(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の積層工程が、前記剥離性補助基板の易剥離性を示す表面上に硬化性樹脂組成物を塗布して、前記未硬化の硬化性樹脂組成物層を形成し、さらに前記未硬化の硬化性樹脂組成物層上に前記キャリア基板を積層する工程である、請求項1または2に記載の電子デバイスの製造方法。
前記第1の積層工程の後で前記硬化工程の前に、前記未硬化の硬化性樹脂組成物層の脱泡処理をする脱泡工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
前記補助基板準備工程が、剥離剤を用いて補助基板の表面を処理し、易剥離性を示す表面を有する剥離性補助基板を得る工程である、請求項1〜4のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
前記樹脂層が、アルケニル基を有するオルガノアルケニルポリシロキサンと、ケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとの組み合わせからなる付加反応型シリコーンの硬化物である、請求項1〜8のいずれかに記載の電子デバイスの製造方法。
前記オルガノアルケニルポリシロキサンのアルケニル基に対する、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.5〜2である、請求項9に記載の電子デバイスの製造方法。
前記積層工程が、前記剥離性補助基板の易剥離性を示す表面上に硬化性樹脂組成物を塗布して、前記未硬化の硬化性樹脂組成物層を形成し、さらに前記未硬化の硬化性樹脂組成物層上にキャリア基板を積層する工程である、請求項12に記載の樹脂層付きキャリア基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、以下の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0023】
本発明者らは、特許文献1の発明の問題点について検討を行ったところ、硬化性樹脂組成物の塗布による影響や、空気界面における表面張力の影響を受け、樹脂層表面に凹凸ができてしまうことを見出した。
そこで、樹脂層が未硬化の状態で所定の剥離性を示す基板と接触させて、平坦性を付与した後、硬化させることで、所定の平坦性を有する樹脂層を備えた樹脂層付きキャリア基板を製造できることを見出している。
【0024】
以下に、電子デバイスの製造方法について、各工程順に説明する。
なお、本発明において、後述する硬化後積層体中の樹脂層とキャリア基板の層との界面の剥離強度が、ガラス基板の層と樹脂層との界面の剥離強度よりも高いことを、以下、樹脂層はキャリア基板に固定され、樹脂層はガラス基板に剥離可能に密着しているともいう。
【0025】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の電子デバイスの製造方法の一実施形態における製造工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、電子デバイスの製造方法は、補助基板準備工程S102、第1の積層工程S104、硬化工程S106、第1の分離工程S108、第2の積層工程S110、部材形成工程S112、および第2の分離工程S114を備える。
また、
図2は、本発明の電子デバイスの製造方法における各製造工程を順に示す模式的断面図である。
以下に、
図2を参照しながら、各工程で使用される材料およびその手順について詳述する。まず、補助基板準備工程S102について詳述する。
【0026】
[補助基板準備工程]
補助基板準備工程S102は、易剥離性を示す表面を有する剥離性補助基板を準備する工程である。
図2(A)に示す、剥離性補助基板10は、後述する樹脂層に対して易剥離性を示す表面10aを有する支持板を意味する。剥離性補助基板10は、後述する樹脂層と剥離可能に密着し得る。なお、
図2(A)において、易剥離性を示す表面10aは、剥離性補助基板10の一方の主面にのみ形成されているが、他の表面が易剥離性を示してもよい。
以下では、本工程S102で準備される剥離性補助基板の態様について詳述する。
【0027】
(剥離性補助基板)
剥離性補助基板は、後述する未硬化の硬化性樹脂組成物層およびガラス基板を支持して補強する。また、剥離性補助基板は、未硬化の硬化性樹脂組成物層を硬化させて得られる樹脂層の表面の平坦性を高めるために使用される基板であり、未硬化の状態の硬化性樹脂組成物層と接してその層の表面を平坦にし、樹脂層の厚みムラを抑制する。なお、剥離性補助基板の表面が有する易剥離性とは、後述する硬化後積層体に剥離性補助基板を剥離するための外力を加えた場合、キャリア基板と樹脂層の界面および樹脂層内部で剥離すること無く、剥離性補助基板と樹脂層の界面で剥離する性質を意味する。
剥離性補助基板の易剥離性を示す表面の水接触角は、剥離性補助基板と樹脂層との界面での剥離がより進行しやすい点から、90°以上であることが好ましく、90〜120°であることがより好ましく、90〜110°であることがさらに好ましい。
なお、水接触角の測定は、接触角計(クルス社製、DROP SHAPE ANALYSIS SYSTEM DSA 10Mk2など)を用いて行うことができる。
【0028】
剥離性補助基板を構成する材料は、その表面が樹脂層に対して易剥離性を示せば特に制限されない。例えば、ガラス板、プラスチック板(例えば、シリコーン基板)、SUS板などの金属板、またはこれらを積層した基板(上層にシリコーン基板、下層にガラス基板を有する積層基板)などが用いられる。
【0029】
剥離性補助基板の厚さは特に制限されず、積層されるキャリア基板よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。剥離性補助基板の厚さは、現行の製造装置を使用できる点、および、取り扱い性の点から、0.3〜3.0mmであることが好ましい。
【0030】
剥離性補助基板の易剥離性を示す表面の表面粗さ(Ra)は、後述する硬化工程S106で得られる樹脂層の平坦性がより優れる点で、2.0nm以下が好ましく、1.0nm以下がより好ましく、0.5nm以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0nmが特に好ましい。
なお、表面粗さ(Ra)の測定は、原子間力顕微鏡(Pacific Nanotechnology社製、Nano Scope IIIa;Scan Rate 1.0Hz,Sample Lines256,Off−line Modify Flatten order−2,Planefit order−2 など)を用いてJIS B 0601(2001)に基づいて行うことができる。
【0031】
(好適態様)
補助基板準備工程の好適態様としては、剥離剤を用いて補助基板の表面を処理し、易剥離性を示す表面を有する剥離性補助基板を得る工程が好ましく挙げられる。該工程を実施することにより、補助基板の種類によらず、易剥離性を示す表面を有する剥離性補助基板を得ることができる。
まず、本工程で使用される補助基板および剥離剤について詳述し、その後該工程の手順について詳述する。
【0032】
(補助基板)
補助基板は、後述する未硬化の硬化性樹脂組成物層およびガラス基板を支持して補強する。
補助基板の種類は特に制限されず、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板などの金属板などが用いられる。補助基板は、硬化工程S106が熱処理を伴う場合、キャリア基板との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、キャリア基板と同一材料で形成されることがより好ましい。特に、キャリア基板がガラス基板の場合、補助基板はキャリア基板と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
【0033】
補助基板の外形の大きさは特に制限されないが、通常、積層される未硬化の硬化性樹脂組成物層の外形と同程度か、未硬化の硬化性樹脂組成物層の外形よりも大きい。
【0034】
(剥離剤)
剥離剤としては公知の剥離剤を使用することができ、例えば、シリコーン系化合物(例えば、シリコーンオイルなど)、シリル化剤(例えば、ヘキサメチルジシラザンなど)、フッ素系化合物(例えば、フッ素樹脂など)などが挙げられる。剥離剤は、エマルジョン型・溶剤型・無溶剤型として使用することができる。剥離力、安全性、コスト等から、一つの好適例として、メチルシリル基(−Si-(CH
3)
n)(nは1〜3の整数を表す)またはフルオロアルキル基(−C
mF
2m+1)(mは1〜6の整数が好ましい)を含む化合物が挙げられ、他の好適例として、シリコーン系化合物またはフッ素系化合物が挙げられ、特にシリコーンオイルが好ましい。
【0035】
シリコーンオイルの種類は特に限定されないが、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルなどのストレートシリコーンオイル、ストレートシリコーンオイルの側鎖または末端にアルキル基、ハイドロジェン基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、ポリエーテル基、ハロゲン基等を導入した変性シリコーンオイルが例示される。ストレートシリコーンオイルの具体例としては、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサンなどが挙げられ、列記の順に耐熱性が増加し、最も耐熱性が高いのはジフェニルポリシロキサンである。これらのシリコーンオイルは、一般的には、ガラス基板やプライマー処理した金属基板など基板の表面の撥水処理に用いられている。
シリコーンオイルは、補助基板の被処理表面に結合させる処理の効率性の観点からは、25℃での動粘度が5000mm
2/s以下が好ましく、500mm
2/s以下がより好ましい。動粘度の下限は特に制限されないが、取り扱いの面やコストを考慮して0.5mm
2/s以上が好ましい。
上記シリコーンオイルのうち、樹脂層との剥離性が良好な点でストレートシリコーンオイルが好ましく、特に高い剥離性を与える点でジメチルポリシロキサンが好ましい。また、剥離性と共に特に耐熱性を必要とする場合は、フェニルメチルポリシロキサンまたはジフェニルポリシロキサンが好ましい。
【0036】
フッ素系化合物の種類は特に限定されないが、パーフルオロアルキルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アミド、パーフルオロアルキルスルホン酸塩(例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム)、パーフルオロアルキルカリウム塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキルアミノスルホン酸塩、パーフルオロアルキル燐酸エステル、パーフルオロアルキル化合物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルハロゲン化合物などが挙げられる。なお、フルオロアルキル基(C
mF
2m+1)を含む化合物としては、例えば、上記フッ素系化合物の例示化合物中のフルオロアルキル基を有する化合物が挙げられる。mの上限は剥離性能上では特に制限されないが、取り扱い上の安全性がより優れる点で、mは1〜6の整数が好ましい。
【0037】
(工程の手順)
補助基板の表面の処理方法は、使用される剥離剤に応じて適宜最適な方法が選択される。通常、剥離剤を補助基板の表面に付与(例えば、塗布)することにより処理がなされる。なお、該処理は、少なくとも後述する樹脂層が密着する表面に対してなされていればよく、それ以外の表面に表面処理を施してもよい。通常、補助基板は第1主面と第2主面を有する板状体であり、少なくともその一方の主面に対して該処理がなされることが好ましい。
例えば、シリコーンオイルを使用する場合は、シリコーンオイルを補助基板表面に塗布する方法が挙げられる。なかでも、シリコーンオイルを塗布した後、シリコーンオイルを補助基板の被処理表面に結合させる処理を行うことが好ましい。シリコーンオイルを被処理表面に結合させる処理は、シリコーンオイルの分子鎖を切断するような処理であり、切断された断片が被処理表面に結合する(以下、この処理をシリコーンオイルの低分子化という)。
【0038】
シリコーンオイルの塗布方法は、一般的な方法であってよい。例えば、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などの中から、シリコーンオイルの種類や塗布量などに応じて適宜選定される。
塗布液としては、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、イソパラフィンなどの溶剤でシリコーンオイルを5質量%以下に希釈した溶液を用いることが望ましい。5質量%を超えると、低分子化の処理時間が長過ぎる。
塗布液に含まれる溶媒は、必要に応じて、加熱およびまたは減圧乾燥等の方法で除去される。低分子化工程における加熱により除去してもよい。
シリコーンオイルの塗布量は0.1〜10μg/cm
2が好ましい。0.1μg/cm
2以上であると剥離性がより優れる点で好ましく、10μg/cm
2以下であると塗布液の塗布性および低分子化処理性がより優れる点で好ましい。
【0039】
シリコーンオイルを低分子化する方法には、一般的な方法が用いられ、例えば光分解や熱分解によって、シリコーンオイルのシロキサン結合を切断する方法がある。光分解には、低圧水銀ランプやキセノンアークランプなどから照射される紫外線が利用され、大気中での紫外線照射により発生するオゾンが併用されてもよい。熱分解は、バッチ炉、コンベア炉などで行われてもよいし、プラズマやアーク放電などが利用されてもよい。
シリコーンオイルのシロキサン結合、または、シリコン原子と炭素原子の結合が切断されると、発生した活性点が被処理表面の水酸基等の活性基と反応する。その結果、被処理表面におけるメチル基などの疎水性の官能基の密度が高くなり、親水性の極性基の密度が減り、結果として被処理表面に易剥離性が付与される。
【0040】
なお、表面処理を行う補強基板の表面は、十分に清浄な面であることが好ましく、洗浄直後の面であることが好ましい。洗浄方法としては、ガラス表面や樹脂表面の洗浄に用いられる一般的な方法が用いられる。
表面処理を行わない表面は、マスクなどの保護フィルムで予め保護しておくことが望ましい。
【0041】
また、ヘキサメチルジシラザンなどのシリル化剤を使用する場合は、シリル化剤の蒸気を補助基板表面と接触させるのが好ましい。なお、補助基板を加熱させた状態で、シリル化剤の蒸気と接触させてもよい。
シリル化剤の蒸気濃度は高い方が、すなわち飽和濃度に近い方が処理時間を短縮できるので好ましい。
シリル化剤と補助基板との接触時間は、剥離性補助基板の機能を損なわない限りにおいて短縮できる。
【0042】
上記工程で得られる剥離性補助基板の表面には、シリコーンオイルやシリル化剤などに由来する撥水性基(疎水性基)が導入されている。
【0043】
[第1の積層工程]
第1の積層工程S104は、上記工程S102で得られた剥離性補助基板の易剥離性を示す表面上に、未硬化の硬化性樹脂組成物層、および、キャリア基板をこの順で有する硬化前積層体(硬化処理が施される前の積層体)を形成する工程である。より具体的には、
図2(B)に示すように、本工程S104により、剥離性補助基板10の剥離性を示す表面10a上に、未硬化の硬化性樹脂組成物層12およびキャリア基板14が積層された硬化前積層体16が形成される。
【0044】
この硬化前積層体において、未硬化の硬化性樹脂組成物層はその表面の一方が剥離性補助基板の表面と隙間を空けることなく接している。そのため、後述する硬化工程S106において、該硬化性樹脂組成物層を硬化させると、剥離性補助基板の平坦な表面が転写された樹脂層を得ることができる。
【0045】
該工程S104の硬化前積層体を得る方法は特に制限されないが、生産性および取り扱い性などにより優れる点から、以下の二つの方法が好ましく挙げられる。
(第1態様):剥離性補助基板の易剥離性を示す表面上に硬化性樹脂組成物を塗布して、未硬化の硬化性樹脂組成物層を形成し、さらに未硬化の硬化性樹脂組成物層上にキャリア基板を積層する方法
(第2態様):キャリア基板の表面上に硬化性樹脂組成物を塗布して、未硬化の硬化性樹脂組成物層を形成し、さらに剥離性補助基板の易剥離性を示す表面が未硬化の硬化性樹脂組成物層と接触するように、未硬化の硬化性樹脂組成物層上に剥離性補助基板を積層する方法が挙げられる。
なかでも、生産性および取り扱い性などにより優れる点で、第1態様が好ましい。
以下では、主に、第1態様について詳述する。まず、本工程で使用される材料(硬化性樹脂組成物、キャリア基板など)について詳述し、その後第1態様の手順について詳述する。
【0046】
(硬化性樹脂組成物)
本工程S104で使用される硬化性樹脂組成物は、後述する硬化工程S106にて樹脂層(密着性樹脂層)を形成しうる組成物である。
硬化性樹脂組成物中に含まれる硬化性樹脂としては、その硬化膜が対象物に対して剥離可能に密着し得る密着性を有していればよく、公知の硬化性樹脂(例えば、熱硬化性組成物、光硬化性組成物など)を使用することができる。例えば、硬化性アクリル樹脂、硬化性ウレタン樹脂、硬化性シリコーンなどが挙げられる。いくつかの種類の硬化性樹脂を混合して用いることもできる。中でも硬化性シリコーンが好ましい。硬化性シリコーンを硬化して得られるシリコーン樹脂は、耐熱性や剥離性に優れるためである。また、硬化性シリコーンを使用すると、キャリア基板としてガラス基板を使用した際に、キャリア基板表面のシラノール基との縮合反応によって、キャリア基板に固定し易いからである。
【0047】
硬化性樹脂組成物としては、硬化性シリコーン樹脂組成物(特に、剥離紙用に使用される硬化性シリコーン樹脂組成物が好ましい)が好ましい。この硬化性シリコーン樹脂組成物を使用して形成される樹脂層は、ガラス基板表面に密着するとともにその自由表面は優れた易剥離性を有するので好ましい。
【0048】
このような剥離紙用シリコーン樹脂となる硬化性シリコーンは、その硬化機構により縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーンおよび電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。これらの中でも付加反応型シリコーンが好ましい。これは、硬化反応のしやすさ、樹脂層を形成した際に剥離性の程度が良好で、耐熱性も高いからである。
【0049】
付加反応型シリコーン樹脂組成物は、主剤および架橋剤を含み、白金系触媒などの触媒の存在下で硬化する硬化性の組成物である。付加反応型シリコーン樹脂組成物の硬化は、加熱処理により促進される。付加反応型シリコーン樹脂組成物中の主剤は、ケイ素原子に結合したアルケニル基(ビニル基など)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノアルケニルポリシロキサン。なお、直鎖状が好ましい)であることが好ましく、アルケニル基などが架橋点となる。付加反応型シリコーン樹脂組成物中の架橋剤は、ケイ素原子に結合した水素原子(ハイドロシリル基)を有するオルガノポリシロキサン(すなわち、オルガノハイドロジェンポリシロキサン。なお、直鎖状が好ましい)であることが好ましく、ハイドロシリル基などが架橋点となる。
付加反応型シリコーン樹脂組成物は、主剤と架橋剤の架橋点が付加反応をすることにより硬化する。
なお、架橋構造に由来する耐熱性がより優れる点で、オルガノアルケニルポリシロキサンのアルケニル基に対する、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのケイ素原子に結合した水素原子のモル比が0.5〜2であることが好ましい。
【0050】
また、剥離紙などの剥離層を形成するために使用される硬化性シリコーン樹脂組成物は形態的に溶剤型、エマルジョン型および無溶剤型があり、いずれの型も使用可能である。これらの中でも無溶剤型が好ましい。これは生産性、安全性、環境特性の面が優れるからである。また、後述する樹脂層を形成する際の硬化時、すなわち、加熱硬化、紫外線硬化または電子線硬化の時に発泡を生じる溶剤を含まないため、樹脂層中に気泡が残留しにくいからである。
【0051】
また、剥離紙などの剥離層を形成するために使用される硬化性シリコーン樹脂組成物として、具体的には市販されている商品名または型番としてKNS−320A、KS−847(いずれも信越シリコーン社製)、TPR6700(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、ビニルシリコーン「8500」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11364」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11365」(荒川化学工業社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業社製)との組み合わせなどが挙げられる。
【0052】
なお、KNS−320A、KS−847およびTPR6700は、あらかじめ主剤と架橋剤とを含有している硬化性シリコーン樹脂組成物である。
【0053】
(キャリア基板)
キャリア基板は、後述する硬化工程S106で得られる樹脂層が固定(接着)され、ガラス基板を支持して補強し、後述する部材形成工程S112(電子デバイス用部材を製造する工程)において電子デバイス用部材の製造の際にガラス基板の変形、傷付き、破損などを防止する基板である。
キャリア基板としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板などの金属板などが用いられる。キャリア基板は、部材形成工程S112が熱処理を伴う場合、ガラス基板との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラス基板と同一材料で形成されることがより好ましく、キャリア基板はガラス板であることが好ましい。特に、キャリア基板は、ガラス基板と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
【0054】
キャリア基板の厚さは、後述するガラス基板よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、ガラス基板の厚さ、樹脂層の厚さ、および後述するガラス積層体の厚さに基づいて、キャリア基板の厚さが選択される。例えば、現行の部材形成工程が厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、ガラス基板の厚さと樹脂層の厚さとの和が0.1mmの場合、キャリア基板の厚さを0.4mmとする。キャリア基板の厚さは、通常の場合、0.2〜5.0mmであることが好ましい。
【0055】
キャリア基板がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス板の厚さは、電子デバイス用部材形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
【0056】
ガラス基板とキャリア基板との25〜300℃における平均線膨張係数(以下、単に「平均線膨張係数」という)の差は、好ましくは500×10
-7/℃以下であり、より好ましくは300×10
-7/℃以下であり、さらに好ましくは200×10
-7/℃以下である。差が大き過ぎると、部材形成工程S112における加熱冷却時に、ガラス積層体が激しく反るおそれがある。ガラス基板の材料とキャリア基板の材料が同じ場合、このような問題が生じるのを抑制することができる。
【0057】
(工程の手順)
本工程S104の第1態様では、まず、剥離性補助基板の易剥離性を示す表面上に硬化性組成物を塗布する。硬化性樹脂組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法を採用し得る。例えば、塗布方法としては、スプレーコート法、ダイコート法、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、グラビアコート法などが挙げられる。このような方法の中から、樹脂組成物の種類に応じて適宜選択することができる。
【0058】
また、硬化性樹脂組成物の塗布量は特に制限されないが、樹脂層の好適な厚みが得られる点から、1〜100g/m
2であることが好ましく、5〜20g/m
2であることがより好ましい。
【0059】
なお、硬化性樹脂組成物に溶媒が含まれている場合は、必要に応じて、硬化性樹脂が硬化しない程度の加熱処理を行って、溶媒を揮発させてもよい。
【0060】
硬化性樹脂組成物を剥離性補助基板上に塗布して得られる未硬化の硬化性樹脂組成物層の厚みは特に制限されず、後述する好適な厚みを有する樹脂層が得られるように適宜調整される。
【0061】
次に、未硬化の硬化性樹脂組成物層の上に、キャリア基板を積層する。
キャリア基板を未硬化の硬化性樹脂組成物層上に積層する方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。
例えば、常圧環境下で未硬化の硬化性樹脂組成物層の表面上にキャリア基板を重ねる方法が挙げられる。なお、必要に応じて、未硬化の硬化性樹脂組成物層の表面上にキャリア基板を重ねた後、ロールやプレスを用いて未硬化の硬化性樹脂組成物層にキャリア基板を圧着させてもよい。ロールまたはプレスによる圧着により、未硬化の硬化性樹脂組成物層とキャリア基板の層との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
【0062】
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、キャリア基板のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0063】
キャリア基板を積層する際には、未硬化の硬化性樹脂組成物層に接触するキャリア基板の表面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。クリーン度が高いほど、キャリア基板の平坦性は良好となるので好ましい。
【0064】
上記工程により得られた硬化前積層体には、剥離性補助基板の層と未硬化の硬化性樹脂組成物層とキャリア基板の層とがこの順で含まれる。
【0065】
なお、上記では第1態様の手順について述べたが、上記手順を参照して第2態様を実施してもよい。具体的には、硬化性樹脂組成物を塗布する態様を剥離性補助基板からキャリア基板に変更して、上述した方法によりキャリア基板上に未硬化の硬化性樹脂組成物層を形成する。その後、キャリア基板の代わりに剥離性補助基板を使用して、未硬化の硬化性樹脂組成物層の上に剥離性補助基板を積層することで硬化前積層体を得ることができる。
【0066】
(好適態様)
本工程S104の好ましい態様(以後、適宜好適態様Aとも称する)としては、未硬化の硬化性樹脂組成物層の外形がキャリア基板の外形より大きく、未硬化の硬化性樹脂組成物層にキャリア基板と接触しない周縁領域が残るように、キャリア基板を未硬化の硬化性樹脂組成物層上に積層する工程が好ましい。言い換えると、キャリア基板は、キャリア基板の外周に未硬化の硬化性樹脂組成物層が露出するように、未硬化の硬化性樹脂組成物層上に積層される。
より具体的には、
図3(A)に示すように、未硬化の硬化性樹脂組成物層12の周縁領域12aにキャリア基板14が接触しないように、キャリア基板14を未硬化の硬化性樹脂組成物層12上に積層する。該態様においては、
図3(A)および(B)に示すように、未硬化の硬化性樹脂組成物層12の外形がキャリア基板14の外形より大きい。なお、
図3(B)においては、未硬化の硬化性樹脂組成物層12は剥離性補助基板10と同じ大きさであるが、未硬化の硬化性樹脂組成物層12の外形は剥離性補助基板10の外形よりも小さくてもよい。
【0067】
通常、未硬化の硬化性樹脂組成物層12の露出表面には、その表面張力の影響によって周縁部付近に凸部が生じやすい(
図3(C)参照)。キャリア基板14を積層する際に、そのような凸部と接触すると、キャリア基板14と未硬化の硬化性樹脂組成物層12との間に空隙36などが生じることがあり、結果としてキャリア基板14と未硬化の硬化性樹脂組成物層12とが接触しない領域が生じる場合がある(
図3(D)参照)。このような領域があると、硬化工程S106で得られる樹脂層のキャリア基板14に対する密着性が低下する場合がある。また、樹脂層の厚みムラが生じることもあり、樹脂層付きキャリア基板の露出表面に表面凹凸ができる原因ともなり得る。
【0068】
そこで、未硬化の硬化性樹脂組成物層12の外形よりも小さい外形を有するキャリア基板14を使用することにより、該凸部と接触させることなく、キャリア基板14を未硬化の硬化性樹脂組成物層12と接触させることができる。結果として、キャリア基板14と未硬化の硬化性樹脂組成物層12とが接触しない領域の発生がより抑制され、樹脂層のキャリア基板14に対する密着性がより優れると共に、樹脂層付きキャリア基板の露出表面の表面凹凸の発生もより抑制される。
【0069】
該態様において、未硬化の硬化性樹脂組成物層の外形はキャリア基板の外形よりも大きい。未硬化の硬化性樹脂組成物層のキャリア基板と接触する領域の面積Aと未硬化の硬化性樹脂組成物層の全面積Bとの比(面積A/全面積B)は、0.98以下であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、樹脂層の厚みムラの発生がより抑制される。下限は特に制限されないが、生産性などの点から、0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましい。
【0070】
また、キャリア基板の外周縁から未硬化の硬化性樹脂組成物層の外周縁までの長さは、10mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましい。上記範囲内であれば、樹脂層の厚みムラの発生がより抑制される。上限は特に制限されないが、生産性などの点から、100mm以下が好ましい。
【0071】
[硬化工程]
硬化工程S106は、上記第1の積層工程S104で得られた硬化前積層体に対して硬化処理を施し、硬化前積層体中の未硬化の硬化性樹脂組成物層を硬化させ、樹脂層を有する硬化後積層体(硬化処理が施された積層体)を得る工程である。より具体的には、
図2(C)に示すように、該工程を実施することにより、未硬化の硬化性樹脂組成物層12が硬化して樹脂層18が得られ、剥離性補助基板10の層と樹脂層18とキャリア基板14の層とをこの順で有する硬化後積層体20が得られる。
以下に、本工程で実施される工程の手順について詳述し、その後得られた積層体の構成について詳述する。
【0072】
(工程の手順)
本工程で実施される硬化処理は、使用される硬化性樹脂の種類によって適宜最適な方法が選択されるが、通常、加熱処理または露光処理が行われる。
【0073】
硬化性樹脂組成物層中に含まれる硬化性樹脂が熱硬化性である場合は、未硬化の硬化性樹脂組成物層に対して加熱処理を施すことにより、該層を硬化させることができる。加熱処理の条件は使用される熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜最適な条件が選択される。なかでも、硬化性樹脂の硬化速度および形成される樹脂層の耐熱性などの点から、150〜300℃(好ましくは180〜250℃)で10〜120分間(好ましくは30〜60分間)加熱処理を行うことが好ましい。
【0074】
硬化性樹脂組成物層中に含まれる硬化性樹脂が光硬化性樹脂である場合は、未硬化の硬化性樹脂組成物層に対して露光処理を施すことにより、該層を硬化させることができる。露光処理の際に照射される光の種類は、光硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、紫外光、可視光、赤外光などが挙げられる。また、露光処理の際の照射時間は、硬化性樹脂の硬化速度および形成される樹脂層の耐光性などの点から、0.1〜10分間(好ましくは0.5〜5分間)が好ましい。
【0075】
(樹脂層)
次に、硬化後積層体中の樹脂層について詳述する。
樹脂層の外形は特に限定されないが、上述したように、未硬化の硬化性樹脂組成物層の外形よりも外形が小さいキャリア基板を使用した場合、樹脂層の外形はキャリア基板の外形よりも大きい。
【0076】
樹脂層の厚さは、特に限定されないが、1〜100μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、7〜20μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚さがこのような範囲であると、樹脂層とガラス基板との密着が十分になるからである。また、樹脂層とガラス基板との間に気泡や異物が介在することがあっても、ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができるからである。また、樹脂層の厚さが厚すぎると、形成するのに時間および材料を要するため経済的ではない。
【0077】
なお、樹脂層は2層以上からなっていてもよい。この場合「樹脂層の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
また、樹脂層が2層以上からなる場合は、各々の層を形成する樹脂の種類が異なってもよい。
【0078】
樹脂層は、ガラス転移点が室温(25℃程度)よりも低い、またはガラス転移点を有しない材料からなることが好ましい。より容易にガラス基板と剥離することができ、同時にガラス基板との密着も十分になるからである。
【0079】
樹脂層を形成する樹脂の種類は特に限定されず、上述した硬化性樹脂組成物に含まれる樹脂の種類によって異なる。例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、またはシリコーン樹脂が挙げられる。中でも、上述したように、シリコーン樹脂が好ましい。
【0080】
なお、樹脂層は、必要に応じて、非硬化性のオルガノポリシロキサンを含んでいてもよく、その含有量は具体的には5質量%以下(0〜5質量%)、好ましくは0.01〜1質量%が挙げられる。非硬化性のオルガノポリシロキサンが樹脂層中に含まれると、後述する第1の分離工程S108における剥離性補助基板と樹脂層との界面での剥離がより効率よく進行する。
非硬化性のオルガノポリシロキサンを樹脂層に含有させる方法は特に制限されず、上述した硬化性樹脂組成物中に加える方法が挙げられる。
なお、非硬化性のオルガノポリシロキサンとしては、Si−H結合を含まないシリコーンオイル、具体的にはポリジメチルシロキサン系またはポリメチルフェニルシロキサン系のシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0081】
(硬化後積層体)
上記硬化工程により得られる硬化後積層体は、剥離性補助基板の層と樹脂層とキャリア基板の層とをこの順で有する。
得られた硬化後積層体中、樹脂層は、キャリア基板上に固定(接着)されており、また、剥離性補助基板に剥離可能に密着されている。樹脂層は、後述する第1の分離工程S108において、剥離性補助基板と樹脂層付きキャリア基板とを分離する操作が行われるまで、樹脂層付きキャリア基板の位置ずれを防止する。
剥離性補助基板の樹脂層と接する表面は、樹脂層の表面に剥離可能に密着している。本発明では、この剥離性補助基板の容易に剥離できる性質を易剥離性という。
【0082】
本発明において、上記固定と(剥離可能な)密着は剥離強度(すなわち、剥離に要する応力)に違いがあり、固定は密着に対し剥離強度が大きいことを意味する。具体的には、硬化後積層体中の樹脂層とキャリア基板の層との界面の剥離強度が、剥離性補助基板の層と樹脂層との界面の剥離強度よりも大きくなる。
また、剥離可能な密着とは、剥離可能であると同時に、固定されている面の剥離を生じさせることなく剥離可能であることも意味する。具体的には、硬化後積層体において、剥離性補助基板とキャリア基板とを分離する操作を行った場合、密着された面で剥離し、固定された面では剥離しないことを意味する。したがって、硬化後積層体を剥離性補助基板とキャリア基板とに分離する操作を行うと、硬化後積層体は剥離性補助基板と樹脂層付き樹脂層付きキャリア基板の2つに分離される。
【0083】
上述したように、未硬化の硬化性樹脂組成物層をキャリア基板表面に接触させた状態で反応硬化することから、形成された樹脂層はキャリア基板表面に強く接着する。一方、未硬化の硬化性樹脂組成物層は剥離性補助基板とも接触した状態で反応硬化するが、剥離性補助基板表面の易剥離性(非付着性)のために、形成された樹脂層は剥離性補助基板に対して、固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する結合力などの弱い結合力で密着する。
【0084】
[第1の分離工程]
第1の分離工程S108は、上記硬化工程S106で得られた硬化後積層体から、キャリア基板とキャリア基板の表面に接触している樹脂層とを有する樹脂層付きキャリア基板を分離して得る工程である。より具体的には、
図2(D)に示すように、該工程S108により、剥離性補助基板10と樹脂層18との界面を剥離面として、硬化後積層体20から剥離性補助基板10を分離・除去して、キャリア基板14上に固定された樹脂層18を有する樹脂層付きキャリア基板22が得られる。
【0085】
本工程を実施することにより、後述する第2の積層工程S110でガラス基板を積層する樹脂層付きキャリア基板が得られる。得られた樹脂層付きキャリア基板の樹脂層の表面(露出表面)は、平坦性に優れている。そのため、後述する第2の積層工程S110において、ガラス基板を樹脂層表面上に隙間なく積層することができる。結果として、ガラス積層体中におけるガラス基板の平坦性にも優れており、電子デバイスの生産性を向上に寄与する。
【0086】
剥離性補助基板と樹脂層とを剥離する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、剥離性補助基板と樹脂層との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。好ましくは、硬化後積層体中の剥離性補助基板が上側、キャリア基板が下側となるように定盤上に設置し、キャリア基板側を定盤上に真空吸着し、この状態でまず刃物を剥離性補助基板と樹脂層との界面に刃物を侵入させる。そして、その後に剥離性補助基板側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物を差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうすると剥離性補助基板と樹脂層との界面へ空気層が形成され、その空気層が界面の全面に広がり、剥離性補助基板を容易に剥離することができる。
【0087】
上述した製造方法で得られる樹脂層付きキャリア基板中の樹脂層は、その露出表面が対象物に対して着脱可能な密着性を有している。これは剥離性補助基板との剥離の際に、樹脂層の凝集剥離などが抑制され、樹脂層の剥離面が十分な密着性を有した状態を維持できるからである。
【0088】
なお、上述した好適態様Aでキャリア基板を積層した場合においても、本工程S108を実施することにより、硬化後積層体から、キャリア基板とキャリア基板の表面に接触している樹脂層とを有する樹脂層付きキャリア基板が分離して得られる。つまり、硬化後積層体から、剥離性補助基板とキャリア板と接触していない樹脂層の周縁領域とが除去され、キャリア基板とキャリア基板の表面に接触している樹脂層とを有する樹脂層付きキャリア基板が得られる。
より具体的には、
図4に示すように、該工程S108により、剥離性補助基板10と樹脂層18との界面を剥離面として、硬化後積層体20から剥離性補助基板10およびキャリア基板と接触しない樹脂層18の周縁領域18aとが除去され、キャリア基板14上に固定された樹脂層18を有する樹脂層付きキャリア基板22が得られる。
【0089】
なお、樹脂層付きキャリア基板中のキャリア基板と樹脂層とのそれぞれの外周縁の全周は揃っている。言い換えると、キャリア基板と樹脂層とは同じ外形を有している。
【0090】
硬化後積層体から、樹脂層付きキャリア基板を得る方法は特に制限されず、上記と同様の手順を実施することができる。例えば、キャリア基板の外周縁付近の剥離性補助基板と樹脂層との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。
【0091】
なお、硬化後積層体中の樹脂層のキャリア基板と接触しない周縁領域の除去を行うと、樹脂層の欠片がキャリア基板などに静電吸着してしまい、後述するガラス基板などを積層する際に、その欠片がガラス基板と樹脂層との間に入るおそれがある。
よって、該周縁領域の除去を行うことなく、樹脂層付きキャリア基板を硬化後積層体から分離することが好ましい。
【0092】
なお、該周縁領域の除去を行うことなく、樹脂層付きキャリア基板を硬化後積層体から分離する場合、樹脂層付きキャリア基板の樹脂層の周端部付近にバリ状の樹脂からなる欠片が付着することがある。この場合、樹脂層に傷などのダメージを与えない範囲で欠片を除去することが好ましい。より具体的には、上記第1の分離工程S108と、後述する第2の積層工程S110との間に、樹脂層付きキャリア基板中のキャリア基板と樹脂層のそれぞれの外周縁の全周を揃える工程を設けることが好ましい。
該工程の方法は特に制限されないが、例えば、除電効果のある高圧水による除去が好ましく、除去後樹脂層に付着した水は空気吹き付けなどで除去することが好ましい。
【0093】
また、硬化後積層体から樹脂層付きガラス基板を除去する際においては、イオナイザによる吹き付けや湿度を制御することにより、樹脂層の欠片が樹脂層付きガラス基板に静電吸着することをより抑制することができる。
【0094】
[第2の積層工程]
第2の積層工程S110は、上記分離工程S108で得られた樹脂層付きキャリア基板の樹脂層表面上にガラス基板を剥離可能に積層する工程である。より具体的には、
図2(E)に示すように、本工程S110により、樹脂層付きキャリア基板22の樹脂層18表面上にガラス基板24を積層して、ガラス積層体26が得られる。なお、剥離可能とは、後述する電子デバイス用部材付き積層体に樹脂層付きキャリア基板を剥離するための外力を加えた場合、キャリア基板と樹脂層の界面および樹脂層内部で剥離すること無く、ガラス基板と樹脂層の界面で剥離する性質を意味する。
【0095】
図2(E)に示すように、ガラス積層体26は、キャリア基板14の層とガラス基板24の層とそれらの間に樹脂層18が存在する積層体である。樹脂層18はその一方の面がキャリア基板14の層に固定されると共に、その他方の面がガラス基板24の第1主面24aに接し、樹脂層18とガラス基板24との界面は剥離可能に密着されている。言い換えると、ガラス積層体中の樹脂層18とキャリア基板14の層との界面の剥離強度が、ガラス基板24の層と樹脂層18との界面の剥離強度よりも高い。つまり、樹脂層付きキャリア基板22はガラス基板24の第1主面24aに対して易剥離性を具備している。
樹脂層付きキャリア基板22は、液晶パネルなどの電子デバイス用部材を製造する部材形成工程S112において、ガラス基板24を補強する。
【0096】
このガラス積層体26は、後述する部材形成工程S112まで使用される。即ち、このガラス積層体26は、そのガラス基板24の第2主面24b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されるまで使用される。その後、樹脂層付きキャリア基板22の層は、ガラス基板24の層との界面で剥離され、樹脂層付きキャリア基板22の層は電子デバイスを構成する部分とはならない。分離された樹脂層付きキャリア基板22は新たなガラス基板24と積層され、ガラス積層体26として再利用することができる。
【0097】
以下で、本工程で使用されるガラス基板について詳述し、その後該工程S110の手順について詳述する。
【0098】
(ガラス基板)
ガラス基板は、その第1主面が樹脂層付きキャリア基板中の樹脂層と剥離可能に密着し、樹脂層と密着する側とは反対側の第2主面に電子デバイス用部材が設けられる。
ガラス基板の種類は、一般的なものであってよく、例えば、LCD、OLEDといった表示装置用のガラス基板などが挙げられる。ガラス基板は耐薬品性、耐透湿性に優れ、且つ、熱収縮率が低い。熱収縮率の指標としては、JIS R 3102(1995年改正)に規定されている線膨張係数が用いられる。
【0099】
ガラス基板の線膨張係数が大きいと、部材形成工程S112は加熱処理を伴うことが多いので、様々な不都合が生じやすい。例えば、ガラス基板上にTFTを形成する場合、加熱下でTFTが形成されたガラス基板を冷却すると、ガラス基板の熱収縮によって、TFTの位置ずれが過大になるおそれがある。
【0100】
ガラス基板は、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法、フルコール法、ラバース法などが用いられる。また、特に厚さが薄いガラス基板は、いったん板状に成形したガラスを成形可能温度に加熱し、延伸などの手段で引き伸ばして薄くする方法(リドロー法)で成形して得られる。
【0101】
ガラス基板のガラスは、特に限定されないが、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40〜90質量%のガラスが好ましい。
【0102】
ガラス基板のガラスとしては、電子デバイス用部材の種類やその製造工程に適したガラスが採用される。例えば、液晶パネル用のガラス基板は、アルカリ金属成分の溶出が液晶に影響を与えやすいことから、アルカリ金属成分を実質的に含まないガラス(無アルカリガラス)からなる(ただし、通常アルカリ土類金属成分は含まれる)。このように、ガラス基板のガラスは、適用されるデバイスの種類およびその製造工程に基づいて適宜選択される。
【0103】
ガラス基板の厚さは、特に限定されないが、ガラス基板の薄型化および/または軽量化の観点から、通常0.8mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mm超の場合、ガラス基板の薄型化および/または軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、ガラス基板に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板をロール状に巻き取ることが可能である。また、ガラス基板の厚さは、ガラス基板の製造が容易であること、ガラス基板の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。
【0104】
なお、ガラス基板は2層以上からなっていてもよく、この場合、各々の層を形成する材料は同種材料であってもよいし、異種材料であってもよい。また、この場合、「ガラス基板の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
また、ガラス基板の一方の表面には、他の層状材料が積層されていてもよい。例えば、ガラス基板の強度を補強するために、樹脂層などが積層されていてもよく、例えば、酸化インジウム錫や酸化ケイ素などの無機物薄膜層が積層されていてもよい。なお、ガラス基板のシリコーン樹脂層と密着する側の面、すなわち第1主面が、補助基板と同様に予め易剥離性を有していてもよい。
【0105】
(工程の手順)
本工程S110では、上述した樹脂層付きキャリア基板とガラス基板とを用意し、上記樹脂層付きキャリア基板の樹脂層表面とガラス基板の第1主面とを積層面として両者を密着積層する。樹脂層の積層面が易剥離性を有しており、通常の重ね合わせと加圧により、容易に剥離可能に密着させることができる。
具体的には、例えば、常圧環境下で樹脂層の易剥離性の表面にガラス基板を重ねた後、ロールやプレスを用いて樹脂層とガラス基板とを圧着させる方法が挙げられる。ロールやプレスで圧着することにより樹脂層とガラス基板とがより密着するので好ましい。また、ロールまたはプレスによる圧着により、樹脂層とガラス基板との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
【0106】
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ガラス基板のゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0107】
樹脂層をガラス基板の第1主面に剥離可能に密着させる際には、樹脂層およびガラス基板の互いに接触する側の面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。
【0108】
[部材形成工程]
部材形成工程S112は、上記第2の積層工程S110において得られたガラス積層体中のガラス基板の表面上に電子デバイス用部材を形成する工程である。
より具体的には、
図2(F)に示すように、本工程S112により、ガラス基板24の第2主面24b上に電子デバイス用部材28を形成し、電子デバイス用部材付き積層体30を得る。
【0109】
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0110】
(電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材は、ガラス積層体中のガラス基板の第2主面上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、または、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品などに用いられる部材が挙げられる。表示装置用パネルとしては、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル等が含まれる。
【0111】
例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズなど透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、電子部品用部材としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサ・加速度センサなど各種センサやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板などに対応する各種部材等を挙げることができる。
【0112】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体の製造方法は特に限定されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、積層体のガラス基板の第2主面表面上に、電子デバイス用部材を形成する。
なお、電子デバイス用部材は、ガラス基板の第2主面に最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。樹脂層から剥離された部分部材付きガラス基板を、その後の工程で全部材付きガラス基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。
また、樹脂層から剥離された、全部材付きガラス基板には、その剥離面(第1主面)に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。また、全部材付き積層体を組み立て、その後、全部材付き積層体から樹脂層付きキャリア基板を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。さらに、全部材付き積層体を2枚用いて電子デバイスを組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚の樹脂層付きキャリア基板を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。
【0113】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、ガラス積層体のガラス基板の樹脂層側とは反対側の表面上(ガラス基板の第2主面に該当)に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、等の各種の層形成や処理が行われる。これらの層形成や処理として、具体的には、例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
【0114】
また、例えば、TFT−LCDの製造方法は、ガラス積層体のガラス基板の第2主面上に、レジスト液を用いて、CVD法およびスパッター法など、一般的な成膜法により形成される金属膜および金属酸化膜等にパターン形成して薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程と、別のガラス積層体のガラス基板の第2主面1上に、レジスト液をパターン形成に用いてカラーフィルタ(CF)を形成するCF形成工程と、TFT形成工程で得られたTFT付き積層体とCF形成工程で得られたCF付き積層体とをTFTとCFとが対向するようにシールを介して積層する貼り合わせ工程等の各種工程を有する。
【0115】
TFT形成工程やCF形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、ガラス基板の第2主面にTFTやCFを形成する。この際、パターン形成用のコーティング液としてレジスト液が用いられる。
なお、TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、ガラス基板の第2主面を洗浄してもよい。洗浄方法としては、周知のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0116】
貼り合わせ工程では、例えば、TFT付き積層体とCF付き積層体との間に液晶材を注入して積層する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0117】
[第2の分離工程]
第2の分離工程S114は、上記部材形成工程S112で得られた電子デバイス用部材付き積層体から、樹脂層付きキャリア基板を除去し、ガラス基板と電子デバイス用部材とを有する電子デバイスを得る工程である。より具体的には、
図2(G)に示すように、該工程S114により、電子デバイス用部材付き積層体から、樹脂層付きキャリア基板22を分離・除去して、ガラス基板24と電子デバイス用部材28とを含む電子デバイス32が得られる。
【0118】
剥離時のガラス基板上の電子デバイス用部材が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をガラス基板上に形成することもできる。
以下、本工程S114の手順について詳述する。
【0119】
ガラス基板の第1主面と樹脂層の剥離性表面とを剥離する方法は、特に限定されない。例えば、上述した第1の分離工程で説明した手順を実施することができる。
例えば、ガラス基板と樹脂層との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。
【0120】
また、電子デバイス用部材付き積層体から樹脂層付きキャリア基板を除去する際においては、イオナイザによる吹き付けや湿度を制御することにより、電子デバイスに影響する可能性のある静電気を抑えることができる。あるいは、電子デバイスに静電気を消耗させる回路を組み込んだり、犠牲回路を組み込んで端子部から積層体の外に導通をとったりしてもよい。
【0121】
上記工程によって得られた電子デバイスは、携帯電話やPDAのようなモバイル端末に使用される小型の表示装置の製造に好適である。表示装置は主としてLCDまたはOLEDであり、LCDとしては、TN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型、IPS型、VA型等を含む。基本的にパッシブ駆動型、アクティブ駆動型のいずれの表示装置の場合でも適用することができる。
【0122】
[第2の実施態様]
図5は、本発明の電子デバイスの製造方法の他の実施形態における製造工程を示すフローチャートである。
図5に示すように、電子デバイスの製造方法は、補助基板準備工程S102、第1の積層工程S104、脱泡工程S116、硬化工程S106、第1の分離工程S108、第2の積層工程S110、部材形成工程S112、および第2の分離工程S114を備える。
図5に示す各工程は、脱泡工程S116を備える点を除いて、
図1に示す工程と同様の手順であり、同一の工程には同一の参照符号を付し、その説明を省略し、主として脱泡工程S116について説明する。
【0123】
[脱泡工程]
脱泡工程S116は、上記第1の積層工程S104の後で硬化工程S106の前に、未硬化の硬化性樹脂組成物層の脱泡処理をする工程である。該工程S116を設けることにより、未硬化の硬化性樹脂組成物層から気泡や易揮発成分が除去され、得られる樹脂層とガラス基板との密着性がより強化される。
【0124】
脱泡工程の処理方法は使用される未硬化の硬化性樹脂組成物層の材料によって適宜最適な方法が選択されるが、例えば、真空ポンプを用いた減圧脱泡や、遠心力を用いた遠心分離脱泡、超音波脱泡装置を用いた超音波脱泡などが挙げられる。生産性などの点から、減圧下で脱泡処理を行う減圧脱泡が好ましく、その条件としては1000Pa以下(好ましくは100Pa以下)で1〜30分程度脱泡処理を施すことが好ましい。
【実施例】
【0125】
以下に、実施例等により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0126】
以下の実施例1および4〜6、比較例1〜2では、ガラス基板として、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦720mm、横600mm、板厚0.3mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。また、補助基板としては、同じく無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦760mm、横640mm、板厚0.7mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用し、キャリア基板としては、同じく無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦720mm、横600mm、板厚0.4mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。
【0127】
(実施例1)
補助基板を純水洗浄、UV洗浄し、表面を清浄化した。その後、補助基板の片面である第2主面にマスクを施したうえで、反対側の第1主面にシリコーンオイル含有量が1質量%のヘプタン溶液をスプレーコートして乾燥した。シリコーンオイルには、ジメチルポリシロキサン(東レ・ダウコーニング社製、SH200、動粘度190〜210mm
2/s)を用いた。続いて、シリコーンオイルの低分子化のため、350℃での加熱処理を5分間行い、剥離性補助基板を得た。
【0128】
その後、接触角計(クルス社製、DROP SHAPE ANALYSIS SYSTEM DSA 10Mk2)を用いて、剥離性補助基板の第1主面の水接触角を測定したところ、100°であった。
また、原子間力顕微鏡(Pacific Nanotechnology社製、Nano Scope IIIa;Scan Rate 1.0Hz,Sample Lines256,Off−line Modify Flatten order−2,Planefit order−2 )を用いて、剥離性補助基板の第1主面の平均表面粗さ(Ra)を測定したところ、0.5nmであった。平均表面粗さ(Ra)は、測定範囲10μm四方の測定値から算出した。
【0129】
次に、剥離性補助基板の第1主面上に、両末端にビニル基を有する直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサン(ビニルシリコーン、荒川化学工業社製、8500)と、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(荒川化学工業社製、12031)と、白金系触媒(荒川化学工業社製、CAT12070)との混合液を、縦750mm、横630mmの大きさで長方形にスクリーン印刷機にて塗工し、未硬化の硬化性シリコーンを含む層を剥離性ガラス基板上に設けた(塗工量35g/m
2)。ここで、直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンポリシロキサンとの混合比は、ビニル基とハイドロシリル基とのモル比が1:1になるように調節した。また、白金系触媒は、直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサンと、メチルハイドロジェンポリシロキサンとの合計100質量部に対して、5質量部とした。
【0130】
次に、板厚0.4mmのキャリア基板のシリコーン樹脂と接触させる側の面(第1主面)を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。その後、キャリア基板の第1主面と、未硬化の硬化性シリコーンを含む層とを、室温下で真空プレスにより貼り合わせ、30Paで5分間静置して、未硬化の硬化性シリコーンを含む層の脱泡処理を行い、硬化前積層体A0を得た。その際、未硬化の硬化性シリコーンを含む層にキャリア基板と接触しない周縁領域が残るように、キャリア基板を未硬化の硬化性シリコーンを含む層上に積層した。なお、キャリア基板の外周縁から未硬化の硬化性樹脂組成物層の外周縁までの長さは約15mm以上であった。また、未硬化の硬化性樹脂組成物層のキャリア基板と接触する領域の面積Aと未硬化の硬化性樹脂組成物層の全面積Bとの比(面積A/全面積B)は、0.91であった。
次に、硬化前積層体A0を250℃にて30分間大気中で加熱硬化して、厚さ10μmの硬化したシリコーン樹脂層を含む硬化後積層体A1を得た。
【0131】
続いて、硬化後積層体A1におけるキャリア基板のシリコーン樹脂との接触面と反対の面(第2主面)を定盤に真空吸着させたうえで、キャリア基板の4箇所のコーナー部のうち1箇所のコーナー部における剥離性補助基板とシリコーン樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、剥離性補助基板とシリコーン樹脂層の界面に剥離のきっかけを与えた。次に、剥離性補助基板表面を24個の真空吸着パッドで吸着した上で、刃物を差し込んだコーナー部に近い吸着パッドから順に上昇させた。ここで刃物の差し込みは、イオナイザ(キーエンス社製)から除電性流体を当該界面に吹き付けながら行った。次に、形成した空隙へ向けてイオナイザからは引き続き除電性流体を吹き付けながら真空吸着パッドを引き上げた。その結果、定盤上に第1主面にシリコーン樹脂層が形成されたキャリア基板(樹脂層付きキャリア基板)のみを残し、剥離性補助基板を剥離することができた。このとき、剥離性補助基板のシリコーン樹脂層と密着していた面(第1主面)上に、シリコーン樹脂の付着は目視上見られなかった。なお、該結果より、樹脂層とキャリア基板の層との界面の剥離強度が、剥離性補助基板の層と樹脂層との界面の剥離強度よりも大きいことが確認された。
次に、樹脂層付きキャリア基板の周端部に付着したバリ状のシリコーン樹脂を高圧水により除去し、空気吹き付けにより付着水を除去した。次に、樹脂層付きキャリア基板のシリコーン樹脂層上に、シリコーン樹脂と接触させる側の面(第1主面)を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化したガラス基板A3を室温下で真空プレスにより貼り合わせ、ガラス積層体A2を得た。
さらに、ガラス積層体A2において、上記の硬化後積層体A1と同様の手順で樹脂層付きキャリア基板を剥離した。このとき、ガラス基板A3のシリコーン樹脂層と密着していた面(第1主面)上に、シリコーン樹脂の付着は目視上見られなかった。なお、該結果より、樹脂層とキャリア基板の層との界面の剥離強度が、ガラス基板の層と樹脂層との界面の剥離強度よりも大きいことが確認された。
【0132】
(実施例2)
補助基板、キャリア基板およびガラス基板として、ソーダライムガラスからなるガラス板を使用した以外は実施例1と同様の方法により、ガラス積層体B2を得た。なお、使用した補助基板、キャリア基板およびガラス基板の大きさは、実施例1で使用した補助基板、キャリア基板およびガラス基板の大きさと同じであった。
次に、実施例1と同様の方法により、ガラス積層体B2から樹脂層付きキャリア基板を剥離し、ソーダライムガラス基板B3を得た。このとき、ソーダライムガラス基板B3のシリコーン樹脂層と密着していた面(第1主面)上に、シリコーン樹脂の付着は目視上見られなかった。
【0133】
(実施例3)
補助基板、キャリア基板およびガラス基板として、化学強化されたガラス板からなるガラス板を使用した以外は実施例1と同様の方法により、ガラス積層体C2を得た。なお、使用した補助基板、キャリア基板およびガラス基板の大きさは、実施例1で使用した補助基板、キャリア基板およびガラス基板の大きさと同じであった。
次に、実施例1と同様の方法により、ガラス積層体C2から樹脂層付きキャリア基板を剥離し、化学強化されたガラス基板C3を得た。このとき、化学強化されたガラス基板C3のシリコーン樹脂層と密着していた面(第1主面)上に、シリコーン樹脂の付着は目視上見られなかった。
【0134】
(実施例4)
ガラス基板の第1主面上、すなわちシリコーン樹脂と接触させる側の面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度0.5W/cm
2)により、厚さ10nmの酸化インジウム錫の薄膜を形成し(シート抵抗300Ω/□)、該ガラス基板を使用した以外は実施例1と同様の方法により、ガラス積層体D2を得た。
次に、実施例1と同様の方法により、ガラス積層体D2から樹脂層付きキャリア基板を剥離し、第1主面に酸化インジウム錫の薄膜層が形成されたガラス基板D3を得た。このとき、ガラス基板D3のシリコーン樹脂層と密着していた面(第1主面)上に、シリコーン樹脂の付着は目視上見られなかった。
【0135】
(実施例5)
本例では、実施例1で得たガラス積層体A2を用いてOLEDを作製した。
より具体的には、ガラス積層体A2におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ゲート電極を設けたガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコン、真性アモルファスシリコン、n型アモルファスシリコンの順に成膜し、続いてスパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、ゲート絶縁膜、半導体素子部およびソース/ドレイン電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコンを成膜してパッシベーション層を形成した後に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜して、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、画素電極を形成した。
続いて、ガラス基板の第2主面側に、さらに蒸着法により正孔注入層として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq
3)に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq
3をこの順に成膜した。次に、ガラス基板の第2主面側にスパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成した。次に、対向電極を形成したガラス基板の第2主面上に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス基板を貼り合わせて封止した。上記手順によって得られた、ガラス基板上に有機EL構造体を有するガラス積層体A2は、キャリア基板付き表示装置用パネル(パネルA2)(電子デバイス用部材付き積層体)に該当する。
続いて、パネルA2の封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、パネルA2のコーナー部のガラス基板とシリコーン樹脂層との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、パネルA2から樹脂層付きキャリア基板を分離して、OLEDパネル(電子デバイスに該当。以下パネルAという)を得た。作製したパネルAにICドライバを接続し駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラは認められなかった。
【0136】
(実施例6)
本例では、実施例1で得たガラス積層体A2を用いてLCDを作製した。
ガラス積層体A2を2枚用意し、まず、片方のガラス積層体A2におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ゲート電極を設けたガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコン、真性アモルファスシリコン、n型アモルファスシリコンの順に成膜し、続いてスパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、ゲート絶縁膜、半導体素子部およびソース/ドレイン電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコンを成膜してパッシベーション層を形成した後に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、画素電極を形成した。次に、画素電極を形成したガラス基板の第2主面上に、ロールコート法によりポリイミド樹脂液を塗布し、熱硬化により配向層を形成し、ラビングを行った。得られたガラス積層体A2を、ガラス積層体A2−1と呼ぶ。
次に、もう片方のガラス積層体A2におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりクロムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより遮光層を形成した。次に、遮光層を設けたガラス基板の第2主面側に、さらにダイコート法によりカラーレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化によりカラーフィルタ層を形成した。次に、ガラス基板の第2主面側に、さらにスパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、対向電極を形成した。次に、対向電極を設けたガラス基板の第2主面上に、ダイコート法により紫外線硬化樹脂液を塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化により柱状スペーサを形成した。次に、柱状スペーサを形成したガラス基板の第2主面上に、ロールコート法によりポリイミド樹脂液を塗布し、熱硬化により配向層を形成し、ラビングを行った。次に、ガラス基板の第2主面側に、ディスペンサ法によりシール用樹脂液を枠状に描画し、枠内にディスペンサ法により液晶を滴下した後に、上述したガラス積層体A2−1を用いて、2枚のガラス積層体A2のガラス基板の第2主面側同士を貼り合わせ、紫外線硬化および熱硬化によりLCDパネルを有する積層体を得た。ここでのLCDパネルを有する積層体を以下、パネル付き積層体B2という。
次に、実施例1と同様にパネル付き積層体B2から両面の樹脂層付きキャリア基板を剥離し、TFTアレイを形成した基板およびカラーフィルタを形成した基板からなるLCDパネルB(電子デバイスに該当)を得た。
作製したLCDパネルBにICドライバを接続し駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラは認められなかった。
【0137】
(比較例1)
実施例1と同様に、キャリア基板の第1主面を純水洗浄、UV洗浄し、清浄化した。
次に、実施例1における、末端にビニル基を有する直鎖状オルガノアルケニルポリシロキサンと、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサンと、白金系触媒との混合液99.5質量部とシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、SH200)0.5質量部との混合物をキャリア基板の第1主面上にスクリーン印刷により塗布した。次に、これを250℃にて30分間大気中で加熱硬化して、厚さ10μmの硬化したシリコーン樹脂層を形成した。
続いて、ガラス基板の第1主面を純水洗浄、UV洗浄し、清浄化した後に、キャリア基板の第1主面上に形成したシリコーン樹脂層と室温下真空プレスにより密着させて、積層体P1を得た。
そして、積層体P1のガラス基板上に、実施例5と同様の手順によってOLEDを作製した後に樹脂層付きキャリア基板を剥離し、OLEDパネル(以下、パネルPという)を得た。
作製したパネルPにICドライバを接続し駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラが認められ、不良部は積層体P1の端部近傍に相当する部分に存在していた。
【0138】
(比較例2)
比較例1と同様の方法で、積層体P1を2枚得た。
次に、実施例6と同様の手順に従って、積層体P1を2枚使用して、LCDパネルを有する積層体を得た。さらに、得られた積層体から両面の樹脂層付きキャリア基板を剥離し、LCDパネル(以下パネルQという)を得た。
作製したパネルQにICドライバを接続し駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラが認められ、不良部は積層体P1の端部近傍に相当する部分に存在していた。
【0139】
上記実施例5および6に示すように、本発明の電子デバイスの製造方法によれば、歩留りよく性能に優れた電子デバイスを製造することができる。
一方、特許文献1に記載の従来の方法においては、上記比較例1および2に示すように、得られた電子デバイスの性能低下が起こる場合があった。比較例1および2においては、表示ムラが電子デバイスの端部(周縁部)付近に見られた。これは、上述したように、硬化処理によって得られた樹脂層(特に、樹脂層の外周縁近傍)に厚みムラによって、ガラス基板と樹脂層との間に空隙が生じ、その空隙に異物が入り込み電子デバイスの性能低下をもたらしたと考えられる。