(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の深紫外線用光学部材は、ハロゲン元素を実質的に含有せず、最大OH含有量が10質量ppm未満であり、ODC(酸素欠乏型欠陥)およびEプライムセンター(Si・)の含有量がともに1×10
14cm
−3未満であり、SiHおよび酸素過剰型欠陥を実質的に含有せず、仮想温度が1050℃以下の合成石英ガラスからなる。
なお、本明細書におけるODC(酸素欠乏型欠陥)は、ODC(I)(≡Si−Si≡)、ODC(II)(O=Si:)のいずれか、あるいはこれらの両方を含む。
【0018】
上述したように、合成石英ガラスがフッ素元素を含有する場合、脈理や屈折率分布といった光学特性上好ましくない現象が起こる。また、深紫外線を照射するにしたがって一部のフッ素が遊離し、表面からエッチング性の高いF
2として放出され、該合成石英ガラスを光学部材として使用する露光装置に悪影響を及ぼす。特にフッ素原子の近傍に、OH基やH
2分子が存在する場合、HF分子を生成し、Eプライムセンターなどの欠陥が生じやすくなるため好ましくない。
一方、合成石英ガラスが塩素元素を含有すると、深紫外線透過率が低下するだけではなく、深紫外線照射にしたがって透過率の低下や屈折率変動が起こる等、深紫外線耐性の低下の原因ともなるので好ましくない。特に塩素原子の近傍に、OH基やH
2分子が存在する場合、HCl分子を生成し、Eプライムセンターなどの欠陥が生じやすくなるため好ましくない。
【0019】
本発明の深紫外線用光学部材では、合成石英ガラスがこれらハロゲン元素を実質的に含有しないため、上記の問題点が解消されている。
ここで合成石英ガラスが、ハロゲン元素を実質的に含有しないとは、後述する各ハロゲン元素の検出方法において測定した場合のハロゲン元素の含有量が検出限界以下であることを意味する。なお、ハロゲン元素の検出方法として、フッ素および塩素の検出方法のみを示すが、他のハロゲン元素については、後述する方法で合成石英ガラスを製造する限り実質的に含有されることはない。
【0020】
上述したように、本願発明者らは、合成石英ガラス中のOH基含有量を低減することで、深紫外線照射に伴うコンパクションを低減することができることを見出した。なお、合成石英ガラス中のOH基含有量を低減することにより、深紫外線照射によるコンパクションが低減されるのは以下の理由によると考えられる。
下記式(3)、(4)に示すように、OH基の近傍に別のOH基、またはSiHが存在する場合、深紫外線照射によってH
2O分子とSi−O−Si結合、またはSi−Si結合が生成し、新たな架橋が生じることで緻密化する。
Si−OH + Si−OH → Si−O−Si + H
2O (3)
Si−OH + SiH → Si−Si + H
2O (4)
従って、コンパクションの低減にはOH基含有量の低減が有効である。なお、式(4)から明らかなように、SiHの低減もコンパクションの低減に有効である。
【0021】
但し、上述した深紫外線照射によるコンパクションの低減効果が発揮されるためには、単に合成石英ガラス中のOH基含有量を低減するだけではなく、該合成石英ガラスのODC含有量が1×10
14cm
−3未満であり、かつ、SiHおよびハロゲン元素を実質的に含有していないことも必要となる。
【0022】
合成石英ガラスがハロゲン元素を含有する場合、下記式(5)に示すように、ハロゲン元素の近傍にH
2分子が存在すると、Eプライムセンターなどの欠陥生成の原因となるハロゲン化水素とともに、コンパクションに悪影響を及ぼすSiHを生成するので、上述した深紫外線照射に伴うコンパクションの低減効果が発揮されない。
SiX + H
2 → SiH + HX (Xはハロゲン元素) (5)
【0023】
また、合成石英ガラス中にODCを1×10
14cm
−3以上含有する場合、新たな架橋を生じることで緻密化する。この現象については、以下のように説明される。
深紫外線の光子を同時に2個吸収する(二光子吸収)場合、またはバンドギャップ中のエネルギー準位に捕獲されている電子あるいは正孔が1個の光子を吸収する場合、電子正孔対が生成する。そのうちの正孔が近傍のODCに捕獲される場合、下記式(6)に示すようにEプライムセンターを生成する。生成したEプライムセンターはその近傍のSi−O−Si結合や、Si−OHなどの終端基と反応し、ネットワーク構造を変化させ、コンパクションを生じさせる。
Si−Si + h
+ → Si・ + Si
+ (6)
またさらには、捕獲されなかった電子により、ガラスのネットワーク中に電荷の偏りが生じ、この電荷の偏在が局所的なひずみを誘発することがある。このひずみが近傍のSi−Oの結合強度を低下させ、レーザー照射によりEプライムセンターやNBOHCなどの常磁性欠陥が生じやすくなる。これら常磁性欠陥は深紫外線の吸収率を上昇させるため、特に露光装置用光学石英ガラスにおいては極めて好ましくない。またさらにはこれら常磁性欠陥が隣接する結合手と結合することにより、合成石英ガラスのネットワーク構造を変化させ、コンパクションを引き起こす恐れがある。
【0024】
このような理由により、合成石英ガラス中にハロゲン元素やSiHを含有する場合や、合成石英ガラス中にODCを1×10
14cm
−3以上含有する場合は、OH基含有量の低減によるコンパクションの低減効果が相殺され発揮されない。
【0025】
(OH基)
本発明の深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラス中の最大OH基含有量は10質量ppm未満である。ここで、最大OH基含有量とは、通常ばらつきが存在する合成石英ガラス中のOH基含有量における最大値を指す。合成石英ガラス中の最大OH基含有量を10質量ppm未満とする理由は、上述した深紫外線照射に伴うコンパクション低減効果を発揮するうえで好ましいことに加えて、合成石英ガラス中の最大OH基含有量が10質量ppm以上の場合は該合成石英ガラス中に酸素過剰型欠陥が生成するおそれがあるからである。上述したように、合成石英ガラス中に酸素過剰型欠陥が存在すると、深紫外線照射時に非架橋型酸素ラジカル(NBOHC)を生じさせ、コンパクションの増加などによって合成石英ガラスの光学特性に悪影響を及ぼすおそれがあることから好ましくない。
合成石英ガラス中の最大OH基含有量は8質量ppm以下が好ましく、5質量ppm以下がより好ましく、4質量ppm以下が特に好ましい。
但し、OH基含有量を過度に低減すると、ODCなどの還元性欠陥の生成を抑制することが極めて困難となること、さらには、合成石英ガラス中のOH基含有量が少ないほど、ガラスの粘性が高まりガラスの結合ネットワークの歪んだ構造が緩和しにくくなるため、合成石英ガラス中の最大OH基含有量は1質量ppm以上であることが好ましい。
【0026】
(OH基含有量のばらつき)
深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラス中のOH基含有量のばらつきが大きいと、深紫外線用光学部材の光学特性、具体的には、屈折率の均一性、および、複屈折に影響を及ぼすため、合成石英ガラス中のOH基含有量のばらつきが小さいことが好ましい。
本発明の深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラス中のOH基含有量のばらつきは5質量ppm以下であることが好ましく、3質量ppm以下がより好ましく、1質量ppm以下がさらに好ましい。
【0027】
(還元性欠陥)
本発明の深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスにおける還元性欠陥、すなわち、ODC、Eプライムセンター、および、SiHの含有量は以下の通りである。
該合成石英ガラスにおけるODCおよびEプライムセンターの含有量はともに1×10
14cm
−3未満であり、SiHは実質的に含有しない。
【0028】
Eプライムセンターは波長215nmに吸収中心を持っているため、合成石英ガラス中にEプライムセンターが1×10
14cm
−3以上存在すると深紫外線の透過率が低下する。また、合成石英ガラス中にEプライムセンターが1×10
14cm
−3以上存在すると深紫外線照射時に隣接する結合手と結合することにより、合成石英ガラスのネットワーク構造を変化させ、コンパクションの増加などによって合成石英ガラスの光学特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
Eプライムセンターの含有量は、1×10
13cm
−3未満が好ましく、5×10
12cm
−3未満がより好ましい。
【0029】
合成石英ガラス中にODCが1×10
14cm
−3以上存在すると深紫外線照射時にODCからEプライムセンターが生成され、上述した深紫外線透過率の低下やコンパクション発生などの問題を生じる。また、合成石英ガラス中にODCが1×10
14cm
−3以上存在すると深紫外線照射時に二光子吸収を引き起こすため、それに由来する透過率の低下は、深紫外線の照射フルエンスに依存し、照射フルエンスが大きい場合に顕著な問題となる。
ODCの含有量は、1×10
13cm
−3未満が好ましく、5×10
12cm
−3未満がより好ましい。
【0030】
合成石英ガラス中にSiHが存在すると深紫外線照射時にSiHからEプライムセンターが生成され、上述した深紫外線透過率の低下やコンパクション発生などの問題を生じる。また、合成石英ガラス中にSiHが存在すると、深紫外線照射時に二光子吸収を引き起こすため、それに由来する透過率の低下は、深紫外線の照射フルエンスに依存し、照射フルエンスが大きい場合に顕著な問題となる。
SiHの含有量は、後述するようにラマン散乱法による半定量評価を行うが、その検出下限を下回る場合にSiHを実質的に含有しないとみなす。
【0031】
(酸素過剰型欠陥)
上述したように、酸素過剰型欠陥は深紫外線の照射により解離しNBOHCが生成するが、本発明の深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラス中の最大OH基含有量が10質量ppm未満であることにより、該合成石英ガラス中に酸素過剰型欠陥が生成することが防止される。この結果、本発明の深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスは、酸素過剰型欠陥を実質的に含有しない。
酸素過剰型欠陥の含有量は、後述するように赤外分光光度計により測定するが、その検出下限を下回る場合に酸素過剰型欠陥を実質的に含有しないとみなす。
【0032】
(仮想温度)
本発明の深紫外線用光学部材は、該深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスの仮想温度が1050℃以下である。
合成石英ガラスの仮想温度が1050℃超だと、ガラスの結合ネットワーク中に歪んだ構造である、3員環や4員環が多く含まれるため、深紫外線照射に対する耐久性が不十分となる。合成石英ガラスの仮想温度は1040℃以下が好ましく、1020℃以下がより好ましい。
また、屈折率の均質性を高めるために、仮想温度のばらつきが5℃以下であることが好ましい。3℃以下がより好ましく、1℃以下がより好ましい。
【0033】
(金属不純物)
本発明の深紫外線用光学部材において、該深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラス中のLi、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Mo、Ag、Cd、Sn、Ce、Pbなどの金属不純物は、深紫外線透過率を低下させるだけでなく、深紫外線照射に対する耐久性を低下させる原因ともなるため、その含有量は可能な限り少ない方が好ましい。具体的には、合成石英ガラス中の上記22元素の金属不純物の合計含有量が、20質量ppb以下であることが好ましく、5質量ppb以下がより好ましく、1質量ppb以下がさらに好ましい。
【0034】
本発明の深紫外線用光学部材は、該深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスが、上記の組成であることにより、深紫外線透過率に優れており、かつ、深紫外線照射による透過率の低下が防止されている。具体的には、深紫外線透過率を測定した場合に、波長193nmに対する1cm光路長あたりの初期透過率が99.75%以上であることが好ましく、99.77%以上であることがより好ましく、99.80%以上がさらに好ましく、99.83%以上がもっとも好ましい。
【0035】
また、例えば193nm、0.5mJ・cm
−2・パルス
−1、20ns、4kHzの直線偏光深紫外線パルスレーザを1×10
10パルス照射後の、波長193nmに対する1cm光路長あたりの透過率は99.40%以上であることが好ましく、99.48%以上であることがより好ましく、99.57%以上がさらに好ましく、99.66%以上がもっとも好ましい。
【0036】
さらに、本発明の深紫外線用光学部材は、該深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスが上述の組成であることにより、直線偏光深紫外線パルスレーザ照射に伴うコンパクションが軽減されている。具体的には、上記照射条件での直線偏光深紫外線パルスレーザ照射に伴うコンパクションを測定した場合に、コンパクションが300ppb以下であることが好ましく、200ppb以下がより好ましく、100ppb以下がさらに好ましい。
【0037】
さらに、本発明の深紫外線用光学部材は、該深紫外線用光学部材を構成する合成石英ガラスが上述の組成であることにより、直線偏光深紫外線パルスレーザ照射に伴う偏光誘起複屈折率(PIB)が軽減されている。具体的には、上記照射条件での直線偏光深紫外線パルスレーザ照射に伴うPIBを測定した場合に、PIBが0.3nm・cm
−1以下であることが好ましく、0.2nm・cm
−1以下がより好ましく、0.1nm・cm
−1以下がさらに好ましい。
【0038】
次に、本発明の深紫外線用光学部材の製造方法について述べる。
【0039】
多孔質合成石英ガラス体の原料として使用するケイ素化合物は、ガス化可能であれば特に制限されるものではないが、SiCl
4、SiHCl
3、SiH
2Cl
2、Si(CH
3)Cl
3等の塩化物、SiF
4、SiHF
3、SiH
2F
2等のフッ化物が作業性やコストの面から好ましい。
【0040】
多孔質合成石英ガラス体は、これらのケイ素化合物を酸水素炎中に導入して火炎加水分解させ、合成された合成石英ガラス微粒子を基材上に堆積させ、成長させることにより合成される。この合成石英ガラス微粒子が堆積される基材は、合成される多孔質合成石英ガラス体のかさ密度のばらつきを小さくするため、回転させることが好ましい。基材の回転速度は合成石英ガラス微粒子の堆積速度にもよるが、典型的には0.1〜10rpmの範囲である。
本発明の深紫外線用光学部材の製造方法では、上記の手順で合成される多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度が0.33g・cm
−3以上である。上記した多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度は、合成直後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度を指す。
【0041】
上記の手順で合成される多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度を高くするには、基材上に合成石英ガラス微粒子を堆積させ、成長させる際に、多孔質合成石英ガラス体の成長面の表面温度を高くすればよい。多孔質合成石英ガラス体の成長面の表面温度を高くするには、酸水素炎の温度を高くすればよい。酸水素炎の温度を高くするには、バーナーに供給する燃焼ガスを増加させればよい。
ただし、単純に多孔質合成石英ガラス体の成長面の表面温度を高くした場合、該成長面での熱泳動効果が低下し、基材上に合成石英ガラス微粒子を堆積させることができなくなり、多孔質合成石英ガラス体を合成できなくなる。このため、成長面での熱泳動効果の低下を防止するため、該成長面の表面温度を高く均一な温度に保ちつつ、該成長面の表面温度よりも更に高い火炎温度にする必要がある。
【0042】
多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度を0.33g・cm
−3以上とすることにより、該多孔質合成石英ガラス体に十分な機械的強度を付与し、その取り扱いを容易にすることができると共に、後述する熱処理において、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量の低減およびOH基含有量のばらつきの低減を効果的に行うことができる。
多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度は、0.35g・cm
−3以上がより好ましく、0.37g・cm
−3以上がさらに好ましい。
なお、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量のばらつきの低減という観点では、多孔質合成石英ガラス体中のかさ密度のばらつきが小さいことが好ましい。ただし、かさ密度のばらつきを求める際に多孔質合成石英ガラス体の最表面から深さ50mm以内の領域を除く領域を対象とする。多孔質合成石英ガラス体中のかさ密度のばらつきは、0.1g・cm
−3以下であることが好ましく、0.05g・cm
−3以下であることがより好ましい。
【0043】
なお、上記の手順で得られる多孔質合成石英ガラス体は比較的脆いので予備焼成される。予備焼成は、典型的には大気雰囲気下、1300〜1400℃程度で数時間焼成することにより行われる。
【0044】
次いで、上記の手順で得られた多孔質合成石英ガラス体に対して、圧力1×10
−2Pa以下の真空中で、1050〜1250℃の温度範囲で90時間を超える時間の熱処理を施す。これにより、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量が低減され、かつOH基含有量のばらつきが低減される。この結果、透明ガラス化後の合成石英ガラスの最大OH基含有量が10質量ppm未満となる。そして、該合成石英ガラス中のOH基含有量のばらつきが3質量ppm以下、好ましくは2質量ppm以下、より好ましくは1質量ppm以下となりやすい。この工程は合成石英ガラスのOH基含有量の低減を目的とすることから、以下、本明細書において、「脱水処理」という。
多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量が低減され、かつOH基含有量のばらつきが低減される理由としては、以下の要因が考えられる。
【0045】
すなわち、多孔質合成石英ガラス体が1050〜1250℃の温度範囲で脱水処理されると、下記の式(7)に示す反応が右向きに進み、多孔質合成石英ガラス体中の水素結合したSi−OH基対からH
2O分子が解離し、多孔質合成石英ガラス体の外部へ排出される。
ここで、この時の真空度が低い(雰囲気圧力が高い)場合、CO分子あるいは、その他の還元力を有する気体分子の分圧が高くなり、式(8)および式(9)に示されるように多孔質合成石英ガラス体中に還元性欠陥(Si−H、ODC(≡Si−Si≡))が副生される。したがって、この熱処理を圧力1×10
−2Pa以下の真空中で行い、CO分子あるいは、その他の還元力を有する気体分子の分圧を下げることによって、還元性欠陥の生成を抑制することができる。
≡Si−OH + HO−Si≡(水素結合OH基対)→ Si−O−Si + H
2O (7)
≡Si−OH + CO → Si−H + CO
2 (8)
≡Si−O−Si≡ + CO → ≡Si−Si≡ + CO
2 (9)
【0046】
この脱水処理を圧力1×10
−2Pa以下の真空中で実施することにより、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量の低減およびOH基含有量のばらつきの低減を効果的に行うことができる。この脱水処理は、3×10
−3Pa以下の真空中で実施することがより好ましく、1×10
−3Pa以下の真空中で実施することがさらに好ましい。
【0047】
脱水処理時の温度域は1050〜1250℃である。1050℃未満の場合には、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量の低減およびOH基含有量のばらつきの低減が十分に行われるまでに比較的長時間を要し、生産性が低下するおそれがある。一方、1250℃超の場合には、多孔質合成石英ガラス体の表面からガラス化が進行してしまい、OH基量の低減が十分に行われないおそれがある。また、気相中のCOなどの還元性気体分子との反応性が高くなるため、還元性欠陥が生じやすくなるおそれもある。後述の、脱水処理直後の体積平均かさ密度が高くならないよう、脱水処理温度は低いことが好ましく、また一方、下限温度は、Si−OH基の離脱反応が効率よく進むよう設定することが好ましい。したがって、好ましい脱水処理温度は、1080℃以上1225℃以下、より好ましくは、1100℃以上1200℃以下である。
【0048】
上記の圧力条件および温度条件で90時間を超える時間、脱水処理を行うことにより、多孔質合成石英ガラス体中のOH基含有量の低減および基含有量のばらつきの低減を効果的に行うことができる。
脱水処理は、100時間以上実施することが好ましく、120時間以上がより好ましく、140時間以上がさらに好ましく、160時間以上が特に好ましい。
但し、脱水処理時間が250時間超とする場合、脱水処理時の真空度を高く(圧力を低く)したとしても合成石英ガラス体中に還元性欠陥が生成するおそれがあることから、脱水処理は、250時間以内が好ましい。
【0049】
脱水処理後の多孔質合成石英ガラス体は、体積平均かさ密度が1.6g・cm
−3未満であることが好ましい。脱水処理後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度が1.6g・cm
−3以上だと、脱水処理時のH
2O分子の多孔質合成石英ガラス体の外部への排出が十分に行われず最大OH基含有量が10質量ppm未満に到達しないおそれがある。さらに、脱水処理後の多孔質合成石英ガラス体は、体積平均かさ密度が1.2g・cm
−3以下であることがより好ましく、0.8g・cm
−3以下がさらに好ましい。
【0050】
次いで、脱水処理後の多孔質合成石英ガラス体は、透明ガラス化して合成石英ガラスとされる。多孔質合成石英ガラス体を透明ガラス化するには、該多孔質合成石英ガラス体をガラス化温度以上に加熱すればよい。尚、この透明ガラス化処理と、上記の脱水処理とはそれぞれ別の加熱装置で行わってもよいが、その場合には、移送時に水分が吸着したりすることを防止する等の処置を講じることが好ましい。より好ましくは、透明ガラス化処理と上記の脱水処理とは同一の加熱装置で行われる。
【0051】
透明ガラス化後の合成石英ガラスは、所望の形状へ成形すべく、型枠内で軟化点以上の温度まで加熱し型枠の形状に成型する。
【0052】
その後、仮想温度を1050℃以下とするため、所定の条件で徐冷を行うことが好ましい。合成石英ガラスの仮想温度を1050℃以下とするため、徐冷工程の最高温度を合成石英ガラスの徐冷点以上となるように設定し、十分な時間保持した後、1050℃以下の温度までゆっくり冷却する。最高処理温度から1050℃以下の温度までの冷却速度は、温度が低くなるほどゆっくり徐冷することが望ましい。1100℃以下850℃以上の区間に0.3℃・hr
−1以下の冷却速度で冷却する領域が存在することが好ましく、0.1℃・hr
−1以下の冷却速度で冷却する領域が存在することがより好ましい。一方、850℃以下の温度領域ではガラスの構造緩和が事実上進行しなくなるため、徐冷は必要とされない。
なお、徐冷処理は長い処理時間を必要とするため、金属汚染の無い清浄な熱処理炉を用いることが良く、また処理をする合成石英ガラスも事前に洗浄を行うことが好ましい。
【0053】
徐冷処理の実施後、合成石英ガラスに水素を含浸させるために、水素雰囲気での加熱処理を実施しても良い。ここで、加熱処理時の温度は600℃以下が好ましく、さらには500℃以下、さらに好ましくは450℃以下が良い。また、水素雰囲気での加熱処理は、水素ガスを10〜100vol%含む不活性ガスを用いて、101〜1013kPaで実施することが好ましい。水素が含浸させる場合、水素分子含有量は5×10
15〜5×10
17/cm
3が好ましく、8×10
15〜2×10
17/cm
3がさらに好ましい。
【実施例】
【0054】
(実施例1)
ケイ素化合物としてSiCl
4を、酸水素火炎中に導入して火炎加水分解させ、合成された合成石英ガラス微粒子を毎分5回転で回転する基材上に堆積させることにより、概円柱形状の多孔質合成石英ガラス体(下記の測定方法により、直径450mm、長さ1000mm、体積159000cm
3)を作製した。このとき流したガス流量は、水素、酸素を合わせて毎分550リットルであった。作製された多孔質合成石英ガラス体の重量は下記の方法により予備焼成後に測定し、54.1kgであった。また、上記体積と重量から、体積平均かさ密度は0.34g・cm
−3と算出された。また、下記評価方法によって、かさ密度のばらつきは0.03g・cm
−3であった。
次に、作製された多孔質合成石英ガラス体を、大気雰囲気下、1350℃で3時間予備焼成した。予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度は0.47g・cm
−3であった。なお、合成直後および予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度、並びに、かさ密度のばらつきは、下記の手順で測定した。
【0055】
(体積平均かさ密度)
概円柱形状である合成直後の多孔質合成石英ガラス体の直径および長さは、非接触式の寸法測定機で測定した。このとき直径および長さは、それぞれの寸法のばらつきを十分考慮できるようにそれぞれ3箇所ずつ測定し、直径と長さそれぞれの平均値を算出した。また長さは、予備焼成後に堆積用の基材を除去するための切断予定位置を考慮して測定した。合成直後の多孔質合成石英ガラス体を完全な円柱形状と仮定し、前述の平均直径と平均長さを用いて合成直後の多孔質合成石英ガラス体の円柱の体積を求めた。また、予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体の体積も前記と同様な方法で求めた。予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体から堆積用の前記基材を取り除いた後、台秤により質量を測定した。この質量を、前記合成直後の多孔質合成石英ガラス体の体積で除した値を合成直後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度、そして同質量を前記予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体の体積で除した値を予備焼成後の多孔質合成石英ガラス体の体積平均かさ密度とした。
【0056】
(かさ密度のばらつき)
前記体積平均かさ密度を求めた多孔質合成石英ガラス体と同一合成条件にて、およそ同寸法になるよう作製した合成直後の多孔質合成石英ガラス体から、30mm立方の大きさの立方体ブロックを9個くり抜き作製し、それぞれの質量を精密秤で測定することにより個々のブロックのかさ密度を求め、その最大値と最小値の差をかさ密度のばらつきとした。ここで、9個のブロックは、円柱体の中心、および円柱体の両端より100mm以内の合計3つの位置で輪切りにした断面から、1つの断面あたり、円柱体の中心軸より外周に向かう半径直線上をおよそ等間隔に3個ずつくり抜くことで作製した。ただし合成直後における円柱形状多孔質合成石英ガラス体の最外周面より深さ50mm以内の領域は、その強度が極めて弱いために立方体ブロックをくり抜き作製することが困難であり、ゆえにこの領域は評価から除いた。
【0057】
次に、多孔質合成石英ガラス体を下記に示す条件で熱処理した。
予備焼成され堆積用基材を除去した後の多孔質合成石英ガラス体を、圧力2×10
−3Pa(絶対圧)、温度1220℃で108時間加熱して脱水処理した後、1450℃まで昇温し完全に焼結させ透明ガラス化した。このときの脱水処理後の体積平均かさ密度は、0.96g・cm
−3であった。なおこの、脱水処理後の体積平均かさ密度は、同一条件で合成、予備焼成、脱水処理された多孔質合成石英ガラス体の体積および、質量を上述の方法で測定し求めた。透明ガラス化した合成石英ガラスを型枠に入れ1800℃で4時間保持し直径500mm、厚さ110mmの円柱形状に成形した。
この成形体を次の条件で徐冷を行った。
【0058】
(徐冷条件)
前記合成石英ガラス成形体を、真空雰囲気にて、1300℃まで加熱後、30時間保持し、その後1100℃までは毎時2℃で冷却し、さらに850℃までは毎時0.25℃で冷却した。その後ヒーターへの給電を切り、室温まで徐冷炉内にて冷却した。
【0059】
(水素分子含浸条件)
徐冷後、500℃、水素分圧1×10
4Paの雰囲気にて熱処理した。その後、合成石英ガラスのほぼ中央から25mm×25mm×100mmのサンプルを切り出し、25mm角の2面を研磨した。そのサンプルの2つの研磨面を通過するように、ArFエキシマレーザー(193nm)を0.5mJ・cm
−2・パルス
−1、20ns、4kHzの照射条件で、1×10
10パルスまで照射した。
【0060】
(物性測定結果)
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
なお、表1に示す評価結果は、下記の方法で行われた。
【0061】
(OH基含有量)
OH基含有量を次の方法で測定した。赤外分光光度計(サーモエレクトロン社製nicolet6700)を用い、赤外光を測定対象となる合成石英ガラスに透過させ、透過光出口側で観測される吸収スペクトルの波長約2.7μmに現れる吸収ピークからOH基含有量を求めた(J.P.Williams et.al.,Ceramic Bulletin,55(5),524,1976)。本法による検出限界はおよそ0.3質量ppmである。測定は、円柱形状の場合は合成石英ガラスの円形である主表面に対して垂直に赤外線を入射させ、その主表面の直径に相当する一線分上を10mm間隔で走査して測定を行った。角柱形状の場合は合成石英ガラスの四角形である主表面において、その主表面の対角線が交差する点を通る一線分上を10mm間隔で走査し行った。この走査直線上において測定される最大のOH基含有量を最大OH基含有量、および最大値と最小値の差をOH基含有量のばらつきと定義する。
【0062】
(ODC含有量)
合成石英ガラス中のODCの含有量は、該合成石英ガラスに深紫外光を照射した際の280〜300nm付近をピークとする蛍光の強度によりODCの含有量を求めることができる。ここで同蛍光強度比と合成石英ガラス中のODCとの関係については、C
ODCによる163nmを中心とした吸収帯を利用して求める。すなわち文献(H.Hosono et.al.,Phys.Rev.B44,p12043(1991))に従って、波長163nmにおける吸収強度によりC
ODCを求め、C
ODCが既知である合成石英ガラスサンプルの蛍光強度を、文献(M.Ono et.al.,Conference on Lasers and Electro−Optics,OSA technocal Digest,2009,CTuO4)に従って測定することにより、蛍光強度IとC
ODC(cm
−3)との関係を下記式として得ることができる。
C
ODC(cm
−3)=C
ODC既知(cm
−3)×I/I
既知
蛍光強度Iは一般に任意単位であるが、発明者らが使用した測定装置によりODC含有量が既知(1×10
14cm
−3)のサンプルを測定した場合、その蛍光強度は8.4任意単位であった。なお、本方法による検出限界は5×10
12cm
−3である。
【0063】
(Eプライムセンター含有量)
Eプライムセンターの含有量はESR法によって求められる。具体的には、文献(M.Ono et.al.,Conference on Lasers and Electro−Optics,OSA technocal Digest,2009,CTuO4)に示される方法に従って測定した。本法による検出限界は5×10
12cm
−3である。
【0064】
(SiH含有量)
合成石英ガラスがSiHの含有量は、該合成石英ガラスのラマン分析を行い、SiHによる2250cm
−1付近のピーク強度を評価することにより求めることができる。合成石英ガラス体の中央付近より20mm角×10mm長さのサンプル片を切り出し、同サンプル片の20mm角2面を鏡面研磨した。このサンプルの2つの研磨面を通過するように、かつ当該面の法線方向に対し約30°で入射するように、YAGレーザーの二倍高調波(波長532nm)を励起光として照射した。SiH由来のラマン散乱光である2250cm
−1のピーク強度I
2250を、Si−O基本振動由来のラマン散乱光である800cm
−1のピーク強度I
800で割った値I
2250/I
800により、SiHを半定量評価することができる。なお、本法による検出限界はラマンピーク比(I
2250/I
800)にて、1×10
−4である。
【0065】
(酸素過剰型欠陥含有量)
合成石英ガラス体の中央付近より10mm角×100mm長さのサンプル片を切り出し、同サンプル片を水素ガス100%、101kPaの雰囲気下にて、800℃、100時間保持する加熱処理の前後において増加するOH基含有量を、文献(Cer.Bull.,55(5),524,(1976))に従って赤外分光光度計により測定する。酸素過剰型欠陥の含有量C
POL(cm
−3)は、増加したOH基含有量ΔC
OH(cm
−3)により下記式により算出される。
C
POL=ΔC
OH×0.5
本方法による検出限界は1×10
16cm
−3である。
【0066】
(フッ素含有量)
合成石英ガラス体の中央付近のフッ素含有量を、フッ素イオン電極法により分析した。フッ素含有量の分析方法は下記の通りである。文献(日本化学会誌、1972(2)、p350)に記載された方法に従って、合成石英ガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水および塩酸(体積比で1:1)を加えてサンプル液を調整した。サンプル液の起電力をフッ素イオン選択性電極および比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945−220およびNo.945−468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、フッ素イオン標準溶液を用いてあらかじめ作製した検量線に基づいて、フッ素含有量を求めた。本法による検出限界は10質量ppmである。
【0067】
(塩素含有量)
中性子放射化分析を用いて分析を行った。具体的には文献(分析化学,Vol.40,p.549−555(1991))に記載の方法で行った。本法による検出限界は10質量ppbである。
【0068】
(金属不純物含有量)
合成石英ガラスに含まれる金属不純物含有量は、以下のように測定される。測定対象の合成石英ガラスサンプルを約10g採取し、ハンマーなどを用いて数mm程度の大きさに粉砕する。粉砕サンプルを酸で充分洗浄した後、フッ酸を用いて完全溶解し、さらに加熱蒸発させる。蒸発後の残渣を酸で抽出し、抽出液中の金属イオン濃度をICP質量分析により測定する。また、定量化はNISTトレーサブル標準液を用いて作成した検量線により行う。本法における評価元素は、Li、Na,Mg、Al、K,Ca、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Mo、Ag、Cd、Sn、Ce、Pbであり、各元素の検出限界は元素によって異なるが、0.3〜0.6質量ppbの範囲にある。検出限界以上の含有量が測定された元素の測定値を合計した値を、金属不純物含有量と定義する。
【0069】
(仮想温度)
合成石英ガラスの仮想温度は、以下の手順で測定した。
鏡面研磨された15mm×15mm×厚み2mmの合成石英ガラスサンプルについて、そのサンプルのおおむね中央位置における赤外線透過光の吸収スペクトルを赤外分光計(Nikolet社製Magna760)を用いて取得する。この際、データ間隔は約4cm
−1にし、吸収スペクトルは256回スキャンさせた平均値を用いた。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm
−1付近に観察されるピークが合成石英ガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因し、このピーク位置により仮想温度を求めることができる。なおこの際、予め、次のような方法で検量線を求めておいた。前述と同じ寸法の合成石英ガラスサンプルをある一定の温度に十分長い時間保持し、その後急冷された合成石英ガラスサンプルの透過吸収スペクトルを上記と同様な方法で取得した。この場合、この保持温度を同合成石英ガラスサンプルにおける仮想温度とみなすことができる。さらに、保持温度を変えて作製したサンプルを複数用意し、それぞれの透過吸収スペクトルを取得することにより、倍音ピーク位置と仮想温度の回帰直線が得られ、これを検量線と定めた。
【0070】
(仮想温度のばらつき)
また、合成石英ガラスの仮想温度のばらつきを次のように定義する。合成石英ガラスの光軸方向に垂直な円形面内の、中心点と、外周より20mm内側の点、およびその中間点の、合計3点より、それら3点がほぼ中央に位置するように前記寸法のサンプルをそれぞれ切り出し、研磨する。それら3枚の仮想温度を前記方法にて測定し、3点での温度の最高値と最低値の差を仮想温度のばらつきと定義した。
【0071】
(水素分子含有量)
合成石英ガラス体の中央付近より10mm角×5mm厚のサンプル片を切り出し、主表面である10mm角の二面を鏡面研磨した。この鏡面研磨サンプルについて、ラマン分光測定機を用いてガラス中の水素分子含有量を以下の方法で測定した。SiH含有量の測定方法と同様に、YAGレーザーの二倍高調波を2つの研磨面を当該面の法線から約30°傾けた角度で貫通させた。ラマンスペクトルの4135cm
−1付近に現れるピークにより検出した強度I
4160と、Si−O結合の基本振動に由来するラマン散乱ピークである800cm
−1のピークの強度I
800との強度比(=I
4160/I
800)より、水素分子含有量(cm
−3)を求めた(V.S.Khotimchenko,et.al.,Zhurnal Prikladnoi Spektroskopii,Vol.46,No.6,PP.987〜997,1986)。なお本法による検出限界はおよそ3×10
15cm
−3である。
【0072】
(初期透過率および照射後透過率)
合成石英ガラス体の中心付近より、25×25×100mmのサンプルを切り出し、25mm×25mmである2面を研磨した。このサンプルのエキシマレーザ照射前の193nmにおける透過率を、25mm×25mmの面を通して、分光透過率測定機(Cary500)で測定し、これを初期透過率とした。その後、25mm×25mmの面へ直線偏光ArFエキシマレーザ(波長約193nm、パルス時間幅約20ns、0.5mJ・cm
−2・パルス
−1)を1×10
10パルス照射した。なお、ArFレーザビームは、その断面が直径3.5mmの円形であり、照度がビーム径の範囲内で均一になるよう光学系を調整した。照射後、被照射部と同軸となる直径3.0mmの円形領域において、上述と同様に、分光透過率測定機で193nmにおける透過率を測定し、これを照射後透過率とした。
【0073】
(深紫外線照射に伴うコンパクション)
上述のエキシマレーザ照射済みの合成石英ガラスサンプルの25mm×25mmの面において、被照射部とその周辺をともに含む領域の屈折率分布をフィゾー型干渉計を用いて測定し、照射前に予め測定しておいた屈折率分布との差分を求めた(約0.1mmグリッド)。この差分のうち、被照射部と同軸となる直径3.0mmの円形領域の差分の大きさの平均値をコンパクションの大きさと定義する。なお、屈折率分布の測定波長は633nmである。
【0074】
(偏光深紫外線の照射による偏光誘起複屈折率;PIB)
上述のエキシマレーザ照射済みの合成石英ガラスサンプルの25mm×25mmの面において、被照射部とその周辺をともに含む領域の複屈折率分布を測定し(0.5mmグリッド)、照射前に予め測定しておいた複屈折率分布との差分を求めた。この差分のうち、被照射部と同軸となる直径1.5mmの円形領域の中心での差分の大きさの平均値を、偏光誘起複屈折率(PIB)と定義する。なお、複屈折率の測定波長は633nmである。
【0075】
(実施例2)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して5%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理時間を132時間とした点、および1100℃から850℃までの区間における徐冷速度が0.05℃・hr
−1である点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.36g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.04g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.50g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は1.10g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0076】
(実施例3)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して10%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理温度を1180℃とした点、脱水処理時間を168時間とした点、脱水処理の真空度を5×10
−3Paに制御した点、1100℃から850℃までの区間における徐冷速度が0.05℃・hr
−1である点、および水素含浸工程の水素分圧が5×10
4Paである点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.38g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.08g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.53g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は0.68g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0077】
(実施例4)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して10%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理温度を1180℃とした点、脱水処理時間を192時間とした点、脱水処理の真空度を5×10
−4Paに制御した点、水素含浸工程における水素分圧が1×10
5Paである点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.38g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.09g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.53g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は0.70g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0078】
(比較例1)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して5%減少させた点、ガラス化工程での脱水処理温度を1260℃とした点、脱水処理時間を60時間とした点、脱水処理の真空度を3×10
−2Paに制御した点、1100℃から850℃までの区間における徐冷速度を0.5℃・hr
−1とした点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.29g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.01g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.40g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は1.62g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0079】
(比較例2)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して5%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理温度を1180℃とした点、脱水処理時間を132時間とした点、脱水処理の真空度を5×10
−1Paに制御した点、1100℃から850℃までの区間における徐冷速度を0.5℃・hr
−1とした点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.36g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.05g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.50g・cm
−3、ガラス化工程における脱水後の体積平均かさ密度は0.62g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0080】
(比較例3)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して13%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理温度を1180℃とした点、脱水処理時間を288時間とした点、脱水処理の真空度を2×10
0Paに制御した点、1100℃から850℃までの区間における徐冷速度を0.5℃・hr
−1とした点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.40g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.14g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.55g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は0.82g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0081】
(比較例4)
多孔質合成石英ガラス体を実施例1と同様な方法で作製、評価した。ただし、酸素、水素ガスの合計流量を実施例1の合計流量に対して5%増加させた点、ガラス化工程での脱水処理時間を132時間とした点、脱水処理の真空度を1×10
0Paに制御した点、1100℃から850℃までの区間における徐冷速度を1℃・hr
−1とした点が、実施例1と異なっている。その結果、合成直後の体積平均かさ密度は0.36g・cm
−3、かさ密度のばらつきは0.06g・cm
−3、予備焼成後体積平均かさ密度は0.50g・cm
−3、ガラス化工程における脱水処理後の体積平均かさ密度は1.10g・cm
−3であった。
以上の工程を全て行った合成石英ガラス体の物性値を測定し、表1に示した。
【0082】
上述の実施例1〜4、比較例1〜4の作製条件、評価結果を表1にまとめる。
【表1】
【0083】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2009年10月30日出願の日本特許出願2009−250195に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。