(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートを意味する。また、「活性エネルギー線」は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、及び熱線(赤外線等)を意味する。
【0015】
本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、アルミニウム基材に陽極酸化処理を施し、アルミニウム基材の表面にナノインプリントに用いるナノ凹凸形状を形成する陽極酸化処理装置である。
本発明における「室温」とは、25℃のことである。
本発明における「電解液80mLに室温で450時間浸漬させた場合の金属の単位表面あたりの溶出量が0.2ppm/cm
2以下」とは、室温が25℃の時の電解液80mLに金属片を450時間浸漬させた場合の単位面積あたりの溶出量が前記範囲内であることを意味する。
【0016】
[ナノインプリント用モールドの製造装置]
図1は、本発明のナノインプリント用モールドの製造装置の一例を示す断面図である。
このナノインプリント用モールドの製造装置10は、電解液で満たされた陽極酸化槽12と、陽極酸化槽12の上部を覆い、陽極酸化槽12からオーバーフローした電解液を受けるための樋部14が周縁に形成された上部カバー16と、電解液を一旦貯留する貯留槽18と、樋部14で受けた電解液を貯留槽18へ流下させる流下流路20と、貯留槽18の電解液を、アルミニウム基材30よりも下側の、陽極酸化槽12の底部近傍に形成された供給口22へ返送する返送流路24と、返送流路24の途中に設けられたポンプ26と、供給口22から吐出された電解液の流れを調整する整流板28と、陽極となる中空円柱状のアルミニウム基材30に挿入され、中心軸32が水平に保持された軸心34と、軸心34の中心軸32(すなわちアルミニウム基材30の中心軸)を回転軸として軸心34及びアルミニウム基材30を回転させる駆動装置(図示略)と、アルミニウム基材30を挟んで対向配置された2枚の陰極板36と、軸心34の中心軸32及び2枚の陰極板36に電気的に接続された電源38と、貯留槽18の電解液の温度を調節する調温手段40とを有する。
【0017】
ポンプ26は、貯留槽18から返送流路24を通って陽極酸化槽12へ向かう電解液の流れを形成するとともに、供給口22から勢いを付けて電解液を吐出させることによって、陽極酸化槽12の底部から上部へ上昇する電解液の流れを形成するものである。
整流板28は、供給口22から吐出された電解液が陽極酸化槽12の底部全体からほぼ均一に上昇するように電解液の流れを調整する、2以上の貫通孔が形成された板状部材であり、表面が略水平となるようにアルミニウム基材30と供給口22との間に配置される。
駆動装置(図示略)は、リング状のチェーン又は、ギヤ等の部材(図示略)によって軸心34の中心軸32に接続されたモーター等である。
2枚の陰極板36は、アルミニウム基材30の中心軸に対して平行に配置され、かつアルミニウム基材30を水平方向から挟むように、アルミニウム基材30から間隙をあけて対向配置された金属板である。
調温手段40としては、水、又はオイル等を熱媒とした熱交換器、及び電気ヒータ等が挙げられる。
【0018】
従来、ナノインプリント用モールドの製造装置に備わる陽極酸化槽や熱交換器などの各部材の材質としては、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックが用いられていたが、耐久性に劣るという問題があった。また、例えば熱交換器の表面をプラスチックでコーティングした場合、熱交換効率や温度制御が低下するといった問題があった。
【0019】
また、耐食性を有するチタンなどの金属製の陽極酸化槽や熱交換器などの各部材を用いた場合であっても、繰り返し使用すると電解液に接触する部分が腐食するといった問題があった。電解液に接触する部分が腐食すると、電解液にチタンなどの金属が溶出し、電解液が着色しやすくなる。これは、溶出した金属が電解液の酸成分と錯体を形成することによるものと考えられる。
電解液が着色することは、得られるモールドに溶出した金属が付着し、モールドの汚染やナノインプリント時の異物混入の原因となる。
【0020】
さらに、電解液に金属が多量に溶出した場合、形成される陽極酸化皮膜が所望の形状とならない恐れがあることが、本発明者らの検討により明らかになっている。電解液への金属の溶出を抑制することにより、所望の形状の陽極酸化皮膜が形勢されたナノインプリントモールドを効率的に製造することが可能となる。また、モールド幅が広くなれば、前記モールドを製造する装置も大型となるために、金属性の各部材が電解液と接触する部分もより大きくなる。ナノインプリント用のモールドを安定的に生産する観点から、金属製の各部材に用いる金属材料からなる金属片を電解液80mLに浸漬した場合に溶出する溶出量が0.2ppm/cm
2以下であることが好ましく、0.1ppm/cm
2以下であることがより好ましい。溶出量が0.2ppm/cm
2よりも大きくなると、溶出した金属が陽極酸化皮膜の形成に悪影響を与える場合もある。さらに、溶出量が0.2ppm/cm
2よりも大きな金属製の各部材を含む装置により製造されたモールドを用いて転写された成型体から、金属の付着物等が検出される場合があり好ましくない。
【0021】
ナノインプリント用のモールドを安定的に生産する観点から、金属製の各部材から電解液80mLに溶出する溶出量は、0〜0.2ppm/cm
2が好ましく、0〜0.1ppm/cm
2がより好ましい。
【0022】
本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、例えば電解液としてシュウ酸を用いる場合、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質は、タンタル若しくはその合金、又はジルコニウム若しくはその合金が挙げられる。また、電解液として例えば硫酸を用いる場合、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質は、タンタル若しくはその合金、又はニオブ若しくはその合金が挙げられる。よって、本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、電解液に対する耐性に優れ、金属の溶出を抑制できる。
【0023】
一般的に、チタン、タンタル、ジルコニウム、及びニオブは耐酸性及び耐食性を有する材料とされているが、酸の種類などによってその耐性は大きく異なる。さらに、求められる性能は用いられる用途によっても異なり、特に陽極酸化によってナノインプリント用モールドを製造するような場合、モールドの形状を高度に制御し、精密な成型体を製造しなければならないため、一般的な耐酸性及び耐食性を有する材料ではその性能が不十分な場合がある。本発明者が鋭意検討した結果、陽極酸化によりナノインプリント用モールドを製造する場合には、特に所定の金属を用いることが好ましいこと、さらに、陽極酸化に用いる電解液の種類によっても好ましい金属が異なることが明らかとなった。
【0024】
本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が、上述した特定の物性を有する金属(以下、「特定金属」という。)又はその合金であればよいが、特に電解液に接触しやすい部分の部材は、特定金属又はその合金製であることが好ましい。
【0025】
すなわち、本発明の特定金属とは、電解液80mLに溶出する溶出量が0.2ppm/cm
2以下である金属である。例えば電解液としてシュウ酸を用いる場合、特定金属としては、タンタル又はジルコニウムが挙げられる。また、電解液として例えば硫酸を用いる場合、特定金属としては、タンタル又はニオブが挙げられる。
【0026】
ここで、「電解液に接触する部分」とは、例えば
図1に示す陽極酸化槽12、上部カバー16、貯留槽18、流下流路20、供給口22、返送流路24、及びポンプ26の内側や、整流板28、中心軸32、軸心34、陰極板36、及び調温手段40の側面が挙げられる。
特に、熱交換器などの調温手段40の電解液に接触する部分が、特定金属又はその合金により形成されていることが好ましい。調温手段40は電解液の温度を制御するために用いられているが、これらを樹脂により形成すると熱伝導率が悪く、電解液の濃度を精密に制御することが困難となる恐れがある。
【0027】
また、本発明においては、電解液に接触する部分において、他の材質からなる部材の表面を、特定金属又はその合金でコーティングして用いてもよい。コーティングする場合は、特定金属又はその合金からなる層の厚さが1μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上である。厚さが1μm以上であれば、電解液への金属の溶出を抑制する効果が持続されやすくなる。また、部材が傷ついても内部の材質が露出しにくい。
【0028】
合金として好ましいものは、前記特定金属の酸化物、又は前記特定金属にタングステン、ケイ素、及び炭素などの元素を必要量添加したものである。具体的には、酸化ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、ジルコン、タンタルタングステン、タンタルケイ素合金、炭化タンタル、ニオブケイ素合金、及びニオブ酸リチウムなどを例示できる。
【0029】
以上説明した本発明のナノインプリント用モールドの製造装置にあっては、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が特定金属又はその合金であるので、陽極酸化処理を行うに際して電解液への金属の溶出を抑制でき、電解液の着色を防止できる。
本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、表面に多孔質構造が形成されたナノインプリント用モールドを製造するための装置として好適であり、金属の付着が軽減されたナノインプリント用モールドを製造できる。また、金属が溶解した電解液では、所定の形状の陽極酸化皮膜を形成することが困難になる場合があるが、金属の電解液への溶出を抑制することで、所望の形状の陽極酸化皮膜を効率よく製造することができる。さらに、本発明のナノインプリント用モールドの製造装置により得られるナノインプリント用モールドは、汚染が少なく、ナノインプリント時の異物混入を抑制できる。
【0030】
また、本発明のナノインプリント用モールドの製造装置は、電解液に接触する部分の表面の材質に金属を用いるので、耐久性を確保できる。さらに、プラスチックでコーティングした場合に比べて熱交換器の熱交換率や温度制御にも優れるので、効率よくアルミニウム基材を陽極酸化処理できる。
【0031】
[ナノインプリント用モールドの製造方法]
本発明のナノインプリント用モールド(以下、単に「モールド」という。)の製造方法は、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が特定金属又はその合金であるナノインプリント用モールドの製造装置を用いてアルミニウム基材を電解液にて陽極酸化処理する。従って、電解液に対する耐性に優れ、金属の溶出を抑制できる。
【0032】
本発明のナノインプリント用モールドの製造方法は、アルミニウム基材を電解液にて陽極酸化処理し、前記アルミニウム基材の表面に2個以上の細孔を有する多孔質構造を形成することを含む製造方法であって、ここで前記陽極酸化処理は、少なくとも前記電解液に接触する部分の表面の材質が、電解液80mLに室温で450時間浸漬させた場合の金属の単位表面あたりの溶出量が0.2ppm/cm
2以下である金属又はその合金である装置内で行われる、前記製造方法である。
【0033】
本発明のモールドの製造方法は、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が特定金属又はその合金であるナノインプリント用モールドの製造装置を用いてアルミニウム基材を電解液にて陽極酸化処理すれば、他の工程については特に限定されないが、以下の工程(a)〜(f)を有するのが好ましい。
(a)アルミニウム基材を電解液中、定電圧下で陽極酸化してアルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、アルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)アルミニウム基材を電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)工程(d)の後、電解液中、再度陽極酸化する工程。
(f)工程(d)と工程(e)を繰り返し行い、2以上の細孔を有する陽極酸化アルミナがアルミニウム基材の表面に形成されたモールドを得る工程。
【0034】
以下、各工程について説明する。
なお、工程(a)、工程(c)、及び工程(e)において陽極酸化する際は、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が特定金属又はその合金であるナノインプリント用モールドの製造装置を用いる。
【0035】
工程(a):
図2に示すように、アルミニウム基材30を陽極酸化すると、細孔42を有する酸化皮膜44が形成される。
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、及びシート状等が挙げられる。
アルミニウム基材は、表面状態を平滑化にするために、機械研磨、羽布研磨、化学的研磨、及び電解研磨処理(エッチング処理)などで研磨されることが好ましい。また、アルミニウム基材は、所定の形状に加工する際に用いた油が付着していることがあるため、陽極酸化の前に予め脱脂処理されることが好ましい。
【0036】
アルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上が特に好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析によって可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
【0037】
電解液としては、シュウ酸、及び硫酸等の水溶液が挙げられる。
これら電解液は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
シュウ酸水溶液を電解液として用いる場合:
シュウ酸水溶液の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸水溶液の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、周期が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0039】
硫酸水溶液を電解液として用いる場合:
硫酸水溶液の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸水溶液の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、周期が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象がおこり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0040】
硫酸を電解液として用いる場合と比較して、シュウ酸を電解液として用いた場合、100nm以上の比較的大きい間隔で細孔が配列した陽極酸化アルミナを、容易に得ることができる。陽極酸化アルミナをモールドとして用いる場合、細孔間隔が小さいと離型性を確保することが困難となるために、シュウ酸を電解液として用いることが好ましい。
【0041】
工程(b):
図2に示すように、酸化皮膜44を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点46にすることで細孔の規則性を向上することができる。
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0042】
工程(c):
図2に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム基材30を再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔42を有する酸化皮膜44が形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0043】
工程(d):
図2に示すように、細孔42の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶解液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶解液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0044】
工程(d)においては、少なくとも溶解液に接触する部分の表面の材質が、上述した特定金属又はその合金である細孔径拡大処理装置を用いることが好ましい。このような装置を用いることにより、細孔径拡大処理時における溶解液への金属の溶出をも抑制できる。その結果、溶解液の着色やモールドへの金属の付着を防止できるので、モールドの汚染やナノインプリント時の異物混入をより効果的に抑制できる。
加えて、溶解液に接触する部分の材質に金属を用いるので、細孔径拡大処理装置の耐久性をも確保できる。
【0045】
工程(e):
図2に示すように、再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔42の底部から下に延びる、直径の小さい円柱状の細孔42がさらに形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0046】
工程(f):
図2に示すように、工程(d)の細孔径拡大処理と、工程(e)の陽極酸化を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔42を有する酸化皮膜44が形成され、アルミニウム基材30の表面に陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))を有するモールド本体48が得られる。最後は工程(d)で終わることが好ましい。
【0047】
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化アルミナを用いて形成された多孔質構造(モスアイ構造)の反射率低減効果は不十分である。
【0048】
細孔42の形状としては、略円錐形状、角錐形状、及び円柱形状等が挙げられ、円錐形状、及び角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
【0049】
細孔42間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔42間の平均間隔は、20nm以上が好ましい。
細孔42間の平均間隔の範囲は、20nm以上400nm以下が好ましく、50nm以上300nm以下がより好ましく、90nm以上250nm以下がさらに好ましい。
細孔42間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する細孔42間の間隔(細孔42の中心から隣接する細孔42の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0050】
細孔42の深さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。
細孔42の深さは、電子顕微鏡観察によって倍率30000倍で観察したときにおける、細孔42の最底部と、細孔42間に存在する凸部の最頂部との間の距離を測定した値である。
細孔42のアスペクト比(細孔の深さ/細孔間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。
【0051】
本発明においては、工程(f)にて得られたモールド本体48をそのままモールドとしてもよいが、モールド本体48の多孔質構造が形成された側の表面を離型剤で処理してもよい。
離型剤としては、アルミニウム基材の陽極酸化アルミナと化学結合を形成し得る官能基を有するものが好ましい。具体的には、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、及びフッ素化合物等が挙げられ、離型性に優れる点、及びモールド本体との密着性に優れる点から、シラノール基あるいは加水分解性シリル基を有することが好ましく、その中でも加水分解性シリル基を有するフッ素化合物が特に好ましい。
加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の市販品としては、フルオロアルキルシラン、KBM−7803(信越化学工業株式会社製)、「オプツール」シリーズ(ダイキン工業株式会社製)、及びノベックEGC−1720(住友スリーエム株式会社製)等が挙げられる。
【0052】
離型剤による処理方法としては、下記の方法(I)、及び方法(II)が挙げられ、モールド本体の多孔質構造が形成された側の表面をムラなく離型剤で処理できる点から、方法(I)が特に好ましい。
(I)離型剤の希釈溶液にモールド本体を浸漬する方法。
(II)離型剤又はその希釈溶液を、モールド本体の多孔質構造が形成された側の表面に塗布する方法。
【0053】
方法(I)としては、下記の工程(g)〜(l)を有する方法が好ましい。
(g)モールド本体を水洗する工程。
(h)モールド本体にエアーを吹き付け、モールド本体の表面に付着した水滴を除去する工程。
(i)加水分解性シリル基を有するフッ素化合物を溶媒で希釈した希釈溶液に、モールド本体を浸漬する工程。
(j)浸漬したモールド本体をゆっくりと溶液から引き上げる工程。
(k)必要に応じて、工程(j)よりも後段にて、モールド本体を加熱加湿させる工程。
(l)モールド本体を乾燥させる工程。
【0054】
工程(g):
モールド本体には、多孔質構造を形成する際に用いた薬剤(細孔径拡大処理に用いたリン酸水溶液等)、及び不純物(埃等)等が付着しているため、水洗によってこれを除去する。
【0055】
工程(h):
モールド本体にエアーを吹き付け、目に見える水滴はほぼ除去する。
【0056】
工程(i):
希釈用の溶媒としては、フッ素系溶媒、及びアルコール系溶媒等の公知の溶媒を用いればよい。中でも、適度な揮発性、及び濡れ性等を有するため、外部離型剤溶液を均一に塗布できる点で、フッ素系溶媒が好ましい。フッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロポリエーテル、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、及びジクロロペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の濃度は、希釈溶液(100質量%)中、0.01〜0.2質量%が好ましい。
浸漬時間は、1〜30分間が好ましい。
浸漬温度は、0〜50℃が好ましい。
【0057】
工程(j):
浸漬したモールド本体を溶液から引き上げる際には、電動引き上げ機等を用いて、一定速度で引き上げ、引き上げ時の揺動を抑えることが好ましい。これにより塗布ムラを少なくできる。
引き上げ速度は、1〜10mm/秒が好ましい。
【0058】
工程(k):
工程(j)よりも後段にてモールド本体を加熱加湿下に放置することによって、フッ素化合物(離型剤)の加水分解性シリル基が加水分解されてシラノール基が生成され、前記シラノール基とモールド本体の表面の水酸基との反応が十分に進行し、フッ素化合物の定着性が向上する。
加熱温度は、40〜100℃が好ましい。
加湿条件は、相対湿度85%以上が好ましい。
放置時間は、10分間〜1日が好ましい。
【0059】
工程(l):
モールド本体を乾燥させる工程では、モールド本体を風乾させてもよく、乾燥機等で強制的に加熱乾燥させてもよい。
乾燥温度は、30〜150℃が好ましい。
乾燥時間は、5〜300分間が好ましい。
【0060】
モールド本体の表面が離型剤で処理されたことは、モールド本体の表面の水接触角を測定することによって確認できる。離型剤で処理されたモールド本体の表面の水接触角は、60°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。水接触角が60°以上であれば、モールド本体の表面が離型剤で十分に処理され、離型性が良好となる。
【0061】
以上説明した本発明のモールドの製造方法にあっては、少なくとも電解液に接触する部分の表面の材質が特定金属又はその合金であるナノインプリント用モールドの製造装置を用いるので、陽極酸化処理を行うに際して電解液への金属の溶出を抑制できる。よって、電解液の着色やモールドへの金属の付着を防止できるので、モールドの汚染やナノインプリント時の異物混入を抑制できる。
【0062】
また、本発明によれば、電解液に接触する部分の表面の材質に金属を用いるので、ナノインプリント用モールドの製造装置の耐久性を確保できる。さらに、プラスチックでコーティングした場合に比べて熱交換器の熱交換率や温度制御にも優れるので、所望の形状の陽極酸化アルミナが形成されたナノインプリント用モールドを効率よく製造することができる。
【0063】
[多孔質構造を表面に有する物品]
多孔質構造を表面に有する物品は、例えば、
図3に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
表面に多孔質構造(図示略)を有するロール状モールド50と、ロール状モールド50の表面に沿って移動する帯状のフィルム72との間に、タンク52から活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を供給する。
【0064】
ロール状モールド50と、空気圧シリンダ54によってニップ圧が調整されたニップロール56との間で、フィルム72及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物をニップし、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、フィルム72とロール状モールド50との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールド50の多孔質構造の凹部内に充填する。
【0065】
ロール状モールド50の下方に設置された活性エネルギー線照射装置58から、フィルム72を通して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に活性エネルギー線を照射し、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、ロール状モールド50の表面の多孔質構造が転写された硬化樹脂層74を形成する。
剥離ロール60により、表面に硬化樹脂層74が形成されたフィルム72をロール状モールド50から剥離することによって、
図4に示すような物品70を得る。
【0066】
活性エネルギー線照射装置58としては、高圧水銀ランプ、及びメタルハライドランプ等が好ましく、この場合の光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cm
2が好ましい。
【0067】
フィルム72は、光透過性フィルムである。フィルムの材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ポリエステル、セルロース系樹脂(トリアセチルセルロース等)、ポリオレフィン、及び脂環式ポリオレフィン等が挙げられる。
【0068】
硬化樹脂層74は、後述の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる膜であり、表面に多孔質構造を有する。
陽極酸化アルミナのモールドを用いた場合の物品70の表面の多孔質構造は、陽極酸化アルミナの表面の多孔質構造を転写して形成されたものであり、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなる2以上の凸部76を有する。
【0069】
多孔質構造としては、略円錐形状、又は角錐形状等の突起(凸部)が2以上並んだ、いわゆるモスアイ構造が好ましい。突起間の間隔が可視光の波長以下であるモスアイ構造は、空気の屈折率から材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0070】
凸部間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下が好ましい。本発明のモールドを用いて凸部を形成した場合、凸部間の平均間隔は100nm程度となることから、200nm以下がより好ましく、150nm以下が特に好ましい。
【0071】
凸部間の平均間隔は、凸部の形成のしやすさの点から、20nm以上が好ましい。
凸部間の平均間隔の範囲は、20〜400nmが好ましく、50〜300nmがより好ましく、90〜250nmがさらに好ましい。
凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する凸部間の間隔(凸部の中心から隣接する凸部の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0072】
凸部の高さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。凸部の高さが80nm以上であれば、反射率が十分低くなり、かつ反射率の波長依存性が少ない。凸部の高さが500nm以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
凸部の高さは、電子顕微鏡によって倍率30000倍で観察したときにおける、凸部の最頂部と、凸部間に存在する凹部の最低部との間の距離を測定した値である。
【0073】
凸部のアスペクト比(凸部の高さ/凸部間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。凸部のアスペクト比が1.0以上であれば、反射率が十分に低くなる。凸部のアスペクト比が5.0以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
【0074】
凸部の形状は、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、及び釣鐘型等の形状が好ましい。
【0075】
硬化樹脂層74の屈折率とフィルム72の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2以下であれば、硬化樹脂層74とフィルム72との界面における反射が抑えられる。
【0076】
表面に多孔質構造を有する場合、その表面が疎水性の材料から形成されていればロータス効果により超撥水性が得られ、その表面が親水性の材料から形成されていれば超親水性が得られることが知られている。
【0077】
硬化樹脂層74の材料が疎水性の場合の多孔質構造の表面の水接触角は、90°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、120°以上が特に好ましい。水接触角が90°以上であれば、水汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。また、水が付着しにくいため、着氷防止を期待できる。
硬化樹脂層74の材料が疎水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角の範囲は、90゜以上180゜以下が好ましく、110゜以上180゜以下がより好ましく、120゜以上180゜以下が特に好ましい。
【0078】
硬化樹脂層74の材料が親水性の場合の多孔質構造の表面の水接触角は、25°以下が好ましく、23°以下がより好ましく、21°以下が特に好ましい。水接触角が25°以下であれば、表面に付着した汚れが水で洗い流され、また油汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。前記水接触角は、硬化樹脂層74の吸水による多孔質構造の変形、それに伴う反射率の上昇を抑える点から、3°以上が好ましい。
硬化樹脂層74の材料が親水性の場合の、微細凹凸構造の表面の水接触角の範囲は、3゜以上30゜以下が好ましく、3゜以上23゜以下がより好ましく、3゜以上21゜以下が特に好ましい。
【0079】
(活性エネルギー線硬化性樹脂組成物)
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、重合性化合物及び重合開始剤を含む。
重合性化合物としては公知の化合物を用いることができるが、例えば分子中にラジカル重合性結合及び/又はカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、及び反応性ポリマー等が挙げられる。また、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、非反応性のポリマー、及び活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物を含んでいてもよい。
一方、重合開始剤としては、公知の光重合開始剤、熱重合開始剤、及び電子線硬化反応を利用する重合開始剤などが挙げられる。
【0080】
なお、硬化樹脂層74の多孔質構造の表面の水接触角を90°以上にするためには、疎水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、フッ素含有化合物又はシリコーン系化合物を含む組成物を用いることが好ましい。
【0081】
また、硬化樹脂層74の多孔質構造の表面の水接触角を25°以下にするためには、親水性の材料を形成し得る活性エネルギー線硬化性樹脂組成物として、少なくとも親水性モノマーを含む組成物を用いることが好ましい。また、耐擦傷性や耐水性付与の観点からは、架橋可能な多官能モノマーを含むものがより好ましい。なお、親水性モノマーと架橋可能な多官能モノマーは、同一(すなわち、親水性多官能モノマー)であってもよい。さらに、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、その他のモノマーを含んでいてもよい。
【0082】
[用途]
物品70の用途としては、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、及び撥水性物品、より具体的にはディスプレー用反射防止、自動車メーターカバー、自動車ミラー、自動車窓、有機又は無機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上部材、及び太陽電池部材等が挙げられる。
なお、多孔質構造を表面に有する物品は、図示例の物品70に限定はされない。例えば、多孔質構造は、硬化樹脂層74を設けることなくフィルム72の表面に直接形成されていてもよい。ただし、ロール状モールド50を用いて効率よく多孔質構造を形成できる点から、硬化樹脂層74の表面に多孔質構造が形成されていることが好ましい。
【実施例】
【0083】
[試験例]
以下、試験例について説明する。
以下の試験例1−1〜1−4、2−1〜2−4では、ナノインプリント用モールドの製造装置に備わる陽極酸化槽や熱交換器などの各部材の材質となる金属の電解液に対する耐性や、細孔径拡大処理装置に備わる各部材の材質となる金属の溶解液に対する耐性を確認するため、一般的に耐食性を有するとされるタンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)とニオブ(Nb)を用い、電解液又は溶解液(以下、これらを総称して「処理液」という。)に浸漬させたときに、処理液中に溶出した金属濃度を測定した。
【0084】
なお、本試験例では、陽極酸化処理に用いる電解液としてシュウ酸水溶液を、細孔径拡大処理に用いる溶解液としてリン酸水溶液を用いた。これらの濃度は、実際の陽極酸化処理や細孔径拡大処理に用いる場合の濃度でよく、シュウ酸水溶液の濃度を2.7質量%、硫酸水溶液を15質量%に調整した。
また、処理液へ金属片を浸漬する際は、処理液の温度が高い方が金属の溶出促進効果が高いが、本試験例では室温で行った。ここで、「室温」とは25℃のことである。
また、金属濃度の測定には、高感度で短時間に精度よく測定できるICP発光分光質量分析装置(高周波誘導結合質量分析装置)を用いた。
【0085】
<試験例1−1>
処理液として2.7質量%のシュウ酸水溶液に、タンタル単体の試験片(5.0cm×2.5cm、厚み1mm)を室温で450時間浸漬した。その後、処理液から金属片を取り出し、以下のようにして処理液中に溶出した金属濃度を測定した。
まず、金属片を取り出した後の処理液を1mL採取し、50mLのメスフラスコに移して純水で50mLに希釈し、測定用試料を調製した。
ついで、ICP発光分光質量分析装置としてCID高周波プラズマ発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、「IRIS Advantage AP」)を用い、各金属において最も感度のよい波長を選択し、測定用試料中の金属濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0086】
<試験例1−2〜1−4(表1中実施例1〜4)、2−1〜2−4(表1中比較例1〜4)>
処理液及び金属の種類を表1に示すように変更した以外は、試験例1−1と同様にして測定用試料を調製し、金属濃度を測定した。なお、硫酸水溶液としては、15質量%の硫酸水溶液を用いた。その結果を表1に示す。なお、表1の溶出量の“−”は、金属が検出限界以下の濃度であったことを示している。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から明らかなように、シュウ酸水溶液に対しては、タンタル、及びジルコニウムの単位面積当たりの溶出量が0.2ppm以下と少ないことが明らかになった。また、硫酸水溶液に対しては、ニオブ、及びジルコニウムの単位面積当たりの溶出量が0.2ppm以下と少ないことが明らかになった。
よって、電解液としてシュウ酸を用いるナノインプリント用モールドの製造装置において、電解液に接触する部分の材質としてタンタルやジルコニウムが好適であり、陽極酸化処理を行うに際して電解液への金属の溶出を抑制できることが推測できる。また、電解液として硫酸を用いるナノインプリント用モールドの製造装置において、電解液に接触する部分の材質としてタンタルやニオブが好適であり、陽極酸化処理を行うに際して電解液への金属の溶出を抑制できることが推測できる。
【0089】
ニオブ、及びチタンはシュウ酸液中の金属濃度が高く、金属が処理液に溶出しやすかった。同様に、ジルコニウム、及びチタンは硫酸液中の金属濃度が高く、金属が溶出しやすかった。
よって、チタンやニオブは、シュウ酸を電解液として用いて陽極酸化処理を行うナノインプリントモールドの製造装置において電解液に接触する部分の材質としては不向きである。また、チタンやジルコニウムは、硫酸を電解液として用いて陽極酸化処理を行うナノインプリントモールドの製造装置において電解液に接触する部分の材質としては不向きである。
実際に、上記の金属片を浸漬したシュウ酸溶液を2.7質量%のシュウ酸溶液で3倍に希釈した溶液を電解液として用いて、アルミニウムの陽極酸化を行った。
【0090】
アルミニウム基材として、50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度99.99%)を、過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨した。
前記アルミニウム板について、それぞれの金属片を浸漬したシュウ酸水溶液を2.7質量%のシュウ酸溶液で3倍に希釈した電解液で、直流40V、温度16℃の条件で6時間陽極酸化を行った。陽極酸化処理後の極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM−7400F」)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて断面を観察し、酸化皮膜の厚みを測定した(
図5)。
【0091】
図5に示すように、タンタル、又はジルコニウムを浸漬したシュウ酸溶液を用いた陽極酸化アルミナは、調整直後のシュウ酸溶液を用いて陽極酸化を行った場合とほぼ同じであった。チタンを浸漬したシュウ酸水溶液を用いた陽極酸化アルミナは、調整直後のシュウ酸水溶液を用いた場合と比較して陽極酸化皮膜が薄く、所望の形状及び厚みの陽極酸化皮膜を形成することが出来なかった。ニオブを浸漬したシュウ酸水溶液には、ニオブの浮遊物が確認され、陽極酸化アルミナ上にその浮遊物が付着していた。
【0092】
ナノインプリント用モールドの製造装置の熱交換器をチタンで作製し、以下のようにしてモールドを製造した。
【0093】
[試験例3]
アルミニウム基材として、50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度99.99%)を、過塩素酸/エタノール混合溶液(1/4体積比)中で電解研磨したものを用いた。
工程(a):
前記アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で6時間陽極酸化を行った。
工程(b):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に3時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
工程(c):
前記アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム板を、32℃の5質量%リン酸水溶液に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):
前記アルミニウム板について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(f):
前記工程(d)及び工程(e)を合計で4回繰り返し、最後に工程(d)を行い、平均間隔:100nm、深さ:240nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたモールド本体を得た。
【0094】
工程(g):
シャワーを用いてモールド本体の表面のリン酸水溶液を軽く洗い流した後、モールド本体を流水中に10分間浸漬した。
工程(h):
モールド本体にエアーガンからエアーを吹き付け、モールド本体の表面に付着した水滴を除去した。
工程(i):
オプツールDSX(ダイキン化成品販売株式会社製)を希釈剤HD−ZV(株式会社ハーベス製)で0.1質量%に希釈した溶液に、モールド本体を室温で10分間浸漬した。
工程(j):
モールド本体を希釈溶液から3mm/秒でゆっくりと引き上げた。
工程(l):
モールド本体を15分間風乾して、離型剤で処理されたモールドを得た。
【0095】
なお、工程(a)、工程(c)、及び工程(e)では、チタンで作製した熱交換器を備えたナノインプリント用モールドの製造装置を用いて陽極酸化処理を行った。
また、モールドの細孔については、以下のようにして測定した。
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM−7400F」)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて断面を観察し、細孔の間隔及び細孔の深さを測定した。各測定は、それぞれ50点について行い、平均値を求めた。
【0096】
試験例3の場合、モールドを製造した後の電解液(シュウ酸水溶液)を確認したところ、黄変していた。電解液中のチタン濃度を試験例1−1と同様にして測定したところ、0.4ppmであった。黄変の原因は、電解液にチタンが溶出し、シュウ酸と錯体を形成したためと考えられる。
また、得られたモールドを用いてナノインプリントを行ったところ、転写したフィルム表面からチタンを含む異物が検出された。