光膜である場合である。
【0065】
そこで、以下では、モリブデンを含むケイ素系材料から成る遮光膜を、スズを含有するクロム系材料からなるハードマスク膜のパターンで加工する例につき、簡単に説明する。
【0066】
透明基板上に設ける遮光膜は、フォトマスクとして使用する際に、パターン形成部位において露光光を実質的に遮光してフォトレジスト膜の感光を防ぐ機能をもつ。
【0067】
そこで、遮光膜材料がモリブデンを含むケイ素系材料である場合、バイナリーマスク用としては、フォトマスクとして使用する際の露光光に対して遮光膜の光学濃度が通常2.3以上、好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上となるように設計される。また、遮光膜をハーフトーン位相シフト膜上に設ける場合には、ハーフトーン位相シフト膜と遮光膜を合わせた場合の光学濃度が、通常は2.3以上、好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上となるように設計される。さらに、遮光膜に反射防止機能をもたせるため、遮光膜の表面側、すなわち基板とは反対側に、光学濃度の小さな層を設けるのが一般的である。
【0068】
モリブデンを含むケイ素系材料から成る遮光膜は、モリブデンおよびケイ素に、必要に応じて窒素乃至酸素が添加される。また、場合によっては、炭素等の他の軽元素を含有する材料から成る膜とされる。
【0069】
このような遮光膜材料としては、モリブデン・ケイ素、モリブデン・ケイ素酸化物、モリブデン・ケイ素窒化物、モリブデン・ケイ素酸窒化物、モリブデン・ケイ素酸化炭化物、モリブデン・ケイ素窒化炭化物、モリブデン・ケイ素酸窒化炭化物などを挙げることができる。
【0070】
モリブデンを含むケイ素系材料は、窒素と酸素の添加量を調整することにより、反射防止機能等の光学物性を所望のものとすることが可能であると共に、好ましい加工特性のものとすることができる。
【0071】
遮光膜材料として用いられる際の、モリブデンを含むケイ素系材料の一般的な組成範囲は、遮光機能を重視する場合は、ケイ素につき、10原子%以上95原子%以下、特に30原子%以上95原子%以下である。また、酸素につき、0原子%以上50原子%以下、特に0原子%以上30原子%以下である。窒素については、0原子%以上40原子%以下、特に0原子%以上20原子%以下であり、炭素については、0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上5原子%以下である。また、遷移金属については、0原子%以上35原子%以下、特に1原子%以上20原子%以下であることが好ましい。
【0072】
また、反射防止機能を備える遮光膜とする場合は、ケイ素につき、10原子%以上80原子%以下、特に30原子%以上50原子%以下である。また、酸素につき、0原子%以上60原子%以下、特に0原子%以上40原子%以下である。窒素については、0原子%以上57原子%以下、特に20原子%以上50原子%以下であり、炭素については、0原子%以上20原子%以下、特に0原子%以上5原子%以下である。また、遷移金属については、0原子%以上35原子%以下、特に1原子%以上20原子%以下であることが好ましい。
【0073】
微細なパターンを高精度に加工するためのバイナリーマスクを作製するためには、遮光膜はなるべく薄膜化されることが好ましい。モリブデンを含むケイ素系材料にから成る遮光膜の薄膜化に関しては、特許文献5(特開2012−53458号公報)に開示があり、本発明に係るフォトマスクブランクにおいても、この遮光膜薄膜化技術を適用できる。
【0074】
具体的には、遮光膜を、遮光機能を重視する場合と反射防止機能を重視する場合とに分けて設計するのではなく、遮光膜の表面側と基板側で光学濃度が低くなるように、膜中の軽元素含有量に変化をつける。このような膜設計とすると、遮光膜を薄膜化しても遮光機能を損なうことなく、露光光の反射率を低く保つことができる。このような膜設計により、遮光膜の膜厚は35〜60nmまで薄くすることができる。
【0075】
モリブデン等の遷移金属を含むケイ素系材料により遮光膜を形成する方法としては、均質性に優れた膜を得る観点から、スパッタリングによる方法が好ましい。この場合、DCスパッタリング、RFスパッタリング等のいずれの方法も用いることができるが、特に、DCスパッタリングが好ましい。
【0076】
モリブデン等の遷移金属とケイ素の組成比は、予め目的の組成となるように、遷移金属とケイ素との比率を調整した1種類のターゲットを用いてもよいが、複数の異なる種類のターゲットを用いて、ターゲットに加える電力によって組成比を調整してもよい。
【0077】
このようなスパッタリングに用いるターゲットとしては、遷移金属を含有するケイ素ターゲットのみ、遷移金属ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせ、遷移金属を含有するケイ素ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせ、遷移金属ターゲットと遷移金属を含有するケイ素ターゲットとの組み合わせ、遷移金属ターゲットと遷移金属を含有するケイ素ターゲットとケイ素ターゲットとの組み合わせなど、種々の態様があり得る。
【0078】
スパッタリングガスとしては、公知の不活性ガス、反応性ガスを用いればよいが、好ましくはアルゴンガスのみ、又は、アルゴンガスと窒素ガス、酸化窒素ガス、酸素ガス等との組み合わせなどがあり、所望の組成が得られるように選択・調整がなされる。
【0079】
膜の遮光性を調整するためには、予め、遮光性のスパッタリング条件依存性と成膜速度を確認しておき、この結果に基づいて、遮光膜を構成する基板側組成傾斜領域、中間領域、及び、表面側組成傾斜領域のスパッタリング条件を設定しで成膜を行い、結果として、所望の遮光性を有する遮光膜が得られるようにすればよい。
【0080】
この場合、深さ方向に段階的又は連続的に吸収係数が変化する膜を得る場合には、例えば、スパッタリングガスの組成を段階的又は連続的に変化させればよい。また、複数種類のターゲットを用いて成膜する場合においては、各ターゲットに加える電力を段階的又は連続的に変化させて、遷移金属とケイ素の比を多段又は連続的に変化させて、深さ方向の吸収係数を制御することもできる。
【0081】
本発明のフォトマスクブランクは、必要に応じ、ハーフトーン位相シフト膜を備える構成とすることもできる。また、当該ハーフトーン位相シフト膜と遮光膜の何れもがフッ素系ドライエッチングで加工する膜である場合には、必要に応じ、遮光膜とハーフトーン位相シフト膜の間にエッチングストッパ膜を設けることができる。
【0082】
なお、遮光膜とハーフトーン位相シフト膜が何れも遷移金属を含有するケイ素系材料から成る膜である場合、エッチングストッパ膜をクロム系材料から成る膜とすることが好ましい。このクロム系材料膜も、スズを含有するクロム系材料から成る膜とすることができる。
【0083】
本発明のフォトマスクブランクにおいて、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスクを用いて下層のフッ素系ドライエッチングで加工される膜を加工する方法は、従来の方法(例えば特許文献2を参照)に準じ、下記のように行うことができる。
【0084】
スズを含有するクロム系材料からなる膜は、スズを含有しないクロム系材料からなる膜と同様に、酸素を含有する塩素系ガスによりドライエッチングすることができるが、同一条件下で比較すると、スズを含有しないクロム系材料からなる膜に比較して有意に高いエッチング速度を示す。
【0085】
スズを含有するクロム系材料からなる膜のドライエッチングは、例えば、塩素ガスと酸素ガスの混合比(Cl
2ガス:O
2ガス)を、体積流量比で1:2〜20:1とし、必要に応じてヘリウムなどの不活性ガスを混合したガスを用いて行うことができる。
【0086】
スズを含有するクロム系材料からなる膜をエッチングマスクとして用い、その下にある膜を、フッ素系ドライエッチングで加工する場合には、例えば、フッ素を含むガスを用いることができる。このようなフッ素を含むガスとしては、フッ素ガス、炭素とフッ素を含むガス(CF
4やC
2F
6など)、硫黄とフッ素を含むガス(SF
6など)を例示することができる。また、これらフッ素を含むガスとヘリウムなどのフッ素を含まないガスとの混合ガスを用いることもできる。このようなエッチング用のガスには、必要に応じて酸素などのガスを添加してもよい。
【0087】
図1は、本発明に係るフォトマスクブランクの構成の一態様を示す断面図である。この図に示した態様では、透明基板1上に遮光膜2が形成されており、この遮光膜2の上にハードマスク膜3が設けられている。
なお、この例では、ハードマスク膜3の全体がスズを含有するクロム系材料から成る。このようなブランクを用いてバイナリーマスクを製造する工程は、概ね下記のとおりである。
【0088】
図2は、バイナリーマスクの製造プロセスの一態様を示す図である。先ず、
図1に示したフォトマスクブランクのハードマスク膜3の上に、フォトレジストを塗布してレジスト膜6を形成する(
図2A)。
【0089】
次に、レジスト膜6に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経てレジストパターン7を得る(
図2B)。
【0090】
このレジストパターン7をマスクとして用い、塩素系ドライエッチングにより、ハードマスク膜3をパターニングする(
図2C)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜3は高いエッチングレートを有するため、エッチング時間が短縮されてレジストパターン7へのダメージが軽減される。その結果、高精度でパターン転写することができ、パターンの粗密による加工誤差であるローディング効果も低減される。
【0091】
これに続いて、パターニングされたハードマスク膜3をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングにより、遮光膜2をパターニングする(
図2D)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜3は、フッ素系ドライエッチングに対するエッチング耐性が十分に高いため、ハードマスク膜3が薄膜であっても高精度なパターン転写を行うことができる。
【0092】
残存するレジストパターン7はドライエッチングにより除去され(
図2E)、さらに、酸素を含む塩素系ドライエッチングによりハードマスク膜3を除去すると、バイナリーマスクが完成する(
図2F)。
【0093】
図3は、本発明に係るフォトマスクブランクの構成の他の態様を示す断面図である。この図に示した態様では、ハーフトーン位相シフトマスクとされ、透明基板1上に、ハーフトーン位相シフト膜4とエッチングストッパ膜5が順次積層されており、このエッチングストッパ膜5の上に、遮光膜2とハードマスク膜3が設けられている。
【0094】
なお、この例では、ハーフトーン位相シフト膜4はフッ素系ドライエッチングで加工可能な膜であり、エッチングストッパ膜5はクロム系材料から成る膜であってスズを含有していても含有していなくてもよい。また、遮光膜2はフッ素系ドライエッチングで加工可能な膜であり、ハードマスク膜3の全体がスズを含有するクロム系材料から成る。
【0095】
このようなブランクを用いてハーフトーン位相シフトマスクを製造する工程は、概ね下記のとおりである。
【0096】
図4および
図5は、ハーフトーン位相シフトマスクの製造プロセスの一態様を示す図である。先ず、
図3に示したフォトマスクブランクのハードマスク膜3の上に、フォトレジストを塗布してレジスト膜6を形成する(
図4A)。
【0097】
次に、レジスト膜6に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経て、ハーフトーン位相シフト膜4を除去したい部分に開口部を有するレジストパターン7を得る(
図4B)。
【0098】
このレジストパターン7をマスクとして用い、塩素系ドライエッチングにより、ハードマスク膜3をパターニングする(
図4C)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜3は高いエッチングレートを有するため、エッチング時間が短縮されてレジストパターン7へのダメージが軽減される。その結果、高精度でパターン転写することができ、パターンの粗密による加工誤差であるローディング効果も低減される。
【0099】
これに続いて、パターニングされたハードマスク膜3をマスクとして用い、フッ素系ドライエッチングにより、遮光膜2をパターニングする(
図4D)。このとき、スズを含有するクロム系材料から成るハードマスク膜3は、フッ素系ドライエッチングに対するエッチング耐性が十分に高いため、ハードマスク膜3が薄膜であっても高精度なパターン転写を行うことができる。
【0100】
残存するレジストパターン7はドライエッチングにより除去する(
図4E)。
【0101】
続いて、新たにフォトレジストを塗布してレジスト膜6´を形成する(
図5A)。
【0102】
そしてこのレジスト膜6´に電子線のパターン照射を行い、現像等の所定の工程を経て、遮光膜2の残したい部分を保護するためのレジストパターン7´を得る(
図5B)。
【0103】
この状態で、酸素を含む塩素系ドライエッチングによりエッチングを行うと、レジストパターン7´で被覆されていない部分のハードマスク膜3と、遮光膜2で被覆されていないエッチングストッパ膜5が、同時に除去される(
図5C)。
【0104】
更に、フッ素系ドライエッチングを行うと、ハードマスク膜3で被覆されていない部分の遮光膜2と、エッチングストッパ膜5で被覆されていない部分のハーフトーン位相シフト膜4が、同時に除去される(
図5D)。
【0105】
残存するレジストパターン7´はドライエッチングにより除去され(
図5E)、さらに、酸素を含む塩素系ドライエッチング処理により、残存するハードマスク膜3、および、エッチングストッパ膜5の不要部分が除去されてハーフトーン位相シフトマスクが完成する(
図5F)。
【0106】
[ドライエッチング特性の評価実験]
ドライエッチング特性を評価する実験例として、一辺が152mmで厚みが6mmの矩形の石英基板上に、クロムターゲットとスズターゲットを別個に設けたコ・スパッタリングによるDCスパッタ法にて、スズ濃度の異なる2種類のCrON膜を、厚み44nmで成膜した。
【0107】
CrON膜中のスズ含有量は、クロムターゲットとスズターゲットの印加電力を調整することにより調整した。なお、スパッタリングガスは、アルゴンガスと酸素ガス、窒素ガスの混合ガスである。
【0108】
また、比較のために、Crターゲットを用いて、スズを含有していないCrON膜も成膜した。
【0109】
上述した3種類のクロム系材料膜の試料はそれぞれ複数作製した。クロム系材料膜の組成分析はESCA(JEOL製JPS-9000MC)を用いて測定した。
【0110】
これらの各試料につき、44nm膜厚のクロム系材料膜の酸素を含む塩素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。
【0111】
図6は、酸素を含む塩素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略を説明するための図で、この図中、符号11はチャンバ、12は対向電極、13は誘導放電プラズマ(ICP)発生用高周波発信器、14はアンテナコイル、15は試料、16は平面電極、17はRIE用高周波発信器、18は排気口、19はガス導入口、である。なお、
図6は、後述のフッ素系ドライエッチングに用いた装置の構成の概略図も兼ねる。
【0112】
ドライエッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0113】
表1は、上述の条件で、酸素を含む塩素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、比較実験例の試料のクリアタイム値を1とする相対値で比較した。
【0115】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチング時のエッチング速度が向上している。
【0116】
また、これらの試料につき、44nm膜厚のCrON膜のフッ素系ドライエッチング速度(クリアタイム)を比較した。このフッ素系ドライエッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(18sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0117】
表2は、上述の条件で、フッ素系ドライエッチングを行った際の実験例1、実験例2、及び比較実験例の各試料のクリアタイムを反射率測定から求めた結果である。なお、ここでは、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比で比較している。
【0119】
上記の結果から明らかなとおり、CrON膜中にスズを含有する実験例1および2の試料では何れも、Snを含有していない比較実験例の試料に比較して、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムに対するフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が向上している。具体的には、酸素を含む塩素系ドライエッチングのクリアタイムとフッ素系ドライエッチングのクリアタイムの比が1対11以上となっている。
【実施例】
【0120】
[実施例1]
直流スパッタ装置を用い、石英基板の上に、遮光層と反射防止層からなる遮光膜を形成した。遮光層としては石英基板上にモリブデンとケイ素と窒素からなる膜(膜厚41nm)を成膜した。
【0121】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0122】
この遮光膜の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:N=1:3:1.5(原子比)であった。
【0123】
この遮光層の上に、直流スパッタ装置を用い、モリブデンとケイ素と窒素からなる反射防止層(膜厚10nm)を成膜した。
【0124】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0125】
この反射防止層の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:N=1:4:3(原子比)であった。
【0126】
この反射防止層の上に、直流スパッタ装置を用い、CrSnONからなるエッチングマスク膜としてのハードマスク膜(膜厚10nm)を成膜した。
【0127】
ターゲットには、CrターゲットとSnターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素と酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0128】
このハードマスク膜の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:O:N=4:1:5:2(原子比)であった。
【0129】
このようにして、石英基板の上に、遮光膜としてMoSiNからなる遮光層、
MoSiNからなる反射防止層、および、エッチングマスク膜としてCrSnONからなる膜が積層されたフォトマスクブランクを得た。
【0130】
続いて、化学増幅形ネガ型レジストを250nmの厚みで塗布し、露光、現像を行うことによってパターニングした。次に、このレジストパターンをマスクとして、塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングを施し、エッチングマスク膜をパターニングした。
【0131】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0132】
これに続いて、上記パターニングされたレジスト膜とハードマスク膜をマスクとして、フッ素系のドライエッチングを施し、遮光膜をパターニングした。
【0133】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0134】
最後に、レジストを剥離してフォトマスクが完成した。
【0135】
[実施例2]
直流スパッタ装置を用い、石英基板の上に、モリブデンとケイ素と酸素と窒素から成るハーフトーン位相シフト膜(膜厚75nm)を成膜した。
【0136】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと酸素と窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0137】
このハーフトーン位相シフト膜の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:O:N=1:4:1:4(原子比)であった。
【0138】
このハーフトーン位相シフト膜の上に、直流スパッタ装置を用い、CrSnONからなるエッチングストッパ膜(膜厚10nm)を成膜した。
【0139】
ターゲットには、CrターゲットとSnターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素と酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0140】
このエッチングストッパ膜の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:O:N=4:1:5:2(原子比)であった。
【0141】
このエッチングストッパ膜の上に、直流スパッタ装置を用い、遮光層と反射防止層からなる遮光膜を形成した。遮光層としてはエッチングストッパ膜上にモリブデンとケイ素と窒素から成る膜(膜厚23nm)を成膜した。
【0142】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0143】
この遮光層の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:N=1:3:1.5(原子比)であった。
【0144】
遮光層の上に、直流スパッタ装置を用い、モリブデンとケイ素と窒素からなる反射防止層(膜厚10nm)を成膜した。
【0145】
ターゲットには、MoSi
2ターゲットとSiターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素を用い、チャンバ内のガス圧が0.05Paになるように調整した。
【0146】
この反射防止層の組成をESCAで調べたところ、Mo:Si:N=1:4:3(原子比)であった。
【0147】
この反射防止層の上に、直流スパッタ装置を用い、CrSnONからなるエッチングマスク膜としてのハードマスク膜(膜厚5nm)を成膜した。
【0148】
ターゲットには、CrターゲットとSnターゲットの2種を用い、石英基板を30rpmで回転させながら成膜した。なお、スパッタガスとしてはArと窒素と酸素を用い、チャンバ内のガス圧が0.1Paになるように調整した。
【0149】
このハードマスク膜の組成をESCAで調べたところ、Cr:Sn:O:N=4:1:5:2(原子比)であった。
【0150】
このようにして、石英基板の上に、MoSiONからなるハーフトーン位相シフト膜、CrSnONからなるエッチングストッパ膜、遮光膜とし
てMoSiNからなる遮光層、MoSiNからなる
反射防止層、および、CrSnONからなるエッチングマスク膜としてのハードマスク膜が積層されたフォトマスクブランクを得た。
【0151】
続いて、化学増幅形ネガ型レジストを250nmの厚みで塗布し、露光、現像を行うことによってパターニングした。次に、このレジストパターンをマスクとして、塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングを施し、エッチングマスク膜としてのハードマスク膜をパターニングした。
【0152】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0153】
これに続いて、上記パターニングされたレジスト膜とハードマスク膜をマスクとして、フッ素系のドライエッチングを施し、遮光膜をパターニングした。
【0154】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0155】
さらに、塩素と酸素の混合ガスでドライエッチングを施し、ハードマスク膜をエッチングすると同時にエッチングストッパ膜を除去した。
【0156】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を6mTorrとし、エッチングガスとしてCl
2(185sccm)、O
2(55sccm)、He(9.25sccm)を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を700V(パルス)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を400W(連続放電)とする条件で行った。
【0157】
これに続き、レジスト残渣がある場合はレジストを剥離し、更に、遮光膜の不要部分を除去するため、遮光膜を残す部分を保護するレジストパターンを形成し、フッ素系ドライエッチングを行い、ハーフトーン位相シフト膜をパターニングすると同時に不要部分の遮光膜を除去した。
【0158】
上記エッチングは、チャンバ内圧力を5mTorrとし、エッチングガスとしてSF
6(185sccm)、O
2(45sccm)、を供給し、RIE高周波発信器17への印加電圧を54V(連続放電)とし、ICP発生用高周波発信器13への電力供給を325W(連続放電)とする条件で行った。
【0159】
その後にレジストを剥離し、エッチングマスク膜としてのハードマスク膜を除去して、ハーフトーン位相シフトマスクが完成した。
【0160】
以上説明したように、本発明で採用される、スズを含有するクロム系材料からなる膜は、塩素系ドライエッチング時のエッチング速度を有意に向上させることができる。加えて、クロムの一部を軽元素に置換したクロム系材料からなる膜に比較して、フッ素系ドライエッチングに対して同等以上のエッチング耐性を有する。
【0161】
このため、本発明に係るフォトマスクブランクを加工する際には、ハードマスク膜を加工するためのフォトレジストに対するエッチング負荷が軽減され、レジスト膜を薄くした場合でも、高精度のパターン転写が可能となる。